【実施例】
【0207】
(実施例1)
上皮増殖因子受容体(EGFR)は多くの上皮癌で過剰発現され、観察はしばしば臨床結果の乏しいことに関連付けられている。EGFRの過剰発現は通常はEGFR遺伝子増幅によって引き起こされ、時々、その細胞外ドメインに内部欠失を保有する変異EGFR(de2−7 EGFRまたはEGFRvIII)の発現に関連付けられている。MAb 806は、過剰発現されると、de2−7 EGFRおよび野生型(wt)EGFRのサブセットを共に認識するが、正常な組織で発現されたwt EGFRに結合しない有意な抗腫瘍活性を持つ新規なEGFR抗体である。A431腫瘍細胞で発現されたwt EGFRのうちの小さな割合(約10%)に結合するのみにもかかわらず、mAb 806はヌードマウスで増殖したA431異種移植片に対して、強い抗腫瘍活性を呈する。そのユニークな特異性および抗腫瘍活性の態様に導くメカニズムを解明するために、本発明者らは、mAb 806のEGFR結合エピトープを決定した。酵母の表面に発現されたEGFR断片、またはイムノブロット様式でのEGFR断片のいずれかへのmAb 806結合の分析から、mAb 806のエピトープを含むようであるジスルフィド結合ループ(アミノ酸287−302)を同定した。実際に、mAb 806は、これらのアミノ酸に対応する合成EGFRペプチドに対して、見かけの高親和性(約30nM)で結合した。EGFR構造の分析から、このジスルフィド結合ループは、EGFRが不活性な連結された立体配座からリガンド結合した活性な立体配座へ変化する場合に起こる、移行形態の受容体の場合にのみ、mAb 806が結合するために利用可能であることを示す。mAb 806は、小さな割合の一時の受容体に結合してその活性化を妨げ、次いで強力な抗腫瘍効果を生じるようである。最後に、発明者らの所見は、増殖因子受容体の移行形態に対する抗体の作製が、正常組織の標的化を低下させ、依然として抗腫瘍活性を保持する、新規な方法を表し得ることを示唆する。
【0208】
(緒言)
上皮増殖因子受容体(EGFR)は、多くの異なる細胞型の増殖および分化を指令することを担う170kDaの膜結合型チロシンキナーゼである(1,2)。EGFRの過剰発現は多くの上皮腫瘍で観察されており、EGFR発現レベルの増大は、通常は、臨床結果の乏しいことと関連付けられている(3−5)。受容体の過剰発現は、しばしば、EGFR遺伝子の増幅によって引き起こされ、この増幅はEGFR突然変異とリンクもされる事象である(6)。最も一般的なEGFR突然変異は、神経膠腫で頻繁に発現される、de2−7 EGFR(またはEGFRvIII)として公知のEGFRの細胞外切断である(6−8)。この切断の結果、EGFRの細胞外ドメインからの267アミノ酸の除去を生じ、そして新規なグリシンの挿入がもたらされ、このことは、de2−7 EGFRのN末端近くでのユニークな接合ペプチドを生じさせる(6−8)。de2−7 EGFRは公知のリガンドのいずれにも結合することができないが、低レベルの構成的活性化を呈しており、ヌードマウスにおいて異種移植片として成長させた場合に神経膠腫および乳房細胞の腫瘍形成性を増強させる(9−11)。
【0209】
EGFRの阻害は、新しい癌治療剤の開発のための合理的な戦略である(12)。潜在的な治療剤は抗EGFR抗体(13)およびEGFRの小分子量チロシンキナーゼ阻害剤(14)を含む。EGFRの細胞外ドメインに向けられた多数の抗体が、今日、EMD55900(15)、ABX−EGF(16)およびC225(セツキシマブ)(17)を含めて臨床試験されており、その全ては患者においていくらかの抗腫瘍活性を呈している。これらの最も臨床上に進んだものはC225であり、これは、頭部および頸部、結直腸および非小細胞肺癌腫の処置に関して、現在第II/III相臨床試験でテストされており、最近、欧州で使用が認可された(18)。これらの抗体の抗腫瘍活性は、主として、リガンド結合をブロックするそれらの能力に関連すると推定されているが、免疫エフェクター機能、受容体ダウンレギュレーション、不適切なシグナル伝達の誘導、ならびに受容体二量体化および/またはオリゴマー化の妨害のような、他の抗腫瘍メカニズムも役割を果たし得る。野生型(wt)EGFRを標的とする抗体の1つの制限は、それらが肝臓および皮膚のような正常な組織において有意な取り込みを示す点である(19,20)。現在、正常なEGFRの標的化は皮膚発疹のような管理可能な副作用を引き起こすようであるが、これらの抗EGFR抗体が細胞傷害剤または放射性同位体と連関する場合、有意な肝臓損傷が予測されるであろう。
【0210】
mAb 806はde2−7 EGFRを発現するマウス線維芽細胞に対して惹起され、wt EGFRを発現する正常組織に結合しない。これは、その抗体を癌療法に対して魅力的な候補とする(21)。ユニークなde2−7 EGFR接合部ペプチドに対して全て特異的である(24−26)他のde2−7 EGFR特異的抗体とは異なり、mAb 806は異なる未知のエピトープを認識する(27)。実際に、mAb 806は、EGFRの変性後のイムノブロッティングによって、またはさらにELISAプレートの表面でのコーティングすることによって、wt EGFRに頑強に結合し得る。mAb 806は大部分のde2−7 EGFRを認識し、一方、この抗体は受容体を過剰発現する細胞においていくらかのwt EGFRにも結合する(27)。Scatchard分析は、mAb 806が、de2−7 EGFR接合部ペプチドに対して特異的な抗体であるmAb DH8.3によって認識されるde2−7 EGFRのうちの約50%に結合することを明らかとした(27)。対照的に、mAb 806は、wt EGFR特異的mAb 528と比較した場合、A431細胞で過剰発現されたwt EGFRのうちの10%未満に結合した。重要なことには、mAb 806はwt EGFRを発現する正常な組織に結合しない。興味深いことに、mAb 806はまた、小胞体内に通常配置するEGFRの高マンノース形態を優先的に認識する。単一剤として用いた場合、mAb 806は、de2−7または増幅されたEGFRいずれかを発現するヒト異種移植片に対して有意な抗腫瘍活性を示した。mAb 806結合エピトープの測定はその作用メカニズムを理解するのに、ならびに腫瘍特異的抗体を開発するための一般的戦略を提供するために重要であろう。2つの独立したアプローチを用い、本発明者らは、今回、mAb 806によって認識されるエピトープを同定する。最近記載されたEGFRについての結晶構造を利用し、本発明者らは、mAb 806のユニークな特異性、およびどのようにしてそれがその抗腫瘍活性を媒介するかを説明することもできた。
【0211】
(実験手順)
(抗体)
EGFRに対して特異的なIgG2bモノクローナル抗体806およびIgG2a mAb528を以前に記載されているように(27,28)Biological Production Facility(Ludwig Institute for Cancer Research,Melbourne)で生産し、精製した。
【0212】
(発現ベクター)
発現ベクターpEE14/sEGFR501およびpEE14/sEGFR513は従前に記載されており(29)、EGFRエクトドメインの、それぞれ、シグナルペプチド、ならびに最初の501アミノ酸および513アミノ酸、続いてc−mycエピトープタグをコードし、全てヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーターの制御下で転写される。発現ベクターpEE14/sEGFR310−501は、エクトドメインのアミノ酸残基310−501とインフレームで融合したEGFRのシグナルペプチドをコードし、エピトープタグで終結するcDNAを、含有する。
【0213】
残基274、残基282、残基290および残基298で開始し、全てアミノ酸501において終結する、一連の重複するEGFR c−mycタグ付きドエクトドメイン断片をPCRによって作製した。配列決定に続き、その断片を、哺乳動物発現ベクターpSGHVOから発現されるヒト成長ホルモン(GH)遺伝子の3’末端にインフレームでクローニングした(30)。残基278−286および残基285−293にわたる二本鎖オリゴヌクレオチドを、GHおよびc−mycタグの間にて同一ベクターにインフレームでクローニングした。
【0214】
(トランスフェクション)
ヒト293T胚性腎臓線維芽細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%胎児ウシ血清(FCS)中に維持した。トランスフェクションの前日、細胞を、2mLの培地を入れた6−ウェル組織培養プレート中にウェル当たり8×10
5にて播種した。
製造業者の指示に従い、細胞に、リポフェクタミン2000(Invitrogen)と複合体化させた3−4μgのプラスミドDNAをトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間−48時間後、細胞培養を吸引し、細胞単層を250μlの溶解緩衝液(1% TritonX−100、10%グリセロール、150mM NaCl、50mM HEPES pH7.4、1mM EGTAおよび完全プロテアーゼ阻害剤ミックス(Roche))に溶解させた。
【0215】
CR1−ループ(二量体化アーム)欠失は、アミノ酸244−259を除去し、それらを記載されるように単一のアラニン残基で置き換えることによって作製した。293T細胞にこの構築物をトランスフェクトし、ゲネティシンの存在下で安定なトランスフェクタントを選択した。
【0216】
(ウェスタンブロッティング)
細胞溶解物(10−15μL)のアリコートを、1.5%β−メルカプトエタノールを含有するSDS試料緩衝液と混合し、100℃にて5分間加熱することによって変性し、10%NuPAGE ビス−トリスポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)で電気泳動した。次いで、試料をニトロセルロース膜に電気移動させ、これをTBST緩衝液(10mMトリス−HCl、pH8.0、100mM NaClおよび0.1%Tween−20)中で濯ぎ、2.5%スキムミルクを含有するTBST中で室温にて30分間ブロックした。膜をブロッキング緩衝液中の0.5μg/mLのmAb 806と共に4℃にて一晩インキュベートした。平行膜をmAb 9B11(1:5000,Cell Signalling Technology)で一晩プローブして、c−mycエピトープを検出した。フィルターをTBST中で洗浄し、1:5000希釈のホースラディッシュペルオキシダーゼ結合体化ウサギ抗マウス免疫グロブリン(Biorad)を含有するブロッキング緩衝液中で室温にて2時間インキュベートした。次いで、ブロットをTBST中で洗浄し、Western Pico Chemilumicent Substrate(Pierce)とのインキュベーションに続いてオートラジオグラフィーフィルムを用いて現像した。ペプチド競合実験では、100倍モル過剰の競合ペプチドの存在下で、ブロットをMab 806で室温にて1時間プローブした。化学発光の検出に続いて、ブロットを9B11で再度プローブした。
【0217】
(EGFR断片の酵母表面ディスプレイ)
EGFR断片をコードする適当な遺伝子を含有するように修飾されたpCT酵母ディスプレイプラスミドを、Bio−Rad(Richmond,CA)Gene Pulser Transfection Apparatusを用いるエレクトロポレーション(33)によって酵母株EBY100(32)に形質転換した。プラスミドは、DNAをそれらのゲノムに組み込んだ酵母につき選択するのに用いることができるtrp
+マーカーを含有する。酵母細胞表面でのEGFRタンパク質の発現は、従前に記載されているように行った(BoderおよびWittrup,2000)。簡単に述べれば、形質転換されたコロニーを、酵母窒素塩基、カザミノ酸、デキストロース、およびリン酸化緩衝液pH7.4を含有する最小培地中で、5〜6のOD
600に到達するまで、ほぼ1日間の振盪プラットフォームにて30℃で増殖させた。次いで、ガラクトースを含有する最小培地へ移すことによって、酵母細胞をタンパク質ディスプレイにつき誘導し、振盪しつつ、30℃にて24時間インキュベートした。次いで、分析まで培養を4℃にて保存した。
【0218】
(酵母細胞表面での抗体標識実験)
c−mycモノクローナル抗体9E10を含有する生腹水液はCovance(Richmond,CA)から入手した。1×10
6個の酵母細胞をFACS緩衝液(1mg/ml BSAを含有するPBS)で洗浄し、抗c−myc腹水液(1:50希釈)、または50μlの最終容量中のヒトEGFRモノクローナル抗体(10μg/mL)と共に4℃にて1時間インキュベートした。次いで、細胞を氷冷FACS緩衝液で洗浄し、光から保護された、50μlの最終容量中にてフィコエリスリン標識抗マウスIgG(1:25希釈)と共に4℃にて1時間インキュベートした。酵母細胞を氷冷FACS緩衝液で洗浄した後、Coulter Epics XLフローサイトメーター(Beckman−Coulter)で蛍光データを得、WinMDIサイトメトリーソフトウェア(J. Trotter,Scripps University)で分析した。直線状エピトープ 対 立体配座エピトープの測定では、酵母細胞を80℃にて30分間加熱し、次いで、20分間氷上で冷却し、その後抗体での標識した。
【0219】
(EGFR由来ペプチド)
推定mAb 806エピトープを含有するペプチド(
287CGADSYEMEEDGVRKC
302(配列番号:1)、
287CGADSYEMEEDGVRK
301(配列番号:2)および
287CGADSYEMEEDG
298(配列番号:15))を、標準F
