(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二つの釜に回転力を伝達する入力軸及び出力軸を備えると共に、前記釜回動台の回動時に前記入力軸及前記出力軸の軸間に生じる位相差を解消する差動伝達機構を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の二本針ミシン。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第一の実施形態の概要]
本発明の第一の実施の形態を
図1〜
図27に基づいて説明する。
本実施形態として以下に記載する二本針ミシン100は、いわゆる電子サイクルミシンであり、縫製を行う被縫製物である布地を保持する布保持部としての保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布地に所定の縫製データに基づく縫製パターンを形成する。
図1は本発明にかかる二本針ミシン100の斜視図、
図2は二本針ミシン100の機構構造を概略的に図示した構成図である。
ここで、後述する二本の縫い針111,112が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の水平方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する水平方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0018】
上記二本針ミシン100は、二本の縫い針111,112をその下端部に保持してZ軸方向に沿って上下動を行う針棒12と、ミシンモーター21を駆動源として縫い針を上下動させる針上下動機構20と、針棒12を縫い針111と縫い針112の丁度中間を通る中心線C回りに回動させる針棒回動機構30と、縫い針111,112に通された上糸U1,U2に下糸(図示略)を絡める二つの釜801を個々に備える二つの釜機構800,800と、駆動手段としての釜駆動モーター401から各釜機構800に釜回転の動力を伝達する入力軸411及び出力軸412を備えると共にこれら軸間の位相差を変更調節可能とする動力伝達機構400と、針棒回動台の中心線に垂直な平面上において被縫製物である布地を保持してX−Y平面に沿って任意に移動位置決めを行う移動機構としての布移動機構102と、上記各構成の動作制御を行う動作制御手段としての制御装置110と、二本針ミシン100の各構成を支持するミシンフレーム101と、中押さえ17と、天秤機構14とを主に備えている。
なお、上糸U1,U2につい特に区別する必要がない場合には、これらを総称して上糸Uと記載するものとする。
【0019】
[ミシンフレーム]
図1に示すように、二本針ミシン100は、外形がX軸方向から見て略コ字状を呈するミシンフレーム101を備えている。このミシンフレーム101は、二本針ミシン100の上部をなしY軸方向に延びるミシンアーム部101aと、二本針ミシン100の下部をなしY軸方向に延びるミシンベッド部101bと、ミシンアーム部101a及びミシンベッド部101bとを連結する縦胴部101cとを有している。
【0020】
[布移動機構]
図1に示すように、布移動機構102は、ミシンベッド部101bの上面において被縫製物を保持する保持枠102aと、保持枠102aを昇降可能に支持する支持アーム102bと、支持アーム102bを介して保持枠102aをX軸方向に移動させるX軸モーター102c(
図22参照)と、支持アーム102bを介して保持枠102aをY軸方向に移動させるY軸モーター102d(
図22参照)とを備えている。
布移動機構102は、かかる構成により、保持枠102aを介して被縫製物をX−Y平面の任意の位置に移動位置決めすることができ、一針ごとに任意の位置に針落ちを行うことができ、自在な縫い目の形成が可能となっている。
【0021】
[針上下動機構]
図3はミシンアーム部101aの一部を切り欠いた断面図、
図4は針棒12の周囲の構成の斜視図、
図5は針棒12の周囲の構成の縦断面図である。
図1乃至
図5に示すように、針上下動機構20は、上記ミシンアーム部101a内においてY軸方向に沿った状態で回転可能に支持された上軸22と、上軸22の一端部から回転力を付与すミシンモーター21と、上軸22の他端部に設けられた針棒クランク23と、針棒クランク23の回転中心に対する偏心位置に一端部が連結されたクランクロッド24と、針棒12の周囲に係合し不図示のネジにより抱き締め固定された針棒抱き25と、針棒抱き25を介してクランクロッド24から針棒12に上下動を伝達する伝達部材26とを備えている。
上軸22はミシンモーター21の出力軸に直結されて回転駆動が行われ、上軸22の回転は針棒クランク23とクランクロッド24とにより上下の往復動作に変換されて伝達部材26及び針棒抱き25を介して針棒12に伝達される。
【0022】
上記伝達部材26は、針棒抱き25を間に介在せしめる天板部261及び底板部262と、組付けの際に天板部261及び底板部262の間に針棒抱き25を介挿するための開口部263とを備えている。
天板部261及び底板部262は、いずれも平面視の中央部に針棒12を挿入可能な貫通穴が形成されており、当該各貫通穴に針棒12を挿通し、天板部261及び底板部262の間で針棒抱き25を抱き締め固定することで、伝達部材26と針棒12とを上下方向について連動し、なお且つ、針棒12の中心線C(
図2参照)回りの回動を可能とする。
【0023】
さらに、伝達部材26は、Y軸方向に沿った支軸264を備え、クランクロッド24の下端部は、メタル軸受けを介して支軸264を回動可能に支持する。また、この支軸264は、クランクロッド24を貫通しその背後において、角駒265に連結されている。
この角駒265は、長方形状であって、角駒265が回動せずに上下動を行うためのガイド溝101dがミシンアーム部101aの内壁に形成されている。
従って、クランクロッド24の下端部が上下動を行う際には、伝達部材26は、支軸264回りの揺動及びX軸方向のぶれが防止され、針棒12に安定した上下動動作を伝達することを可能としている。
【0024】
[針棒回動機構]
針棒12は、その下端部側が下針棒メタル(メタル軸受け)122(
図3参照)により上下動及び中心線C回りの回動を可能な状態で支持され、上端部側は針棒回動機構30の針棒回動台31の下端部に設けられた上針棒メタル(メタル軸受け)121(
図5参照)により上下動可能に支持されている。
また、針棒12の下端には針留め装着用穴が形成されている。この針留め装着用穴に針留め124が装着され、針棒内部に配置された押えネジ129(
図12参照)により、針留め124が針棒12に固定される。
針留め124は二本の縫い針111,112を保持する。また、針棒12の上端部には、針棒回動台31に対する回り止めとなる矩形板123が装備されている。二本の縫い針111,112は、針棒12の中心線Cを中心として対称となる位置に同じ高さでいずれもZ軸方向に沿った状態で取り付けられている。
矩形板123は、針棒12の上部に形成された貫通溝12aに挿通されて、不図示のネジにより固定されている。このため、矩形板123は、針棒12に対して、当該針棒12を中心とする円の直径方向両側に突出しており、これら突出部が一対の凸部123a,123bを構成している。
なお、針棒12と矩形板123は別部品で構成したが、これに代えて、針棒に一対の凸部を一体的に形成することも容易に考えられる。
【0025】
図6は針棒回動機構30の水平断面図である。
図4〜
図6に示すように、針棒回動機構30は、針棒12を内側で上下動可能に支持すると共に針棒12の中心線C回りに回動可能に支持された円筒状の針棒回動台31と、針棒回動台31の中心線C回りの回動動作の駆動源となる針回動モーター32と、針回動モーター32から針棒回動台31に回動動作を伝達する伝達機構33とを備えている。
【0026】
針棒回動台31は、その上端部及び下端部がメタル軸受け311、312により中心線C回りに回動可能に支持されている。上側のメタル軸受け311は、ミシンアーム部101aの上面近傍に固定装備されている。
また、下側のメタル軸受け312は、半径方向外側に延出された支持腕部312a(
図4)を介してミシンアーム部101aの壁面に取り付けられた支持部材313により保持されている。
針棒回動台31は、これらにより上下二箇所が支持されているので、鉛直上下方向を向いた状態を強固に維持することができ、針棒12の円滑な上下動動作を可能とする。
また、針棒12も上下の針棒メタル121,122により支持されているので、針棒回動台31と共に鉛直上下方向を向いた状態を強固に維持することができる。
【0027】
また、針棒回動台31は、Z軸方向に沿った長穴状の開口部が
図5におけるY軸方向の両側面部に形成されており、当該開口部にはそれぞれ長尺なるガイド板314,314が上下2箇所でネジ止め固定されている。各ガイド板314,314は、Z軸方向に沿って長穴314aが貫通形成されており、それぞれの長穴314a,314aにはその内側から針棒12の凸部123a,123bが挿入されている。長穴314aの幅は凸部123a,123bの幅よりに僅かに広く形成されており、これにより、凸部123a,123bが長穴314aに沿って滑動することを可能としている。つまり、これらガイド板314,314と針棒12の凸部123a,123bの協働により、針棒12が上下動動作を妨げられることなく、針棒回動台31と共に中心線C回りに回動を行うことを可能としている。
【0028】
伝達機構33は、針回動モーター32をその出力軸が下方に向いた状態で支持するモーターブラケット331と、針棒回動台31のミシンアーム部101aの上面からの突出端部を軸受け334により回動可能に支持する支持ブラケット333と、針回動モーター32の出力軸に固定装備された主動スプロケット332と、針棒回動台31の突出端部近傍に固定装備された従動スプロケット335と、主動スプロケット332及び従動スプロケット335に掛け渡されたタイミングベルト336とを備えている。
これにより、針回動モーター32が駆動すると、針棒回動台31に回動が付与され、針棒回動台31と共に針棒12を回動させることが可能となっている。
なお、針棒12の中心線と針棒回動台31の回動中心線と後述する釜回動台130の回動中心線はいずれも同一直線上にあり、これらを統一して中心線Cというものとする。
【0029】
[中押さえ]
図7はX軸方向から中押さえ17及び針棒12の下端部を見た正面図、
図8は中押さえ17の底面図である。
中押さえ17は、針棒12と同じくミシンモーター21を駆動源としており、中押さえ上下動機構170を介して針棒12と同期した上下動動作が付与される。そして、この中押さえ17は、縫い針111,112の周囲で針棒12よりも小さな振幅で上下動を行い、縫い針111,112の上方移動の際に、布地が引き上げられないように、当該布地を押さえるものである。
【0030】
中押さえ17は、中押さえ上下動機構170の中押さえ棒171の下端部に固定支持される支持部17aと縫い針111,112を遊挿可能な円筒状の枠部17bとを備えている。この枠部17bは、針棒12の中心線Cと同心となるように当該針棒12の下方に配置されると共に、二本の縫い針111,112を同時に挿入可能な内径とされている。即ち、二本の縫い針111,112の中心間隔をh、縫い針111,112の目穴位置における外径をdとした場合に、枠部17bの内径は、中心間隔hと縫い針111の目穴位置における半径d/2と縫い針112の目穴位置における半径d/2の合計値h+dとほぼ等しいかこれより若干大きな値に設定されている。
【0031】
また、後述する中押さえ上下動機構170は、中押さえ17の上下動振幅と上下動を行う高さを調節することができる。
これにより、例えば、縫製時において、天秤142による上糸Uの引き上げの際に、布地Fが上方に引っ張り上げられて糸締まりが悪化するような場合には、中押さえ17の振幅を0として、その枠部17bの底部を布地Fの上面に接触するかしないかの近接状態とすることで、糸締まりを向上させることができる。
