特許第6045531号(P6045531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045531
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】乳酸の産業規模での精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/43 20060101AFI20161206BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20161206BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20161206BHJP
   C07C 51/47 20060101ALI20161206BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C07C51/43
   C07C59/08
   C07C51/44
   C07C51/47
   C12P7/56
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-103901(P2014-103901)
(22)【出願日】2014年5月20日
(62)【分割の表示】特願2010-292892(P2010-292892)の分割
【原出願日】2000年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-193895(P2014-193895A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年6月19日
(31)【優先権主張番号】1011624
(32)【優先日】1999年3月22日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】501374518
【氏名又は名称】ピユラク・バイオケム・ベー・ブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ヤン バン ブロイゲル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン バン クリーケン
(72)【発明者】
【氏名】アグステイ セルダ バロ
(72)【発明者】
【氏名】ホセ マリア ビダル ランシス
(72)【発明者】
【氏名】マルガリータ カプルビ ビラ
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−204156(JP,A)
【文献】 米国特許第01594843(US,A)
【文献】 特開平10−231269(JP,A)
【文献】 特開昭56−065841(JP,A)
【文献】 特開2010−189310(JP,A)
【文献】 特表2004−509092(JP,A)
【文献】 特表2012−532917(JP,A)
【文献】 国際公開第98/055442(WO,A1)
【文献】 H.BORSOOK,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,米国,AMERICAN SOCIETY OF BIOLOGICAL CHEMISTS,1933年,V102,P450-452
【文献】 Henry BORSOOK et al.,The Journal of Biological Chemistry,1933年,vol.102,pp.449-460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸濃厚物を製造する方法であって、
(a)濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%でありかつ単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%であり、1の乳酸鏡像異性体と他の鏡像異性体の間の比率が1に等しくないところの濃乳酸溶液を減圧蒸留して、乳酸濃厚物を留出物として得る工程、但し、単量体乳酸含有量を以下の通りに定義する:
ML=TA−2×(TA−FA)
ここで、TA−FA<10%、MLは単量体乳酸含有量を示し、TAは総酸含有量を示し、FAは遊離酸含有量を示す、そして
(b)留出物として得た該乳酸濃厚物に結晶化を受けさせる結晶化段階
を含む上記方法。
【請求項2】
前記減圧蒸留を0.1から20ミリバールの圧力下100℃から200℃の温度で実施する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記減圧蒸留を0.2から10ミリバールの圧力下110℃から140℃の温度で実施する請求項2記載の方法。
【請求項4】
蒸留段階(a)に先立って濃乳酸溶液を活性炭が入っているカラムに通す請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
