【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。尚、以下の説明において、上下、前後の方向は、図中に示した方向として説明する。
図1は本発明に係る電動工具の内部構造を示す断面図である。本実施例においては、電動工具の例として、インパクト工具1を用いて説明する。
【0017】
インパクト工具1は、充電可能なバッテリ11を電源とし、モータ3を駆動源として減速機構20によって所定の減速比で減速させてインパクト機構21を駆動し、出力軸であるアンビル30に回転力と打撃力を与え、取付穴30aに装着され装着機構31にて保持されるドライバビット等の図示しない先端工具に回転打撃力を間欠的に伝達してねじ締めやボルト締め等の作業を行う。
【0018】
モータ3はブラシレスDCモータであり、内周側に2組のマグネット5aが配置されたロータ5を有し、外周側に6つのスロットに巻線4aが巻かれたステータ4が配置されるもので、いわゆる4極6スロットのモータである。尚、本発明は4極6スロットのモータだけに限られずに、他の極数、他のスロット数のモータであっても良い。モータ3は側面視で略T字状の形状を成すハウジング2の筒状の胴体部2a内に収容される。モータ3の回転軸6は、ハウジング2の胴体部2aの中央部付近に設けられるベアリング19aと後端側のベアリング19bによって回転可能に保持され、モータ3の前方には、回転軸6と同軸に取り付けられモータ3と同期して回転するロータファン13が設けられ、モータ3の後方には、モータ3を駆動するためのインバータ回路基板12が配設される。
【0019】
ロータファン13によって起こされる空気流は、空気取入口17a及びインバータ回路基板12の周囲のハウジング部分に形成された後述するスリット(
図2のスリット17b)から胴体部2aの内部に取り込まれ、主にロータ5とステータ4の間を通過するように流れ、ロータファン13の後方から吸引されてロータファン13の径方向外側に流れ、ロータファン13の周囲のハウジング部分に形成された後述するスリット(
図2のスリット18)からハウジング2の外部に排出される。インバータ回路基板12はモータ3の外形とほぼ同形の略円形の両面基板であり、この基板上にはFET(Field effect transistor)等の複数のスイッチング素子14や、ホールIC等の位置検出素子33が搭載される。
【0020】
ロータ5とベアリング19aの間には、スリーブ36とロータファン13が回転軸6と同軸上に取り付けられる。ロータ5は、マグネット5aによって形成される磁路を形成するものである。スリーブ36は、例えばプラスチック又は金属によって構成できるが、金属製にする場合は、ロータ5の磁路に影響しないように非磁性体であることが好ましい。
【0021】
ロータファン13は、例えばプラスチックのモールドにより一体成型されるものであり、後方の内周側から空気を吸引し、前方側の半径方向外側に排出する、いわば遠心ファンである。ロータ5とベアリング19bの間には、プラスチック製のスペーサ35が設けられる。スペーサ35の形状は略円筒形で、ベアリング19bとロータ5との間の間隔を設定する。この間隔はインバータ回路基板12を同軸上に配置するためと、スイッチング素子14を冷却する空気流の流路として必要とされる空間を形成するために重要である。
【0022】
ハウジング2の胴体部2aから略直角に一体に延びるハンドル部2b内の上部にはトリガ8が配設され、トリガ8の下方にはスイッチ回路基板7が設けられる。ハンドル部2b内の下部には、トリガ8の引き動作によって前記モータ3の速度を制御する機能を備えた制御回路基板9が収容され、この制御回路基板9は、バッテリ11とスイッチ回路基板7に電気的に接続される。制御回路基板9は、信号線を介してインバータ回路基板12と接続される。ハンドル部2bの下方には、ニカド電池、リチウムイオン電池等のバッテリ11が着脱可能に装着される。
【0023】
遊星歯車による減速機構20の出力側に設けられるもので、インパクト機構21は、スピンドル27とハンマ24を備え、後端がベアリング22、前端がメタル29により回転可能に保持される。トリガ8が引かれてモータ3が起動されると、正逆切替レバー10で設定された方向にモータ3が回転を始め、その回転力は減速機構20によって減速されてスピンドル27に伝達され、スピンドル27が所定の速度で回転駆動される。ここで、スピンドル27とハンマ24とはカム機構によって連結され、このカム機構は、スピンドル27の外周面に形成されたV字状のスピンドルカム溝25と、ハンマ24の内周面に形成されたハンマカム溝28と、これらのスピンドルカム溝25、28に係合するボール26によって構成される。ハンマ24は、スプリング23によって常に前方に付勢されており、静止時にはボール26とスピンドルカム溝25、28との係合によってアンビル30の端面とは隙間を隔てた位置にある。そして、ハンマ24とアンビル30の対向する回転平面上の2箇所には図示しない凸部がそれぞれ対称的に形成されている。
