(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような従来の基板処理装置では、リンス処理時に、回転状態の基板の表面と純水との間に接触分離が生じ、純水がイオンをほとんど有していないために基板が流動帯電することがあった。基板が電荷を帯びると、その電荷の放電が生じたときに、基板の表面に形成されるデバイスの破壊を生じるおそれがある。
基板の帯電を防止するための方策として、リンス液に比抵抗の低い炭酸水を用いる方策が考えられる。しかしながら、この場合、酸性のリンス液を用いてリンス処理を行うために、デバイスの種類によっては、デバイスに悪影響を与えるおそれがある。
【0006】
また、基板の帯電を防止するための他の方策として、リンス処理時における基板回転数を低回転数化したり、リンス処理時の純水の吐出流量を低減させたりすることが考えられるが、これらの方策では、スループットの低下などのデメリットをもたらすなどの問題がある。
そこで、この発明の目的は、処理液による処理時における基板の帯電を防止することができる基板処理装置および基板処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、基板を保持する基板保持手段と、前記基板保持手段に保持されている基板の
上面にX線を照射するX線照射手段と、前記基板保持手段に保持されている基板の
上面に処理液を供給する処理液供給手段と、基板(W)を
水平姿勢に保持する基板保持手段(4)と、前記基板保持手段に保持されている基板の
上面にX線を照射する
ためのX線照射手段(6;134;141)と、
前記X線照射手段を移動させる移動手段(19,20)と、前記基板保持手段に保持されている基板の
上面に処理液を供給する
ための処理液供給手段(5,14;121;133)と
、前記X線照射手段
、前記移動手段および前記処理液供給手段を制御する制御手段(40)とを含
み、前記制御手段は、前記基板の上面に処理液の液膜を形成すべく、前記基板の上面に処理液を供給する処理液供給工程と、前記X線照射手段を、前記処理液の液膜の上方に設定された照射位置であって、当該X線照射手段から照射されたX線が前記処理液の液膜に届き当該液膜を電離可能な照射位置に配置する工程と、前記処理液供給工程と並行して、前記照射位置にある前記X線照射手段から、前記処理液の液膜に向けてX線を照射するX線照射工程とを実行する、基板処理装置(1;120;130;140)である。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
この構成によれば、基板の表面に処理液が供給されつつ、その基板の表面にX線が照射される。基板の表面を流れる処理液がX線の照射によって電離され、当該処理液が基板を除電する。そのため、回転状態の基板に処理液が供給される処理液の処理時に、処理液との接触分離による基板の流動帯電を抑制することができる。したがって、処理液の処理時における基板の帯電を防止することができる。また、処理液の処理前から基板が帯電していても、X線の照射によって電離された処理液を用いて、その帯電した基板を除電することができる。その結果、基板の帯電に起因するデバイス破壊を防止することができる。この場合、基板の表面で処理液を電離させることができるので、電離直後の処理液を基板の表面に供給することができる。これにより、基板の除電を効果的に行うことができる。
【0009】
また、X線の照射によって処理液の液性は変化しないので、炭酸水等の酸性の処理液を用いて基板を処理する場合とは異なり、デバイスに悪影響を与えるおそれがない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において「X線」とは、X線(0.001nm〜10nm程度の波長を有する電磁波をいい、波長が比較的長い「軟X線」(0.1nm〜10nm)と、波長が比較的短い「硬X線」(0.001nm〜0.1nm程度)とを含むものである。
【0010】
請求項2に記載のように、前記X線照射手段が下面を有する場合には、前記照射位置は、前記基板の上面との間で前記下面が1mm〜30mmの間隔を空けて配置される位置であってもよい。
請求項
3に記載の発明は、前記X線照射手段は、照射窓(35)を有し、X線を発生させるとともに、発生したX線を前記照射窓から照射するX線発生器(25)を備えている、請求項1
または2に記載の基板処理装置である。
この構成によれば、X線発生器によって発生されたX線が、X線発生器の照射窓から基板の
上面に照射される。
【0011】
請求項
4に記載の発明は、前記X線発生器の周囲を、間隔を空けて取り囲むカバー(26)をさらに含み、前記カバーには、前記照射窓に対向する部分に開口(28)が形成されている、請求項
3に記載の基板処理装置である。
この構成によれば、X線発生器の周囲の雰囲気に水分が多く含まれていると、X線を発生させる際に高電圧がリークするおそれがある。そのため、X線発生器の周囲に水分が侵入するのを防止するために、X線発生器の周囲をカバーで覆っている。この場合、カバーにおける照射窓と対向する部分に開口を有し、照射窓からのX線を、開口を介して基板の
上面に導いている。これにより、X線発生器からのX線の照射を阻害することなく、X線発生器の周囲の雰囲気に水分が進入するのを抑制することができる。
【0012】
請求項
5に記載の発明は、前記カバーの内部に気体を供給する気体供給手段(27,37)をさらに含む、請求項
4に記載の基板処理装置である。
カバーに開口が形成されていると、水分を多く含む、カバー外の雰囲気が、開口を介してカバー内に進入するおそれがある。
この構成によれば、カバー内に気体が供給されることにより、X線発生器とカバーとの間の空間に、開口に至る気流が形成される。そのため、カバー外の雰囲気が、開口を介してカバー内に進入するのを抑制または防止することができる。気体供給手段からカバーの内部に供給される気体は、たとえばCDA(低湿度の清浄空気)や窒素ガスがある。
【0013】
請求項
6に記載のように、前記気体供給手段は、常温よりも高温の気体を供給してもよい。
