特許第6045577号(P6045577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045577粗糸を製造する粗紡機並びにスライバに準備紡績する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045577
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】粗糸を製造する粗紡機並びにスライバに準備紡績する方法
(51)【国際特許分類】
   D01H 1/115 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   D01H1/115 A
   D01H1/115 B
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-517364(P2014-517364)
(86)(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公表番号】特表2014-522919(P2014-522919A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】CH2012000145
(87)【国際公開番号】WO2013003962
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年6月26日
(31)【優先権主張番号】1108/11
(32)【優先日】2011年7月1日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】590005597
【氏名又は名称】マシーネンファブリク リーター アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Maschinenfabrik Rieter AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン グリースハマー
(72)【発明者】
【氏名】ペトル ハシュカ
【審査官】 山本 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−531862(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/095631(WO,A1)
【文献】 実開平03−053569(JP,U)
【文献】 特開2003−155630(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01291457(EP,A1)
【文献】 特開2002−069761(JP,A)
【文献】 実開平04−056775(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00−17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライバ(2)から粗糸(1)を製造する粗紡機であって、
当該粗紡機は、少なくとも1つの紡績部(3)を備え、該紡績部(3)は、スライバ(2)用の進入開口(5)を有する渦流チャンバ(4)と、少なくとも部分的に前記渦流チャンバ(4)内で延在する、入口(10)を有するスピンドル(6)として構成された粗糸形成要素とを有し、前記渦流チャンバ(4)に対応して紡績ノズル(19)が配置されており、該紡績ノズル(19)を介して空気が前記渦流チャンバ(4)に案内可能であり、これによりスライバ(2)に、準備紡績工程後に入口(10)の領域で保護撚りが付与されるようになっており、前記スピンドル(6)は、引出通路(9)を備え、該引出通路(9)を介して、保護撚りを有する粗糸(1)が前記渦流チャンバ(4)から引出可能であり、前記渦流チャンバ(4)に対応して、追加的に複数の準備紡績ノズル(8)が配置されており、該準備紡績ノズル(8)は、それぞれ前記スピンドル(6)の前記入口(10)に向かって方向付けられた流れ方向を有する、粗紡機において、
前記準備紡績ノズル(8)は、該準備紡績ノズル(8)により発生させられた個別の空気流が前記入口(10)を正面からみた接線方向で前記引出通路(9)に進入するように、方向付けられており、前記準備紡績ノズル(8)には、前記紡績ノズル(19)とは別に独立して、空気が供給可能であることを特徴とする、粗紡機。