蒸留段階(a)に先立って濃乳酸溶液をイオン交換体の上に通す請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
蒸留段階(a)に先立って濃乳酸溶液を活性炭が入っているカラムに続いてイオン交換体の上に通す請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
段階(b)で溶媒として水のみを用いる請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
段階(b)で種晶を前記乳酸濃厚物に添加する請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記蒸留の残留物を結晶化段階(b)の上流で工程に再循環させる請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記結晶化段階(b)を1つ以上の冷却結晶化装置、蒸発結晶化装置および/または断熱結晶化装置内で実施する請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記結晶化段階(b)を断熱結晶化装置内で実施する請求項10記載の方法。
【請求項12】
段階(b)の産物流れを固体−液体分離手段で母液と乳酸結晶に分離する請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記濃乳酸溶液を発酵で生じさせた乳酸から得られた請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載の方法に従って結晶乳酸を入手する工程、ここで該工程の原料の乳酸が、発酵で生じた希乳酸流れから生じさせたものであり、かつ得られた結晶乳酸またはその溶液が下記の特性を有する:(a)高純度乳酸の総量を基準にして99%以上のキラル純度を有することで特徴づけられるように本質的にキラル的に高純度であり、(b)色(新鮮)が10APHA単位以下で色(加熱後)が20APHA以下であることで特徴づけられるように本質的に無色であり、(c)容認される匂いおよび味を有し、かつ(d)アルコール含有量が250ppm以下であることで特徴づけられるように残存アルコールを本質的に含まない、結晶乳酸またはその溶液を用いて、ポリ(乳酸)および/またはポリ(乳酸)を伴う共重合体を製造する方法。
【請求項15】
前記結晶乳酸が(S)−乳酸である請求項14記載の方法
【請求項16】
前記結晶乳酸が(R)−乳酸である請求項14記載の方法
【請求項17】
乳酸または乳酸溶液を用いてキラル合成を行う方法において、該乳酸または乳酸溶液が請求項1〜13のいずれか1項記載の方法に従って入手された結晶乳酸またはその溶液であって、原料の乳酸が、発酵で生じた希乳酸流れから生じさせたものであり、かつ得られた結晶乳酸またはその溶液が下記の特性を有する:(a)高純度乳酸の総量を基準にして99%以上のキラル純度を有することで特徴づけられるように本質的にキラル的に高純度であり、(b)色(新鮮)が10APHA単位以下で色(加熱後)が20APHA以下であることで特徴づけられるように本質的に無色であり、(c)容認される匂いおよび味を有し、かつ(d)アルコール含有量が250ppm以下であることで特徴づけられるように残存アルコールを本質的に含まない、乳酸または乳酸溶液である、キラル合成を行う方法。
【請求項18】
(S)−乳酸または(S)−乳酸溶液を用いて薬剤調製する方法において、該(S)−乳酸または(S)−乳酸溶液が請求項1〜13のいずれか1項記載の方法に従って入手された結晶の(S)−乳酸またはその溶液であって、原料の(S)−乳酸が、発酵で生じた希乳酸流れから生じさせたものであり、かつ得られた結晶(S)−乳酸またはその溶液が下記の特性を有する:(a)高純度乳酸の総量を基準にして99%以上のキラル純度を有することで特徴づけられるように本質的にキラル的に高純度であり、(b)色(新鮮)が10APHA単位以下で色(加熱後)が20APHA以下であることで特徴づけられるように本質的に無色であり、(c)容認される匂いおよび味を有し、かつ(d)アルコール含有量が250ppm以下であることで特徴づけられるように残存アルコールを本質的に含まない、(S)−乳酸または(S)−乳酸溶液である、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸を産業規模で精製する方法およびこの方法で入手可能なキラル的に極めて高純度の(chirally extremely pure)製品およびそれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は分子間エステル(乳酸の二量体および重合体)を形成する傾向が高いことから、乳酸は一般に希釈溶液または濃溶液として販売されている。その上、乳酸(非常に高純度の乳酸でも)は非常に吸湿し易い。乳酸(乳酸のラセミ混合物、特に鏡像異性体の混合物)の従来技術に従う産業規模の精製は複雑で骨の折れる方法である。
【0003】