【0024】
スピンドル27が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ24に伝達され、ハンマ24が半回転しないうちにハンマ24の凸部がアンビル30の凸部に係合してアンビル30を回転させるが、そのときの係合反力によってスピンドル27とハンマ24との間に相対回転が生ずると、ハンマ24はカム機構のスピンドルカム溝25に沿ってスプリング23を圧縮しながらモータ3側へと後退を始める。そして、ハンマ24の後退動によってハンマ24の凸部がアンビル30の凸部を乗り越えて両者の係合が解除されると、ハンマ24は、スピンドル27の回転力に加え、スプリング23に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向及び前方に急速に加速されつつ、スプリング23の付勢力によって前方へ移動し、その凸部がアンビル30の凸部に再び係合して一体に回転し始める。このとき、強力な回転打撃力がアンビル30に加えられるため、アンビル30の取付穴30aに装着される図示しない先端工具を介してねじに回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具からねじに回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、ねじが木材等の図示しない被締め付け部材にねじ込まれる。
【0025】
図2は、本発明の実施例に係るインパクト工具1の外観を示す側面図である。
図2において、ハウジング2の胴体部2aのインバータ回路基板12の外周側には、吸気用のスリット17bが形成され、ロータファン13の外周部には、スリット18が形成される。ハウジング2の前方側には金属製であってカップ状に形成されたハンマケース15が設けられる。ハンマケース15は、内部に減速機構20とインパクト機構21を収容するものであって、カップの底部にあたる前方部分にはアンビル30を貫通させるための穴が形成される。ハンマケース15の外側に装着機構31が設けられる。
【0026】
図3は本発明の実施例に係るインパクト工具1の概略ブロック図である。本実施例では電源として二次電池で構成されたバッテリ11を用い、駆動源たるモータ3としてブラシレスDCモータを用いた。ブラシレスDCモータを制御するために制御手段39を用いて複数の半導体スイッチング素子により構成されるインバータ回路38を駆動する。制御手段39はバッテリ11の電力を用いて電源回路37にて生成された低電圧により駆動される。インバータ回路38からモータ3へは3本の電力線が接続され、インバータ回路38にて所定の相へ駆動電流を供給することによりモータ3を回転させる。モータ3の出力は減速機構20に伝達され、減速機構20によって減速された回転力によってインパクト機構21を駆動する。制御手段39によってモータ3を駆動するために、モータ3の近傍にはロータ5の位置検出用の信号を生成するための位置検出素子(ホールIC)33が設けられ、位置検出素子33の出力が制御手段39に入力される。制御手段39には、正逆切替レバー10の信号と、トリガ8の信号が入力される。また、モータ3を駆動するモータとして第1の設定手段87と第2の設定手段86が設けられる。第1の設定手段87では、インパクトモードとしてモータの回転数を設定して締め付けトルクを4段階に分けた4つの動作モードを設定できる。また、テックスねじを締め付けるための1つのテックスモードを設定できる。第2の設定手段53では、通常モードとねじ込みモードを設定できる。第1の設定手段54と第2の設定手段53は、例えば操作パネル55(
図1参照)に設けることができる。
【0027】
次に、
図4を用いてモータ3の駆動制御系の構成と作用を説明する。
図3はモータの駆動制御系の構成を示すブロック図であり、本実施例では、モータ3は3相のブラシレスDCモータで構成される。モータ3は、いわゆるインナーロータ型で、一対のN極およびS極を含むマグネット5a(永久磁石)を埋め込んで構成されたロータ5と、ロータ5の回転位置を検出するために60°毎に配置された3つの位置検出素子33と、位置検出素子33からの位置検出信号に基づいて電気角120°の電流の通電区間に制御されるスター結線された3相巻線U、V、Wからなるステータ4を含んで構成される。
【0028】