【請求項2】
前記準備紡績ノズル(8)は、前記引出通路(9)の軸線方向にみて前記渦流チャンバ(4)の前記進入開口(5)と前記スピンドル(6)の前記入口(10)との間に配置されている、請求項記載の粗紡機。
【請求項3】
前記準備紡績ノズル(8)は、保護撚りが前記引出通路(9)の内側で付与可能であるように、方向付けられている、請求項1又は2記載の粗紡機。
【請求項4】
前記準備紡績ノズル(8)は、保護撚りが前記入口(10)の領域で付与可能であるように、方向付けられている、請求項1からまでのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項5】
前記準備紡績ノズル(8)は、少なくとも部分的に、前記渦流チャンバ(4)を包囲する壁区分(11)に配置されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項6】
前記渦流チャンバ(4)に、前記渦流チャンバ(4)の前記進入開口(5)に通じる繊維ガイド通路(13)を有する繊維ガイド要素(12)が前置されており、前記準備紡績ノズル(8)は、少なくとも部分的に前記繊維ガイド要素(12)に配置されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項7】
当該粗紡機は、閉ループ式および/または開ループ式の制御ユニットを備え、該閉ループ式および/または開ループ式の制御ユニットは、準備紡績工程中には前記準備紡績ノズル(8)だけに空気が供給され、準備紡績工程に続く紡績工程中には前記紡績ノズル(19)だけに空気が供給されるように、構成されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項8】
前記スピンドル(6)の前記入口(10)は、4mm〜12mm値にある内径(A)を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の粗紡機。
【請求項9】
粗糸(1)を製造する働きをする粗紡機においてスライバ(2)を準備紡績する方法であって、
請求項1からまでのいずれか1項記載の粗紡機を使用し、スライバ(2)を、前記準備紡績ノズル(8)により発生させられる空気流による準備紡績工程中に直線運動で前記引出通路(9)に移動させ、その際、スライバ(2)に、空気流により、直線運動に対して追加的に保護撚りを付与することを特徴とする、方法。
【請求項10】
準備紡績工程中、前記準備紡績ノズル(8)だけに空気を供給して、準備紡績に対して想定されたスライバ(2)の端部区分を、前記入口(10)を介して前記スピンドル(6)の前記引出通路(9)に送り込み、かつスライバ(2)の端部区分に保護撚りを付与し、保護撚りを有する端部区分を、前記引出通路(9)の通過後、操作装置により受け取り、粗糸(1)を製造するために、準備紡績工程の終了後、前記紡績ノズル(19)だけに空気を供給する、請求項記載の方法。
【請求項11】
保護撚りを有する端部区分を、引出通路(9)の通過後、巻取装置(16)によりコイル(14)に巻き取る、請求項又は10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライバから粗糸を製造する粗紡機であって、粗紡機は、少なくとも1つの紡績部を備え、紡績部は、スライバ用の進入開口を有する渦流チャンバと、少なくとも部分的に渦流チャンバ内で延在する、入口を有するスピンドルとして構成された粗糸形成要素とを有し、渦流チャンバに対応して紡績ノズルが配置されており、紡績ノズルを介して空気が渦流チャンバに案内可能であり、これによりスライバに、準備紡績工程後に入口の領域で保護撚りが付与されるようになっており、スピンドルは、引出通路を備え、引出通路を介して、保護撚りを有する粗糸が渦流チャンバから引出可能である、粗紡機に関する。
【0002】
