特許第6044754号(P6044754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044754
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】クラッチプレートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/62 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   F16D13/62 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-8965(P2012-8965)
(22)【出願日】2012年1月19日
(65)【公開番号】特開2013-148156(P2013-148156A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 淳二
(72)【発明者】
【氏名】志村 達樹
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−250364(JP,A)
【文献】 実開平02−029331(JP,U)
【文献】 実開昭60−045930(JP,U)
【文献】 特開2003−028218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端面および軸方向他端面の両端面に複数の溝からなる潤滑溝が形成され、前記軸方向に貫通した複数の窓を有する環状のクラッチプレートであって、
前記潤滑溝は、塑性変形を伴って前記両端面に同位相に形成され、前記両端面の外周縁および内周縁にまで延在し、前記溝同士が接する交点を複数備え、
前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁、前記窓の径方向外側縁、前記窓の径方向内側縁、および、前記内周縁のうち少なくとも1つの縁には、全周に亘って前記交点が存在しないクラッチプレート。
【請求項2】
請求項1において、
前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁には、全周に亘って前記交点が存在しないクラッチプレート。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記外周縁または前記内周縁には、スプラインが形成されており、
前記両端面それぞれにおいて、前記スプラインの縁には、全周に亘って前記交点が存在しないクラッチプレート。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁、前記窓の径方向外側縁、前記窓の径方向内側縁、および、前記内周縁には、全周に亘って前記交点が存在しないクラッチプレート。
【請求項5】
軸方向一端面および軸方向他端面の両端面に複数の溝からなる潤滑溝が形成された環状のクラッチプレートであって、
前記潤滑溝は、塑性変形を伴って前記両端面に同位相に形成され、前記両端面の外周縁および内周縁まで延在し、前記溝同士が接する交点を複数備え、
前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁および前記内周縁の少なくとも一方には、全周に亘って前記交点が存在しないクラッチプレート。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載のクラッチプレートの製造方法であって、
軸方向一端面および軸方向他端面の両端面に複数の溝からなる潤滑溝をプレス加工により形成する溝押し工程と、外形を形成する抜き工程と、を含み
記溝押し工程では、前記潤滑溝を、前記両端面に同位相に形成するとともに、前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁、前記窓の径方向外側縁、前記窓の径方向内側縁、および、前記内周縁のうちの少なくとも1つの縁に、全周に亘って前記交点が存在しないように形成するクラッチプレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチプレートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、駆動側のクラッチプレートと従動側のクラッチプレートとを摩擦係合させることで動力伝達を行う摩擦クラッチが知られている。また、円弧状の貫通穴である窓が複数形成されたクラッチプレートを用いる電磁式の摩擦クラッチも知られている。窓は磁気回路形成のために必要となる。電磁式の摩擦クラッチは、例えば特開平11−303911号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
また、電磁式摩擦クラッチが用いられる電子制御4WDカップリング(ITCC(登録商標))については、例えば特開2002−213485号公報(特許文献2)にも記載されている。
【0004】
クラッチプレートの軸方向両端面には、プレート同士の摩擦係合時に、潤滑油を保持するとともにプレート間から逃がすための潤滑溝が形成されている。潤滑溝は、摺動面に全体的に形成され、複数の溝からなり、溝同士が接する交点を複数備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−303911号公報
