(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044944
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】新規梅加工品の製造方法及びこれを用いた機能性組成物、食品組成物、医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20161206BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20161206BHJP
A61K 36/736 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
A23L19/00 D
A23L33/105
A61K36/736
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-75607(P2012-75607)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-201997(P2013-201997A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596056818
【氏名又は名称】プラム食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】岸田 邦博
(72)【発明者】
【氏名】福西 伸一
(72)【発明者】
【氏名】長井 保夫
【審査官】
竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−087015(JP,A)
【文献】
特開2005−087025(JP,A)
【文献】
特開2004−081014(JP,A)
【文献】
特開2001−017116(JP,A)
【文献】
特開2005−328703(JP,A)
【文献】
特開2002−058448(JP,A)
【文献】
特開平10−127254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00−19/20
FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅濃縮エキスを含む食品組成物の製造方法において、
梅果肉及び梅果汁から選ばれる梅原料を60〜75℃の温度で濃縮し、かつ、80℃以上に加熱をしないことを特徴とする、フルフラールを実質的に含まず、ネオクロロゲン酸とクロロゲン酸の残存率がともに95%以上である前記梅濃縮エキスを製造する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
梅濃縮エキスを含む医薬部外品組成物の製造において、
梅果肉及び梅果汁から選ばれる梅原料を60〜75℃の温度で濃縮し、かつ、80℃以上に加熱をしないことを特徴とする、フルフラールを実質的に含まず、ネオクロロゲン酸とクロロゲン酸の残存率がともに95%以上である前記梅濃縮エキスを製造する工程を含む、製造方法。
【請求項3】
梅濃縮エキスを含む医薬組成物の製造方法において、
梅果肉及び梅果汁から選ばれる梅原料を60〜75℃の温度で濃縮し、かつ、80℃以上に加熱をしないことを特徴とする、フルフラールを実質的に含まず、ネオクロロゲン酸とクロロゲン酸の残存率がともに95%以上である前記梅濃縮エキスを製造する工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅の果肉の濃縮エキス(以下、「梅肉エキス」という)、梅果汁の濃縮エキス(以下、「梅果汁エキス」という)、梅酢の濃縮エキス(以下、「梅酢エキス」という)、もしくは脱塩梅酢の濃縮エキス(以下、「脱塩梅酢エキス」という)などの梅濃縮エキスの製造過程で、梅の有用成分であるポリフェノールを相当量保持し、一方で加熱製造に伴うフルフラール類の生成を制御した製造方法(以下、本製造法という)であって、従来の梅肉エキス、梅果汁エキス、梅酢エキス、または脱塩梅酢エキスなどの梅濃縮エキスとは全く異なる製品及びその製造法に関する。さらに本製造法によって得られた機能性組成物およびこれを含む、食品組成物、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
梅は古来より健康に良い食べ物として知られており、梅干し、梅果汁飲料、菓子類にと、様々な形で加工利用されている。また梅は、消化不良や食あたりなどの消化器系疾患の際に、梅の果肉などを加熱濃縮した「梅肉エキス」が消化器系の疾患に対して民間伝承薬的に使われている。さらに未成熟のウメ果実を燻して「鳥梅」という漢方薬にして、主に消化器系の疾患に用いている。
【0003】
