(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸トルク補償器は、前記供試体及び前記ダイナモメータを含む機械系の共振周波数を通過帯域内に含むハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタに前記軸トルクセンサの検出信号を通過させることによって前記ダイナモメータへの入力信号を生成することを特徴とする請求項1に記載のダイナモメータの制御装置。
前記制御装置は、前記速度制御器の出力信号から前記供試体及び前記ダイナモメータを含む機械系の共振周波数の成分を減衰するローパスフィルタをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイナモメータの制御装置。
前記速度制御器は、前記回転数検出器の検出値及び前記指令回転数を入力として比例ゲインKp及び積分ゲインKiによって特徴付けられたI−P制御則に従って前記ダイナモメータへの入力信号を生成し、
前記ローパスフィルタはカットオフ周波数ωLPF/2πによって特徴付けられ、
前記比例ゲインKp、前記積分ゲインKi、及びカットオフ周波数ωLPF/2πは、下記式が満たされるように定められることを特徴とする請求項3に記載のダイナモメータの制御装置。
ここで、下記式において、Jは前記ダイナモメータと前記供試体の慣性モーメントの和又はその推定値とし、ωcは正の実数とする。
【数1】
【背景技術】
【0002】
図8は、ダイナモメータDYを用いたエンジンEの試験システム100の構成を示す図である。
試験システム100は、供試体であるエンジンEと軸Sで連結されたダイナモメータDYと、エンジンEの出力を制御するスロットルアクチュエータ110及びエンジン制御装置120と、ダイナモメータDYの出力を制御するインバータ130及びダイナモメータ制御装置140と、を備える。試験システム100では、エンジン制御装置120を用いてエンジンEのスロットル開度を制御しながら、ダイナモメータ制御装置140を用いてダイナモメータDYのトルクや速度を制御することにより、エンジンEの耐久性、燃費、及び排気浄化性能等が評価される。試験システム100では、上記のような性能を評価する試験を行う前に、エンジンEの慣性モーメントを測定しておき、これをダイナモメータ制御装置140におけるトルク制御や速度制御の制御パラメータとして利用する場合がある。
【0003】
特許文献1には、上述のような試験システム100を構成する装置を用いてエンジンEの慣性モーメントを推定する方法が示されている。特許文献1の方法では、エンジン制御装置120を用いてエンジンEの回転数を一定に保ちながら、ダイナモメータ制御装置140では、軸Sに作用するトルクの加振制御を行う。そして、このような加振制御下における軸トルクセンサ160及び回転数検出器150の出力を演算装置170で取得し、取得したデータ用いることによってエンジンEの慣性モーメントの値を推定する。一般的にエンジンEには、回転数に応じた機械的な損失がある。これに対し特許文献1の方法では、エンジンEの回転数をほぼ一定にした状態で慣性モーメントを推定するため、このような機械的な損失を考慮する必要がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでエンジントルクは、その回転数に応じた周波数で振動する。例えば一般的な4ストロークエンジンでは、回転数の2N(Nは自然数)倍の周波数の振動トルクが発生する。一方、エンジンEとダイナモメータDYとを連結して構成される機械系には、例えば100Hz程度の共振周波数が存在する。この共振周波数は通常の回転数領域(数百〜数千rpm)で運転されるエンジンEで発生する振動トルクの周波数領域内に含まれる。このため、特許文献1の方法に基づき、ダイナモメータ制御装置140で加振制御を行いながらエンジンEの慣性モーメントの値を推定しようとすると、エンジン回転数と共振周波数との組み合わせによっては、共振現象によって軸トルクやエンジン回転数の振動幅が必要以上に大きくなってしまい、慣性モーメントの推定精度が低下するおそれがある。
