(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044884
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】船舶型の浮遊式水害避難施設
(51)【国際特許分類】
B63C 9/06 20060101AFI20161206BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
B63C9/06
E04H9/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-156529(P2012-156529)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-19188(P2014-19188A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】512183714
【氏名又は名称】松浦 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】240000039
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 新吾
【審査官】
中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0011324(US,A1)
【文献】
特開昭53−032596(JP,A)
【文献】
特開2004−027732(JP,A)
【文献】
特開2010−275803(JP,A)
【文献】
特開2006−226099(JP,A)
【文献】
特開2006−112088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 9/00− 9/32
B63B 21/22−21/24,21/50
E04H 9/00− 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面に固定され、外部からの入水が可能にされ、津波等の来襲する方向に向けた正面の壁面を尖鋭に形成した防波・防護壁を備えたプールと、この防水・防護壁に囲まれて免震機構を介して浮水離脱可能に前記プール上に載置されると共に、伸縮自在のアンカー型固定装置で地面に固定された避難ゲートを有する船舶型の浮体とからなることを特徴とする船舶型の浮遊式水害避難施設。
【請求項2】
免震機構がスライドボール方式であることを特徴とする請求項1記載の船舶型の浮遊式水害避難装置。
【請求項3】
浮体に防災センターを設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の船舶型の浮遊式水害避難装置。
【請求項4】
浮体にヘリポートを設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の船舶型の浮遊式水害避難装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震に起因する津波、台風による高潮、集中豪雨による河川氾濫、洪水等の水害発生時に使用される避難施設、とくに津波対策として有効な浮遊式避難施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日に発生した東日本大震災は未曾有の被害をもたらし、東北地方太平洋沿岸を襲った大津波により数多く犠牲者が発生した。従来から臨海地域に津波被害に対する特段の避難施設は無く、高台や高層建築物の上階部に避難する以外に方法は無かったことが多くの人命を喪失した一因とも言える。
【0003】
こうした大水害に対して、政府や地方自治体は、治水対策はもとより、地震や津波あるいは洪水等の発生を速やかに検知し、その情報を迅速に民衆に報知するシステムや避難施設の構築に取り組むことが急務である。
【0004】
とくに、多数の人員が極めて迅速に逃避収容できる防水施設を予め構築しておくことが人命を救う最良の方法である。そもそも高台や高層建築物が少ない地方都市の市街地、また、こうした海抜の高い避難場所があっても、平地からの距離が遠く速やかな避難が困難であることが多い。先の震災では、三陸地方のリアス式海岸のように港湾が狭くかつ細長い地形の場合には、津波は急激に速度と嵩を増して到来することが判明している。
【0005】