果実の保健機能に関与する機能性物質としてポリフェノールが注目されている。ポリフェノールは、複数のフェノール性水酸基(ヒドロキシ基)を同一分子内にもつ植物成分の総称である。ポリフェノールは、抗酸化作用を有し、抗催癌作用の他、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、骨粗鬆症などの生活習慣病の予防に有効であると言われている。
【0004】
梅で言い伝えられている保健機能に関しても、梅が含有するポリフェノールも関与していると考えられている。
【0005】
梅の果実中にはポリフェノールが約1000ppm程度存在している。おり、我々はこのポリフェノールについて研究を進めてきた。特に梅干し製造時に発生する梅酢から、果実由来のポリフェノール(以下、「梅酢ポリフェノール」という)の大量製造法を開発し、その化学分析や健康増進作用について報告してきた(特許文献1)。梅酢ポリフェノールは梅果実由来のクエン酸や、梅干製造時に大量に添加された食塩が除去されていることを特徴としている。
【0006】
梅酢ポリフェノールの機能性組成物、およびこれを用いた、肥満や糖尿病の治療、予防に有効的なα―アミラーゼ阻害作用およびα―グルコシダーゼ阻害作用を有する酵素阻害剤、更には食品組成物、特定保健用食品組成物、医薬部外品組成物、医薬組成物に関する特許を出願している(特許文献1).さらに本発明者らは梅酢ポリフェノールに血圧の上昇を抑制する作用を見出し、公表している。(非特許文献1)
【0007】
なお、本発明者らは梅酢ポリフェノールの安全性試験を実施し、ラット急性毒性試験、ラット28日間亜急性毒性試験、マウス90日間慢性毒性試験、UMUテストおよびマウス小核試験などの変異原性試験で、極めて安全性が高いことを明らかにした(非特許文献2)
【0008】
梅から単離されたリグナン誘導体の一種であるシリンガレシノールは、胃粘膜に生息するピロリ菌に対する抗菌作用があることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
梅酒中には、ポリフェノールの一種であるリグナン誘導体であるリオニレシノールが存在する。このリオニレシノールが、抗酸化作用を有することが知られている(例えば、非特許文献4参照)。
【0010】
梅果実の抽出物に含まれるポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が、アンジオテンシンIを、血圧を昇圧させるアンジオテンシンIIに変換する酵素である、アンジオテンシン変換酵素の阻害活性を有することが報告されている(非特許文献5)。
【0011】
梅の果汁を加熱濃縮した梅肉エキスは、製造時の加熱処理により、梅に含まれるグルコースやスクロースなどの糖が脱水反応により5−ヒドロキシメチル−2−フルフラール(以下、HMFという)を生成し、これがさらにクエン酸とのエステル縮合により、ムメフラールなどを生成することが知られている(非特許文献6)
また、梅肉エキス中に含まれるムメフラールが血流改善効果を発揮することが報告されている(非特許文献7、特許文献2)。
【0012】
また、生薬である地黄の血流改善作用を示す活性成分が、HMFであることが報告されている(非特許文献8)。
【0013】
一方、HMFは肝臓スルホトランスフェラーゼにより変異原性を有するスルホキシメチルフルフラールに代謝されることが報告されている(非特許文献9、非特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−137929号公報
【特許文献2】特開平11−228561号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】山崎晋平、他8名、「SHRの血圧に及ぼす梅酢ポリフェノールの作用」日本農芸化学会大会講演要旨集、2011年年度大会 p.62
【非特許文献2】志賀 勇介、土田 辰典,原 雄大,岸田 邦博,前田 正信,宮下 和久,藤原 真紀,山西 妃早子,矢野 史子,三谷 隆彦 梅酢ポリフェノール抽出物の安全性の検討 近畿大学生物理工学部紀要(2011)
【非特許文献3】オオツカ ティー(OtukaT)、他9名、「ウメ濃縮果汁のモンゴルスナネズミにおけるヘリコバクター ピロリで誘発された腺胃病変の抑制効果(Suppressiveeffects of fruit−juiceconcentrate of Prunus mume Sieb. et Zucc. (Japanese apricot、 Ume) on Helicobacter pylori−inducedglandular stomach lesionsin Mongolian gerbils.)」、「エーシャンパシフィック ジャーナル オブ キャンサー プレベンション(Asian Pacific Journal of Cancer Prevention)」、2005年、アジア太平洋がん予防機関、第6巻、p.337−341