乳酸、即ち2−ヒドロキシプロピオン酸が発酵で生じることは公知である。発酵による乳酸の調製は、一般に、まず最初に発酵段階を包含し、この発酵段階では、炭水化物を含有する基質、例えばグルコースまたはスクロースなどを適切な微生物で乳酸に変化させる。(S)−乳酸を産出する公知微生物は、乳酸桿菌属のいろいろな細菌、例えばカセイ菌などである。それらとは別に、また、(R)−乳酸を選択的に産出する微生物も知られている。次に、その発酵産物の水溶液を処理することで乳酸を得る。通常の産業的処理ルートは、一般に、バイオマスを除去した後に酸性化、精製および濃縮を行うことから成る。
【0004】
(S)−乳酸の場合、そのようにして得た乳酸は人が消費する食べられる物に添加するに充分な純度を有する。そのような通常方法で最終的に得られる(S)−もしくは(R)−乳酸は、98%またはそれを更に越える鏡像異性体純度(enantiomeric purity)を持ち得る[即ち、存在する乳酸の98%以上が(S)−もしくは(R)−鏡像異性体から成る]。しかしながら、それでも、そのような製品は残存糖類および他の不純物を含有する。その上、そのような製品の色は黄色であり、それを加熱すると不純物が分解を起こすことが理由で褐色または黒色にさえ変化する。その上、そのような製品は不快な臭気を有する。加うるに、(S)−乳酸の場合の官能特性はしばしば満足されるものでない。従って、そのような乳酸鏡像異性体はある程度ではあるが食品で用いるに適するが、薬剤用途およびキラリティーを持つ化合物の合成で用いるには全く適さない。
【0005】
そのような製品にエステル化に続いて加水分解を受けさせることを通して、薬剤用途で用いるに適するようにそれの純度を高くすることができる。しかしながら、このようなエステル化/加水分解の結果として鏡像異性体純度が低くなりかつそれでもそのような乳酸は前記エステル化で用いたアルコールを少量含有する。他の乳酸精製方法の例には、乳酸の水溶液に抽出、(蒸気)蒸留および/または蒸発段階を1回以上受けさせそして電解透析段階および結晶化を受けさせることが含まれる[例えば、Ullmans Encyklopadie der Technischen Chemie、Verlag Chemie GmbH、Weinheim、第4版、17巻、1−7頁(1979);H.Benninga「History of Lactic Acid Making」、Kluwer Academic Publishers、Dordrecht−Boston−London(1990);C.H.Holten、「Lactic Acid;Properties and Chemistry of Lactic Acid
and Derivatives」、Verlag Chemie GmbH、Weinheim(1971);The Merck Index、Merck & Co.,Inc.、第11版、842頁(1989);Rommp Chemie Lexicon、G.Thieme Verlag、Stuttgart and New York、第9版、4巻、2792−2893頁(1991)およびオランダ特許出願1013265および1013682を参照)。
【0006】
ドイツ特許第593,657号(1934年2月15日付けで与えられた)には、(S)−成分を過剰量で含有していて無水乳酸を実質的に全く含有しない乳酸水溶液に薄膜蒸発技術を用いた濃縮を必要ならば減圧下で受けさせる実験室実験が記述されており、この方法では、乳酸の沸点より低い沸点を有する不純物を乳酸から分離している。次に、そのような濃縮を受けさせた乳酸溶液を急速冷却して結晶を生じさせる。その後、この結晶を母液から分離し、エーテルで洗浄した後、それに酢酸エチルもしくはクロロホルムまたは匹敵する溶媒を用いた再結晶化を53℃の鮮明な融点を示す結晶が得られるに充分な回数受けさせている。総乳酸含有量も単量体乳酸の含有量もキラル純度も鏡像異性体過剰分(enantiomeric excess)も色も報告されていない。その上、そのような方法は効率良い産業規模の精製にとって適切ではなく、特にエーテル、酢酸エチルまたはクロロホルム(これらは可燃性および/または毒性のある溶媒であり、これらを産業規模で用いることは現在は許されていないか或はそれらに非常に厳格な基準を受けさせる必要がある)などの如き溶媒を用いた場合の精製が適切でないことは、本技術の平均的な技術を有する技術者に明らかである。
【0007】
H.Borsook、H.M.Huffman、Y−P.Liu、J.Biol.Chem.102、449−460(1933)にも実験室実験が記述されており、この実験では、(S)−乳酸が過剰量で存在していて乳酸含有量が50%で無水乳酸と乳酸二量体の含有量が30%で水が15%の水性混合物に分別蒸留を約0.13ミリバール下105℃で受けさせている。次に、中間溜分に再蒸留を受けさせた後、氷/塩浴内で冷却することで、結晶の固体状塊を生じさせている。前記蒸留は少量で実施すべきであると述べられている、と言うのは、量をより多くすると加熱時間が長くなることが原因で産物が多量に失われてしまうからである。次に、前記結晶の固体状塊に等しい量のジエチルエーテルとジイソプロピルエーテルを等しい体積で用いた再結晶化を3回受けさせ、その結晶を単離した後、真空乾燥装置に入れて室温で乾燥させている。このようにして、水、無水乳酸または乳酸二量体などの如き不純物の含有量が0.1%未満で52.7℃−52.8℃の融点を有する(S)−乳酸を得ることができた。ここでも、再び、キラル純度も色も記述されていない。その上、このような方法も効率良い産業規模の精製で用いるに適さないことを本分野の平均的技術を持つ技術者に明らかである。
