(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コーティング処理前の多孔質膜(A)の透気抵抗度X(sec/100ccAir/20μm)と、被膜が形成された多孔質膜(A’)の透気抵抗度X’(sec/100ccAir/20μm)との関係が、X’/X≦2.0を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜(A’)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における多孔質膜(A’)は、耐メルトダウン特性の向上のため被膜が形成されていることが必要である。被膜の形成方法としてプラズマコーティング処理装置内の電極間に電圧を印加し、気体状態で存在する原料分子を電離し、多孔質膜(A)の少なくとも片側表面、あるいは多孔質膜(A)を形成する繊維、パルプまたはフィブリル表面に原料ガスの構成元素を含む化学種を堆積させることにより化学蒸着膜を形成する方法がある。
【0023】
本発明における被膜とは化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、以下CVD)により形成された化学蒸着膜であり、原料ガスに熱、光、電磁波などのエネルギーを加えて原料ガスを励起し、気相あるいは基材表面での化学反応により基材表面に形成された、原料ガスの構成元素を含む化学種からなる堆積膜である。CVDの方法には熱CVD、有機金属CVD、プラズマCVD、光CVD、レーザーCVDなどが上げられるが、本発明はプラズマCVDにより被膜が形成された多孔質膜である。なかでも本発明では高周波プラズマCVDが処理装置のコストの観点から好ましく使用される。
【0024】
本発明における被膜は耐メルトダウン特性の向上のために耐熱性に優れることが必要である。被膜を形成するための原料は、群1に示される原料群から選択される少なくとも1種類の原料を使用することが必要であり、複数種の原料を任意の割合で使用することが出来る。
【0025】
本発明における群1-(1):SiR
1R
2R
3R
4で表されるシラン化合物とは、ケイ素に水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、またはアルコキシ基(ここで炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらに炭素鎖は飽和していても不飽和でもよい。また例えばSiと置換基R
1およびR
2で環を形成していてもよい。)が結合した化合物である。具体的にはテトラメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、テトラエトキシシラン等が例示される。
【0026】
本発明における群1-(2):O−(SiR
1R
2R
3)
2で表されるジシロキサン化合物とは、酸素に2個のケイ素が結合し、さらにケイ素に水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、またはアルコキシ基(ここで炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらに炭素鎖は飽和していても不飽和でもよい。また例えばSiと置換基R
1およびR
2で環を形成していてもよい。)が結合した化合物である。具体的にはヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン等が例示され、ヘキサメチルジシロキサンが好ましく使用される。
【0027】
本発明における群1-(3):−(OSiR
1R
2)
n−で表される環状シロキサン化合物とは、同数の酸素とケイ素が環状に結合し、さらにケイ素にハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、またはアルコキシ基(ここで炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらに炭素鎖は飽和していても不飽和でもよい。また例えばSiと置換基R
1およびR
2で環を形成していてもよい。)が結合した化合物である。具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。分子内のケイ素原子の数(式中のn)は2〜20の範囲であることが好ましく、取扱性の観点から2〜5の範囲にあることがさらに好ましい。
【0028】
本発明における群1-(4):N−(SiR
1R
2R
3)
mR
43−mで表されるシラザン化合物とは、窒素に1〜3個のケイ素が結合し、さらにケイ素に水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、またはアルコキシ基(ここで炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらに炭素鎖は飽和していても不飽和でもよい。また例えばSiと置換基R
1およびR
2で環を形成していてもよい。)が結合した化合物である。式中のmは1〜3の整数である。具体的にはヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシロキサン等が例示され、ヘキサメチルジシラザンが好ましく使用される。
【0029】
本発明における群1-(5):−(NR
1SiR
2R
2)
