特許第6044564号(P6044564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044564
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】高炉操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20161206BHJP
   C21B 7/00 20060101ALI20161206BHJP
   C21B 7/16 20060101ALI20161206BHJP
   F27B 1/16 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C21B5/00 321
   C21B5/00 319
   C21B7/00 309
   C21B7/16 306
   F27B1/16
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-36995(P2014-36995)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160993(P2015-160993A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大樹
(72)【発明者】
【氏名】村尾 明紀
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/010660(WO,A1)
【文献】 特開平11−029804(JP,A)
【文献】 特開2006−206994(JP,A)
【文献】 特開2014−031568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C21B 7/00−7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉炭を送風羽口からランスで吹込む高炉操業方法において、溶銑1t当たりの前記微粉炭の吹込み量が原単位で150kg/t−p以上、且つ送風温度が1100℃以下、且つ微粉炭の平均揮発分が30mass%以下である場合、少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを吹込み可能な重管ランスであって前記微粉炭を吹込む経路としての吹込み管の内径が20mm以下である重管ランスを羽口当たり本用いて少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを羽口から炉内へと吹き込むことを特徴とする高炉操業方法。
【請求項2】
前記重管ランスが三重管ランスであることを特徴とする請求項1に記載の高炉操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の送風羽口から微粉炭を吹込む高炉操業において、送風温度を低下させても安定した操業が可能であって、しかも高炉ガスを多量に発生させると共にこれを回収して、製鉄所全体のコスト削減に寄与し得る高炉操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉へ装入するコークスの一部代替として、微粉炭を送風羽口から吹込む、所謂微粉炭吹込み高炉操業は、微粉炭が高炉用コークスに比べて安価であることから、溶銑製造コストの低減手段として広く行われている。また、微粉炭の多量吹込みにより、高炉用コークスの製造設備であるコークス炉の負荷を軽減することが可能であるため、コークス炉の延命対策としても有効である。このような理由により、最近、高炉への微粉炭吹込み量は増加の傾向にある。
高炉の送風羽口から吹込まれた微粉炭は、炉内でコークスの代わりとして反応し、この反応により多量の高温還元ガスが発生し、鉄鉱石の還元反応を効率よく促進させる。高炉で発生したこの還元ガスは、全量が高炉内で反応(消費)するわけではないので、還元ガス中に含まれているダストを除去することにより、得られたガスを燃料用ガスとして再利用することができる。従って、微粉炭の多量吹込み高炉操業は、製鉄所全体における製造コスト削減にも大きく貢献し得る技術である。
【0003】
