特許第6045385号(P6045385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

特許6045385軽油基材の製造方法及びその基材を配合した軽油組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045385
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】軽油基材の製造方法及びその基材を配合した軽油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/08 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   C10L1/08
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-27922(P2013-27922)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156533(P2014-156533A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(72)【発明者】
【氏名】高坂 司
(72)【発明者】
【氏名】那須野 一八
(72)【発明者】
【氏名】松本 幸太郎
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248175(JP,A)
【文献】 特開2000−239675(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/103838(WO,A1)
【文献】 特開2012−197355(JP,A)
【文献】 特開2012−007023(JP,A)
【文献】 特開平11−050067(JP,A)
【文献】 特開2012−197354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00
C10G 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10容量%留出温度が200℃〜250℃、90容量%留出温度が335℃〜360℃、セタン指数が29〜35であり、2環芳香族分含有量が10〜35容量%である分解軽油2〜25容量%と10容量%留出温度が230℃〜285℃、90容量%留出温度が340℃〜370℃である直留軽油75〜98容量%からなる混合油を水素化脱硫処理して、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)が8.5〜15.5%、誘導期間が70分以上、かつセタン価が51以上である軽油基材を得ることを特徴とする軽油基材の製造方法。
【請求項2】
コバルト−モリブデンまたはニッケル−モリブデンを含む脱硫触媒の存在下に、反応温度310℃〜395℃、LHSV0.5〜2hr−1、水素分圧3〜7MPa、水素/油比160〜320Nm/kLの条件で水素化脱硫反応を行うことを特徴とする請求項1に記載の軽油基材の製造方法
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で製造された軽油基材95〜50容量%と灯油基材5〜50容量%を配合することにより、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)が9〜14%、誘導期間が70分以上の軽油組成物を得ることを特徴とする軽油組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解軽油と直留軽油を混合して、水素化脱硫処理することを特徴とする、酸化安定性を確保した軽油基材の製造方法に関する。さらには、当該方法で製造した軽油基材と灯油基材を配合することを特徴とする軽油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに利用される軽油燃料は、近年の重油燃料需要の減退に伴い、従来からの直留系の中間留分だけではなく、水素化分解装置や流動接触分解装置などから得られる分解系の軽油基材の増加、天然ガス、アスファルト分、石炭等を原料とし、これを化学合成させることで得られる合成系の軽油基材の増加、CO2排出量削減の観点からバイオマス由来基材の増加など、多様化することが想定される。
しかしながら、従来からの直留系の中間留分以外の軽油原料、特に分解系は、直留系の重質分を高温高圧環境下で処理して得られるため、生成油中に不安定な物質が生成しやすく、安定性が悪化する場合が多い。
【0003】