しかしながら、このように中押さえ17を布地に最大限に接近させると、枠部17bと布地との間にほとんど隙間ができないので、上糸が挟まれて布移動の円滑性が損なわれる恐れが生じる。
そこで、中押さえ17の枠部17bの底部には円周に沿って均一間隔で丸く下方に突出した複数の突起17cが設けられている。これにより、各突起17cの先端部が布地Fのばたつきを効果的に抑え、各突起17cの間の隙間から上糸を通すことができ、布地の移動も円滑に行うことが可能となっている。
この中押さえ17では突起17cを八つ設けているが、より少なくしても良いし、より多くしても良い。また、布地Fは、布移動機構102により任意の方向に移動を行うが、各突起17cを均一に配置しているので、いずれの方向に布地Fが移動する場合でも、各突起17cの間の隙間が存在し、布地移動の円滑性を維持することが可能となっている。
【0032】
[中押さえ上下動機構]
図9は中押さえ上下動機構170の概略構成図である。図示のように、中押さえ上下動機構170は、中押さえ17を下端部で保持すると共にミシンアーム部101a内において上下動可能に支持された中押さえ棒171と、中押さえ棒171を通じて中押さえ17を下方に押圧して挙動を安定させる押圧バネ184と、ミシンモーター21から動力を得て上軸22と同じ周期でY軸回りに往復回動を行う駆動軸172と、駆動軸172に軸支されてY軸回りに往復回動を行う駆動腕173と、駆動腕173の回動半径方向に延出された腕部173aに一端部が連結された駆動リンク174と、一端部がミシンアーム部101a内においてY軸回りに回動可能に支持されると共に長手方向中間部が駆動リンク174の他端部に連結された回動腕175と、回動腕175の他端部と中押さえ棒171に固定装備された棒抱き176とを連結する第一と第二の伝達リンク177,178と、第一の伝達リンク177の一端部と第二の伝達リンク178の一端部とがY軸回りに回動可能に連結されると共にこれらの連結部においてY軸回りに回動可能に装備された角コマ179と、角コマ179を滑動可能にガイドする直線状のガイド溝180aを有するガイド板180と、ガイド板180に回動動作を付与する高さ調節モーター181と、Y軸方向に沿った高さ調節モーター181の出力軸に軸支されると共に当該出力軸を中心とする回動半径方向外側に向かって延出された出力腕182と、出力腕182とガイド板180とを連結する連結リンク183とを主に備えている。
【0033】
上記駆動軸172は、ミシンモーター21により回転駆動が行われる上軸22から例えばクランク機構を介して往復回動動作が付与されている。上軸22の回転周期と駆動軸172の往復回動周期は一致しており、これによって、縫い針111,112の上下動と中押さえ17の上下動とは同期が図られている。
駆動腕173は、その腕部173aに沿って長穴173bが形成されており、駆動リンク174の一端部は締結ボルト174aにより当該長穴173bの任意の位置に連結可能となっている。長穴173bは、駆動腕173の回動半径に沿って形成されているので、その連結位置を変えることで駆動軸172からの距離に比例して駆動リンク174に付与する往復動作量を調節することができる。そして、駆動リンク174の往復動作量は、中押さえ17に伝達される上下動の振幅にほぼ比例するので、長穴173bに対する駆動リンク174の一端部の連結位置を変えることで中押さえ17に伝達される上下動の振幅を調節することが可能となっている。
つまり、長穴173bが形成された駆動腕173の腕部173aと長穴173bの任意の位置に駆動リンク174の一端部を連結可能とする締結ボルト174aとにより、中押さえ17の上下動の振幅を調節する振幅調節部を構成している。
【0034】
なお、長穴173bは、駆動リンク174とほぼ同じ長さを半径とする円弧状に湾曲形成されており、駆動軸172が所定の軸角度であるときに長穴173bに対する駆動リンク174の一端部の連結位置を変えることにより、回動腕175から中押さえ17までに姿勢の変化を生じさせることなく中押さえ17の上下動振幅の調節を行うことが可能となっている。
また、長穴173bは、駆動軸172の中心と駆動リンク174の一端部の回動中心とが同心となる位置まで形成されており、駆動軸172の中心と駆動リンク174の一端部の回動中心とが同心となるように駆動リンク174の一端部の位置調節を行うことにより、駆動リンク174から中押さえ17までの各部材に全く動作を付与しない停止状態とすることができる。つまり、これにより、中押さえ17を上下動させないで縫製を行うことが可能である。
【0035】
回動腕175は、駆動リンク174によりその他端部が往復回動動作を行う。
前述したように、第一の伝達リンク177と第二の伝達リンク178とは互いの一端部がY軸回りに回動可能に連結されており、第一の伝達リンク177の他端部がY軸回りに回動可能な状態で回動腕175の他端部に連結されている。また、第二の伝達リンク178の他端部はY軸回りに回動可能に棒抱き176に連結されている。
第一の伝達リンク177と第二の伝達リンク178とは、相互の連結部において中折れを生じ得る構造となっているので、そのままの状態では回動腕175から棒抱き176に対して往復上下動を伝達することができないが、各リンク177と178の連結部には角コマ179が装備され、当該角コマ179はその挙動がガイド板180に形成されたガイド溝180aにより一定の直進方向に動作が規制されている。このため、ガイド板180が回動しないで定位置を維持している状態では、第一の伝達リンク177と第二の伝達リンク178はほぼ一定の屈曲角度を維持することができ、回動腕175から棒抱き176に対して往復上下動を伝達可能となっている。
また、
図9(A)及び
図9(B)に示すように、ガイド板180が回動すると、ガイド溝180aの傾斜角度が変動し、これにより、第一の伝達リンク177と第二の伝達リンク178の屈曲角度を変化させることが可能である。これにより、回動腕175の他端部と棒抱き176との距離を変えることができ、中押さえ棒171を通じて中押さえ17の高さを変えることが可能となっている。この高さ調節により、中押さえ17は、その上下動を行う範囲全体の高さを任意に変えることができる。
【0036】
また、ガイド板180と出力腕182とガイド板180と連結リンク183とは、いわゆる四節リンク機構を構成しており、その一節に出力軸が連結された高さ調節モーター181の駆動により、ガイド板180の回動角度を任意に変更可能となっている。つまり、高さ調節モーター181の動作量を制御することで、中押さえ17の高さを自在に制御可能となっている。
つまり、第一の伝達リンク177、第二の伝達リンク178、角コマ179、ガイド板180、出力腕182及び高さ調節モーター181は、中押さえ17の高さを調節する高さ調節部を構成している。
【0037】
このように、中押さえ上下動機構170は、中押さえ17の上下動振幅を任意に調節し、中押さえ17の高さを任意に調節することが可能である。これにより、天秤142による上糸Uの引き上げの際に布地が上方に引っ張り上げられて糸締まりの悪化が生じるような場合に、前述した振幅調節部を構成する駆動軸172の中心と駆動リンク174の一端部の回動中心とが同心となるよう位置調節して、中押さえ17の振幅を0に調節する。さらに、高さ調節部を構成する高さ調節モーター171を駆動して、中押さえ17の高さを調節する。これらの調節により停止した中押さえ17を保持枠102aに保持された布地Fの上面に最近接させた直上位置に調節する。かかる状態で縫製を行うことにより、天秤142による布地の引き上げを抑止することが可能である。
【0038】
[天秤機構]
天秤機構14は、
図5に示すように、針棒クランク23に設けられたクランク軸24の上端部を支持する偏心軸により一端部が軸支されたリンク部材141と、天秤142を有するベルクランク部材143とから構成されている。
ベルクランク部材143は、ミシンアーム部101aの内部で軸支された基部と当該基部から延出された二本の腕部とを有し、一方の腕部がミシンアーム部101aの外部まで延出された天秤142となっている。また、もう一方の腕部143aは、リンク部材141の他端部に連結され、ベルクランク部材143に回動動作が入力される。
天秤142は、その先端部に上糸Uを挿通する貫通穴が形成されている。
かかる構成により、天秤機構14は、針棒12と同周期で天秤142が上下動を行う。但し、天秤142は針棒12よりも上軸角度で約60°程度遅れて上死点に到達するよう設計されている。
【0039】
[針棒及び上糸経路]
図10及び
図11は二本針ミシン100における上糸経路を示す斜視図である。二本針ミシン100は、上糸U1,U2を、糸調子器151から天秤142、第一のフレーム側糸案内152、第二のフレーム側糸案内(フレーム側糸案内)153、中央糸案内125を介して各縫い針111,112の目穴まで案内している。なお、フレーム側糸案内としての第二のフレーム側糸案内は、針棒回動台の中心線C側が凹状となる円弧状の長孔が形成されている。
【0040】
図12は針棒12の下端部における中央糸案内125を示している。
針棒12は中心線C回りに回動動作を行うので、第二のフレーム側糸案内153から針棒12の各縫い針111,112に渡る上糸U1,U2は、針棒12に対する絡みつきや上糸U1,U2同士の絡みを生じる恐れがある。
このため、針棒12の下端部に配置された針留め124には、中心線Cを中心とする円形の貫通孔からなる中央糸案内125が形成されている。
針留め124は、二本の縫い針111,112を保持し、中央糸案内125が形成されている本体部と、本体部から針棒下端に向けて上方に延びるクランク部(接続部)126から構成されている。クランク部(接続部)126は、針留め124の中央糸案内125の上方開口部(貫通穴の上面側部分)から離間する方向に、迂回するように形成されている。より具体的に説明すると、クランク部(接続部)126は、中央糸案内125に対して中心線Cを中心とする半径方向の一方(例えば、
図12(B)における右方)に回避するように屈曲形成されている。
このため、中央糸案内125の上方に遮蔽物が存在しない空間が形成され、その上方に位置する第二のフレーム側糸案内153から渡る上糸U1,U2に対するクランク部126による接触量を低減することを可能としている。
針留め124と一体化して形成されたクランク部(接続部)126は、針棒12の下端に形成された針留め用装着穴に装着され、針棒内部に配置された押えネジ129により、針棒12に固定される。
なお、クランク部(接続部)126は、針留めと一体化して形成したが、これに代えて、針棒下端を屈曲形成してクランク部(接続部)とし、針留め本体部にネジ等で固定したり、クランク部自体を別部材にすることも容易に考えられる(後述するクランク部128Bについても同様である)。
【0041】
なお、クランク部126は、半径方向の一方に回避する形状であることから、針棒12が一周する間に必ず上糸U1,U2とクランク部126との接触が発生する。しかしながら、上糸U1,U2とクランク部126とが接触しても、接触による上糸U1,U2の屈曲量がある程度大きくならない限りは、良好に上糸U1,U2を縫い針111,112側に送ることが可能である。
また、
図12(C)に示すように、中心線Cからクランク部126までの距離kをより広げるか又は中心線Cを中心とする円周をクランク部126が占める角度θをより小さくするかによって、クランク部126との接触による上糸U1,U2の屈曲量を低減することができ、これらによって、少なくとも針棒12の回動角度範囲を360°確保することが可能である。つまり、二本の縫い針111,112は全方向に向けることが可能となっている。
【0042】
