(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044571
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】カット金型の損傷危険部位予測方法およびその予測方法を用いたカット金型の損傷防止方法
(51)【国際特許分類】
B21D 28/00 20060101AFI20161206BHJP
B21D 22/00 20060101ALI20161206BHJP
B21D 28/14 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
B21D28/00 Z
B21D22/00
B21D28/14 F
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-54411(P2014-54411)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2015-174133(P2015-174133A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二塚 貴之
(72)【発明者】
【氏名】新宮 豊久
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 栄治
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄司
【審査官】
塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−103313(JP,A)
【文献】
特開2000−271666(JP,A)
【文献】
実開平05−070826(JP,U)
【文献】
特開2007−229724(JP,A)
【文献】
特開昭57−134220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/00
B21D 22/00
B21D 28/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工形状に対し所定切断位置の切断加工解析を行って切断加工後の製品形状を取得する工程と、
得られた切断加工後の製品形状に対しスプリングバック解析を行ってスプリングバック後の製品形状を取得する工程と、
切断加工後の製品形状とスプリングバック後の製品形状とを対比してスプリングバック後の製品形状で切断加工後の製品形状の所定切断位置から突出する部位を抽出し、その突出する部位を損傷危険部位と判断する工程と、
を具えてなるカット金型の損傷危険部位予測方法。
【請求項2】
被プレス成形材料に対する成形加工解析を行って成形加工後の中間製品形状を取得する工程をさらに具え、
得られた成形加工後の中間製品形状を、前記所定切断位置の切断加工解析を行う前記被加工形状とすることを特徴とする、請求項1記載のカット金型の損傷危険部位予測方法。
【請求項3】
被加工形状に対し所定切断位置の切断加工解析を行って切断加工後の製品形状を取得する工程と、
得られた切断加工後の製品形状に対しスプリングバック解析を行ってスプリングバック後の製品形状を取得する工程と、
切断加工後の製品形状とスプリングバック後の製品形状とを対比してスプリングバック後の製品形状で切断加工後の製品形状の所定切断位置から突出する部位を抽出し、その突出する部位を損傷危険部位と判断する工程と、
成形加工後の中間製品の前記損傷危険部位と判断した部位の突出移動を拘束した状態でカット金型による所定切断位置の切断加工を行う工程と、
を具えてなるカット金型の損傷防止方法。
【請求項4】
被プレス成形材料に対する成形加工解析を行って成形加工後の中間製品形状を取得する工程をさらに具え、
得られた成形加工後の中間製品形状を、前記所定切断位置の切断加工解析を行う前記被加工形状とすることを特徴とする、請求項3記載のカット金型の損傷防止方法。
【請求項5】
前記カット金型の、前記中間製品の少なくとも前記損傷危険部位と判断した部位を挟持する板押さえ力を高めることを特徴とする、請求項3または4記載のカット金型の損傷防止方法。
【請求項6】
前記カット金型の、前記中間製品の少なくとも前記損傷危険部位と判断した部位を挟持する部分の形状を、前記スプリングバック前の製品形状に沿う形状とすることを特徴とする、請求項3から5までの何れか1項記載のカット金型の損傷防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型の損傷危険部位の予測方法および、その予測方法を用いたカット金型の損傷防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ものづくりの現場では、金型によるプレス加工が多く用いられている。近年、自動車の分野では、燃費向上のための車体軽量化、あるいは衝突安全性の向上といった観点から、高強度材の使用が増加しており、これを加工する金型に要求される性能も厳しいものになってきている。
【0003】
