【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1に係る原子炉給水流量制御装置について
図1乃至
図4を参照しながら詳細に説明する。(特に、請求項1,2に対応)
図1は実施例1乃至3に共通する本発明の実施の形態に係る原子炉給水流量制御装置を説明するための概念図である。
図7で説明した構成要素と同一のものについては同一符号を付している。
図1において、本発明の実施の形態に係る原子炉給水流量制御装置1に対しては、水位信号2(減算)と水位設定信号3(加算)の差分が入力信号Xとして入力される。今回の発明に係る原子炉給水流量制御装置1が対象としている事象は、原子炉50(
図7参照)が低出力での運転状態であり、原子炉水位の制御は原子炉給水ポンプ52の下流側の給水流量調節弁4により制御している。
従って、原子炉給水流量制御装置1からの出力信号Yは給水流量調節弁4に対して出力されている。
今回の発明では、このような低出力運転時に原子炉水位が上昇している状態で、運転員が原子炉浄化系51(
図7参照)のCUWダンプ弁57を開動作させて水位を下げる場合を想定しているが、その際には起動モード変更論理回路6が働き、原子炉給水流量制御装置1に対して起動モード変更信号5が出力される。この起動モード変更信号5によって原子力プラントの運転モードが低出力運転モードから起動モードに変更されるのである。
この起動モードに変更されるためには、図中の起動モード変更論理回路6に示されるとおり、給水流量低、主蒸気流量低、原子炉浄化系(CUW)起動許可、電動給水ポンプ1台以上運転、給水流量調節弁(LFCV)開度小、制御器自動運転などの運転状態信号7を入力することで出力される起動モード変更信号5が必要となる。なお、起動モード変更論理回路6中に示される符号8は否定回路、符号9a,9bは論理積回路、符号10は論理和回路である。
【0023】
次に、
図2を参照しながら、低出力運転モードから起動モードへ変更された場合に本発明の実施例1に係る原子炉給水流量制御装置1の動作について説明する。
図2は本発明の実施の形態の実施例1に係る原子炉給水流量制御装置の構成図である。
図2において、原子炉給水制御系11(
図7参照)に含められる原子炉給水流量制御装置1は、起動モード変更論理回路6を備えた運転モード変更部12から出力される起動モード変更信号5をゲイン変更部13で受信して、ゲイン変更部13はゲイン変更要求信号19を出力する。
原子炉給水流量制御装置1に備えられているPI制御装置14aは、入力信号回路21が分岐点23で比例動作回路17と積分動作回路18に分岐され、再び合流点24で合流して、そこから出力信号回路25を形成している。また、出力信号回路25は、フィードバック分岐点27で分岐して接続点26に合流するフィードバック回路28を備えている。なお、本願では、比例動作回路17と積分動作回路18はそれぞれ内部の論理回路のみならず、分岐点23から合流点24までのライン(配線)をも含む概念である。
さらに、PI制御装置14aは比例動作回路17と積分動作回路18の合流点24から接続点26までの出力信号回路25にスイッチ22を備えており、このスイッチ22は前述のゲイン変更要求信号19がタイマー回路15によって一定時間(Δt)出力されるように作用して、さらに否定回路16によってゲイン変更要求信号19が存在していない場合には信号が発生するので、低出力運転モードから起動モードへ変更されていない場合には、スイッチ22は入ったままとなって入力信号Xが比例動作回路17と積分動作回路18で演算された動作成分は出力信号Yに含まれるようになる。
【0024】
一方、低出力運転モードから起動モードへ変更された場合には、否定回路16から信号が送信されないのでスイッチ22が解除された状態となり、入力信号Xは比例動作回路17と積分動作回路18に入力され演算されるものの出力信号Yとして接続点26まで届くことがない。
このように構成される本実施例1に係る原子炉給水流量制御装置1の比例動作回路17と積分動作回路18における動作について説明する。
まず、低出力運転モードの場合には、比例動作回路17では、ゲイン変更部13からゲイン信号20を受けて、式(1)で示されるように入力信号XとゲインGの積の差分、すなわち、入力信号XとゲインGの積に関する今回値と単位時間(1演算周期)前の前回値の差分を演算して出力信号Ypとする。すなわち、比例動作回路は単位時間毎の変化として入力信号Xとの間で演算される。従って、単位時間毎に繰り返し演算される出力信号Ypは、合流点24で常に加算されるのではなく、比例動作演算に変化が生じた場合にのみ加算されるのである。
