特許第6044785号(P6044785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044785
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】吸気ダクト
(51)【国際特許分類】
   F02M 35/12 20060101AFI20161206BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F02M35/12 H
   F02M35/10 101N
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-165548(P2013-165548)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-34508(P2015-34508A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 義則
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−343939(JP,A)
【文献】 米国特許第06553953(US,B1)
【文献】 特開2012−193691(JP,A)
【文献】 特開2002−106434(JP,A)
【文献】 特開2001−336457(JP,A)
【文献】 特開昭61−190158(JP,A)
【文献】 特開平08−200170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 35/12
F02M 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成形体からなる2つの半割体が合わされてなる吸気ダクトであって、
筒状部と、前記筒状部から分岐して設けられた消音器部とを備え、
前記筒状部の成形壁のJIS L1096 A法により測定した通気性が1.0〜5.0cc/cm/secであり、
前記消音器部の成形壁のJIS L1096 A法により測定した通気性が0.5cc/cm/sec以下であることを特徴とする吸気ダクト。
【請求項2】
前記筒状部の全長をLとしたときに、前記筒状部の空気が流入する側の一端から1/4Lの位置に、前記通気性が10cc/cm/sec以上の第1高通気部が設けられている請求項1に記載の吸気ダクト。
【請求項3】
前記筒状部の全長をLとしたときに、前記筒状部の空気が流入する側の一端から3/4Lの位置に、前記通気性が10cc/cm/sec以上の第2高通気部が設けられている請求項1又は2に記載の吸気ダクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気ダクトに関する。更に詳しくは、本発明は、広帯域の定在波を減衰させることができるとともに、特に減音させたい特定の周波数領域において優れた吸音性能が発現される吸気ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両における吸気ダクトから発生する騒音を低減させる試みがなされている。即ち、エンジンの吸気に伴う脈動音が車室内及び車室外における騒音となっており、この吸気脈動音を低減させる対策として、吸気ダクトに消音器や絞り部を設けるという方法が知られている。例えば、筒状部の特定の範囲の周波数の1/4波長、望ましくは1/2波長に相当する領域に吸音材を設置した内燃機関用吸気ダクトが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、不織布シートを加熱圧縮成形する吸気ダクトの製造方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−200170号公報
【特許文献2】特開平11−343938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された吸気ダクトは、ポリプロピレン等の樹脂材料からなる筒状部の特定の領域に、繊維製の吸音材を配したものであり、その構造が複雑であるため、単に、不織布シートを加熱圧縮成形する方法や、通常のプレス成形によって、製造することは困難であった。
【0005】
