【文献】
Chayan Mitra, et al.,Development of Steam Quality Measurement and Monitoring Technique Using Absorption Spectroscopy With Diode Lasers,IEEE SENSORS JOURNAL,2011年,Vol.11, No.5,pp.1214-1219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気液二相流における前記光の吸光度が、前記気液二相流中で形成される水素結合の数と相関する、請求項10ないし15のいずれか1項に記載の乾き度分布測定方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置の模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る発光体の正面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る受光体の正面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る標準大気圧における水の状態変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る水分子のクラスタの模式図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る乾き度に依存する水分子の状態を示す模式図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係る水分子のクラスタが有する平均水素結合数と、温度と、の関係の例を示すグラフである。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係る水分子の吸収スペクトルの例を示すグラフである。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る単独で存在する水分子の模式図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係る一つの水素結合で結合している二つの水分子の模式図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態に係る二つの水素結合で結合している三つの水分子の模式図である。
【
図12】本発明の第1の実施の形態に係る受光強度変化を示すグラフである。
【
図13】本発明の第1の実施の形態に係る複数の受光素子のそれぞれの位置に対応するパイプ内部の位置を示す模式図である。
【
図14】本発明の第1の実施の形態に係る成層流を示す模式図である。
【
図15】本発明の第1の実施の形態に係る波状流を示す模式図である。
【
図16】本発明の第1の実施の形態に係る気泡流を示す模式図である。
【
図17】本発明の第1の実施の形態に係るせん状流を示す模式図である。
【
図18】本発明の第1の実施の形態に係るスラグ流を示す模式図である。
【
図19】本発明の第1の実施の形態に係る環状流を示す模式図である。
【
図20】本発明の第1の実施の形態に係る環状噴霧流を示す模式図である。
【
図21】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の表である。
【
図22】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の棒グラフである。
【
図23】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の線グラフである。
【
図24】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の線グラフである。
【
図25】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の表である。
【
図26】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の棒グラフである。
【
図27】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の線グラフである。
【
図28】本発明の第1の実施の形態に係る各測定位置における受光強度の線グラフである。
【
図29】本発明の第2の実施の形態に係る蒸気の加熱量と、吸光度と、の比を示すグラフである。
【
図30】本発明の第3の実施の形態に係る乾き度分布測定装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置は、
