特許第6045581号(P6045581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045581非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法および非水電解質二次電池用樹脂膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045581
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法および非水電解質二次電池用樹脂膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-522611(P2014-522611)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2013067217
(87)【国際公開番号】WO2014002937
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-145519(P2012-145519)
(32)【優先日】2012年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 祐策
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】堺 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彩
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−219125(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/090876(WO,A1)
【文献】 米国特許第06232014(US,B1)
【文献】 Journal of Membrane Science,2008年,318(1+2),p.429-434
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体、および溶媒を含む樹脂組成物を、セパレータに塗布する工程(塗布工程)および、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程(乾燥工程)を有する非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法。
【化1】
(式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1〜19で構成される分子量472以下の原子団である。)
【請求項2】
前記式(1)で表わされる化合物が、下記式(2)で表わされる化合物である請求項1に記載の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法。
【化2】
(式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'''は、主鎖が原子数1〜18で構成される分子量456以下の原子団である。)
【請求項3】
前記溶媒が、前記フッ化ビニリデン系共重合体の良溶媒と、貧溶媒との混合溶媒である請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程と、前記乾燥工程との間に、樹脂組成物が塗布されたセパレータを、貧溶媒中に浸漬する工程を有する請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法および非水電解質二次電池用樹脂膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子技術の発展はめざましく、各種の機器が小型化、軽量化されている。この電子機器の小型化、軽量化と相まって、その電源となる電池の小型化、軽量化が求められている。小さい容積および質量で大きなエネルギーを得ることができる電池として、リチウムを用いた非水電解質二次電池が用いられている。また、非水電解質二次電池を、ハイブリッドカー、電気自動車等の動力源として用いることも提案されており、実用化が始まっている。
【0003】
非水電解質二次電池は通常、正極と負極とを有し、この間に、正極と負極とを絶縁する為のセパレータが配置されている。非水電解質二次電池に用いられるセパレータとしては、従来ポリオレフィン系高分子の多孔膜が用いられていた。
【0004】
非水電解質二次電池では、セパレータを介してイオン(リチウムイオン二次電池の場合にはリチウムイオン(Li+))が正極と負極との間を移動することにより、充電、放電が可能となる。このため、イオンの自由な移動を妨げないことがセパレータには求められており、セパレータとしては複数の微細な孔を有する多孔膜が用いられている。
【0005】
また、セパレータには、所謂シャットダウン機能が求められている。シャットダウン機能とは、電池内部で微細な短絡が発生した場合に、当該部分の孔を塞ぐことによりイオンの移動を妨げ、当該部分の電池機能を失わせることにより、非水電解質二次電池の安全性を向上させる機能である。なお、ポリオレフィン系高分子の多孔膜においては、シャットダウン機能は、電池内部で微細な短絡が生じた場合に、その部分の温度が上昇する為に当該部分が溶解し、孔が閉じることにより達成している。
【0006】
しかしながら、ポリオレフィン系高分子からなるセパレータは電解液との親和性が低いために、電解液を保持した場合電解液が空孔内部に充填されているに過ぎず、電解液の保持性が低いという問題があった。電解液の保持性が低いと電池容量の低下、サイクル特性の悪化、使用温度の制限などの問題を生じる恐れがあった。さらに、ポリオレフィン系高分子は他の樹脂や他の材料との接着性が乏しいために、電極との界面に隙間を生じ易く、その結果、電池容量の低下、充放電特性の悪化を引き起こす場合があった。
【0007】
また、正極および負極と、セパレータとの密着性および電気的接続を両立させることを目的とするリチウムイオン二次電池の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、セパレータと、電極との間に接着性樹脂層を設けることによって、前記目的を達成していた。また、接着性樹脂としてはポリフッ化ビニリデンを用いることが提案されていた。しかしながら、ポリフッ化ビニリデンは、セパレータを構成するポリオレフィンに対して接着性に優れる樹脂とは言い難い樹脂であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3474853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のセパレータと、正極または負極との間に配置される、リチウムイオン等のイオンの移動を妨げることのない非水電解質二次電池用樹脂膜を製造する方法および、該製造方法により得られる非水電解質二次電池用樹脂膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定のフッ化ビニリデン系重合体を用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法は、フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体、および溶媒を含む樹脂組成物を、セパレータに塗布する工程(塗布工程)および、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程(乾燥工程)を有する。
