(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0022】
1. 第1実施形態
1.1. 質量分析装置の構成
まず、第1実施形態に係る質量分析装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る質量分析装置100の構成を示す図である。
【0023】
質量分析装置100は、
図1に示すように、イオン源10と、質量分析部20と、信号処理部30と、PC(パーソナルコンピューター)40と、を含んで構成されている。
【0024】
イオン源10は、電界を発生させて試料をイオン化する。すなわち、イオン源10は、電界イオン化(Field Ionaization;FI)法により試料をイオン化する。電界イオン化法は、エミッターに高電圧を印可することにより、試料(気体試料)を脱離・イオン化させる手法である。
【0025】
図2は、質量分析装置100のイオン源10を模式的に示す図である。
【0026】
イオン源10は、
図2に示すように、エミッター12と、レンズ14と、電源16と、を含んで構成されている。
【0027】
イオン源10には、試料は気体として導入される。質量分析装置100では、外部から真空にしたイオン源10内へ試料(気体試料、試料分子)を導入し、エミッター12に高電圧を印加して、試料を脱離・イオン化する。例えば、気化された試料をガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography;GC)で分離した後に、分離成分をイオン源10に導入してイオン化してもよい。
【0028】
エミッター12は、例えば、ヒゲ状(ウィスカー)の炭素材を表面に成長させた導線により形成されている。エミッター12は、図示の例では、エミッター支持部13によって支持されている。
【0029】
レンズ14は、対向電極(カソード)を含んで構成されている。レンズ14とエミッター12との間には大きな電位差(例えば−10kV程度)が設けられる。そのため、レンズ14とエミッター12との間には、高電界空間が形成される。
【0030】
エミッター12とレンズ14(対向電極)との間には、大きな電位差が設けられているため、エミッター12に接触した気体試料は、その最外殻軌道にある電子がエミッター12の表面に向けてトンネル現象によってトンネリングして、きわめて穏やかな(ソフトな)条件でイオン化される。
【0031】
レンズ14は、さらに、レンズ電極を含んで構成されている。レンズ電極は、エミッター12で生成されたイオンを質量分析部20に収束させ輸送する。イオン化された試料(試料の分子イオン)は、レンズ14(レンズ電極)によって質量分析部20に導入される。
【0032】
電源16は、エミッター12に所与の電流を供給する。電源16は、例えば、定電流電源である。電源16は、エミッター12に所与の電流を供給してエミッター12を加熱する。これにより、エミッター12の焼きだしを行うことができる。ここで、エミッター12の焼きだしとは、エミッター12に所与の電流を流してエミッター12の表面を加熱し、エミッター12に吸着した試料や不純物の吸着量を低減することをいう。所与の電流は、例えば、エミッター12に吸着した試料や不純物がエミッター12から離脱できる程度にエミッター12を加熱できる電流(量)である。所与の電流は、例えば、数mA〜数十mA程度の電流である。
【0033】
エミッター12が焼きだしによって高温になった場合、イオン源10に導入された試料(試料分子)の少なくとも一部は熱分解し、イオン化される。このような場合には、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンには、試料の分子イオンと、熱分解物のイオンと、が含まれる。ここで、試料の分子イオンとは、試料の分子量情報を与えるイオン(分離量関連イオン)をいう。試料の分子イオンの一例としては、例えば、中性分子Mから電子1個が失われたM
+である。また、熱分解物のイオンとは、試料(試料分子)が熱分解し、分解された試料分子がイオン化されたもの(フラグメントイオン)をいう。
【0034】
電源16は、例えば、制御部(図示せず)によって制御されている。制御部は、例えば、エミッター12への通電(ON/OFF)が周期的に繰り返されるように電源16を制御する(例えば
図5参照)。
【0035】
質量分析部20は、イオン化された試料を質量に応じて分離して検出し、検出強度に応じた検出信号を出力する。質量分析部20としては、例えば、飛行時間型(Time−of−Flight,TOF)、四重極型(Quadrupole,Q)、イオントラップ型(Ion Trap,IT)、磁場偏向型(Magnetic Sector)等の質量分析計を用いることができる。質量分析部20は、検出されたイオンの検出強度に応じた検出信号(アナログ信号)を出力する。当該検出信号は、信号処理部30に出力される。
【0036】
信号処理部30は、検出信号を処理する。信号処理部30は、例えば、質量分析部20から出力される検出信号によって、イオンの質量電荷比m/z(または質量電荷比m/zに対応する情報)を繰り返し計測し、取得したデータ(積算データ)をPC40に出力する処理を行う。
【0037】
例えば、質量分析部20が飛行時間型質量分析計である場合、信号処理部30は、質量分析部20から出力される検出信号によって、イオンの飛行時間を繰り返し計測し、取得