【0008】
L.B.Lockwood、D.E.Yoder、M.Zienty、Ann.N.Y.Acad.Sci.119、854(1965)にも、同様に、乳酸の蒸留および結晶化を実験室規模で行うことが記述されており、この場合に得られた光学的に高純度の乳酸が示した融点は54℃であった。色も他の重要な特性も報告されていない。
【0009】
Boehringer Ingelheimは1934年に乳酸の結晶化を研究したが、このような方法は精製およびさらなる処理に問題があることから良好な結果をもたらさないことが分かった。しかしながら、第二次世界大戦後、Boehringer Ingelheimは、薬剤用途に適した乳酸を1カ月当たり約12から15トンの規模で約77から86%の収率を伴わせて製造することができることを確認した。これは、減圧(約13ミリバール)下の蒸気蒸留に続いて−25℃で行う結晶化で乳酸の水溶液を精製することを伴い、次に、その結晶を水に溶解させそしてその溶液をカリウムフェロシアニド(重金属を除去する目的で)そして活性炭で処理している。そのようにして生じさせた(S)−乳酸のキラル純度も他の特性、例えば色および臭気なども確認されていない。
【0010】
結晶性(S)−乳酸を例えばFlukaおよびSigmaが99%を越える純度で市場に出した[例えばM.L.Buszko、E.R.Andrew、Mol.Phys.76、83−87(1992)およびT.S.Ing、A.W.Yu、V.Nagaraja、N.A.Amin、S.Ayache、V.C.Gandhi、J.T.Daugirdas、Int.J.Artif.Organs 17、70−73(1994)を参照]。水含有量が1重量%未満の結晶性(S)−乳酸はヨーロッパ特許出願公開第563,455号の実施例1から公知である。乳酸の結晶構造がA.Schouten、J.A.Kanters、J.van Krieken、J.Mol.Struct.323、165−168(1994)に記述されている。
【0011】
また、乳酸を合成で得ることも可能である。これは公知である。しかしながら、合成製造アプローチの生成物はラセミ混合物であり、従って、これは(S)−乳酸と(R)−乳酸を等しい量で含有する。公知技術、例えばジアステレオイソマー分離技術、即ち鏡像異性体の一方を塩として析出させた後に前記塩を鏡像異性体乳酸に変化させる技術などを用いて個々の鏡像異性体を分離することは可能であるが、そのようにして最終的に得た鏡像異性体製品はそれでも不可避的に他の鏡像異性体を有意な量で含有するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術の方法を用いたのでは高いキラリティーを示しかつ高い化学純度、特に薬剤用途に適した化学純度を有しかつ色および臭気の度合が受け入れられる度合である乳酸を産業規模で生産するのは不可能であることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、
乳酸濃厚物を製造する方法であって、
(a)濃乳酸溶液を基準にして総酸含有量が少なくとも95重量%でありかつ単量体乳酸の含有量が少なくとも80重量%であり、1の乳酸鏡像異性体と他の鏡像異性体の間の比率が1に等しくないところの濃乳酸溶液を減圧蒸留して、乳酸濃厚物を留出物として得る工程但し、単量体乳酸含有量を以下の通りに定義する:
ML=TA−2×(TA−FA)
ここで、TA−FA<10%、MLは単量体乳酸含有量を示し、TAは総酸含有量を示し、FAは遊離酸含有量を示す、そして
(b)留出物として得た該乳酸濃厚物に結晶化を受けさせる結晶化段階
を含む上記方法
である。
【0014】
総酸含有量(TA)は、分子間エステル結合に塩基を過剰量で用いた鹸化を受けさせた後に酸を用いた逆滴定で測定した酸含有量である。従って、総酸含有量は乳酸の単量体と二量体と重合体の量を表す。塩基を用いた直接滴定、即ち分子間エステル基に鹸化を受けさせる前の滴定で遊離酸含有量(FA)を測定する。
ここでは、単量体乳酸含有量(ML)を下記の如く定義する:
ML=TA−2x(TA−FA)
但しTA−FA<10%であることを条件とする。このことは、乳酸の二量体も重合体も非常に多い量で存在すべきでないことを意味する。その上、単量体でない乳酸はラクトイル乳酸(二量体)の形態で存在すると仮定する。
【0015】
ここでは、キラル純度[(S)−異性体が過剰な場合]を下記の如く定義する:
キラル純度=100%x{[(S)−異性体]/[(R)−異性体+(S)−異性体]}。
【発明の効果】
【0016】
本発明のさらなる目的は、経済的に魅力的で技術的に実行可能でありかつ(S)乳酸の場合にはまた優れた官能特性も示す製品を与える方法を提供することにある。
【0017】
