(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料をイオン化するイオン源と、前記イオン源で生成されたイオンから質量電荷比に基づいて第1の目的イオンを選択する第1分析部と、前記第1の目的イオンの一部又は全部を開裂させてプロダクトイオンを生成するコリジョンセルと、前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンから質量電荷比に基づいて第2の目的イオンを選択する第2分析部と、前記第2の目的イオンを検出する検出器と、前記コリジョンセルが、前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積する蓄積動作を所与の蓄積時間だけ行った後、蓄積されたイオンを排出する開放動作を所与の開放時間だけ行うように制御する制御部と、を含む質量分析装置の調整方法であって、
前記開放時間を変えながら、前記開放動作によって前記コリジョンセルから排出される前記第2の目的イオンの量を測定する第1の測定ステップと、
前記第1の測定ステップにおける前記開放動作の直前に前記コリジョンセルに蓄積されていた前記第2の目的イオンの量を測定する第2の測定ステップと、
前記開放時間毎に、前記第1の測定ステップでの測定量の前記第2の測定ステップでの測定量に対する割合である排出イオン強度比を計算する排出イオン強度比計算ステップと、
前記排出イオン強度比計算ステップの計算結果に基づいて、前記排出イオン強度比が目標値に最も近くなる前記開放時間を計算する開放時間計算ステップと、を含む、質量分析装置の調整方法。
試料をイオン化するイオン源と、前記イオン源で生成されたイオンから質量電荷比に基づいて第1の目的イオンを選択する第1分析部と、前記第1の目的イオンの一部又は全部を開裂させてプロダクトイオンを生成するコリジョンセルと、前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンから質量電荷比に基づいて第2の目的イオンを選択する第2分析部と、前記第2の目的イオンを検出する検出器と、前記コリジョンセルが、前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積する蓄積動作を所与の蓄積時間だけ行った後、蓄積されたイオンを排出する開放動作を所与の開放時間だけ行うように制御する制御部と、を含む質量分析装置の調整方法であって、
前記開放時間を変えながら、前記開放動作によって前記コリジョンセルから排出される
前記第2の目的イオンの量を測定する測定ステップと、
前記測定ステップの測定結果に基づいて、前記開放動作によって前記コリジョンセルから排出される前記第2の目的イオンの量が目標値に最も近くなる前記開放時間を計算する開放時間計算ステップと、を含む、質量分析装置の調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0040】
1.第1実施形態
(1)構成
まず、第1実施形態の質量分析装置の構成について説明する。第1実施形態の質量分析装置は、いわゆる三連型の四重極質量分析装置であり、その構成の一例を
図1に示す。なお、
図1は、本実施形態の質量分析装置を鉛直方向に切断した時の概略断面図である。
【0041】
図1に示すように、第1実施形態の質量分析装置1は、イオン源10、イオン引き出し部20、第1分析部30、コリジョンセル40、第2分析部50、検出器60、電源70、アナログ信号処理部80、AD変換器90、デジタル信号処理部100、電源制御部110及びパーソナルコンピューター120を含んで構成されている。なお、本実施形態の質量分析装置は
図1の構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0042】
イオン源10は、図示しないクロマトグラフ等の試料導入装置から導入された試料を所定の方法でイオン化する。イオン源10は、例えば、ESI法等の大気圧イオン化法によって連続的にイオンを生成する大気圧連続イオン源や電子衝突イオン化法等の真空中で行うイオン化法を用いたイオン源として実現することができる。
【0043】
イオン源10の後段には、中心に開口部を有する単数若しくは複数の電極からなるイオン引き出し部20が設けられており、イオン源10で生成されたイオンは、イオン引き出し部20を通過して第1分析部30に入射する。
【0044】
第1分析部30は、イオン源10で生成されたイオンから、質量電荷比(イオンの質量mをイオンの価数zで割ったもの(m/z))に基づいてイオン(第1の目的イオン)を選択する。具体的には、第1分析部30は、四重極マスフィルター32を含んで構成されており、四重極マスフィルター32に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。第1分析部30で選択されるイオンはプリカーサーイオンと呼ばれる。
【0045】
第1分析部30の後段には、コリジョンセル40が設けられており、第1分析部30で選択されたプリカーサーイオンはコリジョンセル40へと導かれる。コリジョンセル40は、多重極イオンガイド42の両端に入口電極44と出口電極46を配置した構成であり、外部からヘリウムやアルゴン等のガスを導入するためのガス導入手段48(ニードルバルブ等)を備えている。入口電極44と出口電極46は、それぞれその中心に開口部が設けられている。コリジョンセル40にガスを導入することで、プリカーサーイオンの一部又は全部はガスとの衝突によりある確率で開裂を起こし断片化される。但し、プリカーサーイオンが開裂を起こすには、衝突エネルギーがプリカーサーイオンの解離エネルギー以上でなければならない。この衝突エネルギーは多重極イオンガイド42の軸電圧によって変更することができる。コリジョンセル40で断片化されたイオンはプロダクトイオンと呼ばれる。
【0046】
コリジョンセル40の後段には、第2分析部50が設けられており、コリジョンセル40内のプリカーサーイオンやプロダクトイオンは出口電極46を通過し、第2分析部50に入射する。第2分析部50は、プリカーサーイオン及びプロダクトイオンから、質量電
荷比(m/z)に基づいてイオン(第2の目的イオン)を選択する。具体的には、第2分析部50は、四重極マスフィルター52を含んで構成されており、四重極マスフィルター52に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。
【0047】
第2分析部50の後段には検出器60が設けられており、第2分析部50で選択されたイオンは、検出器60で検出される。具体的には、検出器60は、入射したイオンの数(量)に比例した電流を出力する。
【0048】
検出器60が出力する電流は、アナログ信号処理部80で電圧に変換される。アナログ信号処理部80は、さらにフィルターで余分なノイズを除去してもよい。
