(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045133
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】異なる2つのパイル高さを有するカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機
(51)【国際特許分類】
D05C 15/36 20060101AFI20161206BHJP
D05C 15/24 20060101ALI20161206BHJP
A47G 27/02 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
D05C15/36
D05C15/24
!A47G27/02 101
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-231266(P2011-231266)
(22)【出願日】2011年10月21日
(65)【公開番号】特開2012-92487(P2012-92487A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2014年7月11日
(31)【優先権主張番号】1017940.6
(32)【優先日】2010年10月22日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501457453
【氏名又は名称】スペンサー ライト インダストリーズ,インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】Spencer Wright Industries, Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100161274
【弁理士】
【氏名又は名称】土居 史明
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】フランク シャンリー
【審査官】
笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04353317(US,A)
【文献】
実開平04−114587(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05C 15/08 〜 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内で往復移動可能であり、複数の針が取り付けられるニードルバーであって、使用の際には、裏打ち材網がタフティング機内で第一の方向に搬送されるにつれて、前記複数の針が前記裏打ち材網に対して第二の方向に近接および離間するように往復移動する構成とされたニードルバーと、
前記複数の針のそれぞれに関連付けされており、前記各針によって糸のループが形成されると当該ループを捕えることができるように往復移動可能に取り付けられた複数のフックアセンブリと、
前記フックアセンブリのそれぞれに関連付けされたナイフであって、刃先を有し、前記各フックアセンブリに対して往復移動可能に且つ傾斜状態で取り付けられていることにより前記フックアセンブリに対して圧接可能なナイフと、
を備えた、2つの異なる高さのパイルを有するカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機であって、
前記複数のフックアセンブリのうちの少なくとも1つのフックアセンブリは、それぞれ下縁に刃先を有する上側フック及び下側フックと、前記上側フック及び下側フックの一方に前記糸を選択的に向かわせる手段とを備えており、
前記各ナイフは、前記上側フック及び下側フックの両方と協働することにより、各フックアセンブリによって捕えられた糸の各ループをハサミ作用によって切断する単一の刃先を有しており、
前記ナイフと前記下側フックとの間には逃げ空間が設けられており、前記逃げ空間は、前記ナイフの前記刃先が前記上側フックの前記刃先に近づく際に、前記ナイフを前記下側フックに接触させずに通過させるように構成されており、
前記上側フック及び前記下側フックは個別に、前記フックアセンブリに取り付けられており、
前記逃げ空間の少なくとも一部分は、前記上側フックの前記刃先と前記下側フックの前記刃先とによって形成され、
前記上側フックの前記刃先が前記下側フックの前記刃先よりもナイフ側に突出するように、前記上側フックの前記刃先と前記下側フックの前記刃先とは、前記第一の方向及び第二の方向に実質的に交差する方向に位置ずれしており、
