【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例として、裁断機1に備えられるシート材の糸目打ち装置10の概略的な構成を示す。裁断機1は、裁断テーブル2および裁断ヘッド3を備える。裁断ヘッド3は、裁断テーブル2上に、紙面に垂直な方向に架設されるYビーム4に沿って移動可能である。Yビーム4は、紙面の手前側と奥側との両側方で、図示を省略している移動機構で支持され、紙面の左右方向となるX方向に移動可能である。裁断ヘッド3には、裁断刃5および生地押え6が備えられる。シート材7は、複数枚の積層状態で、裁断テーブル2上で、下方から吸引して保持される。裁断ヘッド3は、裁断テーブル2の表面に沿ってシート材7の上方を、X−Y方向に移動する。裁断機1は、裁断ヘッド3に設けられる裁断刃5で、生地押え6で表面を押えるシート材7を、予め設定される裁断データに従って裁断することを含む裁断工程の動作を行う。
【0018】
シート材7を裁断テーブル2の下方から吸引して保持するために、シート材7の上方には非通気性の合成樹脂フィルムによる密閉シート8が被せられ、密閉シート8上からシート材7に裁断刃5を上方から突刺して、裁断する。裁断テーブル2の表面2aは、裁断刃5が侵入しても切断されにくいように、合成樹脂性の剛毛ブロック2bを並べて、剛毛ブロック2bの先端の剛毛で形成される。剛毛ブロック2bを並べた裁断テーブル2は、コンベアベルトとして、搬送機能も有する。
【0019】
シート材の糸目打ち装置10には、裁断工程の後工程での目印用となる糸9を供給可能な糸供給機構11が設けられる。糸供給機構11では、糸パッケージ11aをセットして、糸ガイド11bを通して糸9を供給することができる。裁断ヘッド3には、糸貫通針13と、抜け防止機構14と、下孔針15とがハウジング16に収容される状態で設けられる。
【0020】
糸貫通針13と下孔針15とは、同一のハウジング16に収容しないで、別個に設けることもできる。たとえば、裁断ヘッド3に、穿孔による目打ち装置が備えられていれば、下孔針15として利用することもできる。説明の便宜上、本実施例では、同一のハウジング16に糸貫通針13と下孔針15とを収容している場合を想定する。
【0021】
ハウジング16の底面16aには、糸貫通針13の先端部13aを出没させる貫通針孔16bと、下孔針15を出没させる下孔針孔16cとが設けられている。糸貫通針13は中空であり、糸供給機構11から供給される糸9を中空部に収容して、先端部13aから糸9を繰出すことができる。糸貫通針13の先端部13aを貫通針孔16bから下方に突出させて、シート材7の上方から突刺して引抜けば、糸9をシート材7の上下に貫通させることができる。
【0022】
抜け防止機構14は、糸貫通針13によって糸9をシート材7に貫通させた後、シート材7の上方で、糸9に抜け防止部14aとしての結び目を形成して切断する。結び目を形成する機構は、ノッターとして、たとえば特開平6−250147号公報で公知の機構を利用する。切断した糸9のシート材7側は、貫通針孔16bから抜けて、シート材7には、目印用の糸9aが残る。目印用の糸9aには、シート材7の上方で、抜け防止機構14によって抜け防止部14aが形成されるので、シート材7を下方から吸引して保持している間でも、下方に抜けないようにすることができる。また、シート材7を載置する裁断テーブル2の搬送機能などでのシート材7の移動時に、シート材7の下方に出ている目印用の糸9aが擦れて引っ張られても、抜け防止部14aが抵抗して、目印用の糸9aの全体が抜けないようにすることができる。このように、裁断機1で、縫製用のパーツなどを裁断しながら、目印用の糸9aを付加して、確実に縫製工程などでのマーキングのための目印として残すことが可能となる。
【0023】
シート材7に糸9を貫通させる位置である目打ち位置7aは、予めデータで設定され、データに従って裁断ヘッド3が移動するように、裁断機1の制御部で制御される。糸目打ち装置10は、下孔針15を備えているので、糸貫通針13による刺し引きに先行して、下孔針15による下孔の形成が行われる。先行して下孔を形成するので、糸貫通針13を目打ち位置7aに刺し引きすることが容易になる。下孔を形成しないで、糸貫通針13を直接シート材7に刺し引きする場合のように、針径を太くして糸貫通針13を強化する必要はない。下孔を形成しておけば、糸貫通針13を刺し引きすることによって形成される孔の径が糸9に対して過大にならないようにすることができる。糸貫通針13の針径が糸9に対して過大にならなければ、糸9を、抜けにくくなるように適切な抵抗を受けるような状態で、残すことが可能となる。