moc化学を用いて合成し、マススペクトル分析によって確認した。アルカリ性条件での希薄ペプチド溶液の一晩の空気酸化によって環化ペプチドを調製した。線状(還元された)ペプチドは、合成ペプチドを10mM塩酸に溶解させることによって調製した。287〜302ペプチドの試料を嫌気性下で70%ギ酸中の臭化シアンと反応させて、N末端ペプチドおよびC末端ペプチドに対応する断片を生じさせた。0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)の存在下で、アセトニトリルグラジエントを用い、ペプチドをC18 VydacカラムでのHPLCによって分離した。ペプチドの確実性は、引き続いて、マススペクトロメトリーおよびN末端配列決定によって特徴付けた。このペプチドを0.5M炭酸水素ナトリウムpH8.6と反応させ、続いて、ヨードアセトアミドを添加することによって、S−カルボキシメチル化ペプチド(SCM−ペプチド)の試料を生じさせた。SCM−ペプチドを、引き続いて、前記したように、RP−HPLCによって精製した。
【0220】
(ELISAアッセイ)
白色ポリスチレン96−ウェルプレート(Greiner Lumitrac 600)のウェルを、10mMクエン酸ナトリウム(pH5.9)中、ヒトFc定常領域と融合した変異型sEGFR501である、501−Fc(T.Adams,未発表結果)の2μg/mlでコーティングし、次いで、TBS中の0.5%ニワトリオボアルブミンでブロックした。TBSTでの洗浄の後、0.5μg/mLのmAb806および種々の濃度のペプチド溶液(100μl/ウェル)をウェルに加えた。プレートに結合したmAb806を、ヤギ抗マウス免疫グロブリン−HRP(BioRad)およびWestern Pico Chemilumicent Substrate (Pierce)を用いて検出し、Wallac Victor 1420カウンター(Perkin Elmer)を用いて定量した。いくつかのアッセイにおいては、1−501 EGFRで96ウェルプレートをコーティングし、これを用いて、mAb 806の結合を従前に記載されているように分析した(Johnsら、Intl.J.Cancer 98:398−408,2002)。
【0221】
(表面プラズモン共鳴(BIAcore))
BIAcore3000を全ての実験で用いた。mAb806の推定エピトープを含有するペプチドを、5μl/分の流速にて、アミンカップリングまたはチオール−ジスルフィド交換カップリングを用いて、CM5センサーチップに固定化した(34)。この806抗体を25℃にて5μl/分の流速でセンサー表面上を通過させた。実行の間、10μl/分の流速で10mM HClを注入することによって、そのセンサー表面を調製した。
【0222】
(フローサイトメトリー分析)
異なるEGFR構築物を発現する培養した293細胞を、mAb528およびmAb806を用いてEGFR発現について分析した。1%HSAを含有するPBS中、1×10
6細胞を5μg/mlの一次抗体と共に4℃にて30分間インキュベートした。PBS/1%HSAで洗浄した後、FITC−結合化ヤギ抗マウス抗体と共に、細胞をさらに4℃にて30分間インキュベートした(1:100希釈;Calbiochem,San Diego,CA)。次いで、最小5,000事象を観察することによって、Epics Elite ESP(Beckman Coulter、Hialeah、FL)で細胞を観察し、Windows(登録商標)用のEXPO(バージョン2)を用いて分析した。
【0223】
(結果)
(EGFR断片のイムノブロッティングによるmAb 806エピトープの同定)
mAb 806エピトープの広範な位置を決定するために、1−513のc−mycタグ付きEGFR断片および310−501のc−mycタグ付きEGFR断片をSDS−PAGEによって分離し、そしてmAb 806を用いてイムノブロットした。mAb 806は1−513断片と強い反応性を示したが、この抗体はEGFRの310−501セグメントには全く結合しなかった(
図1、左側パネル)。310−501断片は膜上に存在した。というのは、この断片は、c−mycタグに対して特異的なmAb 9B11を用いて検出できたからである(
図1、右側パネル)。他の実験において、本発明者らは、mAb 806もまたウェスタンブロットにおいてsEGFR501断片に結合することを確立した(データは示さず)。mAb 806は、アミノ酸6−273が欠失されたde2−7 EGFR(27)に結合すると仮定し、本発明者らは、mAb 806エピトープが残基274−310または残基510−513内に含まれるはずであると結論した。mAb 806のエピトープを表わすため、本発明者らは、全てアミノ酸501で終結する、一連のc−mycタグ付きEGFR断片を発現させた。mAb 806は274−501EGFR断片および282−501のEGFR断片の両方と反応したが、アミノ酸290またはアミノ酸298において開始するセグメントには結合しなかった(
図1、左側パネル)。全てのEGFR構築物の存在を、c−myc抗体を用いて確認した(
図1、右側パネル)。従って、mAb 806エピトープはアミノ酸282−310内に含まれるはずである。さらに、エピトープはアミノ酸290を超えて延びることができるだろうが、282−290の領域は、この特定のイムノブロッティングアッセイにおいてmAb 806反応性に対して決定的なアミノ酸残基のいくつかを含有するはずである。
【0224】
(酵母表面上でEGFR断片の提示によるmAb 806エピトープの同定)
本発明者らは、第二の独立したアプローチを用いて、mAb 806エピトープを決定した。EGFRの異なるドメインを含む断片を酵母の表面で発現させ、FACSによってmAb 806結合についてテストした。mAb 806は酵母の表面で発現された1−621および1−501断片を共に認識した(
図2A)。mAb 806は、de2−7 EGFRの細胞外ドメインに対応する273−621 EGFR断片にも結合した(
図2A)。対照的に、mAb 806は294−543EGFR断片または475−621EGFR断片を認識することができ(
図2A)、これは、mAb 806エピトープの少なくともいくつかがアミノ酸274−294の間の領域内に含まれるはずであることを明瞭に示す(比較;上記で同定したアミノ酸282−290)。これらの2つの全く異なるアプローチがmAb 806結合に対して重要である同一の領域を同定すると、本発明者らは、EGFRのこのセクションがmAb 806エピトープのエネルギー的に重要な部分を含有するはずであると確信した。興味深いことには、1−501エピトープの80℃における熱変性はmAb 806結合に対して効果を有さず、このことは、該エピトープが立体配座的というよりはむしろ直線状であることを示唆する(
図2B)。この結果は、一旦受容体がSDS−PAGEによって変性されるとmAb 806が「pan」EGFR抗体となることを示す本発明者らのデータと完全に一致する(27)。
【0225】
(推定エピトープを含有するEGFRペプチドへのmAb 806の結合)
mAb 806推定エピトープを含む可能性のあるシステインループに対応するペプチド(
287CGADSYEMEEDGVRKC
302)を合成した。このペプチドは、イムノブロットにおいて、1−501 EGFR断片および274−501 EGFR断片へのmAb 806の結合を阻害できた(
図3A、上側パネル)。イムノブロットの双方の部分でのEGFR断片の存在は、ストリッピング、および抗mycでの再プロービングによって確認した(
図3A、下側パネル)。溶液中の287−302 EGFRペプチドもまた、ELISAフォーマットを用いて、固定された1−501断片へのmAb 806の結合を阻害することができた(
図3B)。興味深いことには、より短いペプチド(アミノ酸287−298)は、テストした濃度においてはmAb 806の結合を阻害しなかった(
図3B)。従って、mAb 806エピトープは、EGFRにおいてジスルフィドにより拘束されるループを形成する残基287−302の中に含まれるようである。
【0226】
また、本発明者らは、287−302 EGFRペプチドが、ヒトIgG1のFc領域と融合した1−501 EGFR断片の二量体バージョンである固定された501−FcへのmAb 806の結合を阻害する能力をテストした。酸化され、還元されおよびエージングされた(すなわち、中程度に凝集された)ペプチドは、全て、用量依存的にmAb 806が501−Fcに結合するのを阻害した(
図4A)。還元されたシステイン残基およびS−カルボキシメチル化されたシステイン残基を含有するペプチドは、mAb 806の結合を阻害できず、これは、1または双方のシステイン残基がmAb 806エピトープに寄与することを示す(
図4B)。臭化シアン切断によって生じたN末端(CGADSYEM)(配列番号:16)ペプチド断片またはC末端(EEGVRKC)(配列番号:17)ペプチド断片は、mAb 806結合を阻害できず(
図4B)、このことは、このエピトープが内側メチオニン残基にまたがることを示唆する。このデータは、mAb 806エピトープがEGFR由来ペプチド287−302内に含まれるというさらなる確信を提供した。
【0227】
287−302 EGFRペプチドを、末端システイン残基におけるチオール−ジスルフィド交換カップリングによってCM5センサーチップにカップリングさせ、表面プラズモン共鳴(BIAcore)によってmAb 806結合を分析した。mAb 806は、30nMの見掛けの親和性(
図5A)でもって用量依存的に(
図5A)固定化されたペプチドに結合し、これは、生きた細胞でのScatchard分析を用いて得られた親和性と合致する(27)。ブランクチャネル、システイン−ブロックドチャネルまたは無関係なペプチドに対するMab 806の結合は、全て、287−302 EGFRペプチドへの結合の1%未満であった(データは示さず)。このペプチドに対するmAb 806の親和性はde2−7 EGFRに対して示された親和性と同様であるため、このペプチドは、エピトープに寄与する主な決定基を全て含有するようである。このペプチドはチオール−カップリングを用いて固定化され、これにより分子内ジスルフィド結合を形成することができないため、この観察は、さらに、上記ループがmAb 806結合のために環化される必要のないことを示す。また、本発明者らは、アミンカップリングを介して287−302 EGFRペプチドを固定化し、mAb 806が依然として結合したことを示した(
図5B)。
【0228】
次いで、本発明者らは、溶液中のいくつかのEGFRペプチドが、固定化された287−302 EGFRペプチドへのmAb 806の結合をブロックする能力をテストした。予測されるように、可溶性287−302 EGFRペプチドは用量依存的にmAb 806結合を阻害した(
図5B、上側パネル)。本発明者らのELISAデータ(
図3B)と合致して、287−298 EGFRペプチドは、大過剰で用いた場合でさえ、mAb 806の結合を妨げることができなかった(
図5B、中央パネル)。C302(すなわち、アミノ酸287−301)を単純に欠失するさらなるペプチドは、用量依存的にmAb 806結合を弱くにしか阻害できなかった(
図5B、下側パネル)。これらの観察は、アミノ酸残基C302が高親和性のmAb 806結合に対して必要であることを確認する。
【0229】
(mAb 806エピトープの構造分析およびEGFR活性化に対するその関係)
いくつかの最近の結晶学的研究は、EGFR細胞外ドメインの構造を記載している。従って、本発明者らは、その構造位置についてmAb 806エピトープを分析して、このことがそのエピトープのユニークな特異性を説明するのを助けることができるかどうかを判断した。mAb 806エピトープを含有するシステインループ(
図6A)は、システインリッチなCR1ドメインのC末端部分に位置する(
図6B、マゼンタ)。興味深いことには、EGFRのこの領域は、構造中で特徴付けに最も乏しい領域の1つであり、相当な度合いの柔軟性を示唆する。287−302 EGFRループのかなりの部分がEGFR内に埋もれているが、2つの領域はより露出され、抗体によって潜在的に接近可能である。これらの第一のものはD290を中心とし(
図6C、左側面図においてマゼンタで強調)、これらの第二のものはD297に焦点を当て、これは、当該分子が180°回転した場合に観察できる(
図6C、右側面図においてはマジェンタで強調)。
【0230】
図6Cに描かれたEGFRの連結された(tethered)形態は、レセプターの不活性な立体配座である。この状態において、EGFR CR2ドメインは、二量体化アーム(CR1ドメイン内に含まれる小さなループ)が、他のEGFR分子の二量体化アームと相互作用するのを妨げるように、CR1ドメインと相互作用する。EGFRの非連結(untethering)は受容体の延びた形態へと導き、そこでは、二量体化アームが暴露され(
図6D、左側パネル)、受容体の二量体化が起こるのを可能とする(
図6B)。本発明者らの現在の理解は、細胞表面での平衡状態の場合、EGFRの95%が連結された立体配座にあることを示唆する(37)。残りのEGFRは活性なダイマーまたは延びた連結されない立体配座である。リガンドの添加は、この受容体のより多くをダイマー形態に駆動するであろう(
図6B)。
【0231】
可能性のあるmAb 806結合部位に関して、受容体の連結された形態においてのみ接近可能な残基は、D297を中心とするものである。しかしながら、受容体を過剰発現する細胞株において、mAb 806がEGFRの5〜10%にのみ結合するとすれば、mAb 806は、細胞表面のEGFRの95%を形成するEGFRの連結された形態に結合する可能性が非常に少ない。
図6に掲げた構造情報に基づき、EGFRの二量体化は、mAb 806エピトープ内のいずれのアミノ酸残基もさらに暴露することなく、従って、mAb 806結合に対する標的にはならない。抗体のサイズを仮定すれば、D290を中心とする露出されたアミノ酸のいずれも、連結された立体配座にもダイマー立体配座にもいずれにおいても、mAb 806に対して接近可能ではない。EGFRは連結された立体配座から活性なダイマー状態に移動する場合、そのEGFRは移行の延びた状態を経過しなければならない。EGFRのこの移行形態(