前記上側フック及び下側フックの支持部材は、前記上側フックが取り付けられた第一の部分と、前記下側フックが取り付けられた第二の部分と、の2つの部分を含む構造を有しており、
前記第一の部分と前記第二の部分との境界は段差形状を有しており、前記第二の部分は略下向きの要素と噛み合う第一の係合面を有し、前記第一の部分は略上向きの要素と噛み合う対応係合面を有し、これら係合面によって、前記2つの部分が上下方向において分離するのを防ぐ構成とされている、タフティング機。
【請求項2】
ハウジングと、
前記ハウジング内で往復移動可能であり、複数の針が取り付けられるニードルバーであって、使用の際には、裏打ち材網がタフティング機内で第一の方向に搬送されるにつれて、前記複数の針が前記裏打ち材網に対して第二の方向に近接および離間するように往復移動する構成とされたニードルバーと、
前記複数の針のそれぞれに関連付けされており、前記各針によって糸のループが形成されると当該ループを捕えることができるように往復移動可能に取り付けられた複数のフックアセンブリと、
前記フックアセンブリのそれぞれに関連付けされたナイフであって、刃先を有し、前記各フックアセンブリに対して往復移動可能に且つ傾斜状態で取り付けられていることにより前記フックアセンブリに対して圧接可能なナイフと、
を備えた、2つの異なる高さのパイルを有するカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機であって、
前記複数のフックアセンブリのうちの少なくとも1つのフックアセンブリは、それぞれ下縁に刃先を有する上側フック及び下側フックと、前記上側フック及び下側フックの一方に前記糸を選択的に向かわせる手段とを備えており、
前記各ナイフは、前記上側フック及び下側フックの両方と協働することにより、各フックアセンブリによって捕えられた糸の各ループをハサミ作用によって切断する単一の刃先を有しており、
前記ナイフと前記下側フックとの間には逃げ空間が設けられており、前記逃げ空間は、前記ナイフの前記刃先が前記上側フックの前記刃先に近づく際に、前記ナイフを前記下側フックに接触させずに通過させるように構成されており、
前記上側フック及び前記下側フックは個別に、前記フックアセンブリに取り付けられており、
前記逃げ空間の少なくとも一部分は、前記ナイフの前記フックアセンブリに隣接する側に設けられている、タフティング機。
【請求項3】
ハウジングと、
前記ハウジング内で往復移動可能であり、複数の針が取り付けられるニードルバーであって、使用の際には、裏打ち材網がタフティング機内で第一の方向に搬送されるにつれて、前記複数の針が前記裏打ち材網に対して第二の方向に近接および離間するように往復移動する構成とされたニードルバーと、
前記複数の針のそれぞれに関連付けされており、前記各針によって糸のループが形成されると当該ループを捕えることができるように往復移動可能に取り付けられた複数のフックアセンブリと、
前記フックアセンブリのそれぞれに関連付けされたナイフであって、刃先を有し、前記各フックアセンブリに対して往復移動可能に且つ傾斜状態で取り付けられていることにより前記フックアセンブリに対して圧接可能なナイフと、
を備えた、2つの異なる高さのパイルを有するカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機であって、
前記複数のフックアセンブリのうちの少なくとも1つのフックアセンブリは、それぞれ下縁に刃先を有する上側フック及び下側フックと、前記上側フック及び下側フックの一方に前記糸を選択的に向かわせる手段とを備えており、
前記各ナイフは、前記上側フック及び下側フックの両方と協働することにより、各フックアセンブリによって捕えられた糸の各ループをハサミ作用によって切断する単一の刃先を有しており、
前記ナイフと前記下側フックとの間には逃げ空間が設けられており、前記逃げ空間は、前記ナイフの前記刃先が前記上側フックの前記刃先に近づく際に、前記ナイフを前記下側フックに接触させずに通過させるように構成されており、
前記上側フック及び前記下側フックは個別に、前記フックアセンブリに取り付けられており、
前記上側フックにおける、刃先の後方に位置し且つ使用の際に前記ナイフが当接する部分に位置する面取り部を更に備え、
前記面取り部は、前記下側フックから前記上側フックへとナイフを移動させる、タフティング機。
【請求項4】
前記第一の部分及び第二の部分は、これらを互いに横方向に整列させる相互係合部分を有する、請求項1に記載のタフティング機。
【請求項5】
前記逃げ空間は、前記ナイフの刃先に近接し且つ刃先の下方の位置において、前記ナイフの幅全体にわたって延びる凹部として形成されている、請求項2に記載のタフティング機。
【請求項6】
