(54)【発明の名称】推定方位角評価装置、移動体端末装置、推定方位角評価装置の制御プログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、推定方位角評価装置の制御方法、および測位装置
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、移動体の移動動作において、加速度センサによって計測された加速度に基づいて、上記3軸の角速度センサのいずれかの軸が重力軸と一致しているか否かを判定する重力軸判定手段を備え、
角速度センサで計測された角速度のうち、いずれかの軸が重力軸に一致した状態で計測された角速度を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の推定方位角評価装置。
上記バイアス成分候補生成手段は、上記角速度センサ周辺において計測された温度に基づいて上記複数のバイアス成分の候補を生成することを特徴とする請求項5に記載の推定方位角評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について
図1〜
図4、
図9を参照して説明すると以下のとおりである。
【0019】
(概要)
まず、
図1を用いて、本発明の一実施形態に係る測位システムSYS1について説明する。
図1は、測位システムSYS1の概略的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
図1に示すように測位システムSYS1は、大きく分けて2つの要素を含む。すなわち、測位システムSYS1は、移動体端末装置2および角速度オフセット判定装置1を備える。
【0020】
移動体端末装置2および角速度オフセット判定装置1は、移動体端末装置2の外部接続インターフェースAと角速度オフセット判定装置1の外部接続インターフェースBとによって、相互にデータ通信可能に接続される。
【0021】
外部接続インターフェースAおよびBの間の接続は、有線であっても無線であってもよい。外部接続インターフェースAおよびBとしては、例えば、有線であれば、USB(Universal Serial Bus)、無線であれば、Bluetooth(登録商標)、IEEE802.11無線、およびNFC(Near Field Communication)などのインターフェースを採用することができる。
【0022】
移動体端末装置2は、移動体(例えば、歩行者や台車など)に取り付けられ、搭載する各種センサによって計測を行う。対象となる移動体は、センサモジュールにより移動を検出できるようなものであれば、特に制限はない。
【0023】
角速度オフセット判定装置1は、移動体端末装置2から出力される計測データに基づいて姿勢推定処理を行う。この姿勢推定処理は、各種センサから得られる計測データに基づいて行われる。また、角速度オフセット判定装置1は、当該姿勢推定処理結果が妥当であるか否かを判定する。
【0024】
測位システムSYS1において、移動体端末装置2は、いわゆるデータロガーであり、計測のみを行う。そして、移動体端末装置2を角速度オフセット判定装置1に接続し、移動体端末装置2の計測データを、角速度オフセット判定装置1に読み込ませる。角速度オフセット判定装置1では、読み込んだ計測データに基づいて、姿勢推定処理および角度オフセット判定処理を実行する。
【0025】
(移動体端末装置)
移動体端末装置2は、より具体的には、角速度センサ21、加速度センサ22、タイマ23、記憶部24および制御部25を備える構成である。
【0026】
角速度センサ21は、少なくとも重力回りの角速度を計測できるセンサである。角速度センサ21は、例えば、3軸の角速度ベクトルを計測可能な角速度(ジャイロ)センサにより実現することができる。
【0027】
加速度センサ22は、重力方向を検出可能なセンサである。加速度センサ22は、例えば、3軸の加速度ベクトルを計測可能なものであってもよい。
【0028】
タイマ23は、各センサが計測を行った絶対時刻または相対時刻を計測可能なものである。タイマ23は、少なくとも角速度センサによって角速度が計測された相対時刻を計測できればよい。また、タイマ23は、例えば、RTC(Real-time clock)のような電子部品により実現することができる。
【0029】
記憶部24は、角速度センサ21、加速度センサ22、およびタイマ23の出力データが対応付けられた計測データを記憶し、所定期間以上、その内容を保持するものである。計測データは、角速度センサ21によって計測される角速度ベクトル、加速度センサ22によって計測される加速度ベクトル、および、タイマ23によって計測される時刻が対応付けられたデータである。記憶部24は、例えば、移動体端末装置2に搭載されたハードディスクやSSD(Solid State Drive)によって実現することができる。あるいは、記憶部24は、microSDカードのような取り外し可能な外部記憶装置によっても実現することができる。
【0030】
制御部25は、移動体端末装置2を統括的に制御するものである。より具体的には、制御部25は、計測制御部251および接続制御部252を備える。
【0031】
計測制御部251は、角速度センサ21、加速度センサ22、およびタイマ23の出力データを取得し、取得したデータを対応付けて計測データD241として記憶部24に記憶する。
【0032】
接続制御部252は、移動体端末装置2が外部接続インターフェースAを介して角速度オフセット判定装置1と接続されたとき、記憶部24から計測データD241読み出し、読み出した計測データを角速度オフセット判定装置1に送信する。
【0033】
(角速度オフセット判定装置)
角速度オフセット判定装置1は、より具体的には、記憶部11、制御部12、および、表示部13を備える。
【0034】
記憶部11には、角速度オフセット判定装置1が使用する各種データが記憶される。記憶部11は、例えば、角速度オフセット判定装置1に搭載されたハードディスクやSSD(Solid State Drive)によって実現することができる。あるいは、記憶部11は、microSDカードのような取り外し可能な外部記憶装置によっても実現することができる。記憶部11に記憶されるデータの詳細については後述する。
