特許第6044809号(P6044809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044809非水電解質二次電池用活物質、非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044809
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用活物質、非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20161206BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20161206BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01M4/505
   C01G53/00 A
   H01M4/525
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-132389(P2015-132389)
(22)【出願日】2015年7月1日
(62)【分割の表示】特願2014-500049(P2014-500049)の分割
【原出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-213080(P2015-213080A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2015年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-31949(P2012-31949)
(32)【優先日】2012年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−197256(JP,A)
【文献】 特開2011−154997(JP,A)
【文献】 特開2002−100356(JP,A)
【文献】 特開2009−032655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−NaFeO型結晶構造を有し、組成式Li1+αMe1−α(MeはMn、Ni及びCoを含む遷移金属元素、0<α<1)で表され、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meが0.02〜0.23であり、(1+α)/(1−α)≦1.425であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用活物質であって、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.20°〜0.27°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.26°〜0.39°であり、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したときに、エックス線回折図上、六方晶(空間群R3−m)に帰属される単一相として観察されるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.63〜0.72であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用活物質。
【請求項3】
前記非水電解質二次電池用活物質は、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.208°〜0.247°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.266°〜0.335°であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用活物質。
【請求項4】
前記非水電解質二次電池用活物質は、粒度分布測定における50%粒子径(D50)が8μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解質二次電池用活物質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用活物質を含有する非水電解質二次電池用電極。
【請求項6】
請求項5に記載の非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用活物質及びそれを用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質二次電池には、正極活物質として主にLiCoOが用いられている。しかし、放電容量は120〜130mAh/g程度であった。
【0003】
LiCoOを他の化合物と固溶体を形成させた材料が知られている。α−NaFeO型結晶構造を有し、LiCoO、LiNiO及びLiMnOの3つの成分の固溶体であるLi[Co1−2xNiMn]O(0<x≦1/2)」が、2001年に発表された。前記固溶体の一例である、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150〜180mAh/gの放電容量を有しており、充放電サイクル性能の点でも優れる。
【0004】
上記のようないわゆる「LiMeO型」活物質に対し、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるいわゆる「リチウム過剰型」活物質が知られている。このような材料は、Li1+αMe1−α(α>0)と表記することができる。ここで、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meをβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0005】
特許文献1には、このような活物質の一種であり、Li[Li1/3Mn2/3]O、LiNi1/2Mn1/2及びLiCoOの3つの成分の固溶体として表すことのできる活物質が記載されている。また、前記活物質を用いた電池の製造方法として、4.3V(vs.Li/Li)を超え4.8V以下(vs.Li/Li)の正極電位範囲に出現する、電位変化が比較的平坦な領域に少なくとも至る充電を行う製造工程を設けることにより、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下である充電方法が採用された場合であっても、177mAh/g以上の放電容量が得られる電池を製造できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、従来のいわゆる「リチウム過剰型」正極活物質は、いわゆる「LiMeO」正極活物質と比較して、放電性能が十分では無いという問題点があった。特に低温環境下、及び、放電中期から放電末期に至る領域、即ち、低SOC(State of Charge)領域において、出力性能に劣るという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−086690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、放電容量の大きい非水電解質二次電池用活物質、及び、それを用いた非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0010】
本発明の第一は、α−NaFeO型結晶構造を有し、組成式Li1+αMe1−α(MeはMn、Ni及びCoを含む遷移金属元素、0<α<1)で表され、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meが0.02〜0.23であり、(1+α)/(1−α)≦1.425であるリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用活物質であって、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.20°〜0.27°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.26°〜0.39°であり、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したときに、エックス線回折図上、六方晶(空間群R3−m)に帰属される単一相として観察されるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用活物質である。