本発明に従う方法を用いると、無色かつキラル的に高純度の乳酸製品を得ることができる。着色度をASTM D 5386−93に従って測定して「APHA単位」で表す。このような方法は透明な液体の色を測定する場合に適する。多くて10APHA単位の着色度は、当該液体の着色度が目で感知することができない程であり、従って裸眼で見た時に無色であることを意味する。加熱(還流下で約2時間)後の着色度が好適には多くて20APHA単位であるようにする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に従い、濃乳酸溶液に蒸留を減圧下で受けさせることで乳酸濃縮物を基準にした総酸含有量が少なくとも98重量%、好適には少なくとも99重量%で単量体酸の含有量が少なくとも95重量%の乳酸濃縮物と蒸留残留物を生じさせるのが好適である。好適には、この乳酸濃縮物が単量体乳酸を少なくとも98.5重量%含有するようにする。この乳酸濃縮物のキラル純度が好適には90%以上、より好適には95%以上、特に99%以上であるようにする。本発明の範囲内で、減圧は圧力が0.1から20ミリバール、特に0.2から10ミリバールの範囲であると理解されるべきである。減圧下で行う蒸留中の温度を好適には100から200℃、特に110から140℃にする。このような減圧下の蒸留の結果として乳酸を塔頂産物(top product)として得、それと同時に、高沸点の不純物を除去する。本発明に従い、このような減圧下の蒸留を特に短路蒸留装置を用いて実施する。また、この減圧下の蒸留を0.1から20ミリバール、特に2から10ミリバールの圧力下100℃から200℃の温度、特に110℃から140℃の温度で実施することも可能であり、好適には、このようにして濃縮した乳酸溶液を膜蒸発で蒸気相にした後、この蒸気を蒸留塔に送ってもよい。このような方法を用いて2つの溜分への分離を還流下で行うと、塔頂産物が酸全体の少なくとも98重量%、好適には少なくとも99重量%を含有し、そして残留物が残存糖類と乳酸重合体を含有する。前記塔頂産物は単量体乳酸を乳酸濃縮物を基準にして少なくとも95重量%含有する。この塔頂産物の単量体乳酸含有量は好適には少なくとも99.5重量%である。この塔頂産物のキラル純度は、好適には90%以上、より好適には95%以上、特に99%以上である。このような好適な態様に従い、膜蒸発を好適には潤滑膜蒸発(lubricated film evaporation)、薄膜蒸発および/または流下液膜式蒸発で行い、蒸留塔1つまたは2つ以上にトレーを1から10枚の数で装備する。蒸留段階(a)で、乳酸から残存糖類および乳酸重合体などの如き成分を分離しかつ高純度でない乳酸に色を与えている成分を分離することを確保する。このような成分または不純物は乳酸の沸点より高い沸点を有する。
【0019】
本発明に従い、蒸留段階(a)の前の濃乳酸溶液を活性炭が入っているカラムおよび/またはイオン交換体の上に通してもよく、好適には、最初に、活性炭が入っているカラム1つまたは2つ以上に通した後、イオン交換体1つまたは2つ以上の上に通す。
【0020】
本発明は、更に、少なくとも99重量%の総酸含有量と少なくとも99重量%の単量体含有量と少なくとも99%のキラル純度を有しかつ色が多くて10APHA単位で臭気が容認され、特に薬剤用途で容認される乳酸または乳酸溶液にも関する。乳酸溶液の場合の溶媒は好適には水であるが、また他の溶媒、例えばC1−C5アルカノール(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノールおよび2,2−ジメチルプロパノール)も適切である。キラル純度は少なくとも99%、特に少なくとも99.5%であり、このことは、鏡像異性体過剰度(「ee」)が99%以上であることに相当する。キラル純度が少なくとも99.8%(即ちeeが少なくとも99.6%)の乳酸またはそれの溶液が最も好適である。このような乳酸または乳酸溶液は更に下記の特性も満足させる:
□ アルコール含有量:250ppm以下(アルコールはメタノール、エタノールまたは他のある種のアルコールであり、このアルコールはそのままであるか或は乳酸エステルの形態である)、
□ 窒素の総量:5ppm以下、
□ 糖の総量:100ppm以下、
□ 有機酸(乳酸以外):250ppm以下。
【0021】
このような乳酸または乳酸溶液を食品に入れて用いる場合、これは臭気の意味で顕著な向上を示しかつ従来技術に従う製品に比べて高い化学的純度を示す。
【0022】
本発明に従う乳酸は、発酵で用いた微生物に応じて、(S)−乳酸および(R)−乳酸の両方であり得る。
【0023】
このような(S)−乳酸および(R)−乳酸の両方またはそれらの溶液は、高いキラル純度を有することから、キラル合成(chiral syntheses)で非常に適切に使用可能である。キラル的に高純度の(S)−乳酸またはそれの溶液は、更に、薬剤調合物に入れて用いるにも非常に適する。このようなキラル的に高純度の乳酸は、更に、ポリ(乳酸)および/またはポリ(乳酸)を伴う共重合体の製造で用いるにも特に適する。
【0024】
従って、本発明は、また、この上に記述した(S)−乳酸または(S)−乳酸溶液を含んで成る薬剤調合物にも関する。
濃乳酸溶液の調製