本発明は上述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、製造が容易であるとともに、広帯域の定在波を減衰させることができ、且つ特に減音させたい特定の周波数領域において優れた吸音性能が発現される吸気ダクトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.繊維成形体からなる2つの半割体が合わされてなる吸気ダクトであって、
筒状部と、前記筒状部から分岐して設けられた消音器部とを備え、
前記筒状部の成形壁のJIS L1096 A法により測定した通気性が1.0〜5.0cc/cm/secであり、
前記消音器部の成形壁のJIS L1096 A法により測定した通気性が0.5cc/cm/sec以下であることを特徴とする吸気ダクト。
2.前記筒状部の全長をLとしたときに、前記筒状部の空気が流入する側の一端から1/4Lの位置に、前記通気性が10cc/cm/sec以上の第1高通気部が設けられている前記1.に記載の吸気ダクト。
3.前記筒状部の全長をLとしたときに、前記筒状部の空気が流入する側の一端から3/4Lの位置に、前記通気性が10cc/cm/sec以上の第2高通気部が設けられている前記1.又は2.に記載の吸気ダクト。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸気ダクトは、筒状部のみでなく、筒状部から分岐して設けられた消音器部も、繊維成形体からなる2つの半割体が合わされて一体に形成されている。また、筒状部の成形壁の通気性が特定の数値範囲内であり、消音器部の成形壁の通気性が特定の数値以下である。
このような構成とされていると、筒状部が通気性を有するため、広帯域の定在波を十分に減衰させることができる。また、消音器部は共鳴可能な程度に通気性が低いため、特に吸音させたい特定の周波数領域において十分に減音させることができる。更に、繊維製の筒状部と、繊維製の消音器部とを同時に一体に形成することができ、簡易な工程により効率よく吸気ダクトを製造することができる。
請求項2の吸気ダクトでは、筒状部の空気が流入する側の一端から1/4Lの位置に、通気性が10cc/cm/sec以上の第1高通気部が設けられている。
このような構成とされていると、吸気騒音の支配的なモードと判断される1〜3次共鳴を効率よく低減させることができ、定在波をより効率よく減衰させることができる。
請求項3の吸気ダクトでは、筒状部の空気が流入する側の一端から3/4Lの位置に、通気性が10cc/cm/sec以上の第2高通気部が設けられている。
このような構成とされていると、上述の第1高通気部が設けられているときと同様の作用効果が奏される。また、第1高通気部と併せて第2高通気部が設けられていれば、1〜3次共鳴をより効率よく低減させることができ、定在波を特に大きく減衰させることができる。
尚、従来の樹脂製の吸気ダクトでも、複数個の樹脂製の消音器部を設けることで、広帯域の定在波を減衰させることができる。しかし、工程が複雑になり、コスト高になるとともに、吸気ダクトの重量も増加する。また、筒状部の空気が流入する側の一端から1/2Lの位置に、高通気部を設けてもよいが、1/2Lの位置[図4の(b)の位置参照]であると、1次と3次の共鳴は腹の位置であるが、2次共鳴は節の位置であり、定在波を効率よく減衰させることはできない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】半割体の斜視図である。
図2】本発明の吸気ダクトの斜視図である。
図3】本発明の吸気ダクトを側面からみた断面であるとともに、定在波の進行を示す説明図である。
図4】筒状部の長さ方向の高通気部が設けられる位置を示す説明図である。
図5】樹脂製の筒状部における定在波の進行を示す説明図である。
図6】繊維製の筒状部に樹脂製の消音器部が設けられた吸気ダクトにおける定在波の進行を示す説明図である。
図7】樹脂製の筒状部における定在波の進行を示す説明図である。
図8】各種の吸気ダクトにおける減音量と周波数との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
以下、本発明の吸気ダクトについて図を参照しつつ説明する。
本発明の吸気ダクト(1)は、繊維成形体からなる2つの半割体(1a)、(1b)(図1参照)が合わされてなる吸気ダクト(1)であって、筒状部(3)と、筒状部(3)から分岐して設けられた消音器部(5)とを備える(図2参照)。また、筒状部(3)の成形壁のJIS L1096 A法(フラジール形法)により測定した通気性が1.0〜5.0cc/cm/secであり、消音器部(5)の成形壁のJIS L1096 A法(フラジール形法)により測定した通気性が0.5cc/cm/sec以下である。