【0035】
制御部12は、角速度オフセット判定装置1を統括的に制御するものである。より具体的な構成については後述する。
【0036】
表示部13は、制御部12から送信される画像データに基づいて表示画面に文字や画像、グラフなどの各種の情報を表示する。
【0037】
(記憶部の詳細)
記憶部11には、具体的には、計測データD111、候補範囲データD112、移動データD113、連続移動データD114、ヒストグラム情報D115、および通路情報D116が記憶される。
【0038】
計測データD111は、角速度ベクトル、加速度ベクトル、および、これらの計測時刻が対応付けられたデータである。
【0039】
候補範囲データD112は、判定すべき角速度オフセットの値の範囲を設定するデータである。
【0040】
移動データD113は、計測データの時系列において、移動体が1単位移動したとみなせる時点を示す情報およびその時点における方位角を示す情報を含む。以下では、説明の便宜上、移動体は人であるとし、人が歩行により移動する場合について説明する。よって、移動データD113は、人が歩行により一歩移動した時点を示す情報と表現することもできる。
【0041】
連続移動データD114は、計測データの時系列において、移動体がある方向に連続して移動した時間区間を示す情報である。以下では、例示的に、連続移動データD114は、人が歩行により所定歩数移動した区間を示すものとする。所定歩数(n歩)として設定する歩数は任意であるが、例えば「5歩」に設定することができる。
【0042】
ヒストグラム情報D115は、連続移動区間におけるヨー方位角の出現頻度を示す情報である。ヒストグラム情報D115の具体例を
図3に示している。
図3の(a)及び(b)に示すヒストグラムでは、横軸にヨー方位角(yaw)、縦軸にヨー方位角の出現頻度(度数)を取っている。
図3の詳細については後述する。
【0043】
通路情報D116は、移動体が移動可能な領域の形状を示す地理的情報である。通路情報D116は、例えば、通路の配置、接続関係を示す。移動体が移動可能な領域は、移動の方位角がある程度拘束されるような通路であるほうが好ましい。別の観点から言えば、通路情報D116は、移動体が移動可能な通路の配置条件を示すものであってもよい。通路情報D116は、具体的には、
図2に示すような通路を示す情報であってもよい。
図2の(a)は、碁盤の目のように通路が配置された移動領域を示している。また、
図2の(b)は、2等辺三角形状に配置された通路を示している。
【0044】
(制御部の詳細)
制御部12は、具体的には、計測データ取得部121、候補生成部(バイアス成分候補生成手段)122、姿勢推定部(推定手段)123、移動検出部(推定手段)124、連続移動区間検出部(移動検知手段)125、方位角ヒストグラム生成部(出現頻度取得手段)126、および評価判定部(評価手段、推定方位角出力手段)127を備える。また、移動データと、推定された姿勢と、評価判定部127の評価とに基づいて推定方位角を出力する推定方位角出力部(推定方位角出力手段)130、および該推定方位角に基づいて移動体の位置を推定する位置推定部(位置推定手段)131を備えていてもよい。
【0045】
計測データ取得部121は、外部接続インターフェースBを介して接続される移動体端末装置2から計測データを取得し、記憶部11に記憶する。
【0046】
候補生成部122は、ゼロ点オフセットの候補を生成する。候補生成部122は、候補範囲データD112に指定されている範囲でゼロ点オフセットの候補を生成する。±0.005[rad/s]が候補範囲データD112に指定されている場合、候補生成部122は、該範囲内において、所定の分解能でゼロ点オフセットの候補を生成する。例えば、ヨー方位角について分解能が0.001[rad/s]であれば、候補生成部122は、10通りのゼロ点オフセットの候補を生成する。なお、候補生成部122は、従来技術を用いてゼロ点オフセットを推定してもよい。ゼロ点オフセットの推定には、例えば、非特許文献1の技術を採用することができる。また、推定したゼロ点オフセットを中心に所定範囲(例えば、候補範囲データD112に指定されている範囲)で、候補生成部122は、ゼロ点オフセットの候補を生成してもよい。
【0047】
姿勢推定部123は、角速度ベクトル(3軸)と、加速度ベクトル(3軸)とに基づいて、移動体の(世界座標系における)3次元姿勢の推定を行うものである。姿勢推定部123は、具体的には、計測データD111に含まれる角速度ベクトルにゼロ点オフセットを適用して推定した較正後角速度ベクトルと、計測データD111に含まれる加速度ベクトルとに基づいて移動体の3次元姿勢を推定する。
【0048】
さらに言えば、姿勢推定部123は、加速度ベクトルに基づき重力軸を特定し、ヨー方位角を推定してもよい。例えば、姿勢推定部(重力軸判定手段)123は、角速度センサの3軸のうちの何れのセンサ軸が重力軸と一致しているかを判定してもよい。また、姿勢推定部123は、角速度センサの3軸のうちの何れかが重力軸と一致している場合の計測データを用いて、姿勢の推定を行ってもよい。
【0049】
重力軸の特定についてさらに説明すると次のとおりである。多くの場合、角速度センサを実装・収納するパッケージの形状は、直方体である。よって、歩行者がそのパッケージを装着するとき、特定のセンサ軸が重力軸と一致するケースが多い。また、加速度センサ(3軸)および角速度センサ(3軸)の計測データを用いて重力軸との一致度を検証することも可能である。重力方位ベクトル(重力軸)を、加速度センサ(3軸)および角速度センサ(3軸)の組み合わせによって推定する技術としては、例えば、非特許文献1に記載の技術が挙げられる。よって、このような技術を用いて、姿勢推定部123は、何れかのセンサ軸が重力軸と一致しているかどうかを検証してもよい。
【0050】