【0049】
アナログ信号処理部80の出力信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号に変換される。
【0050】
このデジタル信号は、デジタル信号処理部100で所定回数だけ積算され、その結果がパーソナルコンピューター120に転送される。パーソナルコンピューター120は、これらの結果を付属の記憶部(記憶装置)(不図示)に保存し、表示する。
【0051】
イオン源10、イオン引き出し部20、第1分析部30、コリジョンセル40、第2分析部50に印加されるすべての電圧は電源70より供給される。電源70は、電源制御部110によって制御される。特に、本実施形態では、電源制御部110は、コリジョンセル40が、プリカーサーイオン及びプロダクトイオンを蓄積する蓄積動作を所与の蓄積時間だけ行った後、蓄積されたイオンを排出する開放動作を所与の開放時間だけ行うように電源70を制御する。
【0052】
本実施形態では、デジタル信号処理部100、電源制御部110及びパーソナルコンピューター120は制御部200を構成しており、制御部200は、調整モードと実測モードのいずれかに設定される。制御部200は、調整モードでは、設定情報(具体的には、コリジョンセル40による排出イオン強度比の情報)に基づいてコリジョンセル40の開放時間を調整する処理を行い、実測モードでは、調整モードでの処理結果に応じてコリジョンセル40の開放時間を設定する。
【0053】
(2)調整方法
次に、第1実施形態の質量分析装置1の調整方法(調整モードを用いてコリジョンセル40の開放時間を調整する方法)について説明する。
図2は、第1実施形態の質量分析装置1の調整方法の一例を示すフローチャート図である。
【0054】
図2に示すように、ユーザーは、まず、コリジョンセル40による排出イオン強度比(開放動作の直前にコリジョンセル40に蓄積されている第2の目的イオンの量に対する開放動作によってコリジョンセル40から排出される第2の目的イオンの量の割合)を設定する(S10)。具体的には、ユーザーが、パーソナルコンピューター120を用いてコリジョンセル40による排出イオン強度比の情報を入力すると、当該排出イオン強度比の情報は、パーソナルコンピューター120に付属の記憶部又はその他の記憶部に記憶される。
【0055】
次に、ユーザーは、標準サンプル導入口に標準サンプルをセットし(S20)、トランジション(第1分析部30と第2分析部50で選択するイオンの質量電荷比の組み合わせ)を設定する(S30)。具体的には、ユーザーが、パーソナルコンピューター120を用いてトランジションの情報を入力すると、当該トランジションの情報は、パーソナルコ
ンピューター120に付属の記憶部又はその他の記憶部に記憶される。1つの標準サンプルに対し、トランジションは複数設定できる。
【0056】
次に、ユーザーは、質量分析装置1の調整モードをスタートさせる(S40)。具体的には、ユーザーが、パーソナルコンピューター120に付属の不図示の表示部(ディスプレイ)に表示された調整モードのスタートボタン(ソフトウェアスイッチ)を押下する等の操作を行うと、当該押下操作の情報とともにトランジションの情報が電源制御部110に供給され、電源制御部110が所定のシーケンスに従って各部の電圧を変化させながら調整モードが実行される。
【0057】
そして、調整モードが終了すると(S50のY)、測定対象の標準サンプルのうち未測定のものがあれば(S60)、ユーザーは、イオン源10に未測定の次の標準サンプルをセットし(S20)、ステップS30及びS40を再び行う。
【0058】
一方、調整モードが終了し(S50のY)、測定対象のすべての標準サンプルの測定が終了すると(S60のY)、質量分析装置1の調整フローが終了する。この一連の調整フローにより、第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比とコリジョンセル40の出口電極46の最適な開放時間(ユーザーが設定した排出イオン強度比に最も近くなる開放時間)との対応情報が得られる。
【0059】
(3)調整モードの動作
次に、第1実施形態の質量分析装置1の調整モードにおける動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0060】
トランジションが既知の標準サンプルを一定流量で連続的にイオン源10に導入する。イオン源10で生成されたイオンは、第1分析部30に入射し、第1分析部30でトランジションの設定情報に応じた質量電荷比のプリカーサーイオンが選択され、コリジョンセル40に入射する。
【0061】
コリジョンセル40ではイオンを一旦蓄積した後、排出する。イオンの蓄積と排出を行うため、出口電極46に電源70からパルス電圧を印加する。パルス電圧を多重極イオンガイド42の軸電圧よりも高くすると出口電極46は閉鎖し、イオンはコリジョンセル40に蓄積される。
【0062】
一方、パルス電圧を多重極イオンガイド42の軸電圧よりも低くすると出口電極46は開放されイオンが排出される。コリジョンセル40にはガス導入手段48より希ガス等の衝突ガスを導入する。衝突ガスにはプリカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンの生成を促す効果以外にクーリングの効果もある。そのため、蓄積時に出口電極46の電位障壁に跳ね返されて入口電極44に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極44を通過したときよりも低くなる。入口電極44の電圧を調整すれば、上流からのイオンは通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過できないようにすることも可能となる。これにより、コリジョンセル40は高い蓄積効率を実現できる。
【0063】
なお、コリジョンセル40でのイオンの蓄積と排出は質量分析装置1の小型化につながる。三連型四重極質量分析装置である質量分析装置1では第1分析部30や第2分析部50を短くすると分解能の低下を招くので、コリジョンセル40を短くすることが小型化に有効である。しかし、コリジョンセル40を短くすると衝突ガスとの衝突回数が減少し、イオンの開裂を阻害する原因になる。衝突回数を確保するため衝突ガスを多量に導入すれ
ば、第1分析部30及び第2分析部50の圧力が上がり感度の低下につながることもある。しかし、コリジョンセル40にイオンを蓄積することで、イオンはコリジョンセル40の入口と出口を往復するので、コリジョセンル40を短くしてもガス導入量を抑えたまま開裂に必要な衝突回数を確保できる。
【0064】