引張強度980MPa以上の超ハイテン材(超高張力鋼)の適用拡大を推進してゆくにあたっては、特に、プレス成形工程において部品を所定形状に切断するトリム工程や穴明け加工を行う打抜き工程等の切断工程での、カット金型の損傷によるメンテナンス工数の著しい増加が課題となっている。カット金型の損傷の要因としては、材料の高強度化に伴う変形抵抗の増加から、金型への負荷あるいは接触圧力が増加することで、磨耗や欠損といった不具合が発生することが知られている。
【0004】
従来から、金型損傷対策として各種工具鋼の開発が進められており、耐摩耗性の向上や靱性の改善がなされている。例えば特許文献1は、硫化物で被削性を高めるとともに鍛錬比と冷却速度制御とにより割れ感受性の低減を図った金型鋼を提案しており、また特許文献2は、Cの含有量に対するCrの含有量の比であるCr/Cを最適化し、さらにMnおよびNの含有量をCr/Cを基準として適正な範囲で規定することで高い焼戻し温度での変寸を抑制できる冷間工具鋼を提案している。
【0005】
また、プレス加工に用いる金型はできるだけ長寿命化することが望ましく、金型の寿命予測技術の開発もされてきている。例えば特許文献3は、金型毎に設定された適用回数を記憶するとともに、金型毎に打圧回数を計数して記録し、その打圧回数が適用回数に達すると停止信号を出力してプレス機械を停止させる金型寿命管理装置を提案し、また特許文献4は、打抜き時の最大荷重およびその後のパンチ突っ込み力を検出し、被加工材料の材質等に基づき最大荷重から刃先損傷を判別するとともに、パンチ突っ込み力からストリップミス(パンチからの被加工材料の外し損ない)の発生を防止する装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−171305号公報
【特許文献2】特許第4860774号公報
【特許文献3】特開昭63−068236号公報
【特許文献4】特開平05−212455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐摩耗性や靱性が向上した工具鋼を適用することで金型損傷改善効果が見込まれるものの、実際の金型損傷では損傷し易い箇所としにくい箇所とが混在するため、金型の損傷しにくい箇所まで対策を講じることになると費用が嵩むことになり、事前に金型損傷部位を特定することができれば効率よく金型損傷対策を実施することが可能になる。
【0008】
また、金型の寿命予測技術は、加工中の荷重の推移やこれまでのプレス加工の実績から金型のメンテナンス時期の予測を行うものであるため、生産工程の管理、効率化には役立つものの、根本的な金型損傷対策技術とはなりえない。
【0009】
それゆえ本発明は、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について事前に損傷危険部位を予測することで、効率の良い金型損傷対策を容易に実施することを可能にするとともにメンテナンス工数の削減も可能にするカット金型の損傷危険部位予測方法および、その予測方法を用いたカット金型の損傷防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明のカット金型の損傷危険部位予測方法は、
被加工形状に対し所定切断位置の切断加工解析を行って切断加工後の製品形状を取得する工程と、
得られた切断加工後の製品形状に対しスプリングバック解析を行ってスプリングバック後の製品形状を取得する工程と、
切断加工後の製品形状とスプリングバック後の製品形状とを対比してスプリングバック後の製品形状で切断加工後の製品形状の所定切断位置から突出する部位を抽出し、その突出する部位を損傷危険部位と判断する工程と、
を具えてなるものである。
【0011】
また、前記予測方法を用いた本発明のカット金型の損傷防止方法は、
被加工形状に対し所定切断位置の切断加工解析を行って切断加工後の製品形状を取得する工程と、
得られた切断加工後の製品形状に対しスプリングバック解析を行ってスプリングバック後の製品形状を取得する工程と、
切断加工後の製品形状とスプリングバック後の製品形状とを対比してスプリングバック後の製品形状で切断加工後の製品形状の所定切断位置から突出する部位を抽出し、その突出する部位を損傷危険部位と判断する工程と、
成形加工後の中間製品の前記損傷危険部位と判断した部位の突出移動を拘束した状態でカット金型による所定切断位置の切断加工を行う工程と、
を具えてなるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカット金型の損傷危険部位予測方法によれば、被加工形状に対し所定切断位置の切断加工解析を行って切断加工後の製品形状を取得し、得られた切断加工後の製品形状に対しスプリングバック解析を行ってスプリングバック後の製品形状を取得し、それら切断加工後の製品形状とスプリングバック後の製品形状とを対比してスプリングバック後の製品形状で切断加工後の製品形状の所定切断位置から突出する部位を抽出して、その突出する部位を損傷危険部位と判断するので、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について、事前に損傷危険部位を予測することができ、これにより、効率の良い金型損傷対策を容易に実施することができるとともに、金型のメンテナンス工数も削減することができる。
【0013】