インバータ回路基板12に搭載されるインバータ回路38は、3相ブリッジ形式に接続された6個のFET(以下、単に「トランジスタ」という。)Q1〜Q6と、フライホイールダイオード(図示なし)から構成され、インバータ回路基板12に搭載される。温度検出用素子(サーミスタ)34は、インバータ回路基板12上のトランジスタに近接する位置に固定される。ブリッジ接続された6個のトランジスタQ1〜Q6の各ゲートは制御信号出力回路48に接続され、また、6個のトランジスタQ1〜Q6のソースまたはドレインはスター結線された電機子巻線U、VおよびWに接続される。これによって、6個のトランジスタQ1〜Q6は、制御信号出力回路48から出力されたスイッチング素子駆動信号によってスイッチング動作を行い、インバータ回路に印加されるバッテリ11の直流電圧を、3相(U相、V相、W相)交流電圧Vu、Vv、Vwとして、電機子巻線U、V、Wへ電力を供給する。
【0029】
制御回路基板9には、演算部40、電流検出回路41、スイッチ操作検出回路42、印加電圧設定回路43、回転方向設定回路44、回転子位置検出回路45、回転数検出回路46、温度検出回路47、制御信号出力回路48、及び打撃衝撃検出回路49が搭載される。演算部40は、図示されていないが、処理プログラムとデータに基づいて駆動信号を出力するためのCPUと、後述するフローチャートに相当するプログラムや制御データを記憶するためのROMと、データを一時記憶するためのRAMと、タイマ等を内蔵するマイコンを含んで構成される。電流検出回路41はシャント抵抗32の両端電圧を測定することによりモータ3に流れる電流を検出する電圧検出手段であって、検出電流は演算部40に入力される。本実施例ではシャント抵抗32をバッテリ11とインバータ回路38の間に設けて半導体スイッチング素子に流れる電流値を検出する方式であるが、シャント抵抗をインバータ回路38とモータ3の間に設けてモータ3に流れる電流値を検出するようにしても良い。
【0030】
スイッチ操作検出回路42はトリガ8が引かれているかどうかを検出するもので、少しでも引かれていればオン信号を演算部40に出力する。印加電圧設定回路43は、トリガ8の移動ストロークに応答してモータ3の印加電圧、すなわちPWM信号のデューティ比を設定するための回路である。回転方向設定回路44は、モータの正逆切替レバー10による正方向回転または逆方向回転の操作を検出してモータ3の回転方向を設定するための回路である。回転子位置検出回路45は、3つの位置検出素子33の出力信号に基づいてロータ5とステータ4の電機子巻線U、V、Wとの関係位置を検出するための回路である。回転数検出回路46は、単位時間内にカウントされる回転子位置検出回路45からの検出信号の数に基づいてモータの回転数を検出する回路である。制御信号出力回路48は、演算部40からの出力に基づいてトランジスタQ1〜Q6にPWM信号を供給する。PWM信号のパルス幅の制御によって各電機子巻線U、V、Wへ供給する電力を調整して設定した回転方向へのモータ3の回転数を制御することができる。打撃衝撃検出回路49は、打撃衝撃検出センサ50からの検出信号を元にインパクト機構21によって打撃が行われた時点やそのトルクの大きさを検出する。尚、打撃衝撃検出センサ50の代わりに、又は打撃衝撃検出センサ50に加えてジャイロセンサ(図示せず)やその他の任意のセンサを設けても良い。
【0031】
演算部40には動作モードを切り換えるためのダイヤルスイッチ53の出力信号と、トルク値(又はモータの回転数)を設定するためのトルク切替スイッチ54の出力信号が入力される。演算部40はさらに、先端工具付近を照らすためのLED等の照明手段51の点灯を制御する。この点灯は図示しない点灯スイッチが押されたかどうかを演算部40により判定して点灯を制御するようにしても良いし、トリガ8の引かれた動作に連動させて点灯させるようにしても良い。表示手段52は、設定トルク値の強さや電池残量、その他の情報を表示するためのもので、光学的な手段により情報を表示する。本実施例では複数のLEDや、7又はそれ以上のセグメントにより数字とアルファベットが表示可能なLED表示器、あるいは液晶表示器などを用いることができる。
【0032】
次に
図5を用いて本実施例に係るインパクト工具1のデューティ比の制御方法を説明する。従来のブラシレスDCモータを用いるインパクトドライバにおいては、時刻t=0において作業者がトリガ8をONにして(引いて)モータ3の回転が開始されてからは、全区間においてデューティ比の上限値(トリガをいっぱいに引いたときのデューティ比の設定値)を100%として制御し、モータの回転数158は2点鎖線に示すように一定であった(実際には負荷の変動によって変動があり得るが、ここでは考慮しないものとする)。そして時刻t