本実施形態の調整モードでは、コリジョンセル40にイオンパルスを入射させる。そのため、多重極イオンガイド42より上流側のイオン引き出し部20、第1分析部30、入口電極44のいずれかで、一時的にイオンの流れを遮断するパルス電圧を電源70から印加する。パルス電圧による電位障壁をイオンの全エネルギーより大きくするとイオンの流れは遮断され、小さくするとイオンは通過できるようになる。
【0065】
調整モードでは、外部からコリジョンセル40による所望の排出イオン強度比を指示すれば、それを実現するように開放時間が調整される。
【0066】
前述のように、所望の排出イオン強度比は、ユーザーがパーソナルコンピューター120に入力する。パーソナルコンピューター120は、電源制御部110に命令を送り、この命令により、電源制御部110は出口電極46の開放時間を変化させる。この開放時間でコリジョンセル40から排出されるイオンから、第2分析部50でトランジションの設定情報に応じた質量電荷比のイオンが選択され、検出器60で検出される。デジタル信号処理部100は、検出器60で検出されたイオン強度を算出し、パーソナルコンピューター120に送る。このイオン強度の情報から、パーソナルコンピューター120は所望の排出イオン強度比に最も近くなる開放時間を探索する。
【0067】
図3は、調整モードにおいてコリジョンセル40の入口電極44と出口電極46に印加する電圧のタイムチャートの一例を示す図である。
図3では、第1分析部30と第2分析部50で選択するイオンの質量電荷比はそれぞれM1とm1である。
【0068】
図3に示すように、コリジョンセル40の入口電極44には開放時間がta1となるパルス電圧を印加し、イオンはパルスとなってコリジョンセル40に導入される。
図3では、イオンのパルス化をコリジョンセル40の入口電極44で行っているが、これを行うのは多重極イオンガイド42より上流側ならどこでもよい。
【0069】
入口電極44の開放動作A1でコリジョンセル40に入射したイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の2回の開放動作で排出される。1回目の開放動作B1は時間tb1に、2回目の開放動作C1は時間tc1にわたって継続する。開放動作C1が終了した後、入口電極44の次の開放動作A2によるイオンがコリジョンセル40に入射する。
【0070】
出口電極46の開放動作B1とC1によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m1のイオンが選択され、それぞれイオンパルスD1とイオンパルスE1となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD1とE1の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で積算された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0071】
コリジョンセル40の出口電極46の開放時間tb1は可変にし、開放時間tc1は一定でコリジョンセル40のイオンをすべて排出できるほど長くする。出口電極46の開放時間tb1を十分長くすると、コリジョンセル40のイオンはすべて開放動作B1で排出され、開放動作C1ではイオンが排出されなくなる。逆に、開放時間tb1が短ければ、開放動作B1でコリジョンセル40のイオンがすべては排出されず、残されたイオンが開放動作C1によって排出されイオンパルスE1となる。
【0072】
本実施形態では、イオンパルスD1とイオンパルスE1の面積値の合計が、開放動作B1を行う前にコリジョンセル40にあった質量電荷比m1の全イオン量となるようにする。そのため、開放動作B1とC1でコリジョンセル40のすべてのイオンを排出する。つまり、開放時間tc1は一定で、しかもコリジョンセル40のイオンをすべて排出できるように十分長くする。
【0073】
イオンパルスD1とE1のイオン強度と出口電極46の開放時間tb1との関係は
図4のようになる。開放時間tb1が長くなると、イオンパルスD1のイオン強度はある値Sで飽和し、イオンパルスE1のイオン強度は0になる。イオンパルスD1が飽和するのとイオンパルスE1のイオン強度が0になる開放時間tb1は同じである。
【0074】
飽和したイオン強度Sは、コリジョンセル40の入口電極44によって発生した個々のイオンパルスに含まれるイオンの内、コリジョンセル40で質量電荷比m1のイオンに開裂したイオン量である。この値を一定にするため、コリジョンセル40に入射するイオン量と、コリジョンセル40でプリカーサーイオンが質量電荷比m1のイオンへと開裂するときの開裂効率を一定にする。コリジョンセル40に入射するイオン量は入口電極44の開放時間ta1に比例するので、開放時間ta1は一定にする。開裂効率を一定にするには、コリジョセンル40のガス導入量と入口電極44の開放動作A1が始まってから出口電極46の開放動作B1が始まるまでの時間td1を一定にしておく。出口電極46の開放時間tb1を変更するときも、時間td1は一定値にしたまま行った方がよい。
【0075】
数式(1)に示すように、コリジョセンル40の出口電極46の開放動作B1の任意の開放時間tnでの排出イオン強度比R(tn)は、開放時間tnに対するイオンパルスD1のイオン強度ID1(tn)と飽和強度Sとの比となる。
【0077】
パーソナルコンピューター120は、各開放時間tnに対して排出イオン強度比R(tn)を数式(1)から計算し、ユーザーにより設定されている所望の排出イオン強度比に最も近くなるような開放時間を求める。
図5は、開放時間tnと排出イオン強度比R(tn)との関係を表すグラフの一例である。
図5の例では、白丸で示したP1〜P7の7点のデータが得られており、例えば、排出イオン強度比が0.8に設定されている場合、P4とP5のデータを線形補完し、あるいは、開放時間tnと排出イオン強度比R(tn)との関係を所定の多項式で近似してP1〜P7のデータを用いて最小二乗近似等の手法で当該多項式の係数値を決定する等して、排出イオン強度比0.8に対する最適な開放時間を算出することができる。
【0078】
一般に、質量電荷比の大きいイオンほどコリジョンセル40からの排出に時間がかかる。従って、後述する実測モードにおいて実サンプルを測定するときのコリジョセンル40の出口電極46の開放時間は、第2分析部50で選択される各イオンの質量電荷比mnに対してそれぞれ最適化することが理想である。そのためには、
図6に示すような、各質量電荷比mnに対して出口電極46の最適な開放時間を示すテーブル(第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比と出口電極46の最適な開放時間との対応情報)が必要である。例えば、調整モードにおいて、標準サンプルを用いて、第2分析部50の複数の質量