粗糸は、粗紡機を用いて、多くの場合ドラフトにより予め処理(例えばダブリング)された繊維束から製造され、後続の紡績工程(精紡工程)のための供給材料として用いられる。この紡績工程では、粗糸の個々の繊維は、例えばリング紡績機を用いて精紡され、繊維糸が作られる。粗糸にある程度の強度を与えるために、供給された繊維束を、粗糸の製造中、ドラフト部(これは多くの場合粗紡機の一部である)を用いてドラフトして、次いで保護撚り(保護のための僅かな撚り)を付与することが実証されている。前述の強度は、ボビンに巻き取る際にもしくは後置された精紡機に供給する間に粗糸の引きちぎれを阻止するために重要である。但し、付与される保護撚りは、個々の巻取工程もしくは引出工程中並びに各機械タイプの間の相応の搬送工程中の個々の繊維の結束が保証されている程度の強さであってよい。これに対して、粗糸は、保護撚りにもかかわらず紡績機において後続処理できるように保証しなければならない、つまり粗糸は引き続きドラフト可能でなければならない。
【0003】
相応の粗糸を製造するために、主としていわゆるフライヤが使用されるが、フライヤの供給速度は生じる遠心力に基づいて制限されている。従って既に、フライヤを回避するか又は択一的な機械種により代用する多様な提案が存在していた(例えば欧州特許公開第0375242号明細書、独国特許公開第3237989号明細書)。
【0004】
これに関連して特に、空気流を用いて保護撚りが形成される空気紡績機を用いて粗糸を製造することも既に提案された。この場合、基本原理は、空気渦流が発生させられる渦流チャンバを通ってスライバを案内することにある。空気渦流により最終的に、いわゆる絡合繊維としての外側の繊維の一部が中心に延在する繊維ストランドの周りに絡みつくようになる。繊維ストランドは、同じく相互に略平行に延在するコア繊維から成る。
【0005】
糸の紡績時と同様に、粗糸の製造時でも、通常、実際の紡績工程を開始する前に、粗紡機に供給されたスライバを準備紡績する(つまり紡績工程を準備して実際の製造が開始されるまでの準備工程を導入する)必要がある。相応の準備紡績は、例えば紡績機の接続(オン)時又は粗糸もしくはスライバの引きちぎれ後に必要となり得る。
【0006】
この場合、紡績機において、その背景技術では、ボビンから繰り出された糸端部が実際の紡績方向とは逆向きに紡績部を通って案内され、ドラフト部から供給されたスライバと結合される。結合部の通過後に、紡績部において、最終的に所望の糸が生産される。
【0007】
しかし、生産された粗糸の前述の特性、特にその所望のドラフト可能性により、紡績部へのもしくは紡績部を通る粗糸の所期のような戻し案内は簡単には可能ではない。
【0008】
したがって本発明の課題は、スライバの迅速で確実な準備紡績を可能にする空気粗紡機並びに方法を提供することである。
【0009】
この課題は、独立請求項に記載の特徴を有する粗紡機並びに方法により解決される。
【0010】
本発明によれば、粗紡機は、実際の粗糸製造が行われる渦流チャンバに対応して、紡績ノズルに対して追加的に準備紡績ノズルが配置されていることを特徴としている。更に準備紡績ノズルは、スピンドルの入口に向けて方向付けられたそれぞれ1つの流れ方向を有する。したがって準備紡績ノズルは、準備紡績ノズルにより準備紡績中に入口を介して引出通路に向かう空気流が発生可能であるように、方向付けられている。この空気流は、渦流チャンバの進入開口の領域に吸引力を生じさせる。そこで例えば紡績部に前置されたドラフト部により、準備紡績されるべきスライバは、渦流チャンバにもしくは渦流チャンバの進入開口の領域に供給されるので、スライバは、前記吸引力により、入口に向けて吸い込まれ、最終的に、引出通路に向かう空気流により、同じく引出通路に達する。したがって結果として、紡績方向でのスピンドルへのスライバの導入が行われる。これに対して背景技術において公知の糸製造では、糸を紡績方向とは逆向きに紡績部に導くことが一般的である。準備紡績工程中に引出通路を通って搬送されたスライバの引出を可能にするために、追加的に、スライバにある程度の強度を付与する必要がある。ゆえに準備紡績ノズルにより発生させられた空気流が引出通路へのもしくは引出通路を通るスライバの運動をもたらすだけではない、ということが好適である。より正確に云うと、準備紡績ノズルは、スライバに、追加的に保護撚りも付与できるように、方向付けられているべきである。これによりスライバの強度は著しく高められるので、スライバは、スピンドルの通過後に、相応の操作装置により捕捉され、別の工程に供給することができる。保護撚りを有するスライバがスピンドルから離れると直ちに、最終的に「通常の」紡績工程の開始が可能であり、その際、準備紡績ノズルへの空気供給は中断され、紡績ノズルに空気が供給される。したがって結果として、相応に供給されるスライバの端部区分を後の紡績方向で準備紡績できる粗紡機が提案される。したがって紡績方向とは逆向きの、ひいては引出通路を通る、既に製造された粗糸の面倒なガイドは、不要である。
