(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融金属浴から連続的に引き上げられる鋼帯を挟んで対向して配置され、出口から前記鋼帯に向けてガスを吹き付け、前記鋼帯の両面のめっき付着量を調整する一対のガスワイピングノズルと、
前記ガスワイピングノズルに前記ガスを供給する供給機構と、
前記供給機構から前記ガスワイピングノズルに供給されるガスの温度を変更可能なガス温度調整機構と、
前記鋼帯の幅方向端部近傍の鋼帯延長面上に配置され、前記一対のガスワイピングノズルから噴射されたガス同士の衝突を回避するバッフルプレートと、
前記バッフルプレートの少なくとも片面に設けられた温度センサと、
前記温度センサの出力に基づき、前記ガス温度調整機構を制御する制御部と、
を有することを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
前記制御部は、前記温度センサで測定された温度が予め設定した所定範囲から外れた場合に、前記ガス温度調整機構を制御して前記ガスワイピングノズルに供給されるガスの温度を変更して、前記温度センサで測定される温度を前記所定範囲内に収める請求項1に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【背景技術】
【0002】
連続溶融金属めっきラインでは、
図4に示すように、還元雰囲気の連続焼鈍炉で焼鈍された鋼帯Pは、スナウト10内を通過して、めっき槽12内の溶融金属浴14中に連続的に導入される。その後鋼帯Pは、溶融金属浴14中のシンクロール16、サポートロール18を介して溶融金属浴14の上方に引き上げられ、ガスワイピングノズル20A,20Bで所定のめっき厚みに調整された後に、冷却されて後工程に導かれる。ガスワイピングノズル20A,20Bは、めっき槽12上方に、鋼帯Pを挟んで対向して配置され、その噴射口から鋼帯Pの両面に向けてガスを吹き付ける。このガスワイピングにより、余剰な溶融金属が掻き取られて、鋼帯表面のめっき付着量が調整されるとともに、鋼帯表面に付着した溶融金属が板幅方向及び板長手方向で均一化される。ガスワイピングノズル20A,20Bは、多様な鋼帯幅に対応するとともに、鋼帯引き上げ時の幅方向の位置ズレなどに対応するため、通常、鋼帯幅より長く構成され、鋼帯の幅方向端部より外側まで延びている。
【0003】
このようなガスワイピング方式では、鋼帯に衝突したガス噴流の乱れによって鋼帯下方に溶融金属が落下し飛び散る、いわゆるスプラッシュが発生し、これが鋼帯表面に付着して、めっき鋼帯の表面品質の低下を招くという問題がある。このスプラッシュ発生の問題は、ガスワイピングノズルから鋼帯表面に吹き付けるガスの圧力(以下、単に「ガス圧力」という。)を高くするとより顕在化する。また、この飛び散ったスプラッシュがめっき槽に落下し、トップドロスとなることで、めっき鋼帯の表面品質の低下を招くとともに、トップドロスを作業者が除去する必要が生じるという問題もある。
【0004】
鋼帯の連続製造プロセスにおいて生産量を増加させるには、鋼帯通板速度(ライン速度)を増加させればよい。しかし、連続溶融めっきプロセスにおいてガスワイピング方式でめっき付着量を調整する場合、ライン速度を増加させると、溶融金属の粘性によって鋼帯のめっき浴通過直後の初期付着量が増加する。このため、めっき付着量を一定範囲内に調整するには、ガス圧力をより高圧に設定する必要があり、これによってスプラッシュが大幅に増加する。
【0005】
また、めっき付着量を少なくしたい場合も、ガス圧力を高くすることが有効であるが、この場合もスプラッシュが大幅に増加する。
【0006】
上記のスプラッシュ発生の問題を解決するため、ガスワイピングノズルから鋼帯表面に吹き付けるガスを高温化し、ワイピング能力を向上させる技術が提案されている。特許文献1には、主ノズルとその上下に設けた一対の副ノズルとからなるガスワイピングを用いて、副ノズルから噴射されるガスの温度は500℃以下で、かつ、主ノズルから噴射されるガスの温度よりも50℃以上高温とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法が記載されている。特許文献2には、ワイピングノズルの内部での燃焼により発生させた燃焼ガスを含むガスを、ガスワイピングノズルの出口におけるガス温度を300℃以上として吹き付ける溶融めっき付着量制御方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2の技術でワイピング能力が向上すれば、その分ガス圧力を上げずに済むため、スプラッシュの低減に寄与し得る。