移動検出部124は、所定区間(所定期間)の計測データに含まれる角速度ベクトルと、加速度ベクトルとに基づいて、移動体の移動の有無を検出し、その検出結果を出力する。移動検出部124は、例示的に歩行者の歩行動作の有無を検出する。具体的には、移動検出部124は、角速度ベクトルと、加速度ベクトルと、姿勢推定部123が出力する移動体の3次元姿勢の推定結果と、を組み合わせることで歩行動作の有無を検出する。歩行動作の有無の検出には、例えば、特許文献2に記載の技術を用いることができる。
【0051】
移動検出部124は、1歩行動作を検出するのに用いた計測データに基づいて1歩行動作における代表的な方位角を算出し、算出した方位角を、当該歩行動作における方位角とする。
【0052】
歩行動作の場合、その周波数は1〜3Hz程度である。説明のため、仮に歩行動作の周波数を2Hzとすると、100Hzで計測データをサンプリングした場合、1歩行動作を検出するのに用いる計測データは50個になる。よって、この場合、1歩行動作における代表的な方位角は、この50個の計測データに基づいて算出すればよい。
【0053】
代表的な方位角としては、歩行動作が検出された区間において推定される方位角の中央値、平均、メジアンなどを用いることができる。なお、代表的な方位角を算出せずに、サンプリングしたすべての計測データを後述するヒストグラム情報生成処理において用いることも可能である。
【0054】
移動検出部124は、歩行動作を検出した時点およびその代表的な方位角を示す移動データD113を生成し記憶部11に記憶する。
【0055】
連続移動区間検出部125は、移動検出部124の出力に基づいて、連続して移動しているとみなせる時間の区間(期間)を抽出する。具体的には、連続移動区間検出部125は、まず、移動体が2歩連続して移動したか否かを検出する。2歩連続して移動した区間とは、ある歩行動作とその次に検出される歩行動作とが連続している区間のことである。
【0056】
上述したとおり、歩行動作の周波数は1〜3Hz程度である。よって、歩行動作が検出されてから1秒以内に次の歩行動作が再び検出された場合、その2つの歩行動作は連続しているとみなせる。
【0057】
そして、連続移動区間検出部125は、歩行動作が所定回数(例えば、5回)連続している連続移動区間を検出する。言い換えれば、連続移動区間検出部125は、2歩連続して移動する区間が所定回数続く連続移動区間(例えば、5歩連続して歩行する区間)を抽出する。
【0058】
連続移動区間検出部125は、連続移動区間を示す連続移動データD114を生成し、記憶部11に登録する。
【0059】
方位角ヒストグラム生成部126は、連続移動区間における各歩行動作の方位角の出現頻度を集計しヒストグラムを生成する。具体的には、方位角ヒストグラム生成部126は、連続移動データD114で示される連続移動区間に対応する移動データD113を抽出し、抽出した移動データD113において示される方位角の頻度を集計する。なお、ヒストグラムの生成に使用する歩行動作のサンプル数は、例えば、1000歩分程度であればよい。
【0060】
評価判定部127は、推定された方位角が適正であるか否かを評価する。別の観点から言えば、評価判定部127は、方位角の推定において用いられたゼロ点オフセットが適正であるか否かを評価する。評価判定部127における評価について具体的に説明すると次のとおりである。
【0061】
まず、評価判定部127は、方位角ヒストグラム生成部126が生成したヒストグラムが、移動体が移動したときに現れるパターンを示しているか否かを判定する。すなわち、生成されたヒストグラムが、正しくゼロ点オフセットが推定されていた場合に現れる方位角の頻度分布と同じ傾向を示すか否かを判定する。評価判定部127は、例えば、移動体が移動した領域の地理的情報(すなわち、通路情報D116)を予め取得しておき、当該地理的情報を用いてヒストグラムを評価してもよい。
図2を用いて、具体的に説明すると次のとおりである。
【0062】
一般的なオフィス環境や、工場、居住環境においては、歩行移動可能な通路が整然と配置されていることが多い。このような場所においては、例えば、
図2の(a)に示すような碁盤の目のような通路配置であることも多い。
【0063】
図2の(a)に示すような通路配置の場合、移動体K1が連続して歩行移動する方位角には偏りがでてくる。例えば、通路の接続点(十字路)P1において、移動体K1が前の方位FWに向いている場合、移動体K1の移動方向は、(1)前の方位FW、(2)右の方位R、(3)左の方位L、(4)後ろの方位BWの何れかになる。
【0064】
従って、移動体K1が連続して歩行移動する方位角は、前進方向を0度とし、右回りのヨー方位角を正とすると、−180度、−90度、0度、90度、180度の方位に進行する頻度が多くなる。
【0065】
よって、このような場合、方位角が正しく推定されていれば、ヒストグラムのピークには90度ごとに現れる傾向が生じる。よって、方位角が正しく推定されていれば、例えば、
図3の(a)に示すような、所定の方位角に尖ったピークを有するヒストグラムが得られるはずである。
【0066】
評価判定部127は、記憶部11から通路情報D116を読み取り、通路情報D116を分析して、移動体K1が移動する可能性が高い方位(すなわち、移動の方位角の出現頻度の偏りまたは傾向)を特定する。なお、評価判定部127は、通信ネットワーク等を介して外部から通路情報D116を取得してもよい。また、評価判定部127は、通路情報D116ではなく、移動の方位角の出現頻度の偏り(傾向)を示す情報を取得してもよい。
【0067】
また、評価判定部127は、上記ヒストグラムがこのような移動の方位角の出現頻度の偏り(傾向)を示しているかどうかを評価する。
【0068】
評価判定部127は、具体的には、例えば、出現頻度が多いはずの方位角におけるヒストグラムのピークの先鋭度(尖度)が所定の高さ(閾値)より高いかどうか(あるいは、どれくらい高いか)を評価してもよい。方位角が正しく推定されている場合には、所定の方位角におけるピークの先鋭度が高くなる。
【0069】
一方、方位角が正しく推定されていない場合、ピークの先鋭度(尖度)が低くなったり、ヒストグラムの裾が全体的に広がったりして、例えば、
図3の(b)に示すようなヒストグラムが現れる。すなわち、ゼロ点オフセットの累積誤差によって、方位角の誤差が無視できないほど増大している場合、上述したピークの尖度が低くなるか、ピークが見いだせないほど弱まるか、または異なる方位角にピークが現れる。