l−で表される環状シラザン化合物とは、同数の窒素とケイ素が環状に結合し、さらに窒素とケイ素それぞれにハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、またはアルコキシ基(ここで炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらに炭素鎖は飽和していても不飽和でもよい。また例えばSiと置換基R
1およびR
2で環を形成していてもよい。)が結合した化合物である。具体的にはヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が例示される。分子内のケイ素原子の数(式中のl)は2〜20の範囲であることが好ましく、取扱性の観点から2〜5の範囲にあることがさらに好ましい。
【0030】
本発明における群1-(6):TiR
1R
2R
3R
4で表されるチタネート化合物とは、チタンに水素、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル基、またはアルコキシ基(ここで炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらに炭素鎖は飽和していても不飽和でもよい。また例えばTiと置換基R
1およびR
2で環を形成していてもよい。)が結合した化合物である。具体的にはテトラメチルチタン、テトラエトキチタン等が例示される。
【0031】
本発明における群1-(7):芳香族炭化水素化合物とは、ベンゼン系芳香族化合物であり、具体的にはベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が例示される。本発明では常温固体であり昇華性を有するナフタレン、アントラセンが取扱性、耐メルトダウン特性の観点から好ましく使用できる。
【0032】
本発明における群1-(8):Ar−(X)
kで表される極性基を少なくとも1つ以上有する芳香族化合物とは、芳香族化合物の水素原子が−COOH、−SO
3H、−OR、−CO−R、−CONHR、−SO
2NHR、−NHCOOR、−NHCONHR、−NH
2(ここでRは炭素数1〜10の芳香族基またはアルキル基であり、炭素鎖は直鎖状でも枝分かれがあってもよく、それぞれ炭素数が異なっていても同じでもよい。さらには飽和していても不飽和でもよい。)から選ばれる少なくとも1種以上の極性基で置換された化合物であり、kは1以上3以下の整数、Arは芳香族炭化水素または複素芳香族化合物を示し、芳香族化合物を構成する炭素、窒素、酸素、硫黄などの原子数の合計は5〜10の範囲である。具体的には安息香酸、フタル酸などの芳香族カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸、等が例示される。本発明では常温固体であり昇華性を有する化合物、具体的にはテレフタル酸、メラミン等が取扱性、耐メルトダウン特性の観点から好ましく使用できる。
【0033】
本発明における群1-(9):ラクタム化合物とは、分子内環状アミノ化合物であり、具体的にはα-ラクタム(三員環)、β-ラクタム(四員環)、γ-ラクタム(五員環)等が例示される。本発明では耐メルトダウン特性の観点から、7員環以下のラクタム化合物が好ましく使用できる。
【0034】
本発明における被膜を形成する際には、コーティング処理装置内に群1に示される原料群から選択される少なくとも1種類の原料を気体状態で存在させると共に、前記の群2から選ばれる少なくとも1種類の添加ガスをコーティング処理装置内に共存させることが耐メルトダウン特性、多孔質膜(A)と被膜の接着性、被膜の柔軟性の観点から好ましい。添加ガスを共存させ被膜を形成することにより、被膜中に添加ガスの構成元素が取り込まれ、被膜の柔軟性が向上することにより、同時に多孔質膜と被膜の接着性および耐メルトダウン特性が向上するものと推定される。
【0035】
ここで、群2の添加ガスは、前記のとおり、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、亜酸化窒素、二酸化窒素及び炭素数3以下の炭化水素である。炭素数3以下の炭化水素は飽和していても不飽和でもよく、具体的にはメタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン等を例示することができる。
【0036】
コーティング処理において、添加ガスは群2から選択される複数種のガスを任意の割合でコーティング処理装置内に原料ガスと共存させ使用する。コーティング装置内に存在する群1に示される原料の総量と、群2から選択される添加ガスの総量の割合は特に限定されることはなく、任意の割合でコーティング装置内に共存させコーティング処理をすることが出来る。
【0037】
群1に示される原料(ガス)と群2に示される添加ガスの好ましい組み合わせとしては、例えば、群1-(2)のジシロキサン化合物、群1-(4)のシラザン化合物、群1-(6)のチタネート化合物又は群1-(8)の極性基を少なくとも1つ以上有する芳香族炭化水素と、二酸化炭素、炭化水素又は窒素との組み合わせが耐メルトダウン特性および被膜の柔軟性の観点から好ましい組み合わせとして例示できる。ただし原料と添加ガスの組み合わせはこれに限定されるものではない。
【0038】