この構成によれば、カバー内に供給される高温の気体は、X線発生器とカバーとの間の空間を通って照射窓の外表面に達する。高温の気体により、照射窓の外表面に付着する水滴を蒸発により除去することができ、これにより、照射窓が曇るのを抑制または防止することができる。
【0014】
請求項
7に記載のように、前記照射窓の外表面は、皮膜(38,151,161)によりコーティングされていてもよい。これにより、照射窓を保護することができる。とくに、耐酸性の劣るベリリウムを用いて照射窓が形成されている場合、この照射窓を酸性の処理液から良好に守ることができる。
この皮膜は、撥水性材料を用いて形成されていることが好ましい。この場合、照射窓全面に水分が膜状に析出するのを防止して水分を微細な水滴にする。照射窓の外表面に付着する水滴は、当該外表面を移動し易い状態である。そのため、照射窓の外表面から水滴を容易に排除させることができ、これにより、照射窓が曇るのを抑制または防止することができる。
【0015】
とくに、請求項
7は請求項
5や請求項
6と組み合わされることが望ましい。照射窓の外表面に付着する水滴は当該外表面を移動し易い状態であるので、照射窓の外表面に付着している水滴は、当該空間に形成された気流を受けて移動する。これにより、照射窓の外表面から良好に水滴を排除することができ、照射窓が曇るのを確実に防止することができる
請求項
8に記載のように、前記皮膜は、ポリイミド樹脂の皮膜(38)であってもよい。
【0016】
また、請求項
9に記載のように、前記皮膜は、ダイヤモンドライクカーボンの皮膜(151)であってもよい。
さらに、請求項
10に記載のように、前記皮膜は、アモルファスフッ素樹脂の皮膜(161)であってもよい。
請求項
11記載の発明は、前記カバーにおける前記開口の周囲および前記照射窓の少なくとも一方に、発熱部材(44)が配設されている、請求項
4〜
10のいずれか一項に記載の基板処理装置である。
【0017】
この構成によれば、発熱部材により、X線発生器の照射窓の周囲が加熱される。そのため、照射窓の外表面に付着する水滴を蒸発により除去することができ、これにより、照射窓が曇るのを抑制または防止することができる。
請求項
12記載の発明は、前記基板保持手段に保持される基板の表面に対向配置され、当該基板の表面上の空間をその周囲から遮蔽するための遮蔽部材(142)をさらに含み、前記遮蔽部材は、前記照射窓から照射されたX線を当該基板の
上面上の空間に留めておくためのものである、請求項
3〜
11のいずれか一項に記載の基板処理装置である。
【0018】
この構成によれば、照射窓から照射されたX線が、基板の
上面上の空間に留められる。そのため、照射窓から照射されたX線が基板の周囲に散乱するのを抑制または防止することができる。これにより、基板処理装置の安全性を高めることができる。
請求項
13に記載のように、前記遮蔽部材は、前記カバーと一体移動可能に設けられていてもよい。
【0019】
請求項
14記載の発明は、前記X線照射手段を、前記基板保持手段によって保持された基板の
上面に沿って移動させる移動手段(19,20)をさらに含む、請求項1〜
13のいずれか一項に記載の基板処理装置である。
この構成によれば、X線照射手段を基板の
上面に対向させつつ、X線照射手段からX線を照射するとともに、X線照射手段を基板の
上面に沿って移動させる。これにより、電離された処理液を基板の
上面の全域に供給することができる。これにより、基板の全域で、基板を除電することができる。
【0020】
また、請求項
15に記載のように、前記処理液は水であってもよい。
前記の目的を達成するための請求項
16に記載の発明は、基板保持手段(4)に
水平姿勢に保持された基板の
上面に処理液の液膜を形成すべく、前記基板の上面に処理液を供給する処理液供給工程(S4)と、
X線を照射するためのX線照射手段を、前記処理液の液膜の上方に設定された照射位置であって、当該X線照射手段から照射されたX線が前記処理液の液膜に届き当該液膜を電離可能な照射位置に配置する工程(S4)と、前記処理液供給工程と並行して、
前記照射位置にあるX線照射手段から、前記処理液の液膜に向けてX線を照射するX線照射工程(S4)と、を含むことを特徴とする、基板処理方法である。
【0021】
この発明の方法によれば、請求項1に関連して説明した作用効果と同等の作用効果を奏する。
また、請求項17に記載のように、前記X線照射手段は下面を有し、前記照射位置は、前記基板の上面との間で前記下面が1mm〜30mmの間隔を空けて配置される位置であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る基板処理装置1の構成を示す図である。
基板処理装置1は、基板Wの一例としての円形の半導体ウエハ(シリコンウエハ)の表面(処理対象面)に処理液(薬液および水)による処理を施すために用いられる枚葉式の装置である。この実施形態では、薬液処理後に行われる基板Wのリンスのために水が用いられる。処理対象の基板Wの表面には、たとえば酸化膜等が形成されている。
【0024】
基板処理装置1は、隔壁2により区画された処理室3内に、基板Wを水平姿勢に保持して回転させるスピンチャック(基板保持手段)4と、スピンチャック4に保持されている基板Wの表面(上面)に水の一例としてのDIW(脱イオン水。純水)を吐出するための水ノズル(水供給手段)5と、スピンチャック4に保持されている基板Wの表面に軟X線を照射するためのX線照射ヘッド(X線照射手段)6と、スピンチャック4に保持されている基板Wの表面に薬液を吐出するための薬液ノズル7とを備えている。
【0025】
スピンチャック4として、たとえば挟持式のものが採用されている。具体的には、スピンチャック4は、スピンモータ8と、このスピンモータ8の駆動軸と一体化されたスピン軸9と、スピン軸9の上端にほぼ水平に取り付けられた円板状のスピンベース10と、スピンベース10の周縁部の複数箇所にほぼ等間隔で設けられた複数個の挟持部材11とを備えている。これにより、スピンチャック4は、複数個の挟持部材11によって基板Wを挟持した状態で、スピンモータ8の回転駆動力によってスピンベース10を回転させることにより、その基板Wを、ほぼ水平な姿勢を保った状態で、スピンベース10とともに回転軸線Cまわりに回転させることができる。
