特許第6044982号(P6044982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044982
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】スポット溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/11 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   B23K11/11 530
   B23K11/11 540
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-217402(P2012-217402)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69214(P2014-69214A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敦紀
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−220675(JP,A)
【文献】 特開2012−076124(JP,A)
【文献】 特開昭59−007486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00−11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを載置可能なワークセット台と、同軸上に対向して配置され、接近離反可能とされた第1電極及び第2電極と、ワークの一方側に配置される導電部材と、前記導電部材と通電可能に接続された当接部材と、前記当接部材を、ワークに当接する当接位置とワークに当接しない退避位置との間で駆動する駆動部とを備え、前記当接部材をワークのうち、溶接予定部と異なる場所に一方側から当接させると共に、前記第2電極を前記導電部材に当接させ、さらに、前記第1電極をワークの前記溶接予定部に他方側から当接させ、この状態で前記第1電極と前記第2電極の間に通電することにより前記溶接予定部に溶接を施すスポット溶接装置であって、
前記導電部材を前記ワークセット台に固定したことを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
前記導電部材のうち、前記第2電極が当接する部分が、ワークのうち、溶接予定部を含む面と平行となるように、前記導電部材が配置された請求項1記載のスポット溶接装置。
【請求項3】
前記当接部材を複数設け、この複数の当接部材のうちの一部をワークに当接させた状態で溶接を施す請求項1記載のスポット溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接工法は、生産性が高く、製造コストが安価であることから、例えば自動車車体の生産に多用されている。一般的なスポット溶接工法は、対向配置された一対の電極を有するC型形状のガンヨークを備えた溶接ガンを用いて行われる。具体的には、ロボットアーム等に取り付けられた溶接ガンを、一対の電極の間にワークが配される位置まで移動させた後、一対の電極でワークを挟持し、所定の加圧力で加圧しながら一対の電極間に通電することで、溶接が行われる。
【0003】
しかし、例えば図1に示すように、溶接予定部Pの一方側が断面ハット形状の金属板W3で覆われている場合、一対の電極で溶接予定部Pとハット部Hの頂面(図中下面)とを挟持加圧して溶接を行う必要がる。このように、ハット部Hの頂面を電極で直接加圧すると、ハット部が変形してしまうおそれがある。
【0004】