【非特許文献4】白坂憲章、他7名、「梅酒の抗酸化性と抗酸化物質の単離と同定」、日本食品科学工学会誌、1999年、第46巻、p.792−798
【非特許文献5】イナ エッチ(Ina H)、他3名、「実験的更年期モデルラットの血漿中の副腎皮質ホルモン(ACTH)レベルとカテコールアミンレベルに与えるウメ由来ベンジル配糖体およびクロロゲン酸の影響(Effectsof benzyl glucoside and chlorogenic acid from Prunusmume on adrenocorticotropichormone (ACTH) and catecholaminelevels in plasma of experimental menopausalmodel rats)」、2004年、バイオロジカル アンド ファーマシューティカルブレティン(BIOLOGICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN)、社団法人日本薬学会、2004年、第27巻、p.136−137
【非特許文献6】我籐ら,ヘモレオロジー研究会誌,(3),p81−87,2000
【非特許文献7】Chuda Y. et al., J. Agric. Food Chem.,47,p828−831,1999
【非特許文献8】松田,日本生薬学会第51回年会,1A−S1,2000
【非特許文献9】B.H.Monien et al., Chem. Res. Toxicol. 2009, 22, 1123-1128
【非特許文献10】Klaus Abraham et al. Mol. Nutr. Food Res. 2011, 55, 667-678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、梅の果肉中、梅果汁中、梅酢中、もしくは脱塩梅酢中のポリフェノールを分解を抑制し、かつHMFなどのフルフラール類を生成を阻止もしくは制御した条件で濃縮し、ポリフェノール含有量の多い新規梅肉エキス、新規梅果汁エキス、新規梅酢エキス、または脱塩梅酢エキス(以下、総称して「新規梅濃縮エキス」という)及びその製造方法を提供することにある。
【0017】
また、本発明の別の目的は、ポリフェノール含有量の多い新規濃縮エキスを用いた機能性組成物を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、梅果肉、梅果汁、梅酢、もしくは脱塩梅酢などの梅原料を所定の温度範囲で濃縮することにより、ポリフェノールを高濃度に含み、かつフルフラール類の含量を制御した新規梅濃縮エキスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
本発明は、以下の梅濃縮エキス
項1. 梅原料を85℃以下の温度で濃縮することを特徴とする、フルフラールを実質的に含まない梅濃縮エキスの製造方法。
項2. 濃縮時の温度が40〜80℃である、項1に記載の梅濃縮エキスの製造方法。
項3. 梅原料を80℃以上100℃未満の温度で濃縮することを特徴とする、梅ポリフェノールとフルフラールをともに含む梅濃縮エキスの製造方法。
項4. 濃縮時の温度が80〜95℃である、項3に記載の梅濃縮エキスの製造方法。
項5. 梅原料が梅果肉、梅果汁、梅酢、脱塩梅酢からなる群から選ばれる、項1〜4のいずれか1項に記載の梅濃縮エキスの製造方法。
項6. フルフラールを実質的に含まず、ネオクロロゲン酸とクロロゲン酸の残存率がともに95%以上である、梅濃縮エキス。
項7. フルフラールとネオクロロゲン酸及びクロロゲン酸を含む梅濃縮エキスであって、ネオクロロゲン酸の残存率が50%以上であり、クロロゲン酸の残存率が90%以上である、梅濃縮エキス。
項8. 項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた梅濃縮エキス、或いは項6又は7に記載の梅濃縮エキスを主原料とする機能性組成物。
項9. 食品組成物、医薬部外品組成物または医薬組成物である、項8に記載の機能性組成物。
【0020】
本発明の機能性組成物は、上記製造法で得られた新規梅濃縮エキスを含むのが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記機能性組成物を含む、食品組成物、医薬組成物である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、新規梅濃縮エキスを用いて構成された機能性組成物を得ることができる。本発明の機能性組成物は、ポリフェノールが豊富であり、かつHMF等のフルフラール類を実質的に含まないか、含量が制御されており、また濃縮物であることから、一般の食品などに添加して、健康増進効果を期待することができる。なお、本発明で用いるポリフェノールは安全性を有している。