【0026】
なお、スピンチャック4としては、挟持式のものに限らず、たとえば基板Wの裏面を真空吸着することにより、基板Wを水平な姿勢で保持し、さらにその状態で鉛直な回転軸線Cまわりに回転することにより、その保持した基板Wを回転させることができる真空吸着式のもの(バキュームチャック)が採用されてもよい。
水ノズル5は、たとえば、連続流の状態でDIWを吐出するストレートノズルであり、スピンチャック4の上方で、その吐出口を基板Wの回転中心付近に向けて固定的に配置されている。水ノズル5には、DIW供給源からのDIWが供給される水供給管13が接続されている。水供給管13の途中部には、水ノズル5からのDIWの供給/供給停止を切り換えるための水バルブ(水供給手段)14が介装されている。
【0027】
薬液ノズル7は、たとえば、連続流の状態で薬液を吐出するストレートノズルであり、スピンチャック4の上方で、その吐出口を基板Wの回転中心付近に向けて固定的に配置されている。薬液ノズル7には、薬液供給源からの薬液が供給される薬液供給管15が接続されている。薬液供給管15の途中部には、薬液ノズル7からの薬液の供給/供給停止を切り換えるための薬液バルブ16が介装されている。
【0028】
また、薬液ノズル7は、スピンチャック4に対して固定的に配置されている必要はなく、たとえば、スピンチャック4上方において水平面内で揺動可能なアームに取り付けられて、このアームの揺動により基板Wの表面における薬液の着液位置がスキャンされる、いわゆるスキャンノズルの形態が採用されてもよい。
なお、薬液としては、基板Wの表面に対する処理の内容に応じたものが用いられる。たとえば、基板Wの表面からパーティクルを除去するための洗浄処理を行うときは、APM(ammonia-hydrogen peroxide mixture:アンモニア過酸化水素水)などが用いられる。また、基板Wの表面から酸化膜などをエッチングするための洗浄処理を行うときは、フッ酸やBHF(Bufferd HF)などが用いられ、基板Wの表面に形成されたレジスト膜を剥離するレジスト剥離処理や、レジスト剥離後の基板Wの表面にポリマーとなって残留しているレジスト残渣を除去するためのポリマー除去処理を行うときは、SPM(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:硫酸過酸化水素水)やAPM(ammonia-hydrogen peroxide mixture:アンモニア過酸化水素水)などのレジスト剥離液やポリマー除去液が用いられる。金属汚染物を除去する洗浄処理には、フッ酸やHPM(hydrochloric acid/hydrogen peroxide mixture:塩酸過酸化水素水)やSPM(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:硫酸過酸化水素水)などが用いられる。
【0029】
スピンチャック4の側方には、鉛直方向に延びる支持軸17が配置されている。支持軸17の上端部には、水平方向に延びるアーム18が結合されており、アーム18の先端にX線照射ヘッド6が取り付けられている。また、支持軸17には、支持軸17を軸まわりに回動させるための揺動駆動機構(移動手段)19と、支持軸17をその軸方向に沿って上下動させるための昇降駆動機構(移動手段)20とが結合されている。
【0030】
揺動駆動機構19から支持軸17に駆動力を入力して、支持軸17を所定の角度範囲内で回動させることにより、スピンチャック4に保持された基板Wの上方で、アーム18を、支持軸17を支点として揺動させる。アーム18の揺動により、X線照射ヘッド6を、基板Wの回転軸線C上を含む位置(基板Wの回転中心に対向する位置)と、スピンチャック4の側方に設定されたホームポジションとの間で移動させることができる。また、昇降駆動機構20から支持軸17に駆動力を入力して、支持軸17を昇降させることにより、X線照射ヘッド6を、スピンチャック4に保持された基板Wの表面に近接する近接位置(
照射位置。図1に二点鎖線で示す位置)と、その基板Wの上方に退避する退避位置(
図1に実線で示す位置)との間で昇降させる。この実施形態では、近接位置は、スピンチャック4に保持された基板Wの表面とX線照射ヘッド6の下面(下壁26Aの下面)との間隔が1〜30mmの範囲の所定間隔(たとえば10mm程度)になる位置に設定されている。
【0031】
側壁2(複数の側壁2のうちの1つ)には、処理室3内に対し基板Wを搬出入するための開口21が形成されている。基板Wの搬出入の際には、処理室3外で開口21に対向する搬送ロボット(図示しない)が、開口21を通して処理室3内にハンドをアクセスさせる。これにより、スピンチャック4上に未処理の基板Wを載置したり、スピンチャック4上から処理済の基板Wを取り除いたりすることができる。開口21はシャッタ22によって開閉される。シャッタ22は、当該シャッタ22に結合されたシャッタ昇降機構(図示しない)によって、開口21を覆う閉位置(
図1に実線で示す)と、開口21を開放する開位置(
図1に二点鎖線で示す)との間で昇降される。
【0032】
図2は、X線照射ヘッド6の図解的な断面図である。
X線照射ヘッド6は、X線発生器25と、X線発生器25の周囲を取り囲むように覆うたとえば塩ビ(PVC)製のカバー26と、カバー26の内部に気体を供給するための気体ノズル(気体供給手段)27とを備えている。カバー26は、X線発生器25の周囲を、X線発生器25と間隔を空けて取り囲む縦長の矩形箱状のものであり、水平板状の下壁26Aにおいて、X線発生器25の次に述べる照射窓35に対向する部分にたとえば円形の開口28を形成している。
【0033】
X線発生器25は、基板W上のDIWを電離させるために用いられる軟X線を射出(放射)する。X線発生器25は、ケース体29と、X線を発生させるための上下に長いX線管30と、X線管30に高電圧を供給する高電圧ユニット31とを備えている。ケース体29は、その内部に、X線管30および高電圧ユニット31を収容する縦長の矩形筒状のものであり、導電性および熱伝導性を有する材料(たとえばアルミニウム等の金属材料)を用いて形成されている。
