(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
  色素増感太陽電池は、グラッツェルらの研究グループが1991年に太陽エネルギー変換効率7.1%を発表し(非特許文献1)、さらに1993年に同グループが同変換効率10%を発表したことに端を発し(非特許文献2)、世界的に注目される技術となっている。
【0003】
  グラッツェルらが発表した色素増感太陽電池の構成は、ガラス板、又は透明プラスチックシートの内側にインジウム/スズ系の透明電導層を設け、さらにその透明電導層に二酸化チタンなどの微粒子金属酸化物を固定し、この金属酸化物にルテニウム化合物などの有機色素を吸着させた電極と、白金や炭素などの対極との間にヨウ素溶液などの酸化還元体を充填したものである。
【0004】
  上記の色素増感太陽電池は、電極間の電解質として液体を使用しているが、実用化に際して電解液の漏洩、溶媒の揮発などにより、耐久性および安定に課題があった。このため、電解質を液体ではなく、固体化、又は、ゲル化して上記課題を解決しようとする試みがなされている。
【0005】
  例えば、特許文献1では、固体電解質として、ポリエーテル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリルを主鎖に持つ高分子ないしはこれらモノマー成分2種類以上の共重合体等が開示されている。
【0006】
  また、ゲル状電解質として、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンアニド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカルバゾール、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリベンズイミダゾール、ポリアミン、ポリイミン、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、を主鎖に持つ高分子ないしはこれらモノマー成分2種類以上の共重合体等が開示されている。
 
【発明を実施するための形態】
【0019】
  以下、本発明に関する実施形態について詳しく説明する。なお、範囲を表す表現は、その上限と下限を含むものである。
 
【0020】
  色素増感太陽電池の負極は、0.1〜10mmの透明なガラス基板に酸化インジウムスズなどの材料を用いて、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの方法により100〜600nmの厚みで透明電導膜が形成され、その上に粒子径が1〜100nmである金属酸化物が分散された溶液を塗布し、加熱により溶媒を除去し、さらに高温に加熱して透明電導膜に10〜100μmの金属酸化物層が形成され、そして、有機色素を含有する溶液に金属酸化物層を浸漬し、その後、溶媒を乾燥除去して有機色素を金属酸化物層に吸着させることにより、作製される。
 
【0021】
  この粒子状の金属酸化物は、バンドギャップ間の遷移が生じる金属酸化物が、複数集合して多孔質形状を有するものである。個々の金属酸化物の形状については、球状に限られるものでなく、棒状、針状、円錐状などいかなる形状であっても良い。また、その金属酸化物の素材としては、太陽光によりバンドギャップ間の遷移が生じれば特に限定されるものでない。例えば、TiSrO
3 ,BaTiO
3 ,TiO
2 ,Nb
2 O
5 ,MgO,ZnO,WO
3 ,Bi
2 O
3 ,CdS,CdSe,CdTe,In
2 O
3 ,SnO
2などの各種金属酸化物が用いられる。このうち光電変換効率の向上のため、TiO
2を用いることが好ましい。また、TiO
2を用いる場合、結晶構造としてルチル型よりアナターゼ型の方がより好ましい。
 
【0022】
  有機色素は、太陽光の特定の波長を吸収し励起状態となり、その有機色素が吸着する粒子状の金属酸化物に電子を注入する増感色素として機能する。そして、有機色素に含有される金属として、ルテニウム、オスミウム、鉄、銅、白金、コバルト、レニウム、クロムなどの遷移金属が使用される。
 