【0011】
特に、準備紡績ノズルが、準備紡績ノズルにより発生させられた個別の空気流が入口を正面からみた接線方向で引出通路に進入するように、方向付けられていると、好適である。これにより、接線方向の運動成分も有する空気流が、スピンドルの入口に進入するスライバに衝突し、その際、所望の保護撚りを生じさせる。しかし空気流により記載の吸引力及び引出通路へのもしくは引出通路を通るスライバの直線運動も生じさせるべきであるので、この場合でも、空気流は、入口に向かう方向成分を有しなければならない。その結果、準備紡績ノズルは、渦流チャンバの進入開口の方向から接線方向の成分をもって引出通路の内壁に衝突し、最終的に回転運動と共に引出通路の出口の方向に伝わる空気流を発生させるべきである。
【0012】
更に、準備紡績ノズルが、引出通路の軸線方向にみて渦流チャンバの進入開口とスピンドルの入口との間に配置されていると、好適である。このことは本発明に適した準備紡績ノズルの方向付けを許容し、そのために残りの紡績部の著しい変更は不要である。前述の領域では、好適には、紡績ノズルが配置されており、この場合、紡績ノズルは、通常、発生させられた空気流が所望の保護撚りを形成するために主にスピンドルの外面に衝突するように、方向付けられている。準備紡績ノズルは、更に(同じく引出通路の軸方向にみて)、紡績ノズルとスピンドルの入口との間に配置してよい。しかも、紡績ノズルが渦流チャンバの進入開口と準備紡績ノズルとの間に位置することも同じく考えられる。
【0013】
準備紡績ノズルが、保護撚りが引出通路の内側で付与可能であるように、方向付けられていると、同じく好適である。この場合、空気流の回転は、特に安定していてかつ均等である。なぜならば引出通路が保護撚りを付与する間にスライバのガイドとして働くからである。
【0014】
択一的又は追加的に、準備紡績ノズルが、保護撚りが既に入口の領域で付与可能であるように、方向付けられていると、同じく好適である。この場合、保護撚り付与は、できるだけ早期の段階で行われるので、特に高い引張り強度を達成することができる。スライバが引出通路からの引出時に引きちぎれる可能性は、これにより低減される。保護撚りが主として入口の領域で付与されるのか又は引出通路の内側で付与されるのかについては、結局のところ、準備紡績ノズルの方向性及び位置決めにより影響を及ぼすことができる。
【0015】
更に、準備紡績ノズルが、少なくとも部分的に、渦流チャンバを包囲する壁区分に配置されていると、好適である。この場合、準備紡績ノズルは、確実に固定して、精確にスピンドルの入口に向けて方向付けることができる。この場合、準備紡績ノズルは、壁に穿孔してよく、又は別の方法で、特に着脱可能にインサートの形で壁に結合してもよい。ところで準備紡績ノズルの数は、自由に選択可能であり、この場合、準備紡績ノズルを均一に入口の周りに分配することが好適であると判った。
【0016】
渦流チャンバに、渦流チャンバの進入開口に通じる繊維ガイド通路を有する繊維ガイド要素が前置されており、準備紡績ノズルは、少なくとも部分的に繊維ガイド要素に配置されていると、同じく好適である。このことは、繊維ガイド要素の交換による準備紡績ノズルの簡単な交換を可能にする。更に、スライバを、通常、ドラフト部と渦流チャンバの進入開口との間に案内する繊維ガイド要素は、大抵、紡績されるべき繊維材料に適合されている。準備紡績ノズルが繊維ガイド要素の内側に配置されている場合、この準備紡績ノズルも、配置、数及び方向性に関して、相応の繊維材料に適合させることができる。したがって繊維ガイド要素の交換により、粗紡機は、相応の繊維材料を紡績して粗糸を作るのに適しているだけではなく、むしろこの場合、繊維ガイド要素の正しい選択により、同時に、準備紡績ノズルも紡績されるべき繊維材料に対して設計されているので、後の紡績方向に向かう繊維材料の問題のない準備紡績を行うことができる、ということも保証されている。
【0017】