図6D)はモノマーであるか、あるいは恐らくは不活性なダイマーであり得、細胞表面では比較的稀であり、mAb m806結合のレベルと合致する。重要なことには、受容体のこの移行形態においては、D290の周りの残基ならびに多数の通常は埋もれたアミノ酸(例えば、Y292およびM294)は抗体の結合に対して接近可能であろう。空間的に考慮すると、D290近くの領域へのmAb 806の結合は、システインループの外側のアミノ酸との相互作用を必要とすることが強く示され、mAb 806エピトープ全体がシステインループ内に含まれることを示唆する本発明者らの親和性のデータと恐らくは合致しない。本発明者らが結合領域としてD290を除外する場合、エピトープはD297を含むようにさらに拡大できるが、mAb 806はY292/M294の周りの領域と相互作用しなければならない。一緒に併わせると、唯一の合致する結論は、EGFRが二量体化を受ける前に、mAb 806はEGFRの延びた形態においてのみ露出されるアミノ酸に結合することである。
【0232】
(構成的に連結されていない形態のEGFRへのmAb 806の結合)
mAb 806が非二量体化/連結されていないEGFRに優先的に結合するのを確認するために、本発明者らは、293細胞においてCR1二量体化アームを欠失する(deCR1−ループ)EGFRの突然変異を安定に発現させた(31)。この領域は、活性なEGFRダイマーを形成するにおけるその役割のため、およびCR1二量体化アームが連結に関連するCR1:CR2相互作用に総体的に関与するので、選択された。従って、deCR1は、de2−7 EGFRのように、構成的に連結されていない状態であるべきである。親293細胞は、FACSによるmAb 528の結合によって明らかなように、低レベルの野生型EGFR(ほぼ1×104EGFR/細胞)を発現する(
図7)。予測されるように、mAb 806はこれらの細胞で発現された内因性EGFRに結合しない。de2−7 EGFRは、deCR1−ループのように、連結できなかったはずであり、かつ二量体化を減少したはずである。293細胞のde2−7 EGFRでのトランスフェクションは、他の細胞株において従前に示されたように、mAb 806の強力な結合を導いた(
図7)。高度に立体配座依存性のmAb 528がdeCR1−ループEGFRに結合することにより、その立体配座への全体の変化がないことを確認する(
図7)。実際に、本発明者らは、deCR1−ループEGFRがリガンドに結合できることを先に示しており、これは、さらに、その全体的構造が無傷なままであるという考えを支持する(31)。2つの独立したdeCR1−ループEGFRを発現するクローンのフローサイトメトリー分析は、mAb 806の結合を明瞭に示した(
図7)。従って、本発明者らの仮説と合致して、mAb 806は、EGFRが活性なダイマーを形成する前に、移行の連結されていないEGFRに結合するようである。mAb 806はまた、連結に対して能力を下げられたEGFR点突然変異体への結合の増大を示す(以下の実施例2参照)。
【0233】
(考察)
de2−7 EGFRを発現するマウス線維芽細胞を用いた免疫化に続いて、mAb 806を作製し、そしてde2−7 EGFRに対する高い反応性、および野生型EGFRに対する無視できる活性について、混合したヘム吸着アッセイによって選択した(21)。さらなる特徴付けにより、mAb 806は、野生型EGFRが過剰発現された場合、特に、EGFR遺伝子が増幅されたが、正常な組織はそうでなかった場合の細胞株および神経膠腫検体を認識できたことが、すぐに明らかとされた(21)。最近、本発明者らは、mAb 806が、小胞体内に位置するde2−7 EGFRおよび野生型EGFR双方の高マンノース形態に優先的に結合することを示した。さらに、本発明者らは、高マンノース型wt EGFRのいくつかが、細胞が受容体を過剰発現する場合に、細胞表面に誤って向けられることを示した。しかしながら、この仕事は、mAb 806エピトープを同定せず、またmAb 806によって媒介される強力な抗腫瘍活性を適切に説明もしなかった。2つの独立した方法を用い、本発明者らは、mAb 806 エピトープを含有するシステインループ(アミノ酸287−302)を同定した。残基287−302を含む合成ペプチドに対するmAb 806の親和性は、本発明者らが、de2−7 EGFR発現細胞株を用いたScatchard分析によって従前に測定した親和性と同様であるので(27)、本発明者らは、それが完全なエピトープ配列を含むと確信する。明らかに、該ペプチドは、抗体結合のためのジスルフィド結合したループ内で限定される必要はない。というのは、mAb 806は溶液中の還元されたペプチド、チオール不動化ペプチドを認識し、そしてC302が欠失した可溶性ペプチドに弱く結合したためである。
【0234】
免疫沈澱およびScatchard分析は共に、mAb 806が、EGFR遺伝子の増幅のため受容体を過剰発現する細胞株である、A431細胞(27)の表面に発現された野生型EGFRの5−10%の間を認識することを示した。低い割合の受容体に結合するにもかかわらず、mAb 806はヌードマウスで増殖させたA431異種移植片に対して強力な抗腫瘍活性を呈する(22,23)。mAb 806は非連結の(untether)EGFRに優先的に結合するという本発明者らの観察が、この抗腫瘍活性についての可能性あるメカニズムを示唆する。EGFR分子が連結されていない状態となる場合、このEGFR分子は不活性な連結された状態と活性なダイマーとの間の移行状態に入る(37)。mAb 806によって結合されるのは、EGFRのこの移行の非連結の形態である。次いで、mAb 806の結合は、シグナル伝達可能なEGFRダイマーの形成を妨げる(
図8)。従って、所定のいずれの場合であっても、mAb 806はEGFRの小さなパーセンテージに結合するに過ぎないが、延長された時間にわたって、それは、EGFRシグナル伝達の実質的な割合を阻害し得、これは次いでインビボで抗腫瘍効果を生じる。mAb 806が結合したEGFRの運命は未知であるが、本発明者らは、従前に、mAb 806/de2−7 EGFR複合体が内部に移行されることを示している(27)。あるいは、EGFRに特異的な低分子量チロシンキナーゼ阻害剤を用いた細胞の処理に続く場合、mAb 806/EGFRは不活性な形態で表面上に捕獲されたままであろう(28,38)。野生型EGFRとは対照的に、mAb 806は、DH8.3(突然変異体受容体に対して特異的な抗体)と比較した場合、細胞表面に発現されるde2−7 EGFR分子のほぼ半分を認識する(27)。de2−7 EGFRに対する、mAb 806の増大した反応性は、この突然変異体受容体がCR1二量体化ループを欠き、従って、連結された立体配座を取ることができないという事実と合致する。
【0235】
mAb 806が正常であるが比較的低量のEGFRの移行の立体配座を認識するならば、なぜ、それは「平均」レベルのEGFRを発現する正常組織または細胞株に結合しないのであろうか。この観察は、ヨウ素化mAb 806が1×107細胞を含有するU87MG神経膠腫(1×105EGFR/細胞)の細胞ペレットに結合しないことを本発明者らが示した以前の研究(これは、より小さなA431細胞ペレットに基づいて、低レベルの結合を測定するのに十分に感受性であった)におけるように、検出の感度には関係しないようである。本発明者らは、グリコシル化がmAb 806の反応性に影響すること、およびmAb 806が、小胞体内に通常は存在するEGFRの高マンノース形態を優先的に認識することを、決定した。さらに、EGFRを過剰発現する細胞においては、この高マンノース型受容体のいくらかは細胞膜に誤って向けられる。
【0236】
mAb 806エピトープの配列相同性はErbB3/B4においては比較的低いにもかかわらず、システインループのサイズおよび位置は保存されている。さらに、完全に保存された2つのアミノ酸残基(E293およびG298)があり、電荷が保存されるさらに2つのアミノ酸(E295およびR300)がある。最後に、ErbB3(および恐らくはErbB4)の全体的構造は、連結された立体配座をとる点でEGFRの全体構造と非常に似ており、この連結された構造は、恐らくは活性化の間に連結解除される(41)。併わせると、このことは、ErbB3/B4における同等なシステインループに標的化された抗体が、mAb 806と同様な特性(すなわち、腫瘍に限定される特異性および受容体活性化をブロックする能力)を有することを示唆する。より広義には、本発明者らのデータは、増殖因子受容体の移行形態に対する抗体の作製は、正常な組織の標的化を低下させるが依然として抗シグナル伝達活性を保有する、新規な方法を表す。従って、活性な(リガンドが結合した)受容体の構造と、それらの不活性な対照物の構造との間の比較は、受容体の立体配座の変化の間に、一時的に露出されるアミノ酸を同定するはずである。最後に、mAb 806は、EGFRの構成的に活性な突然変異を発現する細胞を用いて免疫し、そしてこの突然変異した受容体に対して特異的な抗体について選択することによって、作製された。従って、構成的に活性な受容体を用いた免疫化は、受容体の移行形態を認識する抗体を同定する可能性を増大させる、一般化されたストラテジーを提供し得る。
【0237】
(参考文献)
【表3】
【0238】
【表4】
【0239】
【表5】
【0240】
【表6】
【0241】
(実施例2)
(細胞表面の上皮増殖因子受容体の機能におけるCR1/CR2ドメイン相互作用の分析)
上皮増殖因子受容体(EGFR)の単離された細胞外ドメインについての最近の結晶学的データは、リガンドによるその活性化についてのモデルを提案した。本発明者らは、受容体活性化の調節に決定的であると考えられている細胞外ドメインの2つの領域(CR1およびCR2)へ突然変異を導入することによって、細胞表面に提示される全長EGFRに関して、このモデルをテストした。CR1およびCR2ドメインにおける突然変異は、リガンド結合親和性、受容体二量体化、チロシンキナーゼ活性化およびシグナル伝達能力に対して拮抗作用を有する。Tyr
246はCR1ループにおける決定的な残基であり、これは、リガンド結合後における受容体ダイマー接合面の位置決定および安定化に関係し:Tyr
246の突然変異は受容体の機能を損なうか、または廃止する。連結された状態に受容体を制限する相互作用を弱めるCR2における突然変異は、リガンドに対する親和性を増大させることによって、EGFに対する応答性を増強させる。しかしながら、CR1/CR2相互作用の弱めた結果、受容体のキナーゼの自然発生的な活性化を生じない。本発明者らは、負に抑制された連結された状態と、十分に活性な背中合わせの(back−to−back)ダイマー立体配座との間のEGF受容体の移行状態を認識する、抗体(mAb806)を用いて、リガンド結合後の野生型EGF受容体および突然変異EGF受容体における立体配座変化を追跡する。本発明者らの結果は、細胞表面上のEGFRは連結解除され得るが、この形態は不活性であることを示唆し;従って、受容体の連結解除は活性化のためには十分ではなく、そしてリガンド結合は、キナーゼ活性化を達成するための2つのサブユニットの正しい位置決定のために必須である。
【0242】
(緒言)
過去20年以上にわたり、EGF受容体は、受容体関連細胞内チロシンキナーゼのリガンド活性化を研究するための重要な機会を提供してきた(1−3)。最近、いくつかのEGF受容体ファミリーメンバー(EGFR、ErbB−2およびErbB−3)についての細胞外ドメイン(ECD)の三次元構造が報告されている(4−9)。これらの構造は、EGF受容体ECDについての2つの有意に異なる立体配座を明らかとした(4;5;9)。TGF−αと複合体化したEGFRの可溶性切断型ECDの結晶構造(4)またはEGFと複合体化したEGFRの可溶性切断型ECDの結晶構造(5)において、リガンドはL1ドメインとL2ドメイン(リガンド結合ドメイン)との間でサンドイッチとなっており、ECDは、2つのインターロックされたCR1(システインリッチ)ドメインを主に介して、背中合わせのダイマーを形成し;対照的に、EGFとの複合体における自動阻害型EGFRの結晶構造においては、リガンドはL1ドメインに結合しているに過ぎず、ダイマーは存在せず、そしてモノマー受容体の主な分子内相互作用はCR1ループおよびCR2ドメインの間で起こる(9)。この構造においては、L1とL2との間の距離が1分子のEGFへの同時結合を可能とするには大き過ぎるのみならず、またL2がL1に結合したEGFから離れて回転されてもいる。従って、2つの決定的特徴は、非連結の形態(ダイマーの不存在、および高親和性でリガンドに結合する能力無し)のEGF受容体のECDから、自動阻害された(連結された)形態を区別する。興味深いことには、切断されたErbB−2 ECDの立体配座(8)および全長ErbB−2 ECDの立体配座(7)は、背中合わせのEGFRダイマーと似ており(4)、他方、リガンドの不存在におけるErbB−3 ECD(6)は、連結されたEGFR−ECD(9)と同様の立体配座を有する。
【0243】
全長細胞EGFRについての業績は、EGFR二量体化、高親和性結合および受容体キナーゼ活性化の間で強力な連携を確立しており;他方、単離されたECDの結晶構造は、キナーゼおよびEGFRの膜貫通ドメインもまた二量体化に寄与する細胞環境における、これらの観察の理解のための改善されたフレームワークを提供する(すなわち、リガンドはより高い親和性で受容体の「非連結の」形態に結合し、これによって、モノマーの自動阻害された受容体から離れるように平衡をシフトさせて、活性なダイマーの形成(9)を支持する)。事実、細胞表面ダイマー(またはオリゴマー)はリガンドの不在下で検出され得るが、連結されていないダイマーはチロシンキナーゼ活性を有しない(10−16)。従って、全長の細胞表面EGF受容体において、リガンドの結合は二量体化を駆動するためのみならず、キナーゼ活性立体配座の形成のために必要である。
【0244】