2において作業者がトリガをOFFとする(離す)とモータ3の回転が停止する。これに対して本実施例では、時刻t=0において作業者がトリガ8を引いてモータ3の回転が開始されるまでデューティ比の上限値を100%としてモータ3を全速で駆動する。そして、インパクト動作が1〜複数回行われて締め付け対象たるねじやボルトが着座したと判断された後に、時刻t
1においてデューティ比を大幅に下げて低デューティ比により制御する。このような制御によりモータ3の回転数はN
maxとなり、矢印58aから58bの区間までほぼ一定に制御される。その後、矢印58cのようにモータの回転数58を大幅に低下させて、矢印58cのように制御し、作業者によりトリガ8が離されるまでモータ3を低速にて回転させる。モータ3の回転数は矢印58cから58dのように負荷の増加に伴って徐々に低下する。
【0033】
本実施例では、同じ電圧、同じ容量のバッテリ11を使うものの、モータ3の出力を従来使用するタイプよりも高出力のものを使用する。例えば、従来用いていたモータと外寸やステータ4のコア部分、ロータ5部分は同一形状としつつ、巻線4aの巻き数をへらして、その代わり巻線4aの線径を太くすることにより、巻線4aに大電流を流せるように構成し、モータ3の回転数をあげて出力を増大させた。一方、このように出力を増大させたままで従来のモータ制御(デューティ比を100%のままトリガオフまで連続駆動)すると、温度上昇が過大となって熱的に厳しくなってしまうこと、着座後の作業者によるトリガオフのタイミングが遅れてしまうとモータ3やインパクト機構21等のメカ部分への負荷が大きくなってしまうことから好ましくない。しかしながら、本願発明においては、そのようなハイパワーのモータ3を敢えて採用して、複数回の打撃が行われて着座がおこなれたと判断される時点(時刻t
1)までは全速(高速)にてモータ3を駆動することにより、従来方法に対して矢印59aのように負荷が軽い領域での回転数を上昇させ、一方、時刻t
1以降において打撃を繰り返す領域での回転数を矢印59bのように大きく低下させることにより、モータ3やメカ部分への負荷を低減させるようにした。このように制御することにより、高出力のモータを用いて、短時間で締め付けを完了させることができ、しかもモータやメカ部分の耐久性を向上させることができる。
【0034】
図6は、インパクトモードでのデューティ比の設定方法を説明する図であって、(1)が従来技術における設定方法、(2)が本実施例における設定方法である。双方の図において、縦軸はモータ3のデューティ比の上限値であり、横軸は時間である。本実施例で前提となるインパクト工具1は、インパクト動作としてモード1〜モード4までの4つのモードが設定される。これらは操作パネル55に設けられたトルク切替スイッチ54を押す毎に切り替わるもので、モードを切り換えることによりモータの回転数が切り替わる。例えば、締め付けトルクが一番小さいモード1(弱1)の時にはトリガ8をいっぱいに引いた状態でモータ3が900回転/分、モード2(弱2)の時の回転数が1500回転/分、モード3(中)の時の回転数が2200回転/分、そして締め付けトルクが一番大きいモード4(強)の時の回転数が2900回転/分である。このようにモータ3の回転数を設定するため、矢印161〜164のように制御手段はデューティ比をD
1〜D
4に設定する。ここでデューティ比D
4は100%である。D
1〜D
4のデューティ比(最大値)は一定で有り、例えばモード3においてはトリガ8の引き量に応じて矢印165のようにデューティ比が0からD
3の範囲内で設定される。ここで作業者がトリガ8をフルに引いた状態でモータ3を回転させると、着座が行われる付近から時刻t
1を越えた後も同じデューティ比において一定の制御がされる。このような制御を行うために、従来のインパクト工具においては矢印161のようにデューティ比100%にてモータ3を連続駆動させても、熱的にも機械的な強度的にも問題が無いような定格のモータ3を選定していた。
【0035】
本実施例では
図6(2)のように、少なくとも着座に到達するまで、ここでは時刻t
1まではモード1〜4のいずれのモードにおいても、デューティ比を100%としてモータ3を最高速で駆動するように構成した。時刻0から時刻t
1までは、いずれのモードが設定されていてもトリガ8の引き量に応じて矢印65のようにデューティ比が0から100%の範囲で調整される。一方、時刻t
1になったら、設定モードに応じて矢印61〜64で示すようにデューティ比をD
1〜D
4のいずれかに低減させるように構成した。ここではD
4を60%程度として、D
1〜D