更に、個別に適合可能な空気流を実現するために、紡績ノズルとは別に独立して、準備紡績ノズルに空気が供給可能であると、好適である。その結果として、結局のところ、準備紡績工程中には準備紡績ノズルだけを運転し、つまり空気を供給し、後続の紡績工程中には紡績ノズルだけを運転し、つまり空気を供給することが可能である。択一的に、準備紡績工程中にもある程度の空気流を紡績ノズルにより発生させることも同じく考えられる。紡績工程を、追加的に準備紡績ノズルにより発生させられた空気流により補助することも、同じく可能である。
【0018】
粗紡機が、閉ループ式および/または開ループ式の制御ユニットを備え、閉ループ式および/または開ループ式の制御ユニットは、準備紡績工程中には準備紡績ノズルだけに空気が供給され、準備紡績工程に続く紡績工程中には紡績ノズルだけに空気が供給されるように構成されていると、同じく好適である。したがって両方の配置は、所期のようにそれぞれの役割に対して設計することができ、その際、個々の空気流の相互作用を考慮する必要はない。各ノズルの接続(オン)及び遮断(オフ)は、例えば相応の弁を用いて行うことができる。しかも、複数のノズルを流れ切換部を介して単一の空気供給部に接続することも同じく考えられるので、切換部の位置に応じて、準備紡績ノズル又は択一的に紡績ノズルに空気が供給可能である。更にそれぞれの空気の供給は、例えば生産される粗糸の測定された品質特性に基づいて、手動又は自動でも行うことができる。
【0019】
スピンドルの入口が、4mm〜12mm、好適には6mm〜8mmの値にある内径を有すると、特に好適である。記載の直径範囲を維持すると、粗糸紡績工程中にスピンドルの入口の領域に特に好適な空気流が生じ、この空気流により、外側の繊維端部の一部だけが捕捉され、所望の強度で実際の繊維コアの周りに巻き掛けられる。これに対して直径が4mmを下回ると、徐々に、従来慣用の空気紡績において公知であり、結果として比較的固い糸となる状態に達し、その固い糸は、ドラフト可能性の不足に基づいて粗糸として適切でない。
【0020】
更に、本発明による方法は、粗糸を製造するために前述の記載による粗紡機を使用し、スライバを、準備紡績ノズルにより発生させられる空気流による準備紡績工程中に直線運動で引出通路に移動させ、その際、スライバに、空気流により、直線運動に対して追加的に保護撚りを付与することを特徴とする。したがって本発明による方法は、「前進準備紡績」、つまりスライバが準備紡績中にあとの紡績方向に向かって(渦流チャンバの進入開口から渦流チャンバを介してスピンドルの引出通路に)渦流チャンバに導入され、空気流によりスピンドルの入口に案内される準備紡績工程を可能にする。空気流が入口を介して引出通路に向かい、したがってスライバと同一の経路で渦流チャンバから離れるので、空気流の作用により、保護撚りが付与される他に、引出通路を通るスライバの搬送も行われる。その結果、迅速で更に確実な準備紡績も可能であり、そのために紡績チャンバを開放するか、又は既に生産された粗糸を、実際の紡績方向とは逆向きに渦流チャンバ内にもしくは渦流チャンバを通って案内しなくてよい。
【0021】
この場合、準備紡績工程中に準備紡績ノズルだけに空気を供給して、これにより、準備紡績に対して想定されたスライバの端部区分を、入口を介してスピンドルの引出通路に送り込み、スライバの端部区分に保護撚りを付与し、保護撚りを有する端部区分を、引出通路の通過後、操作装置により受け取ることができ、粗糸を製造するために、準備紡績工程の終了後に紡績ノズルだけに空気を供給すると、好適である。このようにして、各ノズルは、最適に、その都度の目的(粗糸の製造に対するスライバの準備紡績)に対して調整することができる。これに対して各空気流が相互に影響されることはない。
【0022】
更に、撚りを有する端部区分を、引出通路の通過後、巻取装置によりコイルに巻き取ると、極めて好適である。この段階において、再び粗糸紡績工程に移行するために、最終的に粗紡ノズルユニットの遮断及び紡績ノズルユニットの接続は合理的である。
【0023】
本発明の別の利点は、以下の実施の形態に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】粗紡機の概略図である。
図2】粗紡機の紡績部の断面図である。
図3】追加的に本発明に係る準備紡績ノズルと共に、図2において破線で示された円により囲まれた領域「W」を拡大して示す図である。
図4図3に対応する図であるが、本発明に係る準備紡績ノズルを図3とは異なる位置で示している。
