(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044804
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ジアリルアミン酢酸塩重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 26/04 20060101AFI20161206BHJP
C08F 4/04 20060101ALI20161206BHJP
C07D 233/64 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
C08F26/04
C08F4/04
C07D233/64 105
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-84640(P2015-84640)
(22)【出願日】2015年4月17日
(62)【分割の表示】特願2012-511617(P2012-511617)の分割
【原出願日】2011年4月11日
(65)【公開番号】特開2015-166463(P2015-166463A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2015年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2010-95748(P2010-95748)
(32)【優先日】2010年4月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中田 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】高山 宏之
【審査官】
岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5846387(JP,B2)
【文献】
特開2005−002196(JP,A)
【文献】
特開昭63−023911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 26/04
C07D 233/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルアミン酢酸塩を、ラジカル重合開始剤として下記一般式(I)
【化1】
(ただし、式中、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシエチル基を示し、Q
1、Q
2はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシ基を有しても良い炭素数2〜4のアルキレン基またはアルケニレン基を示す)
で表される環状アミジンアゾ化合物のハロゲンを含まない有機酸付加塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させることを特徴とする、ジアリルアミン酢酸塩重合体の製造方法。
【請求項2】
ジアリルアミン酢酸塩のモノマー濃度が15〜60質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルアミン酢酸塩重合体の製造方法およびジアリルアミン酢酸塩重合体溶液に関する。さらに詳しくは、本発明は、ファインケミカル分野などにおいて使用する際、ノンハロゲンであるので使用しやすいジアリルアミン酢酸塩重合体を効率よく製造する方法、および従来製造することができなかったハロゲンや無機物を含まないジアリルアミン酢酸塩重合体溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジアリルアミン類塩酸塩重合体は、近年、モノマーのジアリルアミン類塩酸塩を、水溶液中、ラジカル重合触媒の存在下で重合させることにより簡単に製造でき、かつ、水溶性のカチオン系重合体であることから、工業的に製造され、金属保護処理剤、インクジェット記録関連、電子材料等の多様な分野に使用することが提案されている。
【0003】
しかしながら、ジアリルアミン類塩酸塩重合体は、ハロゲンを含むので、セラミックバインダー向けや金属に接触する分野等では腐食性の原因となることが考えられ使いにくい場合もある。そこで、ジアリルアミン類塩酸塩重合体などがファインケミカル分野へ使用されることが検討されるに伴い、ノンハロゲンの重合体が要求され始めている。
【0004】
一方、そのような重合体を製造するため、ジアリルアミン類塩酸塩重合体に酢酸アルカリ金属塩を加え、得られる混合物をイオン交換膜電気透析処理することによりハロゲンである塩化物イオンを除去して、ノンハロゲンのジアリルアミン類酢酸塩重合体を製造することが知られている(特許文献1)。また、ジアリルアミン類塩酸塩重合体を水酸化ナトリウムで中和しながら脱塩処理して塩化物イオンを取り除き、遊離のジアリルアミン類重合体を製造することが知られている(特許文献2)。しかし、これらの方法では時間と製造コストがかかり、しかも、完全にノンハロゲンの重合体を製造することはできにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−2196号公報
【特許文献2】特開2006−45309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、ファインケミカル分野などにおいて使用する際、完全にノンハロゲンであるので使用しやすいジアリルアミン酢酸塩重合体を効率よく製造する方法、およびジアリルアミン酢酸塩重合体溶液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ジアリルアミン酢酸塩を、ラジカル重合開始剤として特定の環状アミジンアゾ化合物の有機酸付加塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させると効率よく、かつハロゲンや無機物を完全に含むことのないジアリルアミン酢酸塩重合体、およびジアリルアミン酢酸塩重合体溶液を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]ジアリルアミン酢酸塩を、ラジカル重合開始剤として下記一般式(I)
【化1】
(ただし、式中、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシエチル基を示し、Q
