特許第6045483号(P6045483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045483
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】列車定位置停止支援システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 25/02 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   B61L25/02 G
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-249763(P2013-249763)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-105081(P2015-105081A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】大塚 泉
【審査官】 東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4870370(JP,B2)
【文献】 特開2011−251672(JP,A)
【文献】 特開2013−226345(JP,A)
【文献】 特開平04−208892(JP,A)
【文献】 特開2003−160049(JP,A)
【文献】 特開2012−192887(JP,A)
【文献】 特開平09−080153(JP,A)
【文献】 特開平06−019535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の定位置停止位置の近傍に設置され、上記列車の先頭部にレーザ光を照射し、上記列車までの距離を測定する距離センサ、上記列車の車両が持つ車種情報を読み取り、上記列車の車種識別を行う車種情報処理部、上記距離センサと上記車種情報処理部で得られた情報を基に、上記列車の運転状況を確認するデータ処理部、上記データ処理部で得られた上記列車の運転状況を表示する表示部を備え、上記距離センサは、上記列車の先頭部正面に対し、左右の位置にそれぞれ配置され、上下方向に上記レーザ光を照射し、上記レーザ光の走査角度範囲内にて1スキャンで複数の走査角度での検出距離値を得、上記データ処理部は、上記走査角度と上記検出距離値を基に水平距離値を算出し、上記水平距離値の中央値と比較して一定以上の差がある上記水平距離値を除外した上で、上記水平距離値の平均をとって計測値を算出し、上記計測値から上記列車の定位置停止位置までの距離を算出することを特徴とする列車定位置停止支援システム。
【請求項2】
上記データ処理部は、上記距離センサの複数回のスキャンで得られた上記計測値をもとに平滑化処理を行って平滑化距離値を算出することを特徴とする請求項1記載の列車定位置停止支援システム。
【請求項3】
上記データ処理部は、上記平滑化距離値を参照し、上記列車の現在位置と定位置停止位置までの距離の変移が減少方向、増加方向、変化なしであることを検出し、上記列車の運転状況が入線、出線、停止であるという判定を行うことを特徴とする請求項2記載の列車定位置停止支援システム。
【請求項4】
上記データ処理部は、上記平滑化距離値を参照し、一定時間の間、上記列車の定位置停止位置までの距離が一定範囲内である場合に、上記列車の停止判定を出すことを特徴とする請求項2記載の列車定位置停止支援システム。
【請求項5】
上記データ処理部は、上記列車の運転状況を周期的に判定し、上記列車の停止判定が指定回数継続した場合に、上記列車の停止判定を確定させることを特徴とする請求項4記載の列車定位置停止支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車車両までの距離を計測して、列車の定位置停止のための情報として用いる列車定位置停止支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
駅施設にホーム柵を普及する上で、定位置停止装置(TASC)や自動列車運転装置(ATO)など大規模システムを用いることは膨大なコストがかかるという課題があった。そのため、列車の定位置停止の判定機能のみを搭載した安価なシステムの需要が高まった。既設の技術を適用することで、安価な機器の組み合わせで、定位置停止判定を行う技術(例えば、特許文献1参照)、停止位置が異なる車両に対しての車両停止位置判定の技術(例えば、特許文献2参照)、車両の種別に関する車両個別情報の記憶、送受信に関する技術(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−240519号公報
【特許文献2】特開2011−251672号公報
【特許文献3】特許第4870370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の列車の定位置停止判定では、列車までの距離を計測する距離センサが周囲環境や設置条件の影響を受け、計測値に誤差が生じるという問題があった。