【0034】
高電圧ユニット31は、たとえば−9.5kVという高電位の駆動電圧をX線管30に入力する。高電圧ユニット31には、カバー26に形成された貫通孔42を通してカバー26外に引き出されたる給電線43を介して電源(図示しない)からの電圧が供給されている。
X線管30は、ガラス製または金属製の円筒形状の真空管からなり、管方向が鉛直となるように配置されている。X線管30の下端部(開口端部)は開いて円形の開口41を形成している。X線管30の上端部は閉じており、ステム32となっている。X線管30内には、陰極であるフィラメント33と、陽極であるターゲット36とが対向するように配置されている。X線管30は、フィラメント33およびフォーカス34を収容している。具体的には、ステム32に、カソードとしてのフィラメント33が配置されている。フィラメント33は、高電圧ユニット31と電気的に接続されている。フィラメント33は円筒状のフォーカス34によって取り囲まれている。
【0035】
X線管30の開口端部は、鉛直姿勢をなす板状の照射窓35によって閉塞されている。照射窓35はたとえば円板状をなし、銀ロウ付けによってX線管30の開口端部の壁面に固定されている。照射窓35の材料として、透過力の弱い軟X線が透過しやすい原子量の小さい物質が使用され、本実施形態ではベリリウム(Be)が採用されている。照射窓35の厚みは、たとえば0.3mm程度に設定されている。
【0036】
照射窓35の内面35Aには、金属製のターゲット36が蒸着によって形成されている。ターゲット36には、タングステン(W)やタンタル(Ta)等の原子量の大きく融点の高い金属が用いられる。
高電圧ユニット31からの駆動電圧が陰極であるフィラメント33に印加されることにより、フィラメント33が電子を放出する。フィラメント33から放出された電子は、フォーカス34で収束されて電子ビームとなり、ターゲット36に衝突することによって軟X線が発生する。発生した軟X線は照射窓35から下方に向けて射出(放射)される。照射窓35からの軟X線の照射角(照射範囲)は、
図7に示すように広角(たとえば130°)である。照射窓35からX線照射ヘッド6外に照射される軟X線は、その波長がたとえば0.13〜0.41nmである。
【0037】
照射窓35は、軟X線を発生する発生源である。そのため、外表面35Bへの水滴の付着等により、当該照射窓35が曇っていると、照射窓35からの軟X線の照射を阻害するおそれがあり、好ましくない。
照射窓35の外表面35Bの全域は、撥水性を有するポリイミド樹脂皮膜38によって被覆されている。照射窓35の外表面35Bを皮膜38で覆ったのは、耐酸性の劣るベリリウム製の照射窓35を、水等の処理液に含まれる酸から守るためのものである。ポリイミド樹脂皮膜38は、ポリアミック酸タイプのポリイミド樹脂を有している。ポリイミド樹脂皮膜38の膜厚は、50μm以下であり、とくに10μm程度であることが好ましい。皮膜38が撥水性を有しているので、照射窓35の外表面35Bから水分を排除することができる。これにより、照射窓35が曇るのを抑制または防止することができる。また、ポリイミド樹脂皮膜38は化学安定性が高いので、照射窓35の外表面35Bを長期にわたって保護し続けることができる。
【0038】
ところで、X線発生器25の周囲をカバー26で覆っているのは、X線発生器25を水分から守るためである。前述のようにX線発生器25が高電圧ユニット31を備えているので、X線発生器25の周囲の雰囲気が多くの水分を含んでいると、軟X線の発生の際に、高電圧がリークするおそれがある。したがって、X線発生器25に水分が侵入するのを抑制するために、X線発生器25の周囲をカバー26で覆っている。
【0039】
気体ノズル27の吐出口は、カバー26の上壁に開口している。気体ノズル27には気体バルブ(気体供給手段)37を介して気体供給源(図示しない)からの気体が供給されている。また、気体ノズル27には、常温(たとえば25℃)よりも高温(たとえば60℃)の気体が供給されており、そのため、気体ノズル27は高温(たとえば60℃)の気体を吐出する。ノズル27が吐出する気体として、CDA(低湿度の清浄空気)や窒素ガスの不活性ガスを例示することができる。気体ノズル27から吐出された気体は、カバー26の内部に供給される。
【0040】
前述のように、カバー26の下壁26Aには、照射窓35からの軟X線を透過させるための開口28が形成されている。そのため、カバー26の内部に気体が供給されるのと相俟って、すなわちカバー26とX線発生器25の外壁との間の空間に、開口28に向かう気流が形成される。そのため、カバー26外の雰囲気が、開口28を介してカバー26内に進入するのを抑制または防止することができ、X線発生器25の周囲の雰囲気に水分が進入するのをより一層抑制することができる。
【0041】
また、前述のように、照射窓35の外表面35Bには撥水性の皮膜38が形成されている。そのため、照射窓35前面に水分が膜状に析出するのではなく微細な水滴となる。照射窓35の外表面35Bに付着するその水滴が、高い接触角で外表面35Bに接しているので、当該水滴は、外表面35Bを移動し易い状態であるといえる。カバー26内に供給される気体は、X線発生器25とカバー26との間の空間39を通って照射窓35の外表面に達する。照射窓35の外表面35Bに付着している水滴は、空間39に形成された気流を受けて移動する。これにより、照射窓35の外表面35Bから良好に水滴を排除することができ、照射窓35が曇るのを確実に防止することができる。さらに、カバー26内に供給される気体が高温であるために、照射窓35の外表面35Bに付着する水滴を蒸発により除去することもでき、これにより、照射窓35が曇るのを、より一層確実に防止することができる。
【0042】
カバー26の下壁26Aには、開口28の周囲付近に、シート状のヒータ44が配置されている。ヒータ44は、抵抗体をシートにプリントすることにより形成されている。ヒータ44への通電によりヒータ44が昇温し、その周囲の部材が温められて、照射窓35も温められる。そのため、照射窓35の外表面35Bに付着する水滴を蒸発により除去することもでき、これにより、照射窓35が曇るのを、さらに一層確実に防止することができる。
