(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044997
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ニッケル基合金製ウエストゲートバルブ
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20161206BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20161206BHJP
F02B 37/18 20060101ALI20161206BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20161206BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
C22C19/05 A
C22C30/02
F02B37/18 D
!C22F1/00 602
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 651B
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/10 H
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-252172(P2013-252172)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-108178(P2015-108178A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(73)【特許権者】
【識別番号】392019282
【氏名又は名称】長野鍛工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 茂太
(72)【発明者】
【氏名】河口 誠司
(72)【発明者】
【氏名】越 正夫
(72)【発明者】
【氏名】小田切 吉治
(72)【発明者】
【氏名】瀧沢 陽一
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−191344(JP,A)
【文献】
特開平07−216482(JP,A)
【文献】
特開平11−229059(JP,A)
【文献】
特開昭61−119640(JP,A)
【文献】
特開昭49−015615(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/028671(WO,A1)
【文献】
大崎元嗣ほか,排気バルブ用Ni基耐熱合金NCF5015Dの高温特性,電気製鋼/大同特殊鋼技報,日本,大同特殊鋼株式会社研究開発本部,2010年12月27日,第81巻、第2号,p.151-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00−19/05
C22C 38/00−38/60
C22C 30/00−30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、0.01〜0.05%C、0.1〜0.5%Si、0.1〜0.5%Mn、0.001〜0.01%B、23.5〜25.0%Cr、0.7〜1.3%Nb、2.0〜3.2%Ti、1.2〜2.2%Al、45〜50%Ni、0.3〜1.0%Cu、0.5〜1.5%Mo、1.0〜2.0%Wを含有し、かつ前記Tiの含有量と前記Alの含有量との総和が、重量%で3.9%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなるニッケル基合金製ウエストゲートバルブであって、前記ウエストゲートバルブの表面硬さがロックウェルのBスケールで84.6HRB以下であることを特徴とするニッケル基合金製ウエストゲートバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン内に搭載されるニッケル基合金製のバルブ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上の進展には目覚しいものがあり、例えば自動車エンジンを従来よりも一回り小型化かつ軽量化し、不足する出力はターボチャージャーを組み合わせることで、その不足分の出力を補う省燃費ターボが主流になりつつある。更に、高出力が追求される為、より耐熱性の高いバルブ部品が求められている。
【0003】
そのようなエンジン部品に用いられる材料として、例えば特許文献1では重量%で0.01〜0.1%C、0〜0.5%Si、0〜0.5%Mn、23%を超えて25%以下のCr、0.5〜1.5%Nb、2.0〜3.0%Ti、1.0〜2.0%Al、45%を超えて50%以下のNi、0.1〜1.2%Cu、0.3〜2.0%W等から構成されるニッケル基合金が開示されている。当該ニッケル基合金は、900℃における高温引張強度に優れていること、および800℃での長時間時効処理後でも高硬度が得られることから弁用耐熱合金として有用であることが説明されている。
【0004】
また、特許文献2には、重量%で40〜49%Ni、1.2〜1.8%Al、2.0〜3.0%Ti、0.9〜7.8%Nb、1%以下のMo等から構成されるニッケル基合金が開示されている。当該ニッケル基合金は、耐食性および耐摩耗性に優れていることから ディーゼルエンジン部品(特に排気バルブ部品)として有用であることが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−191344号公報
【特許文献2】特表2004−512428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したように自動車エンジンの小型化、軽量化に伴い、エンジンの排気ガス温度が900〜1000℃近傍に達する場合もあり、特許文献1および2に記載のニッケル基合金製のバルブ部品では高温強度や高温クリープ特性が不足するという問題があった。