【0011】
2つの半割体(1a)、(1b)は繊維成形体からなる。繊維成形体は、無機繊維と、無機繊維同士を結着する熱可塑性樹脂とにより形成される。無機繊維の材質及び寸法等は特に限定されず、種々の無機繊維を用いることができる。この無機繊維としてはガラス繊維、炭素繊維等が挙げられ、ガラス繊維が用いられることが多い。無機繊維の繊維径は5〜10μmであることが好ましい。また、繊維成形体における無機繊維の含有量は特に限定されない。無機繊維と熱可塑性樹脂との合計を100質量%とした場合に、無機繊維は30〜70質量%、特に40〜60質量%であることが好ましい。
【0012】
2つの半割体(1a)、(1b)に含有される無機繊維の形態は特に限定されない。例えば、複数本の無機繊維が長さ方向に引き揃えられて規則的に配置された形態、複数本の無機繊維が網目模様を描くように規則的に配置された形態、複数本の無機繊維がランダムに配置された形態等とすることができる。また、複数本の無機繊維が長さ方向に引き揃えられてなる無機繊維シートが複数枚積層され、且つ上下に隣接する無機繊維シートに含有される無機繊維同士が互いに交差した形態とすることもできる。このような形態であれば、優れた機械的特性を有する吸気ダクト(1)とすることができるため好ましい。
【0013】
更に、無機繊維シートを用いる場合、その積層数は特に限定されない。例えば、2〜50層とすることができる。また、上述のように、上下に隣接する無機繊維シートに含有される無機繊維の配向方向が異なるように積層されることが好ましい。この場合、各々の無機繊維の配向方向がなす角度は30〜90°であることが好ましい。更に、上下に隣接する無機繊維シートは、各々のシートに含有される無機繊維の配向方向が略直交するように積層されていることがより好ましい。このような形態であれば、長さ方向、径方向及び斜め方向のいずれの方向にも優れた機械的特性を有する吸気ダクト(1)とすることができる。
【0014】
また、上下に隣接する無機繊維シートに含有される各々の無機繊維が、熱可塑性樹脂により結着されることで、優れた機械的特性を有する吸気ダクト(1)とすることができる。更に、筒状部(3)を所定の通気性を有する厚さとすることによって、広帯域の定在波を十分に減衰させることができ、より優れた減音効果を有する吸気ダクト(1)とすることができる。また、より優れた減音効果を有する吸気ダクト(1)とするためには、騒音の波長λの1/4相当の厚さの筒状部(3)とすることが特に好ましい。このような厚さの筒状部(3)であれば、より長波長領域の騒音を十分に低減させることができる。
【0015】
無機繊維同士を結着させるための熱可塑性樹脂は特に限定されない。例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、無機繊維同士を結着させることができ、且つ成形が容易なポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンの単独重合体であってもよく、2種以上のオレフィンの共重合体、又はオレフィンと他の単量体との共重合体であってもよい。
【0016】
オレフィンの単独重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。2種以上のオレフィンの共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレンと1−ブテン、4−メチル−ペンテン−1、1−オクテン等との共重合体である線状低密度ポリエチレンなどが挙げられる。オレフィンと他の単量体との共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
また、熱可塑性樹脂には、通常、各種の添加剤が配合される。例えば、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、滑剤、安定剤、耐候剤、帯電防止剤等が配合される。更に、必要に応じて、可塑剤、撥水剤、撥油剤、抗菌剤、防腐剤、着色剤等が配合されていてもよい。
【0018】