【特許文献2】特開2002−213485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、潤滑溝形成にあたって、潤滑溝を、塑性変形を伴って形成し、且つ軸方向の両端面で同位相に形成する新たな方法が考えられる。この新たな方法によれば、同位相に形成することで平押し工程を省くことができ、例えば溝押し工程や抜き工程を並列的に一度で行う順送プレス加工でクラッチプレートを製造することができる。
【0007】
具体的には、順送プレス加工は、図8に示すように、1枚の磁性体金属板Mに対し、1回のプレスで、仮抜き工程、溝押し工程、および姿抜き工程で行われる加工を並列的に実行するものである。順送プレス加工をクラッチプレートの製造に適用した新製法により、プレス費用の削減が可能となる。
【0008】
しかしながら、製造工程において、軸方向両端面に、同位相で且つ塑性変形を伴って潤滑溝を形成すると、溝の底部分が両面から圧縮応力を受けて加工硬化する。この加工硬化によりクラッチプレートの縁における溝形成部分は脆くなりやすい。特に、溝が接する交点には応力が集中し、製造中にクラッチプレートの縁に欠けが起こるおそれがある。例えば、欠けが起きて欠けた部分がプレス型に残ると、次のプレス時に傷や打痕が生じ、型寿命が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、欠けの発生を抑制し、製造コストの低減を可能とするクラッチプレートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(請求項1)本発明に係るクラッチプレートは、軸方向一端面および軸方向他端面の両端面に複数の溝からなる潤滑溝が形成され、前記軸方向に貫通した複数の窓を有する環状のクラッチプレートであって、前記潤滑溝は、塑性変形を伴って前記両端面に同位相に形成され、前記両端面の外周縁および内周縁にまで延在し、前記溝同士が接する交点を複数備え、前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁、前記窓の径方向外側縁、前記窓の径方向内側縁、および、前記内周縁のうち少なくとも1つの縁には、全周に亘って前記交点が存在しない。
【0011】
(請求項2)また、前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁には、全周に亘って前記交点が存在しないことが好ましい。
【0012】
(請求項3)また、前記外周縁または前記内周縁には、スプラインが形成されており、前記両端面それぞれにおいて、前記スプラインの縁には、全周に亘って前記交点が存在しなくてもよい。
【0013】
(請求項4)また、前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁、前記窓の径方向外側縁、前記窓の径方向内側縁、および、前記内周縁には、全周に亘って前記交点が存在しないことが好ましい。
【0014】
(請求項5)また、本発明に係るクラッチプレートは、軸方向一端面および軸方向他端面の両端面に複数の溝からなる潤滑溝が形成された環状のクラッチプレートであって、前記潤滑溝は、塑性変形を伴って前記両端面に同位相に形成され、前記両端面の外周縁および内周縁まで延在し、前記溝同士が接する交点を複数備え、前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁および前記内周縁の少なくとも一方には、全周に亘って前記交点が存在しない。
【0015】
(請求項6)また、本発明に係るクラッチプレートの製造方法は、軸方向一端面および軸方向他端面の両端面に複数の溝からなる潤滑溝をプレス加工により形成する溝押し工程と、外形を形成する抜き工程と、を含み、前記潤滑溝が前記両端面の外周縁および内周縁まで延在するとともに前記溝同士が接する交点を複数備える環状のクラッチプレートの製造方法であって、前記溝押し工程では、前記潤滑溝を、前記両端面に同位相に形成するとともに、前記両端面それぞれにおいて、前記外周縁、前記窓の径方向外側縁、前記窓の径方向内側縁、および、前記内周縁のうちの少なくとも1つの縁に、全周に亘って前記交点が存在しないように形成する。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1)本発明によれば、潤滑溝の交点は、両端面において、外周縁、窓の径方向外側縁、窓の径方向内側縁、および、内周縁の少なくとも1つに存在しない。これにより、潤滑溝を両端面で同位相に形成したクラッチプレートにおいて、少なくとも交点がない縁において欠けの発生は抑制される。クラッチプレート全体として欠けの発生を抑制することができる。
【0017】
(請求項2)また、外周縁は、周方向の長さが最も長く、交点が存在すると比較的欠けが発生しやすい部位となる。潤滑溝の交点が少なくとも外周縁には存在しない構成によれば、少なくとも外周縁での欠けの発生は抑制され、全体として欠けの発生はより抑制される。
【0018】