【0025】
【数1】
【0026】
また、積分動作回路18では、同じくゲイン信号20を受けて式(2)で示されるように入力信号Xを単位時間(1演算周期)積分演算して出力信号Yiとする。なお、式(2)中のtは時間の変数を表している。また、式(2)では、積分値を積分時間TIで除することで単位時間の積分演算値を演算している。
【0027】
【数2】
【0028】
なお、出力信号回路25は前述の通りフィードバック分岐点27から接続点26にフィードバック回路28を備えているので、このフィードバック回路28でフィードバックされる信号を先行信号Fとすれば、出力信号Yは、式(3)で表現される。なお、この先行信号Fは、単位時間(1演算周期)前の出力信号Yであり、出力信号Yは、単位時間(1演算周期)毎にYpとYiの増分が生じていることになる。
【0029】
【数3】
【0030】
一方、低出力運転モードから起動モードへ運転モードが変更された場合には、ゲイン変更要求信号19がタイマー回路15によって一定時間、例えば200msec〜300msec程度出力されるので、その開始から終了までの時間、否定回路16によってゲイン変更要求信号19が停止してスイッチ22は解除される。従って、入力信号Xが比例動作回路17及び積分動作回路18に入力されそれぞれ動作成分の演算がなされるがスイッチ22で遮断され、最終的には比例動作回路17及び積分動作回路18による動作成分の出力信号Yへの供給は遮断されることになる。
すなわち、比例動作回路17の出力信号であるYpと積分動作回路18の出力信号であるYiのいずれも0となり、結局フィードバックの先行信号のFのみとなり、Y=Fとなる。
なお、本実施例1ではスイッチ22が比例動作回路17と積分動作回路18の合流点24から出力信号回路25とフィードバック回路28の接続点26の間に設けられているが、スイッチ22は入力信号回路21に設けられてもよい。この場合は入力信号Xに対して比例動作回路17及び積分動作回路18でそれぞれの動作成分は演算されないので、この場合も比例動作回路17及び積分動作回路18による動作成分の出力信号Yへの供給はないことになる。すなわち、YpとYiのいずれも0とみなしてよく、結局Y=Fとなる。
但し、スイッチ22を入力信号回路21に設ける場合には、比例動作回路17と積分動作回路18の入力側で入力信号Xが断たれるので、スイッチ22のオンオフによって、比例動作回路17や積分動作回路18に対する入力信号Xがステップ的に変化してしまい、式(1)、(2)で表現されるYp、Yiも影響を受けることになるので、この場合にはこのステップ入力が正規のステップ入力かモード切替に伴う変化かを認識して処理を変更する必要がある。
【0031】
次に、実施例1に係る原子炉給水流量制御装置1がどのような効果を発揮することができるかについて、
図3及び
図4を比較参照しながら説明する。
図3は従来技術における原子炉給水流量制御装置の入力信号、比例動作成分、積分動作成分及び出力信号を模式的に示す概念図であり、
図4は本発明の実施例1における原子炉給水流量制御装置の入力信号、比例動作成分、積分動作成分及び出力信号を模式的に示す概念図である。
図3、4において、縦に示される点線は時間的なタイミングを示しており、時刻t1は通常運転モード時、時刻t2は通常運転モードから低出力運転モードへのモード変更時、時刻t3は低出力運転モードから起動モードへのモード変更時を示している。
また、
図3,4中のそれぞれ4本の線図は、符号40は入力信号、符号41は比例動作回路17で演算される比例動作成分の積分値、符号42は積分動作回路18で演算される積分動作成分、符号43a,43bは出力信号の経時変化を示すものである。入力信号40、比例動作成分41、積分動作成分42はいずれも同じであるが、出力信号43a,43bが従来技術と本実施例では相違している。
入力信号40は通常運転モード時では、水位は水位設定に対して安定していると仮定すると、それらの信号の差分は生じることなく0%で推移することになる。また、この通常運転モード時のゲインが「g0」であったとしても、入力信号40が0の場合には、式(1)、(2)から理解されるように、比例動作回路17や積分動作回路18における比例動作成分41や積分動作成分42も0%となり、結局出力信号43aも0%で維持されることになる。
【0032】