したがって、本発明の機能性組成物は、長期に摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、加熱濃縮条件がフルフラール類の生成および梅果汁中ポリフェノール分解に与える影響を示す高速液体クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による新規梅濃縮エキスの製造方法は、梅果肉、梅果汁、梅酢、もしくは脱塩梅酢のポリフェノールを分解させないか、濃縮前の50%以上残存させ、かつHMF等のフルフラール類を実質的に生成させないか、従来の梅肉エキス梅酢エキスなどと比較して50%以下の量で生成させる条件で濃縮する。この際の加熱濃縮温度は、100℃未満、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは望ましくは85℃以下、特に80℃以下である。濃縮時の温度の下限は特に限定されないが、通常は室温以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上、特に60℃以上である。ムメフラールの含量を多くする場合には、濃縮時の温度は80℃以上が好ましく、例えば80℃〜100℃未満、好ましくは80℃〜95℃、より好ましくは80〜90℃、特に80〜85℃が挙げられる。ムメフラールを実質的に含まない梅濃縮エキスの製造のための濃縮温度は、室温〜80℃、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜75℃である。ポリフェノールの減少(分解)、ムメフラールの増加(生成)は、温度と時間により決定されるので、これらを制御することにより、ポリフェノールとムメフラールの含量を制御することができる。なお、実施例ではフルフラール量を検出しているが、フルフラールが生成する場合にはムメフラールなどのフラール類が生成するため、フルフラールはムメフラールを含むフラール類の含量の指標として検出している。
【0025】
本発明の新規梅濃縮エキスは、このエキスの一部を含むものであってもよい。本発明の新規濃縮エキス中には、多数種のポリフェノールを含む。これらの中から、特定の目的に用いられるポリフェノールを、ろ過、カラム処理、溶剤洗浄などの選別処理を行ったものであってもよい。梅中のポリフェノールとしては、ネオクロロゲン酸とクロロゲン酸が特に重要である。ネオクロロゲン酸は熱により安定であるので、梅濃縮エキスの含有量が濃縮加熱前の50重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上残存するのがよい。また、クロロゲン酸は熱により分解されやすいので、梅濃縮エキスの含有量が濃縮加熱前の30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に95重量%以上残存するのがよい。
【0026】
本発明の機能性組成物の形態には特に制限はなく、溶液であっても固体であってもよく、その他の化合物との混合物であってもよい。混合物である場合には、スプレードライ、凍結乾燥、デキストリンなどの造形剤の添加処理などをしたものであってもよい
【0027】
[機能性組成物]
本発明の機能性組成物は、そのまま利用することもできるが、必要に応じて、下記に示される医薬品類、医薬部外品類、食品類、飲料類などにおいて使用されている各種成分や添加剤の中から用途に適したものを任意に選択、併用して、それぞれの利用しやすい製品形態とすることができる。
【0028】
本発明の機能性組成物を医薬品に使用する場合は、経口的に投与されるものとすることができる。新規濃縮エキスを、医薬用担体と共に製剤化し、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ、液剤、顆粒剤、散剤等の形態で用いることができる。その場合には、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、懸濁化剤、安定化剤、着色料、甘味剤等の常用成分を適宜添加することができる。
【0029】
例えば、経口的に摂取する場合には、食品添加剤として食物に添加して摂取することができる。食品添加剤として用いる場合には、その添加量については、特に限定的ではなく、食品の種類に応じ適宜決めればよい。例えば、清涼飲料、炭酸飲料などの液体食品や菓子類やその他の各種食品等の固形食品に添加して用いることができる。また、その他に、食物として人体に投与する場合の投与方法の一例を示すと次の通りである。投与は、種々の方法で行うことができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等による経口投与とすることができる。経口投与剤は、通常の製造方法に従って製造することができる。例えば、デンプン、乳糖、マンニット等の賦形剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動性向上剤等を適宜組み合わせて処方することにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等として製造することができる。