しかしながら、特許文献1,2では、いずれもガスワイピングノズルの出口でのガス温度Tyを規定しており、その場合に生じる以下のような問題を本発明者らは認識した。すなわち、ガスワイピングノズルから噴出したガスは、周囲の空気と混合され徐々に温度が低下する。このため、ガスワイピングノズルと鋼帯との距離が離れている場合、鋼帯衝突点(淀み点)でのガス温度Tは常温近くまで低下し、ガスを加熱したことによる効果が失われてしまう。また、ガスの温度低下量は、ノズル−鋼帯間距離だけではなく、ガス圧力やノズル角度等の条件にも依存し、これらの操業条件は、製品ごとに変更することがある。よって、ノズル出口でのガス温度Tyを所定温度に設定しても、操業条件によって淀み点でのガス温度が異なり、その結果、スプラッシュ発生量及びトップドロス発生量も異なってしまう。また、ノズル出口でのガス温度Tyを所定温度に設定しても、淀み点でのガス温度Tを精度良く予測することは非常に難しい。
【0009】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、操業条件が種々変更された場合でも、スプラッシュやトップドロスに起因するめっき表面欠陥の発生を抑え、高品質の溶融金属めっき鋼帯を安定して製造することができる溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ガスワイピングノズルを用いてめっき付着量の調整を行う溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法において上記課題を解決するためには、淀み点でのガス温度Tを精度良く予測し、これを好適な所定温度範囲内に管理する必要があると本発明者らは考えた。そこで、鋼帯の幅方向端部近傍の鋼帯延長面上にバッフルプレートを配置し、この上に温度センサを配置することを着想した。このバッフルプレート上の温度センサで測定した温度T’は、淀み点でのガス温度Tと実質的に等しいため、淀み点でのガス温度Tをその場(in-situ)で精度良く予測できる。そして、この測定温度T’に基づいて、噴射するガスの温度(すなわちガス加熱装置を出た直後で測定するガス温度)をフィードバック制御して、淀み点でのガス温度T(厳密には、温度センサで測定される温度T’)を好適な所定温度範囲内に管理することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
本発明は、上記の知見によって完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)溶融金属浴から連続的に引き上げられる鋼帯を挟んで対向して配置され、出口から前記鋼帯に向けてガスを吹き付け、前記鋼帯の両面のめっき付着量を調整する一対のガスワイピングノズルと、
前記ガスワイピングノズルに前記ガスを供給する供給機構と、
前記供給機構から前記ガスワイピングノズルに供給されるガスの温度を変更可能なガス温度調整機構と、
前記鋼帯の幅方向端部近傍の鋼帯延長面上に配置され、前記一対のガスワイピングノズルから噴射されたガス同士の衝突を回避するバッフルプレートと、
前記バッフルプレートの少なくとも片面に設けられた温度センサと、
前記温度センサの出力に基づき、前記ガス温度調整機構を制御する制御部と、
を有することを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【0012】
(2)前記制御部は、前記温度センサで測定された温度が予め設定した所定範囲から外れた場合に、前記ガス温度調整機構を制御して前記ガスワイピングノズルに供給されるガスの温度を変更して、前記温度センサで測定される温度を前記所定範囲内に収める上記(1)に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【0013】
(3)前記バッフルプレートと前記鋼帯の幅方向端部との最短距離が、1mm以上10mm未満である上記(1)又は(2)に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【0014】
(4)前記バッフルプレートの前記溶融金属浴の浴面からの高さを可変とする可動機構を有する上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【0015】
(5)前記バッフルプレートは、熱伝導率が1W・m
-1・K