なお、本発明のカット金型の損傷危険部位予測方法においては、被プレス成形材料に対する成形加工解析を行って成形加工後の中間製品形状を取得する工程をさらに具え、得られた成形加工後の中間製品形状を、前記所定切断位置の切断加工解析を行う前記被加工形状としてもよい。このようにすれば、切断加工工程の前工程で、曲げ加工や絞り加工や張出し加工等の、1もしくは複数回のプレス成形加工を行う場合に、そのプレス成形加工工程で被加工材料に生ずる残留応力に起因する切断加工での被加工材料の突出による損傷危険部位を予測することができ、これにより、効率の良い金型損傷対策を容易に実施することができるとともに、金型のメンテナンス工数も削減することができる。
【0014】
また、本発明のカット金型の損傷防止方法によれば、被加工形状に対し所定切断位置の切断加工解析を行って切断加工後の製品形状を取得し、得られた切断加工後の製品形状に対しスプリングバック解析を行ってスプリングバック後の製品形状を取得し、それら切断加工後の製品形状とスプリングバック後の製品形状とを対比してスプリングバック後の製品形状で切断加工後の製品形状の所定切断位置から突出する部位を抽出し、その突出する部位を損傷危険部位と判断して、成形加工後の中間製品の前記損傷危険部位と判断した部位の突出移動を拘束した状態でカット金型による所定切断位置の切断加工を行うことから、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について、被加工材料の突出による金型損傷を効率よく防止できるとともに、金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【0015】
なお、本発明のカット金型の損傷防止方法においては、被プレス成形材料に対する成形加工解析を行って成形加工後の中間製品形状を取得する工程をさらに具え、得られた成形加工後の中間製品形状を、前記所定切断位置の切断加工解析を行う前記被加工形状としてもよい。このようにすれば、切断加工工程の前工程で、曲げ加工や絞り加工や張出し加工等の、1もしくは複数回のプレス成形加工を行う場合に、そのプレス成形加工工程で被加工材料に生ずる残留応力に起因する切断加工での被加工材料の突出による金型損傷を効率よく防止できるとともに、それにより金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【0016】
また、本発明のカット金型の損傷防止方法においては、前記カット金型の、前記中間製品の少なくとも前記損傷危険部位と判断した部位を挟持する板押さえ力を高めることとしてもよい。このようにすれば、成形加工後の中間製品の損傷危険部位と判断した部位の突出移動を拘束することができる。
【0017】
さらに、本発明のカット金型の損傷防止方法においては、前記カット金型の、前記中間製品の少なくとも前記損傷危険部位と判断した部位を挟持する部分の形状を、前記スプリングバック
前の製品形状に沿う形状としてもよい。このようにしても、成形加工後の中間製品の損傷危険部位と判断した部位の突出移動を拘束することができ、この損傷危険部位と判断した部位を挟持する部分への製品形状に沿う形状の採用は、損傷危険部位と判断した部位を挟持する板押さえ力を高める対策と併用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】金型損傷の要因の一つを示す金型の断面図であり、(a)は被加工材料の切断加工前、(b)は切断加工後の状態をそれぞれ示している。
【
図2】本発明のカット金型の損傷危険部位予測方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図3】上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法における絞り成形金型の構成を示す分解斜視図である。
【
図4】上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法における解析形状を示す斜視図であり、(a)は絞り成形加工後の中間製品形状、(b)はトリム加工後の製品形状、(c)はスプリングバック後の製品形状を示している。
【
図5】上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法における解析形状を示す平面図であり、(a)はスプリングバック後の製品形状、(b)はトリム加工形状をそれぞれ示し、(c)は(a)中のA部を拡大して示している。
【
図6】上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法を用いた、本発明のカット金型の損傷防止方法の一実施形態を示すトリム金型の断面図であり、(a)は被加工材料の切断加工前、(b)は切断加工後の状態をそれぞれ示している。
【
図7】上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法を用いた、本発明のカット金型の損傷防止方法の他の一実施形態を示すトリム金型の断面図であり、(a)は被加工材料の切断加工前、(b)は切断加工後の状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。本発明は、本発明者による以下の金型損傷要因の推定を基に想到されたものである。すなわち本発明者は、変形抵抗の増加だけでなく寸法精度不良も金型損傷要因の一つと考え、
