(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
混合酸化物辺縁領域および金属表面を有し、境界相がないモノリシック構造で形成されたモノリシックセラミック体であって、前記セラミック体は第1の金属(I)の酸化物のコアおよび辺縁帯を有し、前記辺縁帯は、前記第1の金属(I)の酸化物と酸素に対して高い親和性を有する別の金属(II)の酸化物からなる混合酸化物辺縁領域、並びに前記混合酸化物辺縁領域上の金属(II)の金属表面を含み、
前記辺縁帯は、辺縁領域の活性化とそれに続く熱化学処理をそれぞれ10−3mbar以下の陰圧下で行うことにより、未仕上げセラミック体の前記辺縁領域の化学組成を改変することによって形成され、前記化学組成の改変は、前記セラミック体のセラミック材料の格子中に前記金属(II)のイオンが取り込まれるだけではなく、前記第1の金属(I)の酸化物の酸素原子と前記別の金属(II)のイオンとの反応が生じ、
前記熱化学処理はイオン注入によって誘発され、
前記混合酸化物辺縁領域は、
コアの100%から始まり、前記セラミック体の金属表面の0%に至るまでの、遷移領域における全金属含有量(I+II)に対する前記第1の金属(I)の連続濃度勾配を有し、
コアの0%から始まり、前記セラミック体の金属表面の100%に至るまでの、遷移領域における全金属含有量(I+II)に対する前記別の金属(II)の連続濃度勾配を有し、
前記混合酸化物辺縁領域の酸素濃度は一定であり、
前記別の金属(II)は、生体適合性がある、チタン、チタン化合物またはチタン合金である、モノリシックセラミック体。
前記第1の金属(I)が、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、ニオブ、ハフニウム、ケイ素、マグネシウム、セリウム又は前記金属の混合体から選択される請求項1記載のセラミック体。
前記混合酸化物辺縁領域がチタン−ジルコニア混合酸化物、チタン−アルミナ混合酸化物又はチタン−アルミナ−ジルコニア混合酸化物によって形成され、前記金属表面が純チタンから成る請求項3に記載のセラミック体。
【背景技術】
【0002】
インプラントは一般に、罹患した、又は失われたヒトまたは動物の解剖学的構造、たとえば歯、関節、四肢などの代用としての役割を果たす。このようなインプラントは、生体内で骨と接合して、長期にわたる負荷に耐えることができる安定したジョイントを形成することが好ましい。チタンインプラントおよびセラミックインプラントは、何れも既に利用可能である。チタンインプラントは医学、歯科学および獣医学において十分に確立されており、30年を超える使用経験があるのに対し、セラミックインプラントはインプラント学で最近使用が開始されたばかりである。セラミックインプラントはその優れた生体適合性、生体不活性、耐食性および良好な物理的特性のために、歯科学において、主にインプラントとしての使用において十分に確立されるようになったが、セラミックインプラントは骨と一体化しにくいか、または全く一体化しない。
【0003】
チタンの利点は、非常に良好な骨結合を有すること、すなわち、チタンは骨と接合すること、及び、アレルギーを起こさないことである。チタンの酸素に対する高い親和性によって、酸化チタン層がチタンインプラント表面に形成され、これにより好都合な特性がもたらされる。骨は酸化チタン層と接合する。インプラントと骨との間の接触表面を技術的に可能な限り大きくするために、チタンインプラントの表面は粗面化される。このようにして、骨結合をさらに改善することができる。現在、チタンはたとえば歯科用インプラントに、または股関節において、セラミックインサートを受けるためのチタンカップに使用されているのに対して、歯列矯正では特に、チタン製のアンカーインプラントが使用されている。修復歯科学におけるチタンの使用は、鋳造技術のさらなる進歩によって、ならびに個々の部品を作製するためのCAD/CAMおよび放電加工技法の使用によって可能になった。
【0004】
しかし、チタンは、とりわけ歯科用インプラント学に関して、以下の重大な欠点を有する:
チタンは暗い、ほぼ黒色を有し、高光沢まで研磨すると銀色を有するため、歯頚部の外観上望ましくない。さらに歯科学では、チタンインプラントが歯肉から出現した箇所にて金属製の超音波チップによってクリーニングできない。なぜなら、チタン材料が傷付いて、粗面化が生じ、これにより歯垢の形成が促進されるからである。したがってクリーニングには、特殊なプラスチック製チップが必要である。
【0005】
酸化物セラミック(酸化ジルコニウムセラミック、アルミナ、ジルコニア−アルミナ混合物など)は、きわめて硬質で、平滑な生物学的に不活性な材料であり、絶対的に耐食性である(酸、塩、体液)。その上、その硬度のために、酸化物セラミックはきわめて耐摩耗性であり、すなわち表面はダイヤモンド工具を使用した場合にのみ修正できる。さらに、この物質が白色であることは、少なくとも歯科用インプラントにおいて、歯科学上優れた外観上の利点が与えるものである。このような特性は、医学、たとえば心臓学で血管用ステントとしてすでに利用されており、セラミック表面を持つために体細胞の沈着物が蓄積しない。上記の利点は、歯科学で使用されるセラミック歯科用インプラントにとっては欠点となる。材料が生物学的に不活性であるため、インプラントは骨結合しないか、または骨結合が不十分である。
【0006】
酸化物セラミックおよびチタンの両方の材料の利点を組合せて、それぞれの欠点を可能な限り排除するために、最近、2つの手法が用いられた:(部分的に)セラミックコーティング(表面仕上げ)されたチタン体で作られたインプラントと、チタンまたは酸化チタンコーティングされたセラミック体で作られたインプラントである。第1の手法では、インプラント後に骨と接触しないチタン体の領域にセラミックコーティングが施される。第2の手法では、インプラント後に骨と接触するセラミック体の領域がチタンまたは酸化チタンによってコーティングされるため、そこにより良好な骨結合が起こり得る。インプラント後に骨と接触しないインプラントの領域は、コーティングされないままである。
【0007】
チタンの材料固有の特性、すなわち、チタンは熱膨張係数が低いこと、チタンは空気および酸素に対して極度に親和性があること、および882℃で結晶格子変化することから、セラミックを金属で「仕上げる」ことができないので、以前から普通に行われている金属−セラミック複合材系(セラミック表面、仕上げセラミックを持つ金属本体)を用いることができない。
【0008】