このような不具合を回避するために、例えば下記の特許文献1に示されているようなスポット溶接装置が提案されている。この溶接装置は、ハット部の一方側に設けられた導電部材と、導電部材からワークへ向けて突出した一対の当接部材とからなる導通手段を備える。そして、一対の当接部材を、ハット部を避けた位置でワークに一方側から当接させた状態で、一方の電極をワークに他方側から当接させると共に、他方の電極を導電部材に一方側から当接させ、この状態で一対の電極間に通電することで、溶接が施される。このスポット溶接装置によれば、一対の電極でハット部を直接加圧することがないため、ハット部の変形を回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−246554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のスポット溶接装置では、導電部材及び当接部材が一体に設けられ、この一体品(導電手段)がシリンダを介してロボットアームに連結されている。そして、ロボットアームを駆動して導電手段をワークと電極との間に配置し、この状態でシリンダを駆動して導電手段をワークへ向けて押し込むことにより、当接部材の先端をワークに当接させている。
【0007】
しかし、上記特許文献1のスポット溶接装置では、導電部材と当接部材が一体に設けられているため、一対の電極で導電部材を加圧すると、その加圧力が当接部材とワークとの当接部に伝わる。従って、一対の電極による加圧力を大きくすると、当接部材による加圧力も大きくなり、ワークに必要以上の加圧力が加わってワークが変形するおそれがある。かかる不具合を回避するために、一対の電極による加圧力を小さくすると、溶接予定部における複数の金属板の間に隙間が残り、溶接品質の悪化を招くおそれがある。
【0008】
本発明は、導電部材及び当接部材を有するスポット溶接装置において、溶接品質を確保すると共に、ワークの変形を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためになされた本発明は、ワークを載置可能なワークセット台と、同軸上に対向して配置され、接近離反可能とされた第1電極及び第2電極と、ワークの一方側に配置される導電部材と、前記導電部材と通電可能に接続された当接部材と、前記当接部材を、ワークに当接する当接位置とワークに当接しない退避位置との間で駆動する駆動部とを備え、前記当接部材をワークのうち、溶接予定部と異なる場所に一方側から当接させると共に、前記第2電極を前記導電部材に当接させ、さらに、前記第1電極をワークの前記溶接予定部に他方側から当接させ、この状態で前記第1電極と前記第2電極の間に通電することにより前記溶接予定部に溶接を施すスポット溶接装置であって、前記導電部材を前記ワークセット台に固定したことを特徴とする。
【0010】
このように、本発明は、導電部材をワークセット台に固定しているため、第2電極による導電部材への加圧力が、当接部材とワークとの当接部に伝わることはない。従って、第1及び第2電極の加圧力を十分に大きくして溶接品質を確保することが可能となる。また、駆動部で駆動される当接部材のワークへの加圧力は、第1及び第2電極の加圧力に関わらず別個に設定できるため、必要最低限の加圧力で当接させることができ、ワークの変形を防止できる。
【0011】
上記のスポット溶接装置において、導電部材のうち、第2電極が当接する部分が、ワークのうち、溶接予定部を含む面と平行となるように、導電部材を配置すれば、ワーク及び導電部材を、第1電極及び第2電極で垂直な方向から挟持することができる。これにより、各電極とワーク及び導電部材との当接状態が良好となり、第1及び第2電極によりワークを効率的に加圧することができるため、溶接品質を高めることができる。
【0012】
ところで、複数の当接部材を設け、これらの当接部材を全てワークに当接させた場合、各当接部材を介した複数の通電経路が形成されるため、通電量の制御がしにくくなり、溶接品質が不安定となるおそれがある。また、複数の当接部材を全てワークに当接させると、当接部材が邪魔になって溶接ガン(第1及び第2電極)の溶接予定部へのアクセスが妨げられるおそれがある。
【0013】
そこで、当接部材を複数設け、この複数の当接部材のうちの一部を駆動してワークに当接させた状態で溶接を施せば、当接部材を介した通電経路の数を減らすことができるため、通電量の制御が容易化される。また、ワークに当接させない当接部材をワークから大きく退避させることができるため、溶接ガンの溶接予定部へのアクセスを容易化できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のスポット溶接装置によれば、溶接品質を確保すると共に、ワークの変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ワークWの断面斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るスポット溶接装置の平面図である。