(請求項3)また、少なくともスプラインの縁に交点が存在しない構成もある。スプライン等の複雑な形状の部位は、製造時に応力が一定に加わらず、欠けを生じる可能性が高くなる。本構成によれば、少なくともスプラインの縁に交点がないため、欠けの発生はより抑制される。
【0019】
(請求項4)また、両端面におけるすべての縁で交点が存在しない構成もある。この構成により、欠けの発生はさらに抑制される。
【0020】
(請求項5)また、窓がないクラッチプレートにおいて、外周縁および内周縁の少なくとも一方に交点が存在しない構成がある。この構成により、欠けの発生は抑制される。
【0021】
(請求項6)また、同位相で且つ塑性変形を伴う加工により形成される潤滑溝について、その交点が少なくとも1つの縁に存在しないように、クラッチプレートを形成することができる。これにより、欠けの発生が抑制される。また、同位相に潤滑溝を形成することで、平押し工程を省略し、順送プレス加工による製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態のクラッチプレート1を示す正面図である。
図2】本実施形態のクラッチプレート1を示す部分拡大図である。
図3】本実施形態のクラッチプレート1の製造工程を示す工程図である。
図4】本実施形態のクラッチプレート1の製造方法を説明するための模式断面図である。
図5】本実施形態のクラッチプレート1の変形態様を示す正面図である。
図6】四輪駆動車を説明するための説明図である。
図7】電子制御4WDカップリングを示す部分断面図である。
図8】順送プレス加工を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、好ましい実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。本実施形態では、本発明のクラッチプレートを、電子制御4WDカップリング(以下、駆動力伝達装置と称する)のパイロットクラッチ機構のクラッチプレートとして用いた場合を一例として挙げる。
【0024】
(駆動力伝達装置)
ここで、図6および図7を参照して、駆動力伝達装置91について説明する。まず、四輪駆動車90は、図6に示すように、主に、駆動力伝達装置91と、トランスアクスル92と、エンジン93と、一対の前輪94と、一対の後輪95と、を備えている。エンジン93の駆動力は、トランスアクスル92を介してアクスルシャフト81に出力され、前輪94を駆動する。
【0025】
また、トランスアクスル92は、プロペラシャフト82を介して駆動力伝達装置91に連結されている。そして、駆動力伝達装置91は、ドライブピニオンシャフト83を介してリヤデファレンシャル84に連結されている。リヤデファレンシャル84は、アクスルシャフト85を介して後輪95に連結されている。プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が駆動力伝達装置91にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン93の駆動力は後輪95に伝達される。
【0026】
駆動力伝達装置91は、例えば、リヤデファレンシャル84とともにディファレンシャルキャリヤ86内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ86に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ86を介して車体に支持されている。
【0027】
図7に示すように、駆動力伝達装置11は、主に、外側回転部材としてのアウタケース70aと、内側回転部材としてのインナシャフト70bと、メインクラッチ機構70cと、パイロットクラッチ機構70dと、カム機構70eと、を備えている。
【0028】
アウタケース70aは、有底筒状のフロントハウジング71aと、フロントハウジング71aの後端開口部に螺着され且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング71bと、から構成されている。フロントハウジング71aの前端部には入力軸60が突出形成され、同入力軸60はプロペラシャフト82に連結されている。
【0029】
入力軸60が一体に形成されたフロントハウジング71a、および、リヤハウジング71bは、磁性材料である鉄で形成されている。リヤハウジング71bの径方向の中間部には、非磁性体材料あるステンレス製の筒体61が埋設され、この筒体61は環状の非磁性部位を形成している。
【0030】
アウタケース70aは、フロントハウジング71aの前端部外周において、ディファレンシャルキャリヤ86に対してベアリング等(図示なし)を介して回転可能に支持されている。また、アウタケース70aは、リヤハウジング71bの外周において、ディファレンシャルキャリヤ86に対して支持されたヨーク76にベアリング等を介して支持されている。
【0031】
インナシャフト70bは、リヤハウジング71bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング71a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング71aとリヤハウジング71bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト70bには、ドライブピニオンシャフト83の先端部が挿入されている。なお、図においてドライブピニオンシャフト83は図示していない。