ところで、減産時は高炉から得られる燃料ガスの量が減少し、製鉄所全体に供給されるエネルギーが不足しがちである。そのため、高炉の送風温度を低減し、送風温度を上昇させるために使用される燃料ガスの削減が志向される。しかしながら、送風温度を低下させるにつれて、微粉炭の未燃分(未燃チャー)が増加する。これは、高炉の送風羽口前方に形成されるレースウェイ内における微粉炭の燃焼性が悪化することに起因するものであり、その結果、次の問題が発生する。即ち、微粉炭の燃焼性が悪化して未燃チャーが増加すると、これは炉内、特に炉心の通気性を悪化させ、還元ガスの流れが炉壁に偏り、偏流する。これにより鉄鉱石と還元ガスの接触効率が低下するため、炉の反応効率が低下し、微粉炭によるコークス置換率が低下して還元材比が増加する。ここで、微粉炭によるコークス置換率とは、(微粉炭吹き込みによる溶銑1t当たりのコークス使用量(コークス比、CR)の減少分)[kg/t−p]/(溶銑1t当たりの微粉炭吹き込み量(微粉炭吹き込み比、PCR)[kg/t−p]))であり、また還元材比とは、(CR+PCR)[kg/t−p]である。未燃チャー増加による炉芯の通気性悪化はコークス置換率の低下のみならず、送風圧力の増加や、炉内装入物の降下不良による操業の不安定化、それに伴う生産量の低下を招き、微粉炭の多量吹込みによる効果が発揮されなくなる。
【0004】
このような微粉炭の多量吹込みに伴う上記問題を解決する方法として、下記特許文献1では、送風温度が1050℃を下回るような低温送風であっても、熱風中の酸素富化率を上昇させることで微粉炭の燃焼性を維持することが可能であると述べられている。また、下記特許文献2では、送風温度1150℃以下の場合、熱風中の酸素富化率を4.5vol%以上、風量比(送風量と炉容積の比)を1.35以上とし、更に羽口先温度を2000〜2300℃、そしてさらに望ましくは、微粉炭の粒度に関して74μm以下の割合が75mass%以上であって、その比表面積を4000〜5500cm2/cm3の範囲に管理して操業することで微粉炭の燃焼性およびコークス置換率を維持することが可能であると述べられている。また、下記特許文献3では、2つの吹込み管を用い、一方からは酸素と微粉炭を、もう一方からはLNGを夫々羽口へと吹込んでおり、互いの主流を衝突させることで微粉炭とガスの混合性を良くし、優れた微粉炭の燃焼性向上効果を得ている。また、下記特許文献4では、ランスに三重管を用い、酸素と微粉炭、そしてLNGを1本のランスから同時に羽口へと吹込んで優れた燃焼性を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−270709号公報
【特許文献2】特開2003−247008号公報
【特許文献3】特開2013−19006号公報
【特許文献4】特開2013−40402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1、2に記載される高炉操業方法は、単純に送風温度を低下させた場合の操業に比べれば、コークス置換率の改善に効果があり、製鉄所全体のコスト削減手段として有効である。しかしながら、微粉炭の平均揮発分が30mass%以下である場合、送風温度が1100℃以下となると微粉炭の昇温速度が低下し、微粉炭の燃焼性が急激に低下する。これは揮発分が低く、かつ送風温度が低いと微粉炭が着火に至らないからであり、この場合、熱風中の酸素濃度を増加させても、燃焼性改善に充分な効果は得られない。
このような場合に燃焼性を改善する方法として前記特許文献3、4で述べられているのが、微粉炭とLNGなどの易燃性還元材を同時に吹き込み、その易燃性還元材の燃焼によって微粉炭を昇温させるという方法である。しかしながら、前記特許文献3の場合、微粉炭の吹込み量が150kg/t−p以上になると、微粉炭を1つの管から吹き込んでいるため、微粉炭流の中心に微粉炭が濃化してしまい、微粉炭とガスとの混合性が低下してしまう。また、前記特許文献4では、前記特許文献3に対して微粉炭とガスの混合性の点で劣る。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、微粉炭比が150kg/t−p以上、かつ微粉炭の平均揮発分が30mass%以下、かつ送風温度が1100℃以下の条件であっても、微粉炭の燃焼性、及びコークス置換率の維持を可能とする高炉操業方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の高炉操業方法は、微粉炭を送風羽口からランスで吹込む高炉操業方法において、溶銑1t当たりの前記微粉炭の吹込み量が原単位で150kg/t−p以上、且つ送風温度が1100℃以下、且つ微粉炭の平均揮発分が30mass%以下である場合、少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを吹込み可能な重管ランスであって前記微粉炭を吹込む経路としての吹込み管の内径が20mm以下である重管ランスを羽口当たり本用いて少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを羽口から炉内へと吹き込むことを特徴とするものである。
また、この高炉操業方法において、前記重管ランスが三重管ランスであることが好ましい。