2つの半割体(1a)、(1b)が合わされてなる吸気ダクト(1)は、筒状部(3)と消音器部(5)とを備える(図2参照)。また、筒状部(3)は通気性を有する。筒状部(3)は、複数本の無機繊維と、これらの無機繊維同士を結着している熱可塑性樹脂とからなる。そして、隣り合う無機繊維間、及び無機繊維と熱可塑性樹脂からなる結着部との間には微小な空隙が形成されている。この空隙は、筒状部(3)の成形壁の内表面から外表面へと連通しており、筒状部(3)は通気性を有することになる。
【0019】
筒状部(3)の、JIS L1096 A法(フラジール形法)により測定した通気性は、1.0〜5.0cc/cm/secであり、1.5〜3.0cc/cm/secであることが好ましい。筒状部(3)の通気性が1.0〜5.0cc/cm/secであれば、広帯域の定在波を十分に減衰させることができる。尚、定在波の減衰のみを考えれば、通気性は高いほどよいが、放射音が悪化する。そこで、定在波の減衰(吸気口音の減音)と放射音とのトレードオフを考慮して筒状部(3)の通気性を算出し、1.0〜5.0cc/cm/secと設定した。
【0020】
更に、筒状部(3)の通気路は、微小な空隙が複雑に連通して形成されている。また、熱可塑性樹脂、特にポリオレフィン系樹脂は疎水性が高い。そのため、筒状部(3)は通気性は有するものの、水が透過することはない。
【0021】
また、筒状部(3)の全長を(L)としたときに、筒状部(3)の空気が流入する側の一端から1/4Lの位置に、JIS L1096 A法(フラジール形法)により測定した通気性が10cc/cm/sec以上の第1高通気部(a)(図4参照)が設けられていることが好ましい。第1高通気部(a)における通気性は20cc/cm/sec以上(通常、50cc/cm/sec以下である。)であることがより好ましい。
【0022】
更に、筒状部(3)の全長を(L)としたときに、筒状部(3)の空気が流入する側の一端から3/4Lの位置に、JIS L1096 A法(フラジール形法)により測定した通気性が10cc/cm/sec以上の第2高通気部(c)(図4参照)が設けられていることが好ましい。第2高通気部(c)における通気性は20cc/cm/sec以上(通常、50cc/cm/sec以下である。)であることがより好ましい。
【0023】
第1高通気部(a)及び第2高通気部(c)を設けることにより、筒状部(3)の他の部位における定在波の減衰に加えて、吸気口音の支配的なモードと判断される1〜3次共鳴を効率的に低減させることができる。また、第1高通気部(a)及び第2高通気部(c)は、両方設けてもよく、いずれか一方のみを設けてもよいが、両方設けることが好ましい。更に、第1高通気部(a)及び第2高通気部(c)の各々の、筒状部(3)の長さ方向における寸法は特に限定されない。第1高通気部(a)及び第2高通気部(c)の寸法は、それぞれ筒状部(3)の全長(L)のL/3〜L/5とすることができ、L/4であることが最も好ましい。
【0024】
また、筒状部(3)には、筒状部(3)を貫通する貫通孔を設けることもできる。前述のように、筒状部(3)には、無機繊維間等に形成された空隙が複雑に連続して形成された連通孔を有しているが、通気性を調整するため、この連通孔とは別に、筒状部(3)を貫通する貫通孔を設けてもよい。このような貫通孔を設けることで、筒状部(3)の通気性が調整され、より騒音の低減を図ることもできる。この貫通孔が設けられた筒状部(3)の通気性は、前述の筒状部(3)の通気性と同様の数値範囲とすることができる。
【0025】
筒状部(3)から分岐して設けられる消音器部(5)は、特に減音させたい周波数領域の騒音を効率よく低減させるために設けられる。例えば、吸気に伴って発生する騒音のうちで耳障りな180〜200Hzの周波数領域の騒音を効率よく低減させるために設けることができる。騒音を効率よく低減させたい特定の周波数領域は、消音器部(5)が筒状部(3)から分岐する箇所における開口部から消音器本体(5d)までの接続管部(5c)の長さ(D)、接続管部(5c)の径(d)、及び消音器本体(5d)の容積vによって設定することができる(図3参照)。このように、騒音を効率よく低減させ、減音させたい特定の周波数領域は、消音器部(5)の構成によって定まる。そのため、消音器部(5)が設けられる位置は特に限定されず、筒状部(3)のどの位置に設けられていてもよい。
【0026】
