特許第6045520号(P6045520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧
<>
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000002
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000003
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000004
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000005
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000006
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000007
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000008
  • 特許6045520-無段変速機の制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045520
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20161206BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20161206BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20161206BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20161206BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20161206BHJP
   F16H 9/18 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/18
   F16H59/42
   F16H59/46
   F16H61/662
   F16H9/18 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-22737(P2014-22737)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-148311(P2015-148311A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 大城
(72)【発明者】
【氏名】宮石 広宣
(72)【発明者】
【氏名】禹 成勲
(72)【発明者】
【氏名】松井 才明
(72)【発明者】
【氏名】本間 知明
(72)【発明者】
【氏名】安井 義男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佑太
(72)【発明者】
【氏名】萬年 正行
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 進
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−072801(JP,A)
【文献】 特開平08−326855(JP,A)
【文献】 特開2012−249615(JP,A)
【文献】 特開2011−033114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/00− 9/26
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧により制御されるプライマリプーリ及びセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を伝達する無段変速機と、
前記プライマリプーリの回転数と前記セカンダリプーリの回転数に基づいて実変速比を検出する変速比検出手段と、
走行状態に応じて前記無段変速機の目標変速比を設定する目標変速比設定手段と、
前記目標変速比と前記実変速比との偏差とフィードバックゲインとに基づいて前記各プーリの油圧をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、
を備えた、無段変速機の制御装置において、
油圧の振動である油振を検出する油振検出手段を設け、