前記上側フックの先端は、前記下側フックを超えて延び、且つ、前記下側フックの前記下縁と略同一平面内の位置に至るまで下方に延びている、請求項1〜5のいずれか1つに記載のタフティング機。
【請求項7】
前記上側フックの先端は前記上側フックの残りの部分よりも厚みが薄くされている、請求項1〜6のいずれか1つに記載のタフティング機。
【請求項8】
前記下側フックは、前記下側フックの上縁の前記ナイフ側に位置する面取り部を含み、
前記面取り部は、前記逃げ空間を形成する、請求項1〜7のいずれか1つに記載のタフティング機。
【請求項9】
前記面取り部の前記第二方向における深さは、前記上側フックの先端から遠ざかるにつれて増大している、請求項3に記載のタフティング機。
【請求項10】
前記ナイフは、少なくとも使用の際に前記フックアセンブリを通過する部分の厚みが薄くされている、請求項1〜9のいずれか1つに記載のタフティング機。
【請求項11】
前記フックアセンブリに当接する前記ナイフの先端は平らである、請求項1〜10のいずれか1つに記載のタフティング機。
【請求項12】
前記上側フック及び下側フックの一方に糸を選択的に向かわせる手段は、前記糸の張力を制御するための手段及び弾性クリップを含み、前記弾性クリップは、前記張力が十分に増大することにより糸が弾性クリップを通って引っ張られ、弾性クリップが弾性変形して糸が上側フック上に移動するのを許可するまでは、前記下側フックと協働することにより前記糸のループを前記下側糸係合部に保持する、請求項1〜11のいずれか1つに記載のタフティング機。
【請求項13】
それぞれ下縁に刃先を有する上側フック及び下側フック、及び、前記糸を前記上側フック及び下側フックの一方に選択的に向ける手段を備え、前記上側フックの刃先が前記下側フックの刃先よりも突出するように、前記上側フック及び下側フックの刃先は互いに対して位置ずれしている、請求項1に記載のタフティング機のためのフックアセンブリ。
【請求項14】
前記ナイフは、単一の刃先を有し、前記刃先は一端に設けられており、前記ナイフはさらに、前記刃先に近接し且つ刃先の下方の位置において、前記ナイフの片側の幅全体にわたって延びる凹部を有する、請求項5に記載のタフティング機のためのナイフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる2つのパイル高さを有するカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる2つの高さのパイルを同じ列に含むカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機については、これまでにもその製造が試みられてきた。このようなタフティング機の製造には、上側フック及び下側フックと、糸のループすべてを最初の段階で下側フックに保持するバネ付きクリップとを含むフックアセンブリの製造が含まれる。この構成においては、糸の張力を制御することにより糸の所定のループを引っ張りクリップを超えて上側フックに係合させ、この状態で上側フック及び下側フックの両方にナイフを通して、ループがいずれのフックにかかっている場合でも、ループを切断する。典型的には、ナイフは二重角度(dual angle)で取り付けられる。具体的には、例えば、8〜10°の圧力角で、且つ、フックに対して約2〜4°のハサミ角で取り付けられる。この構成によれば、ナイフが上方に移動する間、圧力角に起因する側圧がナイフの刃先をフックの刃先に対して押し込もうとする一方で、ハサミ角によってこれら2つの刃先の間にハサミ作用が働く。ナイフ圧及びハサミ角によって2つの刃先の間に効果的に圧接点が形成され、この圧接点は、ナイフがフックに対してさらに移動するにつれて、徐々にこれらの刃先に沿って移動する。これによって、2つの刃先の間で圧力が維持され、糸をきれいに切断することができる。
【0003】
異なる2つの高さのパイルを形成することが可能なフックアセンブリの問題点は、上側フックにおけるナイフのハサミ角を下側フックが制限し、その結果、ナイフの刃先と上側フックの刃先との間の圧力が減少することである。これは切断作業に弊害を及ぼす。このため、上側フックと下側フックとの間にかなりの距離を設け、ナイフが上側フックに向かって撓みつつ戻るための十分なスペースを確保する必要がある。
【0004】