セラミック構成成分との反応によって、チタン体の表面に750から800℃の温度で酸化反応層が形成さる。従来のセラミックの生産で達するようなほぼ1000℃の温度では酸化層が極度に強化され、セラミックコーティングへの結合が弱くなる。さらに、結晶格子変化により、応力が問題となることがあり、結合を弱める効果を有することもある。他の歯科用合金と比較して、チタンは特に低い熱膨張係数を有する。しかしながら、従来のセラミックでチタンを仕上げする際に発生するセラミックの亀裂や剥離を防止するために、セラミックおよび金属の熱膨張係数は相互に適合していなければならない。当業者に公知であるように、金属は熱によって膨張するのに対して、セラミックは焼結中に収縮する。
【0009】
長い間、チタン−セラミック系の満足な接着強度値を達成することはできなかった。チタンとセラミックとの間の接着結合が低いのは、熱膨張係数の調整の必要性と、酸素に対するチタンの高い親和性の両方に起因して、セラミックの焼成中に酸化層が著しく増大するためである。酸化層の脆弱性は、結合値が低いことの主な原因と認められる。
【0010】
この理由で、特殊な結合剤(接着促進剤)が開発され、その還元特性のために、セラミック焼成中のチタンの酸化が防止される(M.Kononen and J.Kivilahti,Bonding of low−fusing dental porcelain to commercially pure titanium,J Biomed Mater Res 1994,Vol.28,No.9,p.1027−35;U.Tesch,K.Passler and E.Mann,Investigation of the titanium−ceramic composite,Dent Lab,1993,Vol.41,p.71−74)。チタンの高い酸化傾向を補正し、それによってチタン−セラミック系の接着強度値を向上させるために、チタン表面に存在する酸化物を柔らかくして包み込み、そのガラス様性質によって、さらに酸化しないように表面をシールする特殊な結合剤が開発された(J.Tinschert,R.Marx and R.Gussone,Structure of ceramics for titanium facing,Dtsch Zahnarztl Z,1995,Vol.50,p.31−4)。しかしながら、この手順では、所望の成功が部分的にしかもたらされないことが研究によって明らかになった。Gilbertらは、接着結合の改善について報告した(J.L.Gilbert,D.A.Covey and E.P.Lautenschlager,Bond characteristics of porcelain fused to milled titanium,Dent Mater,1994,Vol.10,No.2,p.134−140)。しかしHungらは、結合剤の使用から著しい改善を何ら見出すことができなかった(C.C.Hung,M.Okazaki and J.Takahashi,Effect of Bonding Agent on Strength of Pure Titanium−Porcelain System,J Dent Res,1997,Vol.76,p.60)。
【0011】
結合剤を使用することの欠点は、もう一度セラミックを焼成する必要があり、これにより必要な時間が長くなると共に、特にチタンのさらなる熱負荷が生じることである。結合剤によって生じる外観上の欠点も排除することはできない。
【0012】
焼成中のチタンの酸化を減少する目的で、保護ガス雰囲気下でのセラミック焼成の試験を行ったが(J.Geis−Gerstorfer;Ch.Schille and P.Klein,Lower oxidation tendency under protective gas atmosphere,Dent Lab,1994,Vol.42,p.1235−1236)、セラミック構成成分がチタンの酸化の原因となる酸素の主たる供給源であるので、ごくわずかな成功を収めただけであった(M.Kononen and J.Kivilahti,Fusing of dental ceramics to titanium,J Dent Res,2001,Vol.80,No.3,p.848−854)。
【0013】
チタン−セラミック系の接着強度を上昇させるための別の手法が独国特許出願公開第10 2004 041 687号明細書に記載されている。この手法によれば、CVD、PVDまたはプラズマ浸漬イオン注入および蒸着技法によって、純チタン体に酸化ジルコニウムの層が施され、チタンを仕上げるためのセラミックが結合剤なしで焼付けされる。この場合、ジルコニウム層は、チタン体と施されたセラミック層との間で接着促進剤として作用する。
【0014】
より最近の手法は、チタン・コート・セラミックが骨結合に関して非常に良好な結果を示すことが公知であるように、セラミック体をチタンでコーティングすることに基づいている。国際公開第03/045268号パンフレットは、たとえば、セラミック本体をチタンでコーティングした単体歯科用インプラントを開示している。
【0015】
しかし、米国特許出願公開第2001/0036530号明細書から公知であるように、チタンコーティングとセラミックとの間の接着強度も問題を起こすことが知られている。米国特許出願公開第2001/0036530号明細書は、酸化ジルコニウムセラミックに第1のチタンによるコーティングと、第2のこれもチタンによるコーティングおよび場合により第3のヒドロキシアパタイトによるコーティングを施した複合材料で作られたインプラントについて記載している。この場合、第1のコーティングのより良好な固着および関連する所望のより良好な接着強度のために、チタンイオンがイオン注入によってセラミック中に注入される。これによって公知のセラミック−チタン複合材系と比べて、接着強度を20%改善することができる。しかし、開示されたチタン−セラミック複合材系は、満足な特性を有していない。接着強度の調査中に、亀裂または剥離は確かに観察されなかったが、平均67MPaの接着強度は、従来技術で達成された41MPaの接着強度と比べて著しく高くはなかった。同様の手法が欧州特許出願公開第2 018 879号明細書で開示された。しかし、ここでも、満足な接着強度は達成できなかった。このため、結局、層が緩んで「裸の」セラミックがその外観を生成することを防止することはできなかった。インプラントは数十年にわたって欠陥なく、生涯にわたって最適に体内に残存すべきであり、材料の損傷は重大な結果をもたらすので、このような結果は、インプラント学ではまず許容されない。