【0070】
なお、
図2の(b)に示すような通路配置の場合、通路が鋭角接続(45度で接続)する位置P21では、移動体K21は、右後ろの方位RBWか、後ろの方位BWに移動することになる。よって、この場合、−180度、135度、180度の方位にヒストグラムのピークが現れるはずである。
【0071】
また、通路が直交する位置では、移動体K22は、右の方位Rか後ろの方位BWのいずれかに移動することになる。よって、この場合、−180度、90度、180度の方位にヒストグラムのピークが現れるはずである。
【0072】
図2の(b)に示すような通路配置の場合、このような方位角の偏りを考慮し、ヒストグラムを評価すればよい。すなわち、上記の方位にヒストグラムのピークが現れるか否か、その尖度が所定の閾値以上であるかどうかを評価すればよい。
【0073】
評価判定部127は、ヒストグラムの尖度の評価結果に基づいて、推定された方位角が適正であるか否かを判定する。すなわち、地理的情報に従った、尖ったピークを有するヒストグラムが現れていれば、評価判定部127は、推定された方位角が適正であると判定することができる。また、評価判定部127は、ピークの尖度に従って、どれほど方位角が適正であるかを示す評価結果を出力してもよい。また、評価判定部127は、表示部13において、評価結果とともにヒストグラムを表示させてもよい。
【0074】
また、上記評価に基づいて、推定方位角を出力してもよい。例えば、推定方位角出力部130は、評価判定部127の評価結果に基づき、上記評価がなされたヒストグラムに係る推定方位角のうち、所定の閾値以上の評価がなされたものを出力してもよい。また、上記評価がなされたヒストグラムに係る推定方位角のうち、最も高い評価がなされたものを出力してもよい。
【0075】
なお、以上においては、角速度オフセット判定装置1が実行する姿勢推定処理およびその妥当性の判定処理(評価処理)について説明したが、これに限られない。角速度オフセット判定装置1では、以上の姿勢推定処理等を用いて、位置推定部131によって移動体の位置推定処理を行ってもよい。
【0076】
(処理の流れ)
図4を用いて、角速度オフセット判定装置1におけるゼロ点オフセット判定処理の流れについて説明する。
図4は、角速度オフセット判定装置1における処理の流れについて例示するフローチャートである。なお、以下では、角速度オフセット判定装置1は、移動体端末装置2から計測データを取得しているものとする。
【0077】
まず、候補生成部122が、候補範囲データに基づいて、生成すべきゼロ点オフセットの候補の範囲を決定し、該範囲内の候補を生成する(S11)。
【0078】
そして、処理は、候補生成部122が生成したゼロ点オフセットの候補についてのループに入る(L1)。
【0079】
次に、姿勢推定部123および移動検出部124が、記憶部11に記憶されている計測データD111から角速度ベクトルを取得し(S12)(角速度取得ステップ)、また、加速度ベクトルを取得する(S13)。
【0080】
次に、姿勢推定部123が、ゼロ点オフセットの候補が適用された較正後角速度ベクトルおよび加速度ベクトルに基づいて、移動体の姿勢推定処理を実行する(S14)。
【0081】
次に、移動検出部124が、移動体の移動状態を検知する(S15)。具体的には、移動検出部124が、移動体の姿勢推定処理の結果に基づき、移動体の移動(歩行動作)およびその方位角を検出する(推定ステップ)。
【0082】
次に、連続移動区間検出部125が、移動体の連続移動区間を抽出する(S16)。具体的には、まず、連続移動区間検出部125が、移動検出部124が検出した移動体の移動(歩行動作)に基づいて、歩行動作が2歩連続している区間を検出する。そして、連続移動区間検出部125は、移動データD113に基づいて、n歩連続して歩行動作が行われている連続移動区間を抽出する。また、連続移動区間検出部125は、抽出した連続移動区間について連続移動データを生成し記憶部11に登録する。
【0083】
次に、方位角ヒストグラム生成部126が、上記連続移動データに示されるn歩連続して歩行動作が行われている区間について、各歩行動作の方位角の出現頻度を計算してヒストグラムを生成し、ヒストグラム情報として記憶部11に記憶する(S17)(出現頻度取得ステップ)。
【0084】
また、評価判定部127が、ヒストグラムを評価する(S18)(評価ステップ)。また、評価判定部127は、ヒストグラムの評価結果に応じて、推定された方位角が適正か否かを判定してもよい。すなわち、評価判定部127は、推定したゼロ点オフセットが適正か否かを判定してもよい。
【0085】
以上の処理が完了したら(L2)、L1に戻り、次のゼロ点オフセットの候補について、S12〜S18の処理をさらに実行する。
【0086】
すべてのゼロ点オフセットの候補について、ループ(1)の処理が完了すれば、処理は終了する。
【0087】
なお、評価判定部127は、以上の処理において得られた評価結果に基づいて、ゼロ点オフセットの候補から、最も方位角をよく推定できるものを特定し出力してもよい。例えば、評価判定部127は、ヒストグラムの尖度が最も高くなるような評価結果を得られるゼロ点オフセットを抽出してもよい。
【0088】
また、所定以上の評価結果となる方位角が検出された時点で、ループ(1)の処理を終了してもよい。例えば、ヒストグラムの尖度が所定の閾値以上となる方位角が特定された時点でループ(1)の処理を終了し、当該方位角を用いて移動体の測位を行ってもよい。
【0089】
(作用・効果)
以上に示したとおり、角度オフセット判定装置1(推定方位角評価装置、測位装置)は、移動体の移動動作において角速度センサ21(3軸の角速度センサ)によって計測された重力軸回りの角速度を取得する計測データ取得部121(角速度取得手段)と、角速度センサ21のバイアス成分の候補を生成する候補生成部122(バイアス成分候補生成手段)と、取得した上記角速度と上記バイアス成分の候補とに基づいて、移動体の移動動作の推定方位角を推定する姿勢推定部123と、移動時の代表的な推定方位角を算出する移動検出部124(推定手段)と、上記推定方位角の出現頻度を取得する方位角ヒストグラム生成部126(出現頻度取得手段)と、取得した出現頻度が、移動体の移動動作の進行方向に関する拘束条件下において、方位角が正しく推定されている場合に現れる傾向を示すか否かを評価する評価判定部127(評価手段)と、を備える構成である。