断片またはさらに全長EGF受容体のECDの構造およびリガンド結合特性は、細胞表面に提示された受容体からのシグナル伝達の複雑性を解決できない。この報告において、リガンド結合、受容体立体配座変化、受容体オリゴマー化およびキナーゼ活性の調節を決定するプロセスにおける、CR1−CR2相互作用の本発明者らの理解を向上させるために、本発明者らは、無処置の哺乳動物(Baf/3)細胞において、全長EGF受容体突然変異体を発現した(17;18)。BaF/3細胞は内因性EGF受容体も、検出可能なレベルのリガンド(これは、組換え(突然変異体)受容体を混乱させ得、そして/または活性化し得る)も発現しない。CR1ループ突然変異体およびCR2 EGFR突然変異体のアベイラビリティー、ならびに立体配座特異的な抗体mAb528(19)およびmAb806(20−23)のアベイラビリティーにより、本発明者らが、連結の決定基をプローブするのを可能にし、そしてリガンドが受容体に結合する場合の主要な立体配座の移行を検出することを可能にした。
【0245】
(実験手法)
(試薬)
EGFRに対する抗体であるmAb528(19)およびmAb806(20;21)を、MelbourneのLudwig Institute for Cancer ResearchのGMP施設において生産し、精製した。抗flag抗体M2をSigma−Aldrichから購入し、抗ホスホチロシン(クローン4G10)および抗EGFR(ヒツジポリクローナル)は、Upstate(Lake Placid,NY)から購入し;抗ホスホp44/p42 MAPK抗体および抗MAPK抗体をCell Signaling(Beverly,MA)から購入した。HRP結合化ウサギ抗マウスIgおよびHRP結合化ウサギ抗ヒツジIgを、各々、BioRad(Hercules,CA)およびDako(Fort Collins,CO)から得た。Alexa 488標識化抗マウス免疫グロブリンを、Molecular Probes,Eugene,ORから購入した。フェニルアルシンオキシド(PAO)をSigma−Aldrichから購入した。水溶性ホモ二官能性架橋剤BS
3(スペーサーアーム長:11.4Å)およびSulpho−EGS(スペーサーアーム長:16.1Å)をPierce(Rockford,IL)から得た。
【0246】
(EGFR突然変異構築物の作製)
野生型EGFRの単一点突然変異を、部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene,La Jolla,CA)を用いて作製した。各突然変異誘発のための鋳型は、記載されているように(4)、哺乳動物発現ベクターpcDNA3(Invitrogen,Carlsbad,CA)中に、リーダー配列、続いて、FLAGタグコード配列を含有するヒトEGFR cDNA(24)であった。各構築物の自動ヌクレオチド配列決定を行って、各EGF受容体突然変異の完全性を確認した。EGFR発現構築物を293細胞(American Type Culture Collection,Manassas,VA)で一過性に発現させ、528抗体およびM2抗体で染色することによって、受容体タンパク質の存在を測定し、細胞表面における発現を確認し、タンパク質のフォールディングが適切に起こったことを確認した(データは示さず)。
【0247】
(EGFR構築物のトランスフェクションおよび安定な細胞株の作製)
従前に記載されているように(25)、野生型EGFR構築物および突然変異体EGFR構築物をIL−3依存性のネズミ造血細胞株BaF/3にトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞をG418において10日間選択した。flagタグに対する抗体(M2;PBS/5%FCS/5mM EDTA中10μg/ml)、および/またはEGFR細胞外ドメインに対する抗体(mAb528:PBS/5%FCS/5mM EDTA中10μg/ml)、続いてAlexa488標識化抗マウスIg(1:400最終希釈)を用いた、FACStar(Beckton and Dickinson,Franklin Lakes,NJ)でのFACS分析によって、生細胞をEGFR発現についてスクリーニングした。バックグラウンド蛍光を、細胞を無関係でクラスのマッチした一次抗体と共にインキュベートすることによって測定した。陽性プールを、FACS−DIVA(Becton and Dickinson)にて、適切なレベルのEGFR発現に対して区分した。最終的な選択の後、mRNAを各細胞株から単離し、そしてEGFRにおける全ての突然変異をPCR分析によって確認した。全ての細胞を、ルーチン的に、RPMI/10%FCS/10%WEHI3B馴化培地(26)および1.5mg/mlのG418において、継代した。
【0248】
(リガンド結合)
マウス下顎腺(27)から精製されたネズミEGFを、Iodogen(28)を用いて5〜8×10
5cpm/ピコモルの特定の放射能(activity)までヨウ素化した。コールドの飽和実験によって、内部移行阻害剤のフェニルアルシンオキサイド(PAO)(29)の存在下で、野生型EGFRまたは突然変異体EGFRを発現する細胞に結合するリガンドを室温で測定した。簡単に述べると、漸増量の未標識EGF(20pM〜5.12nM)の有りまたは無しにて、一定量(300pM)の
125I EGFと共に、PBS/1%BSA/30μM PAO中で、細胞をインキュベートした。
125I−EGFよりも500倍過剰の未標識EGFを用い、非特異的結合を測定した。全ての実験点は三連で調製した。インキュベーションの最後に、細胞をペレット化し、氷冷PBS中で2回洗浄し、その後、Wallac WIZARDγ−カウンター(Perkin Elmer,Boston,MA)での計数のために新鮮なチューブに移した。リガンド結合親和性および受容体の数についてのScatchardプロットおよび見積もりは、Radligプログラム(BioSoft,Cambride,UK)を用いて得られた。
【0249】
(受容体の架橋、チロシンリン酸化、MAPK活性化)
野生型EGFRまたは突然変異EGFRを発現するBaF/3細胞を、IL−3およびFCSを含まない培地中で3時間インキュベートした。細胞を遠心分離によって収集し、PBS中で2回洗浄し、EGF(100ng/ml)の有りまたは無しにて、室温にてPBS中で10分間インキュベートした。架橋実験において、PBS処理またはEGF処理の後に、細胞を1.3mM BS
3またはスルホ−EGS(Pierce Biotechnologies, Rockford,IL)中で室温にて20分間インキュベートした。細胞を、還元剤(100mM β−メルカプトエタノール)の有りまたは無しにて、細胞をSDS/PAGE試料緩衝液中で溶解させた。全細胞溶解物を、3〜8%トリス/アセテートゲルまたは4〜12%ビス/トリス勾配ゲル(In Vitrogen,Carlsbad,CA)でのSDS−PAGEによって直接分析し、そしてPVDF膜に移し、その後、抗ホスホチロシン抗体(4G10、UBI、1:1000最終希釈)、抗EGFR抗体(ヒツジ抗EGFR、UBI、1:1000の最終希釈)または抗ホスホMAPK抗体(1:1000の最終希釈)、続いて、各々、HRP結合化抗マウスIg、HRP結合化抗ヒツジIg、またはHRP結合化抗ウサギIg(全て1:3000の最終希釈)を用いて免疫検出した。反応性バンドをECL試薬(Amersham)を用いて可視化した。EGFRの特異的チロシンリン酸化を測定するために、抗ホスホチロシン抗体でプローブした膜を0.1Mグリシンの溶液(pH2.1)でストリップし、抗EGFRまたは抗ホスホMAPK抗体で再度プローブした。フィルムをMolecular Dynamics走査デンシトメーター(Molecular Dynamics,Sunnyvale,CA)で走査し、幅広線ピーク積分(wide−line peak integration)を用いてバンド定量をImageQuantで行った。
【0250】
(EGFに対するマイトジェニック応答)
対数相において増殖する細胞を収集し、3回洗浄して残存するIL−3を除去した。細胞をRPMI 1640+10%FCSに再度懸濁し、200μl当たり2×10
4細胞にてBiomek 2000(Beckman)を用いて96ウェルプレートに播種し、10%CO
2中で37℃にて4時間インキュベートした。EGFを最初の力価測定点まで加え、96ウェルプレートにわたって2倍希釈とした二連で力価測定した。コントロールのウェルには、5%(v/v)の最終濃度のWEHI−3B馴化培地を与えた。
3H−チミジン(0.5μCi/ウェル)を加え、プレートを5%CO
2中で37℃にて20時間インキュベートし、その後、自動ハーベスター(Tomtec,Connecticut,USA)を用いてニトロセルロースフィルターに収集した。そのマットをマイクロ波で乾燥し、プラスチックの計数バックに入れ、シンチラント(10mL)を加えた。β線カウンター(1205 Betaplate,Wallac,Finland)を用いて取り込まれた
3H−チミジンを測定した。
【0251】
(立体配座特異的抗体との反応性)
抗体染色およびFACS分析に先立って、細胞を抗体、EGFまたはコントロール培地と共にプレインキュベートした。抗体(mAb528、mAb806またはクラス適合性の無関係な抗体、全て10μg/ml)でのプレインキュベーションは、RPMI/10%FCS中で37℃にて30分〜16時間の範囲の時間で行った。EGF(氷冷FACS緩衝液中100ng/ml)とのプレインキュベーションを氷上で20分間行った。プレインキュベーションの後に、細胞を遠心分離によって収集し、コントロール抗体またはテスト抗体(全て、氷上でFACS緩衝液中10μg/mlで20分間、その後FACS緩衝液中で洗浄)、続いて、Alexa488−抗マウスIg(1:400の最終希釈、氷上で20分)で染色して、一次抗体を検出した。細胞を氷冷FACS緩衝液で洗浄し、遠心分離によって収集し、FACScanで分析し;ピーク蛍光チャネルおよびメジアン蛍光を、CellQuest(Becton and Dickinson)での統計学的ツールを用いて各試料につき測定した。バックグラウンド(ネガティブコントロール)蛍光を全ての測定から差し引いた。メジアン蛍光値を最も代表的なピーク形状および蛍光強度として選択し、これを用いて、mAb806の結合 対 mAb528の結合の比率を導いた。
【0252】
(結果および考察)
この研究の目的は、細胞表面に発現した全長EGFRの立体配座の優先度、活性化のメカニズムおよびシグナル伝達能力についてのCR1−ループ/CR2相互作用の役割を決定することである。本発明者らは、CR1/CR1相互作用および/またはCR1/CR2相互作用を乱すと予測され、その結果、EGFRの連結された状態、非連結の状態、不活性状態および/または活性状態の間のバランスを変更すると予測される点突然変異を、CR1ドメインおよびCR2ドメインに導入した。これらの構築物は、内因性ErbBファミリーメンバーを欠いた、造血細胞株であるBaF/3で発現させた。本発明者らは、結合動力学、二量体化、リガンド依存性チロシンリン酸化およびシグナル伝達、ならびにEGF依存的にDNA合成を誘導する能力を測定することによって、EGFRの機能に対する突然変異の効果を分析した。しかしながら、これらのパラメーターは受容体オリゴマー化、立体配置変化または立体配座変化の間接的尺度であり;したがって、本発明者らは、EGFRの「休止」立体配座に対し、かつリガンド誘導性の立体配座変化および立体配置変化のダイナミクスに対する、突然変異の効果を評価するツールとして、2つの立体配座的に特異的な抗EGFR抗体、mAb528(19)およびmAb806(20;23;30)の結合も用いた。
【0253】
(受容体発現および予備的特徴付け)
6つの点突然変異を詳細に分析した(
図9A、9B参照):Tyr
246における3つのCR1突然変異(Phe、TrpおよびAsp)および3つのAsp
563(Hisへ)、Glu
578(Cysへ)およびVal
538(Aspへ)におけるCR2置換。CR1/CR2相互作用をジスルフィド連結させる試みにおいて、本発明者らは、CR1およびCR2の各々において置換を持つ突然変異体を調製した(CysへのLeu
245、およびCysへのGlu
578)。組換えEGFRを造血細胞株BaF/3において発現させ、これは、EGFRの生化学的特徴付けで理想的である(18;25)。トランスフェクションおよびG418における選択後、抗flag抗体M2ならびにモノクローナル抗体528(EGFRの細胞外ドメインに向けられて、リガンド結合をブロックし(19)、かつ受容体の天然形態のみを認識すると報告されている)を用いて、受容体発現をモニターした。これらの抗体との反応性に基づいて、全ての突然変異体受容体は正しくフォールディングされ、細胞表面で発現されるようである。多数ラウンドのFACSソーティングの後、本発明者らは、同様なレベル(20〜40,000R/細胞)の突然変異体EGFRまたは野生型EGFRを発現する細胞系を得た(
図10)。受容体の発現が100,000受容体/細胞未満であるのは必須であり:一過性発現実験は、通常、高レベルの細胞表面EGFR(>10
5/細胞)を生じるが、これらのレベルの発現においては、しばしば、EGFRの自然発生的な活性化(すなわち、リガンド非依存性チロシンリン酸化)が存在する。活性化に対する理由は明らかではないが、受容体のオリゴマー化、不正確なプロセッシングまたは誤ったフォールディングのためであろう;本発明者らは、<50,000R/細胞を発現する細胞株を作製することによって、この複雑性を回避しようとした。
【0254】
(EGFR突然変異体によるリガンド結合)