【0011】
本発明の第二は、前記非水電解質二次電池用活物質は、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.208°〜0.247°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.266°〜0.335°であることを特徴としている。
【0012】
本発明の第三は、前記非水電解質二次電池用活物質は、粒度分布測定における50%粒子径(D50)が8μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のリチウム二次電池用活物質。
【0013】
また、本発明は、前記非水電解質二次電池用活物質を含有する非水電解質二次電池用電極である。
【0014】
また、本発明は、前記非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第一によれば、放電容量が大きい非水電解質二次電池用活物質を提供できる。
本発明の第二によれば、上記効果に加え、低温時の放電容量に優れた非水電解質二次電池用活物質を提供できる。
本発明の第三によれば、上記効果に加え、低温時の出力性能に優れた非水電解質二次電池用活物質を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
組成式Li1+αMe1−αにおいて(1+α)/(1−α)で表される遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、Li/Me≦1.425とすることで、放電容量が大きい非水電解質二次電池を得ることができる。
【0017】
前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素を構成するCo、Ni及びMn等の元素の比率は、求められる特性に応じて任意に選択することができる。
【0018】
放電容量が大きく、初期充放電効率が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.02〜0.23が好ましく、0.04〜0.21がより好ましく、0.06〜0.17が最も好ましい。
【0019】
また、放電容量が大きく、初期充放電効率が優れた非水電解質二次電池を得ることができるという点で、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.63〜0.72が好ましく、0.65〜0.71がより好ましい。
【0020】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、本質的に、金属元素としてLi、Co、Ni及びMnを含む複合酸化物であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、少量のNa,Ca等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、Fe、Cu等の3d遷移金属に代表されるような遷移金属、Zn、In等の金属を含有することを排除するものではない。
【0021】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群P312に帰属され、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも充電を行い、結晶中のLiが脱離すると結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P312は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0022】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、六方晶の空間群P312あるいはR3−mのいずれかに帰属され、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.20°〜0.27°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.26°〜0.39°であることを特徴としている。なお、2θ=18.6°±1°の回折ピークは、空間群P312及びR3−mではミラー指数hklにおける(003)面に、2θ=44.1°±1°の回折ピークは、空間群P312では(114)面、空間群R3−mでは(104)面にそれぞれ指数付けされる。
【0023】
さらに、本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したときに、エックス線回折図上、六方晶(空間群R3−m)に帰属される単一相として観察されるものであることを特徴としている。具体的な確認方法は、後述する実施例に記載する通りである。
【0024】
ここで、「エックス線回折図上六方晶構造の単一相として観察される」との要件を満たすには、エックス線回折測定によって得られた回折パターンのうち、最大強度を示すピークを回折図のフルスケール内に収まるように描画したとき、目視上、六方晶の(003)面に帰属されるピークにスプリットが観察されないことをもって足る。
【0025】
又、本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、粒度分布測定における50%粒子径(D50)が8μm以下であることを特徴としている。
【0026】
次に、本発明の非水電解質二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明の非水電解質二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を、目的とする活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)の組成通りに含有するように原料を調整し、最終的にこの原料を焼成すること、によって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0027】
目的とする組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を作製するための方法として、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくい。このため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。本発明に係る非水電解質二次電池用活物質を製造するにあたり、前記「固相法」と前記「共沈法」のいずれを選択するかについては限定されるものではない。しかしながら、「固相法」を選択した場合には、本発明に係る正極活物質を製造することは極めて困難である。「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である点で好ましい。
【0028】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。なかでも、後述する実施例のように、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0029】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電特性を向上させることができる。さらに、pHを8.5未満とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の攪拌継続時間を短縮できる。
【0030】
前記共沈前駆体は、MnとNi及びCoとが均一に分布した化合物であることが好ましい。ただし前駆体は炭酸塩に限定されるものではなく、他にも水酸化物、クエン酸塩などの元素が均一に分布した難溶性塩であれば水酸化物と同様に使用することができる。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0031】
前記共沈前駆体の作製に用いる原料としては、アルカリ水溶液と沈殿反応を形成するものであればどのような形態のものでも使用することができるが、好ましくは溶解度の高い金属塩を用いるとよい。
【0032】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0033】