この問題に対する他の解決策としては、英国特許第1318222号明細書、米国特許第4266491号明細書、及び特開平05−059656号明細書に開示されたものがある。これらの文献には、2つの刃先を設ける発想が開示されており、2つの別個のナイフ、又は1つのナイフに2つの刃先を設けたものを用いることにより、上側フック及び下側フックの其々と1つの刃先とが協働するようになっている。この構造によれば、上側フックにおけるハサミ角を下側フックが制限するという、ナイフの刃先が1つだけの構造における上述の問題点を回避することができるが、ナイフがかなり複雑化するため費用が増し、しかも、達成できる機械の最小ピッチも大きくなる。また、切断作業の間、ナイフはフックアセンブリの2つの領域と圧接状態にあるので、ナイフとフックとの摩擦係合はおよそ二倍になる。したがって、機械の消費電力が増し、不要な発熱が増加してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1318222号明細書
【特許文献2】米国特許第4266491号明細書
【特許文献3】特開平05−059656号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、2つの異なる高さのパイルを有するカットパイルカーペットを作製するためのタフティング機が提供される。当該タフティング機は、ハウジングと、ハウジング内で往復移動可能であり、複数の針が取り付けられるニードルバーであって、使用の際には、裏打ち材網がタフティング機内で第一の方向に搬送されるにつれて、複数の針が裏打ち材網に対して第二の方向に近接および離間するように往復移動する構成とされたニードルバーと、複数の針のそれぞれに関連付けされており、各針によって糸のループが形成されると当該ループを捕えることができるように往復移動可能に取り付けられた複数のフックアセンブリと、フックアセンブリのそれぞれに関連付けされたナイフであって、刃先を有し、各フックアセンブリに対して往復移動可能に且つ傾斜状態で取り付けられていることによりフックアセンブリに対して圧接可能なナイフと、を備える。複数のフックアセンブリのうちの少なくとも1つのフックアセンブリは、それぞれ下縁に刃先を有する上側フック及び下側フックと、上側フック及び下側フックの一方に糸を選択的に向かわせる手段とを備える。各ナイフは、上側フック及び下側フックの両方と協働することにより、各フックアセンブリによって捕えられた糸の各ループをハサミ作用によって切断する単一の刃先を有する。ナイフと下側フックとの間には逃げ空間が設けられており、逃げ空間は、ナイフの刃先が上側フックの刃先に近づく際に、ナイフを下側フックに接触させずに通過させる。
【0007】
この構成によれば、逃げ空間が設けられていることにより、一旦ナイフの刃先が下側フックを通過すると、下側フックはナイフに接触せず、ナイフの刃先が上側フックの刃先に近づくにつれてハサミ角が回復する。従って、上側フックと下側フックの刃先同士をより近接させて配置することが可能であり、差異の小さい2つの高さのパイルを有するカーペットを作製することができる。
【0008】
逃げ空間の少なくとも一部分は、上側フックの刃先と下側フックの刃先とによって形成され、上側フックの刃先が下側フックの刃先よりもナイフ側に突出するように、上側フックの刃先と下側フックの刃先とは、第一の方向及び第二の方向に実質的に交差する方向に位置ずれしていてもよい。
【0009】
上側フック及び下側フックは1つの部材の異なる部分によって構成することもできるが、個別にフックアセンブリに取り付ける構成とすることが好ましい。この構成によれば、2つのフックの比較的複雑な形状を、機械加工によって、より簡単に実現することができる。また、好ましくは、上側フック及び下側フックの支持部材は、上側フックが取り付けられた第一の部分と、下側フックが取り付けられた第二の部分と、の2つの部分を含む構造を有する。この構成においても、他の組のフックと干渉することなく上側フック及び下側フックを個別に取り付けることができるため、組み立てが容易となる。また、この構成によればフックの再研磨が容易となり、比較的自由にフックを手入れすることができる。
【0010】
好ましくは、上側部分と下側部分との境界は段差形状を有しており、下側部分は略下向きの要素と噛み合う第一の係合面を有し、上側部分は略上向きの要素と噛み合う対応係合面を有し、これら係合面によって、2つの部分が上下方向において分離するのを防ぐ構成とされている。この段差形状を設けることによって、使用の際に上側フックと下側フックとが分離するのを防ぐことができる。
【0011】
上記構成に代えて、または上記構成に加えて、逃げ空間の少なくとも一部分は、ナイフのフックに隣接する側に設けられている。好ましくは、逃げ空間は、ナイフの刃先に近接し且つ刃先の下方の位置において、ナイフの幅全体にわたって延びる凹部として形成されている。
【0012】
下側フックからの糸をできるだけ効果的に上側フックに保持させるためには、好ましくは上側フックの先端は、下側フックを超えて延び、且つ、下側フックの下縁と略同一平面内の位置に至るまで下方に延びている。