【0090】
よって、誤差成分(バイアス成分)を予め計測しなくても、推定した角速度の誤差成分の適否を評価することができるという効果を奏する。なお、上記の例では、ヒストグラムを用いてゼロ点オフセットの候補の評価を行っているが、評価は、方位角の分布が移動体の進行方向に関する所定の拘束条件下において方位角が正しく推定されているときに現れる傾向を示すか否かによって行えばよく、この例に限られない。
【0091】
(変形例)
なお、
図4に示すフローチャートでは、S11〜S18の動作は、大まかな流れが明確となるように順次行われる処理として記載したが、
図9に示すようなフローによって実現されていてもよい。すなわち、
図4に示すフローチャートのS11〜S18の動作は以下のような分岐を有するフローにより実現されていてもよい。
【0092】
図9に示すように、まず、候補生成部122が、候補範囲データに基づいて、生成すべきゼロ点オフセットの候補の範囲を決定し、該範囲内の候補を生成する(S21)。
【0093】
そして、処理は、候補生成部122が生成したゼロ点オフセットの候補についてのループに入り(L11)、さらに計測データについてのループ(1)に入る(L21)。なお、計測データのサンプル数は、例えば、1,000歩分の歩行動作を検出できる程度、すなわち、50,000個程度でよい。
【0094】
ループ(2)では、まず、移動検出部124が歩行検知処理を実行する(S22)。歩行動作を検知しなかった場合(S23においてNO)、次の計測データが取得され(L22)、次のループ(L21)の処理が開始される。
【0095】
一方、歩行動作を検知した場合(S23においてYES)、移動検出部124が1歩行動作を検出するのに用いた計測データに基づいて移動データを生成する(S24)。
【0096】
次に、連続移動区間検出部125が、検知された歩行動作が一つ前の歩行動作と連続しているか否かを判定する(S25)。
【0097】
S25において、検知された歩行動作が一つ前の歩行動作と連続している場合(S25においてYES)、連続移動区間検出部125は、歩数Xをカウントアップし(S26)、さらに歩行動作がn歩以上連続しているか否かを判定する(S27)。
【0098】
S27において、歩行動作がn歩以上連続している場合(S27においてYES)、方位角ヒストグラム生成部126が、連続移動区間に属する移動データD113について、方位角をヒストグラムに反映させた(S28)後、処理は、ループ(2)の初めに戻り(L21)、次の計測データについて処理が実行される。
【0099】
一方、S27において、歩行動作がn歩以上連続していない場合(S27においてNO)、処理は、ループ(2)の初めに戻り(L21)、次の計測データについて処理が実行される。
【0100】
また、S25において、検知された歩行動作が一つ前の歩行動作と連続していない場合(S25においてNO)、歩数Xがゼロに初期化されて(S29)、処理は、ループ(2)の初めに戻り(L21)、次の計測データについて処理が実行される。
【0101】
ループ(2)において全ての計測データについて処理が終了したら、評価判定部127が、ヒストグラムを評価する(S30)。
【0102】
次に、次のゼロ点オフセットの候補が対象となり(L12)、ループ(1)の初めから処理が開始される(L11)。
【0103】
すべてのゼロ点オフセットの候補について処理が完了したら、処理は終了する。
【0104】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について
図5に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態では、説明の便宜上、既に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0105】
図5に示す測位システムSYS1Aは、移動体端末装置2Aおよび角速度オフセット判定装置1Aを備える。
【0106】
移動体端末装置2Aおよび角速度オフセット判定装置1Aの間は通信ネットワークNWを介して接続される。通信ネットワークNWとしては、例えば、IEEE802.11無線、携帯電話網などの無線ネットワークを採用できる。ただし、これに限られず通信ネットワークNWとして、イーサネット(登録商標)などの有線の通信ネットワークを採用しても構わない。
【0107】
また、測位システムSYS1Aの移動体端末装置2Aは、データ計測プローブとして機能する。すなわち、移動体端末装置2Aは、計測したデータを、通信ネットワークNWを介して角速度オフセット判定装置1Aに随時送信する。
【0108】
以下、
図1に示した測位システムSYS1と、
図5に示す測位システムSYS1Aとの相違点について詳細に説明すると次のとおりである。
【0109】
すなわち、測位システムSYS1Aの移動体端末装置2Aは、測位システムSYS1の移動体端末装置2における記憶部24を取り除くとともに、接続制御部252を、通信制御部253に変更したものである。
【0110】
通信制御部253は、角速度センサ21、加速度センサ22、およびタイマ23において計測された計測データを、随時、通信ネットワークNWを介して角速度オフセット判定装置1Aに送信する。
【0111】
また、測位システムSYS1Aの角速度オフセット判定装置1Aは、測位システムSYS1の角速度オフセット判定装置1における計測データ取得部121を、計測データ取得部121Aに変更したものである。
【0112】
計測データ取得部121Aは、移動体端末装置2Aから随時送信される計測データを、通信ネットワークNWを介して取得する。
【0113】
以上のように、移動体端末装置2Aが計測データを随時、角速度オフセット判定装置1Aに送信する構成である。上記構成においては、移動体端末装置2Aにおいて計測データを記憶するための記憶部を省略しているので、移動体端末装置2A自体が、第3者に取得されたとしても、計測データまでは取得されない。よって、上記構成によれば、移動体端末装置2Aの紛失・盗難による計測データの漏えいを防ぐことが可能である。