【0023】
  このような有機色素として、cis−dithiocyano  bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)ruthenium;Ru(dcbpy)
2(NCS)
2;N3、bis(tetrabutylammonium)[shis−di(thiocyanato)−bis(2,2’−bipyridyl−4−carboxylate−4’−carboxylic  acid)−ruthenium;N719、Ru(tctpy)
2(NCS)
3;N714、Ru(dmipy)(dcbpyH)I、Ru(dcphenTBA(H))
2(NCS)
2、cis−Ru(dcbiqH)
2(NCS)
2(TBA)
2などのルテニウム−ビピリジン系錯体、cis−dithiocyano  bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)osmium;Os(dcbpy)
2(NCS)
2などのオスミウム−ビピリジン系錯体、cis−dithiocyano  bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)iron;Fe(dcbpy)
2(NCS)
2などの鉄−ビピリジン系錯体、bis(2,9−di(4−carboxy)diphenyl−1,10−phenanthroline)copperなどの銅−フェナントロリン系錯体、Pt(dcbpy)
2(L)
2[L:quinoxaline−2,3−dithiolate]などの白金−キノキサリン系錯体、Re(bpy)(CO)
3(ina)などのレニウム−ピリジン系錯体などが挙げられる。
 
【0024】
  また、粒子状の金属酸化物に結合する官能基(イミダゾリル基、カルボキシル基、ホスホン基等)を有し、結合の結果脱着を起こさず、かつ吸着の結果、電極の表面の露出を抑えることができる分子を添加剤として使用することができる。具体的には、例えば、tert−ブチルピリジン(tert−Butylpyridine)、1−メトキシベンゾイミダゾール(1−Methoxybenzoimidazole)、デカンリン酸(decanephosphoric  acid)等の長鎖アルキル基を持つホスホン酸などが挙げられる。
 
【0025】
  色素増感太陽電池を作製するときに、対極である正極は、導電性物質であれば任意のものを用いることができるが、絶縁性の物質でも、半導体電極に面している側に導電層が設置されていれば、使用することができる。ただし、電気化学的に安定である物質を対極に用いることが好ましい。具体的には、白金、白金黒、カーボン、導電性高分子などが挙げられる。正極は石英ガラス基板などの透明または不透明の基板上に上記の物質の膜を形成したものであっても良いし、白金基板などであっても良い。
 
【0026】
  本発明で使用される電解質は、ゲル状又は固体であり、液体の漏洩、液体の揮発等により電解質の組成が変化することなく、耐久性及び安定性に優れた色素増感太陽電池を作製することができる。そして、本発明で使用される電解質は、有機色素が吸着された粒子状の金属酸化物との接触面積を大きくすることができ、エネルギー変換効率を向上させることができ、さらには、有機色素が吸着された粒子状の金属酸化物を透明電導膜表面に強固に接着させることもできる。さらには、酸化還元化学種であるヨウ素、ヨウ化物を高い濃度で含有することができる。
 
【0027】
  本発明で電解質として使用される高分子成分としては、例えば、パーフルオロ[2−(2−フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]の重合体の加水分解物、下記化学式Iに示すテトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(2−フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体の加水分解物、ヘキサフルオロプロペンとパーフルオロ[2−(2−フルオロスルホニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体の加水分解物などスルホ基を有するフッ素化樹脂である高分子、下記化学式IIに示すテトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(2−フルオロカルボニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体の加水分解物、パーフルオロ[2−(2−フルオロカルボニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]の重合体の加水分解物などカルボキシル基を有するフッ素化樹脂である高分子であることが好ましい。また、下記化学式I、IIに示すスルホ基、カルボキシル基の極性基がホスホリル基(−PO(OH)
3)であっても良い。主鎖の炭素原子に結合する水素原子がすべてフッ素原子に置換された完全フッ素化樹脂でもよいし、耐光性が良好である限りにおいて主鎖の炭素原子に結合する水素原子が一部フッ素原子に置換された部分フッ素化樹脂でもよく、さらに、これらの共重合体であってもよい。スルホ基、カルボキシル基、又は、ホスホリル基から選ばれる極性基を少なくとも1種有することにより、酸化還元化学種であるヨウ素、ヨウ化物を高い濃度で溶解することができる。市販品として、デュポン社製のNAFION(登録商標)、旭硝子社製のFLEMION(登録商標)、旭化成社製のアシプレックス(登録商標)、アストム社製のネオセプタ(登録商標)の分散液などを使用することができる。
 