本発明の群1の原料群から選択される原料、および群2から選択される添加ガスのプラズマコーティング処理装置内への導入方法としては特に限定されず、気体状原料を直接装置内に導入する方法、液体状原料を減圧、加熱等により気化させ装置内に導入する方法、固体状原料を加熱等により気化させ装置内に導入する方法、あるいは装置内に蒸発源を設置し原料を気化させる方法などがあげられる。本発明においてはプラズマコーティング処理装置内の各種ガス濃度を一定にするために、予め気化させた各種ガスを流量計等を経由してプラズマコーティング処理装置内に導入することが好ましい。装置内へ導入する際には群2から選ばれる添加ガスを、群1に示される原料のガスのキャリアガスとして使用することも可能である。
【0039】
本発明におけるプラズマコーティング処理は、多孔質膜(A)を巻き出し、連続的にコーティング処理を行い、被膜が形成された多孔質膜(A’)を巻き取ることが可能な、いわゆるロール・ツー・ロールプロセスで行われることが生産性、被膜の品質安定性の観点から好ましい。
【0040】
本発明におけるプラズマコーティング処理装置の具体例としては、処理装置内を減圧するための減圧系、原料および/または添加ガスを処理装置に導入する供給系が接続された減圧可能な容器が例示され、容器内には多孔質膜(A)の巻き出し装置、プラズマ発生源および多孔質膜(A’)の巻き取り装置が備えられていればよい。
【0041】
本発明では多孔質膜(A)のロールをコーティング処理装置内にセットし、装置内を減圧した後、多孔質膜を繰り出しながらコーティング処理し、被膜が形成された多孔質膜(A’)をロールとして巻き取ることによってロール・ツー・ロールプロセスでコーティング処理することが好ましい。多孔質膜(A)および(A’)は通常コアに巻き取られてロールとなっているが、使用するコアの材質としてはABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂、およびレゾール樹脂などの熱硬化性樹脂がコアからの揮発成分が少なく、多孔質膜表面やコーティング処理装置内を汚染することが少なく好ましく使用できる。
【0042】
本発明におけるプラズマコーティング処理装置は、プラズマが照射される領域においては多孔質膜(A)を支持するために支持体があることが好ましく、その支持体の形状としては平面であっても曲面であっても限定されない。該支持体は支持体表面を保温できるように冷却機能を有することが好ましい。冷却機能を有する場合はプラズマ照射による温度上昇を有効に防止し、多孔質膜(A)が熱収縮しにくく、平面性が損なわれることがない。
【0043】
本発明においてプラズマの放電条件は特に限定されないが、圧力は0.01〜1,000Paの範囲内が好ましく、さらに0.1〜100Paの範囲内がより好ましい。圧力がこの好ましい範囲である場合はプラズマが効率良く発生する他、原料ガスが適度に存在するため被膜が効率的に形成される。
【0044】
本発明におけるコーティング処理においては、コーティング処理される領域において被膜の膜厚均一性が保てない場合は、プラズマ電極の形状を適宜変更する他、電極間に適切な形状の遮蔽板等を設置し、照射されるプラズマ量を調節することにより被膜の膜厚均一性を確保することが出来る。
【0045】
以下、本発明の多孔質膜(A’)の特性について詳述する。
【0046】
本発明の多孔質膜(A’)は群1から選択される少なくとも1種類の原料および群2から選択される少なくとも1種類の添加ガスの構成元素から形成された被膜を有することが必要である。被膜の蒸着量としては、0.05g/m
2以上、2mg/m
2以下の範囲であることが好ましい。被膜の蒸着量がこの好ましい範囲である場合は耐メルトダウン特性の向上が達成出来、透気抵抗度の上昇を有効に防止できるので、電池内のイオンの移動が阻害される程度が小さく、充放電特性に優れる。なお、蒸着量は、多孔質膜(A)の重量をW(g/m
2)、被膜が形成された多孔質膜(A’)の重量をW’(g/m
2)としたとき、W’−Wで求めることができる。
【0047】
本発明の多孔質膜(A’)の被膜の蒸着量は、処理装置内の原料ガス及び添加ガスの種類や濃度、処理装置内の圧力、プラズマを発生させるためのマイクロ波や高周波の出力、蒸着処理面積、蒸着処理スピードを調整することにより任意に調節することが可能である。
【0048】
本発明の多孔質膜(A’)の透気抵抗度は、コーティング処理前の多孔質膜(A)の透気抵抗度をXsec/100ccAir/20μmとし、被膜が形成された多孔質膜(A’)の透気抵抗度をX’sec/100ccAir/20μmとした場合、X’/X≦2.0を満たすことが好ましい。X’/Xの値が2.0以下である場合は、電池内でのイオンの移動が阻害されることなく、充放電特性に優れる。X’/Xの値は好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下である。
【0049】
本発明の多孔質膜(A’)の熱収縮率は多孔質膜(A)より低熱収縮であることが好ましい。さらに高温での電池使用を模した105℃8hでの熱収縮率、セパレーターのメルトダウン温度付近での150℃30分での熱収縮率が共に多孔質膜(A)より低熱収縮であることが好ましい。熱収縮率は上記評価条件でともに低ければ低いほど安全性の観点から好ましく、さらにMD、TDとも低ければ低いほど安全性の観点から好ましい。
【0050】
本発明の多孔質膜(A’)はシャットダウン特性を有し、70〜150℃の範囲にシャットダウン温度を有することが安全性の観点から好ましい。多孔質膜(A’)のシャットダウン温度は多孔質膜(A)の選択により調節可能であるが、被膜の組成、蒸着量、蒸着状態により多孔質膜(A’)のシャットダウン温度(T’s)が多孔質膜(A)のシャットダウン温度(Ts)より高くなることがある。安全性の観点からシャットダウン温度の上昇幅(T’s−Ts)が小さいことが好ましく、好ましくは(T’s−Ts)≦5℃、さらに好ましくは(T’s−Ts)≒0℃である。