本発明に従って減圧下の蒸留を受けさせる濃乳酸溶液の調製で用いる供給材料は、原則として、供給材料流れ全体を基準にして少なくとも80重量%、好適には少なくとも90重量%の総酸含有量を有する如何なる乳酸含有流れであってもよい。この供給材料の単量体乳酸の含有量も同様に少なくとも80重量%、好適には少なくとも90重量%である。それと同時に、この供給材料に入っている2種類の乳酸鏡像異性体と鏡像異性体の間の比率は1に等しくあってはならず、このことは、そのような乳酸含有供給材料流れが乳酸のラセミ混合物を構成していてはならないことを意味する。従って、この2種類の鏡像異性体の一方が他方の鏡像異性体に対して過剰量で存在していなければならない。キラル的に高純度の産物を得るには、そのような供給材料に存在する単量体乳酸が示すキラル純度が少なくとも90%、より好適には少なくとも95%、特に99%以上であるのが好ましい。後者の場合、これは前記供給流れに存在する乳酸全部(=100%)の少なくとも99%が(R)−または(S)−乳酸から成ることを意味する。
【0025】
本発明に従う方法ではいろいろな方法で供給材料を得ることができる。乳酸を合成で製造する場合、一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーに対して過剰量で存在していて総酸含有量が少なくとも80重量%で単量体乳酸含有量が少なくとも80重量%の産物が得られるように、合成で得たラセミ型生成物に鏡像異性体分離を受けさせることで適切な供給材料を得ることができる。鏡像異性体分離技術は公知である。
【0026】
乳酸を生じさせる現存の発酵方法では、少なくとも希乳酸流れの煮沸を包含する濃縮段階を用いて本発明に従う方法で用いるに適した供給材料流れを非常に有効に得ることができる。煮沸の代わりにか或はそれに加えて、また、他の濃縮段階、例えば膜またはモレキュラーシーブを用いた処理などを利用することも可能である。このような供給材料は、原則として、発酵後の処理段階で得られる如何なる流れであってもよく、例えば精製段階で得られる産物流れであってもよい。乳酸を5−30重量%含有する希釈乳酸含有流れに濃縮段階を受けさせると良好な結果が得られる。
【0027】
このような希釈乳酸含有流れの濃縮操作は適切な如何なる様式で実施されてもよい。この乳酸濃縮段階中の条件には、好適には、乳酸が重合を起こさないように温度をあまりにも高くしない条件が当てはまる。従って、前記煮沸操作を好適には減圧(100から500ミリバール)下で実施する。この煮沸を1段階以上で実施してもよい。
【0028】
前記希釈乳酸含有流れの濃縮を、特に、1番目の濃縮段階で流下液膜式蒸発装置および/または薄膜蒸発装置および/または潤滑膜蒸発装置を1つ以上用いて行い、圧力を100から500ミリバール、特に200から400ミリバールにし、温度を25℃から140℃、より好適には40℃から100℃、特に50℃から70℃にする。前記1番目の濃縮段階で、乳酸の沸点より低い沸点を有する不純物、例えば蟻酸などを蒸発で除去する。このようにして得た釜残産物(bottom product)は少なくとも80重量%、好適には少なくとも90重量%の総酸含有量、少なくとも80重量%、好適には少なくとも90重量%の単量体含有量および少なくとも90%、好適には95%、特に99%のキラル純度を有する。
【0029】
この1番目の濃縮段階の産物に、好適には、蒸留段階(a)を実施する前に2番目の濃縮段階を受けさせる。この2番目の濃縮段階を、好適には、50から250ミリバールの圧力、特に60から150ミリバールの圧力下、80℃から150℃の温度、特に100℃から140℃の温度で実施する。この2番目の濃縮段階を、好適には膜蒸発を用いて、溶液が蒸気相になりそしてこの蒸気が1番目の蒸留塔に向かうような様式で実施する。この過程中、還流下で2つの溜分への分離を起こさせ、乳酸より高い揮発性を示す成分である水を含有しかつ乳酸含有量が多くて1重量%、好適には乳酸含有量が多くて0.1重量%の塔頂産物と、総酸含有量が少なくとも95重量%、好適には乳酸含有量が少なくとも98重量%(釜残産物全体を基準)の釜残産物に分離させる。この釜残産物の単量体含有量は少なくとも80重量%、好適には少なくとも95重量%でキラル純度は少なくとも90%、好適には少なくとも95%、特に少なくとも98%である。前記膜蒸発を好適には潤滑膜蒸発、薄膜蒸発および/または流下液膜式蒸発で行い、その蒸留塔1つまたは2つ上にトレーを1から10枚の数で装備する。
【0030】
蒸留段階(a)の蒸留残留物を工程に結晶化段階(b)の上流で再循環させる。この蒸留残留物は特に乳酸のオリゴマーまたはポリマーを含有していることから、前記残留物を前記工程に再循環させる前に前記残留物に好適には解重合段階を受けさせ、そのようにすると、この工程の収率が高くなる。
【0031】
この解重合を、好適には、水を好適には80から100重量%含有する水性流れが30から70重量%、好適には40から60重量%で前記2番目の蒸留段階の残留物が70から30重量%、好適には60から40重量%の混合物に60℃から100℃の温度の加熱を大気圧下で1から10時間受けさせることで実施する。
結晶化段階(b)