EGFRの連結されたECDの結晶構造(9)および非連結のECDの結晶構造(4;5)から、2つの形態に対するリガンド親和性はかなり異なるであろうと仮定された。非連結の立体配座においては、リガンドはL1ドメインおよびL2ドメイン双方と接触を行うことができ、他方、連結された立体配座では、リガンドはL1ドメインまたはL2ドメインに結合できるに過ぎない。Fergusonら(9)は、CR1ループおよびCR2ループの間の相互作用の弱化はEGFに対するEGFR−ECDの見掛けの親和性を増大させると報告している;しかしながら、CR1ループおよびCR2ドメインの連結と、リガンド結合親和性との間の関連は、単離されたEGFR−ECDのBIAcore分析によって得られたデータに基づく(9;31)。細胞表面における全長EGFRについての動力学的結合データは、EGFR−ECDについての20〜350nMと比較して、少なくとも2オーダーの大きさより低い20pM−2nMである親和性定数を生じる。細胞関連におけるそのリガンドへのEGFRの結合動力学は、局所的受容体密度、オリゴマー化状態、およびサイトゾル要素または細胞骨格要素との相互作用のような、構造非依存性因子によって複雑化される(32−34)。全長受容体の関係では、キナーゼ、膜貫通ドメインおよび/またはC末端ドメインにおける修飾もまたそのリガンドに対するEGFRの親和性に影響する(35−39)。従って、無処理の細胞における受容体のリガンド結合親和性、オリゴマー化状態およびシグナル伝達(後記参照)に対するCR1突然変異およびCR2突然変異の効果を測定するのは重要である。生理学的温度におけるリガンド結合を評価しつつ内部移行を妨げるためには、30μMのフェニルアルシンオキシドの存在下で親和性測定を行った(29):これらのアッセイ条件下で、EGFRの内部移行は1%未満まで低下した(データは示さず)。野生型EGFRおよび突然変異体EGFRに対するEGF結合のScatchard分析の結果を表3および
図11に示し、以下にまとめる。
【0255】
【表7】
125I−EGF結合は「材料および方法」に記載されたように行った。データは、「Kell for Windows(登録商標)」RadLigプログラムを用いて分析した。
(a):細胞当たりの受容体の数は、各リガンド結合実験におけるB
maxおよびチューブ当たりの細胞数から計算した。結果は少なくとも3つの別々の実験の平均および標準誤差である。
(b)Scatchard分析によって測定された受容体数(B
max)はFACSによって、またはイムノブロッティングによって見積もられた受容体数の10%未満である。
【0256】
CR2突然変異:V
583D突然変異およびD
563H突然変異は、CR2/CR1ループ相互作用を破壊するように設計された。連結された立体配座において、V
587側鎖のγ−メチル基はY
246との密なファンデルワールス力で接触している:Asp γ−カルボキシルの置換はCR1/CR2接合面を破壊するはずである。同様に、D
563のγ−カルボキシルは連結された立体配座においてY
246に水素結合し、アスパラギン酸のカルボキシル基をHisのイミダゾールで置換することは相互作用を弱化させるであろう。V
583Dを発現する細胞においては、野生型EGFRを発現する細胞と比較して、高親和性EGF結合部位の割合について有利な増加が存在する(各々、12.6% 対 2.6%)。この傾向はまた、D
563H突然変異体で観察されるが、この場合には、野生型からの差異は統計学的に有意ではなかった(表3)。高親和性部位の割合の増加は、受容体の連結されていない状態に向かう平衡シフトの指標であり、これは、V
583D突然変異体およびD
563H突然変異体がCR1/CR2相互作用を弱化させるという推定を支持する。CR1およびCR2を共有結合により結合させるジスルフィド結合を創製する可能性を調べるために、本発明者らは、連結された立体配座において適切な距離および側鎖の向きを有する2つの残基:Leu
245およびGlu
578を同定した。最初に、本発明者らは単一突然変異E
578Cを作製し、次いで、二重突然変異L
245C/E
578Cを作製した。興味深いことには、E
578側鎖はL
245およびP
248の側鎖に近く、従って、E
578C置換は、これらの残基との疎水性相互作用を増加させることによって、CR1ループ/CR2接合面のパッキングを改良すると予測され得る。実験的には、E
578C突然変異は、低親和性部位の数に影響することなく高親和性EGF結合を完全に消去する(表3)。この位置におけるシステインの導入は、いずれかまたは双方のシステインに富んだドメインのフォールディングに影響しないようである:立体配座依存性抗体mAb528は突然変異体受容体に結合し、そのリン酸化およびシグナル伝達は依然としてEGFに依存する(後記参照)。
【0257】
CR1ループ突然変異:本発明者らは、Tyr
246に代わる3つの異なるアミノ酸置換(Phe、TrpおよびAsp)を導入した。結晶構造は、Y
246がCR1/CR1相互作用およびCR1/CR2相互作用双方につき決定的であることを示唆する(
図9B、9C)。連結された立体配置において、CR1ループはCR2ドメインと密接に相互作用し;Tyr
246はAsp
563のカルボキシル側鎖と水素結合する。Asp
563はLys
585のε−アミノとの弱い架橋によって所定の場所に保持される。Tyr
246のPhe突然変異はH結合を除去し、従って、その連結はより弱くなる。Trp
246突然変異体はCR2結合部位に嵌合するには大き過ぎ、事実、それはLys
585−Asp
563の塩橋を破壊するであろう。Tyr
246のAspでの置き換えは、疎水性パッキングの喪失、ならびにAsp
246およびAsp
563の間の強い反発を導く。従って、全ての突然変異は連結された立体配座を余り好都合でなくさせるはずである。EGFRキナーゼを活性化させるため、Tyr
246のヒドロキシルが対向鎖に水素結合するように、背中合わせのダイマーが形成されなければならない(
図9)。事実、リガンドの存在下では、このヒドロキシルはSer
262残基、Gly
264残基およびC
283残基における骨格にH結合する。これらの3つの水素結合はPhe
246突然変異体およびAsp
246突然変異体においては失われる。Tyr
246および対向鎖の間のパッキングは密であり、Trp残基に対する余地は無い:Trp
246ダイマーは、密にパッキングされないと予測される。実験的には、全ての3つの突然変異は高親和性EGF結合の喪失をもたらし(表3および
図11)、これは、CR1/CR2結合の連結解除によって代償されないCR1/CR1相互作用の著しい障害を示唆する。
【0258】
一緒に併わせると、これらの観察は、EGFRの「連結された」形態へのリガンド結合が低い親和性で起こることを確認し;低親和性EGF結合はL1ドメインおよびL2ドメインの相対的位置決定とは無関係であるようである。結晶構造の精査は、双方のドメインのリガンド結合表面が連結された立体配座および連結されていない立体配座双方において利用でき、従って、低親和性結合は、恐らくは、いずれかの部位、または双方の部位への結合を独立して反映することを示す。明らかに、連結解除は、高親和性で結合するために利用できる受容体の割合を増加させ得る。高親和性立体配座は、恐らくは、ダイマー複合体におけるL1およびL2の近接配置に影響することによって、CR1ループを必要とすることに注意するのは興味深い。
【0259】
受容体二量体化:受容体の細胞外ドメインへのEGF結合は、キナーゼ活性なEGFRの形成または安定化に導く。リガンド誘導性CR1/CR1相互作用は、活性なEGFR複合体の形成に必要であり:CR1ループの欠失は、全長EGFRの関係においてさえ、EGFR−ECDが二量体化する能力を消去する(4)。明らかに、CR1ループおよびCR2ループにおける突然変異は、EGF結合親和性に対して有意な効果を有し;(
図11および表3):本発明者らは、基底の二量体化およびリガンド媒介性二量体化、ならびに基底のキナーゼ活性化およびリガンド媒介性キナーゼ活性化に対するこれらの突然変異の効果を測定することに興味を抱いた。EGFおよびホモ二官能性の細胞非浸透性の架橋剤BS
3を用いて、細胞を室温にて30分間処理した。細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、抗EGFR抗体または抗ホスホチロシン抗体いずれかでイムノブロットした。結果を
図4に示し、以下にまとめる。
【0260】
「CR1ループ突然変異体」はリガンド依存性二量体化を低下させ;特に、Y
246D突然変異はリガンド依存性二量体化を完全に無くした。しかしながら、基底の二量体化はわずかに影響されたのみであった:これは自然発生二量体化およびリガンド媒介性二量体化の接合面におけるY
246の立体配座における異なる役割を示す。CR1ループの全体が欠失されるΔ−CR1ル−プ受容体(4)における検出可能なダイマーの完全の欠如を仮定すれば、このループにおける他の領域は連結無しの(unligated)ダイマーの形成に寄与する可能性がある。Y
246突然変異体受容体モノマーおよびY
246突然変異体受容体ダイマー双方のホスホチロシン含有量も低下され、これは、ダイマーが形成される場合でさえ、ECD立体配座がキナーゼ活性化を可能としないことを示唆し:Y
246W突然変異体においていくらかの自然発生的ダイマーが検出できるが、リガンドの不存在下では、実質的にダイマーのリン酸化はない。明らかに、ECD架橋可能なダイマーの形成は、全てのY
246突然変異体において低下する。EGF刺激後におけるY
246突然変異体モノマーのホスホチロシン含有量が特に影響されること(
図12C)に注意するのは、興味深い;これらのモノマーは、おそらくは、架橋できなかったダイマーから生じるため、それらモノマーはダイマー複合体における改変された(より弱い)相互作用を持つ分子の部分集団を反映し得る。Y
246突然変異がダイマーの安定性に全体的に影響し、キナーゼ活性化に必要なダイマーサブユニットの再配向またはより高次のオリゴマーの形成を妨げるか否かは、本発明者らの実験系では直接取り組むことができない。
【0261】
「CR2突然変異体」は、正常レベルの基底の二量体化およびリガンド依存性二量体化を有した。本発明者らは、CR1/CR2連結が弱化された突然変異体EGFRについてのダイマーの割合の有意な増加を検出せず、これは、突然変異が連結解除を導く場合でさえ、BS
3で架橋可能なダイマー複合体の形成が、リガンドの結合に依存することを示唆する。E
578のCへの突然変異は未対合システインを導入し、概念的にはジスルフィド結合ダイマーの形成に導くことができた。本発明者らは、異なるスペーサー−アームの長さ(BS
3;11.3Åおよびスルホ−EGS、16.1Å)の架橋剤を用い、ならびに還元条件下および天然条件下で非架橋ダイマーを分析して(データは示さず)、この可能性を調べた:本発明者らは、E
578C突然変異体の自然発生二量体化の証拠を見出さず、Cys
578は鎖間ジスルフィド結合の形成に導かないと結論する。
【0262】
(リガンド依存性チロシンリン酸化およびMAPKシグナル伝達)
CR1−ループ/CR2相互作用はEGFRのキナーゼ不活性な立体配座を安定させ、自然発生な活性化を妨げるようである(9)。本発明者らは、突然変異体受容体を発現する細胞において、基底時およびEGF依存性のチロシンリン酸化、ならびにMAPK活性化をモニターした。結果を
図13に示す。リガンド結合は、ほとんどの突然変異体受容体分子のホスホチロシン含有量におけるいくらかの増加を引き起こす;しかしながら、個々の突然変異体の特異的活性化は有意に変化した(チロシンリン酸化 対 受容体タンパク質の比率によって、およびMAPKの特異的活性化によって測定した:
図13B、および13C)。全てのCR2突然変異体は、リガンドによって、野生型受容体と同様なレベルに活性化される。低い親和性の部位のみを有し、よって、連結された(不活性な)形態で優勢に存在するE
578Cでさえ、高濃度のEGF(16nM)において完全に刺激され得る。本発明者らは、細胞を漸増性濃度のEGF(30pM〜100nM)に細胞を暴露し、チロシンリン酸化およびMAPK活性化の誘導をモニターすることによって、リガンド結合親和性およびCR2突然変異体受容体のシグナル伝達の間の相関をテストした(
図14)。E
578C−EGFR発現細胞において、EGFRおよびシグナルトランスジューサーShcおよびMAPKのリン酸化のピークは、野生型と比較して有意により高い濃度のEGFにおいてのみ達成された。対照的に、V
583D−EGFR発現細胞およびD563H−EGFR発現細胞についての受容体活性化は、野生型EGFRよりもより低い濃度のEGFにおいて起こった(
図14B、14C)。これらの結果は、CR2ドメインにおける突然変異が結合親和性に影響するが、受容体機能を惹起する後発事象に影響しないという考えを支持する。飽和量のEGFにおいてさえ、全てのTyr
246突然変異は受容体チロシンリン酸化およびMAPK活性化を著しく低下させ(
図13):増殖性のCR1/CR1ループ相互作用を形成する能力は、キナーゼ活性化のために決定的である。CR1ループまたはそのドッキング領域への他の点突然変異(Y
251A、F
263A)は、EGFRシグナル伝達に対して最小効果を有したように見える(5)。しかしながら、CR1ループおよびそのドッキング部位が共に破壊される場合(例えば、Y
251A/R
285S二重突然変異体:(5))、シグナル伝達は完全に破壊される。これらの著者は、リガンド結合のレベルの低下も報告しており、これは、二量体化ドッキング部位の結合が、L1ドメインおよびL2ドメインがEGFに応答して再度配向する能力に影響し得ることを示唆する。
【0263】
EGFR突然変異体からの分裂促進的シグナル伝達。最終的に、EGFRの機能性は、生物学的応答を刺激するその能力によって測定される。これらの応答は、リガンド結合の親和性、キナーゼ活性化の強度、キナーゼ活性化の大きさ、シグナル伝達の持続時間を含めた、多くのパラメーターに依存する。本発明者らは、[
3H]チミジン取り込みアッセイを用い、漸増性濃度のEGFへの暴露に続いて、「デノボ」DNA合成を誘導するそれらの能力について、EGFR突然変異体をテストした。結果を
図15および表4に示す。まず、細胞系のいずれもリガンド非依存性[
3H]チミジン取り込みを呈しなかった:CR1ループおよびCR2の間の連結が弱化された場合においてさえ、分裂促進シグナル伝達は受容体の活性化のためにEGF結合を必要とすることは明らかである。一般的には、EGFについてのEC
50は高親和性な受容体の占有率と相関するが(表3および表4参照)、E
578Cの場合には、最大[
3H]チミジン取込みの半分のために必要とされるEGFの濃度と、受容体の最大占有の半分のために必要とされるEGFの濃度との間には、10倍の差がある。本発明者らは、野生型EGFRを発現するBaF/3細胞系において、細胞当たり500RほどがEGFに対する最大応答の半分を達成するのに活性化されなければならないことを確立し(方法については、Walkerら、1998参照):この閾値は、野生型EGFRについては約15pMのEGFで到達し、E