電荷比の選択イオンに対して出口電極46の開放時間を最適化し、得られた結果を内挿、または外挿することでこのテーブルを作成することができる。このテーブルはパーソナルコンピューター120で作成、保存し、実サンプルの測定で必要に応じて参照すればよい。
【0079】
なお、パーソナルコンピューター120の代わりに、デジタル信号処理部100が、所望の排出イオン強度比に最も近くなる開放時間を探索し、テーブルを作成、保存するようにしてもよい。
【0080】
図7に、以上に説明した動作を実現するための調整モードにおける制御部200の処理の一例を示すフローチャート図を示す。
【0081】
図7に示すように、まず、制御部200(特に電源制御部110)は、
図2のステップS30でユーザーにより設定されたトランジションの中の最初のトランジションに従い、第1分析部30、第2分析部50、その他の各部の電圧を設定する(S100)。
【0082】
次に、制御部200は、
図2のステップS20でユーザーによりセットされた標準サンプルのイオン化を開始する(S102)。
【0083】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、入口電極44の電圧を変化させてコリジョンセル40の入口を開放する(S106)。
【0084】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、コリジョンセル40の入口開放後ta1の時間経過後(S108のY)、入口電極44の電圧を変化させてコリジョンセル40の入口を閉鎖する(S110)。
【0085】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、コリジョンセル40の入口開放後td1の時間経過後(S112のY)、出口電極46の電圧を変化させてコリジョンセル40の出口を開放する(S114)。
【0086】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、コリジョンセル40の出口開放後tnの時間経過後(S116のY)、出口電極46の電圧を変化させてコリジョンセル40の出口を閉鎖する(S118)。
【0087】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、所定時間の経過後(S120のY)、出口電極46の電圧を変化させてコリジョンセル40の出口を開放する(S122)。
【0088】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、コリジョンセル40の出口開放後tc1の時間経過後(S124のY)、出口電極46の電圧を変化させてコリジョンセル40の出口を閉鎖する(S126)。
【0089】
次に、制御部200(特にデジタル処理部100)は、所定のタイミングでのAD変換器90の出力信号(
図3のD1パルスとE1パルス)から排出イオン強度比を計算する(S128)。
【0090】
そして、制御部200は、あらかじめ決められたN回(例えば10回)の測定が終了していなければ(S130のN)、ステップS106〜S128の処理を繰り返す。
【0091】
N回の測定が終了すると(S130のY)、制御部200(特にデジタル処理部100)は、N回の測定の排出イオン強度比の平均値を計算する(S134)。
【0092】
次に、制御部200(特にパーソナルコンピューター120(デジタル処理部100でもよい)は、開放時間tnと排出イオン強度比の平均値(ステップS134の計算結果)を対応づけて記憶する(S136)。
【0093】
そして、制御部200は、あらかじめ決められた開放時間tnのすべての設定値での測定が終了していなければ(S138のN)、開放時間tnを次の設定値に変更し(S140)、ステップS106〜S136の処理を繰り返す。
【0094】
開放時間tnのすべての設定値での測定が終了すると(S138のY)、制御部200(特にデジタル処理部100)は、N回の測定の排出イオン強度比の平均値を計算する(S134)。
【0095】
次に、制御部200(特にパーソナルコンピューター120(デジタル処理部100でもよい)は、各開放時間tnでの排出イオン強度比の平均値の情報(ステップS136で記憶された情報)から、設定された排出イオン強度比となる最適な開放時間を探索する(S144)。
【0096】
次に、制御部200(特にパーソナルコンピューター120(デジタル処理部100でもよい)は、第2分析部50で選択されたイオンの質量電荷比と最適な開放時間(ステップS144の探索結果)との対応情報(テーブル)を記憶する(S146)。
【0097】
そして、制御部200は、
図2のステップS30でユーザーにより設定されたすべてのトランジションの測定が終了していれば(S148のY)、調整モードの処理を終了する。
【0098】
一方、すべてのトランジションの測定が終了していなければ(S148のN)、制御部200は、次のトランジションに従い、第1分析部30、第2分析部50、その他の各部の電圧を設定し(S150)、ステップS106〜S146の処理を繰り返す。
【0099】
(4)実測モードの動作
次に、第1実施形態の質量分析装置1の実測モードにおける動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0100】
図8は、実測モードにおいてコリジョンセル40の入口電極44と出口電極46に印加する電圧のタイムチャートの一例を示す図である。
【0101】
図8に示すように、まず、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比をM1に設定する。
【0102】
コリジョンセル40に入射した質量電荷比がM1のイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の開放動作B1で排出される。開放動作B1の時間t1は、調整モードで作成及び記憶されたテーブル(第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比と出口電極46の最適な開放時間との対応情報)を用いて、第2分析部50で選択される質量電荷比がm1のイオンの排出イオン強度比が調整モードで設定された排出イオン強度比となるような時間が設定される。開放動作B1の間、イオンがコリジョンセル40に入って来ないように入口電極44は閉じる。
【0103】
出口電極46の開放動作B1によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m1のイオンが選択され、イオンパルスD1となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD1の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で処理された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0104】