原則として公知の結晶化技術を用いることができる。そのような技術の一例は溶融結晶化(冷却結晶化)であり、これは、(S)−もしくは(R)−乳酸を溶融状態で含有する濃縮した液状の濃縮物または留出物を直接冷却することで(S)−もしくは(R)−乳酸を析出させることを伴う。乳酸のオリゴマーおよびポリマーの生成をできるだけ制限する目的で、結晶化を起こさせる温度(結晶化温度)をできるだけ低く保つ方が好適である。
【0032】
溶融結晶化は、結晶化を受けさせるべき材料の溶融物から結晶性材料を得る方法である。このような技術は、例えばKirk−Othmer、Encyclopedia of
Chemical Technology、第4版、7巻、723−727頁(1993)、J.W.Mullin「Crystallization」、Third Revised Edition、Butterworth−Heinemann Ltd.309−323頁(1993)およびJ.UllrichおよびB.Kallies、Current Topics in Crystal Grwoth Research、1(1994)(これらは引用することによって本明細書に組み入れられる)に徹底的に記述されている。溶融結晶化を蒸留と比べた時の最大の利点は、有機化合物を融解させる時のエンタルピーの方が蒸発させる時のエンタルピーよりも一般に低いことから必要なエネルギーがずっと少ない点にある。更に、溶融結晶化を蒸留と比較した時の別の利点は、この過程を一般にずっと低い温度で実施することができる点にあり、このことは、有機化合物が熱に不安定な時に有利である。
【0033】
この溶融結晶化を懸濁結晶化または層結晶化を補助で用いて実施することも可能であり、これを洗浄用カラムまたは遠心分離または他のある種の浄化技術と協力させて用いてもよい。適切な装置および方法の例がKirk−Othmer、Encyclopedia
of Chemical Technology、第4版、7巻、723−727頁(1993)、J.W.Mullin「Crystallization」、Third Revised Edition、Butterworth−Heinemann Ltd.309−323頁(1993)およびJ.UllrichおよびB.Kallies、Current Topics in Crystal Grwoth Research、1(1994)(これらの内容は引用することによって本明細書に組み入れられる)に記述されている。
【0034】
また、水溶液に結晶化を受けさせることでも非常に良好な結果が得られることも確認した。このような結晶化処理を用いる場合、前記濃乳酸溶液を水で希釈した後、これに冷却および/または蒸発結晶化段階を1回以上受けさせる。このような技術を用いる時には、溶媒(これは通常は水である)を蒸発させることで前記濃縮物または留出物を直接冷却(冷却結晶化)または濃縮(蒸発結晶化)する。冷却結晶化技術の場合に結晶化を起こさせる推進力は、前記濃乳酸溶液の温度を下げることで前記濃乳酸溶液を過飽和状態に持って行くことにある。前記溶液の温度を下げると溶解度が低下する結果として過飽和状態になり得る。蒸発結晶化技術を用いた場合に結晶化を起こさせる推進力は、前記濃乳酸溶液に入っている溶媒を蒸発させることで過飽和状態に持って行く(一定温度における濃度を高くする)ことにある。このことは、溶媒(通常は水)を冷却または蒸発させるとそれぞれの結果として結晶化熱が有効に取り除かれることを意味する。そのように水を冷却または蒸発させている間に乳酸の結晶化が起こる。
【0035】
別の非常に適切な結晶化技術は断熱結晶化であり、この場合に結晶化を起こさせる推進力は、熱の除去も供給も行わないで前記濃乳酸溶液を過飽和状態に持って行くことにある。これは、前記濃溶液の温度を下げ(溶媒を蒸発させ)かつ乳酸の濃度を高くすることを伴う[2つの効果:(a)溶媒が蒸発しそして(b)濃乳酸溶液の温度が下がる結果として溶解度が小さくなることで過飽和状態になり得る]。
【0036】
本発明に従う結晶化段階(b)を、好適には、断熱結晶化または冷却結晶化、特に断熱結晶化で実施する。この結晶化は、好適には、種晶を前記濃乳酸溶液に添加することを伴う。
【0037】
次に、公知の固体−液体分離方法を用いて、析出して来た乳酸を残りの液体、即ち(母液)から分離してもよい。
【0038】
乳酸の結晶を母液から分離する時に用いるに適した分離技術の例は、遠心分離、傾斜法、濾過、洗浄用カラムを1つ以上用いた分離、またはそのような技術の2つ以上の組み合わせである。本発明の範囲内で、遠心分離が特に好都合であることを確認した。
【0039】
このようにして得た母液には常にまだ乳酸がかなりの量で入っているであろう。従って、最適な工程管理では、前記母液を生産工程に再循環させるのが好適である。
【0040】
この得た乳酸結晶を単離後直ちに適切な溶媒、一般的には水に溶解させることで、吸湿性の乳酸結晶が一緒になって塊を形成することがないようにする。このようにして得た乳酸溶液の濃度は、原則として、所望の如何なる値であってもよい。実際、これは一般に30から95重量%に及んで多様である。商業的にしばしば遭遇する濃度は80−90重量%である。