共沈法において、アルカリ性を保った反応槽に前記共沈前駆体の原料水溶液を滴下供給して共沈前駆体を得るが、ここで、前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下スピードについては、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、10ml/min以下が好ましく、5ml/min以下とすることがより好ましい。後述する比較例に示されるように、30ml/minという速い速度では、得られる共沈前駆体のCo、Ni、Mnの元素分布が不均一となるために、合成後のリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造が不安定になる場合がある。
【0034】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0035】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、15h以下が好ましく、10h以下がより好ましく、5h以下が最も好ましい。
又、リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子のD50を8μm以下とするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えばpHを8.3〜9.0に制御した場合には、攪拌継続時間は4〜5hが好ましく、pHを7.6〜8.2に制御した場合には、攪拌継続時間は1〜3hが好ましい。
【0036】
本発明における非水電解質二次電池用活物質は前記共沈前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。
【0037】
可逆容量の大きな活物質を得るにあたって、焼成温度の選択は極めて重要である。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って分相すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相として観察される傾向があり、このような材料は、活物質の可逆容量が大きく減少するので好ましくない。このような材料では、CuKα管球を用いたエックス線回折図上2θ=35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが重要である。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(TG−DTA測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0038】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性も大きく低下するので好ましくない。焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが必要である。十分に結晶化させることは結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すために重要である。結晶化の度合いの見極め方として走査型電子顕微鏡を用いた視覚的な観察が挙げられる。本発明の正極活物質について走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、試料合成温度が800℃以下ではナノオーダーの一次粒子から形成されているものであったが、さらに試料合成温度を上昇させることでサブミクロン程度まで結晶化するものであり、電極特性向上につながる大きな一次粒子を得られるものであった。
また、発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することで800℃までの温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が1%以下、かつ結晶子サイズが100nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電をおこなうことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは50nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。即ち、焼成温度を上記した活物質の酸素放出温度にできるだけ近付けるように選択することにより、はじめて、可逆容量が顕著に大きい活物質を得ることができる。
【0039】
上記のように、好ましい焼成温度は、活物質の酸素放出温度により異なるから、一概に焼成温度の好ましい範囲を設定することは難しいが、組成比率Li/Meが1.25〜1.60である場合に放電容量を充分なものとするために、焼成温度を800〜1000℃とすることが好ましく、さらにいえば、組成比率Li/Meが1.5を下回る場合には800〜900℃付近が好ましい。本発明においては、組成比率Li/Meが1.25〜1.425であるから、800〜900℃付近が好ましく、850〜900℃とすることがより好ましい。
【0040】
焼成工程を経て得られるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子形状及び粒子径は、焼成前の前駆体の粒子形状及び粒子径がほぼ維持されるが、常温から焼成温度までの昇温速度は、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶粒子の成長程度に影響を与える。よって、昇温速度は、200℃/h以下が好ましく、100℃/h以下がより好ましい。
【0041】
本発明に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−CNClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0043】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0044】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0045】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0046】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0047】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0048】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0049】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0050】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0051】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0052】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0053】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練して合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0054】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0055】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0056】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0057】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0058】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0059】
非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0060】
従来の正極活物質も、本発明の活物質も、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られる非水電解質二次電池が求められる場合がある。本発明の活物質を用いると、一度、4.5V(vs.Li/Li)付近の正極電位範囲に充電電気量に対して出現する電位変化が比較的平坦な領域以上まで充電を行った後に、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li)以下や4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g(0.1CmA)以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