3をそれぞれ15%、30%、45%に設定した。尚、D
4をどの程度まで下げるように制御するのかは任意であり、低いデューティ比の最大(ここではD
4)を100%よりも1割以上低下させると良く、70%以下くらいに制御すると大きな効果が得られる。
図6(2)では、モード3においてはトリガ8の引き量に応じて矢印66のようにデューティ比が0からD
3の範囲で調整される。本実施例においてはインパクトモードで駆動する場合は、モード1〜4のいずれのモードを設定しているかに関係なく、時刻t
1まではフルパワーで制御し、時刻t
1以降は各モード値に応じて最大デューティ値を変更するように構成したので、従来よりもはるかに高出力高回転のモータを用いて迅速に締め付け作業を完了させることができるようになった。尚、高デューティ比をすべて100%とするのではなく、それぞれのモードにおいて高デューティ比と低デューティの組み合わせを持たせるように設定しても良い。例えば、高デューティ比と低デューティ比の関係が、モード4では100%と60%、モード3では90%と45%、モード2では60%と30%、モード1では30%と15%というように、それぞれのモードにおいて高デューティ比と高デューティ比を設けても良い。また、別の制御方法として、時刻0〜t
1までの間の区間においては、トリガの引き量が一定以上、例えば半分以上であったら演算部40がデューティ比を100%に固定して全速で制御するようにしても良い。
【0036】
図7(1)は本発明の実施例のインパクト工具における先端回転数とモータ電流値、PWM駆動信号のデューティ比の関係を示すグラフであり、全速のボルト締め付け動作時の状態を示す図である。
図7(2)はそのときの打撃トルクの大きさを示す図である。
図5及び
図6で説明したように本実施例においては、いずれの動作モードにかかわらずに、着座してから所定の打撃がすむまではデューティ比100%の最高回転数にてモータ3を回転させて高速で先端工具を回転させ、所定の打撃トルクに到達した時点たる時刻t
1の時点でデューティ比を100%から設定モード毎のデューティ比に低減させるように制御する。このように制御するときの出力軸の回転数71(=先端工具の回転数)は矢印71aのフリーランにおけるほぼ一定の回転数から、矢印71bのように着座前後においては急激な回転低下まで変化する。このように出力軸の回転数71が低下するのはインパクト機構21においてハンマ24が後退して打撃動作が開始されるからである。電流検出回路41(
図4参照)によって検出される電流値72は、矢印72a付近のフリーラン区間においてはほぼ一定で有り徐々に上昇する程度であるが、ボルトやねじの着座付近においては先端工具から受ける反力(負荷)の急上昇により矢印72bのように急激に上昇する。そして矢印72cの時点で、電流値72が閾値I
1を越えたらデューティ比を100%から動作モードに対応させた所定の値に低減させる。時刻t
1以降の回転数71は負荷の増大から矢印71cから矢印71dにまで低下し、作業者が時刻t
2においてトリガ8を離すことによりモータ3が停止する。一方、モータ3に流れる電流値は矢印72dのように徐々に上昇するが、デューティ比を大幅に下げていることから第1の閾値I
1を越えることはないので、過大な電流が流れることによるインバータ回路やモータ3の発熱を防止することができる。
【0037】
図7(2)は(1)の状態の際の打撃トルクの大きさを示した図である。横軸の時間軸を(1)と(2)で合わせて図示している。また、打撃の行われるタイミングのうちいくつかを三角マークにて図示している。三角マークは代表的なものしか図示していないが、最初の三角マーク(矢印73a)から最後の三角マーク73fまで複数回の打撃が続けて行われるものである。この図から理解できるように、矢印73a付近でインパクト機構21による打撃動作が開始される。本実施例のインパクト工具1においては毎秒10〜30打撃程度が行われる。打撃が開始した矢印73a時点では設定されたデューティ比は100%であり、複数回の打撃を行ううちに電流値72の上昇率が大きくなり、電流がI
1以上になると着座が完了したと判断してデューティを下げるように制御する。ここでは時刻t
1において行われる矢印73bの打撃が、設定された動作モードにおける締め付けトルク値T
Nになるように、閾値I
1の値が設定される。閾値I
1は動作モード毎に設定され、製品開発時に実験等によって最適値を設定してあらかじめマイコン等に記憶させておくと良い。時刻t
1以降はデューティ比が低い状態とされるが、それでも矢印73d、73eのように十分な大きさの打撃トルクが発生するので、ねじやボルト等を確実に締め付けることが可能となる。作業者がトリガ8を離す時刻t