図1に示すように、測定対象の気液二相流に光を照射する発光体11と、測定対象の気液二相流を透過した光をそれぞれ受光する複数の受光素子を含む受光体12と、複数の受光素子のそれぞれが受光した光の受光強度に基づき、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の気液二相流の乾き度を特定する乾き度特定部301と、を備える。ここで、光の強度とは、受光体12による光の受光強度であっても、気液二相流による光の吸光度であってもよい。測定対象の気液二相流は、パイプ21を流れる。
【0012】
発光体11は、面発光体でもよいし、
図2に示すように、格子状に配置された複数の発光素子111a、111b、111c・・・を含んでいてもよい。複数の発光素子111a、111b、111c・・・には、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、半導体レーザ、及びレーザ発振器等が使用可能である。また、
図3に示すように、複数の受光素子112a、112b、112c・・・は、パイプ21に対向して2次元格子状に配列される。複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれには、フォトダイオード等の光強度検出素子が使用可能である。
【0013】
図2に示す複数の発光素子111a、111b、111c・・・の配置と、
図3に示す複数の受光素子112a、112b、112c・・・の配置と、を、一対一に対応させることにより、複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれが受光する光の、光路長の違いに起因する強度のムラを抑制することが可能となる。
【0014】
さらに、第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置は、
図1に示すように、測定対象の気液二相流の温度又は圧力を測定する環境センサ13と、予め取得された、気液二相流を透過した光の強度と、気液二相流の乾き度と、の関係を、温度又は圧力毎に保存する関係記憶部401と、を備える。乾き度特定部301は、受光体12による光の強度の測定値と、環境センサ13による温度又は圧力の測定値と、関係記憶部401に保存されている関係と、に基づき、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の気液二相流の乾き度の値を特定する。
【0015】
図4に示すように、標準大気圧下においては、水は沸点(100℃)に達した後、液滴としての水と、蒸気と、が混合し、共存態にある気液二相流(湿り蒸気)となる。ここで、湿り蒸気全量に対する、蒸気の重量比を、「乾き度」という。したがって、飽和蒸気の乾き度は1となり、飽和液の乾き度は0となる。あるいは、乾き度は、潜熱の比エンタルピに対する、湿り蒸気の比エンタルピと飽和液の比エンタルピとの差の比、としても定義される。
【0016】
水は、水分子どうしが形成する水素結合の数の違いにより、相が変化する。湿り蒸気においては、水分子どうしは、水素結合を介して結合し、
図5に示すように、クラスタを形成しうる。
図6及び
図7に示すように、乾き度が0の湿り蒸気におけるクラスタが有する平均水素結合数は、大気圧下で、例えば2.13である。クラスタが有する平均水素結合数は、乾き度が1に近づくにつれて減少し、単独で存在する水分子が増加する傾向にある。
【0017】
図8は、水分子が示す吸収スペクトルの一例である。
図9に示すように単独で存在する水分子は、1840又は1880nmにピークを有する吸収スペクトルを与える。
図10に示すように一つの水素結合で結合している二分子の水分子は、1910nmにピークを有する吸収スペクトルを与える。
図11に示すように二つの水素結合で結合している三分子の水分子は、1950nmにピークを有する吸収スペクトルを与える。水分子が形成するクラスタに含まれる水素結合数が増えるほど、吸収スペクトルのピークの波長は長くなる傾向にある。
【0018】
図1に示す乾き度分布測定装置は、湿り蒸気が通過するパイプ21に接続される。発光体11は、単一の波長を有する光を発する。例えば、発光体11が発する光の波長は、クラスタにおける水分子どうしが形成した水素結合の数と相関するよう、設定される。例えば、発光体11が発する光の波長は、水素結合数が0の場合の水分子の吸光ピークが表れる1880nmであってもよく、水素結合数が1の場合の水分子の吸光ピークが表れる1910nmであってもよい。ただし、発光体11が発する光の波長は、水に吸収される波長帯域内であれば、水分子の吸光ピーク波長と異なっていてもよい。例えば、発光体11が発する光の波長は、1880乃至1910nmの間であってもよい。
【0019】