【0051】
本発明の多孔質膜(A’)のメルトダウン温度(T’m)は、多孔質膜(A)のメルトダウン温度より高いことが好ましい。安全性の観点からメルトダウン温度の上昇幅(T’m−Tm)は大きいことが好ましく、好ましくは(T’m−Tm)≧20℃、さらに好ましくは(T’m−Tm)≧30℃である。
【0052】
本発明の多孔質膜(A’)の突刺強度は、多孔質膜(A)の設計・選択により調節可能であるが、被膜の組成、蒸着量、蒸着状態により多孔質膜(A’)の突刺強度(P’)が多孔質膜(A)の突刺強度(P)よりわずかに低くなることがある。加工性の観点から突刺強度の低下率(1−P’/P)は小さいことが好ましく、好ましくは(1−P’/P)=0.2以下、より好ましくは(1−P’/P)=0.1以下であることが好ましい。多孔質膜(A)がプラズマによりエッチングされることがない様に、添加ガスやプラズマを発生させるためのマイクロ波や高周波の出力等を調節することにより突刺強度の低下率を低く抑えることが出来る。
【0053】
本発明の多孔質膜(A’)の電解液とのぬれ性は多孔質膜(A)より高いことが好ましい。ぬれ性が高いとは多孔質膜表面で電解液が広がり易いことを意味し、また多孔質膜の厚さ方向にも浸透し易いことを意味する。ぬれ性が高いことにより電池製造時に電解液の注入に要する時間が短縮され生産性の向上が期待出来るほか、電解液の枯渇(ドライアウト)の発生が防止され、内部抵抗の上昇などにより電池性能を著しく低下させる恐れがない。
【0054】
本発明の多孔質膜(A’)の電気化学安定性は多孔質膜(A)より高いことが好ましい。電気化学安定性は保管または使用中に比較的高温に曝されるセパレーターの耐酸化性に関連する特性である。電気化学的安定性が低い場合はセパレーターの炭化などによる絶縁性の低下などが原因となり、自己放電が加速され電池の高容量化、高エネルギー密度化の障害となる恐れがあり好ましくない。
【0055】
次に、多孔質膜(A)の組成について説明する。
【0056】
本発明における多孔質膜(A)としては、電気絶縁性の有機、無機繊維またはパルプからなる多孔質の織物、不織布、紙または多孔質のフィルムがあげられるが、電気絶縁性、膜厚の均一性、機械強度などのバランスから多孔質のフィルムが好ましい。
【0057】
本発明における多孔質膜(A)の材質としては、電気絶縁性であれば有機物でも無機物でもよく、合成物でも天然物でもよく、有機繊維および/または無機繊維および/または有機繊維のパルプおよび/または無機繊維のパルプを含むものがあげられる。具体的には、有機繊維として、熱可塑性ポリマーからなる合成繊維やマニラ麻などの天然繊維があげられる。また、該熱可塑性ポリマーからなる合成繊維として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリスチレン、ナイロン等の合成繊維があげられる。無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維等があげられる。
【0058】
多孔質膜(A)の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが電気絶縁性、シャットダウン特性の観点から好ましく例示される。多孔質膜(A)がポリオレフィンから構成される場合は、単一物又は2種以上の異なるポリオレフィン系樹脂の混合物、例えばポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂の混合物であってもよいし、異なるオレフィン、例えばエチレンとプロピレンの共重合体でもよい。ポリオレフィン系樹脂のなかでは、特にポリエチレンおよびポリプロピレンが好ましく例示される。電気絶縁性、イオン透過性などの基本特性に加え、電池異常昇温時において電流を遮断し過度の昇温を抑制するシャットダウン特性、電気化学的な安定性を具備しているからである。
【0059】
ポリオレフィン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、通常1×10
4〜1×10
7の範囲内であり、好ましくは1×10
4〜5×10
6の範囲内であり、より好ましくは1×10
5〜5×10
6の範囲内である。
【0060】
ポリオレフィン系樹脂はポリエチレンを含むことが好ましい。ポリエチレンとしては超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒、メタロセン系触媒などの重合触媒によって製造されたポリエチレンが挙げられる。これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適に使用できる。
【0061】
ポリエチレンは単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなる混合物であることが好ましい。ポリエチレン混合物としてはMwの異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレンの混合物、同様な高密度ポリエチレンの混合物、同様な中密度ポリエチレンの混合物及び低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた2種以上ポリエチレンの混合物を用いてもよい。
【0062】