【0009】
ランスからは、支燃性ガスを同時に吹込むようにしてもよい。本発明の支燃性ガスとは、少なくとも50vol%以上の酸素濃度を有するガスと定義する。
また、本発明で用いる易燃性還元材とは、文字通り、微粉炭よりも燃焼性のよい還元材であり、例えば水素を主要成分として含有する水素、都市ガス、LNG、プロパンガスの他、製鉄所で発生する転炉ガス、高炉ガス、コークス炉ガスなどが適用可能である。また、LNGと等価としてシェールガス(shale gas)も利用できる。シェールガスは頁岩(シェール)層から採取される天然ガスであり、従来のガス田ではない場所から生産されることから、非在来型天然ガス資源と呼ばれているものである。都市ガスなどの易燃性ガスは、着火・燃焼が非常に早く、水素含有量が多いものでは燃焼カロリーも高く、また易燃性ガスは、微粉炭と異なり、灰分を含んでいないことも高炉の通気性、熱バランスに対して有利である。
【0010】
また、前記微粉炭を吹込む経路としての吹込み管の内径が20mm以下であることを特徴とするものである。
また、前記易燃性還元材が前記したように水素、都市ガス、LNG、プロパンガス、転炉ガス、高炉ガス、コークス炉ガスの何れか、又はシェールガスであることを特徴とするものである。
また、前記支燃性ガスが酸素であることを特徴とするものである。支燃性ガスとして酸素50vol%以上の濃度であれば使用可能である。
【発明の効果】
【0011】
而して、本発明の高炉操業方法によれば、溶銑1t当たりの微粉炭の吹込み量、即ち微粉炭比が150kg/t−p以上、微粉炭の平均揮発分が30mass%以下、且つ送風温度が1100℃以下である場合、少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを吹込み可能なランスを2本以上用いて少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを羽口から炉内へと吹込むことで、微粉炭の燃焼性を悪化させることなく安定した高炉操業を維持することができ、その結果、コークス置換率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の高炉操業方法が適用された高炉の一実施形態を示す縦断面図である。
図2図1のランスから微粉炭だけを吹込んだときの燃焼状態の説明図である。
図3図2の微粉炭の燃焼メカニズムの説明図である。
図4】送風温度が1100℃以下、微粉炭の平均揮発分が30mass%以下の場合の燃焼メカニズムの説明図である。
図5】微粉炭とLNGと酸素とを吹込んだときの燃焼メカニズムの説明図である。
図6】実験に用いたランスの諸元説明図である。
図7】燃焼実験装置の説明図である。
図8】燃焼実験結果の送風温度と燃焼温度の説明図である。
図9】燃焼実験結果の送風温度と燃焼温度の説明図である。
図10】燃焼実験結果の微粉炭吹込み管の内径と燃焼温度の説明図である。
図11】重管ランスによる微粉炭及びガスの吹込み状態の説明図である。
図12】重管ランスによる微粉炭及びガスの吹込み状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の高炉操業方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の高炉操業方法が適用された高炉の全体図である。図に示すように、高炉1の羽口3には、熱風を送風するための送風管(ブローパイプ)2が接続され、この送風管2を貫通してランス4が設置されている。羽口3の熱風送風方向先方のコークス堆積層には、レースウエイ5と呼ばれる燃焼空間が存在し、主として、この燃焼空間で鉄鉱石の還元、即ち造銑が行われる。図では、図示左方の送風管2にランス4が1本だけ挿入されているが、周知のように、炉壁に沿って円周状に配置された送風管2及び羽口3の何れにもランス4を挿入設定することは可能である。また、羽口当たりのランスの数も1本に限定されず、2本以上を挿入することが可能である。また、ランスの形態も、単管ランスをはじめ、二重管ランスや三重管ランス、或いは複数の吹込み管を束ねたランスも適用可能である。
【0014】
図2には、ランス4から微粉炭6だけを吹込んだときの燃焼状態を示す。ランス4から羽口3を通過し、レースウエイ5内に吹込まれた微粉炭6は、コークス7と共に、その揮発分と固定炭素が燃焼し、燃焼しきれずに残った、一般にチャーと呼ばれる炭素と灰分の集合体は、レースウエイから未燃チャー8として排出される。羽口3の熱風送風方向先方における熱風速度は約200m/secであり、ランス4の先端からレースウエイ5内におけるOの存在領域は約0.3〜0.5mとされているので、実質的に1/1000秒のレベルで微粉炭粒子の昇温及びOとの接触効率(分散性)の改善が必要となる。