前記フィードバック制御手段は、油振が検出されたときは、前記フィードバックゲインを小さくする感度低減処理を実施することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機の制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、前記偏差の比例成分フィードバックゲインと、積分成分フィードバックゲインと、微分成分フィードバックゲインとを有し、前記フィードバックゲインを小さくするときは、前記微分成分フィードバックゲインを他のフィードバックゲインよりも小さくすることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、アクセルペダル開度が所定開度以下のときに前記感度低減処理を実施することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一つに記載の無段変速機の制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、前記プライマリプーリの回転数が所定回転数以下のときに前記感度低減処理を実施することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一つに記載の無段変速機の制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、前記目標変速比が所定変速比よりもハイ側のときに前記感度低減処理を実施することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一つに記載の無段変速機の制御装置において、
前記フィードバック制御手段は、前記目標変速比の変化速度の絶対値が所定値以下のときに前記感度低減処理を実施することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか一つに記載の無段変速機の制御装置において、
前記目標変速比は、運転者の要求する要求変速比に基づいて設定される変速比であり、
前記フィードバック制御手段は、前記要求変速比と前記目標変速比との差分絶対値が所定値以下のときに前記感度低減処理を実施することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと無段変速機との間にトルクコンバータを備えた車両に搭載される無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、エンジンにより駆動されるオイルポンプを油圧源として無段変速機の油圧を制御する際、油振による影響を排除するために、エンジン回転数が高いほど油圧フィードバック制御の制御量変化を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-79550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジン回転数が低い状態であっても、例えば、変速比が安定しているときに、油振によってプーリとベルトとの間に微小なスリップが生じると、このスリップによって実際にはプーリ溝幅は変化していないにも関わらず、変速比が変動したと判断する場合がある。このとき、変速比の変動に応じてフィードバック制御量を出力してしまうと、フィードバック制御量によって振動が助長され、かえって車両前後方向加速度が振動的になるという問題があった。
本発明は上記課題に着目してなされたもので、安定的な変速比制御が可能な無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機の制御装置では、油圧により制御されるプライマリプーリ及びセカンダリプーリの間にベルトを巻装して動力を伝達する無段変速機と、前記プライマリプーリの回転数と前記セカンダリプーリの回転数に基づいて実変速比を検出する変速比検出手段と、走行状態に応じて前記無段変速機の目標変速比を設定する目標変速比設定手段と、前記目標変速比と前記実変速比との偏差とフィードバックゲインとに基づいて前記各プーリの油圧をフィードバック制御するフィードバック制御手段と、を備えた、無段変速機の制御装置において、油圧の振動である油振を検出する油振検出手段を設け、前記フィードバック制御手段は、油振が検出されたときは、前記フィードバックゲインを小さくする感度低減処理を実施することとした。
【発明の効果】
【0006】
すなわち、油振により目標変速比と実変速比との偏差が検出されたとしても、フィードバックゲインを小さくすることでフィードバック制御量を抑制することができる。このため、目標変速比の変化が小さくなり、プーリへ供給する油圧を制御する指示値の変化も抑制され、油振の増幅を低減することができる。これにより、油振の増幅による変速比の変動量が小さくなり、運転者に前後加速度の変動等に伴う違和感を与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の無段変速機の制御装置を表すシステム図である。
図2】実施例1の無段変速機におけるフィードバック制御の構成を表すブロック図である。
図3】実施例1のアクセルペダル開度に基づく感度低減許可領域を表す図である。
図4】実施例1のプライマリ回転数及び変速比に基づく感度低減許可領域を表すマップである。
図5】実施例1の目標変速比の変化速度に基づく感度低減許可領域を表す図である。
図6】実施例1の要求変速比と目標変速比との差分に基づく感度低減許可領域を表す図である。
図7】感度低減処理を行わなかった場合の各パラメータ変化を表すタイムチャートである。
図8】実施例1の感度低減処理を行った場合の各パラメータ変化を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