【0028】
【化1】
 
(ただし、m/n=0.1〜100の少数または整数であり、x=20〜3000の整数である)
 
【0029】
【化2】
 
(ただし、m/n=0.1〜100の少数または整数であり、x=20〜3000の整数である)
 
【0030】
  さらに、本発明の電解質には、酸化還元化学種としてヨウ素、ヨウ化物、例えばヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどを混合することができる。また、さらに水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどを配合し電解質として中性に調整することが好ましい。
 
【0031】
  酸化還元化学種であるヨウ素は、前記高分子成分に対して、ヨウ素/高分子成分=0.001/1〜2/1の重量比で含有されていることが好ましく、ヨウ素/高分子成分=0.002/1〜1.5/1の重量比で含有されていることがさらに好ましく、ヨウ素/高分子成分=0.0025/1〜1.3/1の重量比で含有されていることが最も好ましい。この範囲にあると、エネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
 
【0032】
  そして、酸化還元化学種であるヨウ化物を、前記ヨウ素/ヨウ化物=1/5〜1/8の重量比で前記高分子に対して含有されていることが好ましく、ヨウ素/ヨウ化物=1/6〜1/7の重量比で前記高分子に対して含有されていることがさらに好ましい。この範囲にあると、エネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
 
【0033】
  また、本発明の電解質の膜厚は、0.3〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがさらに好ましい。この範囲にあると、酸化還元化学種であるヨウ素、ヨウ化物が、ゲル状又は固体の電解質であっても移動し易く、その結果としてエネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
 
【0034】
  なお、本発明の電解質は、色素増感太陽電池として作製されたときにゲル状又は固体であれば良く、その製造工程において液体を含有するものであっても良い。
 
【0035】
  以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
 
【0036】
      (
参考例1)
    厚さ1mmのソーダガラス板上に厚さ200nm、シート抵抗10Ωの酸化インジウムスズ膜(ITO膜)をスパッタリング法によって形成した。次に、粒径が数nmから数十nm、アナターゼ型の酸化チタンの微粒子をエチレングリコール、アセチルアセトン、水から成る混合液に分散溶解し、酸化チタン分散液を作成した。この酸化チタン分散液を上記ITO膜表面に塗布し、120℃で3分間乾燥した後、さらに450℃で30分の熱処理を施し、膜厚15μmの酸化チタン層を形成した。
 
【0037】
  次に、有機色素として、ルテニウム色素N719〔cis−dithiocyano  bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)rutheniumの二つのカルボキシル基のプロトンをテトラn―ブチルアンモニウムに置換した構造。〕を無水エタノールに溶解し、濃度3×10
−4mol/Lの色素吸着用の溶液を作成した。この溶液に、前記酸化チタン層を20時間浸漬し、ルテニウム色素を吸着させた。この後、水、n−プロパノールが1:1の割合で混合した液にNAFION(登録商標)が5重量%分散溶解したデュポン社製NAFION(登録商標)溶液1リットル(NAFION(登録商標)として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を0.13g、ヨウ化カリウム(KI)を0.83g混合し電解質溶液を作成した。有機色素を吸着させた酸化チタン層上にこれら電解質溶液を塗布し、引き続き、100℃で3分の熱処理を施し、NAFION(登録商標)溶液中の溶媒を蒸発させ、厚さ10μmのゲル状の電解質層を形成した。
 
【0038】
  次にガラス基板上にスパッタリング法により膜厚20nmの白金層を堆積し、対向電極を作成した。以上の対向電極を上記電解質層の上に重ね合わせた後、側面をシリコーン系接着剤で封止することにより色素増感太陽電池を作成した。
 