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1〜19で構成される分子量472以下の原子団である。)
前記式(1)で表わされる化合物が、下記式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'''は、主鎖が原子数1〜18で構成される分子量456以下の原子団である。)
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法の第一の態様としては、前記溶媒が、前記フッ化ビニリデン系共重合体の良溶媒と、貧溶媒との混合溶媒である。
【0016】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法の第二の態様としては、前記塗布工程と、前記乾燥工程との間に、樹脂組成物が塗布されたセパレータを、貧溶媒中に浸漬する工程を有する。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜は、前記非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法で得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法で得られる非水電解質二次電池用樹脂膜は、リチウムイオン等のイオンの移動を妨げることがないため、好適に非水電解質二次電池に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の樹脂膜を有する非水系電解質二次電池の構造を示す断面模式図である。
図2】本発明の実施例1で得られた、樹脂膜が形成されたセパレータの樹脂膜表面のSEM写真である。
図3】本発明の実施例2で得られた、樹脂膜が形成されたセパレータの樹脂膜表面のSEM写真である。
図4】本発明の実施例3で得られた、樹脂膜が形成されたセパレータの樹脂膜表面のSEM写真である。
図5】本発明の実施例3で得られた、ラミネートセルのサイクル試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明について具体的に説明する。
【0021】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法は、フッ化ビニリデンと、式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体、および溶媒を含む樹脂組成物を、セパレータに塗布する工程(塗布工程)および、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程(乾燥工程)を有する。
【0022】
以下、本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体、溶媒、樹脂組成物、セパレータについて説明した後、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0023】
(フッ化ビニリデン系共重合体)
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られる。
【0024】
【化3】
【0025】
(式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1〜19で構成される分子量472以下の原子団である。)
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、前記式(1)で表わされる化合物由来の構成単位とを有する重合体である。また、さらに他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
【0026】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、前記式(1)で表わされる化合物由来の構成単位を有するため、接着性に優れる。前記式(1)で表わされる化合物としては、下記式(2)で表わされる化合物が好ましい。前記式(1)で表される化合物を用いたフッ化ビニリデン系共重合体は、接着性官能基として機能するカルボキシル基がフッ化ビニリデンポリマー主鎖からスペーサーを介して存在するため、カルボキシル基の配置の自由度が高い。そのため、該官能基がその接着性付与能力を発揮しやすい配置を取ることが容易であり、電極やセパレータとの接着性に優れると本発明者は推定した。また、前記式(1)で表わされる化合物は、カルボキシル基以外にもカルボニル基を有する。該カルボニル基は、金属原子に配位することや、カルボキシル基等と水素結合を形成することが可能であるため、該化合物を用いて得られたフッ化ビニリデン系共重合体は、電極やセパレータとの接着性や電解液との親和性に特に優れると本発明者らは推定した。
【0027】
【化4】
【0028】
(式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'''は、主鎖が原子数1〜18で構成される分子量456以下の原子団である。)
前記式(1)、(2)において、前記R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であるが、重合反応性の観点から、特にR1、R2は立体障害の小さな置換基であることが望まれ、水素または炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素またはメチル基であることがより好ましい。
【0029】
前記式(1)において、前記X'で表わされる原子団の分子量は472以下であるが、172以下であることが好ましい。また、前記X'で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はX'が‐CH2‐の態様、すなわち分子量としては14である。
【0030】
さらに、前記式(2)において、前記X'''で表わされる原子団の分子量は456以下であるが、156以下であることが好ましい。また、前記X'''で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はX'''が‐CH2‐の態様、すなわち分子量としては14である。
【0031】
前記X'またはX'''で表わされる原子団の分子量が前述の範囲であると、重合性の観点から好ましい。
【0032】
前記式(1)において、前記X'で表わされる原子団としては、主鎖が原子数1〜19で構成され、原子数1〜14で構成されることが好ましく、1〜9で構成されることがより好ましい。
【0033】
また、前記式(2)において、前記X'''で表わされる原子団としては、主鎖が原子数1〜18で構成され、原子数1〜13で構成されることが好ましく、1〜8で構成されることがより好ましい。
【0034】
主鎖の原子数が前記範囲内であると、重合性の観点から好ましい。
【0035】
なお、前記式(1)および(2)において、主鎖の原子数とは、X'またはX'''の右側に記載されたカルボキシル基と、左側に記載された基(R12C=CR3−CO−、[式(1)])、(R12C=CR3−COO−、[式(2)])とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖の、骨格部分の原子数を意味する。
【0036】