図1は実施例1の無段変速機の制御装置を表すシステム図である。実施例1の車両は、内燃機関であるエンジン1と、無段変速機とを有し、ディファレンシャルギヤを介して駆動輪に駆動力を伝達する。無段変速機は、トルクコンバータ2と、オイルポンプ3と、前後進切替機構4と、ベルト式無段変速機構CVTを有している。トルクコンバータ2は、エンジン1に連結されオイルポンプ3を駆動する駆動爪と一体に回転するポンプインペラ20と、前後進切替機構4の入力側と接続されるタービンランナ21と、これらポンプインペラ20とタービンランナ21とを一体的に連結可能なロックアップクラッチ2aとを有する。前後進切替機構4は、遊星歯車機構と複数のクラッチ4aから構成されており、クラッチ4aの締結状態によって前進と後進とを切り替える。ベルト式無段変速機構CVTは、前後進切替機構4の出力側と接続されたプライマリプーリ5と、駆動輪と一体に回転するセカンダリプーリ6と、プライマリプーリ5とセカンダリプーリ6との間に巻回され動力伝達を行うベルト7と、を有する。
【0009】
コントロールユニット10は、運転者の操作によりレンジ位置を選択するシフトレバー11からのレンジ位置信号(以下、レンジ位置信号をそれぞれPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジと記載する。)と、アクセルペダル開度センサ12からのアクセルペダル開度信号(以下、APO)と、プライマリプーリ5の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサ13からのプライマリ回転数信号Npriと、セカンダリプーリ6の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサ14からのセカンダリ回転数信号Nsecと、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ15からのエンジン回転数Neと、プライマリ油圧を検出する油圧センサ16からの油圧信号を読み込む。コントロールユニット10内には、プライマリ回転数Npriとセカンダリ回転数Nsecとに基づいて実変速比Gを検出する変速比検出部10aと、油圧センサ16からの油圧信号に基づいて油振を検知し、油振を検知した場合は油振フラグFxをONとし、それ以外はOFFとする油振検出部10bとを有する。
【0010】
コントロールユニット10は、レンジ位置信号に応じたクラッチ4aの締結状態を制御する。具体的にはPレンジもしくはNレンジであればクラッチ4aは解放状態とし、Rレンジであれば前後進切替機構4が逆回転を出力するように後進クラッチ(もしくはブレーキ)を締結し、Dレンジであれば前後進切替機構4が一体回転して正回転を出力するように前進クラッチ4aを締結する。また、セカンダリ回転数Nsecに基づいて車速VSPを算出する。コントロールユニット10内には、走行状態に応じて最適な燃費状態を達成可能な変速マップが設定されている。この変速マップに基づいてAPO信号と車速VSPとに基づいて要求変速比GDを算出し、この要求変速比GDに所定のフィルタ処理を行った目標変速比G*を設定する。そして、目標変速比G*に基づいて各プーリの油圧をフィードフォワード制御により制御すると共に、プライマリ回転数信号Npriとセカンダリ回転数信号Nsecとに基づいて実変速比Gを検出し、設定された目標変速比G*と実変速比Gとが一致するように、各プーリの油圧をフィードバック制御する。
【0011】
フィードバック制御としては、目標変速比G*と実変速比Gとの偏差ΔGに対し、比例成分フィードバックゲインkpを乗算した比例成分と、偏差ΔGを積分した値に積分成分フィードバックゲインkiを乗算した積分成分と、偏差ΔGを微分した値に微分成分フィードバックゲインkdを乗算した微分成分とを有し、これら各成分の和に基づいて最終的なフィードバック制御量Pfbを出力する。以下、各成分のフィードバックゲインを総称して基準フィードバックゲインと記載する。尚、実施例1では、このフィードバック制御ループ内に感度低減処理が行われた第1フィードバックゲインを乗算する構成を備え、油振等に基づく振動的な現象を抑制する。以下、詳述する。
【0012】
図2は実施例1の無段変速機におけるフィードバック制御の構成を表すブロック図である。偏差演算部101では、目標変速比G*と実変速比Gとの偏差ΔGを演算する。感度低減処理部102では、偏差ΔGに対して後述する感度低減処理により設定された第1フィードバックゲインを乗算する。尚、詳細については後述するが、第1フィードバックゲインは、特に感度低減処理の必要が無いと判断された場合は1とされ、感度低減処理が必要と判断された場合は1よりも小さな値とされる。ゲイン乗算部103では、感度低減処理部102から出力された制御量に対して各成分の基準フィードバックゲインを乗算し、最終的なフィードバック制御量Pfbを出力する。
【0013】
感度低減フラグ設定部104では、各種入力信号に基づいて感度低減フラグFdのON・OFF状態を設定する。感度低減フラグ設定部104では、以下に示す5つの条件が全て成立した場合にはFdをONに設定し、いずれか一つが条件を満たさない場合にはFdをOFFに設定する。
以下、感度低減フラグ設定部104における5つの判断処理について説明する。
[条件1]油振フラグFx条件