1、Q
2はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシ基を有しても良い炭素数2〜4のアルキレン基またはアルケニレン基を示す)
で表される環状アミジンアゾ化合物の有機酸付加塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させることを特徴とする、ジアリルアミン酢酸塩重合体の製造方法。
[2]有機酸付加塩が酢酸付加塩である、上記[1]に記載の製造方法。
[3]ジアリルアミン酢酸塩のモノマー濃度が15〜60質量%である、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]ハロゲン及び無機物を含まない、ジアリルアミン酢酸塩重合体溶液。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ファインケミカル分野などに使用可能な、ノンハロゲンで使用しやすいジアリルアミン酢酸塩重合体を短時間かつ低コストで効率よく工業的に製造することができる。さらに、本発明によれば、ジアリルアミン酢酸塩重合体溶液を完全にハロゲンと無機物を含むことなく得ることができる。本発明により得られるジアリルアミン酢酸塩重合体溶液は、ハロゲンや無機物を含まないことが必要とされるファインケミカル分野に寄与すること大である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のジアリルアミン酢酸塩重合体の製造方法は、ジアリルアミン酢酸塩を、ラジカル重合開始剤として下記一般式(I)
【化2】
(ただし、式中、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシエチル基を示し、Q
1、Q
2はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシ基を有しても良い炭素数2〜4のアルキレン基またはアルケニレン基を示す)
で表される環状アミジンアゾ化合物の有機酸付加塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させることを特徴とする。
【0011】
本発明において、ジアリルアミンとは、(CH
2=CHCH
2)
2NHという化学式で表され、CAS番号が124−02−7である狭義のジアリルアミンである。本発明に用いるジアリルアミン酢酸塩は、単離したジアリルアミン酢酸塩をそのまま用いても良いし、また、重合溶媒として用いられる水または極性溶媒と、ジアリルアミンと酢酸とを混合させたものを用いることができる。
【0012】
本発明においては、本発明の目的を損なわない限り、重合モノマーとしてジアリルアミン酢酸塩以外に、他のモノマーを、ジアリルアミン酢酸塩に対し好ましくは15モル%以下、より好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下加えて共重合させることもできる。そのような他のモノマーとしては、アクリルアミド、メタアクリルアミド、二酸化イオウ等を例示することができる。
【0013】
本発明において用いられるラジカル重合開始剤は、下記一般式(I)
【化3】
で表される環状アミジンアゾ化合物の有機酸付加塩である。
【0014】
ラジカル重合開始剤中の環状アミジンアゾ化合物においては、式中、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を示す。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基を例示できる。R
5、R
6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシエチル基を示す。
Q
1、Q
2はそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基またはアルケニレン基を示すが、この場合、炭素数1〜3のアルキル基またはヒドロキシ基を有する炭素数2〜4のアルキレン基またはアルケニレン基でも良い。
Q
1、Q
2が炭素数2〜4のアルキレン基の場合、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基を例示できる。Q
1、Q
2が炭素数2〜4のアルケニレン基の場合、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基を例示できる。
【0015】
環状アミジンアゾ化合物としては、具体的には、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]を例示できる。
【0016】
本発明に用いられるラジカル重合開始剤中の付加塩の有機酸としては、ハロゲンを含まない有機酸が好ましく、ハロゲンを含まない有機カルボン酸、ハロゲンを含まない有機スルホン酸を例示できる。ハロゲンを含まない有機カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸等を例示できる。ハロゲンを含まない有機スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸等を例示できる。ハロゲンを含まない有機酸としては、得られる重合体の取り扱いや水溶性の点から酢酸が最も好ましい。環状アミジンアゾ化合物は1分子が2つのアミジノ基を有するので、その有機酸が1塩基性有機酸の場合、付加塩にするための有機酸の量は、環状アミジンアゾ化合物の2倍モル量が好ましい。有機酸付加塩にするための有機酸が2塩基性有機酸の場合、その有機酸の量は、環状アミジンアゾ化合物の等倍モル量が好ましい。なお、ラジカル重合開始剤として付加塩でないフリーの環状アミジンアゾ化合物を用いた場合、重合収率は低くなる。
【0017】
本発明に用いられるラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二酢酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二酢酸塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二酢酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二酢酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二酢酸塩、2,2’−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]二酢酸塩を例示できる。