なかでもポリエチレン混合物としては、5×10
5以上の超高分子量ポリエチレンとMwが1×10
4以上、5×10
5未満のポリエチレンからなる混合物が好ましい。超高分子量ポリエチレンのMwは5×10
5〜1×10
7の範囲内であることが好ましく、1×10
6〜1×10
7の範囲内であることがより好ましく、1×10
6〜5×10
6の範囲内であることが特に好ましい。Mwが1×10
4以上、5×10
5未満のポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンのいずれも使用することが出来るが、特に高密度ポリエチレンを使用することが好ましい。Mwが1×10
4以上、5×10
5未満のポリエチレンとしてはMwが異なるものを2種以上使用してもよいし、密度の異なるものを2種以上使用してもよい。ポリエチレン混合物のMwの上限を1×10
7にすることにより、溶融押出を容易にすることが出来る。ポリエチレン混合物中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、ポリエチレンの混合物全体に対し1重量%以上であることが好ましく、10〜80重量%の範囲であることがより好ましい。
【0063】
ポリエチレン混合物中にMwが5×10
5以上の超高分子量ポリエチレンを含有する場合、超高分子量ポリエチレンの添加量が増えるに従って多孔質膜の細孔径が小さくなることがある。ここで例えば高耐熱性樹脂の溶液を多孔質膜(A)上に塗布することによって耐メルトダウン特性の向上を図る場合は、高耐熱性樹脂層を多孔質化するための工程が必要になる他、多孔質膜(A)の細孔内に高耐熱性樹脂が入り込むことにより透気抵抗度が顕著に上昇するという欠点がある。一方、本発明では多孔質膜(A)を形成するフィブリルの表面をコーティングすることが可能であるため、多孔質化の工程が不要であり、透気抵抗度の上昇を抑制することも容易である。このように超高分子量ポリエチレンを含有する細孔径が小さな多孔質膜も何ら問題なく使用することが可能である。
【0064】
ポリオレフィン系樹脂のMwと数平均分子量(Mn)の比、分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されないが、5〜300の範囲内であることが好ましく、10〜100の範囲内であることがより好ましい。Mw/Mnがこの好ましい範囲であると、高分子量成分が適度であるためにポリオレフィンの溶液の押出が容易であり、低分子量成分が適度であるために得られる多孔質膜の強度に優れる。Mw/Mnは分子量分布の尺度として用いられるものであり、すなわち単一物からなるポリオレフィンの場合この値が大きい程分子量分布の幅が大きい。単一物からなるポリオレフィンのMw/Mnはポリオレフィンの多段重合により適宜調整することができる。多段重合法としては、1段目で高分子量成分を重合し、2段目で低分子量成分を重合する2段重合が好ましい。ポリオレフィンが混合物である場合、Mw/Mnが大きいほど混合する各成分のMwの差が大きく、Mw/Mnが小さいほどMwの差が小さい。ポリオレフィン混合物のMw/Mnは各成分の分子量や混合割合を調整することにより適宜調整することができる。
【0065】
ポリエチレン多孔質膜を使用する場合、耐メルトダウン特性と電池の高温保存特性の向上を目的として、ポリエチレンとともにポリプロピレンを含んでいてもよい。ポリプロピレンのMwは1×10
4〜4×10
6の範囲内であることが好ましい。ポリプロピレンとしては単独重合体または他のα−オレフィンを含むブロック共重合体およびまたはランダム共重合体も使用することが出来る。他のα−オレフィンとしてはエチレンが好ましい。ポリプロピレンの含有量はポリオレフィン混合物(ポリエチレン+ポリプロピレン)全体を100重量%として80重量%以下にすることが好ましい。
【0066】
電池用セパレーターとしての特性向上のため、ポリエチレン多孔質膜はシャットダウン特性を付与するポリオレフィンを含んでいてもよい。シャットダウン特性を付与するポリオレフィンとしては、例えば低密度ポリエチレンを用いることが出来る。低密度ポリエチレンとしては、分岐状、線状、シングルサイト触媒により製造されたエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。低密度ポリエチレンの添加量はポリオレフィン全体を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。低密度ポリエチレンの添加量がこの好ましい範囲であると延伸時に破断が起こりにくい。
【0067】
上記超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン組成物には、任意成分としてMwが1×10
4〜4×10
6の範囲内のポリ1-ブテン、Mwが1×10
3〜4×10
4の範囲内のポリエチレンワックス、およびMwが1×10
4〜4×10
6の範囲内のエチレン/α−オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオレフィンを添加しても良い。これらの任意成分の添加量は、ポリオレフィン組成物を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。
【0068】
以下、多孔質膜(A)がポリオレフィン多孔質膜である場合を例にとり、製造方法・特性について説明する。
【0069】