また、中央糸案内125の上方に位置する第二のフレーム側糸案内153は、中心線C側が凹状となる円弧状の長孔が貫通形成され、この長孔により上糸U1,U2を案内する構造となっている。このため、針棒12の回動時に、二本の上糸U1,U2が中心線C回りに移動しやすくなり、相互の絡みや針棒12への絡みつき等による摩擦の発生を低減することができるようになっている。
なお、第二のフレーム側糸案内153の円弧状の長孔を、中心線Cを中心とする円周の円弧に沿って形成すると、上糸U1,U2をより円滑に案内することが可能である。
【0043】
[釜回動台]
図13は釜機構800の周囲の構成の斜視図、
図14は一部の構成を省略した斜視図、
図15は一台の釜機構800の図示を省略した斜視図、
図16は中心線C及びY−Z平面に沿った断面図である。これらの図に基づいて釜回動台130について説明する。
釜回動台130は、X−Y平面に沿った上面に二台の釜機構800を搭載する搭載板131と、搭載板131の下面に取り付けられた上部フレーム132と、上部フレーム132の下部に取り付けられた下部フレーム133とから構成され、これら搭載板131、上部フレーム132及び下部フレーム133がネジ止めにより一体化されている。
そして、釜回動台130は、その上部と下部とにおいて、ミシンフレーム101の一部をなす支持フレーム105により、軸受け134,135を介して中心線C回りに回動可能に支持されている。
【0044】
[動力伝達機構]
動力伝達機構400は、釜回動台130の上面に搭載された二つの釜機構800の釜801に対して釜駆動モーター401から回転力を付与する機能と、釜回動台130に対して釜回動モーター402から回動力を付与する機能と、釜回動台130の回動による釜軸811回りの位相の変動を補正する機能とを有している。
なお、上記各釜801は、いわゆる全回転の水平釜であり、布載置板103の下側において中心線Cに平行な釜軸811に固定装備され、後述する釜土台804により釜軸811と共にZ軸回りに回転可能に支持されている。
【0045】
動力伝達機構400は、各釜機構800に対して回転力を伝達する回転力伝達部410と、釜回動台130を回動させて各釜801を中心線C回りに旋回移動させる回動力伝達部420と、釜回動台130の回動により各釜801に生じる釜軸811回りの位相の変動を補正する差動機構部430と、従動スプロケット422から入力される回動力により、釜回動台130と後述する支持枠431とをミシンフレーム101の支持フレーム105から見て同方向に回動させると共に釜回動台130を支持枠431の二倍の回動量で回動させる回動連動機構としての回動連動部440とを備えている。
【0046】
[動力伝達機構:回転力伝達部]
回転力伝達部410は、各釜801の回転駆動源となる釜駆動モーター401と、釜駆動モーター401からのトルクが入力される入力軸411と、入力軸411から差動機構部430を介してトルクが伝達されると共に各釜機構800に出力する出力軸412と、釜駆動モーター401の出力軸に装備された主動スプロケット413と、入力軸411の下端部に固定装備された従動スプロケット414と、これらのスプロケット413,414に掛け渡された内歯のタイミングベルト415と、出力軸412の上端部に固定装備された出力スプロケット416と、当該出力スプロケット416と各釜機構800のそれぞれの入力スプロケット822との間に掛け渡された内外両歯のタイミングベルト417と、タイミングベルト417のテンションローラ418とを備えている。
【0047】
釜駆動モーター401は、出力軸を下方に向けた状態で支持フレーム105に固定されており、当該出力軸には主動スプロケット413が装備されている。
【0048】
上記入力軸411と出力軸412は、後述する差動機構部430の支持枠431の下部と上部とに回転可能に支持されており、これら入出力軸411,412は、いずれも中心線Cと同一線上に配置されている。
そして、入力軸411の下端部には従動スプロケット414が装備され、主動スプロケット413及びタイミングベルト415を介して釜駆動モーター401からトルクが入力される。
また、出力軸412の上端部には出力スプロケット416が装備され、タイミングベルト417を介して各入力スプロケット822から二つの釜機構800にトルクを入力する。
なお、タイミングベルト417は、その外歯が出力スプロケット416の外周面と接しており、その内歯が二つの入力スプロケット822及びタイミングベルト417の外周面に接してトルク伝達を行っている。つまり、出力スプロケット416から各入力スプロケット822への回転は反転して伝達されるようになっている。
【0049】
[動力伝達機構:回動力伝達部]
回動力伝達部420は、釜801の回動駆動源となる釜回動モーター402と、釜回動モーター402の出力軸に装備された主動スプロケット421と、釜回動台130の上部フレーム132の上部外周に固定装備された従動部材としての従動スプロケット422と、これらのスプロケット421,422に掛け渡された内歯のタイミングベルト423とを備えている。
これらの構成により、釜回動モーター402から各スプロケット421,422及びタイミングベルト423を介して、釜回動台130にトルクが入力され、釜回動台130の搭載板131の上面において、中心線Cから偏心した位置に設けられた釜801に対して、中心線C回りの回動動作が付与されるようになっている。
【0050】
[動力伝達機構:差動機構部]
差動機構部430は、入力軸411の上端部と出力軸412の下端部とを対向させた状態でこれらを回転可能に支持する支持枠431と、入力軸411の上端部に固定装備された第一のかさ歯車432と、出力軸412の下端部に固定装備された第二のかさ歯車433と、互いに対向する第一と第二のかさ歯車432,433の双方に噛合する伝達かさ歯車435を備えた伝達体434とを備えている。
【0051】
支持枠431は、釜回動台130により当該釜回動台130に対して中心線C回りに回動可能に支持されており、当該支持枠431と釜回動台130とは個々に中心線C回りに回動することを可能としている。
また、支持枠431の下部の中心には同心で入力軸411が軸受けを介して軸支されており、上部の中心には同心で出力軸412が軸受けを介して軸支されている。
【0052】
さらに、支持枠431の上下方向における中間部が略四角形の枠状構造となっており、当該枠状部において伝達体434が回転可能に支持されている。
伝達体434は、入力軸411と出力軸412の対向端部の間を通って中心線Cに直交する線上に設けられた軸部436と、当該軸部436に固定装備された伝達かさ歯車435とからなり、軸部436は支持枠431に軸受けを介して回転可能に支持されている。
また、伝達かさ歯車435は、第一と第二のかさ歯車432,433の双方に噛合して、第一と第二のかさ歯車432,433を介して入力軸411と出力軸412との間で互いに逆回りの回転を伝達可能としている。
上記の差動伝達機構としての差動機構部430は、二つの釜に回転力を伝達する入力軸411及び出力軸412を備えると共に、釜回動台130の回動時に入力軸411及出力軸412の軸間に生じる位相差を解消する機能を有する。
かかる構造により、差動機構部430はいわゆる差動歯車機構を構成している。
【0053】
図17は差動機構部430の支持枠431の回動により入力軸411−出力軸412間の伝達回転量への影響を示す説明図である。
第一のかさ歯車432と第二のかさ歯車433とは、歯数が等しく、相互の回転方向は逆に伝達されるが、伝達速度比は1:1となっている。
例えば、入力軸411から出力軸412に回転が伝達されている時に、支持枠431が入力軸411及び出力軸412を中心に角度αだけ回動を行うと、伝達かさ歯車435は第一のかさ歯車432の角度αの歯数分の回転を生じ、さらに、伝達かさ歯車435は第二のかさ歯車433を角度α分だけ回転させる。さらに、支持枠431が角度αだけ回動を行っているので、第二のかさ歯車433には伝達かさ歯車435の回転分と支持枠431の回動分の合計である角度2α分の回転を生じることとなる。つまり、支持枠431の一定方向の回動により、入力軸411に対して出力軸412は支持枠431の回動方向に二倍の回動角度分の角度差が発生することとなる。
【0054】
[動力伝達機構:回動連動部]
回動連動部(回動連動機構)440は、釜回動台130の回動時に支持枠431を同方向(作業者基準で見た場合における同方向、つまり、釜回動台130から見ると支持枠431は逆回転しているように見えるが、作業者の視点で見た場合には、支持枠431は釜回動台130の半分の動作量で同方向に回転する)に所定の比率で連動的に回動させるものである。
この回動連動部440は、支持フレーム105に回転不能状態で固定された固定歯車441と、釜回動台130に回動可能に支持された支軸442と、支軸442に固定され、固定歯車441に噛合う大歯車443(第1歯車)と、支軸442に固定され、従動歯車445に噛合う小歯車444(第2歯車)と、支持枠431に固定装備され、当該支持枠431と共に中心線C回りに回動を行う従動歯車445とを備えている。
固定歯車441は、中心線Cを中心とする配置で平歯車であり、大歯車443は、釜回動台130の回動時に、固定歯車441に噛合して回転しつつ当該固定歯車441の周囲を周回移動するようになっている。つまり、この回動連動部440では、固定歯車441が太陽歯車、大歯車443が遊星歯車となる遊星歯車機構を構成している。
ここで、固定歯車441と大歯車443とは、歯数が同一であり、伝達比が1:1に設定されている。また、小歯車444と従動歯車445とは、歯数が1:2であり、小歯車444の回転に対して従動歯車445には逆方向に半分の回転が伝達される。
【0055】
上記大歯車443は、釜回動台130が一定方向に回動を行うと、釜回動台130と共に中心線Cを中心に周回移動することで釜回動台130の回動角度と等しい角度変化を生じ、さらに、固定歯車441との噛合により釜回動台130に対して支軸442回りに釜回動台130の回動角度と等しい角度変化を生じるので、合計で、釜回動台130と同じ方向に二倍の角度変化を生じる。
一方、小歯車444は、釜回動台130が一定方向に回動を行うと、釜回動台130と共に中心線Cを中心に周回移動することで釜回動台130の回動角度と等しい角度変化を生じ、さらに、大歯車443に連動して釜回動台130に対して支軸442回りに釜回動台130の回動角度と等しい角度変化を生じるので、小歯車444も、釜回動台130と同じ方向に二倍の角度変化を生じる。
【0056】
これに対して、従動歯車445は、小歯車444が釜回動台130の回動により周回移動を行うと、釜回動台130と同じ方向にその回動角度と等しい角度変化を生じる。しかし、大歯車443が固定歯車441に噛合することで生じる回転に伴い、小歯車444が支軸442回りに回転するので、釜回動台130と逆方向に伝達比に応じて釜回動台130の回動角度の半分の回転を生じる。その結果、従動歯車445には、合計で、釜回動台130と同じ方向に釜回動台130の回動角度の半分の回転を生じることとなる。
つまり、この回動連動部440により、釜回動台130が回動を行うと、支持枠431に対して、釜回動台130と同じ方向に釜回動台130の回動角度の半分の回動動作が連動して行われるようになっている。
【0057】
動力伝達機構400は、上記の構成により、釜駆動モーター401の駆動により、入力軸411に対して一定の方向に一定の回転速度で回転が入力されると、差動機構部430を介して、出力軸412には逆方向に同じ回転速度で回転が伝達される。
さらに、釜回動モーター402により釜回動台130に対して、一定の方向に一定の回動角度で回動が入力されると、回動連動部440により、支持枠431は、釜回動台130と同じ方向に釜回動台130の半分の回動角度で回動動作が伝達される。
支持枠431が釜回動台130の半分の回動角度で回動を行うと、差動機構部430により、入力軸411に対して出力軸412には、支持枠431と同じ方向にその回動角度の二倍の回転角度変化を生じることとなる。