油振検出部10bにおいて設定される油振フラグFxは、以下の処理により設定される。まず、油圧センサ16によりプライマリ油圧を検出し、このプライマリ油圧の振動の振幅が所定振幅以上で、かつ、所定振動数以上であると判断された場合、油振が発生していると判断して油振フラグFxをONと、それ以外は油振フラグFxをOFFとする。感度低減フラグ設定部104では、油振フラグFxがONのときは条件を満たしていると判断し、油振フラグFxがOFFのときは条件を満たしていないと判断する。
【0014】
すなわち、油振が発生すると、プライマリプーリ5やセカンダリプーリ6のクランプ力が不安定となり、各プーリとベルト7との間にわずかなスリップが生じる場合がある。ここで、実変速比Gを検出する際には、プライマリ回転数Npriとセカンダリ回転数Nsecとの比から算出する。仮に、プライマリプーリ5とベルト7との間でのみスリップが生じセカンダリプーリ6とベルト7との間にはスリップがほとんど生じていない場合、ベルト7が伝達する回転数は実際のプライマリ回転数Npriよりも小さくなる。すると、セカンダリ回転数Nsecはベルト7が伝達した回転数で回転することから、実質的に回転数が低下してしまい、実変速比Gが目標変速比G*よりもHigh側であると認識する。この変速比の偏差に伴ってフィードバック制御がLow側への制御を行うと、プーリ油圧が過剰に高められ、この現象が更にフィードバック制御されることで変速比Gが振動的になり、前後加速度Gxも振動的になるおそれがある。そこで、油振フラグFxがONのときは感度低減を許可し、油振フラグFxがOFFのときは感度低減を禁止する。
【0015】
[条件2]アクセルペダル開度条件
図3はアクセルペダル開度に基づく感度低減許可領域を表す図である。図3に示すように、アクセルペダル開度APOが所定開度APO1以下のときは、条件を満たすと判断する。また、一旦条件を満たした後の解除条件は、所定開度APO1よりも大きな所定開度APO2以上となった場合とし、ハンチングを抑制する。低アクセルペダル開度領域であれば、運転者による加速要求等がなく、変速比の大幅な変更を望むような場面ではないと考えられ、変速比として定常状態であると考えられる。このような場面でフィードバック制御による振動が大きくなると、前後加速度Gxの変動を招くからである。
【0016】
[条件3]プライマリ回転数及び変速比条件
図4はプライマリ回転数及び変速比に基づく感度低減許可領域を表すマップである。図4に示すマップは、横軸に車速VSP(セカンダリ回転数Nsecと同義)が、縦軸にプライマリ回転数Npriが設定されており、マップ内の直線の傾きが目標変速比G*を表す。基本的にLow側の変速比のときはプーリクランプ圧が確保されているため油振による影響は小さい。しかしながら、所定変速比G2よりもHigh側の領域ではプーリクランプ圧が低めに設定されるため油振による影響が無視できないからである。また、一旦条件を満たした後の解除条件は、所定変速比G2よりもLow側の所定変速比G1よりもLow側となった場合とし、ハンチングを抑制する。
【0017】
加えて、プライマリ回転数Npriが所定回転数Npri2以上Npri3以下の領域のときは、条件を満たすと判断する。また、一旦条件を満たした後の解除条件は、所定回転数Npri2よりも小さな所定回転数Npri1以下、もしくは所定回転数Npri3よりも大きな所定回転数Npri4以上となった場合とし、ハンチングを抑制する。プライマリ回転数Npriが低い領域で、かつ、High側変速比の場合は、運転者が加速等を望んでおらずゆっくりと走行している状態であり、このタイミングでフィードバック制御による変速比振動に伴う前後加速度Gxの変動は違和感となりやすいからである。尚、極低車速の場合は目標変速比G*も変化しやすいことから、極低回転領域では感度低減制御を行わない。
【0018】
[条件4]目標変速比の変化速度条件
図5は目標変速比の変化速度に基づく感度低減許可領域を表す図である。図5に示すように、目標変速比G*が変化する際の変化速度dG*/dtの絶対値が所定値g2以下のときは、条件を満たすと判断する。また、一旦条件を満たした後の解除条件は、所定値g2よりも大きな所定値g1以上となった場合とし、ハンチングを抑制する。変化速度dG*/dtが小さいときは、さほど追従性を考慮してフィードバック制御する必要が無く、感度を低減して変速比振動に伴う前後加速度Gxの変動を抑制するほうが有意義だからである。言い換えると、変化速度dG*/dtが大きいときは追従性が必要とされるため感度低減制御を行わない。
【0019】
[条件5]要求変速比と目標変速比との差分条件
図6は要求変速比と目標変速比との差分に基づく感度低減許可領域を表す図である。ここで、要求変速比DGとは、運転者のアクセルペダル開度APOと車速VSPに基づいて制御上で最初に設定される変速比である。アクセルペダル開度APOがステップ的に変化したような場合には、要求変速比DGもステップ的に変化させるが、実際のアクチュエータの作動としては追従できない値であり、仮にステップ的に変化した要求変速比DGを目標変速比G*として設定してしまうと、制御としての収束性の悪化を招くおそれがある。そこで、この要求変速比DGに所定のフィルタ処理を行った目標変速比G*を設定している。尚、要求変速比DFが定常的であれば目標変速比G*と一致する。
【0020】