578C細胞については約80pMのEGFで到達する(表4)。(細胞当たりの受容体の合計数および各EGF濃度における占有割合に基づく)同一計算を用い、本発明者らは、Y
246W突然変異体が約60pMのEGF濃度において最大応答の半分に到達し、Y
246D突然変異体は、約400pMの濃度において到達すると見積もった。分裂促進アッセイにおけるこれらの突然変異体のEGFに対する応答の完全な欠如は、リガンド結合親和性の単純な喪失よりはむしろ増殖性シグナル伝達ユニットを形成するこれらのEGFRの能力の無いことを反映する。
【0264】
【表8】
野生型EGFRまたは突然変異体EGFRを発現するBaF/3細胞を、実験手法に詳細に記載されたように、漸増性濃度のEGF(0〜10ng/ml、0〜1.7nM)に暴露し、DNA合成を[
3H]チミジン取込みによって測定した。
a)1nM EGFにおける野生型EGFR−BaF/3細胞の応答は最大として取られた。b)EC
50は
図7に示される用量応答曲線から決定された。c)細胞当たり500Rを占有するのに必要なEGFの濃度は、受容体占有率 対 EGF濃度のプロットを用いてScatchard分析から得られたK
dおよびB
maxデータから計算した。EGFの各濃度における占有されたEGFRの数は、式:
([L]/[L]+K
dl)×R
1+([L]/[L]+K
d2)×R
2
(式中、[L]=EGF濃度;K
d1およびK
d2=平衡結合定数;R
1およびR
2=高親和性受容体および低親和性受容体の数)
から計算した。
データは、少なくとも3つの別々の実験の代表である。
【0265】
EGFR立体配座の抗体モニタリング。示された結果は、これまで、CR1ループおよびCR2ドメインの間の相互作用がEGFRを低親和性に連結し(キナーゼ不活性状態(9))、そしてCR1/CR1ループ相互作用がEGFRのリガンド誘導性キナーゼ活性化に必要であるモデルを支持する(4;5)。「中間」状態もまた(Fergusonらによって提案されているとおり(9))存在するかどうか、およびその特性は何であり得るかは依然として不明確である。本発明者らは、受容体のこの形態が連結されていない、より高い親和性、ダイマーおよびキナーゼ不活性であると予測する。リガンドの不存在において、正しいCR1−CR1相互作用は形成されないようであるか、あるいはキナーゼ活性化を行うには余りにも一時的である。
【0266】
モノクローナル抗体528(19)は、ヒトEGF受容体へのEGF結合についての競合的抗体として用いられてきた。mAb528についての正確なエピトープは依然としてマッピングされていないが、mAb528はΔ2−7EGFR(L1およびほとんどのCR1ドメインを欠く:(40))と反応し、野生型EGFRへのリガンド結合を妨害し、従って、本発明者らは、このエピトープがL2ドメインに存在すると推定する。抗体はヒトEGFRに対して特異的であって、正しくフォールディングされた受容体のみを認識する(すなわち、それはウェスタンブロットにおいてhEGFRの還元された形態と反応しない)。この実験で用いた全ての突然変異体とmAb528との反応性は損なわれず、mAb528を用いるFACS分析、または
125I−EGFを用いるScatchard分析によって測定された受容体の数は通常合致する。先に述べたように、L
245C/E
578C突然変異体は、十分にmAb528と反応性であるが、予測された数の低親和性EGF結合部位の10%のみを有する。
【0267】
モノクローナル抗体806はΔ2−7切断形EGFRならびに受容体を過剰発現する細胞における野生型EGFRの部分集団を認識する(23;30)。mAb806は、Δ2−7EGFRを発現する神経膠芽腫異種移植片または野生型EGFRを過剰発現する癌腫において抗腫瘍剤として活性である(22;41;42)。この抗体は、受容体の活性化形態を選択的に認識すると仮定された(43)。EGFRの単離されたECDについての研究は、mAb806がCR2ドメインを欠く、ECDの表面固定化されるC末端切断形態(aa1−501)と反応するが、N末端切断形態(aa303−621)とは反応しないことを示した。これは、このエピトープがCR1ドメインのC末端部分に向かって位置することを示唆する(Johnsら、原稿投稿中)。mAb806は、細胞当たり約40,000個の野生型EGFRを発現するBaF/3細胞の表面と弱く反応するが、しかしながら(L1ドメインおよびほとんどのCR1ドメインを欠く)同等数のΔ2−7受容体を発現するBaF/3細胞はmAb806に強く結合する(
図16)。興味深いことには、ΔCR1ループ突然変異体(これは、aa244−259を欠く:(4))は強いmAb806反応性を有する。mAb528が細胞表面の正しくフォールディングされたEGFRを全て認識できると仮定し、FACS分析を用い、mAb806 対 mAb528の中央値の蛍光の比率を計算することによって、mAb806に反応性のEGFRの割合を計算することが可能である:直接的比較は可能である。なぜならば、本発明者らは、飽和濃度において双方の抗体を用い、結合は同一の二次抗体(Alexa488結合化抗マウスIg)によって検出され、FACS検出は使用範囲において線形であるからである。この分析を用い、mAb806と反応性の受容体の割合は、野生型EGFRについての6〜8%から、Δ2−7およびΔCR1ループEGFRについての70〜90%まで変化する(0.06〜0.08および0.069〜0.98のmAb528結合に対するmAb806結合の比率:
図14、データは示さず)。一緒に考え併せると、単離されたECDおよび細胞受容体についてのデータは、エピトープがCR1ドメインのほとんどのC末端部分に存在し、野生型受容体の本来の立体配座によってマスクされ得るが、CR1ループの欠失によって露出され得ることを示唆する。事実、EGFR−ECDの結晶構造へのmAb806エピトープのマッピングは、それがCR1ループのC末端からすぐのところに位置することを示し(
図9B、9C参照):従って、mAb806エピトープは、背中合わせの二量体形態におけるCR1/CR1接合面に埋もれている可能性がある。また、mAb806エピトープは、受容体の連結形態において、部分的に埋もれている。推定の「中間体」においてのみ、CR1ループ/CR2またはCR1/CR1ループ相互作用によってそれがマスクされない場合の、受容体の非連結形態は、利用できる可能性のあるmAb806エピトープである。この抗体は、従って、連結されたEGFR複合体、非連結のEGFR複合体、および十分に活性なEGFR複合体を分析するための感受性のある立体配座プローブを提供し得る。この仮説を検定するために、本発明者らは、mAb806またはEGFとのプレインキュベーションの前および後における、野生型EGFRを発現する細胞とmAb806との反応性をモニターした。mAb806が受容体の中間体形態を認識し、中間体形態が連結された(CR1ループ/CR2)およびCR1/CR1非連結状態と動的な平衡にあり、抗体とのプレインキュベーションが平衡をこの種に向けてシフトするはずであり、よって、反応性を増大させるはずである。CR1/CR1接合面の形成を支持することによって、EGFとのインキュベーションは感受性を減少させるはずである。野生型EGFR/Baf細胞を、37℃(系のエネルギーを最大化させるため)において内部移行阻害剤フェニルアルシンオキサイド(29)の存在下でmAb806に暴露させて、または4℃でEGFに暴露させて、キナーゼ活性状態の形成を可能とするが、内部移行を完全に排除した。mAb806処理は(
125I−EGF結合によって測定されるように)EGFRの合計数を変化させず、双方の条件下で、95%を超えるEGFRが、細胞表面に存在した(データは示さず)。mAb806、EGFまたはコントロール緩衝液での予備処理後に、mAb528、mAb806またはコントロール抗体との野生型EGFR反応性を、FACS分析によって測定した。表5は、mAb806またはEGFでの予備処理によって引き起こされた中央値の蛍光チャネルの変化、ならびにmAb806反応性とmAb528反応性との間の比率を示す。データを提示するこの方法を選択して、絶対中央蛍光値(これは、レーザー電流および検出器の設定の小さな変化に対して非常に感受性である)において、実験の間の変動を克服し、実験データのプーリングを可能とした。10ug/mlのmAb806との37℃における1時間の細胞のプレインキュベーションは、mAb528の反応性に影響することなくmAb806との反応性を2倍より大きくし;従って、2つの抗体の間の比率は有意に上昇した。同一条件下でのmAb528とのプレインキュベーションは、引き続いてのmAb528の結合にもmAb806の結合にも効果を有しなかった(データは示さず)。別の実験において、本発明者らは、第二のインキュベーションの間のmAb806の濃度の増加(10μg/mlから50μg/ml)または暴露の時間の増加(20分から1時間)は、無視できる効果を有した(データは示さず)ため、増強されたmAb806結合は飽和の欠如に起因しないことを証明した。mAb806とのプレインキュベーションの効果は、時間依存性および温度依存性であり、37℃でのプレインキュベーションから3時間後に最大に到達した(データは示さず)。これらの結果は、mAb806による一時的な非連結形態のEGFR受容体のトラッピングに適合する。逆に、EGFにおける細胞のプレインキュベーションは、mAb806との反応性を劇的に減少させる。これらの条件下での受容体の内部移行化は5%未満であり、よって、mAb806結合の減少に有意に寄与することができない。これらの実験において、立体障害またはエピトープのマスキングいずれかを介するEGFの結合後に、mAb528との反応性は約20%低下した。考え併わせると、これらの結果は、連結されておらず、結合していない形態の受容体についての、mAb806による選択的認識を指摘する。
【0268】
【表9】
野生型EGFRを発現するBaF/3細胞を、対照緩衝液、mAb806(37℃における1時間の10μg/mL:(a))、またはEGF(4℃における15分間の10ng/mL(b))と、プレインキュベートした。次いで、実験手法に記載したように、細胞を(共に10μg/mLにおいて)mAb806またはmAb528のいずれかでプローブし、続いて、Alex488標識抗マウスIgでプローブした。細胞をFACScanで分析し、CellQuestにおける統計学的分析プログラムを用いてメジアン蛍光値を得た。モックプレインキュベーション後におけるメジアン蛍光値はmAb528については112+/−21、mAb806については7+/−1.9、そしてコントロールの(クラスがマッチした)無関係な抗体については0.5+/−0.3であった。ネガティブコントロール値は全てのデータから差し引いた。結果を、モック試料と比較したテスト試料についてのメジアン蛍光のプラスまたはマイナスへのパーセント変化として表す。mAb806およびmAb528についてのメジアン蛍光の間の比率も提示される。データは3つの別々の実験の平均および標準誤差である。
【0269】
CR1−ループまたはCR2突然変異体へのmAb806結合の分析(表4)は、以下:mAb806反応性は、弱化されたCR1−ループ/CR2相互作用を持つ突然変異体(V
538BおよびD
563H)における野生型EGFRの少なくとも2倍であり、CR1/CR1相互作用を形成できない受容体(Y
246突然変異体)についての野生型EGFRよりも3倍程度高かったこと、を支持する。EGFとのインキュベーションは、2つのクラスの突然変異体に対して反対の効果を有し:EGFは活性ダイマーを形成できる受容体(野生型およびCR2突然変異体の全て)のmAb806との反応性を低下させ、他方、mAb806との反応性は、CR1−ループ突然変異体について変化しないか、または増強された。これらの突然変異体に対するEGFの効果は、CR1/CR1ループ相互作用を形成できないことに伴う、弱いCR1−ループ/CR2ループ相互作用のEGFによる連結解除と合致する。EGFによるmAb806反応性の変調は、チロシンリン酸化およびDNA取り込みによって測定された場合(
図15および表6参照)、EGFRキナーゼを活性化する突然変異体EGFRの能力、またはそれができないことによく相関する。本発明者らのデータは、mAb806が、未だバックツーバック(back−to−back)ダイマー立体配座に配置されるべき、EGFRの非連結形態を優先的に認識するモデルと合致する。従って、mAb806をツールとして用いて、リガンド結合の際の受容体内の立体配座変化をモニターすることができる。EGFRの一過性の、連結されおらず、結合していない立体配座は、いずれの時点においても、全EGFRの小さな割合が、文献に報告されているように、受容体を過剰発現する細胞に検出可能な量で存在する(22;23;30)。また、我々のデータは、腫瘍形成を抑制するmAb806の能力を説明するのを助けることもできる:Δ2−7EGFRを発現する細胞において、抗体の結合は受容体複合体キナーゼの活性立体配座の形成を立体的に妨げ、他方、野生型EGFRを過剰発現する細胞においては、それは非連結EGFR形態を捕獲し、CR1−ループ間の相互作用およびその後の活性化を妨げることができる。この仮説は、mAb806での処理後の、Δ2−7EGFRのキナーゼ活性化における、報告された減少と合致する(42)。
【0270】
【表10】
野生型または突然変異体EGFRを発現するBaF/3細胞を、表3に記載されたように処理した。メジアン蛍光値およびmAb806およびmAb528反応性の間の比率を、表3に記載したように計算した。別々の実験の各々における緩衝液処理された野生型EGFRについてのmAb806/mAb528の比率を1とし、全ての他の比率を野生型EGFR値で割って、突然変異体間および別々の実験間の直接的比較を可能とした。データは、少なくとも4つの別々の実験の平均および標準誤差である。
【0271】
(結論)