図1(a),(b)に被加工材料の切断加工前と切断加工後の状態をそれぞれ示すように、トリム金型の下刃1と板押え2とで被加工材料としての中間製品3を挟持して、切り刃となる上刃4を矢印で示すように下降させてトリムラインTの位置で不要部分3’を切断するトリム加工等の切断加工によって、被加工材料内の応力バランスが変化することで、切断加工後の被加工材料である製品にスプリングバックが発生し、トリムエッジ5aが所定切断位置であるトリムラインTから突出することで、特定箇所でスプリングバック後の製品5Aのトリムエッジとトリム金型の上刃4の側面とが強く接触し、その接触状態で上刃4が上昇することにより切り刃の磨耗や欠損が発生すると推定した。
【0020】
特に、被加工材料が超ハイテン材である場合は、スプリングバックが大きくなることに加えて、プレス成形品の寸法精度の低下によりトリム金型とプレス成形品との間に生じる隙間(がたつき)から板押え力が低下し、トリムエッジが動き易く、しかも被加工材料の変形抵抗が高くなっているので、トリムエッジと切り刃側面との強い接触で切り刃の磨耗や欠損が発生し易いと考えられる。
【0021】
図2は、本発明のカット金型の損傷危険部位予測方法の一実施形態を示すフローチャートである。ここでは、先ずステップS1のプレス成形解析演算処理工程で、曲げ加工や絞り加工や張出し加工等の1回あるいは複数回のプレス成形加工に関する解析の演算処理すなわちコンピューターシミュレーションを行う。このシミュレーションは、例えば汎用のシミュレーションソフトであるLS−DYNA Ver.971を用い、引張強度980MPa、板厚1.4mmの超ハイテン材鋼板を被加工材料として行う。
【0022】
例えば
図3に示すように、所定製品形状に対応する凸形状のパンチ6と、そのパンチ6の周囲に昇降可能に配置され、例えばプレス機械のクッション装置で持ち上げられるブランクホルダー7と、そのブランクホルダー7上に保持される上記被加工材料からなる平板状のブランク8をブランクホルダー7との共働で挟持してパンチ6との共働で中間製品に成形する、所定製品形状に対応する凹形状のダイ9とを具える絞り成形金型を、コンピューター支援設計(CAD)データで設定し、ステップS1では、例えば上記シミュレーションソフトに、その絞り成形金型のCADデータを、ブランク8のCADデータとともに入力して、その絞り成形金型でのブランク8の絞り成形加工をコンピューターシミュレーションし、
図4(a)に示す如き、平板状のブランク8からの絞り成形加工後の中間製品3の形状を得る。
【0023】
続くステップS2のトリム演算処理工程では、例えば上記シミュレーションソフトに、上記絞り成形加工後の中間製品3の形状のCADデータを、製品形状の輪郭に対応する所定トリムラインのCADデータとともに入力して、中間製品3の形状をトリムラインの位置で切断する切断加工をコンピューターシミュレーションし、
図4(b)に示す如き、トリム加工後であってスプリングバックの生ずる前の製品5の形状を得る。
【0024】
続くステップS3のスプリングバック解析演算処理工程では、例えば上記シミュレーションソフトに、上記トリム加工後であってスプリングバックの生ずる前の製品5の形状のCADデータを、先の絞り成形加工後の中間製品3の形状のCADデータとともに入力して、平板状のブランク8からの絞り成形加工で中間製品3の形状に生ずる残留応力がトリム加工で解放された場合に生ずる各部のスプリングバック量を演算し、そのスプリングバック量をスプリングバック前の製品5の形状に加えて、
図4(c)に示す如き、スプリングバック後の製品5Aの形状を得る。
【0025】
その後のステップS4の工程では、例えば上記シミュレーションソフトに、
図5(a)に示す如き上記スプリングバック後の製品5Aの形状のCADデータを、
図5(b)に示す如き製品形状の輪郭に対応する所定切断位置を示すトリムラインTのCADデータとともに入力して、スプリングバック後の製品5Aの形状とトリムラインTの位置とを比較することにより、
図5(c)に
図5(a)中のA部を拡大して例示するように、スプリングバック後の製品5Aの形状の、図中矢印で示すようにトリムラインTから突出している部分を抽出し、その抽出した部分をトリム金型の損傷危険部位として特定する。
【0026】
従って、この実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法によれば、プレス加工におけるトリム工程で用いられるカット金型について、事前に損傷危険部位を予測することができ、これにより、効率の良い金型損傷対策を容易に実施することができるとともに、金型のメンテナンス工数も削減することができる。
【0027】
しかも、この実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法によれば、ブランク8に対する絞り成形加工解析を行って成形加工後の中間製品3の形状を取得する工程S1をさらに具え、得られた成形加工後の中間製品3の形状を、トリムラインTでの切断加工の解析を行う被加工形状としているので、トリム工程の前工程で絞り加工を行う場合に、その絞り成形加工工程で被加工材料としての中間製品3に生ずる残留応力に起因するトリム加工でのトリムラインTからのトリムエッジの突出による損傷危険部位を予測することができ、これにより、効率の良い金型損傷対策を容易に実施することができるとともに、金型のメンテナンス工数も削減することができる。