つまり、入力軸411に対して出力軸412には、釜回動台130と同じ方向に釜回動台130の回動角度と同じ回転角度変化を付与することができる。従って、釜回動台130の回動時に、出力軸412は釜回動台130に対して角度変化を生じないこととなる。
このため、釜回動台130の上で、釜機構800の釜801が回転駆動している状態において、釜回動台130の回動を行っても、出力軸412には釜機構800の回動と同じ角度変化が付与されるので、回動動作を行う釜回動台130上の釜機構800に対して、回動動作を行わない場所に釜駆動モーター401を設置しても、釜回動台130の回動時に釜回動台130上の釜機構800に入力される回転動作に位相差が発生しない構造となっている。
【0058】
上記回動連動部440の動作を回動角度を具体的に定めた簡単な例によりに説明する。
釜回動台130が反時計方向に180度回転すると、支軸442に固定された大歯車443と小歯車444は、釜回動台130と共に中心線Cを中心に反時計方向に180度回転する。さらに、固定歯車441により、大歯車443と小歯車444は、支軸442回りに反時計方向に180度回転する。
そして、小歯車444が釜回動台130と共に中心線Cを中心に反時計方向に180度回転すると、小歯車444と噛み合っている従動歯車445は、中心線Cを中心に反時計方向に180度回転する。
また、小歯車444が支軸442回りに反時計方向に180度回転すると、小歯車444と従動歯車445とは歯数が1:2のため、従動歯車445は、中心線Cを中心に時計方向に90度回転する。
この結果、従動歯車445には、反時計方向に180度の回転と、時計方向に90度の回転を合計した、反時計方向に90度の回転が生じる。
従動歯車445は支持枠431に固定されており、支持枠431も反時計方向に90度回転する。支持枠431が反時計方向に90度回転すると、第二のかさ歯車433は、伝達かさ歯車435の回転分(自身の時計方向に90度)と支持枠431の回転分(反時計方向に90度)の合計である、反時計方向に180度回転する。第二のかさ歯車433は出力軸412に固定されているため、出力軸412も反時計方向に180度回転する。
図2に示すように、出力軸412に固定された出力スプロケット416と、釜機構800の入力スプロケット822とは、タイミングベルト417で連動が図られている。
しかし、釜回動台130が反時計方向に180度回転すると、出力軸412も反時計方向に180度回転する。このため、釜回動台130の回転に伴い、入力スプロケット822に回転が生じないので、各釜機構800に位相差が発生しない。
【0059】
[釜機構]
二つの釜機構800,800は、中心線Cを基準として互いに対称に配置され、相互の構造は同一である。従って、一方の釜機構800のみついて説明するものとする。
図18は各釜機構800の平面図、
図19、
図20はそれぞれ釜機構800の一部の構成を省略した斜視図である。
図2、
図15、
図16、
図18〜
図20に示すように、各釜機構800は、釜回動台130の搭載板131の上面において中心線Cを基準として対称となる配置で搭載されている。これらの釜機構800は、一定方向に連続的に回転を行う外釜802とボビンを格納する内釜803とからなる水平釜としての釜801と、動力伝達機構400からのトルクを外釜802に伝達するトルク伝達機構810と、釜軸811を介して外釜802を回転可能に支持する釜土台804と、当該釜土台804に設けられ、内釜803に設けられた凸部803aが嵌合して内釜803の回転を規制する回り止め805と、針棒12の上下動と同じ周期で内釜803に当接して回り止め805と内釜の凸部803aとに上糸の抜ける隙間を形成するオープナー806と、オープナー806を作動させるオープナー作動部820と、釜土台804に搭載され、下糸の切断を行うメス機構830と、釜土台804の内部に潤滑油を供給する給油機構840とを備えている。
【0060】
[釜機構:釜]
釜801の内釜803は、上部が開放された有底の略筒状体であり、内底面の中心にはボビンをはめ込む軸部が立設されており、当該ボビンを格納する機能を有している。
外釜802も上部が開放された有底の略筒状体であり、その内部に内釜803を格納保持する。この外釜802は、内釜803を同心の状態を保持すると共に、当該内釜803に対して回転可能に結合されている。また、外釜802の底面の中心には、後述する釜軸811が垂下した状態で固定装備されている。そして、釜軸811は、Z軸方向に沿った状態で回転可能に釜土台804に支持され、釜土台804はネジ止めにより釜回動台130の搭載板131の上面に固定装備されている。
外釜802は、釜軸811から一定方向にトルクが入力され、針上下動の二倍の速度で回転が行われるようになっている。そして、外釜802に設けられた剣先が二回転に一回の割合で縫い針111又は112から上糸を捕捉するようになっている。
【0061】
外釜802は、内釜803の外周に取り付けられ、内釜803に摺接しつつ垂直な中心線回りに一定方向の連続的な全回転を行う。
一方、内釜803は、外釜802と供に回転を生じないように、外周上部に上方に突出した凸部803aを備え、当該凸部803aが回転方向の両側に迫る回り止め805に嵌合している。なお、嵌合部としては凸部803aのように突出する形状に限らず、例えば凹状とし、回り止め805を凸状にして嵌合させても良い。
【0062】
[釜機構:オープナー作動部]
オープナー作動部820は、釜土台804を上下に貫通し、Z軸方向に並行な状態で回転可能に支持されたオープナー軸821と、オープナー軸821の下端部に固定装備された入力スプロケット822と、オープナー軸821の上端部において当該オープナー軸821の回転中心線から偏心した位置に設けられた偏心軸823と、偏心軸823に一端部が連結されたクランクロッド824と、オープナー806を保持すると共にクランクロッド824の他端部に連結された回動腕825とを備えている。
【0063】
入力スプロケット822は、前述したように、動力伝達機構400の出力スプロケット416からタイミングベルト417を介してトルクが入力される。この入力スプロケット822は、出力スプロケット416よりも径が小さく、針棒12の上下動と同じ回転速度で入力スプロケット822が回転を行うように回転が増速されてトルクが入力される。
また、入力スプロケット822の近傍には図示しないテンションローラが併設されている。釜土台804は長穴を介してネジ止めにより釜回動台130の搭載板131の上面に固定装備されており、ネジを緩めることで位置調節を行い、釜801の位置調節を可能としている。この釜801の位置調節により、入力スプロケット822と出力スプロケット416との間に掛け渡されたタイミングベルト417が緩まぬよう、テンションローラがタイミングベルト417に常時押しつけられて、ベルトに張力を付与している。
【0064】
回動腕825は、釜土台804の上部において、Z軸回りに回動可能に支持されており、その回動腕825の一端部がクランクロッド824の他端部に連結されている。クランクロッド824は前述したように、その一端部が偏心軸823に連結され、周回運動が付与されるので、その他端部では回動腕825をオープナー軸821の回転と同じ周期で回動させることができる。
従って、回動腕825に固定装備されたオープナー806もその先端部が回動腕825と共に往復回動を行うこととなる。オープナー806はその回動動作により、内釜803の外周上部からその半径方向外側に延出された係止突起803bに接触し、外釜802の回転時に内釜803の凸部803aと回り止め805とが接触する部位を引き離し、上糸の通過を可能としている。
【0065】
[釜機構:トルク伝達機構]
トルク伝達機構810は、外釜802の底面中心に固定装備された釜回転軸としての釜軸811と、オープナー軸821の中間に固定装備された主動歯車812と、釜軸811に固定装備された従動歯車813とから構成されている。
主動歯車812と従動歯車813の歯数の比率は2:1であり、オープナー軸821から釜軸811には二倍速で回転が伝達される。つまり、釜801の外釜802は、縫い針の上下動の回数に対して二倍の速度で回転が行われる。
【0066】
なお、このトルク伝達機構810では歯車機構を採用しているが、トルク伝達可能なあらゆる種類の伝達機構を用いることが可能である。例えば、ベルト機構を用いても良い。その場合、釜駆動モーター401を逆回転で駆動させるか、出力スプロケット416と入力スプロケット822との間のトルク伝達をタイミングベルト417に替えて歯車機構を用いることが望ましい。
【0067】
[釜機構:給油機構]
図21(A)は給油機構840の水平方向の断面図、
図21(B)は給油機構840の垂直方向の断面図である。
給油機構840は、釜土台804に設けられた潤滑油を貯留する図示しないオイルタンクと、オープナー軸821の中間位置に形成された回転部841と、釜土台804内周と回転部841の切り欠け部841aとにより形成された油供給空間としてのポンプ室844と、ポンプ室844の上部と下部に装着されるオイルシール845、846と、ポンプ室844に連通する潤滑油の導入口843と、ポンプ室844に連通する潤滑油の排出口842と、回転部841の外周に当接して往復運動を行うプランジャ847とを備えており、これらによりプランジャポンプ型の給油ポンプが構成されている。
【0068】
回転部841の切り欠け部841aは、回転部841の片側が切り欠かれて楕円状に形成されている。また、導入口843はチューブを介してオイルタンクに接続されている。また、排出口842は、チューブを介して釜軸811や釜レース面に接続されている。
オープナー軸821は、上方から見ると反時計方向に回転し、導入口843に負圧が発生し、その負圧によって吸引力が発生し、オイルタンク内から潤滑油が吸引される。ポンプ室内に吸引された潤滑油は、オープナー軸821の回転とプランジャ847の作用によって、釜軸や釜レース面に潤滑油を供給する。
なお、この給油機構840では、プランジャポンプを例示したが、回転駆動源を用いることができるいずれの形式のポンプを使用しても良い。
【0069】
[釜機構:メス機構]
メス機構830は、固定メス831を固定保持するメス土台832と、固定メス831との協働により上糸及び下糸を切断する動メス833と、動メス833を保持するメス保持腕834と、メス保持腕834をZ軸回りに回動可能とするメス支軸835と、メス保持腕834に回動の動力を付与するカムとしての外周カム836と、メス支軸835の下端部に設けられ、外周カム836から回動の動力が入力されるメス駆動腕837と、外周カム836からメス駆動腕837への動力の入力の接続と切断とを切り替えるメス駆動用のエアシリンダ838と、エアシリンダ838の切り替え動作を伝達する伝達腕839とを備えている。
【0070】
メス保持腕834は、釜801の上方で往復の回動を行い、動メス833と固定メス831とで上糸及び下糸の切断を行う。
このメス保持腕834の往復回動の動力は、メス支軸835を介してメス駆動腕837から入力される。
メス駆動腕837は、その回動端部にコロ837aを保持しており、当該コロ837aを外周カム836の外周に当接させることで、外周カム836の外周形状に応じて回動動作が入力される。
外周カム836は、オープナー軸821の下部に固定装備され、オープナー軸821と共に回転を行う。そして、その外周の一部は、回転中心からの距離が大きくなっており、当該部位からコロ837aを介してメス駆動腕837に回動動作が付与される。
このように、メス機構830は、糸切り動作の動力をオープナー軸821から得ている。
【0071】
一方、オープナー軸821は、縫製中は連続して一定方向に回転を行っているので、外周カム836も同様に連続的に回転を行う。従って、メス機構830では、縫製中は、メス駆動用のエアシリンダ838を制御して、伝達腕839を介してコロ837aが外周カム836に接触しない位置まで退避させておき、縫製終了時などの糸切り実行時にエアシリンダ838を作動させてコロ837aを外周カム836に当接させて、糸切りを実行している。