【0024】
図2は、
図1の糸貫通針13を下孔針15とともに使用する手順を示す。シート材7は、
図1の裁断テーブル2の表面2a上に載置し、下方から吸引して保持するために、上方を密閉シート8で覆うけれども、これらの図示は、簡略化のために省略する。下孔針15や糸貫通針13をシート材7に突刺す際には、ハウジング16をシート材7の上方から表面に下降させて底面16aでシート材7の表面を押え、糸貫通針13および下孔針15を貫通針孔16bおよび下孔針孔16cからそれぞれ突出させる。
【0025】
まず、裁断ヘッド3の移動で、
図2(a)に示すように、下孔針15をシート材7の目打ち位置7aに移動させる。下孔針15は、先端にテーパー部15aが設けられ、テーパー部15aの基端側はストレート部15bに続く。すなわち、テーパー部15aは、下孔針15の先端側であり、径が減少して中心軸線15c上に尖端15dを形成する。ストレート部15bは、テーパー部15aの基端側に、少なくともシート材7に突刺す可能性がある範囲まで続き、径が一定となる。ストレート部15bに続いて、さらに径が大きくなるテーパー部や段付部が設けられる場合があるけれども、下孔形成に関する下孔針15の針径は、ストレート部15bの径となる。下孔針15は、中実針であるので、針径が細くても曲りにくく、中心軸線15cの位置を目打ち位置7aに合わせて、シート材7に孔を明けないで、生地の目を押し拡げるような小径の下孔を確実に形成することができる。
【0026】
次に、
図2(b)に示すように、下孔針15の尖端15dを下孔針孔16cから下方に突出させ、シート材7の目打ち位置7aに突刺す。下孔針15の先端側は、テーパー部15aからストレート部15bの一部まで、シート材7の下方に突き出る。
【0027】
次に、
図2(c)に示すように、下孔針15をシート材7から引抜けば、シート材7には下孔7bが形成される。シート材7が布帛であれば、下孔針15が繊維間を弾発的に押し拡げた隙間を通り、引抜けば隙間が戻ってストレート部15bの径よりも小径の下孔7bが形成される。
【0028】
次に、
図2(d)に示すように、糸貫通針13を下孔7bの位置に移動させる。糸貫通針13は、中空針であり、中空の軸部13bを通って供給される糸9を先端部13aから繰出すことができる。糸9は、軸部13bに、糸供給機構11から供給される。
【0029】
次に、
図2(e)に示すように、糸貫通針13を貫通針孔16bから突出させ、下孔7bに突刺す。糸貫通針13の先端部13aと、先端部13aから繰出される糸9の先端とは、シート材7の下方に突き出る。
【0030】
次に、
図2(f)に示すように、糸貫通針13をシート材7から引抜けば、シート材7の目打ち位置7aには糸9が貫通する状態で残り、貫通した糸9が目打ち位置7aと先端部13aとの間にも連なる状態となる。
図2(d)の下孔7bは、糸孔7cとなり、糸9が貫通する。
【0031】
下孔針15のストレート部15bの径、すなわち下孔針15の針径は、糸貫通針13の軸部13bの径、すなわち糸貫通針13の針径よりも小さくしておくことが好ましい。
図2(c)に示す下孔7bの径は、ストレート部15bの径よりも小さくなるので、
図2(e)で突刺す糸貫通針13の軸部13bの径以下にしておく。軸部13b内の中空部に挿通されている糸9の径も軸部13bの径よりも小さい。糸貫通針13を刺し引きすることによって、
図2(f)に示す糸孔7cが下孔7bよりも径が大きくなっても、糸9に対して糸孔7cの径が過大にならないようにすることができる。糸9に対して糸孔7cの径が過大になると、糸9が上方または下方に引張られる際の抵抗が小さくなり、糸9がシート材7から抜けてしまうおそれがある。
【0032】
なお、下孔7bは、シート材7を貫通しなくてもよく、厚みの途中まで形成するだけでもよい。厚みの途中まででも下孔7bを形成しておくことによって、針径が小さい中空の糸貫通針13でも、目打ち位置7aに刺し引きしても損傷を受けにくくすることができる。下孔7bを形成しておくことによって、糸貫通針13の軸部13bの径や肉厚を小さくしても、シート材7が目の詰んだ抵抗の大きい生地から損傷を受けることなく、確実に糸9を貫通させることができる。