2における矢印73fで示す打撃トルク値は、矢印73bの締め付けトルク値を越えることがないように低減するデューティ比の値を設定すれば良い。尚、各モードにおける低減するデューティ比の値も、製品開発時に実験等によって最適値を設定してあらかじめマイコン等に記憶させておくと良い。
【0038】
次に、
図8を用いて固定済みのボルトを2度締めする場合における出力軸回転数とモータ電流、PWM駆動信号のデューティ比の関係を説明する。
図4〜
図7で説明したようにフリーラン期間においてモータ3を最高速度で駆動するように制御すると、作業者が締め付け済みのボルトやねじ等を何らかの理由で2度締めしようとすると、ボルトやねじの頭を破損したり、またはモータやメカ部に過大な力が掛かり好ましくない。そこで、本実施例のインパクト工具1においては第1の閾値I
1よりも大きい第2の電流値I
2を設定して、2度締め状態を早期に検出して、検出された場合にはすかさずデューティ比を低減させるように制御する。ここでは2度締めを検出するための検出区間を設定するための時間窓(ここではトリガ起動から時刻Tまでの間)を設定し、その時間窓内においては第1の閾値I
1の代わりに第2の閾値I
2によってデューティ比を低減させるタイミングを決定するようにした。時刻Tが過ぎたら第1の電流値I
1によってデューティ比を低減させるタイミングを切り換えるように制御する。時刻t=0において作業者がトリガを引くと、締め付け対象のボルトが締め付け済みであるため、先端工具の回転数が矢印81aのように急激に低下するとともに、負荷が大きいため電流値82が矢印82aのように急激に増大し、矢印82bの時点で第2の閾値I
2に到達する。そこで、それまで100%だったデューティ比を低いデューティ値に変更するように制御した。そして作業者がトリガをオフにしたらモータ3が停止するが、デューティを低下させた後の電流値82は第1の閾値I
1よりも十分低いため、第1の閾値I
1を越えることはない。このようにトリガを引いてから所定の時間窓だけは2度締め検出用の第2の閾値I
2を用いるようにし、時間窓を過ぎたあとは
図4〜
図7で説明した方法を採用するようにしたので、通常のねじやボルト締めでも、何らかの理由によって2度締めを試みてしまった場合でも、モータを損傷することを効果的に防止できる。
【0039】
次に
図9のフローチャートを用いて、本発明の実施例にインパクト工具1のモータ制御用のデューティ比の設定手順について説明する。
図9で示す制御手順は、例えば、マイクロプロセッサを有する演算部40においてコンピュータプログラムを実行することによりソフトウェア的に実現できる。まず、演算部40は作業者によってトリガ(TR)8が引かれてONになったか否かを検出し、引かれたらステップ502に進む(ステップ501)。次に、演算部40はトリガ8の引き量が最大量、つまり全速となる全速域であるかどうかを判定する(ステップ502)。ステップ502において全速域でない場合、例えばトリガ8を半分程度しか引いていない場合は、トリガの引き量に応じた、通常のデューティ比制御を行う(ステップ511)。例えばトリガの引き量が半分ならデューティ比を半分とするなど、引き量とデューティ比の値を比例または所定の関係式にて対応づけるようにすれば良い。次にステップ512にてトリガ8がオンのままで有るかを検出し、トリガ8が戻されたらステップ501に戻り、戻されていなかったらステップ511に戻る。
【0040】
ステップ502において、トリガ8の引き量が最大、つまり全速域である場合は演算部40はデューティ比を100%にしてモータ3を駆動する(ステップ503)。次に演算部40は電流検出回路41(
図4参照)により検出された電流値が第2の閾値I
2以上であるかを判定する(ステップ504)。ここで電流値が第2の閾値I
2以上である場合は
図8で説明した2度締めに相当するので、デューティ値を100%から低い値に変更して、トリガの引き量に応じた低デューティ比(3)の制御を行う(ステップ509)。尚、低デューティ比(3)は
図6(2)で示した低デューティ比(2)と同様にモード毎に異なるように設定すれば良い。また、低デューティ比(2)と低デューティ比(3)は同一でなく異なるように、好ましくは低デューティ比(3)が低デューティ比(2)よりも更に低いデューティ比となるように制御すれば良い。次にステップ510にてトリガ8がオンのままで有るかを検出し、トリガ8が戻されたらステップ501に戻り、戻されていなかったらステップ509に戻る。
【0041】
ステップ504において、電流検出回路41(
図4参照)により検出された電流値が第2の閾値I