【0061】
本発明に係る正極活物質が、高い放電容量を備えたものとするためには、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素が層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分に存在する割合が小さいものであることが好ましい。これは、焼成工程に供する前駆体において、Co,Ni,Mnといった遷移金属元素が十分に均一に分布していること、及び、活物質試料の結晶化を促すための適切な焼成工程の条件を選択することによって達成できる。焼成工程に供する前駆体中の遷移金属の分布が均一でない場合、十分な放電容量が得られないものとなる。この理由については必ずしも明らかではないが、焼成工程に供する前駆体中の遷移金属の分布が均一でない場合、得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、層状岩塩型結晶構造の遷移金属サイト以外の部分、即ちリチウムサイトに遷移金属元素の一部が存在するものとなる、いわゆるカチオンミキシングが起こることに由来するものと本発明者は推察している。同様の推察は焼成工程における結晶化過程においても適用でき、活物質試料の結晶化が不十分であると層状岩塩型結晶構造におけるカチオンミキシングが起こりやすくなる。前記遷移金属元素の分布の均一性が高いものは、CuKα管球を用いたエックス線回折図上、空間群P312に帰属され、ミラー指数hklにおける(003)面と(114)面の回折ピークの強度比が大きいものとなる傾向がある。本発明において、(003)面と(114)面の回折ピークの強度比は、I(003)/I(114)>1であることが好ましい。また、充放電を行った後の放電末期状態においては、エックス線回折図上、空間群R3−mに帰属され、ミラー指数hklにおける(003)面と(104)面の回折ピークの強度比が、I(003)/I(104)>1であることが好ましい。前駆体の合成条件や合成手順が不適切である場合、前記ピーク強度比はより小さい値となり、しばしば1未満の値となる。
【0062】
本願明細書に記載した合成条件及び合成手順を採用することにより、上記のような高性能の正極活物質を得ることができる。とりわけ、充電上限電位を4.5V(vs.Li/Li)より低く設定した場合、例えば4.4V(vs.Li/Li)や4.3V(vs.Li/Li)といった充電上限電位を設定した場合でも高い放電容量を得ることができる非水電解質二次電池用正極活物質とすることができる。
【0063】
(実施例1)
硫酸コバルト7水和物14.08g、硫酸ニッケル6水和物21.00g及び硫酸マンガン5水和物65.27gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co:Ni:Mnのモル比が12.50:19.94:67.56となる2.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2Lの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、COガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCOを溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、2.0Mの炭酸ナトリウム及び0.4Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に7.9(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
【0064】
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、100℃にて乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
【0065】
前記共沈炭酸塩前駆体2.278gに、炭酸リチウム0.970gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が130:100である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から800℃まで10時間かけて昇温し、800℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0066】
(実施例2)
焼成工程において、常温から825℃まで10時間かけて昇温し、825℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0067】
(実施例3)
焼成工程において、常温から850℃まで10時間かけて昇温し、850℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、実施例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0068】
(実施例4)
焼成工程において、常温から875℃まで10時間かけて昇温し、875℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、実施例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0069】
(実施例5)
焼成工程において、常温から900℃まで10時間かけて昇温し、900℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0070】
(実施例6)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例1と同様の手順で、実施例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0071】
(実施例7)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例2と同様の手順で、実施例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0072】
(実施例8)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例3と同様の手順で、実施例8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0073】
(実施例9)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例4と同様の手順で、実施例9に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0074】
(実施例10)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0075】
(実施例11)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を5hに変更したことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例11に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0076】
(実施例12)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を10hに変更したことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例12に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0077】
(実施例13)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を15hに変更したことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例13に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0078】