【0072】
[ミシンの制御系:制御装置]
図22は二本針ミシン100の制御系を示したブロック図である。二本針ミシン100は、上述した各部、各部材の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置110を備えている。そして、制御装置110は、縫製における動作制御を行うためのプログラムが格納されたROM116と、演算処理の作業領域地となるRAM113と、縫製データを記憶する記憶手段としての不揮発性のデータメモリ114と、ROM116内のプログラムを実行するCPU115とを備えている。
【0073】
また、CPU115は、図示しないインターフェイスを介してミシンモーター駆動回路21a、X軸モーター駆動回路102e、Y軸モーター駆動回路102f、釜駆動モーター駆動回路401a、釜回動モーター駆動回路402a、針回動モーター駆動回路32a、高さ調節モーター駆動回路181aと接続され、これらを介して、さらに、ミシンモーター21、X軸モーター102c、Y軸モーター102d、釜駆動モーター401、釜回動モーター402、針回動モーター32、高さ調節モーター181のそれぞれに接続され、各モーター21,102c,102d,401,402,32,181の駆動を制御する。
また、ミシンモーター21は、図示しないエンコーダを備えており、その検出角度がCPU115に出力される。
また、上記各モーター102c,102d,401,402,32,181はステッピングモーターまたはサーボモーターであり、これらの図示しない原点検索手段がCPU115に接続され、その出力からCPU115は各モーターの原点位置を認識することができる。
さらに、CPU115は、インターフェイスを介して、釜機構800のメス駆動用エアシリンダ838を作動させる電磁弁838aの開閉を切り替える駆動回路838bと接続され、当該駆動回路838bを介して電磁弁838aの制御を行う。
【0074】
データメモリ114に格納されている縫製データには、所定の縫製パターンを縫製するための一針ごとのX軸モーター102c及びY軸モーター102dの動作量が順番に記憶されており、CPU115は、縫製の際には、一針ごとにX軸モーター102c及びY軸モーター102dを駆動する動作制御を行う。
また、高さ調節モーター181は、制御装置110に接続された図示しない設定手段から中押さえの高さが設定入力されると、縫製時に中押さえ17が設定高さとなるよう制御される。
また、制御装置110は、縫製時には、ミシンモーター21と釜駆動モーター401とが、針棒12の上下動周期と釜801の回転周期とが一致するよう同期制御を実施する。このため、ミシンモーター21と釜駆動モーター401とには、それぞれ図示を省略したエンコーダが併設されている。
【0075】
[二本針ミシンの縫製動作]
図23に示すように、二本の縫い目を円に沿って時計回りに一周分形成する縫製パターンの縫製動作を例として説明する。
図23において右側がミシンの天秤側(ミシンアーム部101aの天秤142が外部に突出している面)とする。
【0076】
二本針ミシン100の制御装置110は、上記縫製パターンを縫製するための縫製データから毎針の針落ち位置(正確には毎針の中心線Cの位置)を示した位置座標データを読み込むと共に、当該位置座標データが示す位置に中心線Cを位置決めするためのX軸モーター102c及びY軸モーター102dの駆動動作量を算出する。
さらに、毎針のX軸モーター102c及びY軸モーター102dの駆動動作量のデータから毎針の縫いの進行方向を求め、進行方向に直交する方向に縫い針111,112及び釜801,801が並ぶようにそれぞれの旋回角度を演算する。
そして、ミシンモーター21の駆動に同期して、一針毎にX軸モーター102c及びY軸モーター102dを駆動させて所定の縫い方向に縫いを進行させると共に、一針ごとに縫い針111,112及び釜801,801が予定された向きに並ぶように針回動モーター32及び釜回動モーター402を制御する。
すなわち、動作制御手段としての制御装置100は、予め定められた縫製パターンの形状に沿って被縫製物(布地F)が移動するように移動機構(布移動機構102)を制御すると共に、二本の縫い針111,112の並び方向が被縫製物(布地F)の移動方向に直交する方向となるように前記針棒回動機構30を制御する。
これにより、任意の縫製パターンについて平行な二本の縫い目による縫い目形成を実現することが可能である。
なお、一針ごとに縫い針111,112の並び方向を算出する場合に限らず、例えば、縫製データに毎針の中心線Cの位置座標データと縫い針111,112の向き(中心線C周りの針棒12の回動角度)とが定められ、これに従い、位置決めと針棒回動の動作制御を行っても良い。
【0077】
さらに、
図23の縫製パターンによる縫製を行う際の針棒12の針留め124周辺の上糸Uの状態について
図24に基づいて説明する。
図24(A)〜
図24(E)はそれぞれ
図23の縫製開始位置P0、円周の右端位置P1、円周の下端位置P2、円周の左端位置P3、円周の縫い終わり位置P4の各位置での上糸U1,U2の渡り状態を天秤側から見た状態を示している。
針棒12はクランク部126が天秤側の逆側に向いている状態(
図24(C)の状態)を基準位置としている。針棒12が基準位置にある状態であれば、時計回りと反時計回りの双方に対して最も回動角度を大きく確保することができるからである。通常の縫製の場合には、針棒12を基準位置に向けた状態で縫製を開始するが、この縫製パターンでは、針棒12が広範囲(360°)の回動を行うことを前提とするので基準位置から反時計方向に180°回動させた状態から縫製を開始する。以下の説明では、基準位置を角度0°とし、半径方向を(-)方向、時計方向を(+)方向とする。
【0078】
図24(A)に示すように、縫製開始位置P0では針棒12は-180°に向けられる。この状態では、中央糸案内125の上方はクランク部126により遮蔽されないので、各上糸U1,U2はいずれもほとんど屈曲を生じることなく第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125に渡った状態にある。屈曲を生じないので、上糸U1とU2との接触も少ない状態にある。
【0079】
縫製が開始され、円周の右端位置P1まで運針が進むと、
図24(B)に示すように、針棒12は毎針徐々に時計回りを行って-90°の向きとなる。この状態では、中央糸案内125の上方においてクランク部126は左方に位置し、各上糸U1,U2はほとんど屈曲を生じない状態が維持され、上糸U1,U2同士の接触も少ない状態が維持される。
さらに縫製が継続され、円周の下端位置P2まで運針が進むと針棒12は0°となり(
図24(C))、さらに、円周の下端位置P3まで運針が進むと針棒12は+90°となる(
図24(D))。これらの状態では、中央糸案内125の上方においてクランク部126は各上糸U1,U2とはほとんど接触せず、屈曲を生じない状態が維持され、上糸U1,U2同士の接触も少ない状態が維持される。
【0080】
さらに縫製が進み、円周の縫い終わり位置P4に到達すると、
図24(E)に示すように、針棒12は+180°の向きとなる。この状態では、中央糸案内125の上方においてクランク部126が天秤側を向いた状態となり、各上糸U1,U2と接触して屈曲を生じさせるが、屈曲量は少ないので、縫いに影響が出るほどの摩擦は生じない。また、屈曲量が少ないので上糸U1とU2との接触も少ない状態が維持される。
【0081】
[第一の実施形態の作用効果]
二本針ミシン100は、針留め124に中心線Cと同心となる円形貫通孔からなる中央糸案内125を備え、針棒12又は針留め124のクランク部126は、中央糸案内125の上方開口部から半径方向外側に迂回する形状であるため、針棒12を回動させても、第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125に渡る二本の上糸U1,U2は針棒12との接触による屈曲量が低減され、これにより摺動摩擦が低減されると共に上糸U1,U2同士の絡みつきが抑制される。従って、針棒12を広範囲で回動させることが可能となっている。
特に、針棒12の回動範囲を少なくとも360°の範囲までは比較的容易に確保することができ、二本針111,112を全方向に向けて縫いを行うことが可能となっている。
また、第二のフレーム側糸案内153が、中心線C側が凹状となる円弧状の長孔により上糸U1,U2を案内するので、針棒12の回動時に、二本の上糸U1,U2の針棒12による屈曲量をさらに低減することができ、摺動摩擦の低減及び上糸U1,U2同士の絡みつきをさらに効果的に抑制することが可能となる。
【0082】
また、二本針ミシン100は、布移動機構102により予め定められた縫製パターンの形状に従って縫製を行うことから、二本針111,112が広く全方向に向けて縫いを行うことができることにより、より多彩な縫製パターンについて二本針縫い目を形成することが可能となる。
【0083】
[縫製パターンの他の例]
縫製パターンは
図23の例に限られるものではなく任意であるが、縫い開始からの針棒12の回動角度が時計回り又は反時計回りに360°を大きく超えることはできない。
従って、例えば、螺旋模様のように、針棒12の回動角度が360°を大きく超えることが要求される縫製パターンを縫製する場合には、
図25に示すように、針棒回動角度が360°又は360°を超えた地点で布移動を停止して上糸U1,U2の巻き付きが生じていた方向とは逆方向に針棒12を180°回動させて再び縫製パターンに沿った縫製を再開する動作制御を行うことが望ましい。また、これ以降、同じ方向への針棒12の回動が継続される場合には、180°回動するたびに同じように針棒12の反転回動を一回行うことが望ましい。
これにより、針棒12の反転の際には二本の平行な縫い目を懸架する縫い目N1が一針加わることとなるが、360°を超えて針棒12の回動を行うことが可能となる。
【0084】
また、二本針による縫製パターンは縫い目を平行に形成する場合に限られない。例えば、
図26に示すように、縫製パターンに沿って布送りを行い、布送りの動作中に針棒12の時計方向と反時計方向の180°回動動作を一針ごとに交互に行うことでクロスした縫い目を縫製パターンに沿って形成することも可能である。
また、
図27に示すように、縫製パターンに沿って布送りを行い1ピッチの縫い目を形成するたびに停止して針棒12の時計方向と反時計方向の180°回動動作を一針ごとに交互に行うことで梯子状の縫い目を形成することも可能である。
【0085】
[動力伝達機構の他の例]
なお、前述した二本針ミシン100では、動力伝達機構400の釜駆動モーター401を釜回動台130に搭載せずに支持フレーム105に固定装備した場合を例示したが、上記の例に限らず、釜駆動モーター401を釜回動台130に搭載しても良い。
このような二本針ミシン100Aについて
図28に基づいて説明する。以下の説明では、二本針ミシン100Aについて二本針ミシン100と異なる点についてのみ説明し、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
この二本針ミシン100Aの動力伝達機構400Aは、前述した動力伝達機構400と異なり、支持枠431を含む差動機構部430と回動連動部440を有しておらず、釜駆動モーター401を釜回動台130に直接搭載している。即ち、この動力伝達機構400Aは、差動機構を有しておらず、単なる動力伝達機構である。
【0086】
上記釜駆動モーター401は、その出力軸が中心線C上に配置されると共に上方に向けられた状態で釜回動台130に固定保持されている。
