(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045196
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】海洋構造物
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
E02B3/06
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-119685(P2012-119685)
(22)【出願日】2012年5月25日
(65)【公開番号】特開2013-245470(P2013-245470A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】峯松 麻成
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 徳一
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−312609(JP,A)
【文献】
特開2004−150003(JP,A)
【文献】
特開2005−023635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04−3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋構造物の基礎マウンドは、該基礎マウンド内への海水の流れを遮断するための、不透水性あるいは難透水性の特性を有する被覆シートにより覆われ、
前記被覆シートは、引張強さが15cN/dtex以上の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上の高弾性の特性を有する有機繊維を含み、
前記有機繊維は、ポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする海洋構造物。
【請求項2】
前記有機繊維は、引張強さが15cN/dtex以上60cN/dtex以下の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上2400cN/dtex以下の高弾性の特性を有することを特徴とする請求項1に記載の海洋構造物。
【請求項3】
前記基礎マウンドの全体を覆うように前記被覆シートを配置することを特徴とする請求項1または2に記載の海洋構造物。
【請求項4】
複数のアースアンカーにより前記被覆シートを張設することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の海洋構造物。
【請求項5】
前記被覆シートを、複数枚重ね合わせることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の海洋構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾、海岸や水産施設等に設置される海洋構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、海洋構造物である、例えば防波堤は、経済的な観点から基礎マウンド上にコンクリート製ケーソンが複数配列され構成される混成堤が大半を占めている。基礎マウンドの役割は、軟弱な海底地盤への設置圧を軽減する荷重分散効果と、上面を均すことでケーソンが計画通りに設置できる土台を提供することである。基礎マウンドの捨石の安定性は、通常、設置海域の波浪条件に応じ耐波安定性が確保できるように必要重量を定める。また、石材の所要重量が不足する場合、被覆ブロックや根固めブロックなどコンクリート製ブロックを用いるようにしている。
【0003】
津波の周期は数分から数時間におよぶ長周期の水位変動であり、継続時間が桁違いに長いため波高が小さくとも大きな波エネルギーを有する特徴を持つ。ただし、従来数秒から20秒程度の波(風波やうねり)の設計波高が大きく、これに対する耐波安定性により堤体断面が決まっていた。しかし、これまでに経験しないような巨大な津波の作用により基礎マウンドが崩壊し、ケーソンの安定性が著しく低下する現象が明らかとなってきた。例えば、津波の周期は長いことから、捨石を積層してなる基礎マウンドのような透過性構造は容易に堤体内部を透過すること、また、構造物の平面配置や水深が変化することで津波の波高が高くなり流速がそれに応じて速くなること(グリーンの法則によって、水路幅の1/2乗および水深の1/4乗に比例)などが影響し、それによって、基礎マウンドが崩壊する現象が明らかになってきた。そこで、津波の変形を考慮した流速を推定して、それに対する安定質量を計算すると、数百トンに及ぶ質量が必要になる場合もあり、重量式構造では現実的ではないことが明らかとなってきた。
【0004】