図3】上記スポット溶接装置の側面図である。
図4】当接部材の断面図である。
図5】上記スポット溶接装置の側面図である(ワークセット時)。
図6】上記スポット溶接装置の側面図である(溶接実行時)。
図7】他の実施形態に係るスポット溶接装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明の実施形態に係るスポット溶接装置1は、例えば図1に示すワークWの溶接予定部Pに溶接を施すものである。このワークWは、長尺のフレーム部材であり、2枚の略平板状の金属板W1、W2と、これらの一方側(図中下方)に重ねられた断面ハット形状の金属板W3とを有する。金属板W3のハット部Hと金属板W1、W2とで中空の筒状部が形成され、この筒状部の両側に突出して、3枚の金属板W1〜W3を重ねたフランジ部Fが設けられる。ワークWは、予めフランジ部Fの複数箇所に溶接が施されて一体化されている。溶接予定部Pは、一方側から金属板W3のハット部Hで覆われている。
【0018】
スポット溶接装置1は、図2及び図3に示すように、ワークセット台2と、導電部材3と、当接部材4と、駆動部5と、連結部6と、溶接ガン(図示省略)とを備える。
【0019】
ワークセット台2は、例えば複数の金属フレームを組み合せて形成され、床面上に設置される。ワークセット台2は、ワークWが載置される載置部2aと、クランプ部材2bとを有する。載置部2aは、ワークWのフランジ部Fを下方から支持可能な位置に設けられる。クランプ部材2bは、載置部2aと協働してワークWを挟持することで、ワークWをワークセット台2に固定するものである。本実施形態では、クランプ部材2bがピン2cを中心に回転可能とされ、載置部2aに対応する位置に押さえ部2dが設けられる。載置部2aと押さえ部2dは、ワークWの複数箇所を押さえる位置に設けられ、本実施形態では、溶接予定部Pの周りを囲む位置に設けられる。詳しくは、図2に示すように、載置部2aおよび押さえ部2dが3箇所以上(図示例では4箇所)に設けられ、これらで囲まれた領域内に、少なくとも1つ(図示例では3つ)の溶接予定部Pが配置される(図2参照)。
【0020】
導電部材3は、ワークセット台2に固定される。導電部材3は、平坦な金属板からなる水平部3aおよび傾斜部3bを有する。水平部3aは平面視で略L字形状をなし、傾斜部3bは平面視で略コの字形状をなす(図2参照)。水平部3aおよび傾斜部3bは、通電可能な状態で固定される。傾斜部3bは、ワークセット台2にセットされたワークWの溶接予定部Pと平行とされる。図示例では、ワークWの金属板W1、W2のうち、ハット部Hの開口部を覆う部分と、導電部材3の傾斜部3bとが平行とされる。
【0021】
導電部材3には、当接部材4が挿通可能な挿通部が形成される。本実施形態では、図2に示すように、導電部材3の複数箇所(図示例では2箇所)に挿通部3c、3d形成される。図示例では、挿通部3c、3dが、それぞれ導電部材3を上下方向(すなわち当接部材4の移動方向)に貫通し、且つ、水平方向(すなわち当接部材4の移動方向と直交する方向)に開口している。一方の挿通部3cは、略コの字形状の傾斜部3bに形成された凹部で構成される。他方の挿通部3dは、略L字形状の水平部3aと傾斜部3bとで形成された凹部で構成される。このように、導電部材3に設けた挿通部3c、3dの内周に当接部材4を配置することで、例えば導電部材3と当接部材4とを水平方向に並べて配置する場合と比べて、これらの部材を配置するためのスペースを縮小して、スポット溶接装置1の小型化を図ることができる。
【0022】
当接部材4は、ワークWのフランジ部Fに下方から当接可能な位置に配置される。本実施形態では、当接部材4が複数箇所に設けられ、図示例では、一方のフランジ部Fに沿って並べられた2つの当接部材4と、他方のフランジ部Fの下方に設けられた1つの当接部材4とが設けられる。当接部材4は、ワークWに当接する当接位置(図3の点線参照)と、ワークWから離反した退避位置(図3の実線参照)との間で移動可能とされ、図示例では鉛直方向に昇降可能とされる。当接部材4は、鉛直方向に延びる軸状の本体部4aと、本体部4aの先端(図中上端)に設けられたチップ4bとを有する。本体部4a及びチップ4bは共に金属で形成される。図4に示すように、本体部4aの先端に設けられたテーパ状のシャンク4a1と、チップ4bに設けられたテーパ状の嵌合穴4b1とをテーパ嵌合させることで、両者が固定される。