【0032】
メインクラッチ機構70cは、湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄からなりその摺動面にペーパ摩擦材が貼付されたインナクラッチプレート72aと、鉄からなるアウタクラッチプレート72bと、を多数備えている。インナクラッチプレート72aおよびアウタクラッチプレート72bは、フロントハウジング71aの奥壁側に配設されている。
【0033】
クラッチ機構を構成する各インナクラッチプレート72aは、インナシャフト70bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタクラッチプレート72bは、フロントハウジング71aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。各インナクラッチプレート72aと各アウタクラッチプレート72bは、軸方向に交互に配置されており、互いに当接して摩擦係合可能であるとともに、互いに離間して非係合の自由状態になることもできる。
【0034】
パイロットクラッチ機構70dは、電磁石73、摩擦クラッチ74、及びアーマチャ75を備えている。電磁石73とアーマチャ75により電磁式の駆動手段が構成されている。
【0035】
ヨーク76は、ディファレンシャルキャリヤ86に対してインローにて支承され、かつリヤハウジング71bの後端部の外周に対して相対回転可能に支持されている。ヨーク76には環状をなす電磁石73が嵌着され、電磁石73は、リヤハウジング71bの環状凹所63に嵌合されている。
【0036】
摩擦クラッチ74は、鉄製の1枚のインナパイロットクラッチプレート74a及び鉄製の2枚のアウタパイロットクラッチプレート74bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。なお、後述する実施形態では、本発明のクラッチプレートの例として、本発明を当該インナパイロットクラッチプレート74aに適用した場合を挙げている。
【0037】
インナパイロットクラッチプレート74aは、カム機構70eを構成する第1カム部材77の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。一方、各アウタパイロットクラッチプレート74bは、フロントハウジング71aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能に組み付けられている。
【0038】
インナパイロットクラッチプレート74aと各アウタパイロットクラッチプレート74bとは、軸方向に交互に配置され、互いに当接して摩擦係合可能であるとともに、互いに離間して非係合の自由状態になることもできる。
【0039】
なお、第2カム部材78はインナシャフト70bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト70bに対して一体回転可能に組み付けられている。第2カム部材78は、メインクラッチ機構70cのインナクラッチプレート72aに対向して配置されている。第2カム部材78と第1カム部材77の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア79が介在されている。
【0040】
駆動力伝達装置91において、パイロットクラッチ機構90dを構成する電磁石93の電磁コイルへの通電がなされていない場合には、磁路は形成されず、摩擦クラッチ74は非係合状態にある。この場合、パイロットクラッチ機構90dは非作動の状態にあって、カム機構70eを構成する第1カム部材77は、カムフォロア79を介して第2カム部材78と一体回転可能であり、メインクラッチ機構70cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車90は、二輪駆動の駆動モードを構成する。
【0041】
一方、電磁石73の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構70dには磁路が形成され、電磁石73はアーマチャ75を吸引する。この場合、アーマチャ75は摩擦クラッチ74を押圧して摩擦係合させ、カム機構70eの第1カム部材77をフロントハウジング71a側と連結させ、第2カム部材78との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構70eではカムフォロア79が両カム部材77、78を互いに離間する方向へ押圧する。
【0042】
この結果、第2カム部材78はメインクラッチ機構70c側へ押圧され、メインクラッチ機構70cを摩擦クラッチ74の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース70aとインナシャフト70bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車90は、プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0043】