【0006】
なお、共振周波数が予め把握されていれば、振動トルクの周波数と共振周波数とが十分に離れるようにエンジン回転数を定めることによって上記のような共振現象を抑制できる。しかしながらエンジンの慣性モーメントの値が未知である場合には、共振周波数も未知である場合が多いため、慣性モーメントの値を推定する際に適切なエンジン回転数を決定することはできない。
【0007】
なお、共振現象を抑制する方法として、μ設計法やH∞制御等のロバスト制御設計方法を用いてダイナモメータ制御装置を設計することが知られている。しかしながら、このような制御設計方法では、設計の段階でエンジンの慣性モーメントの値を必要とすることから、慣性モーメントの推定に用いられるダイナモメータ制御装置を設計するのに、この方法を適用することもできない。
【0008】
本発明は、供試体の慣性モーメントが未知の状態であっても共振現象が生じないように加振制御を行うことができるダイナモメータの制御装置と、この制御装置を用いた慣性モーメントの推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するため本発明は、供試体(例えば、後述のエンジンE)に軸(例えば、後述の軸S)を介して接続されたダイナモメータ(例えば、後述のダイナモメータD)に対するトルク電流指令信号を生成するダイナモメータの制御装置(例えば、後述のダイナモメータ制御装置6)であって、前記ダイナモメータの回転数を検出する回転数検出器(例えば、後述のエンコーダ8)と、前記軸に作用する軸トルクを検出する軸トルクセンサ(例えば、後述の軸トルクセンサ7)と、ランダム又は周期的に変動する加振信号を生成する加振信号生成部(例えば、後述の加振信号生成部61)と、前記回転数検出器の検出値が所定の指令回転数になるような前記ダイナモメータへの入力信号を生成する速度制御器(例えば、後述の速度制御器62)と、前記軸トルクセンサの検出値を用いて前記軸の振動が抑制されるような前記ダイナモメータへの入力信号を生成する軸トルク補償器(例えば、後述の軸トルク補償器64)と、前記加振信号に前記速度制御器及び前記軸トルク補償器によって生成された入力信号を加えることによってトルク電流指令信号を生成する加算器(例えば、後述の加算器65)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
(2)この場合、前記軸トルク補償器は、前記供試体及び前記ダイナモメータを含む機械系の共振周波数を通過帯域内に含むハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタに前記軸トルクセンサの検出信号を通過させることによって前記ダイナモメータへの入力信号を生成することが好ましい。
【0011】
(3)この場合、前記制御装置は、前記速度制御器の出力信号から前記供試体及び前記ダイナモメータを含む機械系の共振周波数の成分を減衰するローパスフィルタ(例えば、後述のローパスフィルタ63)をさらに備えることが好ましい。
【0012】
(4)この場合、前記速度制御器は、前記回転数検出器の検出値及び前記指令回転数を入力として比例ゲインKp及び積分ゲインKiによって特徴付けられたI−P制御則に従って前記ダイナモメータへの入力信号を生成し、前記ローパスフィルタはカットオフ周波数ωLPF/2πによって特徴付けられ、前記比例ゲインKp、前記積分ゲインKi、及びカットオフ周波数ωLPF/2πは、下記式(1)が満たされるように定められることが好ましい。ここで、下記式(1)において、Jは前記ダイナモメータと前記供試体の慣性モーメントの和又はその推定値とし、ωcは正の実数とする。
【数1】
【0013】