-1以下の材料からなる上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【0016】
(6)前記バッフルプレートと前記温度センサとの間に断熱材を配置した上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【0017】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の溶融金属めっき鋼帯の製造装置を用いる溶融金属めっき鋼帯の製造方法であって、
前記温度センサの出力に基づき、前記ガスワイピングノズルに供給されるガスの温度を制御しつつ、前記溶融金属浴から連続的に引き上げられる鋼帯に、前記一対のガスワイピングノズルから前記ガスを吹き付け、前記鋼帯の両面のめっき付着量を調整することを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法は、操業条件が種々変更された場合でも、スプラッシュやトップドロスに起因するめっき表面欠陥の発生を抑え、高品質の溶融金属めっき鋼帯を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜3を参照して、本発明の一実施形態による溶融金属めっき鋼帯の製造装置100(以下、単に「製造装置」とも称する。)及び製造方法を説明する。
【0021】
図1を参照して、本実施形態の製造装置100は、スナウト10と、めっき槽12と、シンクロール16と、サポートロール18とを有する。スナウト10は、鋼帯Pが通過する空間を区画する、鋼帯進行方向に垂直な断面が矩形状の部材であり、その先端は、めっき槽12に形成される溶融金属浴14に浸漬されている。一実施形態において、還元雰囲気の連続焼鈍炉で焼鈍された鋼帯Pは、スナウト10内を通過して、めっき槽12内の溶融金属浴14中に連続的に導入される。その後鋼帯Pは、溶融金属浴14中のシンクロール16、サポートロール18を介して溶融金属浴14の上方に引き上げられ、一対のガスワイピングノズル20A,20Bで所定のめっき厚みに調整された後に、冷却されて後工程に導かれる。
【0022】
一対のガスワイピングノズル20A,20B(以下、単に「ノズル」ともいう。)は、めっき槽12上方に、鋼帯Pを挟んで対向して配置される。
図3を参照して、ノズル20Aは、その出口(噴射口34)から鋼帯Pに向けてガスを吹き付け、鋼帯の表面のめっき付着量を調整する。他方のノズル20Bも同様であり、これら一対のノズル20A,20Bによって、余剰な溶融金属が掻き取られて、鋼帯Pの両面のめっき付着量が調整され、かつ、板幅方向及び板長手方向で均一化される。
【0023】
図2に示すように、ノズル20A,20Bは、多様な鋼帯幅に対応するとともに、鋼帯引き上げ時の幅方向の位置ズレなどに対応するため、通常、鋼帯幅より長く構成され、鋼帯の幅方向端部より外側まで延びている。また、
図3に示すように、ノズル20Aは、上ノズル部材32A及び下ノズル部材32Bを有し、これら上下ノズル部材32A,32Bの先端間が、ガスの噴射口34(ノズルスリット)を形成している。噴射口34は、鋼帯の板幅方向に延在している。ノズル20Aの縦断面形状は、先端に向かって先細りするテーパ形状となっている。上下ノズル部材32A,32Bの先端部の厚みは、1〜3mm程度とすればよい。また、噴射口の開口幅(スリット間隔)は、特に限定されないが0.5〜2.5mm程度とすることができる。後述のガス供給機構22から供給されるガスが、上下ノズル部材32A,32Bが区画するガス流路を通過し、噴射口34から噴射されて、鋼帯Pの表面に吹きつけられる。他方のノズル20Bも同様の構成を有する。
【0024】
次に、ガス供給機構22及びガス温度調整機構24について説明する。ガス供給機構22は、ノズル20A,20Bにガスを供給する。ガス温度調整機構24は、供給機構22からノズル20A,20Bに供給されるガスの温度を変更可能とする機能を有する。一実施形態において、ガス供給機構22は、常温のガスが通過する配管と、当該ガスを所定圧力に加圧するブロアとを有し、ガス温度調整機構24は、熱交換器を有する。この場合、ブロアで加圧されたガスが、熱交換器により所定温度に加熱され、ノズル20A,20Bに供給される。
【0025】
ガスの供給及びガス温度の調整は、ガス温度を遅滞なく変更できる限りは、上記の例に限られない。例えば、焼鈍炉の燃焼排ガスと空気を混合する方法でもよい。この場合、空気をブロアで所定圧力に加圧して、その後、当該空気と燃焼排ガスとを混合して混合ガスを作製し、当該混合ガスをノズル20A,20Bに供給する。ガス温度の調整は、燃焼排ガスの混合比率を変化させることにより行う。つまり、ガス温度を上げる場合は燃焼排ガスの比率を高くする。この場合には、ガス供給機構22は、常温の空気が通過する配管と、当該空気を所定圧力に加圧するブロアとを有し、ガス温度調整機構24は、燃焼排ガスと空気との混合比率を変化させる機構を有する。