発光体11には、光導波路31が接続されている。光導波路31は、発光体11が発した光を、パイプ21の内部に伝搬する。例えば、光導波路31は、パイプ21の側壁を貫通している。あるいは、パイプ21の側壁に光透過性の窓を設け、窓に光導波路31を接続してもよい。光導波路31で伝搬された光は、光導波路31の端部からパイプ21の内部に進入する。光導波路31には、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Poly(methyl methacrylate))からなるプラスチック光ファイバ、及び石英ガラスからなるガラス光ファイバ等が使用可能であるが、発光体11が発した光を伝搬可能であれば、これらに限定されない。
【0020】
発光体11が、例えば、波長が1880nmの光を発した場合、パイプ21の内部において、波長が1880nmの光は、湿り蒸気に含まれる、単独で存在する水分子によって吸収される。上述したように、水分子クラスタが有する平均水素結合数は、乾き度が0から1に近づくにつれて減少する。したがって、パイプ21内部の湿り蒸気の乾き度が0から1に近づくにつれて、波長が1880nmの光はより多く吸収される傾向にある。
【0021】
あるいは、発光体11が、例えば、波長が1910nmの光を発した場合、パイプ21の内部において、波長が1910nmの光は、湿り蒸気に含まれる、一つの水素結合で結合している二分子の水分子によって吸収される。波長が1910nmの光は、パイプ21内部の湿り蒸気の乾き度が0から1に近づくにつれて、より少なく吸収される傾向にある。
【0022】
パイプ21には、パイプ21の内部を通過した光が進入する光導波路32が接続されている。光導波路32は、パイプ21の内部の湿り蒸気を透過した光を、受光体12に導く。光導波路32の端部は、光導波路31の端部と対向している。また、例えば、光導波路32は、パイプ21の側壁を貫通している。あるいは、パイプ21の側壁に光透過性の窓を設け、窓に光導波路32を接続してもよい。
【0023】
なお、発光体11をパイプ21の側壁に配置し、光導波路31を省略してもよい。また、受光体12をパイプ21の側壁に配置し、光導波路32を省略してもよい。
【0024】
図12は、発光体11から波長1904nmの光を発し、所定の温度又は圧力条件下の湿り蒸気を加熱した場合に、受光体12で受光された光の強度の変化の実測例を示すグラフである。波長が1904nmの光は、湿り蒸気に含まれる、一つの水素結合で結合している二分子の水分子によって吸収されるため、湿り蒸気が加熱され、乾き度が0から1に近づくにつれて、湿り蒸気による吸収が低下し、受光体12による受光強度が上昇する。したがって、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、受光体12による受光強度と、は、相関する。換言すれば、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気による光の吸光度と、は、相関する。
【0025】
ここで、
図4に示したように、水の沸点は、標準大気圧下では100℃であるが、圧力に応じて変動する。したがって、上述したように、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気を透過した光の強度と、は、相関するが、相関の態様は、パイプ21の内部の湿り蒸気の温度又は圧力によって変化する。
【0026】
図1に示す環境センサ13には、任意の温度センサ又は圧力センサが使用可能である。 受光体12及び環境センサ13には、中央演算処理装置(CPU)300が接続されている。乾き度特定部301は、CPU300に含まれている。CPU300には、関係記憶部401を含むデータ記憶装置400が接続されている。関係記憶部401は、例えば、予め取得された、受光体12に含まれる複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれによる受光強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を、温度又は圧力条件毎に保存する。受光強度と、乾き度と、の関係は、式として保存されてもよいし、表として保存されてもよい。
【0027】
受光体12に含まれる複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれによる受光強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係は、例えば、ボイラー等で湿り蒸気を加熱しながら、従来の乾き度計で湿り蒸気の乾き度を測定し、あわせて湿り蒸気を透過した光の強度を測定することによって、予め取得することが可能である。従来、種々の乾き度計があるが、関係を取得する際には、それらのいずれかを単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0028】