【0007】
また、特許文献1および2に記載のニッケル基合金は溶体化処理後の表面硬さが所定値を超えると、当該ニッケル基合金を用いてバルブ部品を製造する場合には加工性(特にカシメ加工性)が劣るという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明においては優れた耐熱性と加工性を兼ね備えるニッケル基合金製のバルブ部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本発明者は鋭意研究した結果、ニッケル基合金に一定量のMoを添加すること、
TiとAlの含有量を一定量以下とすることおよびニッケル基合金製バルブ部品(ウエストゲートバルブ)の表面硬さを一定値以下とすることでウエストゲートバルブを製造する際の加工
性と要求される耐熱性が両立できることを見出した。すなわち、本発明に係る
ウエストゲートバルブは、重量%で、0.01〜0.05%C、0.1〜0.5%Si、0.1〜0.5%Mn、0.001〜0.01%B、23.5〜25.0%Cr、0.7〜1.3%Nb、2.0〜3.2%Ti、1.2〜2.2%Al、45〜50%Ni、0.3〜1.0%Cu、0.5〜1.5%Mo、1.0〜2.0%Wを含有し、
かつ前記Tiの含有量と前記Alの含有量との総和が、重量%で3.9%以下であり、残部がFeおよび不可避不純物からなるニッケル基合金
製ウエストゲートバルブであって、ウエストゲートバルブの表面硬さがロックウェルのBスケールで
84.6HRB以下となるニッケル基合金製の
ウエストゲートバルブとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るニッケル基合金製の
ウエストゲートバルブは、優れた耐熱性と加工性を兼ね備えるという効果を奏する。
また、優れた高温クリープ特性も有することができる。したがって、本発明に係るニッケル基合金製
ウエストゲートバルブは900℃〜1000℃の高温雰囲気下に長時間耐え得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態の一例であるバルブ部品1の模式図である。
【
図2】カシメ加工時におけるバルブ部品1、リング状部品2、取付板3の位置関係を示す模式図である。
【
図3】バルブ部品1とリング状部品2および取付板3とのカシメ加工が完了したバルブ部品成形体4の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態の一例について説明する。本発明に係る自動車用バルブ部品を構成するニッケル基合金の成分範囲を限定した理由について、以下に詳しく説明する。
【0014】
C(炭素)の含有量は、0.01〜0.05重量%とする。Cは、Ti、Nb及びCrと結合して炭化物を形成し、高温強度を改善する。このような効果を得るためには、少なくとも、0.01重量%以上の添加が必要である。しかし、過剰に添加すると、MC炭化物を多量に生成して、熱間加工性を低下させるため、上限を0.05重量%とした。
【0015】
Si(ケイ素)の含有量は、0.1〜0.5重量%とする。Siは、脱酸元素として添加される。また、適量の添加は耐酸化性を改善する。しかし、過剰に添加すると延性の低下をきたすため、上限を0.5重量%とした。
【0016】
Mn(マンガン)の含有量は、0.1〜0.5重量%とする。MnもSiと同様に脱酸元素として添加されるが、過剰に添加すると高温強度の低下をきたすため、上限を0.5重量%とした。
【0017】
B(ホウ素)の含有量は、0.001〜0.01重量%とする。Bは、結晶粒界を強化してクリープ強度を高めるほか、熱間加工性を改善する効果を持つ。このため、0.001重量%以上の添加が必要である。しかし、過剰に添加すると結晶粒界に低融点化合物を生成して熱間加工性を害するため、上限を0.01重量%とした。
【0018】
Cr(クロム)の含有量は、23.5〜25.0重量%とする。Crは、耐酸化性および耐食性を向上するのに不可欠な元素である。また、ある程度添加した場合は、針状組織が成長して耐クリープ特性の向上が認められる。しかし、過剰添加した場合、針状組織が粗大化して性能劣化を招くため、23.5〜25.0重量%とした。
【0019】
Nb(ニオブ)の含有量は、0.7〜1.3重量%とする。Nbは、Niと結合してNi
3Nbの金属間化合物γ’’相を析出し、高温強度を向上する。また、Cと結合して炭化物NbCを生成し、高温硬さおよび強度の向上に寄与する。ただし、過剰添加すると材料を脆化させるので、0.7〜1.3重量%とした。
【0020】
Ti(チタン)の含有量は、2.0〜3.2重量%とする。Tiは、Niと結合してNi
3Tiの金属間化合物γ’相を形成し、オーステナイト相を強化する。Tiを増量すれば強化相であるγ相の量は増加し、高温強度は向上する。しかし、過剰に添加すると、脆化相の析出をまねいてしまい、素材の熱間成形性を阻害するので、その添加範囲を2.0〜3.2重量%に限定した。
【0021】
Al(アルミニウム)の含有量は、1.2〜2.2重量%とする。Alは、Niと結合してNi
3Alの金属間化合物γ’相を形成し、オーステナイト相を強化する重要な元素である。Alを増量すれば強化相であるγ‘相の量は増加し、高温強度は向上する。しかし、過剰に添加すると、強化相が不安定となり脆化相の析出をまねく。このため、素材の熱間成形性を阻害するので、その添加範囲を1.2〜2.2重量%に限定した。
【0022】
Ni(ニッケル)の含有量は、45〜50重量%とする。Niは、マトリックスであるオーステナイト基地を形成するため不可欠である。また、析出強化相であるγ’相を形成し、高温強度を向上させる。強化元素を固溶させるため、ある程度の量が必要であり、添加量の下限は45重量%以上とした。ただし、過剰添加した場合、合金のコスト上昇を招き、また耐硫化腐食性が悪化するので、上限を50重量%とした。
【0023】