【0026】
図2を参照して、本実施形態では、鋼帯Pの幅方向端部近傍の鋼帯延長面上にバッフルプレート26が配置される。このバッフルプレート26は、一対のノズル20A,20B間に配置され、一対のノズル20A,20Bから噴射されたガス同士の衝突を回避することにより、スプラッシュの低減に寄与する。
図2では、鋼帯Pの幅方向片側端部近傍に配置されたバッフルプレート26を図示したが、本実施形態では、鋼帯幅方向の両側の端部近傍に、それぞれバッフルプレートが配置されており、ガスの衝突を回避する観点からはこの形態が好ましい。
【0027】
バッフルプレート26の形状は特に限定されないが、
図2に示すように矩形が好ましく、そのうち二辺が鋼帯Pの幅方向端部の延在方向と平行に配置されることが好ましい。バッフルプレート26の板厚は、ガスが衝突してバッフルプレートが振動するのを防止する等の剛性確保の点から適宜決定され、例えば4〜10mmの範囲内とすることができる。
【0028】
バッフルプレート26を鋼帯Pにより近接させた方が、スプラッシュ防止性能が向上する。この観点から、バッフルプレート26と鋼帯Pの幅方向端部との最短距離D1は、スプラッシュ防止性能に大きく影響し、1mm以上10mm未満とすることが好ましい。D1が10mm以上の場合、急激にスプラッシュの飛散が目立ち始める。D1が1mm未満の場合、バッフルプレートが鋼帯に接触する可能性がある。また、バッフルプレート26は、鋼帯幅方向において、ノズル20A,20Bの端部よりも外側まで延びている。
【0029】
図1及び
図2を参照して、本実施形態では、バッフルプレート26の両面に、温度センサ28A,28Bが設けられる。また、図示しない他方のバッフルプレートの両面にも温度センサが設けられる。温度センサの形式は特に限定されず、例えば熱電対等の接触式温度計を用いることができる。各温度センサでは、各温度センサに吹きつけられるガスの温度T’を連続的に測定できる。この測定温度T’は、淀み点でのガス温度Tと実質的に等しいため、淀み点でのガス温度Tをその場(in-situ)で精度良く予測できる。各温度センサは、連続的に測定したガス温度T’の情報を制御部30に出力する。
【0030】
制御部30は、各温度センサから出力されるガス温度T’の情報の入力を受けて、ガス温度調整機構24を制御する。すなわち、測定温度T’に基づいて、噴射するガスの温度をフィードバック制御して、淀み点でのガス温度T(厳密には、温度センサで測定される温度T’)を好適な所定温度範囲内に管理する。制御部30の形式は特に限定されず、例えば、コンピュータ内部の中央演算処理装置(CPU)によって実現できる。
【0031】
具体的には、制御部30は、温度センサから送られてくる測定温度T’の情報に基づき、以下のようにしてガス温度調整機構24を制御して、噴射するガスの温度をフィードバック制御する。
【0032】
まず、制御においては、計4つの温度センサから送られてくる4つの測定温度の平均(例えば、相加平均)を測定温度T’として用いる。
【0033】
本実施形態では、スプラッシュ及びトップドロスを抑制する観点から、淀み点でのガス温度T(つまり測定温度T’)を好適な温度範囲に管理することが重要である。好適な温度範囲は、溶融金属浴の融点±100℃とする。溶融亜鉛めっき鋼帯を製造する場合には、亜鉛の融点420℃±100℃の範囲、すなわち320℃〜520℃の範囲に淀み点でのガス温度T(つまり測定温度T’)を管理する。
【0034】
そこで、制御の第一例としては、測定温度T’を上記の好適温度範囲のうちの所定の温度(例えば中央値)に常に近づけるように、測定温度T’が中央値よりも低い場合にはガス温度を高く変更し、測定温度T’が中央値の場合にはガス温度は変更せず、測定温度T’が中央値より高くなった場合にはガス温度を低く変更する、という制御が挙げられる。
【0035】
また、制御の第二例としては、測定温度T’が上記の好適温度範囲内に入っているうちはガス温度の変更はせず、所定温度範囲を外れた場合にのみ、ガス温度の変更を行う制御が挙げられる。具体的には、測定温度T’が好適温度範囲の下限値未満となった場合にはガス温度を高く変更し、測定温度T’が好適温度範囲の上限を超えた場合にはガス温度を低く変更する。このようにして、温度センサで測定される温度を上記の好適温度範囲内に収める。