また、移動する車両に対する距離センサの計測値が大きくぶれる場合があり、計測値そのものの信頼性が低いという問題があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、距離センサで計測した列車までの距離値から有効となる水平距離値を得て、列車の定位置停止に反映させる列車定位置停止支援システムを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる列車定位置停止支援システムは、列車の定位置停止位置の近傍に設置され、上記列車の先頭部にレーザ光を照射し、上記列車までの距離を測定する距離センサ、上記列車の車両が持つ車種情報を読み取り、上記列車の車種識別を行う車種情報処理部、上記距離センサと上記車種情報処理部で得られた情報を基に、上記列車の運転状況を確認するデータ処理部、上記データ処理部で得られた上記列車の運転状況を表示する表示部を備え、上記距離センサは、上記列車の先頭部正面に対し、左右の位置にそれぞれ配置され、上下方向に上記レーザ光を照射し、上記レーザ光の走査角度範囲内にて1スキャンで複数の走査角度での検出距離値を得、上記データ処理部は、上記走査角度と上記検出距離値を基に水平距離値を算出し、上記水平距離値の中央値と比較して一定以上の差がある上記水平距離値を除外した上で、上記水平距離値の平均をとって計測値を算出し、上記計測値から上記列車の定位置停止位置までの距離を算出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の列車定位置停止支援システムによれば、データ処理部において、列車までの水平距離値を算出した中で、誤差が大きいものを無効値として除外した上で、水平距離値の平均をとって、列車の定位置停止位置までの距離を計測値として算出するため、列車の定位置停止位置までの距離を精度の高い計測値として得ることができ、列車の定位置停止
の判定に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1の列車定位置停止支援システムの構成を概略的に示す構成図と、距離センサの配置を示す図である。
図2】本発明の実施の形態1の距離センサによって計測する水平距離値の説明図である。
図3】本発明の実施の形態1の列車定位置停止支援システムにおいて、列車までの水平距離値のうち、有効値のみの平均値をとる平均化処理の説明図である。
図4】本発明の実施の形態2のデータ平滑化処理を示す図である。
図5】本発明の実施の形態3の停止判定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における列車定位置停止支援システムについて図1から図3を用いて説明する。図1(a)は、列車定位置停止支援システムの構成を概略的に示す構成図であり、終端駅のホーム終端部を側方から観察した図である。図1において、列車1は、レール10上を、矢印方向(紙面左向き)に移動してホーム6に入線する。列車1にはあらかじめRFID(Radio Frequency IDentification)タグ2が取り付けられており、このRFIDタグ2を、ホーム6下部に設置してあるRFIDアンテナ3が検出後、RFIDリーダー4が、RFIDタグ2が持つ車種情報を読み取り、データ処理部8に送信し、データ処理部8にて列車1の車種識別を行う。車種ごとにホーム6での定位置停止位置が異なるため、車種に合わせてデータ処理部8での処理情報(停車位置)を補正する。RFIDタグ2、RFIDアンテナ3、RFIDリーダー4によって車種情報処理部5が構成されている。
【0010】
レール10の終端部の突き当りに、距離センサ7と、列車の運転状況を表示する表示部9が配置されている。距離センサ7は、列車1の車両先頭部(前面)に赤外線レーザなどのレーザ光70を照射し、その反射光を受光して先頭車両と距離センサ7間の距離を測定する。距離センサ7で検出する値が、停止目標となる定位置停止位置までの距離と一致した場合、列車1が定位置停止した状態となる。定位置停止位置とは、列車1の停止目標となる位置である。
【0011】
表示部9は、データ処理部8(例えばデータ処理用パソコンとする。)で算出された測定値を参照して、列車1の定位置停止を知らせる表示をするものであり、例えばLED表示灯である。表示部9は、列車1がホーム6に入線した状態、例えば定位置停止位置まで20m以内となった場合に点灯し、定位置に停止した状態では丸印を、定位置以外に列車1が位置する場合には×印を表示して、運転士に列車1の運転状況を知らせるものである。
【0012】
また、距離センサ7は、単数で用いる以外に、信頼性確保のために複数のセンサから構成される場合があり、例えば、図1(b)のホーム6終端部の平面図に示すように、列車先頭部正面の左右の位置にて列車1までの距離を計測できるように、距離センサ7a、7bを配置し、センサ機能を二重化している。
【0013】
図2に示すように、距離センサ7は、列車1の前面に対し、上下方向(床面に対して垂直方向)に、半円状のフィールドを一定周期でスキャンし、1スキャン毎に、複数の角度(走査角度θ)で、列車1までの距離(検出距離値a、またはセンサ検出距離値、センサ応答距離値。)を、データ処理部8側に出力する。データ処理部8では、1ポイントごとに走査角度θと検出距離値aとを基に、三角関数にて水平距離値b(求めたい距離)を算出する。
なお、距離センサ7と列車1との水平距離値bから、距離センサ7と定位置停止位置との距離の差分を計算することで、列車1と列車1の定位置停止位置との距離を算出できる。
ここで、例えば、距離センサ7のスキャン周期は25msec、走査角度は190度、角度分解能は0.25度、1スキャン毎の計測点数は760ポイント、測定対象物の計測範囲は最大100mである。
【0014】
データ処理部8では、図3に示すように、1スキャンで得られたNポイントの水平距離値bの中央値Lを中心に、特定の誤差(±Xmm以上の差)がある値(L+X)を無効値として除外し、残りの値を有効値とする。そして、有効値のみの平均値をとって、1スキャンで得られる計測値とする。