図5】スピンドルの入口を正面からみた、本発明に係る紡績部の断面図である。
【0025】
図1には、粗紡機の一部を概略的に示している。粗紡機は、必要に応じて、ドラフト部15を備えてよく、ドラフト部15には、例えばダブリングされたスライバの束として構成されたスライバ2が供給される。更に、図示の粗紡機は、原則的に、ドラフト部15から間隔を置いて位置する、内側に位置する渦流チャンバ4を有する紡績部3を備え、渦流チャンバ4内でスライバ2もしくはスライバ2の繊維の少なくとも一部に保護撚りが付与される(紡績部3の正確な作用方式は以下に更に詳しく記載する)。
【0026】
更に粗紡機は、引出ローラ対17と、引出ローラ対17に後置された、紡績部3から離れて所望の保護撚りを有する粗糸1を巻き取るためのボビン14を有する巻取装置16(同じく略示されている)とを備えてよい。本発明に係る装置は、図1に示されているように、必然的にドラフト部15を備える必要はない。引出ローラ対17も必須ではない。
【0027】
紡績装置は、空気紡績法に基づいて作動する。粗糸を形成するために、スライバ2は、相応の進入開口7を備える、繊維ガイド要素12の繊維ガイド通路13を通って案内され、繊維案内通路13から、進入開口5を介して紡績部3の渦流チャンバ4に案内される(図2参照)。そこでスライバ2に保護撚りがかけられ、つまりスライバ2の繊維の少なくとも一部は、空気流(空気流は相応に渦流チャンバ4を画定する壁区分11に配置された紡績ノズル19により発生させられる)により捕捉される。この場合、繊維の一部は、スライバ2から少なくとも幾分か引き出され、渦流チャンバ4に突入するスピンドル6の先端部の周りに巻き付く。スライバ2がスピンドル6の入口10を通って、スピンドル6の内側に配置された引出通路9を介して、渦流チャンバ4から引き出されることにより、最終的に、自由な繊維端部18(図1参照)も入口10に向かって引っ張られ、その際、巻付き繊維として、中心に延在するコア繊維の周りに絡み付き、結果として、所望の保護撚りを有する粗糸1が作られる。
【0028】
紡績ノズル19に関してここで念のために述べておくと、紡績ノズル19は、通常、流出するエアジェットが整流されて、まとまって1回転方向で整流された1つの空気流を発生させるように方向付けられるべきである。この場合好適には、個々の紡績ノズル19は、相互に回転対称に配置されている。
【0029】
好適には、本発明に係る紡績部3は、更に、例えば繊維ガイド要素12に装着された撚り止め要素を有する。撚り止め要素は、ピン又は背景技術において公知の別の態様で構成されていてよく、スライバ2内の撚りがスライバ2の供給方向とは逆向きにひいては繊維ガイド要素12の進入開口7に向かって伝播することを阻止する。
【0030】
紡績設備の高出力運転到達後、生産された粗糸1の引きちぎれ後、又は紡績設備の制御下の始動後に、多くの場合ドラフト部15から供給されるスライバ2を準備紡績しなければならない。空気精紡機を用いた糸製造に該当する背景技術では、この場合、既に紡績された糸の端部区分を、引出通路9を通って、実際の紡績方向とは逆向きに渦流チャンバ4に案内することが一般的である。糸を、糸端部がドラフト部15と繊維ガイド要素12との間又はドラフト部15の個々のローラの間の領域に位置決めされるように逆向きに搬送することも同じく考えられる。最終的にそこで糸端部は、スライバ2と結合され、スライバ2と共に再び渦流チャンバ4に案内される。
【0031】
しかしこのような戻し案内は、粗糸1の場合、かなり困難であると判る。なぜならば粗糸1は、ある程度のドラフト可能性ひいては長手軸線方向で僅かな圧縮強度を有するからである。
【0032】
本発明の核心は、図3図5において看取することができる。図3及び図4が本発明に係る紡績部3の択一的な2つの形態(これらの形態は単に後述する準備紡績ノズル8の位置決めにおいて異なる)を示しているのに対して、図5は、中心に配置されたスピンドル6の入口10を正面からみた図として、本発明に係る紡績部3の概略的な断面図を示している。
【0033】
個々の図面の概観から判るように、本発明による粗紡機は、図1及び図2に関して記載された紡績ノズル19に対して追加的に、本発明に係る2つの準備紡績ノズル8を備える。
【0034】