上述したように、基礎マウンドが不安定になる要因としては、表面流速に伴う揚圧力、透過層(基礎マウンドの内部)を伝播する流れであると推測することができ、これらを抑制するためには基礎マウンドを被覆することが効果的であると考えられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、人工マウンドのような構造物を構築するに際して、大サイズのマット部材を用いて、中詰め材として捨石やコンクリート等のような一定の大きさの塊を積み重ねたものをカバーして一体化して構築することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−23635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明では、人工マウンドをマット部材により被覆して一体化させているが、通常のマット部材では引張強度及び弾性が乏しく、マット部材に偏荷重が作用すると破損及び破断する可能性があり採用することはできない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、基礎マウンドの安定性を確保する海洋構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、海洋構造物の基礎マウンドは、該基礎マウンド内への海水の流れを遮断するための、不透水性あるいは難透水性の特性を有する被覆シートにより覆われ、前記被覆シートは、引張強さが15cN/dtex以上の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上の高弾性の特性を有する有機繊維を含
み、前記有機繊維は、ポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とするものである。
また、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記有機繊維は、引張強さが15cN/dtex以上60cN/dtex以下の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上2400cN/dtex以下の高弾性の特性を有することを特徴とするものである。
請求項1の発明では、被覆シートが不透水性あるいは難透水性の特性を有するので、基礎マウンド内を通過する流れも遮断することができ、透過層(基礎マウンドの内部)を伝播する流れに対しても安定性を高めることができる。
また、請求項1及び2の発明では、被覆シートは、特に、高弾性及び高強度の特性を有する有機繊維を含むので、基礎マウンドの表面の細かい凹凸に追従することができ、偏荷重が作用しても破損や破断を抑制することができ、ひいては、基礎マウンドの安定性を長期間確保することができる。
さらに、請求項
3に記載した発明は、請求項1
または2に記載した発明において、前記基礎マウンドの全体を覆うように前記被覆シートを配置することを特徴とするものである。
【0010】
請求項
4に記載した発明は、請求項1〜
3のいずれかに記載した発明において、複数のアースアンカーにより前記被覆シートを張設することを特徴とするものである。
請求項
4の発明では、被覆シートを基礎マウンドに強固に固定することができる。
【0011】
請求項
5に記載した発明は、請求項1〜
4のいずれかに記載した発明において、前記被覆シートを、複数枚重ね合わせることを特徴とするものである。
請求項
5の発明では、被覆シートを複数枚重ね合わせるので、基礎マウンドの安定性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の海洋構造物によれば、海洋構造物の基礎マウンド全体を不透水性または難透水性の特性を有する被覆シートで被覆するので、基礎マウンドの表層部が外部に露出することなく、また、基礎マウンドの内部への水の伝播を遮断することができ、津波等が発生した場合でも基礎マウンドの安定性を確保することができる。さらに、被覆シートは、引張強さが15cN/dtex以上の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上の高弾性の特性を有する有機繊維を含むので、被覆シートへの偏荷重により破損及び破断を抑制することができ、長期間基礎マウンドを安定させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る海洋構造物の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1において、ケーソンを除いた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を
図1及び
図2に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る海洋構造物1は、
図1に示すように、波浪方向と直交する方向に延びる基礎マウンド2と、該基礎マウンド2上に複数配列されるケーソン3と、基礎マウンド2全体を覆うように配置される被覆シート4とから構成される。なお、各ケーソン3内には、石材等の中詰め材が充填される。
【0015】
基礎マウンド2は、
図1及び
図2に示すように、捨石等を断面台形状に積層して構成される。基礎マウンド2の全体には被覆シート4が覆われている。被覆シート4は、基礎マウンド2の幅方向(波浪方向)全幅よりも長い幅長を有し、基礎マウンド2の幅方向両側の法面の下端から所定距離の海底面も覆うようにしている。
【0016】
また、
図2に示すように、被覆シート4は、複数のアースアンカー5により基礎マウンド2上に固定されている。詳しくは、被覆シート4は、断面において、基礎マウンド2の沖側法面の下端から沖側の海底面に間隔を置いて2箇所、基礎マウンド2の沖側の法面に間隔を置いて2箇所、基礎マウンド2の陸側の法面に間隔を置いて2箇所及び基礎マウンド2の陸側法面の下端から陸側の海底面に間隔を置いて2箇所固定されている。基礎マウンド2の沖側及び陸側の各法面に配置された各アースアンカー5は、基礎マウンド2内を貫通してその下端が海底の内部まで到達している。被覆シート4は各アースアンカー5により基礎マウンド2の表面に張り付くように張設されている。なお、被覆シート4のアースアンカー5による固定箇所は、上記した固定箇所に限定されることなく、必要に応じた固定箇所及びその数量を適宜設定すればよい。