事実上、確実な予測が不可能な津波対策としては、上述したような浮遊式の避難施設を予め設けることが最善の防災措置である。そして、この避難施設は、安価に構築できる強固な構造物で、且つ数多くの人員を短時間で収容することができ、被災者が住居や居所から直ぐに避難できる距離毎に容易に配置できることが肝要な条件となる。しかしながら、このような要求に応えられる簡易かつ強固な建築構造物は現存しない。通常の地上に固定された建造物では、津波による被害は甚大である。その点、浮上式の構造物であれば建造物そのものが浮上することから、津波の大きさに関わらず、浸水を防止し救命性が極めて高い。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、臨海地域に基礎を構築し、その上へ台船浮体を載せ置く構成とし、アンカー装置とポール穴のアンカー作用により流水に流されることなく、船直上方に浮上するように構成した浮体建築物が提案されている。また、特許文献2では、津波との遭遇時に浮力により浮き上がる船体で、船体は可動する吊り材あるいは方杖で、床は常に水平に保たれる津波避難所が提案されている。また、特許文献3では、津波の影響を受ける可能性のある地域に設ける建築物であって、内部に複数階の床を備え、正面壁の外形は船舶の船首に近い突起状に形成された津波からの非難設備が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3110611号公報
【特許文献2】特開2006−193133号公報
【特許文献3】特許第4183043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような避難施設の使用頻度は極めて低いので、日常的には多目的に使用できることも重要な課題である。本発明もまた上記従来技術の課題に鑑み、高層ビルやタワー等と比較して安価に構築できる強固な構造物で、且つ多数の人員が速やか且つ安全に避難することができ、その結果、住居や居所から直ぐに避難できる距離毎に比較的容易に配置できる船舶型の浮遊式水害避難施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の船舶型水害避難施設は、地面に固定され、外部からの入水が可能にされ、
津波等の来襲する方向に向けた正面の壁面を尖鋭に形成した防波・防護壁を備えたプールと、この防水・防護壁に囲まれて免震機構を介して浮水離脱可能に前記プール上に載置されると共に、伸縮自在のアンカー型固定装置で地面に固定された避難ゲートを有する船舶型の浮体とからなることを第1の特徴とする。また、免震機構がスライドボール方式であることを第2の特徴とする。さらに、浮体に防災センターを設けたことを第3特徴とする。またさらに、浮体にヘリポートを設けたことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成した本発明は、以下の優れた効果がある。
(1)所定箇所に基礎プールを構築し、この基礎プール上に船舶型の浮体構造物を載置又は基礎プール上で構築するだけの簡易な構造であり、従来からある造船技術を応用することで十分な強度を備えた避難施設を短期間且つ安価に建造できる。また、増築も浮体部分の継ぎ足しだけで済むので比較的簡便にできる。
(2)基礎プールに防波・防護壁を備えることで、津波の直撃に対する耐衝撃性が飛躍的に高まる。
(3)日常的には、多目的に(例えば、医療センター等の公共施設や商業施設等として)内部空間を有効活用できるので、イニシャルコスト並びにランニングコストの削減を図ることができる。
(4)浮体の外観意匠をクジラやカメ、マグロ等の魚類、貝、宇宙船、アニメキャラクター、地域の特産品等の人目を引く容姿に形成すれば、避難目印としてのアイキャッチ効果を高めることができるばかりでなく、異空間を感じさせる観光インフラとしての活用もできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る船舶型の浮遊式水害避難施設を示す側面図である。
【
図2】本発明に係る船舶型の浮遊式水害避難施設を示す一部切欠き平面図である。
【
図3】本発明に係る船舶型の浮遊式水害避難施設を示す一部切欠き正面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0012】
本発明に係る船舶型の浮遊式水害避難施設1(以下、単に避難施設1という)は、例えば、地震に起因した津波による水害を被るおそれのある臨海地域に、地震警報から津波到達までの短時間の内に、その地域に在所している人々が逃げ込むことが可能な離間距離の割合で複数箇所配置することが望ましい。
【0013】
避難施設1は、底部が平坦な船舶型として建造するか又は豪華客船、石油タンカー、貨物船、カーフェリーのような大型の船舶を適宜利用した浮体2と、地面に固定され、外部からの入水が可能にされた防波・防護壁3aを備えた基礎プール3とから構成されている。
【0014】
浮体2は、この防水・防護壁3aに囲まれて免震機構(複数のスライドボール)4を介して浮水離脱可能に基礎プール3上に載置されると共に、伸縮自在のアンカー型固定装置5でプール基礎(地盤)に固定されている。図中、8と9は浮体2への乗降ゲート及びスロープである。
【0015】