(実施例14)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を20hに変更したことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例14に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0079】
(実施例15)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.304gに、炭酸リチウム0.943gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が125:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例15に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0080】
(実施例16)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.291gに、炭酸リチウム0.957gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が127.5:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例16に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0081】
(実施例17)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.265gに、炭酸リチウム0.983gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が132.5:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例17に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0082】
(実施例18)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.253gに、炭酸リチウム0.996gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が135:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例18に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0083】
(実施例19)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.241gに、炭酸リチウム1.009gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が137.5:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0084】
(実施例20)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.228gに、炭酸リチウム1.022gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が140:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例20に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0085】
(実施例21)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.216gに、炭酸リチウム1.035gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が142.5:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例21に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0086】
(実施例22)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例15と同様の手順で、実施例22に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0087】
(実施例23)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例16と同様の手順で、実施例23に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0088】
(実施例24)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例17と同様の手順で、実施例24に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0089】
(実施例25)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例18と同様の手順で、実施例25に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0090】
(実施例26)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例19と同様の手順で、実施例26に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0091】
(実施例27)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例20と同様の手順で、実施例27に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0092】
(実施例28)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液の滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに継続する時間を1hに変更したことを除いては、実施例21と同様の手順で、実施例28に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0093】
(実施例29)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液を滴下する速度を10ml/minとしたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例29に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0094】
(実施例30)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、硫酸塩水溶液が含有するCo:Ni:Mnのモル比が4.00:28.44:67.56としたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例30に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0095】
(実施例31)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、硫酸塩水溶液が含有するCo:Ni:Mnのモル比が21.00:11.44:67.56としたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例31に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0096】
(実施例32)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、硫酸塩水溶液が含有するCo:Ni:Mnのモル比が12.50:24.50:63.00としたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例32に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0097】