【0013】
好ましくは、上側フックの先端は上側フックの残りの部分よりも厚みが薄くされており、この厚みの縮小はナイフ側の面に施されていることにより、上側フックの先端が下側フックの先端に、より近接して配置されている。この構成によれば、より確実に下側フックから上側フックに糸を移動させることができる。
【0014】
逃げ空間を形成するため、好ましくは下側フックの上縁のナイフ側には面取り部が設けられている。
【0015】
好ましくは、上側フックにおける、刃先の後方に位置し且つ使用の際にナイフが当接する部分には、ナイフが下側フックから上側フックへと移動できるようにするための面取り部が設けられている。好ましくは、この面取り部の第二方向における深さは上側フックの先端から遠ざかるにつれて増大しており、これによりスムーズな移動を実現できるようになっている。
【0016】
好ましくは、ナイフは、少なくとも使用の際にフックアセンブリを通過する部分の厚みが薄くされている。この構成によれば、ナイフを通過させるのに必要なスペースが小さくて済むので、隣接するフックアセンブリ同士をより近接させて配置することができる。
【0017】
上側フック及び下側フックの一方に糸を選択的に向かわせる手段は、最も単純な構成としては、糸の張力を制御するための手段によって実現され、張力を増すと糸のループが引っ張られて下側フックを離れて上側フックに係止するといった構成とされる。しかし、好ましくは、糸の張力を制御するための手段に加えて、弾性クリップを備える。弾性クリップは、張力が十分に増大することにより糸が弾性クリップを通って引っ張られ、弾性クリップが弾性変形して糸が上側フック上に移動するのを許可するまでは、下側フックと協働することにより糸のループを下側糸係合部に保持する。
【0018】
さらに、上記タフティング機のためのフックアセンブリも本発明の範囲に含まれる。このフックアセンブリは、それぞれ下縁に刃先を有する上側フック及び下側フック、及び、糸を上側フック及び下側フックの一方に選択的に向ける手段を備える。前記上側フックの刃先が前記下側フックの刃先よりも突出するように、前記上側フック及び下側フックの刃先は互いに対して位置ずれしている。
【0019】
さらに、上記タフティング機のためのナイフも本発明の範囲に含まれる。このナイフは、単一の刃先を有し、この刃先は一端に設けられており、ナイフはさらに、刃先に近接し且つ刃先の下方の位置において、ナイフの片側の幅全体にわたって延びる凹部を有する。
【0020】
本発明の例を、以下に示す添付図面を参照して詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】ナイフが最も低い位置にある時のフック及びナイフの第一の例を示す正面図である。
【
図1B】
図1Aと同じ位置にある時の前記フック及びナイフの上面図である。
【
図1C】
図1Aと同じ位置にある時の前記フック及びナイフにおける、フックの正面部を取り除いた状態の端面図である。
【
図2A】ナイフが中間位置にある状態を示す、
図1A〜1Cに対応する図である。
【
図2B】ナイフが中間位置にある状態を示す、
図1Bに対応する図である。
【
図2C】ナイフが中間位置にある状態を示す、
図1Cに対応する図である。
【
図3A】ナイフが最も高い位置にある状態を示す、
図1Aに対応する図である。
【
図3B】ナイフが最も高い位置にある状態を示す、
図1Bに対応する図である。
【
図3C】ナイフが最も高い位置にある状態を示す、
図1Cに対応する図である。
【
図4】
図2Cに示したフック及びナイフの一部の詳細を拡大して示した図である。
【
図5】ナイフが最も低い位置にある時のフック及びナイフの第二の例を示す正面図である。
【
図5B】ナイフ(2つのみ図示)が
図5における位置よりもわずかに上方の位置にある時の下側フックの列(上側フックは図示せず)を示す端面図である。
【
図6】ナイフが中間位置にある状態を示す、
図5に対応する図である。
【
図7】ナイフが最も高い位置にある状態を示す、
図5及び
図6に対応する図である。
【
図7A】ナイフが最も高い位置にある時の上側フックの列(下側フックは図示せず)を示す、
図5Bに対応する図である。
【
図7B】ナイフが最も高い位置にある時の(上側フックのみ図示)
図5Cに対応する図である。
【
図8】
図5の一部をより詳細に(ただし反対向きに)示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
針及び針の駆動機構を含むタフティング機のほとんどの側面は従来のものであり、これらについてはここでは説明しない。
【0023】