一方、ディーゼルエンジンは排出ガス規制強化により、コモンレールによる燃料噴射の高圧化が一段と進むことで軽油への熱負荷が増大し、従来以上に軽油の酸化安定性向上が求められている。これらにより、軽油の酸化安定性を向上させるために、例えば酸化防止用添加剤を添加することが考えられ、硫黄分を10質量ppm以下に低減した軽油に酸化防止剤を添加することが提案されている(特許文献1参照)。また、酸化防止剤が添加された灯油を軽油に添加する方法も考えられる。しかし、酸化防止用添加剤を添加する方法は、製造時の軽油組成変化により添加剤の添加効果がばらつく為、そのばらつきを加味して一般に過剰に添加されることで製造コストを引き上げることとなる。また添加剤を過剰に添加すると、温度低下により添加剤が析出し易くなる。また、添加剤の添加量が少ないと酸化時に添加剤の酸化防止効果が消耗された後は、顕著に軽油の酸化安定性が悪化してエンジン清浄性や金属材質を腐食させる等の悪影響を及ぼす。また、軽油の芳香族成分やナフテン成分の含有量を特定範囲にすることで酸化防止用添加剤を添加しないで酸化安定性を維持することが提案されている(特許文献2参照)。この軽油組成を調製する方法は有効であるが、特許文献2記載の発明では酸化安定性の悪い物質としてフルオレン類とナフテノベンゼン類に着目し、これらの含有量と酸化安定性が良好な物質であるナフタレン類含有量とのバランスをとっている。しかしながら、分解系の軽油基材を高温高圧環境下で水素化処理すると、生成油中に酸化安定性が悪いナフテノベンゼン類が生成しやすく、特許文献2記載の発明では、ナフテノベンゼン類が高濃度で存在する場合の軽油組成物の調製方法は言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−225000号公報
【特許文献2】特開2006−137922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酸化安定性の悪い分解軽油原料と直留軽油原料を適切に混合して、水素化脱硫処理することにより、スラッジやデポジットを生成しにくい酸化安定性を確保した軽油基材を製造することである。さらには、得られた軽油基材と灯油基材を混合することで、酸化防止剤用添加剤を添加することなしに酸化安定性を良好に保持する軽油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を進めた結果、特定の性状範囲にある酸化安定性の悪い分解軽油原料と酸化安定性が良い直留軽油原料を適切に混合し、水素化処理することで、ナフテノベンゼン類含有量を特定比率範囲内に制限した軽油基材を製造し、良好な酸化安定性を確保することを見出した。また、この良好な酸化安定性確保により、酸化安定性が良い灯油基材を多く混合せずに、また酸化防止剤を添加することなく酸化安定性が改善出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、2環芳香族分含有量が5〜35容量%である分解軽油2〜25容量%と直留軽油75〜98容量%からなる混合油を水素化脱硫処理して、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)が8.5〜15.5%、誘導期間が70分以上、かつセタン価が51以上である軽油基材を得ることを特徴とする軽油基材の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、分解軽油の10容量%留出温度が200℃〜250℃、90容量%留出温度が335℃〜360℃、セタン指数が29〜35であり、直留軽油の10容量%留出温度が230℃〜285℃、90容量%留出温度が340℃〜370℃であることを特徴とする前記記載の軽油基材の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、コバルト−モリブデンまたはニッケル−モリブデンを含む脱硫触媒の存在下に、反応温度310℃〜395℃、LHSV0.5〜2hr−1、水素分圧3〜7MPa、水素/油比160〜320Nm/kLの条件で水素化脱硫反応を行うことを特徴とする前記記載の軽油基材の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、前記記載の方法で製造された軽油基材95〜50容量%と灯油基材5〜50容量%を配合することにより得られる、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)が9〜14%、誘導期間が70分以上であることを特徴とする軽油組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、酸化安定性の低い分解軽油を原料として用い、直留軽油原料と適切に混合して水素化処理することにより、スラッジやデポジットを生成しにくい酸化安定性を確保した軽油基材を製造することができる。また、この良好な酸化安定性確保により、酸化安定性が良い灯油基材を多く混合せずに、また酸化防止剤を添加することなく酸化安定性が改善出来るという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の軽油基材の製造方法は、2環芳香族分含有量が5〜35容量%である分解軽油2〜25容量%と直留軽油75〜98容量%からなる混合油を原料として水素化脱硫処理することを特徴とする。
【0013】
分解軽油としては、例えば、流動接触分解装置で生成する分解軽油(LCO:Light Cycle Oil)、LCOの水素化精製油、石炭液化油、重質油水素化分解精製油、コーカー軽油およびオイルサンド水素化分解精製油などが挙げられる。
【0014】