【0039】
      (
実施例1)
    NAFION(登録商標)溶液1リットル(NAFION(登録商標)として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を13g、ヨウ化カリウム(KI)83g混合した溶液を作成した以外は、
参考例1と同様に色素増感太陽電池を作成した。
 
【0040】
      (
実施例2)
    NAFION(登録商標)溶液1リットル(NAFION(登録商標)として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を40g、ヨウ化カリウム(KI)を250g混合した溶液を作成した以外は、
参考例1と同様に色素増感太陽電池を作成した。
 
【0041】
      (
参考例2)
    FLEMION(登録商標)溶液1リットル(FLEMION(登録商標)として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を0.13g、ヨウ化カリウム(KI)を0.83g混合した溶液を作成した以外は、
参考例1と同様に色素増感太陽電池を作成した。
 
【0042】
      (
実施例3)
    FLEMION(登録商標)溶液1リットル(FLEMION(登録商標)として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を13g、ヨウ化カリウム(KI)を83g混合した溶液を作成した以外は、
参考例1と同様に色素増感太陽電池を作成した。
 
【0043】
      (
実施例4)
    FLEMION(登録商標)溶液1リットル(FLEMION(登録商標)として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を40g、ヨウ化カリウム(KI)を250g混合した溶液を作成した以外は、
参考例1と同様に色素増感太陽電池を作成した。
 
【0044】
      (比較例1)
    アセトニトリル中に5重量%溶解させた(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(フッ素化樹脂不揮発分として44g)に対し、ヨウ素(I
2)を13g、ヨウ化カリウム(KI)を83g混合した溶液を作成した以外は、
参考例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
 
【0045】
  色素増感太陽電池の作製に使用したヨウ素とヨウ化カリウムを混合した電解質溶液について、溶解性を確認した。すなわち、各実験例で記載した濃度において、ヨウ素とヨウ化カリウムを混合した電解質溶液を透明のガラス容器に入れ、25℃、24時間静置後における沈殿物の有無を目視で確認した。沈殿がないものについては○、多少沈殿が見られるものについては△、かなり沈殿が見られるものについては×と評価した。沈殿がないものほど好ましい。
 
【0046】
      参考例1〜2、実施例1〜
4及び比較例1で得られた色素増感太陽電池にキセノンランプ光源を用いたソーラシミュレータにより疑似太陽光を照射し、電位を掃引しながら、それぞれ電流―電圧特性を測定した。得られた電流―電圧曲線から、電池の短絡電流、開放電圧、FF(フィルファクター)および光電変換効率を算出した。
 
【0047】
  前記した電解質に使用した高分子成分、酸化還元化学種の種類及び量、さらにそれら電解質を用いて作製した色素増感太陽電池の性能の一覧を表1に示す。
 
【0049】
      表1の結果より、電解質の高分子成分として、スルホ基を有するナフィオン(登録商標)を使用した実施例1〜
2において、また、カルボキシル基を有するフレミオン(登録商標)を使用した実施例
3〜4において、これら極性基を有さないポリフッ化ビニリデンよりも短絡電流、開放電圧が向上し、その結果として、光電変換効率も向上することが分かった。これは、スルホ基を有するナフィオン(登録商標)、および、カルボキシル基を有するフレミオン(登録商標)が、ヨウ素やヨウ素化合物をよく溶かすため、ヨウ素の酸化還元反応に寄与するヨウ化物イオンが増加し、短絡電流、変換効率が向上したと考えられる。逆に、電解質の高分子成分として、ポリフッ化ビニリデンを用いた比較例1では、極性基を有さないため、ヨウ素やヨウ化物を溶解し難く、反応に寄与するイオンが少ないため、電気特性が良くなかったと考えられる。なお、ヨウ化カリウムの代わりにヨウ化リチウムを用いた場合でも、同様に酸化還元化学種であるヨウ素を高い濃度で含有することができ、短絡電流、開放電圧、光電変換効率を向上させられることが見出されている。