フックアセンブリ1は、柄部2を有し、この柄部を介してフックバーに取り付けられている。首部3は、柄部2からなた部4まで延びている。なた部4には機械加工により凹部5が形成されており、この凹部がなた部から首部に沿って柄部まで延びることにより、上側フック6及び下側フック7が形成されている。これら2つのフック6、7の底縁は鋭利にされており、それぞれ上側刃先8及び下側刃先9を構成している。
【0024】
フックアセンブリ1の柄部2には、ばねクリップ10が取り付けられている。このばねクリップは、なた部4に向かって延び、上向き突起11につながっている。ばねクリップは弾性を有しており、このばねクリップの材料の弾性によって上向き突起11が下側フック7上に保持されるようになっている。上側フック6は、なた部4の全長にわたって延びており、すなわち、下側糸係合部を十分に超えて延びている。
【0025】
使用の際には、針を用いて糸のループを作製した直後にこのループにフックアセンブリ1を通し、ばねクリップ10が弾性変形してループの通過を許すことにより、当該ループがばねクリップ10と下側フック7との間を通過するようにする。すると、当該糸にかかっている張力が高い場合には、ループが上向き突起11を超えて引き戻され、なた部4に引っ掛かり、上側刃先8に向かって旋回させられる。一方、当該糸にかかっている張力が低い場合には、ばねクリップ10によって下側フック7上に保持されたままとなる。
【0026】
ナイフ20は、前縁20A、後縁20B、及び、最上面に設けられた刃先21を有する。当該ナイフは、1ストローク毎に、上側フック6の上側刃先8を超えるのに十分な距離を移動する。
【0027】
ナイフ2及びフックアセンブリ1は共に実質的に平らであり、それらの表面は、フックの柄部2からなた部4にわたる範囲において互いに対してハサミ角をもって傾斜している。この傾斜角は、2〜4°のオーダである。また、これらのナイフは、例えば
図1Cに示すように、鉛直に対して約8〜10°の圧力角で傾斜するように取り付けられる。ナイフをタフティング機に取り付ける際には、ナイフの取り付け端部を各フックアセンブリに向かって移動させ、例えば
図1Cに示すようにフックアセンブリの表面に対して各ナイフの背面が曲がるようにする。このようにして、ナイフ及びフックアセンブリは、ナイフの刃先21と下側フック7の下側刃先9との間でハサミ作用を果たす。こうして、ナイフ20が上方に移動し圧力角によってフックアセンブリ1に向かって押圧されるにつれて、刃先9と刃先21との間にはハサミ角によって圧力がかかり、刃先21が下側刃先を完全に通過して
図1Aと
図2Aの間の位置に到達するまで、刃先同士の接触点は左に移動する。
【0028】
ナイフには凹部22が設けられており、この凹部は、刃先21のすぐ下においてナイフの幅全体にわたって延び、上縁22A及び下縁22Bによって囲まれている。この凹部の大きさは、一旦ナイフが
図2A〜2Cに示す位置、すなわち、ナイフが下側フック7と同じ高さになる位置に到達すると、
図4に示すように下側フックとナイフが接触しなくなるように設定されている。従って、圧力角によってナイフ20がフックアセンブリ1に対して及ぼす圧力によって、下側フックと干渉することなくハサミ角を回復させることができる。実際上、このハサミ角の回復は、ナイフにかかる圧力と、凹部22を設けたことによってナイフの前縁20Aが上側フック6のわずか下方に戻ることができることによって達成される。
【0029】
ナイフを引き続き上方に移動させると、フックとナイフとの間の傾斜によるハサミ作用は維持されたまま、ナイフの刃先21と上側刃先8との接触点が左に移動する。
【0030】
仮にナイフに凹部22が設けられていなければ、一旦ナイフの刃先21が下側糸係合部すなわち下側フック7を通過すると、当該刃先は実際上まっすぐ上方に移動し続け、ナイフの前縁が弾性によって上側フック6の下に移動するのを下側糸係合部が妨げる。
【0031】
フックアセンブリ1及びナイフ20の第二の例を
図5〜
図7に示す。
【0032】
2つの例の基本的な違いは、第一の例においては凹部22によってナイフと下側フックとの間の干渉逃げ空間が形成されているのに対し、第二の例においては凹部が設けられていない点である。第二の例においては、凹部に代えて、以下に述べるように互いに位置ずれした上側フック6と下側フック7とによって干渉逃げ空間が形成されている。これを説明する前に、まずいくつかの構造上の違いについて説明する。
【0033】