また、電磁石73の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石73のアーマチャ75に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ75は強く電磁石73側へ吸引作動され、摩擦クラッチ74の摩擦係合力を増大させ、両カム部材77、78間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア79は第2カム部材78に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構70cを結合状態とする。このため、四輪駆動車90は、プロペラシャフト82とドライブピニオンシャフト83が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0044】
(クラッチプレート)
ここで、本実施形態のクラッチプレート1について図1図5を参照して説明する。説明するクラッチプレート1は、上記インナパイロットクラッチプレート74aに相当する。
【0045】
図1に示すように、本実施形態のクラッチプレート1は、環状の磁性体金属板からなり、軸方向一端面11および軸方向他端面12の両端面にはそれぞれ潤滑溝2が形成されている。つまり、両端面11、12は、潤滑溝2と、プレート同士が摩擦係合する摩擦係合面(摺動面)とを有している。潤滑溝2は、上記の両パイロットクラッチプレート74a、74b間に介在する余分な潤滑油を受け入れるように構成されている。潤滑溝2は、プレート間の潤滑油を受け入れるとともにプレート間外へ逃がす役割も果たす。これにより、プレート同士の係合がスムーズに行われる。
【0046】
また、クラッチプレート1(両端面11、12)の径方向略中央には、軸方向に貫通した円弧状の貫通穴である窓3が同一円周上に複数配置されている。窓3は、パイロットクラッチ機構において、適切な磁気回路(磁路)を形成するために必要である。また、クラッチプレート1の内周縁13には、スプライン4が形成されている。なお、クラッチプレート1は、環状のベース板10と、ベース板10表面に形成された潤滑溝2と、ベース板10に形成された複数の窓3と、ベース板10の内周縁に形成されたスプライン4と、を備えているともいえる。また、軸方向とは、環状の中心軸の延びる方向(図1紙面直交方向)であり、入力軸60の軸方向でもある。
【0047】
潤滑溝2は、図1および図2に示すように、複数の溝21からなっている。潤滑溝2は、両端面11、12上に全体的に延在し、表面中央部から外周縁14および内周縁13(スプライン4の縁)にまで延在している。より具体的に、潤滑溝2は、窓3および窓3同士の間(空白部分A)を除いた表面全体に形成されている。潤滑溝2は、溝21同士が接する交点22を複数有している。本実施形態では、溝21同士が交差している部分が交点22となる。
【0048】
本実施形態では、潤滑溝2は、格子状(メッシュ状)に形成されている。そして、溝21は、断面凹状の溝であって、外周側では外周縁14から窓3の径方向外側縁15または空白部分Aまで延び、内周側では窓3の径方向内側縁16または空白部分Aから内周縁13(スプライン4の縁)まで延びている。つまり、潤滑溝2の溝21は、両端面11、12上において、周方向に交差する方向に延伸している。
【0049】
潤滑溝2は、両端面11、12に同位相に形成されている(図4参照)。同位相とは、溝21形成位置が両端面11、12で同じであることを意味し、同位相に設計し結果として誤差等でずれているものを含む意味である。つまり、本発明における同位相とは、溝21底部が完全に重なるもののみでなく、両端面11、12の対応する溝21底部の溝幅方向の少なくとも一部が、溝延伸方向全域に亘って軸方向に重なっているものを含んでいる。
【0050】
ここで、潤滑溝2のすべての交点22は、両端面11、12それぞれにおいて、外周縁14、窓3の径方向外側縁15、および、窓3の径方向内側縁16以外に位置している。つまり、交点22は、縁14〜16のそれぞれで全周に亘って存在しない。すべての交点22は、両端面11、12上において、縁14〜16以外の表面部分に位置している。
【0051】
(製造方法)
クラッチプレート1の製造方法の一例について説明する。クラッチプレート1の製造方法は、プレス加工を用いたものであり、図3に示すように、主に、仮抜き工程S1と、溝押し工程S2と、姿抜き工程S3と、を含んでいる。
【0052】
仮抜き工程S1は、磁性体金属板に対して、クラッチプレート1の大まかな内周縁と外周縁の形を形成する工程である。溝押し工程S2は、図4に示すように、磁性体金属板に対し、潤滑溝2の型を両端面11、12に同位相でプレスする工程である。姿抜き工程S3は、クラッチプレート1の内周縁13(ここではスプライン4)、外周縁14、および、窓3を形成する工程である。仮抜き工程S1と姿抜き工程S3は、クラッチプレート1の外形を形成する工程といえる(「抜き工程」に相当する)。
【0053】
ここで、溝押し工程S2では、交点22が、両端面11、12それぞれにおいて、縁14〜16以外に位置するように潤滑溝2を形成している。つまり、溝押し工程S2において、交点22が縁14〜16に存在しないように、プレス型等が設計されている。これにより、交点22が縁14〜16に存在しないクラッチプレート1が製造される。