(5)上記目的を達成するため本発明は、供試体であるエンジン(例えば、後述のエンジンE)と軸(例えば、後述の軸S)を介して接続されたダイナモメータ(例えば、後述のダイナモメータD)と、前記ダイナモメータの出力を制御するダイナモメータ制御装置(例えば、後述のダイナモメータ制御装置6)と、前記エンジンの出力を制御するエンジン制御装置(例えば、後述のエンジン制御装置5)と、前記軸に作用する軸トルクを検出する軸トルクセンサ(例えば、後述の軸トルクセンサ7)と、前記ダイナモメータの回転数を検出する回転数検出器(例えば、後述のエンコーダ8)と、を備える試験システム(例えば、後述の試験システム1)を用いて、前記エンジンの慣性モーメントの値を推定する慣性モーメント推定方法を提供する。この推定方法は、前記エンジン制御装置によって前記エンジンの回転数を所定の目標回転数に維持しながら、前記ダイナモメータ制御装置によって前記ダイナモメータの出力トルクの加振制御を実行する加振制御工程(例えば、
図3のS1)と、前記加振制御工程を実行している間における前記軸トルクセンサ及び前記回転数検出器の検出値を所定時間にわたって取得するデータ取得工程(例えば、
図3のS1)と、前記データ取得工程で取得したデータを用いて、前記軸トルクを入力とし前記回転数を出力とした伝達関数を算出する伝達関数算出工程(例えば、
図3のS2)と、前記伝達関数算出工程で算出した伝達関数を用いて前記エンジンの慣性モーメントの値を推定する推定工程(例えば、
図3のS3〜S5)と、を備える。前記加振制御工程では、前記ダイナモメータ制御装置として(1)から(4)の何れかに記載の制御装置を用いて前記加振制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明では、ランダム又は周期的に変動する加振信号に、速度制御器によってダイナモメータの回転数が所定の指令回転数になるように生成した入力信号と、軸トルク補償器によって軸の振動が抑制されるように生成した入力信号とを加えることによってダイナモメータの加振制御を行うためのトルク電流指令信号を生成する。単にダイナモメータの加振制御を行うだけであれば、加振信号をダイナモメータに入力すればよい。これに対し本発明では、速度制御器と軸トルク補償器を用いてダイナモメータの回転数制御を行うことにより、上述のような共振現象によってダイナモメータの回転数や軸トルクが大きく変動しないように加振制御を行うことができる。また本発明では、速度制御器や軸トルク補償器を用いることにより、供試体の慣性モーメントを予め知ることなく共振現象を抑制できる。
【0015】
(2)本発明では、共振周波数を通過帯域内に含むように設定されたハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタに軸トルクセンサの検出信号を通過させたものをダイナモメータへの入力に重畳することにより、共振周波数の近傍で軸トルクが大きく振動するのを防止できる。なお、上述のように供試体の慣性モーメントの値が未知である場合には、真の共振周波数も未知である場合が多い。しかしながらフィルタの通過帯域は、ある程度の幅の余裕を持たせることができるので、共振周波数の正確な値が未知であっても、十分な効果を奏するフィルタを設計することができる。
【0016】
(3)本発明では、ローパスフィルタを用いて速度制御器の出力信号から共振周波数の成分を減衰する。これにより、速度制御器によるダイナモメータの回転数制御と機械系の共振とが干渉するのを防止できる。
【0017】
(4)本発明では、速度制御器に含まれる比例ゲインKp及び積分ゲインKiと、ローパスフィルタに含まれるカットオフ周波数ωLPF/2πとを、ダイナモメータと供試体の慣性モーメントの和又はその推定値であるJを用いて、上記式(1)によって関連付ける。上記式(1)は、供試体とダイナモメータとを軸で連結された機械系を、慣性モーメントJの剛体でモデル化したときにおける閉ループ系の伝達関数の特性多項式の3重根となっている。したがって、上記式(1)のように係数Kp,Ki,ωLPFを決めることにより、速度制御器が振動的に動作しないようにできる。
【0018】