乾き度特定部301は、例えば、受光体12に含まれる複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれから、パイプ21内部の湿り蒸気を透過した光の受光強度の測定値を受信する。また、乾き度特定部301は、環境センサ13から、パイプ21内部の湿り蒸気の温度又は圧力の測定値を受信する。さらに乾き度特定部301は、関係記憶部401から、湿り蒸気の温度又は圧力の測定値に対応する温度又は圧力条件下の、受光素子による受光強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を読み出す。
【0029】
ここで、乾き度特定部301は、温度又は圧力の測定値に一致する温度又は圧力条件下の関係が関係記憶部401に保存されている場合は、温度又は圧力の測定値に一致する温度又は圧力条件下の関係を関係記憶部401から読み出す。また、乾き度特定部301は、例えば、温度又は圧力の測定値に一致する温度又は圧力条件下の関係が関係記憶部401に保存されていない場合は、温度又は圧力の測定値に最も近似する温度又は圧力条件下の関係を関係記憶部401から読み出す。
【0030】
乾き度特定部301は、読み出した関係と、複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれによる受光強度の測定値と、に基づいて、複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれの位置に対応する、
図13に示すようなパイプ21内部の位置113a、113b、113c・・・の湿り蒸気の乾き度の値を特定する。例えば、関係が、受光強度を独立変数とし、乾き度を従属変数とする式で表現されている場合、乾き度特定部301は、式の受光強度の独立変数に、受光強度の測定値を代入して、パイプ21内部の複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度の値を算出する。
【0031】
パイプ21内を流れる二相流の流動様式は様々であり、パイプ21内において乾き度に分布が生じる。例えば、二相流の流動様式は、パイプ21内の平均乾き度の低い状態においては、
図14に示すように成層流や
図15に示す波状流であり、平均乾き度が上昇した場合には
図16に示す気泡流や
図17に示すせん状流となり、さらに平均乾き度が上昇した場合には
図18に示すスラグ流となり、またさらに平均乾き度が上昇した場合には
図19に示す環状流や
図20に示す環状噴霧流となる。
【0032】
ここで、例えば、
図18に示すスラグ流においては、パイプ21内の平均乾き度は低いが、パイプ21内に大きな気泡が生じる。そのため、当該気泡部分においては乾き度は局所的に高く、その他の液体部分においては乾き度は局所的に低い。したがって、スラグ流の気泡部分のみの乾き度を局所的に測定すると、パイプ内の平均乾き度が高いものと誤って判断される。この場合、例えば熱交換器にて所望の熱交換が不可能になりうる。
【0033】
これに対し、第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置によれば、パイプ21内の湿り蒸気の乾き度の分布を測定することが可能となる。そのため、乾き度の分布から、パイプ21内の二相流の流動様式が、成層流、波状流、せん状流、スラグ流、環状流、気泡流、及び環状噴霧流のいずれであるか、判定することが可能となる。
【0034】
図1に示すように、CPU300は、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度を示す画像を生成する画像生成部302をさらに備える。例えば、湿り蒸気の流れ方向で5点、及び湿り蒸気の流れ方向に垂直な方向で5点、乾き度を示す受光強度の測定が行われた場合、画像生成部302は、例えば、
図21に示すように、各測定位置における受光強度、あるいは吸光度の表を、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度を示す画像として作成する。
【0035】
あるいは画像生成部302は、例えば、
図22に示すように、各測定位置における受光強度、あるいは吸光度の棒グラフを、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度を示す画像として作成する。またあるいは画像生成部302は、例えば、
図23に示すように、湿り蒸気の流れ方向における位置に対して、受光強度あるいは吸光度をプロットした線グラフを、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度を示す画像として作成してもよいし、
図24に示すように、湿り蒸気の流れ方向に対して垂直な方向における位置に対して、受光強度あるいは吸光度をプロットした線グラフを、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度を示す画像として作成してもよい。
【0036】
なお、
図21ないし