本発明における分解軽油の2環芳香族分含有量は、酸化安定性向上の観点から、35容量%以下であることが必要であり、好ましくは34容量%以下、より好ましくは30容量%以下である。また、潤滑性維持の観点から、5容量%以上であることが必要であり、好ましくは7容量%以上、より好ましくは10容量%以上である。
ここでいう2環芳香族分とは、JPI−5S−49−97「石油製品―炭化水素タイプ試験方法―高速液体クロマトグラフ法」により測定される値を意味する。
【0015】
本発明における分解軽油の10容量%留出温度は200℃〜250℃であることが好ましく、より好ましくは210℃〜250℃であり、90容量%留出温度は335℃〜360℃であることが好ましく、より好ましくは335℃〜350℃である。
ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定される値を意味する。
【0016】
本発明において原料油の一成分として用いる直留軽油は、常圧蒸留装置から留出される軽油留分であり、10容量%留出温度は230℃〜285℃であることが好ましく、より好ましくは250℃〜285℃、さらに好ましくは265℃〜275℃であり、90容量%留出温度は340℃〜370℃であることが好ましく、より好ましくは340℃〜360℃である。
【0017】
分解軽油と直留軽油の配合割合は、酸化安定性の観点から、分解軽油は25容量%以下であることが必要であり、好ましくは22容量%以下、より好ましくは20容量%以下である。また、燃費悪化防止の観点から2容量%以上、好ましくは4容量%以上、より好ましくは5容量%以上である。
【0018】
分解軽油と直留軽油からなる混合油の水素化脱硫反応は、コバルト−モリブデンまたはニッケル−モリブデンを含む脱硫触媒の存在下に、反応温度310〜395℃、好ましくは320〜380℃、LHSV0.5〜2hr−1、好ましくは0.8〜1.8hr−1、水素分圧3〜7MPa、好ましくは4〜6MPa、水素/油比160〜320Nm/kL、好ましくは200〜300Nm/kLの条件で行われる。
【0019】
水素化脱硫反応の形式は特に限定されるものではなく、固定床、移動床、流動床等のいずれの形式も採用することができる。
【0020】
水素化脱硫反応は、製造される軽油基材の1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)が8.5〜15.5%となるように行われる。1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)を8.5%以上とすることによって酸化安定性改善効果を高めることができる。1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)は、好ましくは9.0%以上であり、更に好ましくは9.5%以上である。また、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量が多すぎると酸化安定性改善効果が小さくなり、また酸化防止剤の添加効果が小さくなるために、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)は15.5%以下であることが好ましく、より好ましくは15.0%以下、更に好ましくは14.0%以下である。
【0021】
本発明における軽油基材は、分解軽油の内、2環芳香族分含有量が5〜35容量%である分解軽油2〜25容量%と、常圧蒸留装置から留出される軽油留分75〜98容量%からなる混合油を、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)、誘導期間及びセタン価が本願で規定する範囲になるように、水素化脱硫処理条件を適宜調整して処理することにより製造することができる。水素化脱硫処理条件の調整は、分解軽油及び直留軽油の性状によって反応温度、LHSV、水素分圧、水素/油比を適宜調整するものであるが、当業者にとっては通常行っている水素化脱硫処理条件の範疇であるため、格別の試行錯誤を要することなく本願で規定する範囲の軽油基材を容易に得ることができる。
【0022】
ここで、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)の求め方について説明する。まず燃料油組成物をジエチルエーテルとペンタンを用いたシリカゲルクロマト分別によって燃料組成物を芳香族分と飽和分に分離する。この時の芳香族分の重量が後記するAromaの値であり、飽和分の重量が後記するSaturateの値である。次に、シリカゲルクロマト分別物の芳香族分及び飽和分について、ガスクロマトグラフとFIイオン化法による質量分析を組み合わせたGC−TOFMS法を行った。分析条件を以下に示す。
【0023】
(GC条件)
装置:Agilent社製 6890N
カラム:Agilent社製 DB−1MS(30m×0.25mmf×0.25μm)
オーブン温度:50℃(5min)−(5℃/min)280℃
注入量:0.5μL
注入法:スプリット(スプリット比=1:10)
注入部温度:320℃
GCインターフェース温度:300℃
キャリアガス:He 1.2mL/min(一定)
【0024】
(MS条件)
装置:日本電子社製JMS−T100GC
対向電極電圧:−10kV
イオン化法:FI(電界イオン化)
イオン源温度:室温