(5)本発明では、加振制御工程と、データ取得工程と、伝達関数算出工程と、推定工程とを行うことによって供試体であるエンジンの慣性モーメントの値を推定する。特に本発明では、上述のような速度制御器及び軸トルク補償器を備えるダイナモメータ制御装置を用いてダイナモメータの加振制御を行うことにより、エンジン制御装置側での目標回転数の設定によらず共振現象を抑制できるので、高い精度でエンジンの慣性モーメントの値を推定できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る試験システム1の構成を示す図である。
【0021】
試験システム1は、供試体としてのエンジンEと、このエンジンEと略棒状の軸Sを介して連結されたダイナモメータDと、スロットルアクチュエータ2を介してエンジンEの出力を制御するエンジン制御装置5と、ダイナモメータDに電力を供給するインバータ3と、インバータ3を介してダイナモメータDの出力を制御するダイナモメータ制御装置6と、軸Sの捩れトルク(以下、「軸トルク」という)を検出する軸トルクセンサ7と、ダイナモメータDの出力軸SDの回転数(以下、「ダイナモ回転数」という)を検出するエンコーダ8と、軸トルクセンサ7及びエンコーダ8の出力を用いて各種演算を行う演算装置9と、を備える。
【0022】
試験システム1では、エンジン制御装置5を用いてエンジンEのスロットル開度を制御しながら、ダイナモメータ制御装置6を用いてダイナモメータDYのトルクや速度を制御することにより、エンジンEの耐久性、燃費、及び排気浄化性能等を評価する試験が行われる。以下では、この試験システム1によって実現される様々な機能のうち、特にエンジンEの慣性モーメントを推定する機能に着目し、この慣性モーメントの推定に関する構成を中心に詳細に説明する。
【0023】
エンジン制御装置5は、所定のタイミングでエンジンEを始動した後、予め定められた態様で、スロットルアクチュエータ2を介してエンジンEの出力を制御する。
【0024】
ダイナモメータ制御装置6は、試験に応じて定められた態様でダイナモメータDに対するトルク電流指令信号を生成する。インバータ3は、ダイナモメータ制御装置6によって生成されたトルク電流指令信号に基づいてダイナモメータDに電力を供給することにより、この指令信号に応じたトルクをダイナモメータDで発生させる。
【0025】
演算装置9は、エンジン制御装置5を用いてエンジンEの出力を制御し、同時にダイナモメータ制御装置6を用いてダイナモメータDの出力を制御している時における軸トルクセンサ7によって検出される軸トルク及びエンコーダ8によって検出されるダイナモ回転数に関するデータを収録し、この収録したデータを用いてエンジンEの慣性モーメントを推定する。演算装置9においてエンジンEの慣性モーメントを推定する具体的な演算の手順については、後に
図3を参照して説明する。
【0026】
図2は、本実施形態に係るダイナモメータ制御装置6の制御回路の構成を示す図である。
図2に示す制御回路は、軸トルクを振動させる加振制御を実行するための制御回路であり、特にエンジンEの慣性モーメントの値を推定する際に好ましく用いられる。
【0027】
ダイナモメータ制御装置6は、加振信号生成部61と、速度制御器62と、ローパスフィルタ63と、軸トルク補償器64と、加算器65と、を備える。
【0028】
加振信号生成部61は、軸トルクの加振制御を実行するために加振トルク信号を生成する。この加振トルク信号には、例えば、所定の標準偏差の下で生成される正規分布乱数が用いられる。またこの加振トルク信号には、所定の振幅及び周波数の下で周期的に変動する正弦波を用いてもよい。
【0029】
速度制御器62は、エンコーダによって検出されるダイナモ回転数が所定の指令回転数になるようなダイナモメータへの入力信号を、これらダイナモ回転数及びその指令回転数を用いて既知の制御則に従って生成する。より具体的には、速度制御器62は、
図2に示すように、比例ゲインKp及び積分ゲインKiによって特徴付けられるI−P制御則に従って入力信号を生成することが好ましい。なお、これらゲインKp,Kiの具体的な設定については、後に説明する。
【0030】