したデータ(積算データ)をPC40に出力する処理を行う。
【0038】
信号処理部30は、
図1に示すように、サンプリング部32と、判定部34と、分子イオンデータ記憶部36と、を含んで構成されている。信号処理部30は、例えば、専用回路により実現することができる。
【0039】
サンプリング部32は、質量分析部20から出力された検出信号(アナログ信号)をサンプリングしてデジタル信号に変換し、サンプリングデータを生成する。サンプリング部32は、例えば、A/D変換器を含んで構成されている。
【0040】
例えば、質量分析部20が飛行時間型質量分析計である場合、サンプリング部32は、質量分析部20が出力するアナログ信号(検出信号)をリアルタイムにA/D変換し、イオン源10からイオンが出射した時間を0として、各時刻(飛行時間)とその時のデジタル値(検出強度)を対応づけてサンプリングデータを生成する。
【0041】
図3は、サンプリング部32が生成したサンプリングデータ(スペクトル)の一例を示す図である。
図3では、質量分析計が飛行時間型質量分析計である場合のサンプリングデータを示している。
図3に示すサンプリングデータでは、横軸が時間(飛行時間)であり、縦軸が検出強度(デジタル値)である。横軸(時間軸)は、質量電荷比m/zに対応する軸である。なお、ここでは、サンプリングデータの横軸は時間(飛行時間)軸であるが、横軸は質量分析計の種類によって異なっていてもよい。
【0042】
図3に示すサンプリングデータにおいて、ピークP1は試料の分子イオンが熱分解しイオン化されて生成された熱分解物のイオンのピークであり、ピークP2は試料の分子イオンのピークである。
【0043】
サンプリング部32で生成されたサンプリングデータは、判定部34に出力される。
【0044】
判定部34は、サンプリング部32がサンプリングしたサンプリングデータにおいて、熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値以下か否かを判定する。
【0045】
熱分解物のイオンの質量電荷比m/zは、試料の分子イオンの質量電荷比m/zよりも小さい値をとる。そのため、判定部34は、熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度として、想定される試料の分子イオンの質量電荷比m/zよりも小さい質量電荷比m/zの検出強度をモニターして判定を行う。
【0046】
判定部34が検出強度をモニターする質量電荷比m/zは、例えば、試料から推定される熱分解物のイオンの質量電荷比m/zである。また、判定部34が試料の分子イオンの質量電荷比m/z(予想される値)よりも小さい質量電荷比m/zの強度をすべてモニターしていてもよい。判定部34が検出強度をモニターする質量電荷比m/zの値(範囲)は、例えば、ユーザーによって予め設定されている。
【0047】
判定部34において、閾値となる所与の値は、要求される分析精度等によって任意に設定される。閾値(所与の値)が小さくなるに従って、マススペクトルにおける熱分解物のイオンの影響が小さくなる。
【0048】
なお、サンプリングデータは、質量分析計の種類によって質量電荷比m/zに対応する横軸が異なる。例えば、
図3に示すサンプリングデータの例では、質量電荷比m/zに対応するのは、時間(飛行時間)である。そのため、
図3に示す例では、判定部34では、熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度として、熱分解物のイオンの飛行時
間に対応する強度を用いる。
【0049】
図4は、質量分析部20が飛行時間型質量分析計である場合における閾値Tとモニター範囲Aの一例を説明するための図である。なお、
図4に示すサンプリングデータは、
図3に示すサンプリングデータに対応している。判定部34では、
図4に示すように、閾値Tと、モニター範囲Aと、が設定されている。モニター範囲Aは、試料の分子イオンのピークP2の飛行時間よりも短い飛行時間の範囲に設定されている。判定部34は、モニター範囲Aにおいて、検出強度が閾値(所与の値)T以下か否かの判定を行う。
【0050】
分子イオンデータ記憶部36は、判定部34が所与の値以下と判定した場合に、サンプリングデータ(スペクトル)を記憶する処理を行う。分子イオンデータ記憶部36は、さらに、取得したサンプリングデータを積算する処理を行う。サンプリングデータを積算することにより、SN比(signal−to−noise ratio)を向上させることができる。
【0051】
なお、判定部34が所与の値よりも大きいと判定した場合、そのサンプリングデータは分子イオンデータ記憶部36に記憶されずに破棄される。そのため、分子イオンデータ記憶部36では、熱分解物のイオンの検出強度が所与の値以下のサンプリングデータのみが積算され記憶される。分子イオンデータ記憶部36で積算され記憶されたサンプリングデータ(積算データ)は、PC40に出力される。
【0052】
PC40は、例えば、積算データを、表示部(図示せず)に表示する処理を行う。PC40は、例えば、積算データに基づいて、マススペクトルを生成して表示部に表示してもよい。
【0053】
1.2. 質量分析装置の動作
次に、質量分析装置100の動作について説明する。
図5は、質量分析装置100の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャートである。
【0054】