【0036】
フィードバック制御を行う間隔は特に限定されない。例えば、操業中常に連続的に温度センサでガス温度を測定し、常にその測定温度の情報を制御部に送って、常にフィードバック制御を行うことができる。また、間欠的にガス温度の測定を行い、その測定温度の情報を制御部に送って、間欠的にフィードバック制御を行ってもよい。淀み点でのガス温度Tをより正確に管理する観点からは前者が好ましい。
【0037】
上記で詳説したように、温度センサの出力に基づき、ガスワイピングノズルに供給されるガスの温度(すなわちガス加熱装置を出た直後で測定するガス温度)を制御しつつ、溶融金属浴14から連続的に引き上げられる鋼帯Pに、一対のノズル20A,20Bからガスを吹き付け、鋼帯Pの両面のめっき付着量を調整する。これにより、淀み点でのガス温度Tを精度良く予測し、これを好適な所定温度範囲内に常に維持、管理することができる。そのため、スプラッシュやトップドロスに起因するめっき表面欠陥の発生を抑え、高品質の溶融金属めっき鋼帯を安定して製造することができ、これは操業条件が種々変更された場合でも、同様である。
【0038】
なお、上記実施形態では、2枚のバッフルプレートの両面に配置される計4つの温度センサを用いる例を示したが、温度センサの数は1つ、2つ、3つのいずれでもよい。また、バッフルプレートが1枚の場合は、その片面に1つの温度センサを設けても、その両面に各1つ、計2つの温度センサを設けてもよい。複数の温度センサを用いる場合は、各温度センサの測定温度の平均(例えば、相加平均)を測定温度T’として用いる。
【0039】
本実施形態の製造装置100は、バッフルプレート26の鉛直方向位置がノズル20A,20Bの高さに追従して上下に可動するように、バッフルプレート26の溶融金属浴の浴面からの高さを可変とする可動機構を有することが好ましい。これにより、ノズルの高さを変更しても、常にガスの鋼帯Pへの最大衝突圧力でガス温度を計測できるため、噴射するガスの温度を高精度に制御できる。具体的には、バッフルプレート26は、ワイピングノズルの架台(図示せず)に固定されている。可動機構としては、一例として空圧を用いることができる。
【0040】
また、バッフルプレートの上部には、鋼帯との距離D1を計測するエッジセンサが取り付けられることが好ましい。エッジセンサで鋼帯までの距離を測定しながらバッフルプレートを鋼帯幅方向に移動させることにより、目的の間隔D1となるようにバッフルプレート26を位置させる。
【0041】
本実施形態では、バッフルプレート26と温度センサ28A,28Bとの間に断熱材(図示せず)を配置することが望ましい。これは、バッフルプレートから温度センサに熱が伝わってしまい、ガス温度が正確に測定できないのを防ぐためである。断熱材の種類は、グラスウールやセルロールファイバーが挙げられるが、特にこれに限定するものではない。
【0042】
また、断熱材を配置する代わりに、あるいは断熱材に加えて、バッフルプレート26の材質を低熱伝導の材質にすることも同様の効果がある。この観点から、バッフルプレートは、熱伝導率が1W・m
-1・K
-1以下の材料からなることが好ましい。例えば、低熱伝導の材質はアルミナや炭化珪素等のセラミックスが挙げられるが、特にこれに限定するものではない。
【0043】
図3を参照して、ノズル先端と鋼帯表面との距離D2は、3〜40mmの範囲とすることが好ましい。D2が3mm以上であれば、スプラッシュによるノズル詰まりが発生しづらく、40mm以下であれば、目標付着量を実現するためのガス圧を減らすことができ、その結果、ガスの加熱量を削減することができる。
【0044】
図3を参照して、ノズルの噴射口34の中央と温度センサ28の中央との鉛直方向の距離Hは、0〜5mmの範囲とすることが好ましい。Hが5mm以下であれば、温度センサに吹きつけられるガスの温度T’をより正確に測定できる。
【0045】
本発明の製造装置及び製造方法で製造される溶融金属めっき鋼帯としては、溶融亜鉛めっき鋼板を挙げることができ、これは、溶融亜鉛めっき処理後合金化処理を施さないめっき鋼板(GI)と、合金化処理を施すめっき鋼板(GA)のいずれも含む。
【実施例】
【0046】
溶融亜鉛めっき鋼帯の製造ラインにおいて、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造試験を行った。発明例1〜5では、
図1〜
図3に示す製造装置を用い、比較例では、