【0015】
図3は、送風温度の高い条件(例えば送風温度が1100℃超)下で、ランス4から送風管2内に微粉炭(図ではPC:Pulverized Coal)6のみを吹込んだ場合の燃焼メカニズムを示す。羽口3からレースウエイ5内に吹き込まれた微粉炭6は、まず送風からの対流伝熱によって加熱され、更にレースウエイ5内の火炎からの輻射伝熱、伝導伝熱によって急激に粒子温度が上昇し、300℃以上昇温した時点から熱分解が開始し、揮発分に着火して火炎が形成され、燃焼温度は1400〜1700℃に達する。揮発分が放出してしまうと、前述したチャー8となる。チャー8は、主に固定炭素であるので、燃焼反応と共に、炭素溶解反応と呼ばれる反応も生じる。このとき、ランス4から送風管2内に吹込まれる微粉炭の揮発分が高い場合(例えば微粉炭の平均揮発分が30mass%超)には、揮発分の増加により、微粉炭の着火が促進され、揮発分の燃焼量増加により微粉炭の昇温速度と最高温度が上昇し、微粉炭の分散性と温度の上昇によりチャーの反応速度が上昇する。即ち、揮発分の気化膨張に伴って微粉炭が分散し、揮発分が燃焼し、この燃焼熱によって微粉炭が急速に加熱、昇温すると考えられ、これにより例えば炉壁に近い位置で微粉炭が燃焼する。
【0016】
図4は、低送風温度(送風温度が1100℃以下)、低揮発分(微粉炭の平均揮発分が30mass%以下)の条件下で、ランス4から送風管2内に微粉炭6のみを吹込んだ場合の燃焼メカニズムを、図3の燃焼メカニズムに加えて示す。羽口3からレースウエイ5内に吹込まれた微粉炭6は、まず送風からの対流伝熱によって加熱されるが、この送風温度が低いと粒子の昇温が遅れ、着火に至らない。また、300℃以上昇温した時点から微粉炭6の熱分解が開始するが、揮発分が低いと十分な熱量が得られず、これもまた着火に至らない。
【0017】
図5は、ランス4から送風管2内に微粉炭6と共にLNG9と酸素(酸素は図示せず)とを吹込んだ場合の燃焼メカニズムを示す。微粉炭6とLNG9と酸素との吹込み方法は、単純に平行に吹込んだ場合を示している。なお、図中の二点鎖線は、図3に示した微粉炭のみを吹込んだ場合の燃焼温度を参考に示している。このように微粉炭とLNGと酸素とを同時に吹き込む場合、ガスの拡散に伴って微粉炭が分散し、LNGとO2の接触によってLNGが燃焼し、その燃焼熱によって微粉炭が急速に加熱、昇温されると考えられ、これにより微粉炭の着火が促進される。
【0018】
図6には、微粉炭とLNGと酸素とを吹込むランスの諸元を示す。本実施形態では、内管I、中管M、外管Oからなる三重管ランスを用いた。この三重管ランスでは、内管Iに呼び径8A、呼び厚さスケジュール10Sのステンレス鋼管を、中管Mに呼び径15A、呼び厚さスケジュール40のステンレス鋼管を、外管Oに呼び径20A、呼び厚さスケジュール10Sのステンレス鋼管を用いた。各ステンレス鋼管の諸元は図に示す通りである。そして、その結果、内管Iと中管Mの隙間は1.15mm、中管Mと外管Oの隙間は0.65mmとなった。
【0019】
燃焼性を評価するため、図7に示す燃焼実験装置を用いて燃焼実験を行った。実験炉11内にはコークスが充填されており、覗き窓からレースウエイ15の内部を観察することができる。送風管12にはランス14が差し込まれ、燃焼バーナ13で生じた熱風を実験炉11内に所定の送風量で送風することができる。また、この送風管12では、送風の酸素富化量を調整することも可能である。ランス14は、微粉炭及びLNG及び酸素の何れか一つ又は二以上を送風管12内に吹き込むことができる。実験炉11内で生じた排ガスは、サイクロンと呼ばれる分離装置16で排ガスとダストに分離され、排ガスは助燃炉などの排ガス処理設備に送給され、ダストは捕集箱17に捕集される。
【0020】
燃焼実験では、ランス14に単管ランス、及び前述の三重管ランス(以下、重管ランスとも記す)をそれぞれ2本用いた。そして、単管ランスから微粉炭のみを吹き込んだ場合をベースとして、重管型ランスの内管から微粉炭を吹き込み、内管と中管の隙間から酸素を吹き込み、中管と外管の隙間からLNGを吹き込んだ場合の夫々について、二色温度計による燃焼温度を測定した。二色温度計は、周知のように、熱放射(高温物体から低温物体への電磁波の移動)を利用して温度計測を行う放射温度計であり、温度が高くなると波長分布が短波長側にずれていくことに着目して、波長分布の温度の変化を計測することで温度を求める波長分布形の一つであり、中でも波長分布を捉えるため、二つの波長における放射エネルギーを計測し、比率から温度を測定するものである。なお、夫々のランスの送風管への差し込み長さは50mmとした。
【0021】