【0033】
図3は、糸貫通針13の先端部13aの形状の一例を示す。
図3(a)は部分的に正面視した形状を示し、
図3(b)は
図3(a)を右側面視した形状を示す。
図3(c)および
図3(d)は
図3(a)を、斜め上方および斜め下方の前方側から斜視した形状をそれぞれ示す。糸貫通針13は、先端部13aを軸部13bの先端に有する。軸部13bは、軸線13c方向に延びる管状で、中空部分に糸供給機構11から供給される糸9を挿通させることができる。先端部13aは、軸線13cに対して鋭角に切開した形状の正傾斜面13dと、正傾斜面13dの背面側を両側方から軸線13cに対して鋭角に切削した形状の背傾斜面13e,13fとを有する。
【0034】
背傾斜面13e,13fを設けることによって、先端部13aは、最尖端13gを軸部13bの外周ラインよりも径方向の内側に入れることができる。最尖端13gが内側に入ることによって、糸貫通針13をシート材7に突刺すことが容易となり、突刺性能が向上する。また突刺してからシート材7に貫入する際に直進しやすくなり、直進性も向上する。さらに、突刺してもシート材7を損傷しにくくなり、損傷防止も図ることができる。
【0035】
糸9は、軸13bから正傾斜面13dの内側の開口部13hから繰出される端部がシート材7を貫通する際に、先端が上方に折返されて、開口部13hの基端側部分13iを通りやすい。したがって、糸貫通針13の刃先となる正傾斜面13dの基端側部分13iのエッジには丸みを持たせることが好ましい。丸みを持たせておけば、糸9が基端側部分13iで折り返されるようになっても、糸切れしないようにすることができる。
【0036】
また中空の軸部13bに糸9を挿通させるので、糸貫通針13をシート材7に突刺す際に、軸部13bに収容されている糸9がシート材7に接触しないようにすることができる。裁断機1でシート材7を吸引して保持しても、吸引力が中空の軸部13bにも作用し、糸貫通針13をシート材7に突刺してから上昇させて引抜く際に、糸9が付き上がらないようにすることができる。
【0037】
また、糸貫通針13には、中空針ばかりではなく、針の先端付近のみに目孔を設けるミシン針や、目孔に連通する中空部を設ける中空ミシン針も用いることができる。糸貫通針13として中空針を使用する場合でも、本実施例のように、糸9は軸部13bの基端から先端部13aまで挿通させるばかりではなく、軸部13bの途中から先端部13aまで挿通させるようにしてもよい。
【0038】
なお、抜け防止部14aは、糸9がシート材7を貫通し難くなるようにすればよい。したがって、結び目を形成するばかりではなく、ノッターで他の糸と結び付けたり、糸の端をほぐして絡めるスプライサーで他の糸と継いだりしてもよい。また、抜け防止部14aでは、糸9の径を拡大するように加工したり、他の素材を付加してもよい
。
【0039】
また、本実施例では、裁断機1の裁断テーブル2上に積層状態のシート材7を載置し、裁断テーブル2の表面に沿って移動するシート材の糸目打ち装置10でシート材に糸9を貫通させて残すようにしている。シート材の糸目打ち装置10は、裁断機1の裁断ヘッド3とともに、X−Yの二次元方向に移動するようにしているけれども、裁断ヘッド3と独立に移動するようにしてもよい。裁断ヘッド3と独立に移動可能にしておけば、シート材の糸目打ち装置10を、たとえば裁断テーブル2へのシート材7の搬入経路や、シート材7を拡げて積層する延反テーブルなどに設けることもできる。シート材の糸目打ち装置10は、シート材7の搬送を組合せれば、搬送方向と垂直な方向への一次元の移動で、シート材7の表面に対する二次元の移動を行わせることもできる。
【0040】
シート材の糸目打ち装置10は、主要部分をハウジング16内に収容しているけれども、一部または全部を外部に露出させてもよい。シート材7は、複数枚を積層している状態で外周を裁断してパーツに分離することを前提にしているけれども、一枚のみを裁断する場合でも、本発明を同様に適用することができる。また、パーツに分離する裁断ばかりではなく、一定の幅で帯状に切断するトリミングのような場合にも、本発明を適用することができる。