本発明における多孔質膜(A)の製造方法は特に限定されず、製法により目的に応じた相構造を自由に持たせることができる。多孔質膜(A)の製造方法としては、発泡法、相分離法、溶解再結晶法、延伸開孔法、粉末焼結法などがあり、これらの中では微細孔の均一性、コストの点で相分離法が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0070】
相分離法による製造方法としては、例えばポリオレフィンと成膜用溶剤とを溶融混練し、得られた溶融混合物をダイより押出し、冷却することによりゲル状成形物を形成し、得られたゲル状成形物に対して少なくとも一軸方向に延伸を実施し、前記成膜用溶剤を除去することによって多孔質膜を得る方法などが挙げられる。
【0071】
多孔質膜(A)は単層膜であってもよいし、二層以上からなる多層膜(例えばポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層構成やポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの三層構成)であってもよい。
【0072】
2層以上からなる多層膜の製造方法としては、例えば第一層及び第二層を構成するポリオレフィンのそれぞれを成膜用溶剤と溶融混練し、得られた溶融混合物をそれぞれの押出機から1つのダイに供給し各成分を構成するゲルシートを一体化させて共押出する方法、各層を構成するゲルシートを重ね合わせて熱融着する方法のいずれでも作製できる。共押出法の方が、高い層間接着強度を得やすく、層間に連通孔を形成しやすいために高透過性を維持しやすく、生産性にも優れているためにより好ましい。
【0073】
多孔質膜(A)は、充放電反応の異常時に孔が閉塞するシャットダウン特性を有することが電池使用時の安全性の観点から好ましい。従って、構成する樹脂の融点(軟化点)は、好ましくは70〜150℃、さらに好ましくは100〜140℃である。構成する樹脂の融点(軟化点)がこの好ましい範囲であると、正常使用時にシャットダウン機能が発現して電池が使用不可になる可能性は無く、一方、異常反応が起こると速やかにシャットダウン機能が発現するため、安全性を確保できる。
【0074】
多孔質膜(A)の膜厚は5μm以上、30μm未満が好ましい。膜厚の上限はより好ましくは25μm、さらに好ましくは20μmである。また、膜厚の下限はより好ましくは7μmであり、最も好ましくは10μmである。膜厚がこの好ましい範囲である場合は、実用的な加工性を維持する膜強度とシャットダウン機能を保有させることが出来、一方、電池ケース内の単位容積当たりの電極面積が制約されることはないので、今後の電池の高容量化に対応出来る。電池の高容量化の観点から加工性に問題の生じない範囲で多孔質膜(A)の膜厚は薄いことが好ましい。
【0075】
多孔質膜(A)の透気抵抗度(JIS P 8117)の上限は好ましくは800sec/100ccAir/20μm、さらに好ましくは700sec/100ccAir/20μm、最も好ましくは600sec/100ccAir/20μmである。透気抵抗度の下限は好ましくは50sec/100ccAir、さらに好ましくは70sec/100ccAir、最も好ましくは100sec/100ccAirである。電池の高出力化の観点から、加工性に問題の生じない範囲で多孔質膜(A)の透気抵抗度は小さいほうが好ましい。
【0076】
多孔質膜(A)の空孔率の上限は好ましくは70%、さらに好ましくは60%、最も好ましくは55%である。空孔率の下限は好ましくは25%、さらに好ましくは30%、最も好ましくは35%である。
【0077】
多孔質膜(A)の透気抵抗度および空孔率は、イオン透過性(充放電作動電圧)、電池の充放電特性、電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)への影響が大きく、透気抵抗度の上限、または、空孔率の下限が上記好ましい範囲であると、電池としての機能を十分に発揮することができる。一方で、透気抵抗度の下限、または、空孔率の上限が上記好ましい範囲であると、十分な機械的強度と電極間の電気絶縁性を維持することが出来、充放電時に短絡が起こることはない。
【0078】
多孔質膜(A)の平均孔径は、シャットダウン速度に大きく影響を与えるため、好ましくは0.01〜1.0μm、さらに好ましくは0.02〜0.5μm、最も好ましくは0.03〜0.3μmである。
【0079】
平均孔径がこの好ましい範囲である場合、被膜形成の際に透気抵抗度が大幅に悪化することはなく、一方、シャットダウン現象の温度に対する応答が迅速で、例えば過充電、外部または内部短絡などのトラブルにより電池の内部温度が急激に上昇した場合にもシャットダウン機能が有効に機能する。
【0080】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
[多孔質膜(A)]
ここでは多孔質膜(A)として、東レバッテリーセパレータフィルム(株)製“Setela”(登録商標)E20MMSを使用し、本発明の効果を確認した。
【0082】
E20MMSはポリエチレン製多孔膜であって、本発明との比較のため比較例1として各種物性を測定した。
[コーティング処理装置]
コーティング処理装置は、減圧可能な容器(チャンバー)内にフィルムの巻き出し軸、巻き取り軸、冷却ドラム(Φ150mm)およびプラズマ電極を備える。コーティング処理装置には真空ポンプが接続されチャンバー内を減圧することが出来る。
【0083】