【0016】
これだけに限られないが、第一にインプラントとしての用途があり、インプラント層の非常に強固な接着強度を必要とする。その用途は、歯科用途に限られるものではなく、他の医療用途、たとえば大腿骨頸部骨折を治療するためのバイポーラプロテーゼ(ヘミエンドプロテーゼ(hemi−endoprotheses)としても使用される。よく使用されるデュアル・ヘッド・プロテーゼは、ヘッド、ステムおよびたとえばポリエチレン製のソケットから成る。これは、高い機械的負荷によりポリエチレン製ソケットの摩耗が生じるという問題につながる。この摩耗によって、関節の滑動特性が失なわれることがある。主に、摩耗生成物によって無菌性骨壊死が生じる。このことにより、デュアル・ヘッド・プロテーゼの技術的欠陥と、結果として健常組織の損傷に繋がる。摩耗生成物の結果に関する上記の所見は、整形外科用関節プロテーゼの金属−金属対および金属−プラスチック対にも当てはまる。
【0017】
このため、化学的および機械的観点の両方から、インプラントの最も多様な用途のすべての要件を満たすインプラント用材料に対するニーズがある。さらにこのような材料は、骨結合の能力も有する必要がある。加えて、これらの材料が容易かつ経済的に十分な量で生産できる方法に対するニーズがある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によるセラミック体は、混合酸化物辺縁領域(金属I+II)を有する第1の金属(I)の酸化物および金属(II)の金属表面より成る。混合酸化物辺縁領域は、第1の金属(I)の酸化物および酸素に対して高い親和性を有する別の金属(II)の酸化物を含む。発明者は、驚くべきことに、混合酸化物辺縁領域が、全金属含有量(I+II)に対し、コアの100%から開始してセラミック体の金属表面までの遷移領域の0%に至る、第1の金属(I)の連続的な均質濃度勾配を有すること、および全金属含有量(I+II)に対してコアの0%から開始してセラミック体の金属表面までの遷移領域の100%に至る、別の金属(II)の連続的な均質濃度勾配を有することを見出した。対照的に、混合酸化物辺縁領域における酸素濃度は一定のままである。本発明によるモノリシック体の表面は金属製(金属II)であり、したがって(金属)コーティングではない。
【0027】
本発明により、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体が製造される。本発明によるセラミック体には、コーティングにおいて明瞭に認識される境界相が存在しない。何故ならば、セラミック体がコーティングではなく、熱化学的反応から生じるモノリシック構造だからである。
【0028】
境界相(コーティングの典型的な特徴)は、金属(I+II)の混合酸化物辺縁領域までの金属(I)の遷移領域、または混合酸化物辺縁領域自体、またはセラミック体の金属表面(金属II)までの混合酸化物辺縁領域(金属I+II)の遷移領域には見られない。「境界相なし」とは、本発明の意味では、材料境界がない濃度勾配を意味する。
【0029】
「領域」とは、本発明の意味では、「層」という用語とは異なり、「領域」内の化学組成が領域の原子層内で変化することを意味する。対照的に、「層」は、境界相を有し、全体の層が所定の化学組成を有し、この組成が層の全域で同じであることを特徴とする。
【0030】
「セラミック」は、本発明の意味では、セラミック製品の製造に使用する原材料およびその実際のセラミックへの加工に加えて、民生用および軍事用の、すなわち人物、車両、建物用の部品、保護外装板(人体保護、建物の外装板、自動車、船舶、潜水艦、航空機、ロケットなどの外装板)、器具および装飾品または工具として使用される、セラミックから形成されて焼成された物体自体も含む。
【0031】
「金属(I)」および「金属(II)」は、本発明の意味では、金属の酸化状態を意味しない。番号(I)および(II)は、セラミックの構成成分である金属を区別する役割を果たし、このため「第1の金属」または「金属(I)」という名称が使用される。混合酸化物辺縁領域を形成するために使用される金属の場合、「別の金属」または「金属(II)」という名称が使用される。「第1の金属」と「金属(I)」及び「別の金属」と「金属(II)」という用語は、同意語として使用される。
【0032】
「辺縁領域」は、本発明の意味では、セラミック体の金属表面の下から始まり、セラミック体の内部に向かって第1の金属(I)の酸化物のコアまで延在する本発明によるセラミック体の領域である。
【0033】
「辺縁帯」は、本発明の意味では、金属表面およびその下にある辺縁領域によって形成される本発明によるセラミック体の領域である。
「未仕上げセラミック体」は、本出願の意味では、本発明によってまだ改変されていないセラミック体を意味する。
【0034】
「未仕上げセラミック体の辺縁領域」は、セラミック体の外側表面から開始して未仕上げセラミック体の内部へ向かう、未仕上げセラミック体の領域である。
【0035】
本発明によって達成される利点は、特に、本発明によるセラミック体をもはや複合材料、すなわち金属コーティングを有するセラミック体とは呼べない(コーティングを特徴付ける特色としての境界相がもはや存在しないため)ことであると見るべきである。代わりに、これは混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体である。したがって、「層接着」および接着強度という用語はもはや適用できない。むしろこれは熱化学的に変化したセラミックの領域である。
【0036】
従来の複合材系では、金属と仕上げセラミックとの間の3種類の力、すなわち機械力、接着力および化学力によって複合材が製造される。機械力は、焼結工程中にセラミックが金属構造へ収縮することによって発生する。熱膨張係数および保持力、すなわち複合パートナーが機械的に接合されることがこれらの力の原因である。分子間引力(ファンデルワールス力)は、複合パートナー間の接着の原因である。これらは特に双極子相互作用および水素架橋結合を包含する。混合酸化物の形成により化学力がもたらされる。金属の種類に応じて様々な程度までコーティングされる金属の表面は、純粋な金属ではなく、金属酸化物から成る。これらの金属酸化物は、金属構造に保持力および接着力により接合されている。金属構造とセラミックとの間の化学結合は、金属の酸化表面上で起きる。セラミックの焼成により、金属酸化層とセラミック本体との間の相互結合が生じる。いわゆる酸素架橋が形成される。しかし、従来の複合材系で決定的なことは、どのような力がどの程度作用するのかだけではなく、金属酸化層の金属に対する接着強度でもある。特定の複合材においてどの力が優位であるかとは無関係に、複合材系は多くの異なる層より成る。