【0028】
図6は、上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法を用いた、本発明のカット金型の損傷防止方法の一実施形態を示すトリム金型の断面図であり、(a)は被加工材料の切断加工前、(b)は切断加工後の状態をそれぞれ示し、同図中、
図1の従来例と同様の部分はそれと同一の符号にて示している。
【0029】
この実施形態のカット金型の損傷防止方法では、プレス加工における絞り成形加工工程後のトリム加工工程で用いられるカット金型としてのトリム金型の損傷を防止するに際し、上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法を実施することによって、先ずトリム加工でのトリムラインTからのトリムエッジの突出による損傷危険部位を予測し、次いで、実際の絞り成形加工工程後のトリム加工工程で、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束した状態で、中間製品3に対しそのトリム金型によるトリムライン位置での切断加工を行う。
【0030】
この実施形態のカット金型の損傷防止方法で用いる、カット金型としてのトリム金型は、下刃1と板押え2とで被加工材料としての中間製品3を挟持して、切り刃となる上刃4を矢印で示すように下降させてトリムラインTの位置で不要部分3’を切断するものであるが、その板押え2の、特に絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位に対応する部分の下面にトリムラインTに沿って突条2aが設けられて、中間製品3の損傷危険部位と判断した部位を下刃1と板押え2とで挟持する際の板押え力がその突条2aの狭い先端面に集中するように構成されており、これにより、中間製品3の損傷危険部位と判断した部位でトリムラインTに沿って板押え2の面圧が特に高まるので、
図6(a)に示すように、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束した状態で、
図6(b)に示すように、そのトリム金型によるトリムラインTの位置での切断加工が行われて、上刃4の側面にトリムエッジが実質上接触しないスプリングバック前の製品5の形状が得られるとともに板押え2で維持され、その状態で上刃4が上昇する。
【0031】
従って、この実施形態のカット金型の損傷防止方法によれば、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について、被加工材料の突出による金型損傷を効率よく防止できるとともに、金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【0032】
しかも、この実施形態のカット金型の損傷防止方法によれば、ブランク8に対する絞り成形加工解析を行って成形加工後の中間製品3の形状を取得する工程S1をさらに具え、得られた成形加工後の中間製品3の形状を、トリムラインTでの切断加工の解析を行う被加工形状としているので、トリム工程の前工程で絞り加工を行う場合に、その絞り成形加工工程で被加工材料としての中間製品3に生ずる残留応力に起因するトリム加工でのトリムラインTからのトリムエッジの突出によるトリム金型の損傷を効率よく防止できるとともに、それによりトリム金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【0033】
さらに、この実施形態のカット金型の損傷防止方法によれば、トリム金型の板押え2の、特に絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位に対応する部分の下面にトリムラインTに沿って突条2aが設けられて、中間製品3の損傷危険部位と判断した部位を下刃1と板押え2とで挟持する際の板押え力がその突条2aの狭い先端面に集中するように構成されているので、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束した状態で、中間製品3に対しそのトリム金型によるトリムライン位置での切断加工を行うことができる。
【0034】
図7は、上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法を用いた、本発明のカット金型の損傷防止方法の他の一実施形態を示すトリム金型の断面図であり、(a)は被加工材料の切断加工前、(b)は切断加工後の状態をそれぞれ示し、同図中、
図1の従来例と同様の部分はそれと同一の符号にて示している。
【0035】
この実施形態のカット金型の損傷防止方法でも、プレス加工における絞り成形加工工程後のトリム加工工程で用いられるカット金型としてのトリム金型の損傷を防止するに際し、上記実施形態のカット金型の損傷危険部位予測方法を実施することによって、先ずトリム加工でのトリムラインTからのトリムエッジの突出による損傷危険部位を予測し、次いで、実際の絞り成形加工工程後のトリム加工工程で、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束した状態で、中間製品3に対しそのトリム金型によるトリムライン位置での切断加工を行う。