【0030】
本発明の機能性組成物を食品に用いる場合の具体例として、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合わせ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)としてもよく、その場合であれば、素錠、フィルムコート錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセルとソフトカプセルとのいずれも含む。)、チュアブルタイプ、シロップタイプ、ドリンクタイプ等とすることもできる。具体的な食品としては、かまぼこ、ちくわ、はんペん等の水産加工製品、ソーセージ、ハム、ウインナー等の食肉加工製品、豆腐や油揚げ、コンニャク等の農産加工製品、洋菓子、和菓子、パン、ケーキ、ゼリー、プリン、スナック、クッキー、ガム、キャンディ、ラムネ等の菓子類、生めん、中華めん、そば、うどん等のめん類、ソース、醤油、ドレッシング、マヨネーズ、タレ、ハチミツ、粉末あめ、水あめ等の調味料、カレー粉、からし粉、コショウ粉等の香辛料、ジャム、マーマレード、チョコレートスプレッド、漬物、そう菜、ふりかけや各種野菜・果実の缶詰・瓶詰等の加工野菜・果実類、チーズ、バター、ヨーグルト等の乳製品、果実ジュース、野菜ジュース、乳清飲料、清涼飲料、健康茶、薬用酒類等の飲料、その他、栄養補強(栄養補助)等を目的とする健康維持のための錠剤、飲料、顆粒等の健康志向の飲食品類、家畜飼料、ペットフード等が対象として挙げられる。
【0031】
本発明の機能性組成物は、医薬部外品(口中清涼剤、デンタルケア、スキンケア、毛髪用剤、浴用剤、てんか粉類、ドリンク剤、健胃清涼剤など)、動物用食品(ペットフードなど)、動物用飼料、植物用肥料などにも使用できる。
【0032】
本発明の機能性組成物は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、タルク、流動性向上剤等、一般的に造粒に使用される添加剤を用いても良い。例えば、デンプン、乳糖、マンニットカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の軽質無水ケイ酸等、酢酸セルロース、キトサン、アルギン駿ナトリウム、アルギン酸カルシウム、脱脂米糖、油かす、大豆粉、小麦粉、無水ケイ酸、フスマ、もみがら粉、炭酸カルシウム、ミルクカルシウム、酸化マグネシウム、重炭酸ナトリウム、結晶セルロース、澱粉、ビール酵母、糖、還元乳糖、植物油脂等を適宜組み合わせて処方することにより、錠剤、カブセル剤、顆粒剤の形状等に製造することができる。
【0033】
また、必要に応じて植物又は動物系原料由来の種々の添加物やその他の添加物も併用することができる。これらの添加物は、添加しようとする製品種別、形態に応じて常法的に行われる加工(例えば、粉砕、製粉、洗浄、加水分解、発酵、精製、圧搾、抽出、分画、ろ過、乾燥、粉末化、造粒、溶解、滅菌、pH調整、脱臭、脱色などを任意に選択、組合わせた処理)を行い、各種の素材から任意に選択して供すればよい。なお、抽出に用いる溶媒については、供する製品の用法や、後に行う加工処理等を考慮した上で選択すればよい。
【0034】
本発明の機能性組成物には、その他保湿剤、ホルモン類、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、動・植物性蛋白質及びその分解物、動・植物性多糖類及びその分解物、動・植物性糖蛋白質及びその分解物、血流促進剤、消炎剤・抗アレルギー剤、細胞賦活剤、増泡剤、増粘剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤、苦味料、調味料、酵索などを併用してもよい。これらとの併用によって、相加的及び相乗的な効果が期待できる。
【0035】
本発明の機能性組成物に含まれているポリフェノールの安全性は、公知の安全性試験、例えばラットヘ機能性組成物を単回投与する急性毒性試験、28日間機能性組成物を反復経口投与する亜急毒性試験、マウスに90日間機能性組成物を反復経口投与する慢性毒性試験、および変異原性試験としてサルモネラ菌を用いたUMUテスト、およびマウス小核試験などによって、確認することができる。本発明の機能性組成物は、これらの試験において、安全性が確認される。この結果、長期使用をすることができる。
【実施例】
【0036】
(新規梅果汁エキス中のポリフェノール残存率の測定法)
梅果汁の加熱濃縮条件を検討するために以下の実験を実施した。
南高梅(青果期)を圧搾し、得られた果汁200gを次の4つの条件(A〜D)で濃縮乾固させた。条件A(直火処理 100度以上)、条件B(湯煎処理 90度以上)、条件C(ロータリーエバポレーター処理 80度)、条件D(ロータリーエバポレーター処理 60度)残渣を再溶解させたのち、クロロゲン酸およびネオクロロゲン酸を指標として、ポリフェノール残存率およびフルフラール類の生成の有無をHPLCで分析した。その結果を