【0037】
発明者は、本発明による混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体において、セラミック体が表面まで層構造を有しない(境界相がない)ことを見つけた。コーティングとは対照的に、同一の化学組成を有する薄層、したがって互いに付着する、互いの上の異なる化学組成を有する層がなく、代わりに複雑系が得られ、この系では金属イオン(II)がセラミック(I)の酸素と反応するので、金属イオン(I)、金属イオン(II)および酸素より成る新たな化合物が形成される。発明者は、(熱)化学反応が固体としてのセラミックの酸素原子(金属Iの酸化物)と金属イオン(II)との間で起こるため、通常どおりに(この場合、境界相が存在する)セラミック材料の格子中に金属イオン(II)の「取り込み」のみを生じることなく、セラミック体の辺縁領域が外側金属表面まで連続的に化学変化した領域が形成され、これにより格子が乱されて、イオンがセラミック格子から放出されると推測している。
【0038】
むしろ金属(II)の濃度が、全金属含有量に対してセラミックのコアの0%から開始して金属表面までの遷移領域の100%まで連続的に上昇して、金属(I)の濃度が、全金属含有量に対してセラミックのコアの100%から開始して金属表面までの遷移領域の0%まで連続的に低下することが観察されている。驚くべきことに、混合酸化物辺縁領域中の酸素濃度は一定のままである。したがって、セラミック体の化学組成は、セラミック体の内部からセラミック体の表面まで変化して、辺縁領域では金属(I)および金属(II)の混合酸化物が形成され、最終的に100%濃度の金属(II)を有する金属(II)の金属表面で終わる。
【0039】
このことは層(相、境界相)の形成がなく、したがってもはや接着強度に制限されないという利点を有する。本発明によるモノリス表面の材料破壊を引き起こそうとする試み(瞬間接着剤を用いた層接着試験)は、全て、セラミックが露出することなく瞬間接着剤の破損に終わった。本発明によるモノリスは無傷のままであった。したがって層接着の問題がなく、層接着を改善する試みもなくなる。これらの課題は本発明によって解決されている。上で言及した他の課題もすでに言及されている。
【0040】
結果的に、これはコーティングではない。層接着または接着強度についてもはや議論することはできない。セラミック体は金属コートセラミックの好都合な特性を有し、従来の金属セラミック複合材の接着強度の欠点を克服する。セラミックの辺縁領域の化学的改変によって、セラミック(金属Iの酸化物)、金属(I)および(II)に基づく混合酸化物辺縁領域と、金属(II)で形成された金属表面との間に分離できない化学結合を有するモノリスが作られる。
【0041】
本発明によれば、セラミックは、金属(I)の酸化物から成る酸化物セラミックであり、金属(I)はジルコニウム、アルミニウム、イットリウム、ハフニウム、ケイ素、マグネシウム、セリウム、他の金属酸化物または金属ガラスもしくはその混合物から成る。金属(I)はジルコニウム、またはジルコニウムから成ることが好ましい。酸化ジルコニウムおよびアルミナは白色であり、したがって、歯科学での使用が好ましい。
【0042】
セラミック体は、混合酸化物辺縁領域の熱化学的形成の前および焼結の前に予備形成することができる。これは、未焼結セラミックが所望の形状に形成され、次に焼結されることを意味する。未焼結セラミックは、焼結後の硬質セラミックと比べ、比較的に軟質であり、容易に成形可能であるという利点を有する。したがって、3次元再構築によって、個人毎の、即ち、特注のインプラントを比較的低コストで製造することができる。これによって、複雑な解剖学的構造の製造も可能となる。
【0043】
本発明において、「未焼結セラミック」とは、最終焼結工程前のセラミック材料を意味する。
【0044】
未焼結セラミックは、当業者に公知である方法、たとえば熱間等方圧加圧、加圧、旋削、研削、ボーリング、研磨または機械加工などによって製造、成形および加工することができ、その工程は手動、またはコンピュータによって数値制御することができる。
【0045】
予備形成セラミックは、たとえば表面積を増大させるために、焼結の前または後に機械的または物理的に処理することができる。混合酸化物辺縁領域および金属表面を有する、本発明によるモノリシックセラミック体がインプラントとして使用される場合、表面積の増大によって骨結合が改善される。未焼結セラミックに好ましくは化学的、機械的または物理的処理が行われるのは、ここでは材料が軟質であり、焼結後よりも処理が高速に、容易におよび安価に行うことができるためであるが、処理を焼結後に行うこともできる。
【0046】
「機械的処理」は、本発明の意味では、特に研削、サンドブラストまたはウォータージェットの吹付けおよび当業者に公知の他のあらゆる方法を含む。「物理的処理」は、本発明の意味では、特にレーザビームの照射および当業者に公知の他のあらゆる方法を含む。
【0047】
さらに未焼結セラミックを化学的に、たとえば酸または酸混合物によるエッチングによって処理することができる。酸または酸混合物は、リン酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、硝酸、硝酸/塩酸混合物、たとえば王水または塩酸/硫酸混合物より選択することができる。同じことが焼結セラミックにも当てはまり、焼結セラミックを好適な酸または酸混合物(当業者に公知のあらゆる好適な方法)によって処理することができる。
【0048】
金属(I)および(II)に基づく混合酸化物辺縁領域および金属(II)の金属表面を形成する金属(II)は、本発明により、酸素に対して高い親和性を有する金属であり、チタン、ニオブ、タンタルおよびその化合物および合金の中から選択される。酸素に対して親和性を有する他の金属を除外するものではない。
【0049】
金属(II)は、好ましくは元素チタン、チタン化合物またはチタン合金である。いくつかの実施形態において、チタン化合物は、チタンと周期律表の第14族(たとえばC、Si、Ge、Sn、Pb)、第15族(たとえばN、P、As、Sb、Bi)または第16族(たとえばO、S、Se、Te、Po)の元素との化合物またはその混合物でもよい。元素チタンは金属(II)として特に好ましく、純度100%のチタンはきわめて好ましい。