巻き出し軸側から繰り出されたフィルムは、プラズマ電極と対向した冷却ドラムで保持ながら搬送され、巻き取り軸側に巻き取られる。なお、巻き出しおよび巻き取り張力は軸トルクの調整により適宜設定が可能である。
【0084】
プラズマ電極は平板型マグネトロン式で、電極材質にはグラファイトを用いた。電極の有効サイズは、フィルムの搬送方向が50mm、フィルムの幅方向が100mmである。また、プラズマ電極にはマッチングBoxを介して13.56MHzの高周波電源が接続されている。
【0085】
またこのコーティング処理装置には液体原料気化器が連結されている。これは液体原料をアルゴンガスで加圧し、デジタル液体マスフローコントローラーで計量しながら気化器へと供給し、原料蒸気を生成するものである。なお原料蒸気はコーティング装置の冷却ドラムとプラズマ電極の間に供給される。冷却ドラムとプラズマ電極の対向軸は水平であり、最短距離は100mmである。
【0086】
またこのコーティング処理装置にはマスフローコントローラーによるガス導入系も接続されており、例えば添加ガスを冷却ドラムとプラズマ電極の間に供給できる。
【0087】
さらにこのコーティング処理装置には固体原料を加熱して気化する坩堝を設置可能である。冷却ドラムとプラズマ電極の間に坩堝を配置することで、冷却ドラムの斜め下から原料蒸気を供給することができる。
【0088】
坩堝形状は開口部が50mm×50mmの角形で、高さは40mmである。坩堝の材質は厚み1.0mmのステンレスSUS306である。坩堝の下には熱伝導率を高めるためのカーボンシートを介して、50mm×50mm×10mmの銅製ヒータープレートが配置されている。
【0089】
ヒータープレートにはヒーターと熱電対が埋め込まれており、PIDにより温度制御できる。ヒータープレートは断熱用アルミナ製スペーサーを介してチャンバーベースプレートに置かれている。
【0090】
また、坩堝の開口部には1.5mmピッチのアルミメッシュで覆われており、上部でプラズマを生成した場合に坩堝内の材料表面がプラズマに曝されて変質することを防ぐようにした。
【0091】
なお、冷却ドラムの横にはプラズマ電極側に向けて水晶振動子式膜厚計が設置されており、コーティングプロセスのモニタリングが可能である。
(
参考例1)
液体原料容器にヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:信越化学(株)製)を投入し、真空排気後アルゴンガスでパージした。一方、厚み20μm、幅50mm、長さ20mの多孔質膜(A)が巻かれたロールをコーティング装置にセットし、装置内を3.0×10
−3Pa以下まで排気した。
【0092】
その後、HMDSOを気化器に0.65cc/minの流量で供給し、その蒸気をコーティング装置に導入し、排気バルブを調節してチャンバー内の圧力を1.0Paとなるよう設定した。添加ガスのメタンは、HMDSOとの分圧比が表1に示す分圧比になるように、ガス導入系のマスフローコントローラーの設定を調節しチャンバー内に添加した。
【0093】
圧力設定後、プラズマ電極に投入する高周波電力を100Wとなるよう設定し、プラズマを生成した。また、プラズマ生成後、5分経ってからフィルムの巻き取りを開始した。巻き取り速度は0.1m/minとなるよう設定した。
【0094】
各実施例
、参考例及び比較例における原料、コーティング条件は表1及び2に示されたとおりである。
(
参考例2)
添加ガスを二酸化炭素に変更し、チャンバー内の圧力を5.0Paに設定した以外は
参考例1と同様に行なった。
(比較例2)
添加ガスを添加せず、チャンバー内の圧力を10.0Paに設定した以外は
参考例1と同様に行なった。
(
参考例3)
液体原料容器にヘキサメチルジシラザン(HMDS:和光純薬工業(株)製)を投入し、真空排気後アルゴンガスでパージした。チャンバー内の圧力を5.0Paに設定し、その他は
参考例1と同様に行った。
(
参考例4)
液体原料容器にヘキサメチルジシラザン(HMDS:和光純薬工業(株)製)を投入し、真空排気後アルゴンガスでパージした。添加ガスを二酸化炭素とし、その他は
参考例1と同様に行った。
(比較例3)
液体原料容器にヘキサメチルジシラザン(HMDS:和光純薬工業(株)製)を投入し、真空排気後アルゴンガスでパージした。さらに添加ガスを添加しなかった以外は
参考例1と同様に行なった。
(
参考例5)
液体原料容器にチタニウムイソプロポキシド(TTIP:和光純薬工業(株)製)を投入し、真空排気後アルゴンガスでパージした。さらに添加ガスを二酸化炭素に変更した他は
参考例1と同様に行った。
(実施例
1〜
4及び比較例4)
テレフタル酸モノマー粉末(和光純薬工業(株)製)を坩堝に20g投入し、坩堝内で均一に拡げた。また、厚み20μm、幅50mm、長さ20mの多孔質膜(A)が巻かれたロールをコーティング装置にセットし、排気を開始した。
【0095】
その後、排気中にヒーターを200℃に加熱した状態で3.0×10
−3Pa以下まで排気した。なお、この温度では未だモノマーは殆ど蒸発していないことを水晶振動子式膜厚計で確認した。
【0096】
この状態で約5分安定化させた後、ヒーター温度を400℃に設定して材料蒸気を生成した。さらに添加ガスを導入してチャンバー内の圧力は5Pa〜10Paの範囲で、プラズマ電極に投入する高周波電力は50W〜100Wの範囲でプラズマ印加した。いずれの場合も、フィルムの搬送速度は0.1m/min〜0.4m/minの範囲で設定した。
【0097】
添加ガスの添加方法は
参考例1と同じであり、各実施例