また、消音器部(5)を有効に機能させるためには、消音器部(5)は通気性を有さないことが好ましい。しかし、消音器部(5)は繊維成形体からなるため、通気性が全くない消音器部(5)とすることは容易ではなく、僅かな通気性は許容される。この消音器部(5)の成形壁のJIS L1096 A法(フラジール形法)により測定した通気性は0.5cc/cm/sec以下であり、0.1cc/cm/sec以下であることが好ましい。尚、通気性の下限値は0.005cc/cm/secとすることができ、測定限界値未満とすることもできる。即ち、消音器部(5)は実質的に通気性を有さないことが好ましい。
【0027】
本発明の吸気ダクト(1)の製造方法は特に限定されない。例えば、下記のような方法により製造することができる。
ガラス繊維等の無機繊維と熱可塑性樹脂繊維とを、必要に応じて解繊し、混綿しながら、ベルトコンベア上等に供給し、堆積させて不織布を形成する。その後、この不織布を加熱し、次いで、含浸圧縮成形し、その後、冷却して、半割体(1a)及び半割体(1b)を形成するためのシート状の基材を作製する。尚、含浸圧縮成形により、無機繊維の繊維間に溶融した熱可塑性樹脂が含浸され、その後の冷却により固化した熱可塑性樹脂によって無機繊維の繊維間が結着される。加熱温度は、熱可塑性樹脂繊維の形成に用いた熱可塑性樹脂の融点によって、設定することができる。含浸圧縮成形前の加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点を30〜90℃上回る温度であることが好ましい。また、加熱時間は2〜3分とすることができる。更に、含浸圧縮成形時の加熱温度は、熱可塑性樹脂の融点を20〜80℃上回る温度であることが好ましい。また、圧力は10〜20MPa、加圧時間は3〜10秒とすることができる。更に、冷却条件は特に限定されないが、1次冷却で80〜150℃の温度範囲に冷却し、その後、2次冷却で室温、例えば、10〜30℃にまで冷却し、次いで、3次冷却で冷風を送風することにより、基材全体を均一に且つ十分に冷却することができる。その後、基材を半割体(1a)及び半割体(1b)の寸法に従って所定寸法に裁断し、載置台上に積載して半割体(1a)及び半割体(1b)の形成に給する。
【0028】
また、半割体(1a)及び半割体(1b)は、上述の基材を加熱し、その後、無機繊維と融解した熱可塑性樹脂繊維とからなる基材を、半割体(1a)及び半割体(1b)の各々の形状のキャビティが形成されるプレス成形機の、加熱されていない、室温(例えば、20〜30℃)の成形型の下型上に載置し、次いで、上型を降下させて加圧する冷間圧縮成形法によって作製することができる。この場合、熱可塑性樹脂繊維は融解し、無機繊維間に融解した熱可塑性樹脂が介在した状態で加圧成形される。そのため、半割体(1a)及び半割体(1b)の表面はより緻密になり、通気性は確保されつつ、水の侵入はより確実に防止される吸気ダクト(1)とすることができる。尚、薄い不織布を複数枚積層して所定厚さの基材となるようにしてもよく、所定厚さの1層の不織布からなる基材であってもよい。
【0029】
基材の加熱温度は、熱可塑性樹脂繊維の形成に用いた熱可塑性樹脂の融点によって、設定することができる。成形温度は、熱可塑性樹脂の融点を30〜90℃上回る温度であることが好ましい。また、加熱時間は45〜60秒とすることができる。更に、冷間圧縮時の圧力は、成形温度を併せて考慮し、吸気ダクト(1)の筒状部(3)の前述の方法により測定した通気性が、1.0〜5.0cc/cm/sec、特に1.5〜3.0cc/cm/secとなるように設定される。また、所定の通気性となるように圧縮成形することで、筒状部(3)の成形壁の厚さも定まることになる。尚、冷間圧縮する時間は、通常、5〜10秒とすることができる。
【0030】
筒状部(3)の通気性は、上述のように、成形温度及び成形圧力によって設定することができる。一方、消音器部(5)の同様にして測定した通気性は、成形温度、圧力下に成形壁が筒状部3と比べて薄くなるように形成されたキャビティによって調整することができる。成形壁が筒状部(3)と比べて薄くなる、即ち、より圧縮されることにより、消音器部(5)では無機繊維間等の空隙が、筒状部(3)と比べて極めて少なくなり、通気性が筒状部(3)と比べて大きく低下する。これにより、消音器部(5)の前述の方法により測定した通気性は、0.5cc/cm/sec以下となる。
【0031】