質量数測定範囲:m/z 35〜500
【0025】
GC−TOFMS分析の結果得られるマススペクトルの中で、それぞれ炭素数ごとの1環ナフテノベンゼン類〜6環ナフテノベンゼン類の質量数をもつイオン強度とアルキルベンゼン類の質量数をもつイオン強度およびビフェニル類、2環以上の芳香族類の質量数をもつイオン強度の合計が芳香族分のトータルイオン強度である。なお、3環ナフテノベンゼン類はナフタレン類、4環ナフテノベンゼン類はビフェニル類としてみなす。また5環ナフテノベンゼン類〜6環ナフテノベンゼン類は、2環以上の芳香族類と質量数が重複するものがあるため、それぞれ足したイオン強度である。ここで得られた炭素数ごとのタイプ別イオン強度をトータルイオン強度の百分率から割合を求め、さらにこの割合の合計がAromaの値になるよう補正を実施し、炭素数ごとのタイプ別イオン強度%を求める。この方法により、ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)を求めることができる。
【0026】
軽油基材の酸化安定性は、誘導期間で表すことができる。誘導期間が短いとスラッジやデポジットが生成しやすく、その結果、エンジンの燃料噴射ノズルが詰まり易く、出力低下、燃料タンク等の金属材質を腐食させる悪影響を及ぼす。
本発明の方法で製造される軽油基材の誘導期間は70分以上であり、好ましくは72分以上であり、更に好ましくは75分以上である。
【0027】
ここで、誘導期間の測定方法について説明する。まず、試験燃料を入れた金属容器を密閉し、そこへ所定の圧力まで酸素を封入する。その後密閉容器を所定の温度まで加温し、容器内圧力が最高圧力点から10%圧力が降下する点まで所定の温度を保ち、加温開始から10%圧力降下点までの時間を測定し、その時間を誘導期間とする。
【0028】
(測定条件)
装置:PetroOXY装置(Petrotest社製)
酸素封入圧力:700kPa(ゲージ圧)
試験温度:140℃
試験燃料量:5mL
【0029】
本発明の方法で製造される軽油基材のセタン価は、エンジン始動性の観点から51.0以上であり、52.0以上であることがより好ましく、53.0以上であることがさらに好ましい。
ここでいうセタン価とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」により測定、算出される値を意味する。
【0030】
本発明の方法で製造される軽油基材の1環芳香族分は、15.0〜24.5容量%であることが好ましく、17.0〜24.5容量%がより好ましい。2環芳香族分は、5.0容量%以下であることが好ましく、3.0容量%以下がより好ましい。また、3環以上芳香族分は1.5容量%以下であることが好ましく、1.0容量%以下がより好ましい。
ここでいう1環芳香族分、2環芳香族分及び3環以上芳香族分とは、JPI−5S−49−97「石油製品―炭化水素タイプ試験方法―高速液体クロマトグラフ法」により測定された値を意味する。
【0031】
本発明の軽油組成物は、前述した方法で製造された軽油基材95〜50容量%に灯油基材5〜50容量%を混合することにより得ることができる。これにより、酸化安定性が良い灯油基材を多く混合せずに、酸化安定性が改善された軽油組成物が得られるという格別の効果を奏する。
【0032】
灯油基材としては石油系灯油基材を用いることが出来る。石油系灯油基材としては、例えば、原油の常圧蒸留装置から得られる直留灯油;常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残油を減圧蒸留装置にかけて得られる減圧灯油;直留灯油又は減圧灯油を水素化精製して得られる水素化精製灯油;直留灯油を又は減圧灯油を通常の水素化精製より苛酷な条件で一段階又は多段階で水素化脱硫して得られる水素化脱硫灯油;上記の種々の灯油基材を水素化分解して得られる水素化分解灯油などが挙げられる。
【0033】
概ね酸化安定性が良好な灯油基材は、石油系灯油原料のみを水素化脱硫して得られる水素化脱硫灯油基材、あるいはまた高温・高圧で水素化分解して得られる水素化分解灯油基材であるため、製造コスト高やジェット燃料用途から、灯油基材の混合比率は50容量%以下であることが好ましく、より好ましくは45容量%以下であり、更に好ましくは40容量%以下である。また、酸化安定性改善効果を得るために、5容量%以上であることが好ましく、より好ましくは8容量%以上であり、更に好ましくは10容量%以上である。
【0034】
本発明の軽油組成物は、必要に応じて低温流動性向上剤を含有することができる。低温流動性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体に代表されるエチレン−不飽和エステル共重合体、アルケニルこはく酸アミド、ポリエチレングリコールのジベヘン酸エステルなどの線状の化合物、フタル酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ酢酸などの酸又はその酸無水物などとヒドロカルビル置換アミンの反応生成物からなる極性窒素化合物、アルキルフマレートまたはアルキルイタコネート−不飽和エステル共重合体などからなるくし形ポリマーなどの低温流動性向上剤の1種または2種以上が使用できる。この中でも汎用性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体系添加剤を好ましく使用することができる。低温流動性向上剤を添加する場合の添加量は、50〜500mg/Lであることが好ましく、50〜300mg/Lであることが特に好ましい。なお、低温流動性向上剤と称して市販されている商品は、低温流動性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈されていることがあるため、こうした市販品を本発明の燃料油組成物に添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0035】