質量分析装置100では、例えばユーザーの操作に応じて、時刻t1に測定が開始されると、イオン源10で試料がイオン化され、イオン化された試料は、質量分析部20で質量に応じて分離され検出され、検出強度に応じた検出信号が出力される。図示の例では、時刻t2に質量分析部20から最初の検出信号が出力される。出力された検出信号は、サンプリング部32でサンプリングされ、サンプリングデータが生成される。
【0055】
なお、質量分析装置100では、イオン源10および質量分析部20は、時刻t1で測定を開始してから時刻t9で測定を終了するまで、繰り返し測定(検出信号の出力)を行う。
【0056】
ここで、時刻t1〜時刻t3では、イオン源10のエミッター12(
図2参照)は加熱されておらず、イオン源10では、試料(試料分子)がイオン化される。そのため、時刻t2〜時刻t3に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値以下と判定される。
【0057】
したがって、時刻t2〜時刻t3に生成されたサンプリングデータは、分子イオンデータ記憶部36で記憶される。なお、時刻t2〜時刻t3において、サンプリング部32で複数のサンプリングデータが生成された場合、複数のサンプリングデータは積算され記憶される。
【0058】
時刻t3において、電源16からエミッター12に所与の電流が供給されて(電源16
がONとなり)エミッター12の焼きだしが開始される。その後、時刻t4において、電源16からエミッター12への電流の供給が停止する(電源16がOFFとなる)。
【0059】
エミッター12の焼きだしを行っている間(時刻t3〜時刻t4)は、信号処理部30の動作は停止する。例えば、信号処理部30は、電源16を制御する制御部(図示せず)からの制御信号に基づいて、動作を停止してもよい。
【0060】
信号処理部30は時刻t4に動作を再開し、質量分析部20から出力された検出信号がサンプリング部32でサンプリングされて、サンプリングデータが生成される。
【0061】
ここで、時刻t4〜時刻t5では、エミッター12の焼きだしによって、エミッター12が高温になる。そのため、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンには、試料の分子イオンと、熱分解物のイオン(試料が熱分解してイオン化されたもの)と、が含まれる。
【0062】
そのため、時刻t4〜時刻t5に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値より大きいと判定される。したがって、時刻t4〜時刻t5に生成されたサンプリングデータは破棄され、分子イオンデータ記憶部36には、時刻t4〜時刻t5に生成されたサンプリングデータは記憶されない。
【0063】
エミッター12の温度が下がると(時刻t5)、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンにおいて、熱分解物のイオンの割合が減少する。そのため、時刻t5〜時刻t6に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値以下と判定される。したがって、時刻t5〜時刻t6に生成されたサンプリングデータ(複数のサンプリングデータ)は、分子イオンデータ記憶部36で積算され記憶される。
【0064】
時刻t6において、電源16からエミッター12に所与の電流が供給されてエミッター12の焼きだしが開始される。その後、時刻t7において、電源16からエミッター12への電流の供給が停止する。
【0065】
エミッター12の焼きだしを行っている間(時刻t6〜時刻t7)は、信号処理部30の動作は停止する。そして、信号処理部30は時刻t7に動作を再開し、質量分析部20から出力された検出信号がサンプリング部32でサンプリングされて、サンプリングデータが生成される。
【0066】
時刻t7〜時刻t8では、エミッター12の焼きだしによってエミッター12が高温となり、質量分析部20に導入されるイオンにおいて、熱分解物のイオンの割合が大きくなる。
【0067】
そのため、時刻t7〜時刻t8に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値より大きいと判定される。したがって、時刻t7〜時刻t8に生成されたサンプリングデータは破棄され、分子イオンデータ記憶部36には、時刻t7〜時刻t8に生成されたサンプリングデータは記憶されない。
【0068】
エミッター12の温度が下がると(時刻t8)、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンにおいて、熱分解物のイオンの割合が減少する。そのため、時刻t8〜時刻t9に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比
m/zに対応する強度が所与の値以下と判定される。したがって、時刻t8〜時刻t9に生成されたサンプリングデータ(複数のサンプリングデータ)は、分子イオンデータ記憶部36で積算され記憶される。
【0069】
このようにして、分子イオンデータ記憶部36には、時刻t2〜時刻t3、時刻t5〜時刻t6、時刻t8〜時刻t9に生成されたすべてのサンプリングデータが積算され記憶される。この分子イオンデータ記憶部36に記憶された積算データは、PC40に出力され、例えば、表示部(図示せず)に表示される。
【0070】