本実施例の免震機構4は、基礎プール3の全面に渡って浮体2の底面との間に介在させた複数個の硬質ゴム製ボールであり、そのクッション性と自転作用により両面間の摩擦を低くして地震による地盤の振動を吸収且つ散逸させて浮体2への伝動を阻止するようにされている。プール3の基礎面にはこのボール保持用の凹面状の僅かな窪み(図示せず)を複数設けて、この窪み内でボールが自由に摺動できるように各々配置されている。尚、ボールの材質は金属あるいはセラミック等を用いるものでもよい。
【0016】
津波や河川氾濫等の高水位が発生して、プール3内に水が流入し、水位が浮体2の喫水線以上になれば浮体2は浮上するが、浮体2はアンカー型固定装置5でプール基礎(地盤)に固定されているので、浸水した流水に流されることはない。アンカー型固定装置5には、ショックアブソーバーとなるサスペンション(バネ)5aが連結され、伸縮自在に付勢される。尚、安定性確保のためであれば、3〜4箇所にアンカーを設けることが望ましい。
【0017】
すなわち、津波の衝撃を緩和するために、防波障壁3aを設け、さらに不要な浮上による転覆や漂流を抑制するために、伸縮自在のアンカー型固定装置で地盤に連繋された状態を確保し、当該装置が伸長動作することで浮体2の急激な浮上や傾斜を防止して安全性を高めている。このように、浮体2は流されることなく水位と共に上下動し、水位が下がればアンカー型固定装置5が縮む際の牽引力により、浮体2を基礎プール3以内における最小限の移動に留めてまた元の位置に停置される。
【0018】
浮体2は、概略、船本体2aとその上部に配置した甲板2bとから構成する。そして、その内部空間には、津波が来襲した際の避難空間及び居住空間として活用する。勿論、内部空間は複数階に区画して、非常用食料や飲料水の備蓄施設、バス・トイレ等の生活施設を数多く設けても良い。内部空間の容積は、数百人規模の多数の収容人員が確保できるものであることが望ましい。さらに、浮体2の甲板2b上に防災センター6やヘリポート7を設け、緊急時における指令等を発信するコントロールセンター、緊急物質の補給や救命搬送を迅速に行うことができる災害対策基地としての機能を持たせる。
【0019】
基礎プール3の周囲は防水・防護壁3aで包囲してあるが、特に津波の来襲する方向に向けた正面の壁面3bをハイテンション鋼等のあらゆる高強度材を使って厚くまたその外形を尖鋭に形成するのが好ましい。これにより、少なくとも津波の衝突エネルギーを分散することができるばかりでなく、漂流物が衝突
することにより受ける打撃も分散され、外圧をまともに受けることを防止できる。
【0020】
避難空間としての浮体2内部への主要な乗降ゲート8を、船本体2aの後部側、つまり津波が到来する方向とは逆側に広く開口して設ける。そして、地盤に繋がる幅広のスロープ9を架橋しておけば、多数の避難者が並列して同時に乗り込むことが可能であり、短時間内に多数の人員を収容できる。さらに船本体2aには複数の脱出用ゲートを配置し、クレーン等の装備を利用して限界まで救出可能とする。
【0021】
さらに、太陽光発電等を利用した自家発電装置を浮体2の方向に設置して照明や空調、上下水道が断絶された場合のポンプによる地下水の汲み上げ、汚水の排出などに利用する。また、浮体2に推進装置を装備し、極めて水深が深くなった場合、アンカーを切離して浮体2の拘束を解いて水上を走行可能にすることも勿論有用であり、その駆動源として上記自家発電装置によって得られた電力を利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
緊急時以外、すなわち日常的には、多目的に(例えば、医療センター等の公共施設や商業施設等として)内部空間を活用する。このような施設としては、演劇・コンサート用ホール、集会場、会議場、ギャラリー、シャッピングセンター、飲食店、ホテルやコンドミニアム、個人財産保全のためのレンタルコンテナルーム等が想定される。
【0023】
また、浮体2の外観意匠をクジラやカメ、マグロ等の魚類、貝類、宇宙船、アニメキャラクター、地域の特産品等の人目を引く容姿に形成すれば、地域のランドマーク、避難目印としてのアイキャッチ効果を高めることができるばかりでなく、異空間を感じさせる観光インフラとしての活用もできる。
【0024】
また、船本体2aの壁板を重層構造とすることで、強度の向上は無論のこと、例えば、鉛等の金属を積層することで、放射線等の透過を防止できる。このため、放射物質で汚染された原発瓦礫の燃焼炉としての活用を図ることもできる。また、その密閉性を利用して有害物質やガスを封じ込めた状態にして、フィルターを介してクリーンな排気を行いながら安全に処理作業ができる施設としても使用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 船舶型水害避難施設
2 浮体(船舶)
2a 船本体
2b 甲板
3 基礎プール
3a 防止・防波壁(セーフティガード)
3b 防止・防波壁の波に対する正面
3c 通水口(壁の切り欠き)
4 免震機構(スライドボール)
5 アンカー型固定装置
5a サスペンション(バネ)
6 防災センター
7 ヘリポート
8 乗降ゲート
9 スロープ