【0114】
なお、測位システムSYS1Aでは、移動体端末装置2Aと、角速度オフセット判定装置1Aとが1対1となっている構成であったが、これに限られない。複数の移動体端末装置2Aに対して、1つの角速度オフセット判定装置1Aを設ける構成であっても構わない。また、角速度オフセット判定装置1Aにおいても、角速度オフセット判定装置1と同様に、推定方位角出力部130および位置推定部131を備えていてもよい。
【0115】
〔実施形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について
図6に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態では、説明の便宜上、既に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0116】
図6に示す測位システムSYS1Bは、移動体端末装置2A、記憶サーバ3、および角速度オフセット判定装置1Aを備える。
【0117】
すなわち、
図6に示す測位システムSYS1Bでは、
図5に示す測位システムSYS1Aにおいて、移動体端末装置2Aおよび角速度オフセット判定装置1Aの間に、両者を中継する記憶サーバ3が設けられている。
【0118】
なお、
図6に示す測位システムSYS1Bでは、移動体端末装置2Aのデータ送信先は、記憶サーバ3であり、角速度オフセット判定装置1が計測データを取得する元は記憶サーバ3である。
【0119】
記憶サーバ3は、計測データ受信部31と、計測データ保存部32と、計測データ送信部33と、記憶部34とを備える。
【0120】
計測データ受信部31は、移動体端末装置2AからネットワークNW1を介して送信される計測データを受信し、受信した計測データを計測データ保存部32に供給する。
【0121】
計測データ保存部32は、受信した計測データを記憶部34に保存する。
【0122】
計測データ送信部33は、所定のタイミングにより、または、角速度オフセット判定装置1からの要求に従って、記憶部34から計測データを読み出し、読み出した計測データを、ネットワークNW2を介して角速度オフセット判定装置1に送信する。
【0123】
所定のタイミングは、定期的であっても、非定期的であってもよい。また、所定のタイミングは、計測データの個数が所定数以上になったタイミングであってもよい。
【0124】
計測データ記憶部34は、計測データを記憶するものであり、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)などにより実現することである。
【0125】
以上のように、測位システムSYS1Bは、いわゆるクラウドコンピューティングの形態を採用している。上記構成によれば、実施形態2と同様、移動体端末装置2Aの紛失・盗難による計測データの漏えいを防ぐことが可能である。
【0126】
〔実施形態4〕
本発明のさらに他の実施形態について
図7に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態では、説明の便宜上、既に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0127】
図7に示す角速度オフセット判定装置1Bは、角速度ベクトルや加速度ベクトルの計測を行って、計測により得られる計測データに基づいて姿勢推定処理およびその妥当性の判定を行うものである。
【0128】
角速度オフセット判定装置1Bは、例えば、角速度センサや、加速度センサなどのセンサモジュールを有するとともに、姿勢推定処理およびその妥当性の判定を実行するアプリケーションプログラムがインストールされた多機能携帯端末(タブレットPC、スマートフォン)などにより実現することができる。
【0129】
角速度オフセット判定装置1Bは、
図1に示す移動体端末装置2と、角速度オフセット判定装置1とを統合した構成である。
【0130】
すなわち、角速度オフセット判定装置1Bは、
図1に示す角速度オフセット判定装置1において、角速度センサ21、加速度センサ22、およびタイマ23を追加し、計測データ取得部121を、計測制御部129に変更したものである。
【0131】
計測制御部129は、角速度センサ21、加速度センサ22、およびタイマ23の出力データを取得し、取得したデータを対応付けて計測データとして記憶部24に記憶する。
【0132】
他の部材については、
図1に示した角速度オフセット判定装置1と同様であるので、ここでは、その説明を省略する。
【0133】
以上の構成によれば、移動体が携帯する角速度オフセット判定装置1Bによって、計測および姿勢推定処理およびその妥当性の判定処理を実行することができる。角速度オフセット判定装置1Bがスマートフォン等により実現されていれば、スマートフォンの所有者がその場で姿勢推定処理の妥当性を確認することも可能である。
【0134】
〔実施形態5〕
本発明のさらに他の実施形態について
図8に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態では、説明の便宜上、既に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0135】
図8に示す測位システムSYS1Cは、移動体端末装置2C、および角速度オフセット判定装置1Cを備える。なお、角速度オフセット判定装置1Cにおいても、角速度オフセット判定装置1と同様に、推定方位角出力部130および位置推定部131を備えていてもよい。
【0136】
測位システムSYS1Cにおいては、温度をセンサによって計測し、計測したセンサに基づいてゼロ点オフセットの範囲の特定を行う。
【0137】
より具体的には、移動体端末装置2Cにおいて温度を計測し、角速度オフセット判定装置1Cにおいて計測された温度に基づいてゼロ点オフセットの範囲の特定を行ったうえでゼロ点オフセットの候補を生成する。
【0138】