【0050】
混合酸化物辺縁領域の厚さは、一方では、本発明による注入中の金属イオン(II)の浸透の深さによって決定され、他方では、セラミック体におけるイオンの拡散および熱力学的反応によって決定される。ここで所望の化学反応が起こり、この化学反応は、セラミック材料の格子中への金属イオンの「取り込み」のみがある(境界相が存在する)従来のイオン注入と比べて、本質的に顕著な特色を示す。反応性辺縁領域は平均で、約140ナノメートルに相当する、約700原子層の厚さを有する。本発明において、厚さは少なくとも500原子層であり、より少なくすることも可能であるが、モノリスの弱化が発生しない程度のみである。少なくとも700原子層およびとりわけ好ましくは700を超える原子層が好ましい。
【0051】
700原子層を超える厚さを有する辺縁領域は、製造が困難であり、特に高価であり、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体の利用に関して、および達成された材料の利点に関して何らかの明白な利点またはさらなる改善を示さない。
【0052】
金属(II)の外側金属表面からセラミック体内部の金属(I)までの辺縁帯(金属(I)+(II)に基づく混合酸化物辺縁領域を含む)の厚さは、断面で6〜8マイクロメートルである。この辺縁帯は、0.05マイクロメートル(より薄い厚さは明示的に除外されていない)から数ミリメートル(より厚い厚さは明示的に除外されていない)までの厚さを有する。0.05から80マイクロメートルの厚さが好ましく、5から20マイクロメートルの厚さがきわめて好ましい。
【0053】
本発明によるさらなる実施形態において、セラミック体に、必要に応じ、金属(II)の1以上のコーティング及び/又は、生体適合性及び/又は生体活性材料の1以上のコーティング、とりわけ微小孔性チタンコーティングを施しても良い。
【0054】
「骨に優しい」表面形態の1つの可能性として、現在、リン酸カルシウム(または、ベータ型リン酸3カルシウムなど)を用いたコーティングがあり、このコーティングは、生体活性力(骨活性力)があると認められ、すなわち骨組織の発達を促進し、成長させるために無機構成成分を利用できるようにする。ヒドロキシアパタイトコーティングは、インプラント学で幅広く応用されてきた。コーティング材料の化学組成、担体物質への接着強度、コーティング厚さおよびコーティング内での吸収工程は、骨組織の反応に影響し、したがってコーティングされたインプラントの臨床利用性に影響を及ぼす。
【0055】
生体適合性/生体活性材料はさらに、抗生物質、増殖因子、ペプチド、フィブロネクチンおよび抗炎症剤から選択できる。当業者に公知の他の生体適合性/生体活性材料を使用可することができ、明示的に除外されるものではない。
【0056】
抗生物質として、例えば、以下のものを挙げることができる:アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、セファロスポリン、フルオロキノロン抗生物質、アジスロマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、ロキシスロマイシン、テリスロマイシン、ペニシリン、アンピシリン、スルホンアミド、テトラサイクリン、クリンダマイシン、メトロニダゾールおよびバンコマイシンなど。
【0057】
増殖因子として、たとえばトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、神経発育因子(NGF)、ニューロトロフィン、血小板由来増殖因子(PDGF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、ミオスタチン(GDF−8)、増殖分化因子−9(GDF−9)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGFまたはFGF−1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGFまたはFGF−2)、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様増殖因子(IGF)および骨形成タンパク質(BMP)などを挙げることができる。
【0058】
抗炎症剤として、たとえばグルココルチコイドおよび非ステロイド性抗炎症薬(たとえばイブプロフェン、アスピリンおよびナプロキセンなど)を挙げることができる。
【0059】
ペプチドは、例えば、RGD配列などの生体活性ペプチドでも良い。
【0060】
本発明における特別な実施形態において、生体適合性材料は骨軟骨/骨幹細胞又は軟骨幹細胞若しくはその混合物の生体活性表面コーティングから成る。幹細胞は、コーティングされた混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体の骨結合を改善する。
【0061】
生体適合性材料でコーティングする前に、表面積を増大させるために、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体の表面を化学的、機械的または物理的に処理することがとりわけ好都合であることが判明している。
【0062】
混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体は、本発明による方法を用いて容易に製造することができる。
【0063】
本発明における混合酸化物辺縁領域および金属表面を備えたモノリシックセラミック体を製造するための方法は以下のステップからなり、辺縁領域を備えた未仕上げセラミック体に対して熱化学反応チャンバ内で行われる:
(a)反応チャンバを10
−3mbar以下の陰圧まで排気するステップ、
(b)未仕上げセラミック体の辺縁領域を活性化するステップ、および
(c)未仕上げセラミック体の辺縁領域の熱化学処理を開始するステップ
【0064】
ステップ(a)では、10
−3mbarから10
−7mbarの高真空が好ましい。大気圏外の真空に可能な限り近い真空がとりわけ好ましい。
【0065】
反応チャンバから妨害構成成分および汚染物質を除去するため、及び固形体に対する所期の熱化学反応が起きるようにするため、排気は、最も好ましくは、工程開始の数時間前に行われる。高真空のもう一つの利点は、金属イオン(II)のエネルギーを失わせることがある他の粒子、たとえば汚染物質または希ガス原子またはイオンとの衝突が起きる前は、金属イオン(II)の自由行程は比較的高いということである。高真空のために、セラミックに対するチタンイオンの移動による摩擦によってチタンイオンがエネルギーを損失することはない。