図1および表1に示す。表1は加熱濃縮条件がフルフラール類の生成および梅果汁中ポリフェノール分解に与える影響を示す。
【0037】
さらに、ウメ果肉の加熱温度と加熱時間を変化させた時のポリフェノールおよびフルフラールの量をHPLCで確認した結果を表2に示す。100℃ではフルフラールは急速に生成し、ポリフェノールは急速に消失することが明らかである。
【0038】
(HPLC分析条件)
装置 :LC−2010(SHIMADZU社製)
移動相 :0.1%トリフルオロ酢酸水溶液:メタノール(75:25,v/v)
カラム :Hydrosphere C18、4.6×250 mm (YMC社製)
サンプル注入量:30 μl
温度 :40℃
測定波長: 280 nm
流速 :1 ml/min
【0039】
図1、表1によれば、条件A(直火処理 100度以上)ではHMFをはじめとする多数かつ多量のフルフラール類が生成し、ポリフェノールであるクロロゲン酸およびネオクロロゲン酸は消失していた。条件B(湯煎処理 90度以上)でもフルフラール類の生成が認められ、クロロゲン酸およびネオクロロゲン酸の残存率はそれぞれ、94.6%、52.6%であった。条件C(ロータリーエバポレーター処理 80度)および条件D(ロータリーエバポレーター処理 60度)ではいずれもフルフラール類の生成は認められず、ポリフェノールもほとんど分解されずに残存していた(条件C:クロロゲン酸(97.4%)ネオクロロゲン酸(97.0%)、条件D:クロロゲン酸(98.7%)ネオクロロゲン酸(99.1%))。また高速液体クロマトグラムでも、条件Cのクロマトグラムは、元の加熱前の果汁のクロマトグラムと同一であることが明らかである。
【0040】
表2によれば、フルフラールは75℃以下では濃縮時に生成せず、80℃では時間を制御することにより生成させないことも(60分以下)、生成させることも(90分以上、特に120分以上)できる。フルフラールを生成させる場合には、80℃以上、特に85℃以上が好ましい。一方、ポリフェノールは95℃では比較的短時間で分解し、100℃では速やかに分解するため、ポリフェノールを十分含む梅濃縮エキスを得るためには、濃縮時の温度が95℃では減圧下での短時間の濃縮がよく、90℃でも加熱時間は短いことが望ましい。85℃であれば、ある程度の時間加熱してもポリフェノールは十分量残存することができ、80℃では、濃縮前のポリフェノール量を十分に維持することができる。
【0041】
このように、梅濃縮エキスにおけるポリフェノールとフルフラール(ムメフラールの指標)の量は、濃縮時の温度と濃縮時間により制御できることが明らかになった。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1において、フルフラール量が「++」とは、従来の梅肉エキスなどの梅濃縮エキスの50%程度以上のフルフラールが生成することを示し、「+」とは、梅肉エキスなどの梅濃縮エキスの10〜50%程度のフルフラール量が検出されたことを示す。
【0045】
表2において、
+/−は、ネオクロロゲン酸量が濃縮前の90%以上、クロロゲン酸量が濃縮前の50%以上であり、かつ、フルフラールは実質的に検出されないことを示す。
+/±は、ネオクロロゲン酸量が濃縮前の90%以上、クロロゲン酸量が濃縮前の50%以上であり、かつ、フルフラールは従来の梅肉エキスの0.1〜10%程度検出されることを示す。
+/+は、ネオクロロゲン酸量が濃縮前の90%以上、クロロゲン酸量が濃縮前の50%以上であり、かつ、フルフラールは従来の梅肉エキスの10〜50%程度検出されることを示す。
±/+は、ネオクロロゲン酸量が濃縮前の30〜90%、クロロゲン酸量が濃縮前の10〜50%であり、かつ、フルフラールは従来の梅肉エキスの10%以上検出されることを示す。
−/+は、ネオクロロゲン酸量が濃縮前の30%以下、クロロゲン酸量が濃縮前の10%以下であり、かつ、フルフラールは従来の梅肉エキスの10%以上検出されることを示す。
【0046】
以上から、梅果汁を90℃以下、望ましくは80℃以下の条件で濃縮することにより、ポリフェノールが高濃度に含まれ、かつフルフラール類を含有しない新規梅果汁エキスが得られることを見出した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の新規梅濃縮エキスは、ポリフェノールを高濃度含有し、かつ変異原性が懸念されるHMF等のフルフラール類を含まないため、安全性が高く健康増進作用の期待できる組成物である。また、梅由来のポリフェノールは極めて安全性が高く、健康増進効果も明らかになっていることから、本発明で得られる機能性組成物を食品、医薬品などに添加することができる。