最も重要な構造上の違いは、第二の例におけるフックアセンブリは、1つの部材に機械加工により凹部を形成して2つの刃先を設けるのではなく、上側フック6と下側フック7とを2つの別個の部材によって構成し、それらを個別にフックモジュール30に取り付けている点である。上側フック6は、上側フックモジュール部32に取り付けられた後部取り付け部31を有している。下側フック7は、下側フックモジュール部34に取り付けられた後部取り付け部33を有している。この下側フックモジュール部34には、クリップ10も取り付けられている。下側フックモジュール部34には開口35が設けられており、当該モジュール部はこの開口を介してフックバー36にボルト止めされている。
【0034】
上側フックモジュール部32と下側フックモジュール部34との境界は、段差形状となっている。上側フックモジュール部32は略上向き傾斜面37を有し、下側フックモジュール部34はこれを補完する下向き傾斜面38を有する。これらの傾斜面は、2つのフックモジュール部32、34が上下方向において互いに分離するのを防ぐ。モジュールを組み立てるには、下側フック7における上側フックモジュール部32に上側フック6を取り付け、これとは別個に、下側フックモジュール部34に下側フック7及びクリップ10を取り付ける。このようにすることにより、上側フック6及び下側フック7を互いに干渉しないように簡単に取り付けることができる。
【0035】
ボルト止めされた界面の詳細を
図8及び
図8Aに示す。
【0036】
上側フックモジュール部32及び下側フックモジュール部34は、それぞれ孔80、81を有しており、これらの孔は一直線状に並んでいる。孔81は、さら穴部82を有する。2つのフックモジュール部同士を組み付ける前に、雌ねじが形成された中空ピン83を下側フックモジュール部34に挿入する。この中空ピン33は、さら穴部82に嵌入する拡径ヘッド部84と、軸部85とを有し、当該軸部は、孔81内の対応する平坦面に係合する一対の平坦側面86を有する。軸部85の上下には、上下間隙87が設けられている。中空ピン83を適所に配置した状態で、2つのフックモジュールを
図8Aに示すように組み付け、ボルト88を中空ピン83に螺入することにより、連結が完成する。
【0037】
平坦側面86を設けたことによって2つのフックモジュール部の横方向の位置合わせを正確に行うことができる一方で、傾斜面37、38を設けたことよって上下方向の配置を正確に行うことができる。また、間隙87を設けているため、中空ピン83は、製作公差に起因する上下方向の配置の変化に適応することができる。
【0038】
上側フック6における首部3のすぐ後方には、面取り部41が設けられている。
図5に示すように、当該面取り部の深さは、首部から最も遠い位置において最も大きく、首部においてゼロとなるように漸減している。この面取り部41は、以下に詳細に述べるように、ナイフを上側刃先8にガイドするために設けられている。首部に近接して設けられた第2面取り部41Aは、ナイフのための追加の逃げ空間を提供するためのものである。
【0039】
下側フック7の上面には面取り部42が設けられている。この面取り部は、ナイフが下側フック7から上側フック6に進む際に、不当にナイフと干渉しないようにするために設けられている。
【0040】
図5Aに示すように、上側フック6は下側フック7に対して位置ずれしており、上側フック6の方が下側フック7よりもナイフ寄りに位置している。フックアセンブリ1が確実に糸のループに入るようにするため、
図5Cに示すように上側フック6の遠位端は上側フックの他の部分よりも細く、且つ、上側フックの先端は下側フック7面に向かって傾斜し、上側フックの先端と下側フックの先端とが実質的に同一平面内に位置する構成とされている。これにより、両フックは針Nから糸のループを確実に捕えることができる。
【0041】
図5Bからわかるように、各ナイフ20の上部45は、ナイフにおける他の部分よりも薄くされている。この構造によれば、ナイフを通過させるのに必要とされる隣接するフック間の間隔が小さくなる。さらに、ナイフにおける、面取り部41に当接する先端46は取り除かれており、これにより、ナイフは、鋭利な先端ではなく、面取り部41に対向する小さな三角形の切面を有している。
【0042】
第二の例における動作を以下に述べる。
【0043】
第一の例に関して述べたように、フックは糸を保持する。糸が下側フックから上側フックに移動する様子は上述したとおりである。
【0044】
ナイフ20は
図5に示した位置からスタートし、
図5B及び
図5Cに示したやや高い位置へと進み、この位置でナイフの刃先が下側フック7の刃先9と係合し、糸が下側フック上にある場合は糸を切断する。ナイフは次に
図6に示す位置へと上昇し、この位置で面取り部41に対向し始める。面取り部がナイフを外側に押しやることによりナイフは撓んで刃先8を通り越し、ナイフと当該刃先は十分な圧力で係合してハサミ角を形成し、
図7Aに示すように糸を切断する。