微粉炭の諸元は、固定炭素(FC:Fixed Carbon)50〜71.3%、揮発分(VM:Volatile Matter)19.6〜40.6%、灰分(Ash)9.1〜10%で、単管ランス、重管ランスとも、吹き込み条件は50.0kg/h(溶銑1t当たりの原単位で158kg/t−p相当)とした。また、重管ランスでのLNGの吹き込み条件は、0.7〜14.3kg/h(1.0〜20Nm/h、溶銑1t当たりの原単位で2.3〜45.1kg/t−p相当)とした。コークスは、JISK2151に記載の試験方法で15015DI83のものを用いた。送風条件は、送風温度900〜1300℃、流量350Nm/h、流速70〜100m/s、O富化+5.0%(酸素濃度26.0%、空気中酸素濃度21%に対し、5.0%の富化)とした。
【0022】
図8には、単管ランスの燃焼実験による燃焼温度の結果を、図9には、重管ランスの燃焼実験による燃焼温度の結果を示す。これらの図から明らかなように、単管ランスの場合、送風温度が1100℃以下、かつ微粉炭の平均揮発分が30%以下で、燃焼率(燃焼温度)が著しく低下している。これは粒子の昇温速度が低下し、着火が遅れたためと考えられる。これに対して重管ランスの場合、送風温度が1100℃以下、かつ微粉炭の平均揮発分が30%以下でも燃焼温度の急激な低下が見られない。これはLNGの燃焼熱により、微粉炭の昇温速度が向上したためと考えられる。
【0023】
図10には、重管ランスの微粉炭吹込み管の内径と燃焼温度の関係を示す。同図から明らかなように、微粉炭を吹込む管の内径が20mmより大きい場合、燃焼温度が低下している。これは重管ランスの場合、微粉炭を吹込む管の内径が大きくなるほど、微粉炭流の周辺の微粉炭とともにガスが熱風中へ拡散し易く、微粉炭が比較的濃い微粉炭流の中心部とガスの混合性が低下するためである。
【0024】
図11図12はその説明図であり、図11は、微粉炭を吹込む管の内径を20mm以下、図12は、微粉炭を吹込む管の内径を20mmより大きくしたときの夫々の微粉炭濃度と、易燃性還元材或いは支燃性ガスの濃度分布を示したもので、重管ランスとして二重管ランスを例にとって説明する。この二重管ランスの中央から微粉炭を吹込み、その周囲から、易燃性還元材あるいは支燃性ガスを吹込むと、微粉炭を吹込む管の内径を20mm以下とした図11における微粉炭流の拡大は、微粉炭を吹込む管の内径を20mmより大きくした図12と比較して「小」であり、周囲の易燃性還元材或いは支燃性ガスの作用で昇温しやすく、燃焼温度が高い。また、図12の微粉炭を吹込む管の内径を20mmより大きくした場合、微粉炭の拡大は「大」となり、易燃性還元材或いは支燃性ガスの作用によっても燃焼温度が低くなるものと推察される。
【0025】
このように、本実施形態の高炉操業方法では、溶銑1t当たりの微粉炭の吹込み量、即ち微粉炭比が150kg/t−p以上、微粉炭の平均揮発分が30mass%以下、且つ送風温度が1100℃以下である場合、少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを吹込み可能なランスを2本以上用いて少なくとも微粉炭と易燃性還元材とを羽口から炉内へと吹込むことで、微粉炭の燃焼性を悪化させることなく安定した高炉操業を維持することができ、その結果、コークス置換率を維持することができる。
なお、鋼管を重管ランスに使用する場合、重管ランスの表面温度が880℃を上回るとクリープ変形が起こり、重管ランスが曲がってしまう。従って、重管ランスの外側管の出口流速を20m/sec以上として冷却効率を高めることで冷却を行えば重管ランスに変形や曲がりは生じない。一方、二重管ランスの外側管の出口流速が120m/secを超えたりすると、設備の運用コストの点で実用的でないので、二重管ランスの外側管の出口流速の上限は120m/secとする。ちなみに、単管ランスは二重管ランスに比べて熱負荷が少ないため、必要に応じ、出口流速を20m/sec以上とすればよい。
【0026】
さらに、溶銑1t当たりの微粉炭の吹込み量、即ち微粉炭比が150kg/t−p以上、微粉炭の平均揮発分が30mass%以下、且つ送風温度が1100℃以下である場合、少なくとも微粉炭と易燃性還元材と支燃性ガスとを同時に吹込み可能な三重管ランスを2本以上用いて微粉炭と易燃性還元材と支燃性ガスとを羽口から炉内へ同時に吹込むことで、微粉炭の燃焼性を悪化させることなく安定した高炉操業を維持することができ、その結果、コークス置換率を維持することができる。
なお、三重管ランスを使用する場合は、三重管ランスの外側管の出口流速を、前記二重管ランスと同様、20m/sec以上とすればよい。
【符号の説明】
【0027】
1 高炉
2 送風管
3 羽口
4 ランス
5 レースウエイ
6 微粉炭
7 コークス
8 チャー
9 LNG(易燃性還元材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12