【0041】
本発明に従う特に好適な方法の態様は、(1)供給材料に濃縮段階を少なくとも1回受けさせることで濃乳酸溶液を生じさせ、(2)この濃乳酸溶液に短路蒸留装置を用いた減圧蒸留段階を受けさせそして(3)この蒸留で得た産物に断熱結晶化を受けさせる態様である。
【0042】
ここに、以下に示す実施例で本発明を説明する。
【実施例1】
【0043】
水に入っている乳酸溶液(乳酸が67.8重量%)に薄膜蒸留による濃縮を0.1バール下120℃で流量(flow)が10ml/分になるように受けさせることで、総酸含有量が97.1重量%である濃乳酸溶液を生じさせた。次に、この濃乳酸溶液に短路蒸留装置(UIC、KDL−4)を用いた蒸留を1ミリバールの圧力下130℃の温度で流量が15ml/分になるように受けさせた。この得た産物は目で見て無色である。次に、この得た留出液を319gの量で用いてこれを15mlの水で希釈した後、6時間かけて38.5℃から28.5℃にまで冷却した。この過程で得た結晶スラリーに実験室の遠心分離による分離を受けさせることで結晶を母液から分離した。収量は143g(45%)であった。この結晶を少量の水に溶解させて、さらなる分析を行った(表1を参照)。
【0044】
【表1】
【0045】
a. 酸の総量:分子間エステル結合に塩基による鹸化を受けさせた後の酸含有量(乳酸の重量%)。
b. 遊離酸:酸基を直接滴定(乳酸の重量%)。
c. GLCで測定したキラル純度。
d. 水素による還元後に生じたアンモニアを電量滴定。
e. 硫酸による加水分解後にネオクプロイン(neocuproine)を用いた光度測定。
【実施例2】
【0046】
60 lの撹拌容器とNESLAB RTE111自動温度調節浴が備わっている結晶化装置に新しく蒸留した(R)−乳酸(実施例1を参照)を27.5kg仕込んだ。この乳酸を0.76kgの水で希釈して結晶化温度にまで下げた。この希釈した乳酸の種晶添加(seeding)温度を測定して、39.5℃であることを確認した。(R)−乳酸の結晶が60gで脱イオン水が5gの混合物を実験室のボールミル(Retsch S1)に入れて最大速度で15分間ブレンドすることで種晶のスラリーを生じさせた。
【0047】
前記混合物を前記結晶化装置に入れて39.3℃に冷却した後、前記種晶スラリーを35g添加した。この種晶は冷却なしに30分間に渡って成長した。この時間の間に温度が39.4℃にまで上昇した。30分後に線形冷却プログラム、即ち16時間かけて39.5℃から25℃にまで冷却するプログラムを開始させた。温度が26.0℃の時に前記スラリーの粘度があまりにも高くなったことから冷却プログラムを停止させた。このスラリーを更に6時間撹拌した後、これに遠心分離(Merck;Ferrum、10分間、速度:550)を受けさせた。結果として得た乳酸結晶(13.3kg、乳酸を基準にした収率48%)と母液の大部分(13.5kg)を集めたが、この遠心分離では母液が少し残存した。得た結晶を少量用いて90%に希釈した後、熱で溶解させた。分析の結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
この実験の結論は、供給材料のキラル純度は最適ではないが99.5%を越えるキラル純度を有する結晶性乳酸を得ることができると言った結論である。乳酸を基準にした収率は48%である。母液の再利用は容易であり、それによって収率が約60%にまで高くなり得る。
実施例3
この実施例では、本発明に従う産物の味覚および嗅覚試験を記述する。比較試験を三角形試験(triangular tests)として実施した。確立された記述子(descriptors)で得点を付けることを通して記述試験を実施した。
臭気
乳酸サンプルの記述試験を複数の段階で実施した。手初めとして、20人のグループを用いて、個々のサンプルを記述することを可能にする記述子のリストを集める。その後、短期間のトレーニングセッション(training session)を設けて、それらの人々に記述子の臭気認識に関する訓練を受けさせた。最後に、1−7の快楽的尺度(hedonistic scale)(記述分析で幅広く用いられている尺度)を用いて個々のサンプルをいろいろな記述子で得点を付ける。得点のリストを用いて、乳酸サンプルの最終的な評価を引き出した。この評価はサンプルの臭気に関する傾向の表示である。その結果を表3に示す(1:非常に僅か;7:非常に強い;基準製品は市販製品である)。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
前記試験は、本発明に従う乳酸は基準酸に比較して心地よい穏やかな酸性の匂いを有することを示している。この匂いは性質が穏やかな酸性であり、補足的にアルコール/エステル臭気成分を伴う。本発明に従う乳酸は高純度の乳酸である。その味は新鮮な酸性である。異常な味は存在しない。乳酸(基準1)は鋭い臭気(油のような、硫黄のような、かび匂い)を有しかつ非常に不快で異常な味と後味(油のような)を有する。乳酸(基準2)は臭気成分を多数種含有しており、強い芳香を放ち、高純度でない。乳酸(基準2)の味は良好であるが、本発明に従う乳酸のそれに比べて鋭い。