【0066】
本発明の重要な態様は、反応チャンバが本質的に、他の金属イオン(II)が反応することのできる化合物、とりわけ酸素を含まないということである。「化合物」は、本発明の意味では、化合物および原子/イオンを意味する。
【0067】
反応チャンバ内にこのような化合物が存在すると、高エネルギーの金属イオン(II)がこれらの化合物、特に酸素と反応する可能性があり、それにより酸化チタンなどの望ましくない化合物が形成され、これらは混合酸化物辺縁領域の形成に利用できない。形成された化合物は、エネルギーがなお十分である場合、セラミック体の辺縁領域中にさらに注入される可能性があり、これにより従来のイオン注入に関連する欠点、たとえばセラミック格子の妨害をもたらす可能性がある。さらに、望ましくない化合物はセラミック体の表面コーティングに付着して、妨害層を形成することがあり、この層は次に混合酸化物辺縁領域の形成を防止する可能性がある。
【0068】
したがって、金属イオン(II)が妨害されずに、すなわち標的とセラミック体との間の工程で反応することなくセラミック体に衝突して、セラミック体と熱化学的におよび均質に反応できるようにすることが必要である。
【0069】
本発明による方法のステップ(b)では、未仕上げセラミック体の辺縁領域が活性化される。より詳細に言えば、本発明によってまだ改変されていないセラミック体の辺縁領域中の原子は、エネルギー的に励起された状態にシフトする。これは本発明による混合酸化物辺縁領域が形成できるようにするために必要である。
【0070】
辺縁領域を活性化させるために、本発明に従い、従来技術から公知の方法、たとえばバーナーを用いる火炎処理、プラズマ処理、コロナ処理を用いることができる。好ましくは、プラズマ技法が辺縁領域の活性化に使用される。
【0071】
プラズマ処理よる辺縁領域の活性化には、とりわけ、セラミック基材の表面が最初に浄化される、すなわち汚染物質が除去されるという利点がある。セラミック体の辺縁領域の活性化と共に、加えて辺縁領域が最初にエッチングされ、プラズマ−化学活性化という意味で活性化されて、反応区域が増大して、金属(I)と金属(II)との間の所望の熱化学反応への即応性が向上するプラズマ処理が好ましい。結果として、金属(I)の反応性が向上する。
【0072】
辺縁領域の活性化は、好ましくは、高真空下での電気ガス放電によって生成されたプラズマによって行われる。ここで、化学反応が可能となり、セラミック体の辺縁領域で起こるような態様で辺縁領域の原子が活性化されるようにセラミック体の表面に対してプラズマが作用するエネルギーおよび時間が選択される。
【0073】
セラミック体の辺縁領域の活性化の前に、放出された汚染物質が脱ガスされることが好ましい。脱ガスは、25℃から400℃、好ましくは350℃より低い温度で(他の温度も除外されない)、好ましくは10
−7から10
−3mbarの圧力で数時間行うことが好ましいが、もっと短くても長くてもよく、脱ガスは真空ポンプによって連続的に反応チャンバから排出される。
【0074】
次に、活性化のために、材料または構成成分の辺縁領域に、高真空下での電気ガス放電によって生成されるイオンおよび/または電子によりボンバードメントを行う。反応チャンバ内の圧力は、10
−5から10
−3mbar、好ましくは10
−7から10
−3mbarの範囲であることが好ましく、大気圏外の真空の域であればとりわけ好ましい。このような圧力において、プラズマ粒子のエネルギーは平均自由行程と相関していて、セラミック体の辺縁領域で、他の条件下では可能ではない化学反応が可能になるようにセラミック体の辺縁領域に存在する原子をエネルギー的に励起させるのに十分な大きさである。
【0075】
プラズマ活性化は、当業者に公知の方法によって行われる。
【0076】
希ガスはガス放電用のガスとして使用される。希ガスは、アルゴン、ネオン、クリプトンおよびキセノンより選択されるが、アルゴンが好ましい。他の好適な希ガスを除外するものではない。
【0077】
したがって、金属イオン(II)が妨害されずにセラミック体に衝突すること、すなわち、標的とセラミック体との間の行程で反応することなく、セラミック体と熱化学的におよび均質に反応できるようにすることが必要である。
【0078】
高真空を反応チャンバに印加する他の方法として、本発明による効果を達成するために邪魔な汚染物質、とりわけ酸素を反応チャンバ雰囲気から除去できる方法および/または装置が考えられる。
【0079】
ステップ(c)では、未仕上げセラミック体の辺縁領域に熱化学処理を行う。これによりセラミック体の辺縁領域の化学組成が変わる。
【0080】
本発明の意味における熱化学処理は、供給された媒体(金属(II))による物質移動によって材料の化学組成を変える目的で、材料(金属(I))に施される熱処理である。概して、熱化学処理では、金属または非金属元素が材料表面に拡散する。熱化学処理の過程で、拡散領域または拡散領域を下に持つ連結領域のいずれかが形成される。拡散領域内では、拡散元素(金属II)の含有量がコアに向かって連続的に、均一に、徐々に減少して、反応元素(金属I)の量が表面に向かって連続的に、均一に、徐々に減少する。これとは対照的に、連結領域の場合、濃度の低下は通例、非常に急である。
【0081】
本発明において、セラミック体の熱化学反応は、イオン注入による補助から始まる。このことは、第1段階において、金属(II)イオンが未仕上げセラミック体の辺縁領域(金属(I))に注入され、辺縁領域からイオンがセラミック体中にさらに拡散して反応できることを意味する。これにより、連結領域、すなわちイオン注入の領域、およびその下の拡散領域が形成される。金属(II)イオンの高エネルギーおよびステップ(b)で行われた辺縁領域の活性化により、第2の段階では、金属(II)イオンはセラミック材料(金属(I))の酸素原子と反応して、混合酸化物(金属(I)+(II))を形成する。この熱化学反応は、本発明における方法のステップ(a)の意味において、反応チャンバが事前に排気された場合にのみ起こる。イオン注入はプラズマ中で起きるのが好ましい。特に、イオン注入はプラズマ浸漬イオン注入(PIII)であることが好ましい。
【0082】
この具体的な態様で組み合わされたステップが、純チタンと固形体としての酸化物セラミックとの熱化学反応を初めて可能にし、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体を創出する。