【0036】
この実施形態のカット金型の損傷防止方法で用いる、カット金型としてのトリム金型は、下刃1と板押え2とで被加工材料としての中間製品3を挟持して、切り刃となる上刃4を矢印で示すように下降させてトリムラインTの位置で不要部分3’を切断するものであるが、その板押え2の、特に絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位に対応する部分の下面の形状が、スプリングバック前の製品5の形状に対応するように形成されて、中間製品3の損傷危険部位と判断した部位をそこに隙間なく密接する板押え2と下刃1とで挟持するように構成されており、これにより、中間製品3の損傷危険部位と判断した部位をトリムラインTに沿って板押え2が確実に押さえるので、
図7(a)に示すように、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束した状態で、
図7(b)に示すように、そのトリム金型によるトリムラインTの位置での切断加工が行われて、上刃4の側面にトリムエッジが実質上接触しないスプリングバック前の製品5の形状が得られるとともに板押え2で維持され、その状態で上刃4が上昇する。
【0037】
従って、この実施形態のカット金型の損傷防止方法によっても、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について、被加工材料の突出による金型損傷を効率よく防止できるとともに、金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【0038】
しかも、この実施形態のカット金型の損傷防止方法によっても、ブランク8に対する絞り成形加工解析を行って成形加工後の中間製品3の形状を取得する工程S1をさらに具え、得られた成形加工後の中間製品3の形状を、トリムラインTでの切断加工の解析を行う被加工形状としているので、トリム工程の前工程で絞り加工を行う場合に、その絞り成形加工工程で被加工材料としての中間製品3に生ずる残留応力に起因するトリム加工でのトリムラインTからのトリムエッジの突出によるトリム金型の損傷を効率よく防止できるとともに、それによりトリム金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【0039】
さらに、この実施形態のカット金型の損傷防止方法によれば、トリム金型の板押え2の、特に絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位に対応する部分の下面の形状が、スプリングバック前の製品5の形状に対応するように形成されて、中間製品3の損傷危険部位と判断した部位をそこに隙間なく密接する板押え2と下刃1とで挟持するように構成されているので、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束した状態で、中間製品3に対しそのトリム金型によるトリムライン位置での切断加工を行うことができる。
【0040】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限られるものでなく、所要に応じて特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、カット工程の前の成形加工工程は、複数工程でもよく、また、絞り加工工程に限られず、曲げ加工や張出し加工の工程でもよく、それらの組み合わせでもよい。そして、カット金型は、トリム金型に限られず、穴明け加工を行う打抜き金型であってもよく、また、カット工程の前に成形加工工程がない場合に用いられるものでもよい。
【0041】
そして、絞り成形加工後の中間製品3の損傷危険部位と判断した部位の突出移動をトリム金型で拘束するには、
図1や
図6や
図7に示す板押え2の構成において図示しないスプリングや合成ゴム等の弾性部材により板押え2に加える板押え荷重を従来よりも高めるようにしてもよく、
図6と
図7に示す板押え2の構成を組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
かくして本発明のカット金型の損傷危険部位予測方法によれば、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について、事前に損傷危険部位を予測することができ、これにより、効率の良い金型損傷対策を容易に実施することができるとともに、金型のメンテナンス工数も削減することができる。
【0043】
また、本発明のカット金型の損傷防止方法によれば、プレス加工における切断工程で用いられるカット金型について、被加工材料の突出による金型損傷を効率よく防止できるとともに、金型のメンテナンスの工数も削減することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 下刃
2 板押え
2a 突条
3 中間製品
3’ 不要部分
4 上刃
5 スプリングバック前の製品
5A スプリングバック後の製品
5a トリムエッジ
6 パンチ
7 ブランクホルダー
8 ブランク
9 ダイ
T トリムライン