一方、時刻t2になると、運転状態に対するゲインを何らかの原因で原子炉が過渡状態となり低出力運転モードとなる。また、その際に原子炉水位が上昇すると、水位に対して水位設定が低くなるので、入力信号40は「−a」(負値)となる。低出力運転時のゲインを比例動作回路17では「g1」、積分動作回路18では「g2」(式(2)においてg2=1/TI、以下同様)とすると、それぞれ
図3,4に示すとおり、時刻t2から時刻t3まででは比例動作成分41は0%から「−a*(g1−g0)」、積分動作成分42は「−a*g2*t」となる。ここでのtも時間の変数である。ところが、出力信号43aがあまり大きく変動することを避けるためにリミッタが働くため、出力信号43aは「−b」(但し、b<a*g1)となる。
【0033】
さらに、時刻t3になると、運転モードが低出力運転モードから起動モードとなる。起動モードでは、さらにゲインが変動して比例動作回路17では「g3」、積分動作回路18では「g4」になるとする。その場合、それぞれ
図3,4に示すとおり、比例動作成分41は「−a*(g3−g1)」(但し、g3<g1)、積分動作成分42は「−a*g4*t」(但し、g4<g3)となる。
この場合積分動作成分42は、入力信号40は不変で「−a」であるものの、ゲインが小さくなったことから時刻t2における値を基準に考えるとあたかも水位を上昇させるような方向に振れたように見える。この場合、リミッタは効かないため、従来技術の場合では、出力信号43aは「c1」(正値、c1=−b+a*(g1−g3))となってしまい、水位を上昇させようとする出力信号43aが生成されるのである。なお、a,b,c,g0〜g4はすべて定数であり、本実施例では、c1>bとなっている。なお、リミッタの値は、低出力運転モードから起動モードに運転モードが変化すると「−b」よりも低くリミッタ値が変更されるので、「c1」から低下する出力信号43aは、低出力運転モード時のリミッタ値「−b」を超えて低下する場合もある。
【0034】
これに対して実施例1の出力信号43bは、
図2を参照して説明したとおり、Δtの間はスイッチ22が遮断状態となるため、入力信号40が比例動作回路17と積分動作回路18に供給されて動作成分を演算しても、比例動作回路17及び積分動作回路18による動作成分の出力信号43bへの供給は接続点26までに消滅してしまい、出力信号43bへの供給が遮断され(供給が0となり)、結局先行成分Fのみが出力信号43bの成分となり、
図4中の点線で描かれる円内を符号Aで示すとおり、時刻t2から時刻t3までの成分を踏襲することになる。すなわち、「−b」が維持される。
時刻t3からΔt後は、ゲイン変更要求信号19が停止されて存在していない状態になるので、否定回路16で否定されて信号が発生し、スイッチ22は入った状態が維持され入力信号Xが比例動作回路17と積分動作回路18で演算された比例動作成分41と積分動作成分42は再度出力信号43bに含まれるようになる。
その際には、比例動作成分41ではゲインの変化が終了しており、単位時間の演算前後で起動モードのゲインとなっていることから比例動作成分41の値として出力信号43bに与える変化がなく(すなわち、Yp=0)、積分動作成分42によって得られる緩やかな変化が先行信号F(図中の−b)と相まって出力信号43bとして出力されることになる。すなわち、出力信号43bは「c2」(c2=−b−a*g4*t)となる。
なお、
図4においても起動モード時のリミッタの値は、「−b」よりも低く変更されるので、起動モードでの「c2」は、「−b」を超えて低下することが可能である。
【0035】
このように本実施例1では、運転モードが低出力運転モードから起動モードへ変更される際のゲインが減少変更される場合には、比例動作のためのゲインの減少変更の開始から終了までの時間、合流点24から接続点26の間の出力信号回路25上に設けられたスイッチ22を用いて比例動作回路17と積分動作回路18からの出力信号Yp,Yiを遮断して出力信号Yへ含まれないようにすることができ、その結果、先行信号Fのみをフィードバック回路28を用いて出力信号Yの成分として、出力信号Yが急激に正値で大きな値となることを防止することができる。Δtの時間後も緩やかに減少する出力信号を維持することが可能である。
従って、原子力プラントにおける過渡事象中の低出力運転時において、原子炉水位が上昇した際に、手動で原子炉浄化系のダンプ弁を開動作させることで起動モードに変更されたとしても、急激に水位を上昇させるような制御状態となることを防止することができる。このことから運転員に対して精神的な負担をかけることがなく、精神的な余裕からヒューマンエラーを引き起こす可能性が少ないので、原子炉の運転維持が可能となる。また、過渡時の低出力運転時においても原子炉内の構造物に対して適切な原子炉水位を保持することができるので、より安全なプラント運転が可能であるという優れた効果を有している。