【0023】
本実施形態では、上述のように、導電部材3及び当接部材4の配置スペースの縮小を図るべく、導電部材3の挿通部3c、3dの内周に当接部材4を配している。例えば、導電部材3に挿通部として貫通穴を設け、その内周に当接部材4を挿通した場合、両部材の配置スペースの縮小を図ることはできる。しかし、この場合、チップ4bのメンテナンス時に、導電部材3が邪魔になって当接部材4にアクセスしにくくなり、チップ4bの確認や交換の作業効率が低下するおそれがある。そこで、図に示すように、導電部材3の挿通部3c、3dを水平方向に開口させれば、この挿通部3c、3dの開口側から当接部材4にアクセスできるため、メンテナンスの作業効率が高められる。特に、図示のように複数の挿通部3c、3dが設けられる場合、この挿通部3c、3dの開口方向を統一すれば、複数の挿通部3c、3dの内周に配された当接部材4に同一方向からアクセスすることができる。これにより、作業者は、挿通部3c、3dの開口側(図の上側)から全ての当接部材4にアクセスすることができるため、作業効率がさらに高められる。
【0024】
本体部4aの内部には冷却水路が設けられる。具体的には、図4に示すように、本体部4aの軸心に、シャンク4a1の先端に開口した軸方向穴4a2が形成されると共に、軸方向穴4a2の内周にパイプ4cが配される。本体部4aには、側面に開口した供給口4a3及び排出口4a4が設けられ、それぞれ供給管4d及び排出管4eに接続される(図3参照)。供給管4dから供給された冷却水は、供給口4a3及びパイプ4cの内部を通って、本体部4aのシャンク4a1の先端とチップ4bの嵌合穴4b1との間の隙間Aに供給される。この隙間Aにおいて、冷却水とチップ4bとが熱交換することにより、チップ4bが冷却される。その後、冷却水は、本体部4aの軸方向穴4a2とパイプ4cとの間の隙間Bを通って、本体部4aに設けられた排出口4a4を介して排出管4eに排出される。
【0025】
駆動部5は、当接部材4を当接位置と退避位置との間で駆動するものである。本実施形態では、各当接部材4の下端にそれぞれ駆動部5が接続され、各当接部材4が個別に昇降駆動される。駆動部5は、例えばシリンダ(エアシリンダあるいは油圧シリンダ)で構成される。このほか、駆動部5をサーボモータやボールネジ等で構成してもよい。駆動部5は、ワークセット台2に固定される。各当接部材4と各駆動部5との間には絶縁部材(図示省略)が設けられ、これにより両者が絶縁される。
【0026】
導電部材3と各当接部材4とは、連結部6により通電可能に接続される。連結部6は、導電部材3と当接部材4との通電を維持しながら、当接部材4の昇降を許容する。本実施形態では、連結部6が略U字形状の弾性部材(例えば積層金属板)で構成され、連結部6が湾曲することで当接部材4の昇降が許容される(図3の点線参照)。
【0027】
図示しない溶接ガンは、第1電極7a及び第2電極7b(図6参照)を有する。両電極7a、7bは、同軸上に対向して配置され、互いに接近離反可能とされる。両電極7a、7bは、ガンヨークを介してロボットアームに連結される(図示省略)。各電極7a、7bは、図3に示す当接部材4とおおよそ同様の構成をなし、軸状の本体部7a1、7b1及びその先端に設けられたチップ7a2、7b2を有する。
【0028】
上記のスポット溶接装置1には、クランプ部材2bの回転、当接部材4の昇降、溶接ガンの移動、第1電極7a及び第2電極7bの駆動及び通電を制御する制御部が設けられる(図示省略)。
【0029】
以下、上記のスポット溶接装置を用いてワークWに溶接を施す手順について説明する。
【0030】
まず、図5に示すように、クランプ部材2bの先端を上方に退避させ、押さえ部2dを載置部2aから離反させた状態で、ワークセット台2の載置部2aにワークWを載置する(矢印C参照)。金属板W3のハット部Hを下向きに突出させた状態で、ワークWのフランジ部Fを載置部2aに載置するにより、ハット部Hが複数の当接部材4の間に配される。この状態で、ワークセット台2のクランプ部材2bを回転させて(矢印D参照)、押さえ部2dと載置部2aとでワークWのフランジ部Fを上下から挟持することにより、ワークWがワークセット台2にセットされる。