これらの準備紡績ノズル8(準備紡績ノズルは他に流れ隙間又はその他の相応の空気流を発生させる要素として構成してもよい)の目的並びに作用方式は以下の通りである。
【0035】
相応の準備紡績工程が生じると直ちに、準備紡績ノズル8に圧縮空気が加えられ、この場合、紡績工程を担う紡績ノズル19が停止されているかもしくは停止させられる(つまり紡績ノズル19の空気供給が中断される)。準備紡績ノズル8もしくは準備紡績ノズル8の長手軸線がスピンドル6の入口10に向けて方向付けられているので、スピンドル6の入口10を介して引出通路9に達する空気流が生じる。したがって繊維ガイド要素12の進入開口7の領域に吸引力が生じる。そこで例えば前置(スライバ搬送方向でみて上流側に配置)されたドラフト部15からスライバ2が繊維ガイド通路13に送り込まれるので、スライバ2は、前述の吸引力により渦流チャンバ4に吸い込まれる。この場合、圧力条件に応じて、スライバ2を、ドラフト部15を通して繊維ガイド要素12の進入開口7の領域にまで搬送するだけで既に十分である。なぜならば負圧がこの領域まで伝播するからである。いずれにせよ、準備紡績ノズル8の方向付けは、スライバ2がスピンドル6の入口10に向かって吸い込まれるように働く。
【0036】
導入されたもしくは渦流チャンバ4に吸い込まれたスライバ2の端部区分がスピンドル6の入口10を通過すると直ちに、引出通路9に達する空気流は、引出通路9を通って図示していない引出開口に向かうまでのスライバ2の継続運動を生じさせる。
【0037】
このようにして搬送されるスライバ2の走出後には、操作装置、例えばサービスロボットのグリップ要素を用いてスライバ2を捕捉し、別の機械要素、例えば巻取装置16のボビン14に引き渡すことが所望される。
【0038】
スライバ2に、スライバにとって必要な強度を与えるために、追加的に本発明によれば、準備紡績ノズル8は、スライバ2が直線運動だけでなく同時にある程度の保護撚りも行うように、方向付けられている。したがって準備紡績ノズル8は、好適には、発生させられた空気流がスピンドル6(図5参照)の正面図でみて略接線方向に入口10に進入するように、配置されている。空気流がスライバ2を通過する間にその表面に衝突するので、スライバ2に保護撚りが付与される。その際、保護撚りを既に入口10の領域や引出通路9を通る搬送中にも与えることができ、この場合、撚り強さ、撚り角及び保護撚り付与の正確な位置は、準備紡績ノズル8の相応の方向付けにより影響を及ぼすことができる。
【0039】
結果的に、スライバ2は、保護撚りの付与により、スライバ2を引出通路9の通過後に捕捉して、例えば巻取装置16に供給することを可能にする引張り強度を得る。準備紡績工程の終了後に、準備紡績ノズル8の空気供給は再び中断される。これに対して所望の粗糸1を製造するために紡績ノズル19に空気が供給される。空気流はそれぞれ、図5において、相応の矢印により示されている。ここで、準備紡績中に準備紡績ノズル8だけに空気が供給され、紡績工程中(つまり粗糸1の製造中)に紡績ノズル19だけに空気が供給される(つまり図5は、紡績ノズル19及び準備紡績ノズル8が同時に相応の空気流を発生させなければならないことを意味するものではない)ことが好適である、ということを再度指摘しておく。
【0040】
最後に述べておくと、スピンドル6の入口10の内径A(図3)が4mm〜12mm、好適には6mm〜8mmの値を有することが好適であると実証された。
【0041】
ちなみに、本発明は、図示の態様に制限されるものではない。むしろ記載の個々の特徴の全ての組み合わせは、特許請求の範囲、明細書並びに図面に示されている又は記載されているように、相応の組み合わせが技術的に可能であるもしくは有意義であるとみなされる限りにおいて、本発明の対象である。したがって例えば図示の準備紡績ノズル8の横に別の準備紡績ノズル8を設けてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 粗糸
2 スライバ
3 紡績部
4 渦流チャンバ
5 進入開口
6 スピンドル
7 進入開口
8 準備紡績ノズル
9 引出通路
10 入口
11 渦流チャンバの壁区分
12 繊維ガイド要素
13 繊維ガイド通路
14 ボビン
15 ドラフト部
16 巻取装置
17 引出ローラ対
18 自由な繊維端部
19 紡績ノズル
A スピンドルの入口の内径
図1
図2
図3
図4
図5