【実施例2】
【0036】
次に本発明の実施例2に係る原子炉給水流量制御装置について
図5を参照しながら説明する。(特に、請求項1,3に対応)
図5は本発明の実施例2に係る原子炉給水流量制御装置の構成図であるが、本図において
図2と同一の構成要素には同一符号を付してその構成についての説明は省略する。
図5において、実施例2に係る原子炉給水流量制御装置1では、実施例1で出力信号回路25に設けられたスイッチ22を比例動作回路17の論理回路の下流側のラインで合流点24までの位置に設けたものであり、それ以外の構成は実施例1と同様である。
このように構成される実施例2においては、実施例1と同様に、低出力運転モードから起動モードへの運転モード変更時にゲイン変更部13から出力されるゲイン変更要求信号19が、否定回路16によって否定されるため、否定回路16から信号が送信されないのでスイッチ22が解除された状態となり、入力信号Xは比例動作回路17と積分動作回路18に入力され演算されるものの比例動作回路17の出力信号Ypは遮断され、合流点24で加算されず、積分動作回路18の出力信号Yiのみ、接続点26で先行信号Fと加算されて、出力信号Yとして出力されることになる。
なお、本実施例2では論理回路の下流側の合流点24までの位置にスイッチ22を設けたが、論理回路の上流側の分岐点23の位置までにスイッチ22を設けても同様の効果が得られる。
このような実施例2では、
図4に示される入力信号40、比例動作成分41、積分動作成分42は同様であるが、実施例1では時刻t3の出力信号43bが「−b」であったのに対し、実施例2では積分動作成分42は遮断されず、先行信号Fと加算されるため、「−b−a*g4*t」となり、緩やかな傾斜が実施例1に比較してΔtだけ早めに始まるが、この実施例2においても実施例1の優れた効果は発揮されることが容易に理解される。この場合においても起動モード時のリミッタ値は、「−b」よりも低く変更されるので、起動モードでの「c2」は、「−b」を超えて低下することが可能である。
【実施例3】
【0037】
最後に本発明の実施例3に係る原子炉給水流量制御装置について
図6を参照しながら説明する。(特に、請求項1,4に対応)
図6は本発明の実施例3に係る原子炉給水流量制御装置の構成図であるが、本図において
図3と同一の構成要素には同一符号を付してその構成についての説明は省略する。
図6において、実施例3に係る原子炉給水流量制御装置1では、実施例2でフィードバック分岐点27から分岐されて設けられていたフィードバック回路28を削除したものであり、それ以外の構成は実施例2と同様である。
この実施例3では、フィードバック回路28を設ける代わりに、積分動作回路18にフィードバック機能を備えたものである。すなわち、積分動作回路18の出力信号Yiとして、式(4)で示されるように単位時間(1演算周期)における積分値をそのまま先行信号Fとして前回計算に加算するようにしたものである。但し、この式(4)におけるFYiは、式(3)におけるFが出力信号Yの先行信号であったのに対して、積分動作回路18の出力信号Yiの先行信号である点で異なる。この場合、出力信号Yは、式(5)のように表現できる。
【0038】
【数4】
【数5】
【0039】
このように構成される実施例3では、実施例2のように比例動作回路17の回路の一部にスイッチ22を設けることで、スイッチ22によって遮断される信号が比例動作回路17からの出力信号Yp分であることから、出力信号Yは、先行信号FYiを含んだYiとなる。この場合、積分動作回路18の出力信号Yiに含まれる先行信号FYiは、式(3)における先行信号Fとは定義は異なるものの、ステップ状に変化する比例動作回路17の出力信号Ypが遮断されるため、実質的に同等として考えることができる。
すなわち、本実施例3における
図4の出力信号43bの線図は実施例2と同様に表現できる。従って、本実施例3は実施例2と同様の効果を発揮することが可能である。
なお、本願では実施例1−3として、原子炉の水位設定信号と水位信号の差分が負値(水位設定信号<水位信号)の場合について説明したが、逆に、原子炉の水位設定信号と水位信号の差分が正値(水位設定信号>水位信号)の場合でも、同様に実施が可能である。