【0031】
次に、駆動部5で当接部材4を上昇させ、ワークWのフランジ部Fに下方から当接させる(図3の点線参照)。本実施形態では、当接部材4を、ワークWのフランジ部Fのうち、予め溶接された溶接部に当接させる。このとき、各当接部材4を別個の駆動部5で駆動しているため、各当接部材4をそれぞれ上昇させてワークWに確実に当接させることができる。また、各当接部材4ごとに加圧力を個別に設定することが可能であるため、例えば一方(図2の左側)のフランジ部Fに当接する2個の当接部材4と、他方(図2の右側)のフランジ部Fに当接する1個の当接部材4とで、加圧力を異ならせることができる。もちろん、全ての当接部材4の加圧力を等しくしてもよい。
【0032】
ところで、当接部材4を、予めワークWと当接する位置に固定しておけば、ワークWをワークセット台2にセットすると同時に、当接部材4をワークWに当接させることができるようにも思われる。しかし、当接部材4の先端の位置(高さ)は、シャンク4a1とチップ4bとの嵌合状態やチップ4bの摩耗量により変わってしまうため、溶接を繰り返すうちに当接部材4がワークWに当接しなくなったり、加圧力が小さくなったりするおそれがある。そこで、上記のように各当接部材4を個別に駆動してワークWに当接させれば、シャンク4a1とチップ4bとの嵌合状態やチップ4bの摩耗量に関わらず、常に各当接部材4を所定の加圧力でワークWに確実に当接させることができる。
【0033】
その後、ロボットアームで溶接ガンを移動させ、図6に示すように、第1電極7aと第2電極7bとの間にワークWのハット部H及び導電部材3を配置させる。そして、第1電極7aをワークWの溶接予定部Pに上方から当接させると共に、第2電極7bを導電部材3に下方から当接させる。この状態で、両電極7a、7bによりワークW及び導電部材3を挟持して加圧し、両電極7a、7b間に通電することにより、第1電極7a→ワークW→当接部材4→連結部6→導電部材3→第2電極7bという通電経路が形成され、ワークWの溶接予定部Pに溶接が施される。
【0034】
このとき、両電極7a、7bによる加圧力は、金属板W1、W2間の隙間を詰めて溶接品質を確保するために、比較的大きい加圧力が必要となる。本実施形態では、導電部材3をワークセット台2に固定しているため、第2電極7bが導電部材3に加える加圧力が当接部材4のワークWへの加圧力には伝わらない。従って、両電極7a、7bの加圧力を大きくした場合でも、当接部材4の加圧力には影響せず、当接部材4の加圧力が過大となってワークWを変形させる事態を回避できる。
【0035】
また、上記のように溶接予定部PがワークWのハット部Hを覆う部分に設けられている場合、溶接予定部Pを両電極7a、7bで挟持することはできず、ワークWの溶接予定部Pに第1電極7aのみを上方から当接させて加圧する必要がある。このとき、溶接予定部Pは下方から支持されていないため、第1電極7aの加圧力は、ワークWが変形しない程度に設定せざるを得ない。従って、溶接予定部Pを一対の電極で挟持加圧する通常のダイレクトスポット溶接におけるワークへの加圧力(200〜300kg程度)と比べて、本実施形態の第1電極7aによるワークWへの加圧力は小さくなる(例えば40〜100kg程度)。このため、金属板W1、W2の間の隙間が詰めきれず、溶接品質が悪化するおそれがある。そこで、本実施形態では、溶接予定部Pの周りを囲むように、載置部2a及び押さえ部2dが設けられる。これにより、ワークWのうち、載置部2a及び押さえ部2dで挟持された領域は、金属板W1、W2の隙間をほぼ0とすることができるため、第1電極7aの加圧力が比較的小さくても、溶接予定部Pにおいて金属板W1、W2を確実に当接させることができるため、溶接品質を高めることができる。
【0036】
また、本実施形態では、導電部材3の傾斜部3bが、ワークWの溶接予定部Pを含む面と平行に配されている。このため、図6に示すように、傾斜部3b及びワークWの溶接予定部Pに対して垂直な方向から両電極7a、7bを当接させることにより、両電極7a、7bによる加圧力をワークWに効率よく伝えることができるため、溶接品質をさらに高めることができる。
【0037】