【0083】
イオン注入法では、標的から生成されたイオンは指向性電場で加速され、次に固形体に衝突する。イオンはセラミック体に浸透して、表面浸透層を形成する。イオン注入は、パラメータであるイオンエネルギーおよびイオン線量によって影響を受ける可能性がある。イオンエネルギーは浸透の深さを決定し、イオン線量は注入されたイオンの数を決定する。プラズマ浸漬イオン注入(PIII)を使用すると、従来のイオン注入の利点を複雑な形状の大面積の形態に移すことができる。このため、本発明により、高真空チャンバにおいて処理される部分は、好適なプラズマ源によって発生したプラズマによって覆われる。非常に短いパルス立ち上り時間(<1マイクロ秒)で負の高圧パルスを印加することによって、次にプラズマの可動電子がより多く反発して、残存する正のイオンがこの部分に向けて加速(注入)される。加速電圧は、従来のイオン注入の加速電圧より低い(およその大きさ:30kV)。この方法は、全面積に同時に注入されるため、医学で見られる各種の複雑な幾何形状に関して、まさに並はずれて生産的である。
【0084】
混合酸化物辺縁領域および金属表面を有する本発明によるモノリシックセラミック体の所望の特性を維持するのに好適なすべての金属および合金は、標的材料として使用できる。これらはマグネトロン、レーザまたはその他の好適な方法による高エネルギー気化により、高真空チャンバ内で「気相濃度」を生成する。好適な標的材料は、酸素に対して高い親和性を有する金属からなる。標的材料は、好ましくはTi、Nb、Ta、その合金または化合物からなる。好ましい材料はチタン、チタン化合物またはチタン合金であり、チタン化合物は、チタンと周期律表の第14族(たとえばC、Si、Ge、Sn、Pb)、第15族(たとえばN、P、As、Sb、Bi)もしくは第16族(たとえばO、S、Se、Te、Po)元素との化合物またはその混合物である。元素チタンおよびその合金/化合物がとりわけ好ましく、元素チタンが特に好ましい。
【0085】
本発明によれば、辺縁領域で熱化学反応を起こすために、必ず高真空と組合せて、10
15から10
16イオン/cm
2のイオン線量および1keVから2.3MeV、好ましくは1MeVから2.3MeVのイオンエネルギーでイオン注入またはプラズマ浸漬イオン注入行う。温度は、室温と400℃との間、好ましくは350℃以下である。圧力は約10
−3から約10
−7mbar、好ましくは大気圏外の雰囲気下である。
【0086】
プラズマは連続的(cwプラズマ)に発生させるか、またはパルス化させることができる。辺縁帯、すなわち、結果として生じる混合酸化物辺縁領域および結果として生じる金属表面の特性は、プラズマパラメータ、たとえばプラズマパルスまたはプラズマパルスのエネルギーによって調整することができる。本発明において、cwプラズマまたはパルス化プラズマのどちらかを使用することができる。2種類のプラズマ発生の組合せも可能である。好ましくは、ステップ(c)において、反応工程が終わるにつれてパルスに変化することができる、cwプラズマが使用される。
【0087】
驚くべきことに、発明者は、熱による後処理(焼戻し)が必要となる、従来のイオン注入に付随するイオン−材料相互作用の現象、たとえば放射線損傷、欠陥の相互作用、アモルファス化、結晶化、偏析が発生しないことを発見した。チタン本体およびセラミックコーティングに基づいて歯科用インプラントを製造するためのイオン注入技法のこれまでの目標は、セラミックコーティングの間のチタンの酸素への親和性を低下させることであった(L.Wehnert,A.Moormann and W.Freesmeyer,Simulation calculations relate to the thermodynamics of the conventional titanium−ceramic bond and the influence of the bond−improving ion implantation technique,Quintessenz Zahntech 1998,Vol.24,p.1027−1037)。しかし本発明において、金属(II)の酸素への高い親和性が利用される。発明者は、注入された金属イオン(II)が、酸素への高い親和性のために、セラミックの酸素と反応して、複雑な原子結合を形成すると推測する。その結果、未仕上げセラミック体の辺縁領域は、化学的に変更されて辺縁帯となり、すなわち金属(I)および(II)の混合酸化物が形成され、金属(II)の金属表面が混合酸化物辺縁領域上に生成されるので、上記した従来のイオン注入の問題は回避され、続いての焼戻しを行う必要がない。この工程によるセラミックの損傷は、特に比較的低い温度を選ぶことによって完全に回避され、コートされたセラミックではなく、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミックが形成される。相および境界相が存在しないことによってコーティングとの違いが明らかになり、結果として、生成されたセラミック体はコーティングされたセラミックではなく、モノリスである。以前に解決されなかった層接着の問題もこのため解決される。
【0088】
ステップ(c)における高真空下での熱化学処理の結果として、高エネルギー金属(II)イオン(たとえばチタンイオン)が未仕上げセラミック体の辺縁領域中に浸透して、そこでイオンは金属(I)酸化物(たとえば酸化ジルコニウム)の酸素と共に、複合金属(I)−金属(II)酸化物(たとえばチタン−ジルコニウム−酸化物)および金属(II)の金属表面を形成する。したがって、イオンは化学反応を引き起こし、未仕上げセラミック体をその辺縁領域において辺縁帯に変換するので、辺縁帯において金属(I)(たとえばジルコニウム)および酸素は原子レベルで金属(II)原子(たとえばチタン原子、チタンイオン)と化合して、加えて金属(II)から金属表面が形成される。よって、複合金属(I)−金属(II)酸化物はその金属表面によってコーティングを形成しないが、未仕上げセラミック体の辺縁領域の化学的変換を示している。したがって、セラミック体のコアおよびその辺縁帯は、金属製金属(II)表面で終わるモノリシック構造を形成する。本発明によれば、セラミック体の辺縁領域における第1の金属(I)および他方の金属(II)の濃度が(I)および(II)の混合酸化物辺縁領域の中間で50/50%であるのが理想的である。
【0089】