図6に示すように、要求変速比DGと目標変速比G*との差分の絶対値が所定値h2以下のときは、条件を満たすと判断する。また、一旦条件を満たした後の解除条件は、所定値h2よりも大きな所定値h1以上となった場合とし、ハンチングを抑制する。差分が小さいときは、要求変速比DGも安定しており、さほど追従性を考慮してフィードバック制御する必要が無く、感度を低減して変速比振動に伴う前後加速度Gxの変動を抑制するほうが有意義だからである。言い換えると、差分が大きいときは追従性が必要とされるため感度低減制御を行わない。
【0021】
上述したように、感度低減フラグ設定部104では、以下に示す5つの条件が全て成立した場合にはFdをONに設定し、いずれか一つが条件を満たさない場合にはFdをOFFに設定する。図3に戻って、第1フィードバックゲイン設定部105では、感度低減フラグFdがONのときは予め設定された感度低減ゲインkpd、kid、kddを設定し、感度低減フラグFdがOFFのときは1を設定する。感度低減ゲインは、予め設定されたゲインであり、例えばkpd=0.8、kid=0.8、kid=0.5といった値が設定されている。このように微分成分に対応する感度低減ゲインkidを他の感度低減ゲインよりも小さな値に設定するのは、以下の理由による。すなわち、フィードバック制御においては、変化に対する追従性を求める際に微分成分が過敏に反応するため、油振に伴う各要素の変化に対してフィードバック制御量Pfbが大きく変動しやすい。そこで、定常状態であると考えられる場面では、積極的に微分成分を抑制することで、ある程度の追従性を確保しつつ過敏な反応を抑制している。
【0022】
ゲイン変化制限部106では、仮に第1フィードバックゲインとして1から感度低減ゲインに変更された場合、第1フィードバックゲインがステップ的に急変するおそれがあることから、1から徐々に感度低減ゲインへ、もしくは感度低減ゲインから徐々に1へ切り替えることで、フィードバック制御ループのロバスト性を確保する。そして、感度低減部102において偏差ΔGに第1フィードバックゲインが乗算され、次に、ゲイン乗算部103において基準フィードバックゲインが乗算されてフィードバック制御量Pfbが出力される。
【0023】
図7は感度低減処理を行わなかった場合の各パラメータ変化を表すタイムチャートである。図7中のPpri*は目標プライマリ油圧であり、Ppriは実プライマリ油圧である。尚、目標プライマリ油圧はフィードバック制御量Pfbにフィードフォワード制御量Pffが加算された上で算出される値であるが、アクセルペダル開度APOや車速VSPが定常的でありさほど変速比の変更が要求されていない場面であるため、ほぼフィードバック制御量Pfbと同様に変化する。
【0024】
時刻t1において油振が発生し、時刻t2において、プライマリプーリ5やセカンダリプーリ6のクランプ力が不安定となると、各プーリとベルト7との間にわずかなスリップが生じ、プライマリプーリ5とベルト7との間でスリップが生じ、ベルト7が伝達する回転数は実際のプライマリ回転数Npriよりも小さくなる。すると、セカンダリ回転数Nsecはベルト7が伝達した回転数で回転することから、実質的に回転数が低下する。これに伴い、実変速比Gが目標変速比G*よりもHigh側であると認識する。
時刻t3において、この変速比の偏差に伴ってフィードバック制御がLow側への制御を行うと、目標プライマリ油圧Ppri*が過剰に高められる。すると、時刻t4にいおいて、今度は過剰にプライマリ油圧Ppriを高めすぎたと判断して目標プライマリ油圧Ppri*を大きく低下させてしまう。この現象が更にフィードバック制御されることで変速比Gが振動的になり、前後加速度Gxも振動的になる。
【0025】
図8は実施例1の感度低減処理を行った場合の各パラメータ変化を表すタイムチャートである。時刻t1において油振が発生し、時刻t11において感度低減フラグFdがONとされると、第1フィードバックゲインとして感度低減ゲインが設定され、フィードバック制御量が抑制される。このとき、kddが特に抑制されるため、油振に伴う急変に対して特に安定的となる。これにより、目標プライマリ油圧Ppri*の変動が抑制され、実変速比Gも安定することで前後加速度Gxも過度に振動することなく、安定した走行状態を実現できる。
【0026】
以上説明したように、実施例にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1)油圧により制御されるプライマリプーリ5及びセカンダリプーリ6の間にベルト7を巻装して動力を伝達するベルト式無段変速機構CVTと、プライマリ回転数Npriとセカンダリ回転数Nsecに基づいて実変速比Gを検出する変速比検出部10a(変速比検出手段)と、走行状態に応じてベルト式無段変速機構CVTの目標変速比G*を設定するコントロールユニット10(目標変速比設定手段)と、目標変速比G*と実変速比Gとの偏差ΔGと第1フィードバックゲイン及び基準フィードバックゲインとに基づいて各プーリの油圧をフィードバック制御するコントロールユニット10(フィードバック制御手段)と、を備えた、無段変速機の制御装置において、油圧の振動である油振を検出する油振検出部10b(油振検出手段)を設け、フィードバック制御では、油振が検出されたときは、第1フィードバックゲインを小さくする感度低減処理を実施することとした。
【0027】