全長の細胞EGFRにおける受容体内および受容体間連結の役割を試験するために設計された突然変異(4;6;9)は、以下を示す。1)高親和性EGF結合部位の数は、CR1−ループ/CR2連結によって強く影響され、恐らくは、L1およびL2ドメインの相対的な配置を反映する。CR1/CR2連結の弱化は、高親和性部位の割合を増大させ、CR1−ループ/CR2連結の強化は、高親和性結合を根絶する(表3)。全長細胞受容体と単離されたECDとの間のリガンド結合親和性における有意な差にもかかわらず、CR1およびCR2相互作用は、2つの分子において同一の相対的変化を起こす(Ferguson et al.,(9)および本発明者らのデータ参照)。EGFRの近接膜またはキナーゼドメインの修飾に寄与する細胞内成分によるEGFR親和性の変調(36;44−46)は、従って、連結状態と非連結状態の間の改変されたバランスを反映するはずである。EGFRの細胞内部分の修飾がどのようにして細胞外ドメインの立体配座の改変に導くかは明らかでなく、これは、将来の興味深い挑戦であろう。2)EGFRのリガンド独立性二量体化(またはオリゴマー化)は、CR1−ループまたはCR2ドメインにおける突然変異によって有意には影響されない。CR1−ループ/CR2連結の弱化は構成的な二量体化を導かないし、連結の強化がそれを減少させもしない(
図12):従って、CR1−ループが(表4中のmAb806結果によって示唆されるように)受容体間相互作用に利用できる場合でさえ、(ホスホチロシン含有量によって間接的に評価された)生産的二量体化および活性化は、リガンド結合なしでは起こらない。しかしながら、リガンド媒介性EGFR二量体化および活性化はCR1ループにおける突然変異によって影響されない。これらの結果は、構成的およびリガンド誘導ダイマーは同等ではなく、リガンド結合は、受容体サブユニットおよび結果としてのキナーゼ活性化の正しい配置に厳格に必要であることを示す(16)。CR1−ループにおけるTyr
246は、活性化された複合体の形成のために非常に重要なようである。Tyr
246の全ての突然変異が、連結された立体配座における受容体をロックするのは名目上可能ではあったが、立体配座特異的mAb806を用いて得られた本発明者らの結果(表6)は、Tyr
246突然変異体がダイマー複合体を正しく配位させることができないことを代わりに示した。3)本発明者らは、抗体であるmAb806(こでは、EGFRの非連結形態を選択的に認識するが、不活性形態を認識しないようである)を用いて、EGFRの立体配座の有意な変化をモニターすることができた。CR1/CR2相互作用の破壊は、mAb806反応性を増加させ、他方、リガンド結合はそれを減少させる(表6)。興味深いことには、D
563HおよびV
583D突然変異ならびにY
246突然変異は共に、CR1/CR2相互作用を弱化させ、mAb806との高い反応性に導く。さらに、Tyr
246の突然変異を有する突然変異体は、(トリトファンおよびアスパラギン酸に対する)CR1/CR1相互作用を最も破壊するようであり、EGF結合後のmAb806反応性の有意な増加を示し、このことにより、活性化されたCR1/CR1配位が妥協される(compromise)ことを確認する。4)活性ダイマーを形成する能力が維持される場合は常に、EGFに対する応答は、親和性および受容体数の間のバランスによってのみ決定される。本発明者らは、リガンドを活性化可能なEGFRを発現するBaF/3細胞において、500個ほどの受容体/細胞が最大の半分の(half−maximal)DNA合成を刺激するのに占有される必要があり(表4)、そしてこれは、ShcおよびMAPKのような下流シグナル伝達エフェクターの閾値刺激に相関する(
図13)ことを示した。従って、EGFRリン酸化それ自体は、受容体の占有(従って、リガンド依存性二量体化および活性化)に伴って継続的に増加するが、シグナル伝達経路はずっと低いリガンド濃度において十分に活性化され;実際に、マイトジェンの刺激がEGFの複数濃度において起こり、ここで、ShcおよびMAPKのリン酸化は容易に検出可能であるが、EGFRリン酸化は容易には検出可能ではない。
【0272】
EGFRは複数の状態で存在することができ、各々は異なるリガンド結合特徴およびリガンドによる活性化についての潜在能力を持ち:特に、どれくらい少ない受容体が下流シグナル伝達カスケードを十分に誘発するために活性化される必要があるのかを考慮すると、これらの形態間の平衡における些細なシフトが、EGFR生物学についての有意な提示を有することができることが明らかになりつつある。本発明者らは、
図17において、EGFRの代替の立体配座、および受容体活性化におけるそれらの役割についての、本発明者らの理解をまとめた。
【0273】
(参考文献)
【表11】
【0274】
【表12】
【0275】
【表13】
【0276】
【表14】
【0277】
【表15】
【0278】
(実施例3)
(ランダム突然変異誘発および酵母表面ディスプレイによる抗上皮増殖因子受容体抗体の詳細なエピトープマッピング)
上皮増殖因子受容体(EGFR)に対する治療的に関連するモノクローナル抗体(mAb)の詳細なエピトープマッピングを、ランダム突然変異誘発および酵母表面ディスプレイによって達成した。EGFR外部ドメイン断片(残基273−621)の単一点突然変異体が酵母表面にディスプレイされたライブラリーをランダム突然変異誘発によって構築し、そのライブラリーを目的のmAbに対する結合を減少させることについて分類した。
EGFR突然変異体がmAbへの結合の喪失を示す場合、これは、突然変異した残基が潜在的に接触残基であることを示唆する。この方法を用い、本発明者らは、EGFRへのmAb806の結合でエネルギー的に重要な鍵となる残基を同定した。mAb806エピトープは、Cys287−Cys302からなるループの一表面に突き止められ、ジスルフィド結合および2つの塩橋によって連結される。本明細書中で同定されるように、mAb806エピトープは自己抑制性EGFRモノマー立体配座において十分に接近可能ではなく、これは、EGFRが自己抑制性モノマーから拡大されたモノマーへ変化するように、EGFRの移行型形態へのmAb806結合に一致する。
【0279】
(緒言)
エピトープマッピングは、抗体−抗原相互作用を媒介することに関与する抗原残基の決定である。エピトープマッピングの以前の方法は、その後の抗体結合分析と共に、バクテリオファージ(1)、Escherichia coli(2)、または酵母(3)の表面でのペプチド断片の発現を伴っていた。抗体結合のマッピングもまたSPOT合成を通じて達成され、ここで、合成ペプチドがセルロース膜にスポットされ、抗体結合についてアッセイされる(4)。ファージディスプレイおよびSPOT技術は、ErbB受容体ファミリーメンバーに対する種々の抗体のエピトープを決定するのに利用されてきた(5,6,7)。しかしながら、ペプチドベースの方法は連続した非立体配座エピトープを同定できるに過ぎない。不連続エピトープを同定するために、H/D−交換質量分析法を用いて、エピトープが不連続なタンパク質分解断片に限局されている(8)。
【0280】
タンパク質−タンパク質相互作用を分析するのに有用なツールはアラニンスキャニングであり、これは、目的の残基をアラニンに突然変異させ、その後の結合における変化を測定する方法である(9)。これは、可溶性タンパク質の発現、および適切な折畳みを確実にするための各突然変異体の特徴づけを必要とする。ショットガンスキャニング突然変異誘発は、ファージディスプレイライブラリーを用いるアラニンスキャニングのハイスループットな方法であり、パラトープマッピングおよびタンパク質−タンパク質相互作用をマッピングするために用いられてきた(10,11)。しかしながら、この方法の非真核生物発現系は、25個のジスルフィド結合および10個のN−結合グリコシル化部位を含有する、上皮増殖因子受容体(EGFR)外部ドメインのような複雑な真核生物糖タンパク質のエピトープマッピングに従わない可能性がある(12)。
【0281】
EGFRは、細胞の増殖および分化の調節に関与する170kDaの膜貫通糖タンパク質および受容体チロシンキナーゼである(13,14)。EGFR(ErbB1,HER1)は、ErbB2(HER2,Neu)、ErbB3(HER3)、およびErbB4(HER4)も含むErbB受容体ファミリーのメンバーである。上皮増殖因子(EGF)およびトランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)を含む多数のリガンドが、細胞外領域のドメインIおよびIIIに結合して、二量体化を通じてEGFRを活性化する。細胞外領域のドメインIIは二量体化接触の媒介に関与し、また、モノマー状態におけるドメインIVとの自己抑制性接触を形成する((15)でレビューされた構造)。EGFR過剰発現は、頭部および頸部、乳房、膀胱、前立腺、腎臓、および非小細胞肺癌を含む広範な悪性疾患で観察されてきた(16)。この過剰発現は、しばしば、低下した生存率および腫瘍再発に相関し、それゆえ、患者の予後指標としての役割を果たす(17)。
加えて、アミノ酸残基6−273が欠失され、かつ新規なグリシンが接合部に挿入される、EGFR vIIIとして公知のEGFRの突然変異体形態は、神経膠芽細胞腫多形のような癌で観察されてきた(18)。従って、EGFRは癌治療のための重要な標的として出現し、EGFR細胞外ドメインに結合する種々の抗体がその機能を阻害するために開発されてきた。
【0282】
MAb806は前臨床開発段階であり、野生型EGFRよりもvIIIおよび増幅されたEGFRを優先的に認識することが示されている(19;22)。mAb806は、vIIIまたは増幅されたEGFRのいずれかを発現する腫瘍異種移植片の成長を阻害することが示されている(23)。
【0283】
最近、J.R.Cochranらは、EGFRの酵母表面にディスプレイされた断片を用いるドメインレベルエピトープマッピングのための方法を報告した(27)。大きな断片(いくらかはEGFRの複数ドメインを含む)は酵母の表面で発現し、適切に折り畳まれる。これらの断片は、連続および不連続エピトープの両方についてのEGFRの特定のドメインへの抗体結合を突き止めるのに用いられた。酵母表面ディスプレイは、それにより、目的のタンパク質が酵母Aga2タンパク質への融合として酵母の表面に発現される方法である。真核生物宿主は、酵母分泌経路を介するタンパク質のトランジットがもたらし、これは、十分なジスルフィド異性化および小胞体質制御を可能とする(28)。酵母表面ディスプレイは、単鎖抗体断片を親和性成熟させ(29,30)、タンパク質安定性および発現を操作し(31,32)、種々の抗原およびハプテンに対してスクリーニングするための非免疫ヒト抗体ライブラリーをディスプレイするのに用いられてきた(33)。
【0284】
最近の研究において、本発明者らは、ドメインレベルエピトープマッピングから発展させ、抗体−抗原結合相互作用のより詳細な残基レベルの分解能について酵母表面ディスプレイを利用する。また、以前の研究は、mAb806が、EGFR残基273−621につきとめられたエピトープに結合することを示した(34)。この断片で出発し、EGFR273−621の単一点突然変異体の酵母表面でディスプレイされたライブラリーを、ランダム突然変異誘発を用いて作成した。そのライブラリーを、mAb806への結合の喪失について分類し、それらのクローンを配列決定し、分析した。EGFR突然変異体がmAb806への結合の喪失をディスプレイする場合、これは、抗原−抗体接触が突然変異において失われたことを示唆する。従って、突然変異した残基が恐らくは接触残基である。このドメイン方法を用い、本発明者らは、治療的に関連するmAb806のEGFRへの結合についてエネルギー的に重要な鍵となる残基を同定した。
【0285】
(結果)
(エピトープマッピングライブラリーの構築および分類)
EGFR断片273−621の低突然変異率エラープローンPCRランダム突然変異誘発を用いて、優れたエピトープマッピングライブラリーを構築した。この断片は、酵母表面における成功したEGFR突然変異体ディスプレイの検出用のC末端c−mycタグを含有した。最初のライブラリーのサイズは5×10
5クローンであり、100の未選択クローンの配列決定は、72%が野生型EGFRであり、17%が単一アミノ酸突然変異体であり、そして11%が複数突然変異またはフレームシフトであることを示した。これは関連ライブラリーサイズ8.5×10
4を与え、これは、この349残基断片の単一アミノ酸突然変異体の最大理論的多様性よりも大きいオーダー(6.6×10
3)であり、1.0×10
3の可能な単一ヌクレオチド突然変異よりもほぼ2倍のオーダーである。このライブラリーサイズを考えると、単一ヌクレオチド突然変異による遺伝コードでアクセスできる各アミノ酸はライブラリーにおいて十分に表されるはずである。このライブラリーを酵母に形質転換し、酵母Aga2タンパク質への融合として細胞表面にEGFR突然変異体をディスプレイするように誘導した。ライブラリーを高い濃度(野生型の見掛けの解離定数よりも少なくとも大きいオーダー)のmAbで標識し、野生型結合と親和性の喪失との間の識別を可能とする。細胞をニワトリ抗c−myc IgYで標識して、EGFR 273−621発現を検出した。酵母の表面にディスプレイされたが、mAbへの親和性の喪失を示した突然変異体を単離した(
図18A−
図18B)。著しく誤って折り畳まれた突然変異体は分泌質制御装置によって認識され保持されると予測され(31;35)、その結果、有意に低下されたこれらの突然変異体の細胞表面c−myc免疫蛍光をもたらした。十分な集団の富化が観察された後、単一EGFR突然変異体クローンを配列決定し、特徴付けた。
【0286】
(mAb806エピトープの同定)
mAb806のエピトープマッピングのために、ライブラリーを、分類1では10nM 806で分類し、分類2および3では75nM 806で分類し、個々のクローンを分類2および3の後に配列決定する。100の配列決定されたクローンのうち、ほぼ20%が複数の突然変異を含み、その後の分析から除外された。mAb806への結合の喪失についてライブラリーから単離された単一突然変異体を、表7の左欄に示す。全ての突然変異は、以前に測定されているように(34)、システイン287と302との間のジスルフィド結合ループに突き止められる。しかしながら、残基レベルの分解能およびmAb806エピトープについてのさらなる情報が、本発明の方法を用いて得られている。mAb806への結合の喪失を伴う突然変異体は、75nM 806における野生型(