(実施例33)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、硫酸塩水溶液が含有するCo:Ni:Mnのモル比が12.50:15.50:72.00としたことを除いては、実施例5と同様の手順で、実施例33に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0098】
(比較例1)
焼成工程において、常温から700℃まで10時間かけて昇温し、700℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0099】
(比較例2)
焼成工程において、常温から750℃まで10時間かけて昇温し、750℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0100】
(比較例3)
焼成工程において、常温から950℃まで10時間かけて昇温し、950℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0101】
(比較例4)
焼成工程において、常温から1000℃まで10時間かけて昇温し、1000℃で4h焼成したことを除いては、実施例1と同様の手順で、比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0102】
(比較例5)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.204gに、炭酸リチウム1.047gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が145:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例5と同様の手順で、比較例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0103】
(比較例6)
ペレット成型に供する混合粉体として、実施例1で作製した共沈炭酸塩前駆体2.204gに、炭酸リチウム1.047gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が145:100である混合粉体を用いたことを除いては、実施例10と同様の手順で、比較例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0104】
(比較例7)
共沈炭酸塩前駆体の作製工程において、前記硫酸塩水溶液を滴下する速度を30ml/minとしたことを除いては、実施例5と同様の手順で、比較例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0105】
(比較例8)
炭酸リチウム(LiCO)と水酸化コバルト(Co(OH))と水酸化ニッケル(Ni(OH))とオキシ水酸化マンガン(MnOOH)とを、Li、Co、Ni、Mnの各元素が、130:12.5:19.94:67.56の比率となるように秤量し、乳鉢をもちいて各原料を十分に混合および粉砕し、原料混合物を得た。前記原料混合物から3gを取り出し、空気中において900℃で10時間焼成した。このようにして、比較例8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0106】
実施例1〜33及び比較例1〜8の製造条件を表1に整理して示す。
【0107】
【表1】
【0108】
実施例1〜29及び比較例1〜8に係るリチウム遷移金属複合酸化物の組成分析の結果、遷移金属Meの組成比率が、Co:Ni:Mn=12.5:19.94:67.56であり、実施例30〜33については、それぞれ、Co:Ni:Mn=4.0:28.44:67.56、21.00:11.44:67.56、12.5:24.5:63.0、12.5:15.5:72.0であること、Li/Me比率は表1の「Li/Me比」の欄の数値と同一であることが確認された。
【0109】
(半値幅の測定)
実施例1〜33及び比較例1〜8に係るリチウム遷移金属複合酸化物について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて粉末エックス線回折測定を行った。線源はCuKα、加速電圧及び電流はそれぞれ30kV及び15mAとした。得られたエックス線回折データについて、前記エックス線回折装置の付属ソフトである「PDXA」を用いて、エックス線回折図上2θ=18.6°±1°及び2θ=44.1°±1°に存在する回折ピークについて半値幅を決定した。測定された回折ピークの半値幅を表2に示す。
【0110】
また、実施例1〜33及び比較例1〜8に係るリチウム遷移金属複合酸化物(電気化学的に酸化される前の活物質)は、いずれも、前記粉末エックス線回折測定の結果、α−NaFeO型結晶構造を有し、空間群P312に帰属される単一相であることが認められた。
【0111】
(粒径の測定)
実施例1〜33及び比較例1〜8に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、次の条件及び手順に沿って粒度分布測定を行った。測定装置には日機装社製Microtrac (型番:MT3000)を用いた。前記測定装置は、光学台、試料供給部及び制御ソフトを搭載したコンピューターを備えており、光学台にはレーザー光透過窓を有する湿式セルが設置される。測定原理は、測定対象試料が分散溶媒中に分散している分散液が循環している湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料からの散乱光分布を粒度分布に変換する方式である。前記分散液は試料供給部に蓄えられ、ポンプによって湿式セルに循環供給される。前記試料供給部は、常に超音波振動が加えられている。今回の測定では、分散溶媒として水を用いた。又、測定制御ソフトにはMicrotrac DHS for Win98(MT3000)を使用した。前記測定装置に設定入力する「物質情報」については、溶媒の「屈折率」として1.33を設定し、「透明度」として「透過(TRANSPARENT)」を選択し、「球形粒子」として「非球形」を選択した。試料の測定に先立ち、「Set Zero」操作を行う。「Set zero」操作は、粒子からの散乱光以外の外乱要素(ガラス、ガラス壁面の汚れ、ガラス凹凸など)が後の測定に与える影響を差し引くための操作であり、試料供給部に分散溶媒である水のみを入れ、湿式セルに分散溶媒である水のみが循環している状態でバックグラウンド操作を行い、バックグラウンドデータをコンピューターに記憶させる。続いて「Sample LD (Sample Loading)」操作を行う。Sample LD操作は、測定時に湿式セルに循環供給される分散液中の試料濃度を最適化するための操作であり、測定制御ソフトの指示に従って試料供給部に測定対象試料を手動で最適量に達するまで投入する操作である。続いて、「測定」ボタンを押すことで測定操作が行われる。前記測定操作を2回繰り返し、その平均値として測定結果がコンピューターから出力される。測定結果は、粒度分布ヒストグラム、並びに、D10、D50及びD90の各値(D10、D50及びD90は、二次粒子の粒度分布における累積体積がそれぞれ10%、50%及び90%となる粒度)として取得される。測定されたD50の値を「D50粒子径(μm)」として表2に示す。
【0112】
(非水電解質二次電池の作製)
実施例1〜33及び比較例1〜8のそれぞれのリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製し、電池特性を評価した。
【0113】
正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、質量比85:8:7の割合で混合した。この混合物を、分散媒としてN−メチルピロリドンを加えて混練分散し、塗布液を調製した。なお、PVdFについては、固形分が溶解分散された液を用いることによって、固形質量換算した。該塗布液を厚さ20μmのアルミニウム箔集電体に塗布し、正極板を作製した。
【0114】
対極(負極)には、正極の単独挙動を観察するため、リチウム金属を用いた。このリチウム金属は、ニッケル箔集電体に密着させた。ただし、非水電解質二次電池の容量が十分に正極規制となるような調製が実施された。
【0115】
電解液としては、EC/EMC/DMCの体積比が6:7:7である混合溶媒に、LiPF6を、その濃度が1mol/lとなるように溶解させたものを用いた。セパレータとしては、ポリアクリレートを用いて表面改質することによって電解質の保持性を向上させた、ポリプロピレン製の微孔膜を用いた。また、ニッケル板にリチウム金属箔をはりつけたものを、参照極として用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用いた。この外装体に、正極端子、負極端子および参照極端子の開放端部が、外部に露出するように電極を収納した。前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を、注液孔となる部分を除いて、気密封止した。