【0015】
このように、周囲環境や条件によって干渉を受けたことによる品質の低い計測があったとしても、そのような誤差が大きな計測を除外することができ、1スキャン毎の距離値の信頼性を向上させることが可能である。そして、その計測値から列車1の定位置停止位置までの距離を正確に求めることができるため、列車1の定位置停止の判定精度を向上させることが可能となる。
【0016】
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、距離センサ7にて1スキャン毎に得られる計測値の精度を向上させるために、誤差が大きな値を除外した上で平均値を求めることについて説明した。この実施の形態2では、データ処理部8において、過去のn個分の計測値(1スキャン毎に得られる。)を基に、平滑化処理を行い、現在距離値(平滑化距離値)を求めることについて説明する。
列車1が走行した状態である入線または出線の場合は、移動体である列車1を計測対象としているため、ブレ(ズレ)の補正処理をすることが望ましい。そのために過去のスキャンで得た計測値も計算に入れて、現在の距離値として平滑化距離値を導き出し、定位置停止判定に活用する。
【0017】
まず、実施の形態1にて示した手法で、定周期で毎回1スキャン分の計測値(n個)を取得する。次に、平滑化処理では、1スキャン毎に得られる距離値の過去n個分のデータを基に、2次3次多項式適合法を適用し、センサ-列車間の距離値のバラつきを抑制して、平滑化距離値を得る。 2次3次多項式適合法による距離の平滑化は、次の式1のように表される。
【0018】
【数1】
【0019】
※n次元とする。
ここで、wは平滑化重み係数、xは1スキャン毎に算出される値(計測値であり、図4の四角形の記号で表される。)、xmは平滑化処理された距離値(図4の実線で表される。)、iは時系列で25msec周期、nは過去に得られた1スキャン毎の計測値の個数であり、n次元のnである。
【0020】
平滑化処理によって得られるデータ例を図4に示す。図4は、縦軸が距離、横軸が時間を示しており、列車位置と、停止目標(定位置停止位置)との関係を時系列に表したものである。図中、四角形は1スキャン毎に得られた計測値を、実線は、この実施の形態2の平滑化処理によって得られた列車1の現在距離値を示す平滑化距離値を示している。図4では、時間の経過とともに、1スキャンで得られる計測値が停止目標に近づいている傾向が読み取れるが、その値にはバラつきがあることが分かる。しかし、この平滑化処理を行うことで、実線で示した平滑化されたデータ(平滑化距離値)が得られ、列車位置の読み取りを正確に行うことが可能となる。
【0021】
なお、図4で見た場合に、1スキャンで得られた計測値は、左から順にN1、N2、…、N5、…と並んでいる。N5と同じ時間の平滑化距離値X5は、N1からN5の計測値を基に演算して得られる値となっている。
列車1の定位置停止を判定する上で、移動する列車1が停止するまでの走行状態を見た場合に、距離センサ7が取得する測定値そのものには、かなりのブレが発生する。そのため、実際には列車1が定位置停止しても停止判定までに時間がかかってしまう場合があった。しかし、上記のように計測値を基に平滑化処理を行うことで、停止判定に要する時間を短縮することが可能となる。
【0022】
実施の形態3.
この発明の実施の形態3では、上述の実施の形態2で得られた平滑化距離値を基に、列車1の定位置停止の判定処理を行う場合について説明する。データ処理部8では、まず、列車1の残走距離の増減により、車両の運転状況(走行状態)の判定を行う。
入線判定は、平滑化距離値(残走距離)の変移がマイナス(減少)方向である場合の判定とする。
出線判定は、平滑化距離値の変移がプラス(増加)方向である場合の判定とする。
停止判定は、平滑化距離値の変移が無い場合(変化なしの場合)の判定とする。
【0023】
次に、列車1の停止(停車)状態の判定について、より詳しく説明する。図5は、縦軸が距離(列車の停止位置からの距離)、横軸が時間を示している。一定周期で算出される平滑化距離値を時系列にチェックし、一定時間の間、一定範囲内の距離にある場合、停止判定を確定させる。図5に例示したように、列車1の停止状態がx秒となったところで1回目の停止判定(停止判定1)が出され、x+1秒となったところで2回目の停止判定(停止判定2)が出される。停止判定が指定回数(図4の例では2回)継続した場合に、停止判定を確定させる。
実運用においては、停止判定の確定のための停止判定継続回数や、判定の周期などは適宜変更して用いられることは言うまでもない。
【0024】
このように、実施の形態1に示した手法にて距離センサ7で得た検出距離値aから誤差が大きな値を除いて信頼性の高い計測値を得、その上で、実施の形態2に示した手法で平滑化処理を行って計測のブレを抑制した平滑化距離値を得、この実施の形態3にて平滑化距離値から停止判定を行うことで、停止判定の精度を向上させられるとともに、車両毎に異なる走行状態に影響されず、一定のタイミングで停止判定を確定することが可能となり、判定に要する時間を短縮することが可能となる。
【0025】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 列車、2 RFIDタグ、3 RFIDアンテナ、4 RFIDリーダー、5 車種情報処理部、6 ホーム、7、7a、7b 距離センサ、8 データ処理部、9 表示部、10 レール、70 レーザ光。
図2
図3
図1
図4
図5