本発明の軽油組成物は、噴射ポンプ内の潤滑性確保の点から潤滑性向上剤を含有することができる。潤滑性向上剤の種類は特に限定されるものではないが、エステル系、カルボン酸系、アルコール系、フェノール系、アミン系等の潤滑性向上剤の1種または2種以上を使用することができる。この中でも、汎用性の点から、エステル系、カルボン酸系の潤滑性向上剤の使用が好ましい。さらに添加濃度に対する添加効果が飽和に達しにくく、HFRRのWS1.4値をより小さくできる点からはエステル系潤滑性向上剤が好ましく、添加濃度に対する添加効果の初期応答性が高く、潤滑性向上剤の添加量を少なくできる可能性があるという点からはカルボン酸系潤滑性向上剤が好ましい。
【0036】
エステル系の潤滑性向上剤としては、例えば、グリセリンのカルボン酸エステル等が挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノール酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等が挙げられる。また、カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノール酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上が任意に使用可能である。なお、低温流動性向上剤が潤滑性改善効果を併せ持つ場合には、低温流動性向上剤と潤滑性向上剤を組み合わせて、潤滑性の改善を図ることができる。
【0037】
潤滑性向上剤を添加する場合の添加量は、25〜500mg/Lであることが好ましく、25〜300mg/Lであることがより好ましく、25〜200mg/Lであることがさらに好ましい。これによりHFRRのWS1.4値が好ましくは500μm以下、より好ましくは460μm以下、さらに好ましくは420μm以下、最も好ましくは400μm以下となるように添加するのがよい。潤滑性向上剤と称して市販されている商品は、それぞれ潤滑性に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。こうした市販品を本発明の燃料油組成物に添加する場合にあたっては、上記の添加量は、有効成分としての添加量を意味している。
【0038】
本発明の軽油組成物に係る1環+2環ナフテノベンゼン類含有量(イオン強度%)は、酸化安定性改善効果を高める為に9.0%以上であることが好ましく、より好ましくは9.5%以上、更に好ましくは10.0%以上である。また、1環+2環ナフテノベンゼン類含有量が多すぎると酸化安定性改善効果が小さくなり、また酸化防止剤の添加効果が小さくなるために、14.0%以下であることが好ましく、より好ましくは13.5%以下、更に好ましくは13.0%以下である。
【0039】
本発明の軽油組成物に係る酸化安定性は、誘導期間で表すことができる。誘導期間が短いとスラッジやデポジットが生成しやすく、その結果、エンジンの燃料噴射ノズルが詰まり易く、出力低下、燃料タンク等の金属材質を腐食させる悪影響を及ぼす。誘導期間は70分以上であることが好ましく、より好ましくは72分以上、更に好ましくは75分以上である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1〜5及び比較例1〜2)
流動接触分解装置から得られた分解軽油(LCO)と常圧蒸留装置からの留出油である直留軽油を任意の割合で混合し、水素化脱硫装置で処理して軽油基材を調製した。これら原料性状を表1、2に、軽油基材を表3に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
(軽油組成物の調製)
実施例5及び比較例1の軽油基材と表4に記載の灯油基材を配合し、表5に示す組成及び性状を有する軽油組成物を調製した。
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
この結果から、酸化安定性の低い分解軽油を原料として適切に混合して水素化処理しても、スラッジやデポジットを生成しにくい酸化安定性を確保した軽油基材を製造することができること、また、この良好な酸化安定性確保により、酸化安定性が良い灯油基材を多く混合せずに、また酸化防止剤を添加することなく酸化安定性が改善出来るという格別の効果を奏することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法により、酸化安定性を確保した軽油組成物を得ることができ、産業上きわめて有用である。