図18D)と比較した場合、結合の完全または部分的のいずれかの喪失を示す(
図18B−
図18C)。突然変異体を75nM 806における結合の程度に従ってスコア付けし、++は野生型結合を示し、+は結合の部分的喪失、そして結合の完全な喪失を示す(表7、左欄)。優れたエピトープマッピングライブラリーからの結果を確認するために、部位特異的突然変異誘発(SDM)を介するアラニンスキャニングを全ループ287−302で行った(表7、右欄)。アラニンスキャニングによる結合の喪失を持つ全ての部位(287、293、298、および302)は、ライブラリーから単離された突然変異体に対応する。逆に、アラニン以外の残基の置換の際にのみmAb結合の喪失を持つ部位(D297Y、R300C、R300P、およびK301E)は、アラニンスキャニングによって同定可能ではなく、未だ明瞭ではないが、mAb 806エピトープのエネルギー的に重要な成分を形成する。平均6〜7のアミノ酸置換が単一ヌクレオチド突然変異誘発によって利用可能であるため、より大きな範囲の物理化学的多様性が、アラニンスキャニングと比較してサンプリングできる。しかしながら、75nMにおける低下したmAb 806標識を除いて、未変化c−myc免疫蛍光標識強度を持つ突然変異体は、抗体に対する低下した親和性を有すると推定することができる。75nMにおけるmAb806標識を特定の親和定数と定量的に相関させるために、酵母の表面の力価測定を3つのEGFR断片で行って、野生型273−621(++)、C287R(+)、およびE293K(−)についてmAb806の見掛けの解離定数を測定した。結果を
図19に示す。酵母表面にディスプレイされた野生型273−621についてのmAb806の解離定数は2.13nM(1.83nM〜2.50nMの68%信頼区間)であり、これは、EGFR vIIIを発現する細胞へのmAb 806結合のScatchard分析によって見出された親和性と一致する(19)。C287R置換はこの解離定数を127nMまで上昇させ(103nM〜160nMの68%信頼区間)、これは、野生型と比較した場合に+2.4kcal/molのΔΔG値を与え、アラニンスキャニング項目においては、結合の中間的な喪失である(36)。E293K置換は、+5.7kcal/molのΔΔGに対応する少なくとも30mMのKd値に導き、これは、結合に対する「ホットスポット」を示す。前記ΔΔG値は、これらの突然変異の相対的エネルギー的重要性を用いて、75nM 806におけるそれらの結合スコア(++、+、または−)に基づいて他の突然変異体のエネルギー的重要性を大まかに見積もることができる。
【0287】
【表16】
【0288】
(mAb 806エピトープは連結される)
mAb 806結合についてエネルギー的に重要なものとして同定された残基を
図20に示す。これらの残基は、ループ287−302の1つの面でクラスターを形成し、これは、これらの残基がmAb 806エピトープであることを示す。興味深いことには、Val299はこれらの残基の中央に位置するが、ライブラリーまたはアラニンスキャンにおいて同定されなかった。それゆえ、V299KおよびV299D部位特異的突然変異体を作成し、エピトープは影響無くリシン残基を収容できるが、アスパラギン酸置換は検出可能な結合を除去する(表7)。これはさらに、mAb 806がループ287−302のこの面に接触するようであることを示す。mAb 806は熱およびSDS変性EGFRに結合し(34)、これは直線状エピトープを意味し;しかしながら、そのエピトープはライブラリー分析によって示されるように配列中で全部が連続的ではない。これは、Glu293の側鎖が他の推定接触面に対してループの一方側から突出することを示す、ループ287−302の構造の調査によって説明される。mAb 806エピトープはジスルフィド結合および2つの塩橋、Glu293−Arg300およびAsp297−Lys301によって連結される(
図20C)。これらの連結に関与する全ての6つの残基を、mAb 806への結合の喪失のためにライブラリーから単離し、エピトープの連結された性質の重要性を強調する。位置287におけるシステインは、結合の中間的喪失をもたらす広範な置換を許容し(表7)、これは、エピトープに対するそのエネルギー的寄与が、抗体に接触することよりもループを連結することから生じ得ることを示す。しかしながら、位置302におけるシステインは接触残基である可能性が高く、なぜならば、そのシステインは芳香族性質を持つより大きな残基への置換を許容するのみだからである。自己抑制性EGFRモノマー構造の文脈におけるmAb 806エピトープを
図20Dに示す。抗体結合部位は、この立体配座におけるエピトープから部分的にブロックされるようであり、これは、mAb 806が可溶性EGFRに結合しないが、自己抑制性の立体配座から乱された「非連結」EGFR突然変異体に結合するという観察と一致する(34)。
【0289】
(考察)
本研究は、酵母細胞表面でディスプレイされたランダムに突然変異誘発された抗原のスクリーニングを用いる、優れたエピトープマッピングの新規な方法を記載する。この方法は、潜在的な接触残基に関する事前の知識なしに複雑な真核生物タンパク質への抗体結合の非直線状エピトープを同定することができる。これらは、ペプチドエピトープマッピング法およびアラニンスキャニングに対するいくつかの利点がある。酵母表面ディスプレイプラットフォームは、各個々の突然変異体を可溶性発現し、精製する必要性を有さずにタンパク質発現を容易にする。突然変異体の特徴付けおよび力価測定もまた酵母の表面で効果的に行われる。この方法は、そのエピトープが三次構造依存性でないmAb 806についてのエピトープを明確に同定することができた。このため、mAb 806への結合の喪失のためのライブラリーから単離された全ての単一突然変異は、単一の可能な抗体接触表面につきとめられた。
【0290】
このエピトープマッピング方法を用いて、mAb 806は、接触残基として作用するAsp297−Cys302、Glu293、および恐らくはCys287を持つ連結されたジスルフィドループ287−302の1つの面に突き止められた。そのような構造的モチーフは、以前、システインヌースとして記載され、これは、結合特異性において重要なジスルフィド連結された表面露出ループである(37)。システインヌースは、ウシ呼吸器系シンシチウムウイルスのプロテインGおよび麻疹ウイルスヘマグルチニンタンパク質を含めた種々のタンパク質についての主な抗原性エピトープとしても同定されている(38;39)。これは、ジスルフィド連結ループが好都合な抗原性構造であることを示唆する;それは既に連結されているので、抗原結合の際により小さなエントロピーコストがある。それゆえ、EGFRにおける多数の他のジスルフィドループは抗体結合のための潜在的エピトープ標的である。mAb 806は、ドメインII二量体化アームを欠く細胞でのEGFRへの増大した結合をディスプレイすることが示されている。従って、mAb 806は、それが自己抑制性の立体配座から延長されたモノマー立体配座に変化するので受容体の移行形態に結合すると仮定された(先の実施例および(34)参照)。mAb 806結合の際に、EGFRモノマーはもはや二量体化し、受容体を活性化できないと考えられ、これは、その抗腫瘍活性を説明する。ここに示されたmAb 806エピトープはこの仮説と一致する。そのエピトープは、隣接ドメインII残基によって不明瞭とされた残基Glu293およびCys302を持つ、自己抑制性のモノマー構造において部分的に接近可能であるに過ぎない(
図19D)。これらの残基は、立体配座移行に際して暴露されるようになり得、mAb 806の結合を可能にする。1つのEGFRモノマーのmAb 806エピトープは、EGFRダイマー構造における他のモノマーに隣接しており、このエピトープへの抗体結合は立体的にEGFR二量体化を妨げることができた。
【0291】
(材料および方法)
(エピトープマッピングライブラリーの構築および発現)
Stratagene GeneMorph(登録商標)ランダム突然変異誘発キットを用いてエピトープマッピングライブラリーを構築して、低突然変異誘発率を得た。ライブラリー構築で用いた鋳型は、酵母ディスプレイのために挿入された、ジスルフィド誤対合を妨げるためのC283A突然変異を持つ、EGFR断片273−621を含有するpCT302骨格であった(27)。Qiagen Qiaquickゲル抽出キットを用い、PCR産物をゲル精製し、抽出した。ライブラリーを、Bio−Rad(Richmond,CA)遺伝子Pulserトランスフェクション装置を用いるエレクトロポレーション(40)および相同組換え(41)によってSaccharomyces Cerevisiae株EBY100(28)に形質転換した。最終的なライブラリーは、Zymoprep
TM(Zymo Research)を用いるプラスミド回収および100ライブラリークローンの配列決定(MIT Biopolymers Laboratory)によって示されるように、EGFR断片に対するアミノ酸変化の大まかなポアソン分布を含んだ。酵母表面を用いるライブラリーの成長および発現は以前に記載されているように行った(28)。
【0292】
(ライブラリーの標識および分類)
抗ヒトEGFRマウスモノクローナル抗体806は、一般に、Ludwig Institute for Cancer Researchによって提供された。抗c−mycニワトリIgY画分を、Molecular Probes(Eugene,OR)から購入した。適当な数の酵母細胞(少なくとも10×ライブラリーサイズ)をFACS緩衝液(1mg/mLウシ血清アルブミンを含有するリン酸緩衝化生理食塩水)で処理した。細胞を4μg/mLの抗c−mycニワトリIgYおよび適当な濃度のmAbと共に25℃にて30分間インキュベートした。次いで、細胞をFACS緩衝液で洗浄し、1:25希釈フィコエリスリン標識したヤギ抗マウスIgG(Sigma)および1:100希釈Alexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ニワトリIgG(Molecular Probes)と共に4℃にて30分間インキュベートした。標識された細胞を濯ぎ、MITフローサイトメトリーコア施設においてMoFlo FACSマシーンを用いて細胞ライブラリーを分類した。
【0293】
(単一クローンの同定および試験)
分類されたライブラリー集団からのプラスミドを、Zymoprep
TMを用いて回収し、MIT Biopolymers Laboratoryにおいて配列決定した。QuickChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発(Stratagene)を用いて部位特異的突然変異体を作成した。EZ酵母形質転換(Zymo Research)を用いて単一クローンを酵母に形質転換し、最小培地(酵母窒素塩基、カゼイン加水分解物、デキストロース、およびリン酸緩衝液pH7.4)中で一晩増殖させた。酵母表面タンパク質の発現を、ガラクトースを含む最小培地に移し、一晩インキュベートすることによって誘導した。各クローンについては、抗c−mycニワトリIgY、適当なmAbおよび二次蛍光抗体で、上記のように、1×10
6細胞を標識した。蛍光データは、Coulter Epics XLフローサイトメーター(Beckman−Coulter)を用いて得られ、DakoCytomation Summit
TMソフトウェアを用いて分析した。
【0294】
(mAb806に対するEGFR断片の力価測定)
細胞を上記のように増殖させ、誘導した。1×10
6細胞は、上記のように、適当な濃度のmAb 806、抗c−mycニワトリIgY、および二次蛍光抗体を用いて標識した。c−myc陽性酵母の蛍光データはCoulter Epics XLフローサイトメーターを用いて得られ、最大および最小平均蛍光強度によって正規化した。結合相互作用は、リガンド欠失のない単一部位結合モデルであると推定された。力価測定データは方程式:
【0295】
【化15】
(式中、fmAbは酵母表面でディスプレイされたEGFR273−621へのmAb 806の部分的結合であり、[mAb]はmAb 806の濃度であり、Kdは見掛けの解離定数である)
にフィットさせた。これらのデータセットの全体的フィットはMicrosoft Excelを用いて行い、68%信頼区間は(42)に従って計算した。
【0296】
(タンパク質イメージおよび表面積の計算)
全てのEGFRタンパク質イメージは、PyMOLソフトウェア(pymol.orgにおけるDeLano Scientific LLC)を用いて作成した。EGFR(PDB ID 1NQL)の各残基の溶媒接近可能表面積はGetarea 1.1(scsb.utmb.edu/cgi−bin/get
a
form.tclにおけるSealy Center for Structural Biology, University of Texas Medical Branch)を用いて計算した。
1.0のウォータープローブサイズを用いて、表面にあるEGF接触残基の正しい同定を可能とした。20以上の値を持つ残基を表面残基とみなした。
【0297】
(参考文献)
【0298】
【表17】
【0299】
【表18】
【0300】
【表19】
【0301】
【表20】
【0302】
【表21】
【0303】
【表22】
【0304】
本発明は、その精神または本質的特徴を逸脱することなく、他の形式で具体化でき、他の方法で実施することができる。従って、本開示は、全ての態様において例示的であると考えられ、限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、等価物の意味および範囲内にある全ての変更は、そこに含まれることを意図する。種々の文献が本明細書全体にわたって引用されるが、その各々はその全体が参考として本明細書中に援用される。