次に、例えば、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比をM2に変更する。開放動作B2の間、イオンがコリジョンセル40に入って来ないように入口電極44は閉じる。
【0105】
コリジョンセル40に入射した質量電荷比がM2のイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の開放動作B2で排出される。開放動作B2の時間t2は、調整モードで作成及び記憶されたテーブルを用いて、第2分析部50で選択される質量電荷比がm2のイオンの排出イオン強度比が調整モードで設定された排出イオン強度比となるような時間が設定される。
【0106】
出口電極46の開放動作B2によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m2のイオンが選択され、イオンパルスD2となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD2の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で処理された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0107】
次に、例えば、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比をM3に変更する。
【0108】
コリジョンセル40に入射した質量電荷比がM3のイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の開放動作B3で排出される。開放動作B3の時間t3は、調整モードで作成及び記憶されたテーブルを用いて、第2分析部50で選択される質量電荷比がm3のイオンの排出イオン強度比が調整モードで設定された排出イオン強度比となるような時間が設定される。開放動作B3の間、イオンがコリジョンセル40に入って来ないように入口電極44は閉じる。
【0109】
出口電極46の開放動作B3によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m3のイオンが選択され、イオンパルスD3となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD3の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で処理された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0110】
このように、実測モードでは、トランジションが変更される毎に、調整モードであらかじめ作成されたテーブルを用いて、第2分析部50で選択されるイオンの排出イオン強度比が所望の値になるように、コリジョンセル40の出口電極46の開放時間が自動的に最適な値に設定される。
【0111】
以上に説明した第1実施形態の質量分析装置によれば、調整モードにおいて排出イオン強度比に最も近くなるコリジョンセル40の出口電極46の開放時間を探索することで、実測モードにおいて出口電極46の開放時間が最適化され、ユーザー(作業者)が許容するトランジション間の干渉の範囲で最も高速なMRMが可能となる。
【0112】
また、本実施形態の質量分析装置によれば、調整モードにおいて、第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比ごとの、コリジョンセル40の出口電極46の最適な開放時間のテーブルが作成されるので、実測モードでの実サンプルの測定において、トランジションごとに出口電極46の開放時間を最適化することができる。
【0113】
なお、本実施形態では、コリジョンセル40の出口電極46に印加する電圧とコリジョ
ンセル40の手前でイオンをパルス化する電圧をパルス電圧としたが、これらの電圧はイオンの流れを一時的に遮断し、決められた時間だけ開放するように変動する電圧であればよい。
【0114】
また、所望の排出イオン強度比は、トランジション間の干渉の許容範囲に基づいてユーザー(作業者)が入力してもよいし、初めからパーソナルコンピューター120のメモリ装置等に入力されていてもよい。
【0115】
2.第2実施形態
(1)構成
まず、第2実施形態の質量分析装置の構成について説明する。第2実施形態の質量分析装置は、いわゆる三連型の四重極質量分析装置であり、その構成の一例を
図9に示す。なお、
図9は、本実施形態の質量分析装置を鉛直方向に切断した時の概略断面図である。
【0116】
図9に示すように、第2実施形態の質量分析装置1は、イオン源10、イオン引き出し部20、冷却室130、第1分析部30、コリジョンセル40、第2分析部50、検出器60、電源70、アナログ信号処理部80、AD変換器90、デジタル信号処理部100、電源制御部110及びパーソナルコンピューター120を含んで構成されている。なお、本実施形態の質量分析装置は
図9の構成要素の一部を省略した構成としてもよい。また、
図9において、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付しており、その説明を省略又は簡略する。
【0117】
第2実施形態の質量分析装置1が第1実施形態と異なるのは、イオン引き出し部20と第1分析部30の間に冷却室130が設けられている点である。冷却室130はイオンガイド132とその両端の入口電極134、出口電極136からなる。必要に応じて、冷却室130にはニードルバルブ等による外部からのガス導入手段138を設置してもよい。
【0118】
その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0119】
(2)調整方法
第2実施形態の質量分析装置1の調整方法(調整モードを用いてコリジョンセル40の開放時間を調整する方法)は、第1実施形態と同様であり、例えば、
図2と同様のフローチャートで実現することができるため、その図示及び説明を省略する。
【0120】
(3)調整モードの動作
次に、第2実施形態の質量分析装置1の調整モードにおける動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。なお、以下の説明において、第1実施形態と共通する内容については説明を省略する。
【0121】
イオン源10で生成されたイオンは、イオン引き出し部20を通過して冷却室130に入射する。冷却室130の入口電極134を常に開放しておくことで、イオン引き出し部20を通過したほぼすべてのイオンを冷却室130に導入することができる。
