【実施例】
【0030】
以下には、本発明の熱電変換材料を具体的に製造した例を実施例として説明する。
【0031】
[実施例1]
(1)Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末(母材粒子)の作製
原料として、株式会社高純度化学研究所製CaCO
3(4N,CAH08PB),Co
3O
4(3Nup,COO09PB),Bi
2O
3(4N,粒径2μm,BIO10PB)を使用した。1回のバッチサイズを15gとし、CaCO
3:Co
3O
4:Bi
2O
3をモル比で2.7:1.33:0.15に秤量した後、乳鉢・乳棒を用いて約15〜20分間、手動で混合・粉砕を行った。得られた混合粉末を、大気中で900℃まで2時間で昇温、900℃で20時間保持し、その後2〜7時間で室温まで降温(炉冷)を行い、仮焼した。得られた仮焼粉について乳鉢・乳棒を用い、約15〜20分間、手動で粉砕・混合を行った。以上の仮焼・粉砕工程を計4回繰り返した。以上のようにしてCa
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末(母材粒子)を作製した。
【0032】
(2)Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末(母材粒子)へのNaの添加
Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末1に対しモル比で0.3となるようNaHCO
3を0.4577g秤量し、脱イオン水10mlに溶解させてNa濃度が0.54mol/Lの水溶液をビーカーに作製した。作製した水溶液中にCa
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末を10g投入し、200℃に設定したホットプレート上にビーカーを置き、沸騰しないように温度を調節しながら、約30分間ガラス棒で攪拌しながら乾燥させた。
【0033】
得られた粉末について、XRD回折装置(リガク社製,型式RINT−2500)を用いて、XRD回折パターンを測定した。測定は、CuKα線を用い、スキャンスピード0.5°/min、発散スリット0.1°、散乱防止スリット0.5°で行った。その結果を
図1に示す。得られた回折パターンはJCPDSカード番号00−021−0139のCa
9Co
12O
28のピークで同定された。なお、一般にCa
3Co
4O
9と称される物質は酸素不定比性を有し、酸素量に幅があるため、Ca
9Co
12O
28のピークで同定できる。
【0034】
また、この粉末を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製,型式JSM-6610LV,以下同じ。)を用いて観察し、SEM写真を撮影した。SEM写真を
図2に示す。
図2(a)は二次電子像であり、
図2(b)は組成像である。また、
図2よりも倍率を高くしたSEM写真を
図3に示す。
図3(a)は二次電子像であり、
図3(b)は組成像である。
図2,3より、この粉末は、長手方向に5〜10μm、厚みが1μm程度の粒子であることがわかった。次に、この粉末について、エネルギー分散型X線回折装置(Oxford Instruments社製,型式x-act,以下同じ。)を用いてEDSによる元素マッピングを行った。元素マッピング結果を
図4に示す。
図4(a)は観察視野の組成像であり、
図4(b)はNa、
図4(c)はCa、
図4(d)はCo、
図4(e)はBiのマッピング結果である。
図4よりも倍率を高くした視野の元素マッピング結果を
図5に示す。
図5(a)は観察視野の組成像であり、
図5(b)はNa、
図5(c)はCa、
図5(d)はCo、
図5(e)はBiのマッピング像である。
図4,5より、Naは粉末表面全体に分布していることがわかった。
【0035】
(3)焼結体の作製
得られた粉末を直径20mmの円筒型の型に詰め、一軸加圧120MPaで2minの成形を行った。得られた成型体の代表的な形状は直径20mm、厚さ4mm程度の円板状であった。成型体をアルミナ板で挟み、動かない程度に圧力をかけ、大気中で830℃まで1時間で昇温した。830℃に達した時点で16kNの圧力をかけた。このとき、1時間以内で圧力が16kNから低下した際には、随時手動で圧力が16kNになるように調整した(1時間以後はほとんど圧力変動無し)。そして、圧力をかけたまま830℃で計10時間保持し、圧力をかけたまま3時間で降温(炉冷)し、焼結体を作製し、これを実施例1の焼結体とした。
【0036】
得られた焼結体について、粉末にすることなく、XRD回折装置(リガク社製,型式RINT−2500)を用いてXRD回折パターンを測定した。測定は、CuKα線を用い、スキャンスピード0.5°/min、発散スリット0.1°、散乱防止スリット0.5°で行った。その結果を
図6,7に示す。得られた回折パターンはJCPDSカード番号00−021−0139のCa
9Co
12O