すなわち、油振により目標変速比G*と実変速比Gとの偏差ΔGが検出されたとしても、第1フィードバックゲインを小さくすることでフィードバック制御量を抑制することができる。このため、目標変速比G*の変化が小さくなり、プーリへ供給する油圧を制御する指示値の変化も抑制され、油振の増幅を低減することができる。これにより、油振の増幅による変速比の変動量が小さくなり、運転者に前後加速度Gxの変動等に伴う違和感を与えることを抑制できる。
【0028】
(2)フィードバック制御は、偏差ΔGの比例成分フィードバックゲインkpdと、積分成分フィードバックゲインとkid、微分成分フィードバックゲインkddとを有し、第1フィードバックゲインを小さくするときは、微分成分フィードバックゲインkddを他のフィードバックゲインkip,kidよりも小さくする。
すなわち、フィードバック制御においては、変化に対する追従性を求める際に微分成分が過敏に反応するため、油振に伴う各要素の変化に対してフィードバック制御量Pfbが大きく変動しやすい。そこで、定常状態であると考えられる場面では、積極的に微分成分を抑制することで、ある程度の追従性を確保しつつ過敏な反応を抑制できる。
【0029】
(3)フィードバック制御では、アクセルペダル開度APOが所定開度APO1以下のときに感度低減処理を実施する。
低アクセルペダル開度領域であれば、運転者による加速要求等がなく、変速比の大幅な変更を望むような場面ではなく、変速比として定常状態であると考えられる。このような場面でフィードバック制御による振動が大きくなると、前後加速度Gxの変動を招くため、このような場面での過敏な反応を抑制できる。
【0030】
(4)フィードバック制御では、プライマリ回転数Npriが所定回転数Npri3以下のときに感度低減処理を実施する。
すなわち、プライマリ回転数Npriが低い領域で、かつ、High側変速比の場合は、運転者が加速等を望んでおらずゆっくりと走行している状態であり、このタイミングでフィードバック制御による変速比振動に伴う前後加速度Gxの変動は違和感となりやすいため、このような場面での過敏な反応を抑制できる。
【0031】
(5)フィードバック制御では、目標変速比G*が所定変速比G2よりもハイ側のときに感度低減処理を実施する。
基本的にLow側の変速比のときはプーリクランプ圧が確保されているため油振による影響は小さい。しかしながら、所定変速比G2よりもHigh側の領域ではプーリクランプ圧が低めに設定されるため油振による影響が無視できない。よって、このような場面での過敏な反応を抑制することができる。
【0032】
(6)フィードバック制御では、目標変速比G*の変化速度dG*/dtの絶対値が所定値g2以下のときに感度低減処理を実施する。
変化速度dG*/dtが小さいときは、さほど追従性を考慮してフィードバック制御する必要が無く、感度を低減して変速比振動に伴う前後加速度Gxの変動を抑制することができる。言い換えると、変化速度dG*/dtが大きいときは感度低減制御を行わないため、追従性を確保できる。
【0033】
(7)目標変速比G*は、運転者の要求する要求変速比DGに基づいて設定される変速比であり、フィードバック制御では、要求変速比DGと目標変速比G*との差分絶対値が所定値h2以下のときに感度低減処理を実施する。
すなわち、差分が小さいときは、要求変速比DGも安定しており、さほど追従性を考慮してフィードバック制御する必要が無く、感度を低減して変速比振動に伴う前後加速度Gxの変動を抑制できる。言い換えると、差分が大きいときは感度低減制御を行わないため、追従性を確保できる。
【0034】
以上、実施例1に基づいて本発明の感度低減処理について説明したが、実施例1に限らず他の設計変更も許される。例えば、実施例1では、感度低減ゲインとして予め設定した所定値(kpd=0.8、kid=0.8、kid=0.5)を設定したが、kidのみ0.5等の1より小さな値を設定し、他の値は1のままとし、追従性をある程度確保してもよい。また、kidを固定値ではなく可変値としてもよい。例えば、目標変速比の変化速度dG*/dtや要求変速比と目標変速比との差分が所定値より小さい領域では極めて小さなkid(例えば0.1等)とし、所定値以上では0.5としてもよい。また、目標変速比の変化速度dG*/dtや要求変速比と目標変速比との差分が小さいほど小さなkidを設定するようにしてもよい。この可変値の構成はkidに限らずkpdやkidに適用してもよい。
【0035】
また、油振検知部10aを油圧センサ16による検出値に基づいて検出する構成としたが、予め油振が発生する走行状態等が他のパラメータから推定できる場合には、他のパラメータの値に基づいて油振検知を行ってもよい。また、感度低減フラグ設定部104では、5つの条件が全て成立した場合にFdをONに設定しているが、これに代えて、5つの各条件のうち、いずれか一つが成立した場合には感度低減フラグFdをONとするようにしてもよい。更に、条件は1つ以上であればよく、5つに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
2 トルクコンバータ
3 オイルポンプ
4 前後進切替機構
5 プライマリプーリ
6 セカンダリプーリ
7 ベルト
10 コントロールユニット
12 アクセルペダル開度センサ
13 プライマリ回転数センサ
14 セカンダリ回転数センサ
15 エンジン回転数センサ
16 油圧センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8