一方、当接部材4は、ワークWのフランジ部Fのうち、予め溶接が施された溶接部に当接され、ワークWと第2電極7bとを通電するためのアース電極として機能するものである。従って、当接部材4の加圧によりフランジ部Fにおける金属板間の隙間を詰める必要はないため、当接部材4によるワークWへの加圧力はそれ程大きくしなくてよい。また、当接部材4とワークWとの当接部は上方から支持されていないため、当接部材4の加圧力が大きすぎるとワークWが変形してしまうおそれがある。従って、当接部材4の加圧力は、例えば第1電極7a及び第2電極7bによる加圧力の1/10〜1/2程度とされ、具体的には10〜20kg程度とされる。
【0038】
一箇所の溶接予定部Pへの溶接が完了したら、両電極7a、7bを離反させてワークW及び導電部材3への加圧力を解除する。そして、ロボットアームで溶接ヘッドを次の溶接予定部へ移動させ、上記と同様の手順で溶接を施す。全ての溶接予定部Pへの溶接が完了したら、駆動部5で当接部材4を退避位置まで下降させると共に、クランプ部材2bを回転させてワークWのクランプを解除した後、ワークWをスポット溶接装置1から搬出する。
【0039】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、3つの当接部材4にそれぞれ駆動部5を設けた場合を示したが、これに限らず、これらのうち少なくとも2つを別個に駆動するようにすればよい。例えば、一方側のフランジ部Fに沿って配された2個の当接部材4を同一の駆動部5で駆動してもよい。この場合、一方側のフランジ部Fに沿って配された2個の当接部材4を駆動する一方の駆動部5と、他方側のフランジ部Fの下方に配された1個の当接部材4を駆動する他方の駆動部5とが設けられる。
【0040】
また、上記の実施形態では、3個の駆動部5の全てをワークWに当接させる場合を示したが、ワークWの形状によっては、駆動する必要のない当接部材4がある場合もある。従って、制御部で、複数の当接部材4のうち、ワークWの種類に応じて必要なものだけを駆動するように、複数の駆動部5を制御するようにしてもよい。これにより、様々な形状のワークWに対応することができるため、スポット溶接装置1の汎用性が高められると共に、不要な当接部材4を駆動するエネルギーを削減することができる。また、ワークWに当接されない当接部材4は、ワークWから大きく退避させることができ、例えば導電部材3よりも下方まで下降させることができる。この場合、当接部材4とワークWとの間の隙間が大きく確保されるため、溶接ガン(特に第2電極7b)のアクセスが容易化される。
【0041】
あるいは、図7に示すように、同じワークWの複数の溶接予定部P1、P2に溶接を施すにあたり、各溶接予定部P1、P2に近い方の当接部材4をワークWに当接させるようにしてもよい。具体的には、図7(a)に示すように、図中右側の溶接予定部P1を溶接する際には、この溶接予定部P1に近い図中右側の当接部材4のみをワークWに当接させ、図中左側の当接部材4(図7で表れていない紙面奥側の当接部材4を含む、以下同様)はワークWから離反させる。一方、図7(b)に示すように、図中左側の溶接予定部P2を溶接する際には、この溶接予定部P2に近い図中左側の当接部材4のみをワークWに当接させ、図中右側の当接部材4はワークから離反させる。このように、本実施形態によれば、全ての当接部材4をワークWに当接させる場合と比べて通電経路の数を減らすことができるため、通電量の制御が容易化される。また、ワークWに当接させない当接部材4をワークWから大きく退避させることで、溶接ガン(特に第2電極7b)の溶接予定部Pへのアクセスを容易化できる。
【0042】
また、上記の実施形態では、3個の当接部材4を設けた場合を示したが、これに限らず、当接部材4を2個以下、あるいは4個以上設けてもよい。
【0043】
また、上記の実施形態では、筒状部Tを有するワークWを溶接する場合を示したが、これに限らず、溶接予定部Pの一方側から電極を当接させることができないワークであれば、上記のスポット溶接装置1を好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 スポット溶接装置
2 ワークセット台
3 導電部材
3a 水平部
3b 傾斜部
3c、3d 挿通部
4 当接部材
5 駆動部
6 連結部
7a 第1電極
7b 第2電極
W ワーク
H ハット部
F フランジ部
P 溶接予定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7