、参考例及び比較例における原料、コーティング条件は表1及び2に示されたとおりである。
(実施例
5,
6及び比較例5)
メラミンモノマー粉末(和光純薬工業(株)製)を坩堝に20g投入し、坩堝内で均一に拡げた。また、厚み20μm、幅50mm、長さ20mの多孔質膜(A)が巻かれたロールをコーティング装置にセットし、排気を開始した。
【0098】
その後、排気中にヒーターを200℃に加熱した状態で3.0×10
−3Pa以下まで排気した。なお、この温度では未だモノマーは殆ど蒸発していないことを水晶振動子式膜厚計で確認した。
【0099】
この状態で約5分安定化させた後、ヒーター温度を350℃に設定して材料蒸気を生成した。さらに添加ガスを導入してチャンバー内の圧力は5Pa〜10Paの範囲で、プラズマ電極に投入する高周波電力は50W〜100Wの範囲でプラズマ印加した。いずれの場合も、フィルムの搬送速度は0.1m/min〜0.4m/minに設定した。
【0100】
添加ガスの添加方法は
参考例1と同じであり、各実施例
、参考例及び比較例における原料、コーティング条件は表1及び2に示されたとおりである。
[結果]
実施例1〜
6、参考例1〜5及び比較例1〜5で得られた多孔質膜の物性を以下の方法により測定した。結果を表1及び2に示す。
・膜厚:接触厚さ計(株式会社ミツトヨ製)により測定した。
・透気抵抗度:JIS P 8117によりガーレー値を測定した(膜厚20μm換算)。
・目付け:多孔質膜を50mm角に打ち抜き多孔質膜の重量を0.1mgまで測定した。その重量をg/m
2単位に換算した。
・突刺強度:多孔膜を直径1mm(0.5mmR)の針を用いて速度2mm/秒で突刺したときの最大荷重を測定し、20μm厚に換算した。
・シャットダウン温度:熱/応力/歪測定装置(セイコー電子工業(株)製、TMA/SS6000)を用い、10mm(TD)×3mm(MD)の多孔膜サンプルを、5℃/minの速度で室温から昇温しながら荷重2gで引っ張り、融点付近で観測される変極点をシャットダウン温度とした。
・メルトダウン温度:上記熱/応力/歪測定装置を用い、10mm(MD)×3mm(TD)の多孔質膜サンプルを、5℃/minの速度で室温から昇温しながら荷重2gで引っ張り、溶融により破膜した温度をメルトダウン温度とした。
・柔軟性:多孔質膜(A’)の被膜面側から新品のデザインカッターの刃を入れ、約5mmの切れ込みを入れた。切れ込み部分を電子顕微鏡にて倍率1000倍で観察し、被膜面のクラック(切れ込みから派生した被膜面の亀裂、剥離など)の有無を観察し、以下の基準で定性評価した。
【0101】
Excellent:クラックなし
good:クラックらしきものがある
failure:大きなクラックがある
・熱収縮率(105℃×8h):MD、TD方向に50×50mmとした多孔質膜の各辺の中点(二等分点)にマーキングする。多孔質膜を固定することなくフリーな状態で105℃で8h熱処理し、熱処理後のMD、TDそれぞれの寸法をマーキングした位置で測定する。
熱収縮率は、加熱前寸法(50mm)から加熱後寸法を減じ、さらに加熱前寸法(50mm)で割り算出した。
・熱収縮率(150℃×30分):TD方向の熱収縮率を測定する場合には、MD、TD方向に50×50mmとした多孔質膜を、50×35mmの開口部を有するフレームにTD方向と平行になるようにMD方向両端をテープ等により固定する。これによりMD方向は35mmの間隔で固定され、TD方向はフレーム開口部に膜端部が沿う状態で位置する。多孔質膜を固定したフレームごとオーブン中で150℃×30分熱処理し、冷却する。TD方向の熱収縮によってMDと平行である多孔質膜の端が、内側に(フレームの開口の中心に向かって)わずかに弓なりに曲がる。TD方向の熱収縮率(%)は、加熱前のTD寸法(50mm)から加熱後のTD方向の最短寸法を減じ、さらに加熱前のTD寸法(50mm)で割り算出した。
【0102】
MD方向の熱収縮率を測定する場合には、上記方法においてTD及びMD方向を入れ替えて行う。
・電解液との濡れ性
水平状態に保った多孔質膜(A)と本発明の多孔質膜(A’)の被膜を形成した面に対して、ぬれ張力試験用混合液No.42.0(和光純薬工業(株)製)をスポイトからそれぞれ1滴滴下し、滴下後30秒経過後の多孔質膜表面での液滴の拡がり状態を観察した。多孔質膜(A’)の被膜を形成した面での液滴の拡がりが多孔質膜(A)より大きい場合は○と記載した。
・電気化学的安定性
MD方向70mm×TD方向60mmの多孔質膜を準備し、同サイズの負極および正極の間に多孔質膜を挟み電池を作製する。この時負極は天然黒鉛製、正極はLiCoO
2製、電解質はエチレンカーボネートとジメチルカーボネート(3/7、v/v)の混合物中にLiPF
6を溶解した1M溶液を使用した。多孔質膜(A’)の場合は被膜面が正極に接するように配置し、多孔質膜に電解質を含浸させ電池を完成させた。
【0103】
次いで作製した電池に60℃で4.3Vの印加電圧を加え、「電気化学安定性」は電圧源と電池との間に流れる積分電流の大小で判断した。過充電中の充電ロスが少ないことを表す積分電流が小さい場合が一般的に望ましい。
【0104】
なお実施例中には電圧印加後120hrまでの積分電流値(mAh)を記載した。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
表1及び2に示されるとおり、群1に示される原料群から選択された原料と、群2に示される添加ガスとから形成された被膜を有する本発明の多孔質膜(A)は優れた特性を有することがわかる。