【0122】
冷却室130では、入射したイオンをクーリングして蓄積と排出を繰り返す。クーリングは冷却室130内でイオンが衝突ガスと衝突を繰り返すことで進行していく。イオン源10で大気圧イオン源を用いるとき、入口電極134からはイオンと共に空気も流入してくるため、この残留ガスとの衝突によりイオンがクーリングされる。一方、イオン源10で電子衝突イオン化法等、真空中で行うイオン化法を用いる場合、冷却室130に残留ガ
スがほとんど流入しないのでガス導入手段138で衝突ガスを導入しイオンのクーリングを促進させる。クーリングしたイオンの最終的なエネルギーはイオンガイド132の軸電圧による位置エネルギー程度にまで低下する。
【0123】
冷却室130でイオンの蓄積と排出を行うため、出口電極136はパルス電圧で閉鎖と開放を切り替える。パルス電圧をイオンガイド132の軸電圧よりも高くすると出口電極136は閉鎖し、イオンは冷却室130に蓄積される。一方、パルス電圧をイオンガイド132の軸電圧よりも低くすると出口電極136は開放され、イオンが排出される。クーリングによって、蓄積時に出口電極136の電位障壁に跳ね返されて入口電極134に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極134を通過したときよりも低くなる。入口電極134の電圧を調整すれば、上流からのイオンは通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過できないようにすることも可能となる。これにより、冷却室130は高い蓄積効率を実現できる。
【0124】
冷却室130ではイオンを開裂させずにクーリングのみを起こす。開裂を起こさないためには、衝突エネルギーをイオンの解離エネルギーより小さくすればよい。入口電極134を通過直後のイオンの全エネルギーと、イオンガイド132の軸電圧による位置エネルギーとの差が、解離エネルギーよりも小さくなるようにイオンガイド132の軸電圧を調整すれば、開裂は起こらない。
【0125】
第2実施形態の調整モードにおける他の動作は、第1実施形態に対して、イオンをパルス化する電極をコリジョンセル40の入口電極44から冷却室130の出口電極136に置き換えるとともに、コリジョンセル40の入口電極44を常に開放しておく点を除き同じである。なお、コリジョンセル40に入射するイオンを一定にするため、冷却室130の出口電極136の開放時間と閉鎖時間は一定にする。
【0126】
図10は、調整モードにおいて冷却室130の出口電極136とコリジョンセル40の出口電極46に印加する電圧のタイムチャートの一例を示す図である。
図10では、第1分析部30と第2分析部50で選択するイオンの質量電荷比はそれぞれM1とm1である。
【0127】
図10に示すように、冷却室130の出口電極136には開放時間がta1となるパルス電圧を印加し、イオンはパルスとなって第1分析部30を通過し、第1分析部30で選択されたイオンがコリジョンセル40に導入される。
【0128】
出口電極136の開放動作A1で第1分析部30を通過してコリジョンセル40に入射したイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の2回の開放動作で排出される。1回目の開放動作B1は時間tb1に、2回目の開放動作C1は時間tc1にわたって継続する。開放動作C1が終了した後、冷却室の出口電極136の次の開放動作A2によるイオンが第1分析部30を通過してコリジョンセル40に入射する。
【0129】
出口電極46の開放動作B1とC1によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m1のイオンが選択され、それぞれイオンパルスD1とイオンパルスE1となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD1とE1の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で積算された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0130】
第1実施形態と同様に、コリジョンセル40の出口電極46の開放時間tb1は可変にし、開放時間tc1は一定で、しかもコリジョンセル40のイオンをすべて排出できるように十分長くし、開放動作B1とC1でコリジョンセル40のすべてのイオンを排出する
。
【0131】
イオンパルスD1とE1のイオン強度と出口電極46の開放時間tb1との関係は
図4のようになる。開放時間tb1が長くなると、イオンパルスD1のイオン強度はある値Sで飽和し、イオンパルスE1のイオン強度は0になる。イオンパルスD1が飽和するのとイオンパルスE1のイオン強度が0になる開放時間tb1は同じである。
【0132】
コリジョンセル40で質量電荷比m1のイオンに開裂するイオン量を一定にするため、コリジョンセル40に入射するイオン量と、コリジョンセル40でプリカーサーイオンが質量電荷比m1のイオンへと開裂するときの開裂効率を一定にする。コリジョンセル40に入射するイオン量は冷却室130の出口電極134の開放時間ta1に比例するので、開放時間ta1は一定にする。開裂効率を一定にするには、コリジョンセル40のガス導入量と冷却室130の出口電極134の開放動作A1が始まってからコリジョンセル40の出口電極46の開放動作B1が始まるまでの時間td1を一定にしておく。コリジョンセル40の出口電極46の開放時間tb1を変更するときも、時間td1は一定値にしたまま行った方がよい。
【0133】
第1実施形態と同様に、パーソナルコンピューター120は、各開放時間tnに対して排出イオン強度比R(tn)を数式(1)から計算し、ユーザーにより設定されている所望の排出イオン強度比に最も近くなるような開放時間を求める。そして、パーソナルコンピューター120は、調整モードにおいて、標準サンプルを用いて、第2分析部50の複数の質量電荷比の選択イオンに対してコリジョンセル40の出口電極46の開放時間を最適化し、得られた結果を内挿、または外挿することでテーブル(第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比と出口電極46の最適な開放時間との対応情報)を作成することができる。このテーブルはパーソナルコンピューター120で作成、保存し、実サンプルの測定で必要に応じて参照すればよい。
【0134】
なお、パーソナルコンピューター120の代わりに、デジタル信号処理部100が、所望の排出イオン強度比に最も近くなる開放時間を探索し、テーブルを作成、保存するようにしてもよい。
【0135】
図11に、以上に説明した動作を実現するための調整モードにおける制御部200の処理の一例を示すフローチャート図を示す。