【0017】
なお、上述した形態では、被覆シート4を、基礎マウンド2の全体を覆うように配置しているが、場合によっては、基礎マウンド2のケーソン3との接触範囲で幅方向の中央付近は被覆シート4にて覆う必要はない。また、本実施の形態では、一枚の被覆シート4により基礎マウンド2を被覆しているが、複数枚の被覆シート4を重ね合わせて基礎マウンド2を被覆するようにしてもよい。
【0018】
被覆シート4は、主な構成材として高強度及び高弾性率を有する有機繊維が用いられる。この有機繊維は、JIS L1013に規定の方法で測定する、引張強さ(引張強度)が15cN/dtex以上60cN/dtex以下の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上2400cN/dtex以下の高弾性の特性を有する。この有機繊維は、耐摩耗性、耐疲労性及び耐久性にも優れている。該有機繊維は織物あるいは編物、ネットなどの形態で使用することができる。なお、上記有機繊維は、例えば、高分子量のポリオレフィン(好ましくはポリエチレンあるいはポリプロピレン)を溶融紡糸あるいはゲル紡糸法により得ることができる。
【0019】
また、被覆シート4は、不透水性あるいは難透水性の特性を有するものである。ところで、不透水性とは、JIS A1218に規定の方法で測定される透水係数が1×10
−9以下をいい、難透水性とは、透水係数が1×10
−2以下をいう。基礎マウンド2に用いられる石材層の持つ透水係数に対して2桁程度透水係数を小さくすることで本発明の効果が確実なものとなるため本実施形態の被覆シート4はその透水係数が1×10
−2以下であることが好ましく、特に好ましくは1×10
−3以下である。
【0020】
そこで、被覆シート4が不透水性あるいは難透水性の特性を有する手段としては、例えば、前記有機繊維にシート状体を複合することにより達成することができる。
複合するシート状体として、例えば不織布を採用する場合、該不織布としては、構成する繊維が5.5dTex以下であることが透水性を小さくする上で好ましく、特に好ましくは1.5dTex〜3.3dTex以下である。また、不織布の目付は少なくとも80g/m
2以上、好ましくは150g/m
2以上1000g/m
2以下である。不織布の素材としては、限定はしないがポリオレフィンあるいはポリエステルであることが特に好ましい。前記有機繊維と不織布との接合方法は特に限定されないが熱接着繊維を用いる方法や縫製などにより接合することが可能である。
【0021】
また、複合するシート状体として、例えばフィルム状シートを採用する場合、厚みが50〜3000ミクロン程度のポリオレフィン系のフィルムを採用することが可能である。該フィルムの材質は、接着性や耐久性の観点から有機繊維と類似の素材にすることが接着性や耐久性の観点で特に好ましい。フィルムが薄い場合には熱ラミネートを行うと若干のボイドを発生する場合もあるが、厚みが50ミクロン以上あれば本発明で必要とされる難透水性は確保することが可能である。一方厚みが3000ミクロンより厚くなると基礎マウンド2の不陸への追随性が低下するとともに敷設作業に大掛かりな重機が必要となるため、あまり好ましくない。
【0022】
なお、被覆シート4が不透水性あるいは難透水性の特性を有する手段としては、上記実施形態の他例えば、前記有機繊維に耐候性のある樹脂、例えば、アクリル系樹脂やポリオレフィン系樹脂をコーティングする手段を採用してもよい。
【0023】
そして、まず、基礎マウンド2全体を被覆シート4で被覆することにより、表面の石材、あるいはコンクリートブロックは直接表層上の流れを受け無くなる。すなわち、従来の流れに対する石材の安定質量算定方法において、表層の石材に比べて内部の石材は安定性が高くなるのと同じメカニズムにより表面流速に伴う揚圧力の作用に対して効果が発揮される。さらに、被覆シート4は不透水性あるいは難透水性の特性を有するので、基礎マウンド2内を通過する流れも遮断することができ、透過層(基礎マウンド2の内部)を伝播する流れに対しても安定性を高めることができる。
また、被覆シート4は、引張強さが15cN/dtex以上60cN/dtex以下の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上2400cN/dtex以下の高弾性の特性を有する有機繊維を含むので、基礎マウンド2の表面の細かい凹凸に追従することができ、局所的に負荷(偏荷重)が作用しても破損や破断を抑制することができる。
【0024】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る海洋構造物1では、基礎マウンド2全体を被覆シート4により被覆して、該被覆シート4は、引張強さが15cN/dtex以上の高強度、及び伸張弾性率が400cN/dtex以上の高弾性の特性を有する有機繊維を含み、しかも、該被覆シート4は、不透水性あるいは難透水性の特性を有するので、基礎マウンド2の表面の細かい凹凸に追従することができ、局所的に負荷(偏荷重)が作用しても破損や破断を抑制することができる。この結果、基礎マウンド2に対して、長期間に亘って、表面流速に伴う揚圧力を抑制し、且つ透過層(基礎マウンド2の内部)を伝播する流れを遮断することができるので、基礎マウンド2の安定性を向上させることができる。しかも、巨大な津波等が作用した場合でも、上述した効果を奏することができ、基礎マウンド2を安定させることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 海洋構造物,2 基礎マウンド,3 ケーソン,4 被覆シート,5 アースアンカー