Cu(銅)の含有量は、0.3〜1.0重量%とする。Cuは、硫化物系腐食の改善を目的として添加する。過剰添加した場合は熱間脆化を生じるため、その含有量を0.3〜1.0重量%に限定した。
【0024】
Mo(モリブデン)の含有量は、0.5〜1.5重量%とする。Moは、熱間強度を達成する析出強化相が固溶する温度範囲において、固溶強化により高温強度および高温クリープ特性を向上させる元素である。0.5重量%未満の含有量では高温強度および高温クリープ特性を向上させる効果が発現せず、1.5重量%を超える含有量では熱間加工性に有害となるために含有量を限定した。
【0025】
W(タングステン)の含有量は、1.0〜2.0重量%とする。Wは、熱間強度を達成する析出強化相が固溶する温度範囲において、固溶強化により高温強度および高温クリープ特性を向上させる元素である。1.0重量%未満の含有量では高温強度および高温クリープ特性を向上させる効果が発現せず、2.0重量%を超える含有量では熱間加工性に有害となるために含有量の上限を限定した。
【0026】
次に、本発明に係る
ウエストゲートバルブの表面硬さを規定した理由について説明する。
ウエストゲートバルブを製造する過程にてカシメ加工を含む場合、
ウエストゲートバルブと相手材との加工性を高めるために事前に溶体化処理を行う。しかし、溶体化処理後における
ウエストゲートバルブの表面硬さが一定値を越えた場合、カシメ加工を行った際に素材が均一に変形せず、割れなどが発生する。そこで、本発明の
ウエストゲートバルブは、製造する過程でカシメ加工を行うため、後述するように問題なくカシメ加工が行える
ウエストゲートバルブの条件および後述する機械加工特性を考慮して、溶体化処理した後の表面硬さをロックウェルのBスケールで
84.6HRB以下と規定した。
【実施例1】
【0027】
本発明に係るニッケル基合金製の
ウエストゲートバルブ素材(以下、本発明材という)
、参考材および従来のニッケル基合金製の
ウエストゲートバルブ素材(以下、従来材という)を用いて、自動車用
ウエストゲートバルブ(以下、バルブ部品という)の形状に鍛造した後、バルブ部品表面を所定形状に切削する機械加工試験を行ったので、その試験結果について説明する。本試験は、本発明材
、参考材および従来材を各40個(n=40)ずつ準備した上で、所定の形状に切削加工を行い、使用した超硬製チップの異常の有無や使用個数を確認した。本実施例の機械加工試験に用いた本発明材
、参考材および従来材の化学組成を表1に、本発明品
、参考品および従来品の機械加工の試験結果を表2に示す。なお、ここでは本発明
材および参考材を用いて製造したバルブ部品を
それぞれ本発明品および参考品とし、従来材を用いて製造したバルブ部品を従来品というものとする。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
機械加工試験を行った結果、超硬製チップの異常の有無については、表2に示すように本発明品
および参考品を各40個ずつ切削加工行ったが、チップに割れや亀裂等の異常は確認されなかった。同様に、従来品もチップに割れや亀裂等の異常は確認されなかった。次に、本発明品
、参考品および従来品各40個の切削加工を完了するまでに使用したチップ個数については、本発明
品および従来品がチップ交換を行うことなく、使用したチップ個数は1個であり、
参考品は途中でチップ交換を行い、使用したチップ個数は2個であった。
【実施例2】
【0031】
次に、実施例1で機械加工を行ったバルブ部品を1035℃で1時間の溶体化処理を行い、その表面硬さ(単位:HRB)を測定した後、これらのバルブ部品を用いて、カシメ加工試験を行った。本試験は、
図1〜
図3に示すようにバルブ部品(ウェストゲートバルブ)1を静置した状態(
図1)で、リング状部品2および取付板3を上方から差し込んで、所定の圧力でバルブ部品1を加圧する(
図2)ことにより、リング状部品2および取付板3をバルブ部品1に固定することでバルブ部品成形体4が完成する(
図3)。本発明品
、参考品および従来品の溶体化処理後の表面硬さ(単位:HRB)とカシメ加工試験の結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
1035℃で1時間の溶体化処理を行った後の表面硬さは、表3に示すように本発明
品は82.4〜84.6HRB、
参考品は96.1〜98.5HRBであった。これに対して、従来品は77.5〜83.5HRBで
あった。従って、本発明品については、優れたカシメ加工特性を有すると共に、優れた
機械加工特性をも兼ね備えていることがわかった。
【0034】
また、本試験を行った結果、表3に示すように本発明品
および参考品は試料全てが問題なくカシメ加工を行うことができた。同様に、従来品を用いてカシメ加工を行った結果も全てカシメ加工できた。なお、カシメ加工に供した試料数は本発明品
参考品および従来品共に各25個(n=25)であり、その中から各5個の試料を抽出して、硬度測定を行った。
【実施例3】
【0035】
次に、実施例2にてカシメ加工を行った試料を用いて、本発明品
、参考品および従来品と相手部品(リング状部品)との密着強度を測定するために引張試験を行った。本試験では、カシメ加工を行ったバルブ部品成形体を用いてバルブ部品とリング状部品とを引張試験機上で別個に固定させた状態で、各部品を引き離す方向に力を負荷して、各部品が分離した時の引張強度(単位:kN)を測定した。
【0036】
【表4】
【0037】
本試験を行った結果、表4に示すように本発明
品の引張強度は15〜23kNの範囲、
参考品の引張強度は12〜23kNの範囲であった。これに対して、従来品の引張強度は、18〜22kNであった。以上の各試験結果より、
本発明のニッケル基合金製
ウエストゲートバルブは、参考品や従来品と同等の優れた耐熱性とカシメ加工性を有し、かつ一旦カシメ加工されたバルブ部品は強固な密着性を備えることがわかった。
【符号の説明】
【0038】
1 バルブ部品(ウェストゲートバルブ)