2未満と判定されたら、2度締めを検出するための検出区間を設定するための時間窓内、つまり所定時間Tが経過する前であるか否かを判定し、経過していなかったらステップ501に戻る(ステップ505)。ステップ505において所定時間Tが経過したら、電流値が第1の閾値I
1以上であるかを判定し、閾値I
1未満の場合はステップ501に戻る(ステップ506)。ここで電流値が第1の閾値I
1以上である場合は
図6(2)で説明したようにデューティ値を100%から低い値に変更して、トリガの引き量に応じた低デューティ比(2)の制御を行う(ステップ507)。次にステップ508にてトリガ8がオンのままで有るかを検出し、トリガ8が戻されたらステップ501に戻り、戻されていなかったらステップ507に戻る。
【0042】
以上説明したように本実施例の制御によれば、無負荷回転数を高くしたモータでインパクトが離脱トルクに達して打撃を開始する時点までは高速で回転(デューティ比100%)させ、複数回の打撃が継続したと判断されたら、高いデューティ比から低いデューティ比に下げるように制御するので、過剰締め付けを防止でき、モータの温度上昇を抑えて素早い締め付けを完了させることができるインパクト工具を実現できる。また、ねじに砂がかみこんだ場合などに瞬間的にトルクが高くなり1回だけ打撃するという状況がおこるが、仮に電流値が初回打撃相当値以上となっただけですぐにデューティ比を下げる制御を行うと、砂がかんだ場合に1回だけ打撃した後にすぐにデューティ比が下がり、それ以降のねじ締めが遅くなってしまう。本発明によれば複数回の打撃が継続したことによりトルクの高い状態でのねじ締めが継続していると判断される状態で初めてデューティ比を下げるので、締め付け不足の問題を解決することができる。
【0043】
本実施例においては、高デューティ比から低デューティ比への切り換えタイミングを、電流値72の大きさによって切り換えるようにしたが、これだけに限られずに
図7(1)の矢印72b付近の電流値72の単位時間当たりの上昇率を監視し、この上昇率が所定の時間だけ継続して高い状態を維持するようになったら高デューティ比から低デューティ比への切り換えるように構成しても良い。このように構成すれば、トルクの高い状態でねじが継続して締め付けられていることが確認できる。この電流値72の上昇率を監視方法は、短い時間間隔毎に検出された電流値の微分値を演算により求める等、公知の電流上昇率監視方法によって実現すれば良い。また、電動工具に締め付けトルク値の大きさを検出するトルクセンサを用いるようにして、締め付け具が着座した状態を正確に検出して、着座をしたことを確認した後にデューティ比を下げるように構成しても良い。このように、着座するまでは高いデューティで締め続けているのでフリーランの状態から着座した瞬間に高いトルクまで締め付けることができる。そしてその後にデューティ比を下げて締め付けを継続することで、締付トルクが一定の値に近づくことになりねじ毎の締付トルクのばらつきを抑えることができる。
【実施例2】
【0044】
次に
図10及び
図11を用いて本発明の第2の実施例について説明する。第1の実施例において複数回の打撃が行われるまで高デューティ比で制御すると、木ねじ等の初期締め付け等の作業において、モータの回転数が速すぎて使いにくくなる恐れがある。そこで第2の実施例においては、木ねじ等で最初に相手材たる木材等に木ねじを確実に食い込ませるように制御する「ねじ込みモード」による制御方法を実現した。第2の実施例においては、作業者がトリガ8の引き量を小さくしている場合に、回転数が低速でほぼ一定速となるように制御して、ねじ倒れを防止して確実に木ねじを食い込ませるようにしたものである。
図10は本発明の第2の実施例に係る先端工具の回転数、モータ電流、PWM駆動信号のデューティ比の関係を示すグラフである。
【0045】
図10において、モード切替スイッチによりねじ込みモードを選択すると、木ねじ等の先端が木などの相手材に安定して食い込むまでは低速にて制限された回転数により駆動される。ここでは時刻0において作業者がトリガをオンにして、時刻t
3に至るまでの短い期間において、2つのモードのいずれかで回転数を制御する。一つはトリガの引き量に連動させる制御モードで、その際の回転数101は一定になる。ここでは、デューティ比を十分小さく設定して、仮にトリガを一杯に引いた場合であってもその上限が
図10の回転数101の範囲となるように制限してトリガ8の引き量に応じて制御する。ここでは出力軸たるアンビルが1〜100rpm程度の極低速が望ましく、その際のデューティ比は10%以下であって、好ましくは5%以下であると良い。本実施例ではモータ3の出力を従来よりも大きくしていることもあり、この際のデューティ比は1%前後である。このように時刻0からt