図8に示す測位システムSYS1Cが備える移動体端末装置2Cおよび角速度オフセット判定装置1Cと、
図1に示す測位システムSYS1が備える移動体端末装置2、および角速度オフセット判定装置1との相違点を、より詳細に説明すると次のとおりである。
【0139】
(移動体端末装置)
移動体端末装置2Cは、
図1に示す移動体端末装置2において、さらに温度センサ26を追加し、計測制御部251を計測制御部251Cに変更したものである。なお、記憶部24に記憶されるデータは計測データD241Cに変更となる。
【0140】
温度センサ26は、移動体端末装置2C周辺(すなわち、角速度センサ21の周辺)の温度を計測するセンサである。
【0141】
計測制御部251Cは、角速度センサ21、加速度センサ22、温度センサ26、およびタイマ23の出力データを取得し、取得したデータを対応付けて計測データD241Cとして記憶部24に記憶する。
【0142】
なお、接続制御部252は、移動体端末装置2Cが外部接続インターフェースAを介して角速度オフセット判定装置1Cと接続されたとき、記憶部24に記憶されている計測データD241Cを角速度オフセット判定装置1Cに送信する。
【0143】
(角速度オフセット判定装置)
角速度オフセット判定装置1Cは、
図1に示す角速度オフセット判定装置1Cにおいて、候補生成部122を、候補生成部122Cに変更したものである。
【0144】
なお、記憶部11では、計測データD111および候補範囲データD112に代えて、それぞれ、計測データD111Cおよび温度補償テーブルD117が記憶される。
【0145】
以下では、候補生成部122Cにおけるゼロ点オフセットの候補生成処理について説明する。
【0146】
角速度センサには、温度によって出力されるゼロ点オフセットの特性が変化するという特性がある。温度補償テーブルD117は、このような角速度センサの特性を示すものであり、温度と、その温度におけるゼロ点オフセットの範囲と対応を付けるものである。
【0147】
候補生成部122Cは、計測データD111Cに含まれる温度を用いて、温度補償テーブルD117を参照して、ゼロ点オフセットの範囲を特定する。
【0148】
温度補償テーブルD117における対応付けから、ヨー方位の角速度センサが出力するゼロ点オフセットの範囲が、±0.005[rad/s]以内の範囲に絞りこめる場合で、かつ、0.001[rad/s]の分解能でゼロ点オフセットを推定するのであれば、10通りの候補が得られる。これは、最大で10通りのゼロ点オフセットの評価を行えばよいことを意味する。
【0149】
図4を用いてさらに説明すると、上記の場合、S11において、ゼロ点オフセットの候補を10個に絞り込むことができ、ループ(1)L1のループでは、10個のゼロ点オフセットの候補について処理すればよい。なお、ゼロ点オフセットの評価は、3軸角速度センサの各軸についてそれぞれ行ってもよい。
【0150】
以上の構成によれば、ゼロ点オフセットの候補を絞り込むことができ、効率よくゼロ点オフセットの評価処理を行うことができる。
【0151】
なお、以上では、本実施形態に係る測位システムSYS1Cを、実施形態1に係る測位システムSYS1の変形例として説明したが、これに限られない。実施形態2〜4に係る測位システムの変形例し、温度を用いて、ゼロ点オフセットの候補を絞り込む構成とすることも可能である。
【0152】
〔ソフトウェアによる実現例〕
移動体端末装置2、2A、2C、角速度オフセット判定装置1、1A、1B、1C、記憶サーバ3の制御ブロックは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0153】
後者の場合、各装置は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0154】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0155】
〔まとめ〕
本発明に係る推定方位角評価装置は、移動体の移動動作において3軸の角速度センサによって計測された重力軸回りの角速度を取得する角速度取得手段と、上記角速度センサのバイアス成分の候補を生成するバイアス成分候補生成手段と、取得した上記角速度と上記バイアス成分の候補とに基づいて、移動体の移動動作の推定方位角を推定する推定手段と、上記推定方位角の出現頻度を取得する出現頻度取得手段と、取得した出現頻度が、移動体の移動動作の進行方向に関する拘束条件下において、方位角が正しく推定されている場合に現れる傾向を示すか否かを評価する評価手段と、を備えることを特徴とする。
【0156】
また、本発明に係る推定方位角評価装置の制御方法は、移動体の移動動作において3軸の角速度センサによって計測された重力軸回りの角速度を取得する角速度取得ステップと、上記角速度センサのバイアス成分の候補を生成するバイアス成分候補生成ステップと、取得した上記角速度と上記バイアス成分の候補とに基づいて、移動体の移動動作の推定方位角を推定する推定ステップと、上記推定方位角の出現頻度を取得する出現頻度取得ステップと、取得した出現頻度が、移動体の移動動作の進行方向に関する拘束条件下において、方位角が正しく推定されている場合に現れる傾向を示すか否かを評価する評価ステップと、を含むことを特徴とする。
【0157】
上記において、移動体は、例えば、人、台車等、移動を検出できる物体などのことをいう。上記構成によれば、移動体の移動動作において計測された重力軸回りの角速度に、候補となるバイアス成分を適用した推定方位角の出現頻度を取得する。言い換えれば、それぞれ異なる時点で計測された角速度に上記バイアス成分を適用(角速度をバイアス成分で較正)し、バイアス成分適用後(較正後)の角速度を用いて算出した各推定方位角について、度数分布を取得する。
【0158】
上記バイアス成分とは、本来ゼロ出力となるような状態で角速度センサから出力される誤差成分のことである。上記バイアス成分は、ゼロ点オフセットとも称される。上記構成では、評価の対象となるバイアス成分の候補を生成する。
【0159】
上記計測は、所定の単位の移動動作が検出できるように行えばよい。例えば、上記計測は、所定期間にわたって行われてもよいし、所定のサンプリング回数分行われてもよい。例えば、移動体が人であり、移動動作が歩行である場合、1,000歩程度の歩行が検出できるように計測を行ってもよい。