【0043】
図3は、X線照射ヘッド6の配置位置を示す平面図である。
揺動駆動機構19が制御されることにより、スピンチャック4に保持された基板Wの表面上を、X線照射ヘッド6が、基板Wの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描くように移動可能に設けられている。X線照射ヘッド6により、基板Wの表面に軟X線を照射する場合、X線照射ヘッド6は近接位置に配置される。そして、軟X線の照射中は、その近接位置に配置されたままである。
図3に実線で示すX線照射ヘッド6の配置位置はセンター近接位置であり、基板Wの表面の回転中心(回転軸線C上)を、X線照射ヘッド6の照射窓35からの照射領域に含む近接位置である。
図3に二点鎖線で示すX線照射ヘッド6の配置位置はエッジ近接位置であり、基板Wの表面の周縁を、X線照射ヘッド6の照射窓35からの照射領域に含む近接位置である。
【0044】
図4は、基板処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。基板処理装置1は、さらに、マイクロコンピュータを含む構成の制御装置(制御手段)40を備えている。制御装置40には、スピンモータ8、高電圧ユニット31、揺動駆動機構19、昇降駆動機構20、薬液バルブ14、水バルブ16、気体バルブ37、ヒータ(発熱部材)44等が制御対象として接続されている。
【0045】
なお、照射窓35を曇りがない状態に保つため、基板処理装置1に電源が投入されている間、気体バルブ37は常に開放されているとともに、ヒータ44は駆動されている。ヒータ44は加熱されて、たとえば100℃程度まで昇温している。
図5は、基板処理装置1において実行される基板Wの処理例を示す工程図である。この処理例では、薬液処理の実行後、リンス処理が実行される。このリンス処理において、基板Wの表面に、X線照射ヘッド6からの軟X線が照射される。
図1、
図3、
図4および
図5を参照して、基板処理装置1における基板Wの処理について説明する。
【0046】
基板Wの処理に際して、シャッタ22が閉状態から開状態にされる。これにより、開口21が開放される。その後、搬送ロボット(図示しない)によって、未処理の基板Wが開口21を通って処理室3内に搬入されて(ステップS1)、その表面を上方に向けた状態でスピンチャック4に受け渡される。このとき、基板Wの搬入の妨げにならないように、X線照射ヘッド6はホームポジションに配置されている。搬送ロボットのハンドが処理室3外に退避した後、シャッタ22が閉状態にされる。
【0047】
スピンチャック4に基板Wが保持された後、制御装置40はスピンモータ8を制御して、スピンチャック4による基板Wの回転を開始させる(ステップS2)。基板Wの回転速度が所定の液処理速度(たとえば500rpm)まで上げられ、その後、その液処理速度に維持される。
基板Wの回転速度が液処理速度に達すると、制御装置40は薬液バルブ16を開いて、薬液ノズル7から基板Wの表面の回転中心に向けて薬液を吐出する(S3:薬液供給)。基板Wの表面に供給された薬液は、基板Wの回転による遠心力を受けて、基板Wの周縁に向けて流れる(基板Wの全域へと拡がる)。これにより、基板Wの表面の全域に薬液による処理が施される。
【0048】
薬液の供給開始から所定の薬液処理時間が経過すると、制御装置40は薬液バルブ16が閉じ、薬液ノズル7からの薬液の供給を停止する。
また、制御装置40は水バルブ14を開いて、回転状態にある基板Wの表面の回転中心に向けて水ノズル5からDIWを吐出する(ステップS4)。また、制御装置40は揺動駆動機構19を制御して、X線照射ヘッド6を、スピンチャック4の側方に設定されたホームポジションから、スピンチャック4の上方に移動させ、その後昇降駆動機構20を制御して、X線照射ヘッド6を、基板Wの表面に近接する近接位置に配置する。そして、制御装置40は高電圧ユニット31を制御して、X線照射ヘッド6のX線発生器25に軟X線を発生させて、照射窓35から下方に向けて照射させる(ステップS4)。
【0049】
基板Wの表面に供給されたDIWは、基板Wの回転による遠心力によって、基板Wの周縁に向けて流れる(基板Wの全域へと拡がる)。これにより、基板Wの表面に付着している薬液がDIWによって洗い流される(リンス処理)。
図6は、リンス処理を説明するための図解的な図である。
図5および
図6に示すように、基板WへのDIWの供給に並行して、X線照射ヘッド6による軟X線の照射が継続実行される。また、X線照射ヘッド6が、センター近接位置とエッジ近接位置との間で往復移動される。換言すると、X線照射ヘッド6からの軟X線が導かれる基板Wの表面の照射位置は、基板Wの回転中心から基板Wの周縁部に至る範囲内を、基板Wの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描きつつ往復移動する。これにより、基板Wの表面の全域にわたって軟X線を照射することができる。
【0050】
図7は、リンス処理における基板Wの表面近傍の状態を示す図解的な図である。
リンス処理中は、前述のように、基板Wの表面にDIWが供給されつつ、その基板Wの表面に軟X線が照射される。このとき、基板Wの表面を周縁に向けて流れるDIWに、軟X線が照射される。具体的には、基板Wの表面を流れるDIWによって、基板Wに表面にDIWの液膜が形成されるが、この液膜の表面部分(
図7に網掛け示す部分)に軟X線が照射される。軟X線の照射により、液膜の表面部分が電離されて、正イオンおよび負イオンが発生する。そのため、回転状態の基板WへのDIWの供給により、DIWとの接触分離により基板Wに電荷が生じた場合であっても、軟X線の照射によりDIW中に発生した正イオンおよび負イオンが、それぞれ基板Wに発生した負電荷および正電荷に引っ張られて移動し、当該電荷を打ち消すように作用する。すなわち、電離された状態にあるDIWが、基板Wを除電する。これにより、DIWとの接触分離による基板Wの帯電を抑制することができる。