質量分析装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0071】
質量分析装置100では、判定部34は、サンプリング部32がサンプリングしたサンプリングデータにおいて、熱分解物のイオンの質量電荷比に対応する強度が所与の値以下か否かを判定し、分子イオンデータ記憶部36が、判定部34が前記所与の値以下と判定した場合に、サンプリングデータを記憶する。そのため、熱分解物のイオンの影響が低減された積算データ(スペクトル)を得ることができる。したがって、分子イオンの感度を向上させることができ、分子イオンを良好に観測することができる。さらに、質量分析装置100では、フラグメントの影響が抑制されたスペクトルを得ることができるため、分子イオンの判定が容易である。
【0072】
さらに、質量分析装置100では、例えば
図8に示す参考例のように、エミッター12が冷却されるまでの待ち時間をあらかじめ設定する必要がない。そのため、質量分析装置100では、効率よくサンプリングデータを取得することができる。
【0073】
質量分析装置100では、イオン源10は、エミッター12と、エミッター12に所与の電流を供給する電源16と、を有し、イオン源10は、エミッター12に高電圧を印加することで試料をイオン化し、電源16がエミッター12に前記所与の電流を供給してエミッター12を加熱する。そのため、エミッター12の焼きだしを行っても、エミッター12の焼きだしの熱により分解されて生成された熱分解物のイオンの影響が低減されたスペクトルを得ることができる。
【0074】
質量分析装置100では、電界イオン化法により、試料をイオン化する。そのため、イオン源10において、フラグメンテーションが起こりにくく、分子量関連イオンを顕著に観測することができる。
【0075】
2. 第2実施形態
2.1. 質量分析装置の構成
次に、第2実施形態に係る質量分析装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
図6は、第2実施形態に係る質量分析装置200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る質量分析装置200において、上述した第1実施形態に係る質量分析装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0076】
質量分析装置200では、
図6に示すように、信号処理部30は、フラグメントイオンデータ記憶部38を含んで構成されている。
【0077】
フラグメントイオンデータ記憶部38は、判定部34が熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値よりも大きいと判定した場合に、サンプリングデータを記憶する。フラグメントイオンデータ記憶部38は、さらに、取得したサンプリングデータを積算する処理を行う。
【0078】
すなわち、質量分析装置200では、サンプリングデータは、判定部34が熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値よりも大きいと判定した場合には、フラグメントイオンデータ記憶部38に記憶され、判定部34が所与の値以下と判定した場合には、分子イオンデータ記憶部36に記憶される。
【0079】
フラグメントイオンデータ記憶部38で積算され記憶されたサンプリングデータ(積算データ)は、PC40に出力される。
【0080】
PC40は、フラグメントイオンデータ記憶部38が出力した積算データ(スペクトル)を表示する処理を行う。PC40は、例えば、フラグメントイオンデータ記憶部38から出力された積算データに基づいて、マススペクトルを生成して表示部(図示せず)に表示してもよい。
【0081】
また、PC40は、分子イオンデータ記憶部36が出力した積算データを、表示部に表示する処理を行う。質量分析装置200では、フラグメントイオンデータ記憶部38が出力した積算データと、分子イオンデータ記憶部36が出力した積算データと、がそれぞれ表示部に表示される。
【0082】
PC40は、例えば、フラグメントイオンデータ記憶部38の積算データに基づいて、熱分解物のイオンの情報を含むスペクトル(熱分解スペクトル)を生成する。したがって、質量分析装置200では、この熱分解スペクトルを利用してフラグメント情報から試料の分子構造の情報を得ることができる。
【0083】
2.2. 質量分析装置の動作
次に、質量分析装置200の動作について説明する。
図7は、質量分析装置200の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャートである。
【0084】
質量分析装置200では、例えばユーザーの操作に応じて、時刻t1に測定が開始されると、イオン源10で試料がイオン化され、イオン化された試料は、質量分析部20で質量に応じて分離され検出され、検出強度に応じた検出信号が出力される。図示の例では、時刻t2に質量分析部20から最初の検出信号が出力される。出力された検出信号は、サンプリング部32でサンプリングされ、サンプリングデータが生成される。
【0085】
ここで、時刻t1〜時刻t3では、イオン源10のエミッター12(
図2参照)は加熱されておらず、イオン源10では、試料(試料分子)がイオン化される。そのため、時刻t2〜時刻t3に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値以下と判定される。したがって、時刻t2〜時刻t3に生成されたサンプリングデータは、分子イオンデータ記憶部36で積算され記憶される。