更に、半割体1a、1bは、複数本の無機繊維が長さ方向に引き揃えられてなる無機繊維シートを複数枚積層し、且つ隣接する無機繊維シートに含有される無機繊維同士が互いに交差する形態とされた積層シートを用いて作製することができる。このようにすれば、無機繊維シートに含有される熱可塑性樹脂繊維等が溶融してなる溶融樹脂による無機繊維同士の結着点が多くなる。これにより、無機繊維シートの層間剥離が防止され、優れた機械的特性を有する吸気ダクト(1)とすることができる。また、上下に隣接する無機繊維シートは、各々のシートに含有される無機繊維の配向方向が略直交するように積層することがより好ましい。このようにすれば、長さ方向、径方向及び斜め方向のいずれの方向にも優れた機械的特性を有する吸気ダクト(1)とすることができる。尚、所定厚さの1枚の無機繊維シートの繊維間が溶融樹脂により結着されたシートを用いて半割体1a、1bを作製し、この半割体1a、1bを使用して吸気ダクト(1)の製造することもできる。
【0032】
半割体(1a)及び半割体(1b)は、それぞれ別個の成形型を用いて作製してもよく、同じ金型で半割体(1a)、(1b)を同時に成形し、その後、半割体(1a)と半割体(1b)とに分割してもよい。また、作製した半割体(1a)、(1b)は、必要に応じてトムソン刃等によりトリミングして整形することが好ましい。また、半割体(1a)及び半割体(1b)は、各々の端面が合わされ、端面同士を熱融着させて吸気ダクト(1)を製造することができる。具体的には、半割体(1a)の半円筒部(3a)と、半割体(1b)の半円筒部(3b)のそれぞれの端面を当接させるとともに、半割体(1a)の消音器用成形部(5a)と、半割体(1b)の消音器用成形部(5b)のそれぞれの端面を当接させる。その後、当接させた部位を、例えば、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着、赤外線レーザー溶着等の各種の方法により融着させ、吸気ダクト(1)を製造することができる(図2参照)。
【0033】
上述のように、半割体(1a)、(1b)の各々の端面を融着させ、筒状部(3)と消音器部5とを一体に同時に形成させ、吸気ダクト(1)を製造することができる。この際、半割体(1a)、(1b)のそれぞれの端面のみを融着させるのではなく、図1のように、半割体(1a)、(1b)の各々の端面にフランジ部(f)を設け、フランジ部(f)の表面同士を超音波溶着等の方法により融着させることが好ましい。このようにすれば、半割体(1a)と半割体(1b)とをより強固に融着させることができる。
【0034】
また、吸気ダクト(1)は、上述のように、無機繊維と、熱可塑性樹脂繊維とを用いて製造することができるが、熱可塑性樹脂繊維に換えて熱可塑性樹脂粒子又は熱可塑性樹脂粉末を用いることもできる。更に、熱可塑性樹脂粒子と熱可塑性樹脂粉末とを併用してもよい。このように粒子及び/又は粉末を用いる場合、熱可塑性樹脂繊維を用いるときと同様に、無機繊維とともに、熱可塑性樹脂粒子及び/又は熱可塑性樹脂粉末をベルトコンベア上等に供給し、堆積させてシートを形成し、その後、同様にして基材を形成し、この基材を用いて半割体(1a)及び半割体(1b)を作製することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(1)吸気ダクトの構成
実施例1
長さ600mm、外径70mm、内径55mm、成形壁厚7.5mmの筒状部1、及び筒状部1の吸気側の端面から150mmの位置に、筒状部1から分岐して設けられた消音器部5を備える吸気ダクト1を製造した。
【0036】
消音器部5が設けられた筒状部1の吸気側の端面から150mmの位置とは、筒状部1の吸気側の端面と、消音器部5の接続管部5cの径方向の中心点との間の寸法が150mmであることを意味する。また、消音器部5は、接続管部5cが円筒形であり、消音器本体5dは直方体であり、成形壁厚は1.5mmである。更に、筒状部3から分岐する箇所における開口部から消音器本体5dまでの接続管部5cの長さDは30mm、接続管部5cの径dは14mm、及び消音器本体5dの容積vは1000cmである。
【0037】
吸気ダクト1は以下のようにして製造した。
複数枚のガラス繊維シートを、隣接するシートに含有されるガラス繊維の配向方向が、互いに略直交するように重ね合わせ、厚さ約5mmの積層シートを形成した。それぞれのガラス繊維シートは、引き揃えられたガラス繊維の間に繊維径7.5〜8.2デシテックスのポリプロピレン繊維が挟持されるようにして形成した。積層シートの目付は820g/mであった。また、積層シートを100質量%としたときに、ガラス繊維は40質量%、樹脂繊維は60質量%であった。