図24は、パイプ21内の湿り蒸気の流動様式がスラグ流である場合の例であり、乾き度を示す受光強度のばらつきが大きい例である。これに対し、例えば、パイプ21内の湿り蒸気の流動様式が環状流である場合、乾き度を示す受光強度のばらつきは小さくなり、表は例えば
図25に示すようになり、棒グラフは例えば
図26に示すようになり、線グラフは例えば
図27及び
図28に示すようになる。
【0037】
また、
図1に示すように、第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置は、複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度のムラが所定の上限基準値以上であるか否か、及びムラが所定の下限基準値以下であるか否かを判定する判定部303と、湿り蒸気の乾き度のムラが所定の上限基準値以上である場合、湿り蒸気を加熱し、湿り蒸気の乾き度のムラが所定の下限基準値以下である場合は、湿り蒸気の加熱を中止する加熱装置41と、をさらに備える。例えば、判定部303は、CPU300に含まれている。加熱装置41は、CPU300に含まれる判定部303に電気的に接続されている。湿り蒸気の乾き度のムラの所定の上限基準値及び下限基準値は、データ記憶装置400の基準記憶部402に保存されている。
【0038】
判定部303は、例えば、乾き度特定部301が特定した複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度の値の分散等を、乾き度のムラを示す値として算出する。さらに判定部303は、基準記憶部402から所定の上限基準値を読み出し、算出した乾き度の値の分散と、上限基準値とを比較する。判定部303は、算出した乾き度の値の分散が上限基準値よりも大きい場合は、湿り蒸気を加熱する必要があると判定する。
【0039】
なお、
図19に示す環状流や
図20に示す環状噴霧流においては、乾き度のムラが小さく、
図14に示す成層流、
図15に示す波状流、
図16に示す気泡流、
図17に示すせん状流、及び
図18に示すスラグ流では乾き度のムラが大きい。熱交換器等の対象物を加熱する際には、環状流や環状噴霧流のように、乾き度のムラの小さい湿り蒸気を用いることが、熱伝導の効率から望ましい。したがって、例えば基準記憶部402に保存される所定の上限基準値は、当該上限基準値よりも乾き度のムラが小さければ、湿り蒸気が環状流や環状噴霧流となるよう、設定される。
【0040】
また、環状流や環状噴霧流においては、
図27に示すように、湿り蒸気の流れ方向においては、乾き度のバラツキが少なく、また、
図28に示すように、湿り蒸気の流れ方向に対して垂直な方向においては、パイプ21の中心では乾き度が低く、パイプ21の側壁近傍では乾き度が高くなる傾向にある。そのため、判定部303は、湿り蒸気の流れ方向における乾き度の分布と、湿り蒸気の流れ方向に対して垂直な方向における、パイプ21の中心を基準とした乾き度の対称性に基づいて、湿り蒸気を加熱する必要があるか否かを判定してもよい。
【0041】
さらに、熱交換器等の対象物の過加熱によるドライアウトが懸念される場合は、例えば
図1に示す基準記憶部402に保存される所定の下限基準値は、当該下限基準値よりも乾き度のムラが大きければ、湿り蒸気がドライアウトを回避しうる程度のミストを含むよう、設定される。
【0042】
加熱装置41は、判定部303が湿り蒸気を加熱する必要があると判定した場合、例えばパイプ21を加熱することによって、パイプ21内部を流れる湿り蒸気を加熱する。また、判定部303が湿り蒸気の乾き度のムラが所定の下限基準値以下であると判定した場合は、湿り蒸気の加熱を中止する。
【0043】
CPU300には、さらに入力装置321、出力装置322、プログラム記憶装置323、及び一時記憶装置324が接続される。入力装置321としては、スイッチ及びキーボード等が使用可能である。関係記憶部401に保存される温度又は圧力条件毎の受光強度と、乾き度と、の関係は、例えば、入力装置321を用いて入力される。出力装置322としては、光インジケータ、デジタルインジケータ、及び液晶表示装置等が使用可能である。出力装置322は、例えば、乾き度特定部301が特定したパイプ21内部の複数の受光素子112a、112b、112c・・・のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の乾き度の分布を表示する。あるいは、出力装置322は、画像生成部302が生成した画像を出力する。プログラム記憶装置323は、CPU300に接続された装置間のデータ送受信等をCPU300に実行させるためのプログラムを保存している。一時記憶装置324は、CPU300の演算過程でのデータを一時的に保存する。
【0044】