3においてはトリガ8の引き量に応じて定速回転させる回転数を設定するものの、デューティ比が極めて低くするので作業者はモータ3を低速にて回転制御できる。
【0046】
もう一つの制御は、トリガ8がわずかにでも引かれたらデューティ比を固定量に設定して回転数102によって極低速にて一定回転とするようにした。ここでは演算部40はモータ3の回転数を50rpmに固定して、作業者のトリガ引き量が少々変動しても固定回転数を保つように制御する。このようにして電流値105が矢印105aより徐々に増加して、時刻t
3において第4の電流閾値I4を越えたら通常のデューティ制御に切り換え、トリガ8の引き量に応じたモータの回転制御を行う。所定の条件に達した時、デューティ比を第1の実施例で説明した通常の回転領域での制御に切り替えて締め付けを継続する。以上のように、ねじ込みモードを設けて、ねじ込み初期の段階でモータ3を低速にて一定回転で制御することにより作業者は安定してねじ込みを行うことができる。
【0047】
時刻t
4以降でに通常モードでータを回転させると、回転数103は矢印103aのように上昇して、矢印103bで安定し、締め付けが完了する頃に矢印103cのように回転数が減少する。このときの電流値105は、矢印105bを越えたらしばらくほぼ一定であるが、締め付けが完了するころに矢印105cで急激に増大する。次に、第2の実施例のインパクト工具1を用いて木ねじを締め付ける際のデューティ比の設定手順を
図11のフローチャートを用いて説明する。まず、演算部40は作業者によってトリガ8が引かれてONになったか否かを検出し、引かれたらステップ702に進む(ステップ701)。次に、演算部40はトリガ8の引き量が極少ない領域の範囲かどうかを判定する。これは、第3の閾値I
3以上で、第4の閾値I
4未満であるか否かを判定する(ステップ702、703)。ここで電流値がI
3以上I
4未満の場合は、次にトリガの引き量が50%以上であるかどうかを判定する(ステップ704)。ここで、トリガの引き量が50%以上で有る場合は、木ねじ等を食い込ませるような締め付け作業で無く、ボルト等のねじ込み作業であると判断して、
図6〜
図8で説明したような通常のデューティ制御を行う(ステップ704、706)。ステップ704においてトリガ8の引き量が50%未満の場合は、
図10の回転数101又は102で示すような低速定回転数制御を行う。以上のように、演算部40は作業者によるトリガ8の引き量を判定することにより、木ねじ等のねじ込み作業を自動的に検出してそれに合わせた最適な締め付け制御を行うことができる。尚、
図7のフローチャートでは、第3及び第4の閾値I
3、I
4とトリガ8の引き量を元に演算部40がねじ込みモードを自動的に検出するようにしたが、自動検出で無くてダイヤル等で「ねじ込みモード」を手動で設定するように構成しても良い。
【0048】
以上説明したように第2の実施例によれば、インパクト工具だけでなくドライバドリルのようなねじ締め工具の全般にも適用でき、ねじ込みモードを設けたことにより締め付け初期段階において締め付け具を被締め付けに正確に位置合わせをすることが可能となります。また、セーバソーのように切断の初期に刃を切断箇所に位置合わせする必要がある切断工具全般にも第2の実施例の考えは適用可能である。さらに、切削工具において切削の初期に砥石等の先端工具を切削箇所に位置合わせするような作業の場合は、同様に適用可能である。
【0049】
本実施例によれば複数の電流閾値(ここではI
3<I
4<I
1<I
2)を用いてデューティ比を最適に切り換えながら作業を行うように構成したので、高出力のモータを用いて精度良く締め付け作業を行うことができる。また、フリーラン部分は高いデューティ比で素早く回転させるので、締め付け時間の短縮化を図ることができる。さらに、木ねじ等の最初の部分の締め付けを行う「ねじ込みモード」を設けたので、木ねじ等の締め付け初期の回転制御を演算部40により安定して行うことができるので、初期の食い込みがうまくいかずに木ねじが倒れてしまう現象を大幅に減らすことができる。
【0050】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例ではバッテリで駆動されるインパクト工具の例を用いて説明したが、本発明はコードレスタイプの工具に限られず、商用電源を用いたインパクト工具であっても同様に適用できる。また、トリガを引き始めてから引き終えるまでの間に、トリガの引き量と設定デューティ比の関係を変更するようにする制御は、PWM制御によってブラシレスモータを駆動する電動工具、例えばドライバドリル、いわゆる電子パルス方式のインパクトドライバ等に同様に適用することができる。