【0038】
その後、積層シートを、加熱炉により温度210℃で2分30秒加熱し、次いで、圧縮成形機の平板な熱板間で、温度200℃、圧力14.8MPaで5秒間加熱、加圧し、含浸圧縮成形した。このようにして、ポリプロピレン繊維を溶融させ、次いで、熱板の設定温度を100〜130℃に低下させて1次冷却し、その後、熱板内に設けられた流路に18℃の冷水を流通させて2次冷却し、次いで、型開きをし、成形体に冷風を吹き付けて3次冷却し、成形体全体を十分に固化させ、この固化した樹脂によってガラス繊維間を結着させた厚さ5mmのシート状の基材を形成した。その後、この基材を、加熱炉により温度210℃で45〜60秒加熱し、次いで、半割体1a、1bの各々の半円筒部3a、3b、消音器用成形部5a、5b、及び半円筒部3a、3bと消音器用成形部5a、5bの各々に連接されるフランジ部fのそれぞれの形状に相当するキャビティを有する圧縮成形機の下型上に載置した。その後、上型を降下させて冷間圧縮し、フランジ部fを有する半割体1a、1b(図1参照)が連結された状態の成形体を一体に製造した。次いで、その成形体を半円筒部3aと3bとの中間部で切断し、半割体1a、1bを得た。その後、それぞれの半割体1a、1bの周縁をトムソン刃によりトリミングし、整形した。このようにして作製した半割体1a、1bにおいて、半円筒部3a、3bの各々の厚さ(筒状部3の厚さである。)は7.5mmであった。また、消音器用成形部5a、5bの各々の厚さ(消音器部5の厚さである。)は1.5mmであった。
【0039】
次いで、半割体1aの半円筒部3aが有するフランジ部fと、半割体1bの半円筒部3bが有するフランジ部fとを当接させた。また、半割体1aの消音器用成形部5aが有するフランジ部fと、半割体1bの消音器用成形部5bが有するフランジ部fとを当接させた。その後、当接された各々のフランジ部fを超音波溶着法により溶着させ、吸気ダクト1を製造した(図2参照)。
【0040】
上述のようにして製造した筒状部3及び消音器部5のそれぞれから通気性評価用の試験片を切り出した。その後、これらの試験片を用いて、JIS L1096 A法(フラジール形法)により通気性を評価した。その結果、筒状部3の通気性は3.0cc/cm/secであった。一方、消音器部5の通気性は0.01cc/cm/secであった。このように、筒状部3は広帯域の定在波を減衰させるのに適した通気性を有していた。また、消音器部5の通気性は、消音器として有効に機能する極めて低い値であった。
【0041】
比較例1
実施例1と同形状、同寸法のアクリル樹脂製の筒状部11からなる吸気ダクト9を用いた(図5参照)。この吸気ダクト9には消音器部は設けなかった。実施例1と同様にして測定した筒状部11の通気性は測定下限値未満であった[表1には(0cc/cm/sec)と表記する]。
【0042】
比較例2
実施例1と同形状、同寸法のアクリル樹脂製の筒状部11及び消音器部13を備える吸気ダクト15を用いた(図6参照)。実施例1と同様にして測定した通気性は、筒状部11、消音器部13ともに測定下限値未満であった[表1には(0cc/cm/sec)と表記する]。
【0043】
比較例3
実施例1と同材質、同形状、同寸法の繊維製の筒状部3からなる吸気ダクト17を、消音器用成形部を有さない他は、実施例1と同様の2個の半割体を用いて、実施例1と同様にして製造した(図7参照)。実施例1と同様にして測定した筒状部3の通気性は3.0cc/cm/secであった。
【0044】
比較例4
実施例1と同材質、同形状、同寸法の繊維製の筒状部を、消音器用成形部を有さない他は、実施例1と同様の2個の半割体を用いて、実施例1と同様にして作製した。その後、実施例1と同形状、同寸法のアクリル樹脂製の消音器部を、筒状部の同様の位置に設け、吸気ダクトを製造した。実施例1と同様にして測定した筒状部の通気性は3.0cc/cm/secであった。また、消音器部の通気性は測定下限値未満であった[表1には(0cc/cm/sec)と表記する]。
【0045】
比較例5
実施例1と同材質、同形状、同寸法の繊維製の筒状部及び消音器部からなる吸気ダクトを、実施例1と同様の2個の半割体を用いて、実施例1と同様にして製造した。但し、消音器部の成形壁を厚くし、通気性を有するようにした。実施例1と同様にして測定した筒状部の通気性は3.0cc/cm/secであった。また、消音器部の通気性は40.0cc/cm/secであった。