【0051】
図1、
図4および
図5に示すようにDIWの供給開始から所定のリンス時間が経過すると、制御装置40は水バルブ14を閉じてDIWを供給停止する(ステップS5)。これにより、リンス処理が終了する。
DIWの供給停止から所定の時間が経過した後、制御装置40は高電圧ユニット31を制御して、X線照射ヘッド6の照射窓35からの軟X線の照射を停止させる(ステップS6)。また、制御装置40は、揺動駆動機構19および昇降駆動機構20を制御して、X線照射ヘッド6をホームポジションに戻す。なお、X線照射ヘッド6による基板Wの表面へのX線の照射は、次に述べるスピンドライの開始の直前まで実行される。
【0052】
所定のスピンドライ開始タイミングになると、制御装置40はスピンモータ8を制御して、基板Wの回転速度をスピンドライ回転速度(たとえば2500rpm)に上昇する。これにより、リンス処理後の基板Wの表面に付着しているDIWが遠心力で振り切られて乾燥される(S7:スピンドライ)。
スピンドライが所定の乾燥時間にわたって行われると、スピンチャック4の回転が停止される。その後、シャッタ22が閉状態から開状態にされ、開口21が開放される。そして、処理済の基板Wが開口21を通して搬送ロボット(図示しない)によって搬出される(ステップS8)。
【0053】
以上により、この実施形態によれば、基板Wの表面にDIWが供給されつつ、その基板Wの表面に軟X線が照射される。基板Wの表面を流れるDIWが軟X線の照射によって電離され、当該DIWが基板Wを除電する。そのため、回転状態の基板WにDIWが供給されるリンス処理時に、DIWとの接触分離による基板Wの帯電を抑制することができる。また、リンス処理前から基板Wが帯電していても、軟X線の照射によって電離されたDIWを用いて、その帯電した基板Wを除電することができる。その結果、基板Wの帯電に起因するデバイス破壊を防止することができる。この場合、基板Wの表面でDIWを電離させることができるので、電離直後のDIWを基板Wの表面に供給することができる。これにより、基板Wの除電を効果的に行うことができる。
【0054】
次に、X線照射ヘッドからの軟X線の照射によって、シリコンウエハやガラス基板等の基板を除電できることを確認するために、除電試験および電離試験という2つの試験を行った。この試験の内容および結果について以下説明する。
図8は、これらの試験に用いられる試験装置202を説明するための断面図である。
試験装置202は、DIWを貯留しておくための矩形箱状の水槽203と、水槽203に上方から取り付けられ、水槽203に溜められたDIWに対して軟X線を照射するためのX線照射ヘッド204とを備えている。
【0055】
水槽203は、幅100mm、奥行き100mm、高さ100 mmに形成されている。水槽203の底壁、4つの側壁および天壁は、それぞれ厚さ5mmの塩ビ板によって構成されている。X線照射ヘッド204は、
図2等に示すX線発生器25と同等の構成を有する軟X線イオナイザー(浜松ホトニクス(株)製)であり、照射窓35を下方に向けて配置されている。水槽203の上壁には開口205が形成されており、この開口205を介して、照射窓35を含むX線照射ヘッド204の下端部が水槽内に入り込んでいる。X線照射ヘッド204を水槽203に装着した状態で、X線照射ヘッド204は、照射窓の下面が、水槽203の上壁の下面よりも5mm下方に位置している。水槽203の上壁における開口205の側端辺と、X線照射ヘッド204の下端部との間の隙間にはシリコンゴム製のパッキン206が嵌め込まれており、これにより、X線照射ヘッド204が水槽203の上壁に固定されている。
【0056】
この試験では、シリコンウエハやガラス基板等の基板に代えて、ステンレス製の方形(80cm×80cm)のメッシュ211,212(格子状を有し全体として板状をなす)が、計測対象として用いられる。水槽203には、2枚のメッシュ211,212が、上下に間隔を空けつつそれぞれ水平姿勢で取り付けられる。上メッシュ211と、X線照射ヘッド204の照射窓35の外表面35Bとの間隔はたとえば10mmである。下メッシュ212と、X線照射ヘッド204の照射窓35の外表面35Bとの間隔はたとえば25mmである。
【0057】
水槽203の側壁には、排水用ニップル207と、注水用ニップル208とが取り付けられている。各ニップル207,208は、水槽203の側壁の内外をそれぞれ貫通している。排水用ニップル207は、水槽203の上壁の下面から20mmの位置(すなわち、上メッシュ211の5mm下方で下メッシュ212の10mm上方の位置)に配置されている。注水用ニップル208は、下メッシュ212に対し、大きく間隔の空いた下方に配置されている。注水用ニップル208には注水用ホース(図示しない)が接続されており、排水用ニップル207には排水用ホース(図示しない)が接続されている。注水用ホースを介して水槽203に水が供給されるとともに、排水用ニップル207および排水用ホースを介して排出されるようになっている。
【0058】
下メッシュ212は、帯電プレートモニタCPM(米国イオンシステムズ社製 CPM210)の金属プレート(図示しない)と高電圧ケーブルで接続されている。
そして、注水用ホースを介して水槽203に水が供給される。このとき、水槽203への給水が続けられても、水槽203に溜められたDIWの水位が排水用ニップル207の高さよりも上位に達することはない。排水用ニップル207の高さまで水槽203にDIWが溜められた状態では、排水用ニップル207よりも下方にある下メッシュ212はDIW中に浸漬され、その一方で、排水用ニップル207よりも上方にある上メッシュ211はDIWには浸漬されない。
(1)除電試験
水槽203への水の供給と並行して、帯電プレートモニタCPMにより、液中の下メッシュ212を±1kVまたは±5kVに帯電させた。そして、X線照射ヘッド204をオンさせて水槽203に溜められたDIWに軟X線を照射し、その照射開始から、下メッシュ212の電位が±100Vになるまでの時間(除電時間)を計測した。
【0059】
その結果、±1kVに帯電させた場合の除電時間は1秒間以内であり、±5kVに帯電させた場合の除電時間は2秒程度であった。