以上説明した第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置、及び乾き度分布測定装置を用いる乾き度測定方法によれば、光学的手法により、湿り蒸気の相状態を変化させることなく、高い精度で高速に湿り蒸気の乾き度を測定することが可能となる。また、第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置は、配管に絞り弁や分流配管を設ける必要がない。そのため、第1の実施の形態に係る乾き度分布測定装置は、低いコストで、熱交換器等の加熱対象物の近傍に設置することが可能である。
【0045】
また、従来、超音波を用いた乾き度計があるが、超音波は、湿り蒸気の気相部分と、液相部分と、の境界面における音響インピーダンスの差が大きいため、境界面においてほとんど反射する。そのため、超音波を用いた乾き度計は、乾き度を実用的に測定できる水準に至っていない。これに対し、光は、気相部分と、液相部分と、の境界面を透過可能である。そのため、第1の実施の形態に係る光学式の乾き度分布測定装置は、乾き度を正確に測定することが可能である。
【0046】
なお、関係記憶部401は、湿り蒸気による吸光度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を保存していてもよい。この場合、乾き度特定部301は、発光体11の発光強度と、受光体12による受光強度と、から、測定対象の湿り蒸気による吸光度の測定値を算出し、吸光度と乾き度の関係と、吸光度の測定値と、に基づいて、測定対象の湿り蒸気の乾き度の値を特定すればよい。
【0047】
また、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気を透過した光強度と、の相関の態様は、湿り蒸気内の光透過体積によっても変化し得る。例えば、光透過体積の変化の要因としては、パイプ径や発光体の面積並びに受光素子の面積などが挙げられる。したがって、関係記憶部401は、湿り蒸気の光透過体積毎に、湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気を透過した光強度と、の相関を保存してもよい。この場合、乾き度特定部301は、関係記憶部401から、湿り蒸気の温度又は圧力の測定値、並びに測定対象の湿り蒸気の光透過体積の値に対応する、受光強度と、乾き度と、の関係を読み出せばよい。
【0048】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態においては、
図1に示す発光体11が、単一の波長を有する光を発する例を示した。これに対し、第2の実施の形態においては、発光体11は、少なくとも二つの異なる波長の光を発する。例えば、少なくとも二つの異なる波長の一つは、水素結合数が0の場合の水分子の吸光ピークが表れる1880nmであり、他の波長は、水素結合数が1の場合の水分子の吸光ピークが表れる1910nmである。このように、第2の実施の形態においては、発光体11が発する光は、複数の波長のそれぞれにおける吸光度が、クラスタにおける水分子どうしが形成した水素結合の数と相関するよう、設定される。
【0049】
発光体11は、それぞれ異なる波長の光を発する複数の発光素子を備えていてもよい。あるいは、発光体11は、広波長帯域の光を発してもよい。また、発光体としては発光ダイオード、スーパールミセントダイオード、半導体レーザ及びレーザ発振器等が使用可能である。発光体11が広波長帯域の光を発する場合は、少なくとも二つの異なる波長のみを透過させるフィルタを受光体12の前に配置してもよい。受光体12に含まれる複数の受光素子のそれぞれには、フォトダイオード等が使用可能である。例えば受光体12に含まれる複数の受光素子のそれぞれは、少なくとも、水素結合数が0の場合の水分子が最も吸光する1880nmの波長の光と、水素結合数が1の場合の水分子が最も吸光する1910nmの波長の光と、を受光する。
【0050】
図29は、所定の温度又は圧力条件の下、波長が1880nmの光の吸光度をI
1、波長が1910nmの光の吸光度をI
2、とし、下記式(1)で与えられる比Rの実測例を、湿り蒸気への加熱量に対してプロットしたグラフである。
R = I
1 / I
2 ・・・(1)
【0051】
吸光度の比Rは、一つの水素結合で結合している二分子の水分子からなるクラスタに対する、水素結合を形成していない単独で存在する水分子の比、と相関する。上述したように、クラスタが有する平均水素結合数は、乾き度が0から1に近づくにつれて減少し、単独で存在する水分子が増加する傾向にある。したがって、吸光度の比Rは、湿り蒸気が加熱され、乾き度が0から1に近づくにつれて大きくなる傾向にある。
【0052】
なお、波長が1760nmの光の吸光度をI
0とし、下記式(2)で与えられる比Rを、湿り蒸気への加熱量に対してプロットしても、同様の結果が得られる。
R = (I
1 - I
0) / (I
2 - I
0) ・・・(2)
ここで、波長が1760nmの光の吸光度をI
0は、水の分子吸光と無関係な部分であるが、捉えようとしている吸光スペクトルの増減に影響を及ぼす。したがって、式(2)において、I