以上、実施例1及び比較例1〜5の筒状部と消音器部の各々の通気性を表1に記載する。また、下記(2)吸音性の評価における減音量を表1に併せて記載する。
【0046】
【表1】
【0047】
(2)吸音性の評価
実施例1及び比較例1〜5の各々の吸気ダクトの筒状部の一端部にスピーカを接続した試験機を作製した。その後、この試験機を、無響室に載置し、FFTアナライザに接続されたマイク(マイク1)を、筒状部の他端部の開口部の直前に固定した。また、他のマイク(マイク2)を各々の吸気ダクトの筒状部の他端部の近傍に配置した。この状態で、スピーカからホワイトノイズを発振し、そのA特性音圧レベルを測定した(スピーカ加振法参照)。図8は、筒状部の他端部の開口部の直前における測定結果を、周波数を横軸とし、測定されたA特性音圧レベルのスピーカー音圧を基準とした値に基づく減音量[dB](マイク1における音圧−マイク2における音圧)を縦軸として、それらの相関を表すグラフである。
【0048】
(3)吸気ダクトの作用
表1によれば、実施例1の吸気ダクト1では、繊維製の筒状部3の通気性は3.0cc/cm/secであり、適度な範囲内である。また、消音器部5の通気性は0.01cc/cm/secであり、実質的に通気性を有さない。その結果、表1及び図8によれば、実施例1の吸気ダクト1では、吸気時の耳障りな騒音である周波数190Hzにおける減音量が57.789dBであり、耳障りな騒音が十分に低減されていることが分かる。更に、周波数525Hzにおける減音量も32.386dBであり、広帯域における定在波による騒音も十分に低減されていることが分かる(図3の定在波7が減衰されている減衰波7a参照)。
【0049】
一方、樹脂製の筒状部11のみを備える比較例1の吸気ダクト9(図5参照)では、周波数190Hzにおける減音量は実施例1と比べて少なく、周波数525Hzでは減音量は極めて少ない。このように、広帯域における定在波の減衰は殆どなされないことが分かる(定在波7が全く減衰されていない図5参照)。また、樹脂製の筒状部11と樹脂製の消音器部13とを備える比較例2の吸気ダクト15(図6参照)では、消音器部13により周波数190Hzでの減音は十分になされるものの、広帯域における定在波の減衰は実施例1と比べて十分ではないことが分かる(図6の定在波7が減衰されている減衰波7a参照)。
【0050】
更に、繊維製の筒状部3のみを備える比較例3の吸気ダクト17では、広帯域における定在波の減衰はなされるものの(図7の定在波7が減衰されている減衰波7a参照)、消音器部がないため、周波数190Hzにおける減音は不十分である。また、繊維製の筒状部と樹脂製の消音器部とを備える比較例4では、減音効果は実施例と同等であるが、製造工程が複雑であり、コスト面でも極めて不利である。更に、繊維製の筒状部と消音器部とを備えるものの、消音器部の通気性が40.0cc/cm/secと高い比較例5では、広帯域における定在波の減衰は十分になされているものの、周波数190Hzでの減音量は少なく、劣っていることが分かる。
【0051】
尚、本発明においては、上述の具体的な実施例に限られず、目的、用途等に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。例えば、実施例では、消音器部5の成形壁を十分に薄くし、即ち、より圧縮し、成形することで、通気性を0.01cc/cm/secと極めて低くしたが、0.5cc/cm/sec以下であれば、消音器部5における通気性が少々高くても、吸気時の耳障りな騒音である周波数190Hzにおいて十分に減音することができる。
【0052】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、車両のエアクリーナーに空気を供給するための吸気ダクトの技術分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1;吸気ダクト、1a、1b;半割体、3;筒状部、3a、3b;半円筒部、5;消音器部、5a、5b;消音器用成形部、5c;接続管部、5d;消音器本体、a;第1高通気部、c;第2高通気部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8