28のピークで同定された。また、そのほかに、JCPDSカード番号00−052−0125のBi
2Ca
3Co
2O
9のピークで同定される相や、JCPDSカード番号00−048−1467のCaOのピークで同定される相も確認された。さらに、2θ=20°付近にこれら以外のピークが確認された。Na由来の結晶相のピークは確認されなかった。なお、
図7において、一点鎖線がCa
9Co
12O
28のピーク位置であり、破線がBi
2Ca
3Co
2O
9のピーク位置であり、二点鎖線がCaOのピーク位置である。
【0037】
また、この焼結体の加圧方向に直交する面(プレス面)について、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、SEM写真を撮影した。
図8に、そのSEM写真を示す。
図8(a)は二次電子像であり、
図8(b)は組成像である。次に、
図8とほぼ同視野で、エネルギー分散型X線回折装置を用いてEDSによる元素マッピングを行った。元素マッピング結果を
図9,10に示す。
図9(a)は観察視野の組成像であり、
図9(b)はNa、
図10(a)はCo、
図10(b)はBi、
図10(c)はCaのマッピング結果である。
【0038】
さらに、この焼結体の加圧方向に平行な面(側面)について、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、SEM写真を撮影した。
図11に、そのSEM写真を示す。
図11(a)は二次電子像であり、
図11(b)は組成像である。次に、
図11とほぼ同視野で、エネルギー分散型X線回折装置を用いてEDSによる面分析及び元素マッピングを行った。
図12には面分析結果を、
図13に元素マッピング結果を示す。
【0039】
[比較例1]
Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末(母材粒子)へのNaの添加(上記(2))を行わないこと及び上記(3)において焼結温度を850℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、これを比較例1とした。
【0040】
得られた焼結体について、実施例1と同様に、XRD回折装置を用いてXRD回折パターンを測定した。その結果を
図7に示す。得られた回折パターンはJCPDSカード番号00−021−0139のCa
9Co
12O
28のピークで同定された。また、そのほかに、JCPDSカード番号00−052−0125のBi
2Ca
3Co
2O
9のピークで同定される相や、JCPDSカード番号00−048−1467のCaOのピークで同定される相も確認された。さらに、2θ=19°,20°,28°付近にこれら以外のピークが確認された。
【0041】
[比較例2]
Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末(母材粒子)へのNaの添加(上記(2))に代えて、Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末(母材粒子)へ以下に示す方法でAgを添加した以外は実施例1と同様の方法で、焼結体を作製し、これを比較例2とした。Agの添加は、Ca
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末1に対しモル比で0.3となるようAgNO
3を秤量し、純水に溶解させて水溶液を作製した。作製した水溶液中にCa
2.7Bi
0.3Co
4O
9粉末を投入し、攪拌しながら乾燥させて行った。
【0042】
得られた焼結体について、実施例1と同様に、XRD回折装置を用いてXRD回折パターンを測定した。その結果を
図7に示す。得られた回折パターンはJCPDSカード番号00−021−0139のCa
9Co
12O
28のピークで同定された。また、そのほかに、JCPDSカード番号00−052−0125のBi
2Ca
3Co
2O
9のピークで同定される相や、JCPDSカード番号00−048−1467のCaOのピークで同定される相、Agのピークも確認された。さらに、2θ=14°,19°,43°付近にこれら以外のピークが確認された。
【0043】
焼結前の粉末を実施例1と同様にSEMで観察したところ、長手方向に5〜10μm,厚みが1μm程度の粒子であった。また、EDSで元素マッピングしたところ、粒子表面全体からAgが検出された。
【0044】
また、得られた焼結体のプレス面について、実施例1と同様にEDSによる元素マッピングを行った。元素マッピング結果を
図14に示す。
図14(a)は観察視野の組成像であり、
図14(b)はAg、
図14(c)はCo、
図14(d)はCa、
図14(e)はBiのマッピング結果である。
【0045】
[比較例3]
母材粒子の作製(上記(1))において、原料としてNa
2CO
3も加えて母材粒子を作製し、母材粒子へのNaの添加(上記(2))を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、これを比較例3とした。なお、原料の配合は、CaCO