1とI
0との差、並びにI
2とI
0との差、をとることにより、分光スペクトルのベースラインを一定にすることが可能となる。
【0053】
第2の実施の形態において、関係記憶部401は、例えば、上記式(1)又は式(2)で表される吸光度の比Rと、乾き度と、の予め取得された関係を、温度又は圧力条件毎に保存する。吸光度の比Rと、乾き度と、の関係は、式として保存されてもよいし、表として保存されてもよい。
【0054】
第2の実施の形態において、乾き度特定部301は、複数の波長のそれぞれにおける湿り蒸気を透過した光の強度の複数の測定値の大小関係に基づいて、湿り蒸気の乾き度を算出する。例えば、乾き度特定部301は、受光体12に含まれる複数の受光素子のそれぞれから、パイプ21内部の湿り蒸気を透過した光の強度スペクトルを受信する。さらに、乾き度特定部301は、パイプ21内部の湿り蒸気を透過する前の光の強度スペクトルと、パイプ21内部の湿り蒸気を透過した光の強度スペクトルと、に基づき、湿り蒸気による光の吸収スペクトルを算出する。またさらに、乾き度特定部301は、吸収スペクトルに基づいて、上記式(1)又は式(2)で表される吸光度の比Rの値を算出する。
【0055】
さらに、乾き度特定部301は、関係記憶部401から、湿り蒸気の温度又は圧力の測定値に対応する温度又は圧力条件下の、吸光度の比Rと、乾き度と、の関係を読み出す。乾き度特定部301は、算出された吸光度の比Rの値、並びに吸光度の比Rと、乾き度と、の関係に基づき、パイプ21内部の複数の受光素子のそれぞれに対応する位置の湿り蒸気の値を算出する。
【0056】
第2の実施の形態に係る乾き度分布測定装置のその他の構成要件は、第1の実施の形態と同様である。第2の実施の形態に係る乾き度分布測定装置によれば、複数の波長の光を用いることにより、発光体11の出力のばらつきや、ノイズの影響を抑制することが可能となる。そのため、より高い精度で測定対象の湿り蒸気の乾き度の値を特定することが可能となる。
【0057】
(第2の実施の形態の変形例)
第2の実施の形態では、波長1880nmにおける吸光度と、波長1910nmにおける吸光度と、を比較する例を示した。ここで、上記式(1)及び式(2)のそれぞれの右辺の分母と分子とを置き換えてもよい。また、水素結合数0に相関する波長の吸光度と、水素結合数2に相関する波長の吸光度と、を比較してもよい。あるいは水素結合数0に相関する波長の吸光度と、水素結合数3に相関する波長の吸光度と、を比較してもよい。さらには、水素結合数1に相関する波長の吸光度と、水素結合数2に相関する波長の吸光度と、を比較してもよいし、水素結合数1に相関する波長の吸光度と、水素結合数3に相関する波長の吸光度と、を比較してもよいし、水素結合数2に相関する波長の吸光度と、水素結合数3に相関する波長の吸光度と、を比較してもよい。この様に、異なる水素結合数に相関する任意の複数の波長の吸光度の比に基づき、乾き度を算出してもよい。あるいは、異なる水素結合数に相関する任意の複数の波長の吸光度の差と、乾き度と、の相関を予め取得し、複数の波長の吸光度の差の測定値から乾き度の値を求めてもよい。
【0058】
(第3の実施の形態)
第1及び第2の実施の形態では、乾き度分布測定装置が、
図1に示すように、発光体11と受光体12の組合せを一組有する例を示した。これに対し、乾き度分布測定装置は、
図30に示すように、発光体11と受光体12の組合せに加えて、発光体51と受光体52の組合せをさらに有していてもよい。例えば、発光体11と受光体12の組合せに対して、発光体51と受光体52の組合せは垂直方向に配置される。これにより、受光体12に含まれる受光素子のそれぞれで測定される受光強度と、受光体52に含まれる受光素子のそれぞれで測定される受光強度と、に基づき、パイプ21内部の空間的な乾き度の分布を測定することが可能となる。
【0059】
(その他の実施の形態)
上記のように本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、気液二相流は、水蒸気に限られず、冷媒であってもよい。また、
図1では、発光体11と、受光体12と、が対向しているが、発光体と、受光体と、の両方が一体化したしていてもよい。この場合、一体化した発光体及び受光体と対向するパイプの側壁に、反射板が配置される。一体化した発光体及び受光体から発せられた光は、パイプ内部を進行し、反射板で反射され、一体化した発光体及び受光体で受光される。また、本件特許発明が乾き度を測定する原理は、実施の形態で説明した理論に限定されない。例えば、飽和蒸気と飽和液との吸光スペクトルの差異は、それぞれにおける水分子の振動エネルギーの差異によって説明される場合もある。しかし、いずれにしろ、湿り蒸気を透過した光の強度に基づいて、乾き度を測定可能な点には変わりがない。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。