簡略化して論述すると、熱化学反応が未仕上げセラミック体を境界相のない新たなモノリシック体(コアのセラミック、中間の混合酸化物および外側のチタン)に変えるということができる。厚さは必要および用途に応じて、制御および調整することができる。
【0090】
本発明による一実施形態において、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するセラミック体を、1以上の金属、とりわけ他方の金属(II)によってさらにコーティングすることができる。1以上の金属によるコーティングは、当業者に公知であり、従来技術で通常である、金属またはセラミックをコーティングする方法によって行われる。
【0091】
他の実施形態において、1以上の金属のコーティングは、例えば、熱化学的窒化、ホウ化、浸炭、軟窒化でも良い。もちろん必要に応じて、金属(II)のモノリスの金属表面をコーティングしないで、例えば、窒化、ホウ化、浸炭、軟窒化することもできる(関節の表面)。これによりセラミック体の金属表面が硬化し、たとえばプラズマアシスト熱化学窒化、ホウ化、浸炭、軟窒化などによって行われる。
【0092】
本発明による他の実施形態において、混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するセラミック体の表面を、上記の生体適合性/生体活性材料でコーティングすることができる。当業者に知られており、従来技術で通常である金属またはセラミックをコーティングする方法によって、生体適合性/生体活性材料によるコーティングが行われる。
【0093】
本発明は、また、医療用インプラント、とりわけ歯科用インプラントとしての混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するセラミック体の使用に関する。インプラントは、用途に応じて、混合酸化物辺縁領域および金属表面を完全に、または部分的に有するものを提供することができる。「部分的に」とは、骨と接触するインプラント領域が確実に骨結合を確保するのに十分な混合酸化物辺縁領域および金属表面を有することを意味すると理解されるべきである。
【0094】
「医療用」とは、本発明の意味では、歯科を含むヒトの医学の、および歯科分野を含む獣医学の分野に関する。医療用インプラントは、本発明の意味では、ヒトもしくは動物の体内で生体構造の代替物としての役割を果たす、または体内で他の目的のために使用される医療器具である。したがって医療用インプラントは、本発明の意味では、ヒトおよび動物用のインプラントおよび歯科用インプラントを含む。医療用インプラントとしては、歯科用インプラント、腰用インプラント、エピテーゼ、人工関節およびプロテーゼが好ましい。
【0095】
プロテーゼが(たとえば疾患、事故または切断のために)失われた体の部分の代わりとなる義肢であるのに対して、エピテーゼは主に美容上の機能を有する(たとえば人工眼または耳など)。医療用インプラントおよびとりわけプロテーゼは、人体のほぼすべての領域、たとえば頭蓋骨、歯、上腕および前腕、肘、大腿および下腿、腰、足指、指、膝、脊柱などにおいて、生体構造、たとえば骨、関節または骨の一部に代わって使用することができる。しかし、補聴器、義肢、代替関節および人工毛髪(かつら)、これらを固定するためのインプラントも、本発明の意味では、医療用インプラントに含まれる。特別な実施形態において、補聴器は他のインプラントに組み入れることができる。このことは、体内に植え込まれる「薬剤」または他の容器(たとえば心臓ペースメーカー、インスリンポンプなど)にも適用される。
【0096】
本発明におけるいくつかの実施形態において、インプラントおよび歯科用インプラントは、1部品または多部品インプラントである。
【0097】
本発明の好ましい実施形態において、骨と接触するセラミック体の領域のみが(全体的または部分的に)金属表面を備えた混合酸化物辺縁領域を有する。他の態様において、さらに、この領域は、2部品インプラントの第2の部分と接触する金属表面を備えた混合酸化物辺縁領域を有する。
【0098】
特に、歯科用インプラントは、1、2または多部品インプラントであり、ネジ山を含むことがある。好ましくは、歯科用インプラントは、インプラントを骨に係留するための係留部、および上部構造を収容するための固定部を備え、係留部のみが混合酸化物辺縁領域を有する。2部品インプラントの特別な実施形態において、他方の領域と接触するセラミックの領域(たとえばインプラントとアバットメントとの間のその接触表面上のアバットメント)は、金属表面を持つ部分混合酸化物辺縁領域を有する。この場合、2つの部品の間にネジ連結は不要であるのは、最適な適合精度が達成可能であり、接合部の良好な着座および高い安定性(圧入)がもたらされるためである。本発明による多部品インプラント用にネジが作製される場合(たとえばインプラントにネジ止めされたアバットメント)、ネジ全体、又はネジ山領域のみを金属表面を持つ混合酸化物辺縁領域とすることができる。
【0099】
インプラントが多部品である場合、2つの部品の接触領域において、1個の部品のみまたは両方の部品が金属表面を持つ混合酸化物辺縁領域を有するようにすることができる。このような実施形態の一例は、人工腰関節である。この場合、人工関節の少なくとも1個の部品が金属表面を持つ混合酸化物辺縁領域を有するようにすることができる。たとえば、骨に連結される領域と同様に、頭部(ボール)と接触する腰関節の領域は、金属表面を持つ混合酸化物辺縁領域を有する。または反対に、ソケットと接触する領域のみが、金属表面を持つ混合酸化物辺縁領域を有する。インプラントの破壊について心配される破砕効果がほぼ防止されるように、本発明による両方のインプラント部品全体に混合酸化物辺縁領域および金属表面を提供することが考えられる。1つの利点は、金属表面を有する混合酸化物辺縁領域によって、関節の運動中に発生し得るきしみ音または望ましくない音が防止されることである。特に、人工腰関節の頭部領域における金属表面を有する混合酸化物辺縁領域は、きしみ音を防止して、「潤滑剤」として作用する。
【0100】
本発明における混合酸化物辺縁領域および金属表面を有するモノリシックセラミック体は、いくつかの実施形態において、(たとえば関節表面上に)ダイヤモンド様炭素層(DLC)が追加されたものからなる。
【0101】
DLCは、きわめて硬質なアモルファス炭素層である。いくつかの実施形態において、組成物は、1以上のさらなる金属層、たとえば金、銀、白金、アルミニウム、銅、鉄ニッケル、スズ、タンタル、亜鉛および/もしくはクロム、ならびに/または合金、鋼鉄もしくは青銅を含むことができる。