この除電試験により、DIWへの軟X線の照射により、DIW中の帯電体(下メッシュ212)を良好に除電できることがわかる。
(2)電離試験
上および下メッシュ211,212間に、超絶縁抵抗計(横河ヒューレット・パッカード(株)製 Model 4329A)を接続し、軟X線照射の有無による2枚のメッシュ211,212間の電気抵抗の変化を計測した。
【0060】
先ず、排水用ニップル207の高さまで水槽203にDIWを溜める。そして、X線照射ヘッド204をオフのまま、下メッシュ212に10Vの電圧を印加して、2枚のメッシュ211,212間の電気抵抗を計測した。次いで、下メッシュ212に10Vの電圧を印加したまま、X線照射ヘッド204をオンさせて水槽203に溜められたDIWに軟X線を照射した状態で、2枚のメッシュ211,212間の電気抵抗を計測した。
【0061】
その結果、軟X線照射時の電気抵抗は、軟X線照前の1×10
11から1×10
9に低下した。
この電離試験により、DIWへの軟X線の照射により、DIWを電離させることができることがわかる。
以上により、DIWへの軟X線の照射により、DIWを電離させることができ、このDIWの電離に起因して、DIW中の帯電体を良好に除電できることがわかる。
【0062】
図9は、本発明の第2実施形態に係る基板処理装置120の構成を模式的に示す図である。基板処理装置120が、第1実施形態に係る基板処理装置1と共通する部分には、
図1〜
図7と同一の参照符号を付し説明を省略する。基板処理装置120が基板処理装置1と相違する主たる点は、固定的な水ノズル5に代えて、スキャンノズルの形態が採用された水ノズル(水供給手段)121を設けた点である。
【0063】
水ノズル121は、たとえば、連続流の状態でDIWを吐出するストレートノズルである。水ノズル121は、その吐出口を下方に向けた状態で、ほぼ水平に延びる水アーム123の先端に取り付けられている。水ノズル121には水供給管13が接続されている。水アーム123は、鉛直方向に延びる所定の揺動軸線まわりに旋回可能に設けられている。水アーム123には、水アーム123を所定角度範囲内で揺動させるための水アーム揺動駆動機構122が結合されている。水アーム123の揺動により、水ノズル121は、基板Wの回転軸線C上の位置(基板Wの回転中心に対向する位置)と、スピンチャック4の側方に設定されたホームポジションとの間で移動される。
【0064】
リンス処理時には、水アーム揺動駆動機構122が制御されて、水ノズル121が、基板Wの回転中心上と周縁部上との間で往復移動させられる。これによって、水ノズル121からのDIWが導かれる基板Wの表面上の供給位置は、基板Wの回転中心から基板Wの周縁部に至る範囲内を、基板Wの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描きつつ往復移動する。このとき、水ノズル121とX線照射ヘッド6とが干渉しないように、水ノズル121およびX線照射ヘッド6の揺動位置がそれぞれ制御されている。
【0065】
図10は、本発明の第3実施形態に係る基板処理装置130の構成を模式的に示す図である。基板処理装置130が、第1実施形態に係る基板処理装置1と共通する部分には、
図1〜
図7と同一の参照符号を付し説明を省略する。基板処理装置130が基板処理装置1と相違する主たる点は、水ノズルとX線照射ヘッドとを一体的に有する一体型ヘッド131を備えた点である。一体型ヘッド131は、第2実施形態の水ノズル121と同等の構成を有する水ノズル(水供給手段)133と、第1実施形態のX線照射ヘッド6と同等の構成を有するX線照射ユニット(X線照射手段)134と、水ノズル133とX線照射ユニット134とを保持するホルダ135とを備えている。一体型ヘッド131は、ほぼ水平に延びるアーム132の先端に取り付けられている。アーム132は、鉛直方向に延びる所定の揺動軸線まわりに旋回可能に設けられている。アーム132の揺動により、一体型ヘッド131は、基板Wの回転軸線C上の位置(基板Wの回転中心に対向する位置)と、スピンチャック4の側方に設定されたホームポジションとの間で移動される。リンス処理時には、一体型ヘッド131が、基板Wの回転中心上と周縁部上との間で往復移動させられる。これによって、水ノズル133からのDIWが導かれる基板Wの表面上の供給位置、およびX線照射ユニット134からの軟X線が導かれる基板Wの表面の照射位置が、基板Wの回転中心から基板Wの周縁部に至る範囲内を、基板Wの回転方向と交差する円弧状の軌跡を描きつつ往復移動する。
【0066】
図11は、本発明の第4実施形態に係る基板処理装置140の構成を模式的に示す図である。基板処理装置140は、第1実施形態のX線照射ヘッド6に代えて、X線照射ヘッド(X線照射手段)141を備えている。X線照射ヘッド141がX線照射ヘッド6と相違する主たる点は、カバー26の側壁下縁から、水平方向に沿って外方に向けて張り出す(カバー26から側方に向けて突出する)遮蔽板部(遮蔽部材)142を備えた点である。遮蔽板部142は四角環板状をなし、その下面がカバー26の下壁26Aと連続する水平面を有している。リンス処理時において、遮蔽板部142は、スピンチャック4に保持されている基板Wの表面に対向して配置される。遮蔽板部142によって、照射窓35から照射された軟X線が、基板Wと遮蔽板部142との間の空間内に留めて置かれる。したがって、照射窓35から照射された軟X線が基板Wの周囲に散乱するのを抑制または防止することができ、これにより、基板処理装置140の安全性を高めることができる。
【0067】
以上、この発明の4つの実施形態について説明したが、この発明は他の形態で実施することもできる。
たとえば、照射窓35の外表面35Bに形成され、当該の外表面35Bを覆う撥水性皮膜として、他の皮膜を用いることができる。
この撥水性皮膜として、
図12に示すように、撥水性を有するDLC(Diamond Like Carbon)皮膜151(ダイヤモンドライクカーボンの皮膜)を採用することができる。DLC皮膜151は、微小の水素原子を含有している(原子数の比で、C:H=99:1〜96:4)。DLC皮膜151の膜厚は、10μm以下であり、とくに1〜2μm程度であることが好ましい。