3:Co
3O
4:Bi
2O
3:Na
2CO
3がモル比で2.4:1.33:0.15:0.15となるようにした。
【0046】
得られた焼結体について、実施例1と同様にXRD回折装置を用いてXRD回折パターンを測定した。その結果を
図15に示す。
図15には実施例1のXRD回折パターンも示した。比較例3では、実施例1と同じくCa
9Co
12O
28のピークが確認された。一方、実施例1では確認されなかったJCPDSカード番号00−071−1281のNa
0.6CoO
2のピークが確認された(図中矢印で示したピーク)。
【0047】
[特性値の算出]
得られた焼結体から試験片を切り出し、以下に示すように、導電率(直流四端子法)、ゼーベック係数(定常直流法)、熱拡散率(レーザーフラッシュ法)、寸法密度、比熱(DSC:示差走査熱量測定)を求め、その結果から、出力因子(PF)及び性能指数(ZT)を算出して評価を行った。なお、Ca
3Co
4O
9系の材料は、導電率、ゼーベック係数、熱伝導率に異方性がある。ここで、この系の材料の異方性についてはJournal of the Ceramic Society of Japan 109[8]647-650(2001)の記述があるため、これを参考にして評価を行った。
(A)導電率、ゼーベック係数の測定と出力因子の算出
焼結工程における加圧方向と垂直な方向(x方向)に、大気中で300,400,500,600,650,700,730℃で測定し、これらの結果から以下の式に従い、各温度における出力因子(PF)を算出した。
PFの算出式:PF=(S
2×σ) σ:導電率 S:ゼーベック係数
(B)熱拡散率の測定
Ar雰囲気中500,650,730℃で焼結工程における加圧方向と同様の方向(z方向)にレーザーを照射し、この方向の熱拡散率を測定した。
(C)寸法密度の測定
測定は大気中室温で行った。
(D)比熱の測定
比熱はAr雰囲気中500,650,730℃で測定した。
(E)熱伝導率の算出
熱拡散率、比熱、密度の測定値から以下の式に従い、z方向の熱伝導率(κz)を算出した。また、上記異方性について文献の記載によれば、x方向の熱伝導率κxは、z方向の熱伝導率κzの2.4倍と見積もられるため、以下の式に従いkx方向の熱伝導率(κx)を算出した。
κzの算出式:κz=αz×Cp×ρ
(αz:z方向の熱拡散率 Cp:定圧比熱 ρ:密度)
κxの算出式:κx=κz×2.4
(F)性能指数(ZT)の算出
PFの値、κxの値、測定温度(T)を用い以下の式に従い、x方向の性能指数ZTを算出した。(熱伝導率が算出できている点のみ)
ZTの算出式:ZT=(PF/κx)×T
【0048】
[実験結果]
表1及び
図16に、実施例1及び比較例1,2の出力因子を示す。また、表2及び
図17に、実施例1及び比較例1,2の性能指数を示す。Naを添加した実施例1では、Naを添加しなかった比較例1及びAgを添加した比較例2に比して、測定した全温度範囲において、出力因子(PF)及び性能指数(ZT)が共に大きかった。このことから、Naの添加が熱電特性を向上させるのに有用であることがわかった。また、表3に、実施例1及び比較例1〜3の730℃における導電率、ゼーベック係数、熱伝導率、出力因子(PF)、性能指数(ZT)を示す。Naを添加した実施例1では、Naを添加しなかった比較例1及びAgを添加した比較例2に比して、出力因子(PF)及び性能指数(ZT)が共に大きいだけでなく、導電率及びゼーベック係数も大きいことがわかった。このことから、Naの添加が熱電特性の向上や導電率の向上に有用であることがわかった。一方で、Naを添加したものであっても、母材粒子にNaを付着させて添加した実施例1では導電率が比較例1,2と同等以上であったのに対し、母材粒子を作る原料の段階でNaを添加した比較例3では導電率が極めて低かった。このことから、母材粒子にNaを付着させてNaを添加する必要があることがわかった。また、実施例1のものではCuKα線を用いたXRDで15.0°≦2θ≦17.5°の範囲及び32.7°≦2θ≦33.8°の範囲に確認されるピークがいずれもシングルピークであったのに対して、比較例3のものではダブルピークであった。このことから、この範囲のピークはいずれもシングルピークである必要があることがわかった。なお、この範囲において実施例1のピーク位置は、Ca
9Co
12O
28のピーク位置と一致した。一方、比較例3のピーク位置は、一方はCa
9Co
12O
28のピークと一致し、他方はNa
0.6CoO
2のピーク位置と一致した。このことから、ダブルピークとなるものではNa
0.6CoO
2が多量に生成していて、これが導電率を低下させるのに対して、シングルピークのものではNa
0.6CoO
2がほとんど生成しておらず、導電率が低下しにくいと推察された。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】