【0160】
そして、上記構成によれば、推定方位角の出現頻度が、移動体の進行方向に関する拘束条件、言い換えれば移動体の移動動作における地理的な拘束条件下において、方位角が正しく推定されている場合に現れる傾向を示すか否かを評価する。
【0161】
移動体の移動動作の進行方向に関する拘束条件とは、移動体が移動する方向の制約のことである。この拘束条件は、例えば、通路の配置、接続関係であってもよい。一般的なオフィス環境や、工場、居住環境においては、歩行移動可能な通路が整然と配置されていることが多い。例えば、通路が直交している場合や、十字路、T字路、90度の角度で曲がっている角などが挙げられる。
【0162】
上記方位角が正しく推定されている場合に現れる傾向とは、地理的な拘束条件下において、移動体が移動した場合に現れるはずの方位角の傾向のことである。
【0163】
例えば、通路が直交して接続する十字路の場合、移動体は十字路において、前、右、左、後ろの何れかの方位に移動するはずである。このため、移動体が移動する方位の出現頻度(方位角の出現頻度)は、前、右、左、後ろの方位において高くなるはずである。
【0164】
上記構成によれば、推定方位角の出現頻度が、このような傾向を示しているかを評価する。この評価は、例えば、出現頻度を示すヒストグラムの尖度を評価することによって行うことができる。上記の十字路の例で言えば、出現頻度を示すヒストグラムにおいて、前、右、左、後ろの方位に対応する度数が高くなるはずである。
【0165】
例えば、出現頻度を示すヒストグラムが上記傾向を示していなければ、推定方位角の精度が低いといえる。つまり、この場合、推定方位角を得るために用いた誤差成分(バイアス成分)が適正でないといえる。
【0166】
このような出現頻度の傾向を評価することで、誤差成分(バイアス成分)を予め計測しなくても、推定した角速度の誤差成分の適否を評価することができるという効果を奏する。
【0167】
本発明に係る推定方位角評価装置では、さらに、移動体が移動動作を行っていることを検知する移動検知手段を備え、上記出現頻度取得手段は、移動体が連続して移動動作を行っている区間について、上記推定方位角の上記出現頻度を取得することが好ましい。
【0168】
上記構成によれば、移動体が連続して移動動作を行っている区間について、上記推定方位角の上記出現頻度を取得する。このため、移動動作が散発的に行われるような場合のノイズを排除することができ、上記評価の精度向上を図ることができる。
【0169】
本発明に係る推定方位角評価装置では、さらに、移動体の移動動作において、加速度センサによって計測された加速度に基づいて、上記3軸の角速度センサのいずれかの軸が重力軸と一致しているか否かを判定する重力軸判定手段を備え、角速度センサで計測された角速度のうち、いずれかの軸が重力軸に一致した状態で計測された角速度を用いる(重力軸に一致する軸の角速度センサで計測された角速度を用いる)ことが好ましい。
【0170】
上記構成によれば、3軸の角速度センサのいずれの軸が重力軸と一致しているかを判定し、重力軸と一致した状態で計測された角速度を用いる。このため、重力軸回りの角速度に基づき簡潔かつ精度よく方位角を推定することができる。
【0171】
本発明に係る推定方位角評価装置では、上記評価手段は、上記取得した出現頻度を示すヒストグラムの尖度を評価することが好ましい。
【0172】
上記構成によれば、比較的簡便に出現頻度の傾向を評価することができる。
【0173】
本発明に係る推定方位角評価装置では、上記バイアス成分候補生成手段は、複数のバイアス成分の候補を生成するものであり、生成された上記複数のバイアス成分の候補について、上記推定手段は、上記推定を行い、上記出現頻度取得手段は、上記推定方位角の出現頻度を取得し、上記評価手段は、上記評価を行う、ことが好ましい。
【0174】
上記構成によれば、複数のバイアス成分の候補について、対応する推定方位角の出現頻度の傾向を評価する。このため、複数のバイアス成分の候補のうち、いずれのバイアス成分の候補が適切かを判断することができる。
【0175】
本発明に係る推定方位角評価装置では、上記バイアス成分候補生成手段は、上記角速度センサ周辺において計測された温度に基づいて上記複数のバイアス成分の候補を生成することが好ましい。
【0176】
角速度センサのバイアス成分は、角速度センサ周辺の温度と相関がある。上記構成によれば、このような相関関係に従って複数のバイアス成分の候補を生成するため、バイアス成分の候補の絞り込みの精度が向上する。その結果、無駄な評価を抑制することができる。
【0177】
本発明に係る推定方位角評価装置では、さらに、上記評価に基づいて、推定方位角を出力する推定方位角出力手段を備えることが好ましい。
【0178】
上記構成によれば、精度の高い推定方位角を出力することができる。
【0179】
本発明に係る推定方位角評価装置では、さらに、出力された上記推定方位角に基づいて、移動体の位置を推定する位置推定手段、を備えることが好ましい。
【0180】
上記構成によれば、移動体の位置をより高い精度で推定することができる。
【0181】
本発明に係る推定方位角評価装置では、移動体の移動動作は、歩行動作であることが好ましい。
【0182】
上記構成によれば、歩行者(人や、歩行ロボット)の歩行動作について、角速度の誤差成分の適否をより高い精度で評価することができる。このため、歩行者の位置推定などに好ましく適用することができる。
【0183】
3軸の角速度センサと、上記推定方位角評価装置と、移動体の位置を推定する位置推定手段と、を備える、移動体端末装置も本発明の範疇である。
【0184】
本発明の各態様に係る推定方位角評価装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記推定方位角評価装置が備える各手段として動作させることにより上記推定方位角評価装置をコンピュータにて実現させる推定方位角評価装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。