図4に示す製造装置を用いた。ガスワイピングノズルは、スリット間隔が1.2mmのものを使用した。ガス噴射方向は鋼帯表面に直角とし、溶融亜鉛めっき浴面からのノズル高さを250〜400mmの範囲の種々の高さとし、ノズル先端と鋼帯表面と距離D2を0〜25mmの範囲の種々の距離とし、板厚0.8mm×板幅1000mmの鋼帯を、ライン速度120〜180m/分の種々の速度で通板し、ガス圧力を50〜100kPaの範囲の種々の圧力にして、合計10種類の操業条件で実験を行った。いずれの操業条件でも、めっき付着量は約50g/m
2の一定になるように、ライン速度、ガス圧力、及び距離D2を設定した。
【0047】
ノズルへのガス供給方法及びガス温度の調整は、常温のガスを熱交換器で所定温度に加熱し、ブロアで所定圧力に加圧したものを供給する方法を採用した。
【0048】
比較例では、バッフルプレートを備えず、温度センサをノズル出口に備え、ノズル出口温度Tyを320〜520℃の範囲内に維持するように制御して実験を実施した。
【0049】
発明例1〜5では、鋼帯幅方向の両側の端部近傍に各1枚、計2枚のバッフルプレートを配置した。その両面の中心部に各1つ、計4つの温度センサ(シースK熱電対)を配置した。バッフルプレートの大きさは、高さ(鋼帯走行方向寸法)50mm、幅(鋼帯幅方向寸法)200mm、厚み5mmとした。バッフルプレートと鋼帯の幅方向端部との距離D1は、発明例1では10mmとし、発明例2〜5では5mmとした。温度センサによる測定温度に基づいて、淀み点でのガス温度Tを予測し、噴射するガスの温度をフィードバック制御した。具体的には、計4つの温度センサから送られてくる4つの測定温度の相加平均を測定温度T’として用いた。そして、測定温度T’が320〜520℃の範囲内に入っているうちはガス温度の変更はせず、測定温度T’が320℃未満となった場合にはガス温度を高く変更し、測定温度T’が520℃を超えた場合にはガス温度を低く変更した。この制御を操業中連続的に行った。
【0050】
発明例1,2では、バッフルプレートをSUS304製(熱伝導率17W・m
-1・K
-1)とした。発明例3では、SUS304製のバッフルプレートと温度センサとの間に、断熱材としてグラスウールを配置した。発明例4では、バッフルプレートを熱伝導率の低いアルミナ製(熱伝導率0.20W・m
-1・K
-1)とし、このバッフルプレートと温度センサとの間に、断熱材としてグラスウールを配置した。発明例5では、バッフルプレートを熱伝導率の低いアルミナ製とし、このバッフルプレートと温度センサとの間に、断熱材としてグラスウールを配置し、さらにバッフルプレートの浴面からの高さを可変とする可動機構を採用した。
【0051】
各発明例及び比較例において、スプラッシュ発生率及びトップドロス発生量を評価した。スプラッシュ発生率は、各製造条件で通過した鋼帯長さに対する検査工程でスプラッシュ欠陥ありと判定された鋼帯長さの比率とし、実用上問題とならない軽度のスプラッシュ欠陥を含んでいる。トップドロス発生量は、1時間通板時に浴面に浮上しているトップドロスを柄杓で掬い上げ計量した重量である。また、実験時の溶融亜鉛めっき浴温度は460℃で実施した。
【0052】
各条件でのスプラッシュ発生率を
図5に示す。
図5では、比較例における10種類の操業条件でのスプラッシュ発生率の平均を100として、各発明例における10種類の操業条件でのスプラッシュ発生率の平均を規格化して表示した。また、比較例及び各発明例でのスプラッシュ発生率の標準偏差も示した。また、各条件でのトップドロス発生量及び標準偏差を
図6に示した。
【0053】
発明例1は比較例と比べて、スプラッシュ発生率が低減した。また、標準偏差σも0.26から0.088に低減しており、種々の操業条件においてスプラッシュ発生率を安定して低減できた。また、トップドロス発生量も同様に比較例よりも発明例1の方が低減した。
【0054】
発明例2は発明例1と比べて、さらにスプラッシュ発生率及びその標準偏差、並びにトップドロス発生量が低減している。これは発明例1よりも距離D1を縮めたため、よりスプラッシュ防止効果が高まったためと考えられる。
【0055】
発明例3,4は、発明例1よりもさらにスプラッシュ発生量及びその標準偏差、並びにトップドロス発生量を低減できた。これは、温度センサに吹きつけられるガスの温度T’を高精度に測定できたためと考えられる。
【0056】
発明例5では、発明例3,4よりもさらにスプラッシュ発生量及びその標準偏差、並びにトップドロス発生量を低減できた。これは、断熱材の効果に加え、バッフルプレートを上下に移動することで、温度センサに吹きつけられるガスの温度T’を高精度に測定できたためと考えられる。