【0018】
本発明において、重合溶媒は、水または極性溶媒である。極性溶媒としては、アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を例示でき、これら有機溶媒と水との混合溶媒を用いても良い。重合溶媒は、安全性、取り扱い性、用途としての汎用性から水単独が最も好ましい。
【0019】
本発明に用いられるラジカル重合開始剤の量は、重合収率を高くするために、通常の重合反応に比べ多く使うことが好ましく、用いるジアリルアミン酢酸塩に対し、3モル%以上が好ましく、4〜30モル%がさらに好ましく、5〜20モル%が特に好ましい。
【0020】
重合温度は、開始剤の化学構造により異なるが、30〜100℃が好ましく、40〜70℃がさらに好ましい。
【0021】
一般的なカチオン系単量体の重合では、出発モノマー濃度は、その溶解度の範囲内で高いほう、例えば60質量%を超えることが重合収率的に好ましいが、本発明においては、出発原料のアリルアミン酢酸塩のモノマー濃度は、重合収率を高くする観点から10〜70質量%が好ましく、なかでも15〜60質量%がより好ましく、意外にも20〜55質量%が特に好ましい。
【0022】
本発明においては、モノマー濃度がその範囲内では、例えば、ジアリルアミン酢酸塩重合体は重合収率が高く、例えば、70%以上で得られる。また、その重量平均分子量は2000〜6500となり、モノマー濃度を換えることにより、種々の分子量の重合体を得ることができる。
【0023】
本発明においては、ラジカル重合開始剤の付加塩にハロゲンを含まない有機酸を用いているので、重合反応の後、ハロゲン及び無機物を全く含まないジアリルアミン酢酸塩重合体を溶液としても得ることができる。このことは、イオンクロマトグラフの測定結果からも確認できている。この場合、種々の用途に、そのまま、その溶液を特に精製することなく用いることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0025】
なお、得られた重合体の重量平均分子量および重合収率は、日立L−6000型高速液体クロマトグラフィーを使用し、GPC法によって測定した。溶離液流路ポンプは日立L−6000、検出器はショーデクスRI SE−61示差屈折率検出器、カラムはアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS−220HQ(排除限界分子量3000)とGS−620HQ(排除限界分子量200万)とをダブルに接続したものを用いた。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調製し、20μlを用いた。溶離液には0.4モル/リットルの塩化ナトリウム水溶液を使用した。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施した。標準サンプルとして分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000の10種のポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に、重合体の重量平均分子量を求めた。さらにクロマトグラムの各成分のピーク面積から、重合収率を算出した。
【0026】
[実施例1〜5]
[本発明の方法によるジアリルアミン酢酸塩重合体の合成]
攪拌機、冷却管、温度計を備えた300mL四つ口セパラブルフラスコ中で、種々のモノマー濃度(質量%)のジアリルアミン酢酸塩(140.0g)の水溶液を加え、60℃に加熱した。次いで、その水溶液に2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](VA−061,和光純薬工業製)二酢酸塩(ジアリルアミン酢酸塩のモル数に対して6モル%分)の水溶液を加え、同温度で重合を18時間行った。反応終了後、得られたジアリルアミン酢酸塩重合体水溶液のサンプルをGPCに付し、重量平均分子量、重合収率を求めた。結果を表1に示す。重合時のモノマー濃度20〜60質量%の範囲内で高収率、すなわち、78%以上で目的の重合体を得ることができた。また、その重量平均分子量は、2400〜6200となり、モノマー濃度を換えることにより、種々の分子量の重合体を得ることができた。得られた重合体は、燃焼型前処理装置付イオンクロマトグラフで測定するといずれも塩素が検出されなかった(検出限界が重合体換算で50ppm以下)。また、それらの重合体は、灰分測定(600℃1時間加熱残分測定)では、無機物はなかった(検出限界が重合体換算で0.1%以下)。
【0027】
【表1】
【0028】
[比較例1]
[過硫酸アンモニウムを用いたジアリルアミン酢酸塩重合体の合成]
開始剤として、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]の酢酸付加塩の代わりに過硫酸アンモニウムを用いた以外は、実施例4と同様に操作したところ、重量平均分子量は、5000であり、重合収率は30%であった。
【0029】
[比較例2]
[環状アミジンアゾ化合物非付加塩を用いたジアリルアミン酢酸塩重合体の合成]
開始剤として、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]の酢酸付加塩の水溶液の代わりに2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]を粉末として加えモノマー濃度65%に変化した以外は、実施例4と同様に操作したところ、重量平均分子量は2800であり、重合収率は41%であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、従来得られなかった完全にハロゲンと無機物を含まないジアリルアミン酢酸塩重合体を、短時間かつ低コストで効率よく工業的に製造することができる。本発明により得られるジアリルアミン酢酸塩重合体、及びジアリルアミン酢酸塩重合体溶液は、ハロゲンや無機物を含まないことが必要とされるファインケミカル分野などに使用可能である。