【0136】
図11に示すように、まず、制御部200は、ステップS100及びS102の処理を行う。このステップS100及びS102の処理は、
図7のステップS100及びS102の処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0137】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、出口電極136の電圧を変化させて冷却室130の出口を開放する(S106)。
【0138】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、冷却室130の出口開放後ta1の時間経過後(S108のY)、出口電極136の電圧を変化させて冷却室130の出口を閉鎖する(S110)。
【0139】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、冷却室130の出口開放後td1の時間経過後(S112のY)、出口電極46の電圧を変化させてコリジョンセル40の出口を開放する(S114)。
【0140】
次に、制御部200(特に電源制御部110)は、コリジョンセル40の出口開放後t
nの時間経過後(S116のY)、出口電極46の電圧を変化させてコリジョンセル40の出口を閉鎖する(S118)。
【0141】
次に、制御部200は、ステップS120〜128の処理を行う。このステップS120〜S128の処理は、
図7のステップS120〜128の処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0142】
そして、制御部200は、あらかじめ決められたN回(例えば10回)の測定が終了していなければ(S130のN)、ステップS106〜S128の処理を繰り返す。
【0143】
N回の測定が終了すると(S130のY)、制御部200は、ステップS134及びS136の処理を行う。このステップS134及びS136の処理は、
図7のステップS134及びS136の処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0144】
そして、制御部200は、あらかじめ決められた開放時間tnのすべての設定値での測定が終了していなければ(S138のN)、開放時間tnを次の設定値に変更し(S140)、ステップS106〜S136の処理を繰り返す。
【0145】
開放時間tnのすべての設定値での測定が終了すると(S138のY)、制御部200は、ステップS144及びS146の処理を行う。このステップS144及びS146の処理は、
図7のステップS144及びS146の処理と同じであるので、その説明を省略する。
【0146】
そして、制御部200は、ユーザーにより設定されたすべてのトランジションの測定が終了していれば(S148のY)、調整モードの処理を終了する。
【0147】
一方、すべてのトランジションの測定が終了していなければ(S148のN)、制御部200は、次のトランジションに従い、第1分析部30、第2分析部50、その他の各部の電圧を設定し(S150)、ステップS106〜S146の処理を繰り返す。
【0148】
(4)実測モードの動作
次に、第2実施形態の質量分析装置1の実測モードにおける動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0149】
図12は、実測モードにおいて冷却室130の出口電極136とコリジョンセル40の出口電極46に印加する電圧のタイムチャートの一例を示す図である。
【0150】
図12に示すように、まず、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比をM1に設定した状態で、冷却室130の出口電極136に開放時間がta1となるパルス電圧を印加し、質量電荷比がM1のイオンはパルスとなって第1分析部30を通過してコリジョンセル40に導入される。
【0151】
冷却室130の出口電極136の開放動作A1でパルス化され、コリジョンセル40に入射した質量電荷比がM1のイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の開放動作B1で排出される。開放動作B1の時間t1は、調整モードで作成及び記憶されたテーブル(第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比と出口電極46の最適な開放時間との対応情報)を用いて、第2分析部50で選択される質量電荷比がm1のイオンの排出イオン強度比が調整モードで設定された排出イオン強度比となるような時間が設定
される。
【0152】
コリジョンセル40の出口電極46の開放動作B1によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m1のイオンが選択され、イオンパルスD1となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD1の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で処理された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0153】
次に、例えば、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比をM2に変更し、冷却室130の出口電極136に開放時間がta1となるパルス電圧を印加すると、質量電荷比がM2のイオンがパルスとなってコリジョンセル40に導入される。
【0154】
冷却室130の出口電極136の開放動作A2でパルス化され、コリジョンセル40に入射した質量電荷比がM2のイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の開放動作B2で排出される。開放動作B2の時間t2は、調整モードで作成及び記憶されたテーブルを用いて、第2分析部50で選択される質量電荷比がm2のイオンの排出イオン強度比が調整モードで設定された排出イオン強度比となるような時間が設定される。
【0155】
コリジョンセル40の出口電極46の開放動作B2によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m2のイオンが選択され、イオンパルスD2となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD2の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で処理された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0156】