一方、動力伝達機構400Aの回転力伝達部410Aは、釜回動台130において中心線C上となる位置に回転可能に支持された出力軸412Aと、当該出力軸412Aに固定装備された出力スプロケット416と、当該出力スプロケット416と釜機構800の入力スプロケット822との間に掛け渡されたタイミングベルト417とから構成されており、回転力伝達部410Aの出力軸412Aと釜駆動モーター401の出力軸とはカップリング419Aで連結されている。
また、動力伝達機構400Aは動力伝達機構400と同じ回動力伝達部420を備えており、釜駆動モーター401と共に釜回動台130を中心線C回りに回動させる。
かかる回動時に、釜駆動モーター401はその出力軸回りに回動を行うので、釜駆動モーター401の回転駆動時において、出力スプロケット416から釜機構800の入力スプロケット822に伝達される回転の位相の変動は生じない。従って、釜801の回動時に、位相のズレが発生せず、安定的に上糸の捕捉を行うことができる。
【0087】
また、釜回動台130の中心線C上に釜駆動モーター401を配置し、搭載板131上の釜機構800にトルクを入力する構成としたので、釜機構800の回動時に釜801に位相のずれが生じないことから、差動機構部430を不要とすることが可能となり、部品点数の低減、構造の簡易化を図ることが可能となる。
一方、釜回動台130に釜駆動モーター401を搭載するので、釜回動台130全体の重量の増加を生じる可能性があるが、この動力伝達機構400Aでは、釜回動台130の回動の中心線C上に釜駆動モーター401の出力軸が位置すると共に当該出力軸が中心線Cに沿うように配置しているので、モーターを横向きとする場合や中心線から外れて配置する場合に比べて、釜回動台130の慣性モーメントを最小限とすることができ、釜回動モーター402に必要となる出力を低減し、モーターの小型化を図ることが可能となる。
また、慣性モーメントの低減により、回動動作の高速化、高精度化を図ることが可能となる。
なお、釜回動台130に釜駆動モーター401を搭載する場合、釜駆動モーター401の配線を釜回動台130の外部に引き出さねばならないが、配線の捻れなどが発生しないように、回転しても導通接続を維持することが可能なスリップリングを介して釜駆動モーター401の配線を行うことが望ましい。
【0088】
[第二の実施形態]
第二の実施形態たる二本針ミシン100Bについて
図29から
図36に基づいて説明する。
以下の説明では、二本針ミシン100Bについて二本針ミシン100と異なる点についてのみ説明し、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
【0089】
図29はミシンアーム部101a内の構成について示した斜視図、図は二本の針棒12B,12Bの周辺の構成を示した側面図である。
なお、前述した二本針ミシン100では一本の針棒12で二本の縫い針111,112を保持していたが、この二本針ミシン100Bでは、二本の針棒12B,12Bが個別に縫い針111と112とを保持している。二本の針棒12B,12Bは前述した中心線Cを基準に対称に配置されており、また、後述するラッチ機構50Bにより各針棒12B,12Bの片方のみについて上下動を停止させることを可能としている。
【0090】
上記二本針ミシン100Bは、縫い針111,112を個別にその下端部に保持してZ軸方向に沿って上下動を行う二本の針棒12B,12Bと、ミシンモーター21を駆動源として縫い針を上下動させる針上下動機構20Bと、二本の針棒12B,12Bを上下動可能に支持する針棒回動台31Bを介して二本の針棒12B,12BをZ軸方向に沿った中心線C回りに回動させる針棒回動機構30Bと、二本の針棒12B,12Bを保持して針上下動機構20Bによる上下動動作を伝達するラッチ機構50Bと、ラッチ機構50Bの保持状態が解除された針棒12Bを保持するストッパ機構90Bと、ラッチ機構50Bによる各々の針棒12B,12Bの保持状態と解除状態を切り換える作動部材16Bと、作動部材16Bの位置切り替えを行う位置切り替え機構60Bと、各縫い針1111に通された上糸に下糸を絡める二つの釜801,801を個々に備える釜機構800B,800Bと、釜駆動モーター401から釜801,801に動力を伝達する動力伝達機構400と、布地を保持してX−Y平面に沿って任意に移動位置決めを行う移動機構としての布移動機構102と、上糸引き上げを行う天秤機構14と、縫製時に布を押さえる中押さえ17と、中押さえ17に上下動動作を付与する中押さえ上下動機構170と、ミシンフレーム101と、各構成制御する制御装置(図示略)とを主に備えている。
上述のように、選択的に片針縫い縫いを行う二本針ミシン100Bでは、二本の針棒12B,12Bの内、任意の針棒12Bが針落ちしないように選択的に上方で保持するためのラッチ機構50Bとストッパ機構90Bが必須であり、さらに、これらによる針棒12B,12Bの保持状態と解除状態を切り換えるための位置切り替え機構60B等が必要となる。これらの点が、主に前述した二本針ミシン100と異なっている。
【0091】
[針上下動機構]
図29及び
図30に示すように、針上下動機構20Bは、上軸22と、ミシンモーター21と、針棒クランク23と、クランクロッド24と、ラッチ機構50Bを介して針棒12B,12Bに連結された針棒抱き25Bと、針棒抱き25BをZ軸回りに回動可能に保持する環状部材26Bとを備えている。
【0092】
針棒12B,12Bを支持する針棒回動台31Bは、ミシンフレーム101によってZ軸回りに回動可能に支持されており、クランクロッド24から針棒12B,12Bに対してZ軸回りの回動を許容しつつ、上下動動作を伝える必要がある。
このため、針棒抱き25Bは、略リング状に形成され、その中央開口部に針棒12B,12B、ラッチ機構50B及び針棒回動台31Bを挿通させると共に、その内側には、針棒12B,12Bを保持するラッチ機構50Bの両側に連結されるY軸方向に沿った二本の支軸251B,251Bを擁している。この支軸251B,251Bにより、針棒抱き25Bはラッチ機構50Bを介して針棒12B,12Bと一体となって上下動を行うことができる。
そして、針棒抱き25Bは、その外周面上に凹溝252Bが全周に渡って形成されており、この凹溝252Bには、環状部材26Bが嵌合し、当該凹溝252Bに沿って針棒12Bが滑動可能となっている。この環状部材26Bは半円状である。環状部材26Bの直径方向の一端部がクランクロッド24の下端部に対してY軸回りに回動可能に連結され、他端部には矩形の角駒261BがY軸回りに回動可能に装備されている。また、クランクロッド24の下端部における環状部材26Bの反対側にも角駒241BがY軸回りに回動可能に装備されている。そして、これらの角駒241B,261Bは、ミシンフレーム101内に形成されたZ軸方向に沿った図示しないガイド溝に嵌合し、環状部材26B及び針棒抱き25Bが水平の向きを維持したまま上下動動作がガイドされる。なお、環状部材26Bは、平面視で半円状であるが、全周に渡るリング状に形成しても良い。
この構造により、クランクロッド24の下端部おける上下動動作は、環状部材26B、針棒抱き25B、ラッチ機構50Bを介して二本の針棒12B,12Bに伝達されると共に、針棒回動台31BにおけるZ軸回りの回動動作を許容することが可能となっている。
【0093】
[針棒回動台]
針棒回動台31Bは、
図29及び
図30に示すように、その上部311Bと下部312Bとがブロック状に形成されると共に当該上部と下部とをZ軸方向に沿った二つの側壁部313B,314Bが連結している。
そして、上部311Bと下部312Bは、いずれも二本の針棒12B,12Bを挿通する貫通穴がZ軸方向に沿って貫通形成されると共に、これらがミシンフレーム101により回動可能に支持されている。そして、この針棒回動台31Bの回動中心線Cは、Z軸方向に平行であり、また、上方から見て、二本の針棒12B,12Bのほぼ中間を通過するように設計されている。
また、側壁部313Bには、Z軸方向に沿った長穴315Bが形成されており、前述した針棒抱き25Bとラッチ機構50Bとを連結する一方の支軸251Bが挿通されている。
【0094】
[ラッチ機構]
図31は一方の針棒12Bの中心に沿った断面による針棒12Bの周辺構造の断面図である。
図示のように、前述した針棒12Bは、Z軸方向に沿った溝部121Bが形成されており、当該溝部121Bの下部にはラッチ機構50Bが針棒12Bを保持するための係合穴122Bが形成され、溝部121Bの上部にはストッパ機構90Bが針棒12Bを保持するための係合穴123Bが形成されている。また、溝部121Bの内部には、ストッパ機構90Bによる針棒保持状態をラッチ機構50Bによる針棒保持状態に切り替えるための揺動板124Bが揺動可能に設けられている。
【0095】
ラッチ機構50Bは、二本の針棒12B,12Bを挿通する二つの挿通穴がZ軸方向に形成された保持体51Bと、保持体51Bの正面から各挿通穴まで貫通した円形の支持穴に挿入される二つのラッチ部材52Bと、各ラッチ部材52Bをそれぞれ個別に進退移動させる二つの従動リンク53Bと、各従動リンク53Bを介して各ラッチ部材52Bに対して前進方向の移動力を個別に付与する二つの押圧バネ54Bと、各ラッチ部材52Bを後退した状態(退避位置)でそれぞれ係止する二つの係止爪55Bと、各係止爪55Bが係止を行う方向にそれぞれ押圧する二つの押圧バネ56Bと、各係止爪55Bによる係止を解除する操作を外部から入力可能な解除ピン57Bとを備えている。
【0096】
保持体51Bの二つの挿通穴はX軸方向に沿って形成され、略円柱状のラッチ部材52BをX軸方向に沿って滑動可能に支持している。
このラッチ部材52Bの後端部は、従動リンク53Bに連結されており、従動リンク53Bは押圧バネ54Bによりラッチ部材52Bを針棒12B側に押圧している。ラッチ部材52Bは、その先端部が針棒12Bの係合穴122Bに挿入可能な形状に形成されており、押圧バネ54Bの押圧力がラッチ部材52Bと針棒12Bの係合穴122Bとの係合状態を維持し、ラッチ機構50Bによる針棒12Bの保持力となっている。
【0097】
また、従動リンク53Bの上端部は下方に押圧されるとラッチ部材52Bを後退させることができ、ラッチ機構50Bによる針棒12Bの保持状態を解除することができる。
また、上記ラッチ部材52Bの後退時には、押圧バネ56Bにより常時上方に押圧されている係止爪55Bがラッチ部材52Bの先端部を係止して、当該ラッチ部材52Bの前進移動を規制する。なお、二つの係止爪55Bはいずれも、解除ピン57Bにより下方に押圧されることでラッチ部材52Bの係止状態を解除することが可能となっている。
【0098】
従動リンク53Bの上端部は、針棒12Bの上下動において、その上死点に達する際に、針棒回動台31Bの上部311BにおいてY軸方向にスライド可能に支持されている、
図29に示す作動部材16Bの突起部161B(
図31に示す)に衝突することで押圧することができる。即ち、作動部材16Bは、3ポジションの位置切り替えが可能なソレノイド61BによりY軸方向への移動が可能となっており、一方の針棒12Bの保持状態を解除する従動リンク53Bに衝突する位置P1と他方の針棒12Bの保持状態を解除する従動リンク53Bに衝突する位置P3と解除ピン57Bに衝突する位置P2とに位置を切り替える制御が行われる。作動部材16Bは、針棒回動台31B上で位置切り替え動作を行うことによってラッチ機構50Bによる各々の針棒の保持状態を解除する。
これにより、ラッチ機構50Bにおける二本の針棒12B,12Bに対する保持と解除とを個別に行うことを可能としている。
【0099】
[ストッパ機構]
ストッパ機構90Bは、針棒回動台31Bの上部311Bにおいて当該針棒回動台31の正面から針棒12Bの挿通穴まで貫通した二つの円形の挿通穴に挿入される二つのストッパ部材91Bと、各ストッパ部材91Bをそれぞれ個別に針棒12B側へ押圧する二つの押圧バネ92Bと、各押圧バネ92Bを後方で支持すると共にストッパ部材91Bの挿通穴を覆い塞ぐカバー体93Bとを備えている。
【0100】