【0086】
時刻t3において、電源16からエミッター12に所与の電流が供給されてエミッター12の焼きだしが開始され、時刻t4において、電源16からエミッター12への電流の供給が停止する。エミッター12の焼きだしを行っている間(時刻t3〜時刻t4)は、信号処理部30の動作は停止する。
【0087】
信号処理部30は時刻t4に動作を再開し、質量分析部20から出力された検出信号がサンプリング部32でサンプリングされて、サンプリングデータが生成される。
【0088】
ここで、時刻t4〜時刻t5では、エミッター12の焼きだしによって、エミッター1
2が高温になる。そのため、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンには、試料の分子イオンと、熱分解物のイオンと、が含まれる。
【0089】
そのため、時刻t4〜時刻t5に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値より大きいと判定される。したがって、時刻t4〜時刻t5に生成されたサンプリングデータは、フラグメントイオンデータ記憶部38で積算され記憶される。
【0090】
エミッター12の温度が下がると(時刻t5)、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンにおいて、熱分解物のイオンの割合が減少する。そのため、時刻t5〜時刻t6に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値以下と判定される。したがって、時刻t5〜時刻t6に生成されたサンプリングデータは、分子イオンデータ記憶部36で積算され記憶される。
【0091】
時刻t6において、電源16からエミッター12に所与の電流が供給されてエミッター12の焼きだしが開始され、時刻t7において、電源16からエミッター12への電流の供給が停止する。
【0092】
エミッター12の焼きだしを行っている間(時刻t6〜時刻t7)は、信号処理部30の動作は停止する。そして、信号処理部30は時刻t7に動作を再開し、質量分析部20から出力された検出信号がサンプリング部32でサンプリングされて、サンプリングデータが生成される。
【0093】
時刻t7〜時刻t8では、エミッター12の焼きだしによってエミッター12が高温となり、質量分析部20に導入されるイオンにおいて、熱分解物のイオンの割合が大きくなる。
【0094】
そのため、時刻t7〜時刻t8に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値より大きいと判定される。したがって、時刻t7〜時刻t8に生成されたサンプリングデータは、フラグメントイオンデータ記憶部38で積算され記憶される。
【0095】
エミッター12の温度が下がると(時刻t8)、イオン源10から質量分析部20に導入されるイオンにおいて、熱分解物のイオンの割合が減少する。そのため、時刻t8〜時刻t9に生成されたサンプリングデータは、判定部34で熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値以下と判定される。したがって、時刻t8〜時刻t9に生成されたサンプリングデータは、分子イオンデータ記憶部36で積算され記憶される。
【0096】
このようにして、分子イオンデータ記憶部36には、時刻t2〜時刻t3、時刻t5〜時刻t6、時刻t8〜時刻t9に生成されたすべてのサンプリングデータが積算され記憶される。また、フラグメントイオンデータ記憶部38には、時刻t4〜時刻t5、時刻t7〜時刻t8に生成されたすべてのサンプリングデータが積算され記憶される。
【0097】
この分子イオンデータ記憶部36に記憶された積算データ、およびフラグメントイオンデータ記憶部38に記憶された積算データは、PC40に出力され、例えば、それぞれ表示部(図示せず)に表示される。
【0098】
質量分析装置200では、フラグメントイオンデータ記憶部38は、判定部34が熱分解物のイオンの質量電荷比m/zに対応する強度が所与の値よりも大きいと判定した場合に、サンプリングデータを記憶する。そのため、質量分析装置200では、分子イオンの
スペクトルと、熱分解物のイオンのスペクトル(熱分解スペクトル)と、を得ることができる。したがって、例えば、熱分解スペクトルを利用してフラグメント情報から試料の分子構造の情報を得ることができる。
【0099】
3. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0100】
例えば、上述した実施形態では、判定部34は、
図4に示すように、熱分解物のイオンの質量電荷比に対応する強度(ピークP1の強度)が所与の値(閾値T)以下か否かを判定する処理を行ったが、判定部34は、試料の分子イオンの強度(ピークP2の強度)に対する熱分解物のイオンの強度(ピークP1の強度)の比P1/P2(すなわち相対強度)を、熱分解物のイオンの質量電荷比に対応する強度としてもよい。すなわち、判定部34は、比P1/P2が、所与の値以下か否かを判定する処理を行ってもよい。
【0101】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。