次に、例えば、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比をM3に変更し、冷却室130の出口電極136に開放時間がta1となるパルス電圧を印加すると、質量電荷比がM3のイオンがパルスとなってコリジョンセル40に導入される。
【0157】
冷却室130の出口電極136の開放動作A3でパルス化され、コリジョンセル40に入射した質量電荷比がM3のイオンはコリジョンセル40で開裂した後、出口電極46の開放動作B3で排出される。開放動作B3の時間t3は、調整モードで作成及び記憶されたテーブルを用いて、第2分析部50で選択される質量電荷比がm3のイオンの排出イオン強度比が調整モードで設定された排出イオン強度比となるような時間が設定される。
【0158】
コリジョンセル40の出口電極46の開放動作B3によって排出されたイオンパルスは第2分析部50で質量電荷比m3のイオンが選択され、イオンパルスD3となってアナログ信号処理部80から出力される。イオンパルスD3の信号はAD変換器90でサンプリングされ、デジタル信号処理部100で処理された後、パーソナルコンピューター120に転送される。
【0159】
このように、実測モードでは、トランジションが変更される毎に、調整モードであらかじめ作成されたテーブルを用いて、第2分析部50で選択されるイオンの排出イオン強度比が所望の値になるように、コリジョンセル40の出口電極46の開放時間が自動的に最適な値に設定される。
【0160】
以上に説明した第2実施形態の質量分析装置によれば、第1実施形態と同様に、調整モードにおいて排出イオン強度比に最も近くなるコリジョンセル40の出口電極46の開放時間を探索することで、実測モードにおいて出口電極46の開放時間が最適化され、ユーザー(作業者)が許容するトランジション間の干渉の範囲で最も高速なMRMが可能となる。
【0161】
また、第2実施形態の質量分析装置によれば、第1実施形態と同様に、調整モードにおいて、第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比ごとの、コリジョンセル40の出口電極46の最適な開放時間のテーブルが作成されるので、実測モードでの実サンプルの測定において、トランジションごとに出口電極46の開放時間を最適化することができる。
【0162】
さらに、第1実施形態ではコリジョンセル40の入り口電極44が閉鎖している時間はイオンが損失されるのに対して、第2実施形態の質量分析装置では冷却室130の出口電極136を閉鎖してもイオンは失われず冷却室130に蓄積される。そのため、第1実施形態1よりも高感度にイオンパルスを測定でき、開放時間も精度よく調整できる。この第2実施形態の質量分析装置の調整方法は、例えば、冷却室を備えた既存の四重極質量分析装置の開放時間を調整する場合に有効である。
【0163】
なお、本実施形態では、冷却室130の出口電極136に印加する電圧とコリジョンセル40の出口電極46に印加する電圧をパルス電圧としたが、これらの電圧はイオンの流れを一時的に遮断し、決められた時間だけ開放するように変動する電圧であればよい。
【0164】
また、所望の排出イオン強度比は、トランジション間の干渉の許容範囲に基づいてユーザー(作業者)が入力してもよいし、初めからパーソナルコンピューター120のメモリ装置等に入力されていてもよい。
【0165】
3.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0166】
[変形例1]
前述の各実施形態では、制御部200は、調整モードにおいて第2分析部50で選択されるイオンの排出イオン強度比が所望の値になるようにコリジョンセル40の出口電極46の開放時間を探索しているが、当該排出イオン強度比の代わりに第2分析部50で選択されるイオンの排出イオン強度が所望の値になるように出口電極46の開放時間を探索してもよい。
【0167】
具体的には、本変形例では、制御部200は、調整モードでは、第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比毎に、
図3に示したイオンパルスD1のイオン強度が所望の値になるような出口電極46の最適な開放時間を探索してテーブル(第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比と出口電極46の最適な開放時間との対応情報)を作成する。また、制御部200は、実測モードでは、調整モードで作成したテーブルを用いて、トランジション毎に標準サンプルに換算した排出イオン強度が所望の値になるような出口電極46の開放時間を自動的に設定する。
【0168】
なお、本変形例における質量分析装置1の調整方法(調整モードを用いてコリジョンセル40の開放時間を調整する方法)のフローチャートとしては、
図2のフローチャートを、ステップS10でコリジョンセル40による排出イオン強度比を設定する代わりに、コリジョンセル40による排出イオン強度を設定するように変形すればよい。
【0169】
また、本変形例における制御部200の調整モードでの処理のフローチャートとしては、
図7あるいは
図11のフローチャートを、ステップS128,S134,S136,S144でコリジョンセル40による排出イオン強度比を計算、記憶又は使用する代わりに、コリジョンセル40による排出イオン強度を設定するように変形すればよい。
【0170】
[変形例2]
前述の各実施形態では、調整モードにおいて、第1分析部30と第2分析部50では使用する標準サンプルのトランジションを選択するものとしたが、第1分析部30と第2分析部50の一方又は両方を所望の質量電荷比以上のイオンをすべて通過させるイオンガイドモードにするように変形してもよい。
【0171】
本変形例の質量分析装置によれば、調整モードにおいて第1分析部30と第2分析部50の一方又は両方をイオンガイドモードにすることで第1分析部30や第2分析部50を通過するイオンの量が増えるので、より高感度な測定が可能となる。その結果、測定回数を減らすことができるので、調整時間を短縮することができる。特に、第1分析部30のみをイオンガイドモードにすると、調整モードでのテーブル(第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比と出口電極46の最適な開放時間との対応情報)作成も可能で、かつ高感度な測定もできる。このとき、調整モードで設定するトランジションは、第2分析部50で選択するイオンの質量電荷比のみを指定する。
【0172】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0173】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。