各ストッパ部材91Bの挿通穴はいずれもX軸方向に沿って形成され、略円柱状のストッパ部材91BをX軸方向に沿って滑動可能に支持している。
ストッパ部材91Bの先端部は、針棒12Bの係合穴123Bに挿入可能な形状に形成されており、押圧バネ92Bの押圧力がストッパ部材91Bと針棒12Bの係合穴123Bとの係合状態を維持し、ストッパ機構90Bによる針棒12Bの保持力となっている。
但し、ストッパ部材91Bの押圧バネ92Bは、ラッチ部材52Bの押圧バネ54Bよりも十分に押圧力が小さく設定されており、ラッチ部材52Bの解除状態にない限りは、揺動板124Bによってラッチ部材52Bに押し負けてしまい、ストッパ機構90Bによる針棒12Bの保持は行われない。つまり、ストッパ機構90Bは、従動リンク53Bが作動部材16Bの突起部161Bに衝突して、ラッチ機構50Bが保持を解除した針棒12Bについてのみ保持を行うようになっている。
【0101】
[針棒回動機構]
針棒回動機構30Bは、
図29及び
図30に示すように、前述した針棒回動台31Bと、針回動モーター32と、主動スプロケット33Bと、針棒回動台31Bの上端部に固定装備された従動スプロケット34Bと、タイミングベルト35Bとを備えている。そして、針回動モーター32が駆動を行うと、主動スプロケット33B、タイミングベルト35B及び従動スプロケット34Bを通じて針棒回動台31Bをその回動中心線C回りに回動させることが可能となっている。
【0102】
[位置切り替え機構]
図32は位置切り替え機構60B及び作動部材16Bの斜視図である。
位置切り替え機構60Bは、ミシンフレーム101内部に固定装備されたアクチュエータとしてのソレノイド61Bから回動を行う、針棒回動台31Bに搭載された作動部材16Bに対して位置切り替え動作を伝達付与するための機構である。
この位置切り替え機構60Bは、3ポジションで停止可能なソレノイド61Bと、ソレノイド61Bのプランジャに装備されたラック部材62Bと、ソレノイド61Bからラック部材62Bを通じて作動部材16Bに位置切り替え動作を伝達する針棒側動力伝達機構63Bとを備えている。
【0103】
ソレノイド61Bは三位置で選択的に停止するよう制御可能であり、各停止位置は前述した作動部材16Bの切り替え位置P1〜P3に対応している。
ラック部材62Bは、ソレノイド61BによりY軸方向に沿って進退移動が可能であり、当該進退移動方向に沿ってラック歯が形成されている。
【0104】
針棒側動力伝達機構(動力伝達機構)63Bは、アクチュエータとしてのソレノイド61Bからラック部材62Bを介して回動動作が入力される入力部材としての入力歯車631Bと、回動動作により作動部材16Bに位置切り替え動作を付与する出力部材としての出力歯車632Bと、入力歯車631Bと出力歯車632Bとの間で回転力を反転して伝達する伝達体64Bと、伝達体64Bを針棒回動台31Bの回動中心線C回りに周回移動を行うように支持する回動支持体65B(
図30に示す)とを備えている。
そして、上記入力歯車631B、出力歯車632B及び回動支持体65Bは、いずれも針棒回動台31Bの上端部に形成された軸状部316Bにより回動中心線C回りに回動可能に支持されている。なお、入力歯車631Bは、上側の第1歯車部631Baと下側の第2歯車部631Bbを有し、各歯車部631Ba,631Bbは歯形が異なるが、一体化して形成されている。第1歯車部631Baにはラック部材62Bが噛み合い、第2歯車部631Bb(入力スプロケット)には、後述するベルト644Bが掛け渡される。
【0105】
入力歯車631Bは、前述した従動スプロケット34Bの下側に位置し、その外周面に形成された上側の第1歯車部631Baが前述したラック部材62Bに噛合している。なお、この入力歯車631Bは、針棒回動台31Bとは分離して回動を行うことが可能である。
【0106】
図30に示す回動支持体65Bは、伝達体64BをZ軸回りに回転可能に支持する支持板651Bと、支持板651Bの上面に固定されると共に前述した針回動モーター32Bにより回動が入力されるスプロケット652B(
図32では図示略)とを備えている。
【0107】
支持板651Bは円形であって、入力歯車631Bの下側に位置しており、針棒回動台31Bの軸状部316Bに回転可能に支持されている。
また、前述した伝達体64Bは、Z軸方向に沿った回転軸641Bと、回転軸641Bの上端部に固定された小スプロケット642Bと、回転軸641Bの下端部に固定された連動歯車643Bとを備えている。
支持板651Bは、伝達体64Bの回転軸641Bを回転可能に支持すると共に、その上面側に小スプロケット642Bを配置し、その下面側に連動歯車643Bを配置している。そして、支持板651Bの上面側において、小スプロケット642Bと、入力歯車631Bの第2歯車部631Bbとにベルト644Bが掛け渡されており、小スプロケット642Bと入力歯車631Bとは、同じ回転方向に連動回転を行うようになっている。そして、小スプロケット642Bが回転を行うと、回転軸641Bで連結された連動歯車643Bも同方向に同じ角度量で回転を行う。
【0108】
スプロケット652Bはその中央部に開口部を備えて入力歯車631Bを遊挿している。
また、スプロケット652Bは、支持板651Bの上面に図示しないネジにより固定されている。なお、前述した小スプロケット642Bは、支持板651Bの上面に形成された凹部の内側に配置されており、スプロケット652Bの下側で入力歯車631Bの第2歯車部631Bbとベルト644Bで連結されている。
また、このスプロケット652Bは、針棒回動機構30Bの針回動モーター32に設けられた主動スプロケット33Bとタイミングベルト653Bで連結されている。
即ち、針回動モーター32Bは、その駆動時において、針棒回動台31Bを回動させる従動スプロケット34Bと回動支持体65Bを回動させるスプロケット652Bとを同時に回動させる。なお、回動支持体65Bが針回動モーター32Bから入力される回転角度量は、針棒回動台31Bが入力される回転角度量のちょうど1/2となるように、従動スプロケット34Bとスプロケット652Bの有効径が設定されている。また、これらの回動方向は、同じ方向に設定されている。すなわち、針回動モーター32は、針棒回動台31Bへの回動動作入力時に、針棒回動台31Bへの回動角度の半分の回動角度を回動支持体65Bに入力する。
このように、スプロケット652Bが針回動モーター32から回動が付与されることにより、支持板651Bが支持する伝達体64Bを回動中心線C回りに周回移動させることが可能となっている。
【0109】
出力歯車632Bは、支持板651Bの下側に位置し、伝達体64Bの連動歯車643Bと噛合している。また、入力歯車631Bと小スプロケット642Bの有効径の比率と、出力歯車632Bと連動歯車643Bの有効径の比率とは一致するように設計されている。
これにより、回動支持体65Bを回転させない状態において、入力歯車631Bに所定角度の回転が入力されると、出力歯車632Bは、逆回転方向に同じ角度だけ回転を行うようになっている。
【0110】
また、
図32に示すように、前述した作動部材16Bは、その上部片面にラック歯が形成されており、出力歯車632Bと噛合している。また、作動部材16Bは、針棒回動台31Bの上部311Bの溝部311Baに支持され、出力歯車632Bの外接円の接線方向に沿って摺動可能である。
ソレノイド61Bは3ポジションでラック部材62Bを停止させることができ、ラック部材62Bが各位置で停止した時に、作動部材16Bの突起部161Bを前述したP1〜P3の各位置に停止させる必要がある。
一方、作動部材16Bは、縫製時に回動動作が行われる針棒回動台31Bに搭載されているが、当該作動部材16Bの位置切り替えを行うための駆動源であるソレノイド61Bは、ミシンフレーム101に固定されている。従って、針棒回動台31Bの回動動作が行われると、ラック部材62Bと噛合する入力歯車631Bは、針棒回動台31と共に回動することができず、その結果、針棒回動台31Bと入力歯車631Bとの間で相対的に回動動作が行われることとなる。
針棒側動力伝達機構63Bは、針棒回動台31Bの回動動作によって当該針棒回動台31Bと入力歯車631Bとの間に相対的な回動角度差が生じても、針棒回動台31Bに対する作動部材16Bの位置を一定に維持することができる。
【0111】
以下、
図33(A)〜
図33(C)に基づいて針棒回動台31Bの回動動作時における針棒側動力伝達機構63Bの作動状態を説明する。
ここでは、ソレノイド61Bが停止した状態で針棒回動台31Bが時計方向に180°の回動を行った場合を例示する。
まず、
図33(A)に示すように、針棒回動台31Bが針回動モーター32Bにより時計方向に180°回動を付与されると、スプロケット652Bを通じて回動支持体65Bには同方向に90°回動が付与される。これにより、小スプロケット642Bは時計方向に90°周回移動を行う。この時、小スプロケット642Bは、停止状態の入力歯車631Bと、ベルト644Bにより連結されているので、小スプロケット642B自身が反時計方向に(入力歯車631Bの径/小スプロケットの径)×90°の回転が行われる。
【0112】
これにより、
図33(B)に示すように、連動歯車643Bは小スプロケット642Bと同じ周回移動と回転を行う。その結果、連動歯車643Bに噛合する出力歯車632Bは、連動歯車643Bの周回移動分の時計方向の回転(=90°)と、連動歯車643Bの回転による時計方向の回転(=90°)とが付与され、出力歯車632Bは、時計方向に180°回動を行うこととなる。
つまり、針棒回動台31Bを基準とした場合、入力歯車631Bは針棒回動台31Bに対して相対的に反時計方向に180°回動した状態となるが、出力歯車632Bは針棒回動
台31Bに対して回動を生じていない状態となる。
【0113】
その結果、
図33(C)に示すように、出力歯車632Bと作動部材16Bとの相対的な角度変化も生じないので、針棒回動台31B上において作動部材16Bは移動を行わず、その突起部161Bは定位置を維持することができる。
なお、針棒回動台31Bの回動動作中にソレノイド61Bが動作して入力歯車631Bを回動させた場合も、上述と同様のことがいえるので、ソレノイド61Bの作動位置に応じて適正な位置に作動部材16Bの突起部161Bを位置決めすることが可能である。
【0114】
[針棒及び上糸経路]
図34は針棒12B,12Bの下端部の斜視図、
図35は針棒12B,12Bを360°の範囲で回動させた場合の針棒下端部の上糸経路の状態を天秤側から見た状態を示す動作説明図である。
二本針ミシン100Bは、上糸U1,U2を、糸調子器151から天秤142、第一のフレーム側糸案内152、第二のフレーム側糸案内(フレーム側糸案内)153、中央糸案内125B、針棒糸案内127Bを介して各縫い針111,112の目穴まで案内している(天秤142、第一及び第二のフレーム側糸案内152,153については
図10参照)。
【0115】
各針棒12B,12Bの下端部には縫い針111,112をそれぞれ保持する針留め126B,126Bが配置されている。
針留め126B,126Bは、個別に縫い針111,112を保持する本体部と、本体部下端に設けられた針棒糸案内127B,127Bと、本体部上部から各針棒下端に向けて上方に延びるクランク部(接続部)128B,128Bから構成されている。
各針留め126B,126Bは中心線Cを基準に対称に配置されており、各針留め126B,126Bの中心線C側の端部には針棒糸案内127B,127Bが設けられている。この針棒糸案内127B,127Bは、上下に貫通した開口からなる。
また、各クランク部(接続部)128B,128Bは、各針棒12、12の下端に形成された針留め用装着孔に装着され、針棒内部に配置された押えネジにより、各針棒12、12に固定される。
なお、各クランク部(接続部)128B,128Bは、各針留めと一体化して形成したが、これに代えて、針棒下端を屈曲形成してクランク部(接続部)とし、針留め本体部にネジ等で固定したり、クランク部自体を別部材にすることも容易に考えられる。