ローパスフィルタ63は、速度制御器62の出力信号から、カットオフ周波数ωLPF/2πより高い周波数の成分を減衰させる。ローパスフィルタ63の伝達関数としては、例えば
図2に示すように、カットオフ周波数ωLPF/2πで特徴付けられる1次の伝達関数が用いられる。このカットオフ周波数ωLPF/2πは、入力信号からエンジン及びダイナモメータを含む機械系の共振周波数の成分を減衰するように、この共振周波数(例えば、約100Hz)より低くなるように定められる。これにより、速度制御器62によるダイナモメータの回転数制御と機械系の共振とが干渉するのを防止できる。なお、このカットオフ周波数ωLPF/2πの具体的な設定については、後に説明する。
【0031】
軸トルク補償器64は、軸トルクセンサの検出値を用いて、エンジンとダイナモメータとを連結する軸の振動が抑制されるようなダイナモメータへの入力信号を生成する。より具体的には、この軸トルク補償器64の伝達関数は、
図2に示すように、カットオフ周波数ωHPF/2πで特徴付けられる1次のハイパスフィルタで構成される。このカットオフ周波数ωHPF/2πは、軸トルクセンサの検出値から少なくとも上記共振周波数の成分を通過させるように、この共振周波数より低くなるように定められる。軸トルク補償器64のカットオフ周波数ωHPF/2πは、例えば1に設定される(ωHPF=2π)。なお、この軸トルク補償器64には、上述のようなハイパスフィルタに限らず、軸トルクセンサの検出値から少なくとも共振周波数の成分を通過させるように設定されたバンドパスフィルタを用いてもよい。
【0032】
加算器65は、加振信号生成部61によって生成される加振トルク信号に、ローパスフィルタ63を経た速度制御器62からの入力信号と、軸トルク補償器64からの入力信号とを加えることによって、ダイナモメータに対するトルク電流指令信号を生成する。
【0033】
次に、速度制御器62のゲインKp,Ki及びローパスフィルタ63のカットオフ周波数ωLPF/2πの具体的な設定値について説明する。
図2のダイナモメータ制御装置から加振信号生成部61及び軸トルク補償器64を除いたものにおいて、トルク電流指令信号がダイナモメータとエンジンの慣性モーメントの和Jで特徴付けられる剛体を駆動し、この剛体の回転数がダイナモ回転数として上記制御回路に入力されるとする。すると、このときの閉ループ系の伝達関数の特性多項式は、下記式(2)となる。
【数2】
【0034】
下記式(3)で定義される比例ゲインKp、積分ゲインKi、及びカットオフ周波数ωLPF/2πは、上記特性多項式(2)の3重根を与える。ここでωcは任意の正の実数であり、例えば2πである。すなわち、下記式(3)のように制御回路のパラメータKp,Ki,ωLPFの値を設定することにより、速度制御器62が振動的に動作しないようにできる。
【数3】
【0035】
なお、上述のように
図2のダイナモメータ制御装置は、エンジンの慣性モーメントを推定する際に好ましく用いられる。すなわち、これらゲインの値を設定する際には、エンジンの慣性モーメントの真の値は未知であると想定され、したがって上記式(3)におけるエンジンとダイナモメータの慣性モーメントの和Jも未知であると想定される。この場合、全慣性モーメントJは、例えば、既知であるダイナモメータの慣性モーメントJ2と、想定されるエンジンの慣性モーメントの最小値J1Lと、想定されるエンジンの慣性モーメントの最大値J1Hと、を用いて得られる下記推定値が用いられる。すなわち、
図2のダイナモメータ制御装置の制御パラメータは、エンジンの慣性モーメントを用いずに調整することができる。
【数4】
【0036】
次に、以上のように構成された試験システム1を用いて、エンジンEの慣性モーメントを推定する手順について説明する。
図3は、エンジンの慣性モーメントを推定する手順を示すフローチャートである。
【0037】
始めにS1では、エンジン制御装置によってエンジンの回転数を所定の目標回転数に維持しながら、同時に
図2のダイナモメータ制御装置によってダイナモメータの出力トルクの加振制御を実行する(加振制御工程)。またS1では、加振制御工程を実行している間における軸トルクセンサによって検出される軸トルク、及びエンコーダによって検出されるダイナモ回転数を所定時間(例えば、数十秒)にわたって取得する(データ取得工程)。