【0054】
そして、本方法では、図8に示すように、磁性体金属板Mに対して、仮抜き工程S1、溝押し工程S2、および姿抜き工程S3を一度のプレスで並列的に行う順送プレス加工を採用している。これは、溝押し工程S2で、両端面11、12に対して同位相に潤滑溝2を形成することにより、平押し工程を省略することで実現できる。平押し工程とは、大きい押し付け力で溝押しした後に生じる、摩擦係合面(摺動面)の盛り上がりを平たくする工程である。
【0055】
従来では、仮抜き工程、溝抜き工程、平押し工程、および姿抜き工程の順に、それぞれの工程で別々のプレスが行われていた。従来は、例えば、仮抜き工程を行うプレス機や平押し工程を行うプレス機など、プレス型や押し付け力の異なる複数のプレス機を用いて、クラッチプレートを製造していた。また、各プレス機間の移動は台車等で行われていた。
【0056】
一方、本方法では、上述のように、磁性体金属板Mに対して、1度のプレスにより、仮抜き、溝抜き、および姿抜きが並列的に同時に行われる。そして、磁性体金属板Mが順に送られ、次のプレスが行われる。これにより、例えば複数のプレス型を並列に備えた1台のプレス機によって、上記工程S1〜S3を1度のプレスで実行することができる。これらの工程S1〜S3は、同じ押し付け力で実行されるため加工圧は小さくなる。本方法によれば、欠けの抑制を可能としたことにより、潤滑溝2を同位相で形成する上記製造方法を採用することが可能となった。また、本方法によれば、工程間の台車移動を省くことができ、かつ、一度にプレスすることにより型ズレの抑制も可能となる。この新たな製造方法により、加工圧低減、プレス費低減、作業の効率化、および検査費低減等の効果が発揮される。
【0057】
なお、溝押し工程S2以降にラップ加工(工程)が適宜行われる。ラップ加工は、端面11、12を研磨し、摩擦係合面の平面度を高める工程である。
【0058】
以上、溝押し工程S2を含む本方法によれば、クラッチプレート1は、潤滑溝2の交点22が両端面11、12の縁14〜16に位置していない構成となる。応力が集中し且つ加工硬化で脆くなり易い交点22が縁14〜16に存在しないことで、縁14〜16における欠けの発生は抑制される。そして、欠けによる不具合、例えば欠け部分がプレス型に残ることでプレス型や製品に傷や打痕をつける不具合、次の製品の形状変形およびプレス型の寿命短縮などの不具合は防止される。また、これにより、製造者は、低コストで高作業効率の製造方法を採用することができる。
【0059】
実施形態のクラッチプレート1は、アウタクラッチプレートとインナクラッチプレートが摩擦係合によりトルク伝達を行うメインクラッチ機構と、アウタパイロットクラッチプレート、インナパイロットクラッチプレート、および両パイロットクラッチプレート同士を摩擦係合させる電磁式駆動手段を有するパイロットクラッチ機構と、パイロットクラッチ機構の摩擦係合力をメインクラッチ機構に伝達してクラッチプレート同士を摩擦係合させるカム機構と、を備える駆動力伝達装置に用いられている。
【0060】
(変形態様)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、潤滑溝2の交点22は、両端面11、12それぞれにおいて、外周縁14、窓3の径方向外側縁15、窓3の径方向内側縁16、および、内周縁13の少なくとも1つ以外に位置していればよい。交点22が少なくとも1つの縁に存在しないことで、欠け抑制効果は発揮される。
特に交点22の数が多くなりやすい外周縁14や、複雑な形状で製造時に複雑な応力がかかるスプライン4の縁(ここでは内周縁13)などに対して、交点22を形成しないことにより、欠け抑制効果はさらに発揮される。最も効果的な構成は、図5に示すように、スプライン4の縁を含むすべての縁13〜16に交点22が存在しない構成である。
【0061】
また、窓3が形成されていないクラッチプレートに対しても、本発明は有効である。例えば、クラッチプレート1は、メインクラッチ機構70aのクラッチプレート72a、72bに適用されてもよい。このような場合、クラッチプレートの両端面それぞれにおいて、外周縁14および内周縁13の少なくとも一方以外に位置していることで、欠け抑制効果が発揮される。本実施形態同様、外周縁14および内周縁13の両縁に交点22が存在しないことによりさらに欠け抑制効果が発揮される。
【0062】
また、スプライン4は、なくてもよく、あるいは外周縁14に形成されていてもよい。例えば、クラッチプレート1は、スプラインが外周縁14に形成されたアウタパイロットクラッチプレート74bに適用されてもよい。また、溝21の形成は、塑性変形を伴うものであればよく、プレス加工に限定されない。また、潤滑溝2を両端面11、12に同時に形成する方法でなくても加工硬化が発生し得るため、本発明は、潤滑溝2の両端面同時形成以外の製法に対しても有効である。
【符号の説明】
【0063】
1:クラッチプレート、
11:軸方向一端面、 12:軸方向他端面、 13:内周縁、 14:外周縁、
15:径方向外側縁、 16:径方向内側縁、
2、5:潤滑溝、 21:溝、 22:交点、
3:窓、 4:スプライン、 91:駆動力伝達装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8