【0116】
中央糸案内125Bは、側面視Lの字状の部材で、取付け部125Bcと、支持部125Bbと、環状部125Baから構成される。
上側の取付け部125Bcは、針棒回動台31Bの下部312Bの底面に、不図示のネジにより取付けられる。取付けられた中央糸案内125Bは、その支持部125Bbが針留め126B,126Bに向かうように支持されると共に、環状部125Baの貫通孔の中心が針棒回動台の中心線Cと略一致するように配置される。
中央糸案内125Bは、針棒回動台31Bに設けられているため、各針棒12Bと共に回動を行うが、針棒12Bのように上下動は行われない。
そして、中央糸案内125Bの環状部125Baの高さは、針棒12Bが上死点に位置する場合のクランク部128Bの下端部及び針棒12Bが下死点に位置する場合のクランク部128Bの上端部と略一致するように設定されている。これにより、針棒12Bが上下動を行う場合に、環状部125Baが常にクランク部128Bの高さ範囲内となるようになっている。
また、各クランク部(接続部)128Bの場合も、中央糸案内125Bの環状部125Ba、または中央糸案内の上方開口部(貫通孔の上面側部分)から離れる方向に回避する形状であることから、各針棒12Bが一回転する間に必ず上糸U1,U2と各クランク部128Bとの接触が発生するが、上糸U1,U2とクランク部128Bとが接触しても、接触による上糸U1,U2の屈曲量がある程度大きくならない限りは、良好に上糸U1,U2を縫い針111,112側に送ることが可能である。
また、各クランク部128B,128Bの場合も、中心線Cから各クランク部128Bまでの距離又は中心線Cを中心とする各クランク部128B,128Bが占める角度を小さくすることで、当該クランク部128Bとの接触による上糸U1,U2の屈曲量を低減することができる。
【0117】
[縫製動作]
図36に示すように、二本の縫い目を長方形の縫製パターンに沿って時計回りに一周分形成する場合の縫製動作を例として説明する。
図36において右側がミシンの天秤側とする。
上記縫製パターンを形成するための縫製データには、毎針の針落ち位置(正確には毎針の中心線Cの位置)を示した位置座標データと、毎針における二本の縫い針111,112の向きを示すデータと、片針−両針の切り替えを行うためのソレノイド61Bの動作タイミングを定めたデータとが設定されている。
【0118】
そして、制御装置は、ミシンモーター21の駆動に同期して、一針毎にX軸モーター102c及びY軸モーター102dを駆動させて所定の縫い方向に縫いを進行させると共に、一針ごとに縫い針111,112の向きを示すデータに従って針回動モーター32及び釜回動モーター402を制御する。
これにより、任意の縫製パターンについて平行な二本の縫い目による縫い目形成を実現することが可能である。
【0119】
図35の上糸U1,U2の渡り状態の説明図を加えて説明する。各針棒12Bのクランク部128Bが天秤142とは逆側を向いた状態(
図35(C))を基準位置とし、平面視で時計方向を(+)、反時計方向(-)とする。
【0120】
図35(A)に示すように、縫製開始位置P0では各針棒12Bは-180°に向けられる。この状態では、中央糸案内125Bの上方において上糸U1,U2は一方のクランク部128B(縫い針111側)に接触するが、その屈曲量は小さく、上糸U1、U2同士の接触も少ない状態で第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125Bに渡った状態となる。
【0121】
上記の状態でX軸方向に沿って天秤142側に向かって縫製が開始され、内側の縫い針112における最初の角部P1に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112は上死点位置で停止させられる。そして、外側の縫い針111における最初の角部P2に到達するまで片針で縫製が行われ、各針棒12Bは+90°の回動が行われる。かかる回動動作は、P1からP2までの間のいずれの位置で行ってもよい。
【0122】
位置P2からは、Y軸方向に沿って天秤側から見て左方に向かって縫製が行われ、内側の縫い針112が再び最初の角部P1に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112の上下動が再開され、二本針縫い目が形成される。
この区間では、
図35(B)に示すように、各針棒12Bは-90°に向けられた状態で縫製が行われる。この状態では、中央糸案内125Bの上方において上糸U1,U2はいずれのクランク部128Bにもほとんど接触することはなく、従って、屈曲及び上糸U1、U2同士の接触もほとんど生じることなく第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125Bに渡った状態となる。
【0123】
そして、内側の縫い針112における二番目の角部P3に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112は上死点位置で停止させられる。そして、外側の縫い針111における二番目の角部P4に到達するまで片針で縫製が行われ、各針棒12Bは+90°の回動が行われる。かかる回動動作は、P3からP4までの間のいずれの位置で行ってもよい。
【0124】
位置P4からは、X軸方向に沿って天秤側とは逆側に向かって縫製が行われ、内側の縫い針112が再び二番目の角部P3に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112の上下動が再開され、二本針縫い目が形成される。
この区間では、
図35(C)に示すように、各針棒12Bは0°に向けられた状態で縫製が行われる。この状態では、中央糸案内125Bの上方において上糸U1,U2はいずれのクランク部128Bにも接触することはなく、従って、屈曲及び上糸U1、U2同士の接触もほとんど生じることなく第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125Bに渡った状態となる。
【0125】
そして、内側の縫い針112における三番目の角部P5に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112は上死点位置で停止させられる。そして、外側の縫い針111における三番目の角部P6に到達するまで片針で縫製が行われ、各針棒12Bは+90°の回動が行われる。かかる回動動作は、P5からP6までの間のいずれの位置で行ってもよい。
【0126】
位置P6からは、Y軸方向に沿って天秤側から見て右側に向かって縫製が行われ、内側の縫い針112が再び三番目の角部P5に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112の上下動が再開され、二本針縫い目が形成される。
この区間では、
図35(D)に示すように、各針棒12Bは+90°に向けられた状態で縫製が行われる。この状態では、中央糸案内125Bの上方において上糸U1,U2はいずれのクランク部128Bにもほとんど接触することはなく、従って、屈曲及び上糸U1、U2同士の接触もほとんど生じることなく第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125Bに渡った状態となる。
【0127】
そして、内側の縫い針112における四番目の角部P7に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112は上死点位置で停止させられる。そして、外側の縫い針111における四番目の角部P8に到達するまで片針で縫製が行われ、各針棒12Bは+90°の回動が行われる。かかる回動動作は、P7からP8までの間のいずれの位置で行ってもよい。
【0128】
位置P8からは、X軸方向に沿って天秤側に向かって縫製が行われ、内側の縫い針112が再び四番目の角部P7に到達すると、ソレノイド61Bの駆動により内側の縫い針112の上下動が再開され、二本針縫い目が形成される。
この区間では、
図35(E)に示すように、各針棒12Bは+180°に向けられる。この状態では、中央糸案内125Bの上方において上糸U1,U2は他方のクランク部128B(縫い針112側)に接触するが、その屈曲量は小さく、上糸U1、U2同士の接触も少ない状態で第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125Bに渡った状態となる。
そして、天秤側に向かって縫製が進み、円周の縫い終わり位置P9に到達すると、縫いが完了する。
【0129】
[第二の実施形態の作用効果]
二本針ミシン100Bは、針棒回動台31Bの下端部に中心線Cと同心となる円形貫通孔からなる中央糸案内125Bを備え、各針棒12Bのクランク部128Bは、中央糸案内125Bの上方開口部から半径方向外側に迂回する形状であるため、各針棒12Bを回動させても、第二のフレーム側糸案内153から中央糸案内125Bに渡る二本の上糸U1,U2は針棒12との接触による屈曲量が低減され、これにより摺動摩擦が低減されると共に上糸U1,U2同士の絡みつきが抑制される。従って、各針棒12Bを広範囲で回動させることが可能となっている。
従って、この二本針ミシン100Bの場合も、針棒12Bの回動範囲を少なくとも360°の範囲までは比較的容易に確保することができ、二本針111,112を全方向に向けて縫いを行うことが可能となっている。
特に、この二本針ミシン100Bは、ラッチ機構50Bを備え、縫製の途中で任意に片針に切り換えることができるので、さらに多彩な縫製パターンについて二本針縫い目を形成することが可能となる。
【0130】
なお、この二本針ミシン100Bの場合も縫製パターンは
図36の例に限られるものではなく任意であるが、縫い開始からの針棒12B,12Bの回動角度が時計回り又は反時計回りに360°を大きく超えることはできない。
また、二本針ミシン100Bの場合も、前述した二本針ミシン100の
図25の例のように、針棒回動角度が360°又は360°を超えた地点で針棒12B,12Bを180°逆回動で戻して再び縫製パターンに沿った縫製を再開する動作制御を行うことができる。
また、同様に、二本針ミシン100の
図26,
図27の例のように、クロスした縫い目梯子状の縫い目を形成することも可能である。
また、二本針縫い目と一本針縫い目を交互に形成するように構成することもできる。
また、この二本針ミシン100Bでも、動力伝達機構400に替えて
図28に示す動力伝達機構400Aを搭載しても良い。
【0131】
[その他]
なお、二本針ミシン100又は100Bにおいて、針棒回動機構30(又は30B)の針回動モーター32と動力伝達機構400の釜回動モーター402とは一つのモーターにより共通化を図っても良い。例えば、釜回動モーター402の動力を、ミシンフレーム101内に配設した軸、歯車機構、ベルト機構又はこれらの組み合わせからなる周知の動力伝達機構で針棒回動台31(又は31B)に伝達し、回動させる構成としても良い。また、逆に、針回動モーター32の動力で動力伝達機構400の釜回動台130側に周知の動力伝達機構で伝達する構成としても良い。具体的には、ミシンフレーム101に、ミシンアーム部101aからミシンベッド部101bに至るZ軸方向に沿った回転軸を設け、当該回転軸に単独のモーター(針回動モーター32又は釜回動モーター402)で回動動力を付与すると共に、当該回転軸に主動スプロケット33(又は33B),421を装備する構成としても良いし、当該回転軸から主動スプロケット33(又は33B),421にベルト機構や歯車機構を介して回動動作を伝達しても良い。
また、ミシンモーター21から周知の動力伝達機構を介して入力軸411にトルク伝達を行い、ミシンモーター21と釜駆動モーター401とを一つのモーターで共用する構成としても良い。