【0116】
上記のようにして作製された非水電解質二次電池を、25℃に設定した恒温槽に移し、2サイクルの初期充放電工程を実施した。充電は、電流0.1CmA、電位4.6Vの定電流定電圧充電とした。充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。放電は、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、30分の休止時間を設定した。このようにして、実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0117】
(放電試験)
完成した非水電解質二次電池について、次の手順にて高率放電試験を行った。まず、電流0.1CmA、電圧4.3Vの定電流定電圧充電を行った。30分の休止後、電流1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を行い、このときの放電容量を「放電容量(mAh/g)」として記録した。
【0118】
(低温放電試験)
次に、次の手順にて低温放電試験を行った。まず、電流0.1CmA、電圧4.3Vの定電流定電圧充電を行った。充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。30分の休止後、恒温槽の温度を0℃に設定し、槽内の温度が0℃になってから1時間経過後、電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を行い、このときの放電容量を「低温放電容量(mAh/g)」として記録した。この結果を表2に示す。
【0119】
(低SOC領域における出力試験)
続いて、恒温槽の設定温度を25℃に戻し、槽内の温度が25℃になってから1時間経過後、電流0.1CmA、電圧4.3Vの定電流定電圧充電を行い、このときの充電電気量を計測した。30分の休止後、電流0.1CmAの定電流放電を行い、前記充電電気量に対して70%の電気量を通電した時点で放電を休止した。
【0120】
放電休止後から30分後、各率放電電流でそれぞれ1秒放電する試験を行った。具体的には、まず、電流0.1CmAにて1秒放電し、2分の休止後、電流0.1CmAにて1秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流1CmAにて1秒放電し、2分の休止後、電流0.1CmAにて10秒の補充電を行った。さらに2分の休止後、電流2CmAにて1秒放電し、2分の休止後、電流0.1CmAにて20秒の補充電を行った。以上の結果を各率放電の1秒後の電圧をその電流値に対してプロットし、最小二乗法によるフィッティングを行ったグラフの切片及び傾きから、直流抵抗Rと放電電流0CmAの擬似的な電圧値であるE0をそれぞれ算出した。放電終止電圧を2.5Vと仮定し、次式により、SOC30%における出力を求めた。このときの出力を「SOC30%出力(W)」として記録した。この結果を表2に示す。
SOC30%出力(W) = 2.5 × (E0 − 2.5) / R
【0121】
前記低SOC出力試験を行った後の電池は、さらに電流0.1CmA、終止電圧2.0Vの定電流電流0.1CmA、電圧5.0Vの定電流定電圧充電を行った。充電終止条件については、電流値が0.02CmAに減衰した時点とした。充電後の電池について、ドライルーム内にて電池を解体して正極板を取り出した。取り出した正極板は、洗浄等の操作を行わず、合材が集電体に接着した状態のまま測定用試料ホルダーに貼付し、CuKα線源を用いたエックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)によりエックス線回折測定を行った。
【0122】
ここで得られた各正極のエックス線回折図において、5.0Vまで充電を行った正極活物質が、放電状態の活物質と同じ結晶構造、即ち、α−NaFeO型結晶構造を有し、空間群R3−mに帰属される単一相であるか否かを確認した。この結果、空間群R3−mの単一相として帰属可能であったものは「○」、複数の相が確認されたものは「×」として、表2の「結晶構造(単一相)」欄に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
表2からわかるように、CuKα管球を用いたエックス線回折図上2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.20°〜0.27°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.26°〜0.39°であり、かつ、電位5.0V(vs.Li/Li)まで電気化学的に酸化したときに、エックス線回折図上、空間群R3−mに帰属される単一相として観察される、実施例1〜33に係るリチウム遷移金属複合酸化物を用いることにより、1CmA放電時の放電容量を優れたものとすることができる。これらの要件を満たさない比較例1〜4、7及び8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合には、高い放電容量が得られない。また、比較例5及び6のように、回折ピークの半値幅が本発明の規定を満たし、電気化学的に酸化したときに空間群R3−mに帰属される単一相として観察されても、Li/Me比が1.425を上回るリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合には、放電容量は低くなる。
【0125】
また、実施例1〜33の中でも、エックス線回折図上2θ=18.6°±1°の回折ピークの半値幅が0.208°〜0.247°又は/及び、2θ=44.1°±1°の回折ピークの半値幅が0.266°〜0.335°の範囲にある実施例3〜5、8〜33に係るリチウム遷移金属複合酸化物を用いることにより、低温における放電容量を優れたものとすることができることがわかった。
【0126】
さらに、実施例3〜5、8〜33の中でも、D50が8μm以下の範囲にある実施例3〜5、8〜10、15〜33に係るリチウム遷移金属複合酸化物を用いることにより、非水電解質二次電池の低SOC領域における出力性能を優れたものとすることができることがわかった。
【0127】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物の半値幅及び粒径が放電性能に影響を与える作用効果について、発明者は次のように推察している。
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、いわゆる「リチウム過剰型」活物質の一種であり、リチウムは、Li層(3bサイト)だけではなく、Me(遷移金属)層(3aサイト)にも存在すると考えられる。ここで、Me層に存在するリチウムは、Li層に存在するリチウムと比較すると、固相内拡散が行われにくいと考えられる。そこで、本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を用いた電池の放電性能を向上させるためには、一次粒子を構成するの結晶子において層状構造が十分発達していることが重要となる。そのためには、半値幅が大きくなりすぎないことが必要であり、リチウム遷移金属複合酸化物の焼成工程において、ある程度の焼成温度が求められる。又、一次粒子の成長が過度になると、固相内拡散が阻害されるために電池の放電性能の低下をもたらす。よって、半値幅が小さくなりすぎないことが必要であり、リチウム遷移金属複合酸化物の焼成工程において、焼成温度が高すぎないことが求められる。
つまり、本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物においては、リチウムの固相内拡散が円滑なものとなるように一次粒子を構成する結晶子が適度に成長していること、及び、二次粒子の粒径が一定以下であることが重要であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の非水電解質二次電池用活物質は、各種放電性能が優れたものであるから、電気自動車用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源等の非水電解質二次電池に有効に利用できる。