【0038】
なお、この加振制御工程におけるエンジンの目標回転数は任意である。また、ダイナモメータ制御装置の速度制御器に入力するダイナモメータの指令回転数は、任意に定められたエンジンの目標回転数と同じ値に設定される。
【0039】
次にS2では、S1で取得した軸トルク及びダイナモ回転数のデータを用いることによって、軸トルクを入力としダイナモ回転数を出力とした伝達関数G(s)を算出する(伝達関数算出工程)。この伝達関数G(s)は、ダイナモメータ制御装置の加振トルク信号を入力とし軸トルクを出力とした伝達関数G_SHT(s)と、ダイナモメータ制御装置の加振トルク信号を入力としダイナモ回転数を出力とした伝達関数G_DYw(s)とを算出し、これらを除算することによって導出される(G(s)=G_DYw(s)/G_SHT(s))。
【0040】
次にS3では、導出した伝達関数G(s)のゲイン特性を示すボード線図をプロットし、当該ボード線図からエンジンの慣性モーメントの推定に用いる周波数領域を特定する。この慣性モーメントの推定に用いる周波数領域は、ゲインが急激に減少する反共振点の周波数をωARFとし、この反共振周波数ωARFに所定の1以下の係数K(例えば、0.3程度)を乗算して得られる周波数より低い領域とする。
【0041】
次にS4では、プロットしたボード線図のうちS3で特定した周波数領域内におけるゲインgと周波数ωの複数の組み合わせ(g,ω)を用いて、下記式(5)で定義される係数bと、係数bの全組み合わせ(g,ω)に対する平均値bmを算出する。
【数5】
【0042】
次にS5では、S4で算出した平均値bmを用いて、下記式(6)によって得られる値をエンジンの慣性モーメントJ1の値とする。
【数6】
【0043】
なお、上述のS2〜S5の工程の詳細な手順や変形例等については、本願出願人による特開2006−300683号公報に記載されているので、ここではこれ以上詳細な説明を省略する。
【0044】
ここで、
図3の手順に従ってエンジンの慣性モーメントを推定する際に、
図2に示すダイナモメータ制御装置を用いて加振制御を行うことの効果を説明する。
【0045】
図4及び
図5は、それぞれ、比較例のダイナモメータ制御装置を用いて加振制御を行った場合におけるエンジン回転数等の時間変化を示すタイムチャート及びエンジントルクから軸トルクまでの伝達関数のゲイン特性を示すボード線図である。ここで、比較例のダイナモメータ制御装置とは、
図2に示すダイナモメータ制御装置6のうち、加振信号生成部61によってランダムに生成される加振トルク信号のみを用いてトルク電流指令信号を生成する装置をいう。
【0046】
図6及び
図7は、それぞれ、
図2の本発明のダイナモメータ制御装置を用いて加振制御を行った場合におけるエンジン回転数等の時間変化を示す図及びエンジントルクから軸トルクまでの伝達関数のゲイン特性を示すボード線図である。なお、
図6及び
図7の例では、ダイナモ回転数指令値はエンジンの目標回転数と等しくした。また、これら
図4〜
図7の測定では、未知であるエンジンの慣性モーメントを0.1〜0.5kg・m
2の間で3段階に分けた。
【0047】
図4及び
図5に示すように、従来のダイナモメータ制御装置を用いて加振制御を行った場合、エンジントルクの振動周波数と機械共振周波数とが近くなると、共振現象によってエンジントルクが増幅されて軸トルク及びエンジン回転数の振動幅が大きくなる。これに対し、
図6及び
図7に示すように、本発明のダイナモメータ制御装置を用いて加振制御を行った場合、加振トルク信号に上述のような速度制御器及び軸トルク補償器の信号が重畳されるので、これらの機能によって共振現象が抑制される。このため、
図4と
図6とを比較して明らかなように、軸トルク及びエンジン回転数の振動幅が小さくなる。すなわち、本発明のダイナモメータ制御装置を用いることにより、エンジンの慣性モーメントを精度良く推定できる。