【0068】
イオン注入法等により、照射窓35の外表面35Bにケイ素(Si)イオンが注入され、次いで、スパッタリング法等により、照射窓35の外表面35Bに炭素(C)イオンが注入される。これにより、照射窓35の外表面35Bが改質される。その後、プラズマCVD法等により、照射窓35の外表面35BにDLCの堆積膜が形成され、これにより、DLC皮膜151が形成される。ケイ素(Si)イオンの注入、炭素(C)イオンの注入、およびDLCの堆積は、室温〜150℃の低温環境下で行われる。
【0069】
このような方法(プラズマイオンアシスト方式)により形成したDLC皮膜151は、撥水性を有している。照射窓35の外表面35Bに撥水性のDLC皮膜151が形成されていると、照射窓35の外表面35Bに水滴が付着するのを防止することができる。その結果、照射窓35が曇るのを抑制または防止することができる。
また、DLC皮膜151は、高温環境下でも高い密着性を有している。そのため、剥がれたDLCが照射窓35を汚染するのを確実に防止することができる。
【0070】
さらに、DLCの堆積を低温環境下で行うために、堆積後の降下温度が少なく、DLC皮膜151中に応力が残留し難い。これにより、割れにくい(耐久性の高い)皮膜を形成することができる。
また、撥水性皮膜として、
図13に示すように、撥水性を有するアモルファスフッ素樹脂皮膜161を採用することができる。アモルファスフッ素樹脂皮膜161は、たとえばサイトップ樹脂(商品名)からなるアモルファスフッ素によって形成されている。アモルファスフッ素樹脂皮膜161の膜厚は、50μm以下であり、とくに5〜10μm程度であることが好ましい。照射窓35の外表面35Bに撥水性のアモルファスフッ素樹脂皮膜161が形成されていると、照射窓35の外表面35Bに水滴が付着するのを防止することができる。その結果、照射窓35が曇るのを抑制または防止することができる。
【0071】
なお以上では、皮膜としてDLC、アモルファスフッ素樹脂の実施形態について説明したが、本皮膜としては、軟X線が透過し易く、百数十℃程度の耐熱性を有し、ベリリウムとの密着性に優れ、耐水性を有し、薬品や薬品蒸気に対する耐腐食性を有し、純水中への溶出イオンが少なく、剥がれたりクラックが入りにくい材料の皮膜であれば他の材料であっても、適用することができる。
【0072】
また、第4実施形態において、遮蔽部材をX線照射ヘッド141と一体に設けた構成について説明したが、遮蔽部材は照射ヘッド141と個別に設けられていてもよい。この場合、スピンチャック4上方において水平面内で揺動可能なアームに取り付けられて、このアームの揺動によりスピンチャック4上を移動可能に設けられていてもよい。
前述の各実施形態において、シャッタ21が開状態になったときには、X線照射ヘッド6,141やX線照射ユニット134からのX線の照射が停止されるようになっていてもよい。
【0073】
また、気体ノズル27は、常温よりも高温の気体を吐出するとして説明したが、気体ノズル27から常温の気体が吐出されてもよい。
前述の各実施形態では、発熱部材としてのシート状のヒータ44を配置する構成を採用したが、他の熱源を発熱部材として設ける構成であってもよい。また、カバー26の下壁26Aのような開口28の周囲に限られず、照射窓35に設けられていてもよい。また、カバー26の下壁26Aと照射窓35との双方に設けられる構成であってもよい。また、ヒータ44等の加熱部材を照射窓35の周囲に設けない構成であってもよい。
【0074】
また、前述の各実施形態では、移動型のX線照射ヘッド6,141や、同じく移動型のX線照射ユニット134を、X線照射手段として設ける構成を例示したが、固定式のX線照射手段を、スピンチャック4に保持された基板Wに対して上方に固定的に対向配置させてもよい。この場合、固定式のX線照射手段から照射された軟X線が、当該基板Wの全域に照射されるようになっている必要がある。また前述の各実施形態においては、X線のなかでも比較的波長が長い「軟X線」を照射するものをX線照射手段として用いたが、これに限らず、比較的波長が短い「硬X線」(0.001nm〜0.1nm)を用いることもできる。この場合、装置のオペレータ等の人体に対する安全のため、例えば装置のオペレータ側の面を相当の厚みを有する鉛板で覆うなど、X線の装置外への漏洩を遮蔽する遮蔽構造を設けるか、あるいはX線照射時におけるオペレータの装置周辺への立ち入りを禁止するなどの対応をとることが望ましい。なお、各実施形態にある軟X線を照射するものを用いれば、硬X線を照射するものとくらべ、装置が小型で安価ですみ、また人体等に対する遮蔽も比較的容易である。
【0075】
また、前述の各実施形態では、軟X線の照射と並行して基板Wに供給される水の一例としてDIWを挙げたが、DIWに限らず、オゾン溶存水や水素溶存水などを水として採用することもできる。
また、前述の各実施形態では、リンス処理のための水の供給と並行して、基板Wの表面に軟X線を照射する場合を例にとって説明したが、薬液(希釈薬液)の供給と並行して軟X線の照射を実行することもできる。この場合、希釈薬液としては、所定濃度に希釈されたAPM(アンモニア過酸化水素水混合液)、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)、アンモニア水等を用いることができる。
【0076】
また、水を供給しつつ、基板Wの表面や周縁部をブラシやスクラバで洗浄する処理において、水の供給と並行して、基板Wの表面に軟X線を照射することもできる。
また、前述の各実施形態では、表面に酸化膜が形成された基板Wに対する処理を行う場合を例に挙げたが、表面に銅膜やTi(チタン)膜等の金属膜(配線膜)が形成された基板Wに対する処理を行うものであってもよい。
【0077】
また、本発明は、円形の基板Wの処理だけでなく、矩形の基板やシート状の基板を処理するための基板処理装置および基板処理方法に適用することもできる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。