なお、実施例で用いたアクリロイロキシエチルコハク酸(2−Acryloxyethyl succinate)(AES)、カルボキシエチルアクリレート(2−Carboxyethyl acrylate)(CEA)の主鎖の原子数は以下の通りである。
【0037】
AESは、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(1)で表わされる化合物がAESである場合には、X'で表わされる原子団は‐OCH2CH2O‐(CO)‐CH2CH2‐である。該原子団の主鎖の原子数は、該直鎖の骨格部分の原子数である。すなわち、カルボニル基を構成する酸素原子や、メチレン基を構成する水素原子は主鎖の原子数としては数えない。すなわち、該直鎖の骨格部分は‐OCCO‐C‐CC‐であり、その原子数は7である。同様に式(2)で表わされる化合物がAESである場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が6である。
【0038】
CEAは、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(1)で表わされる化合物がCEAである場合には、X'で表わされる原子団の主鎖は原子数が3であり、式(2)で表わされる化合物がCEAである場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が2である。
【0039】
また、アクリロイロキシエチルフタル酸の主鎖の原子数は、以下の通りである。アクリロイロキシエチルフタル酸は、下記式(B)で表わされる化合物であり、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(1)で表わされる化合物がアクリロイロキシエチルフタル酸である場合には、X'で表わされる原子団は下記式(B')で表わされる。該原子団の主鎖の原子数は、該原子団に結合するカルボキシル基と左側に記載された基(CH2=CH−CO−)とを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数である。すなわち、下記式(B')では、カルボキシル基と左側に記載された基(CH2=CH−CO−)とを結ぶ鎖の骨格部分の原子数としては式(B'−1)で表わされる原子数7、または(B'−2)で表わされる原子数11が考えられるが、この場合には主鎖の原子数とはより原子数の小さい7である。同様に式(2)で表わされる化合物がアクリロイロキシエチルフタル酸である場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が6である。
【0040】
また、カルボキシル基を複数有する化合物の場合には主鎖の原子数は、以下の通りである。例えば、カルボキシル基を複数有する化合物においては、それぞれのカルボキシル基に対して、前記左側に記載された基と、カルボキシル基とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖が存在するが、その中で最も骨格部分の原子数が小さい値を、主鎖の原子数とする。すなわち、カルボキシル基を2個有する化合物においては、各カルボキシル基(以下、便宜上カルボキシル基A、カルボキシル基Bとする)において、左側に記載された基と、カルボキシル基とを最も少ない原子数で結ぶ鎖が存在するが、例えば左側に記載された基と、カルボキシル基Aとを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数が3であり、左側に記載された基と、カルボキシル基Bとを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数が6である場合には、該化合物において主鎖の原子数は3である。具体例として、下記式(C)で表わされる化合物について説明する。下記式(C)で表わされる化合物は、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(C)で表わされる化合物はカルボキシル基を2個有している。式(1)で表わされる化合物が、式(C)で表わされる化合物である場合には、左側に記載された基(CH2=CH−CO−)とカルボキシル基とを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数としては、(C−1)で表わされる原子5、(C−2)で表わされる原子数7が考えられるが、この場合にはより骨格部分の原子数が小さい5を主鎖の原子数とする。同様に式(2)で表わされる化合物が式(C)で表わされる化合物である場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が4である。
【0041】
【化5】
【0042】
なお、本発明において、(メタ)アクリル、(メタ)アクリレートはそれぞれ、アクリルおよび/またはメタクリル、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0043】
前記式(2)で表わされる化合物としては、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸が挙げられ、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸が、フッ化ビニリデンとの共重合性に優れるため好ましい。
【0044】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、前記式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位を0.01〜10モル%(但し、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位との合計を100モル%とする)有することが好ましく、0.02〜7モル%有することがより好ましく、0.03〜4モル%有することが特に好ましい。また、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を、90〜99.99モル%有することが好ましく、93〜99.98モル%有することがより好ましく、96〜99.97モル%有する事が特に好ましい。
【0045】
なお、本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体中の、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位の量、およびフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量は、通常はフッ化ビニリデン系共重合体の1H NMRスペクトル、もしくは中和滴定により求めることができる。
【0046】
また、前記他のモノマーとしては、例えばフッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体あるいはエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体、前記式(1)と共重合可能な単量体が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルに代表されるペルフルオロアルキルビニルエーテル等を挙げることができる。前記他のモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0047】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体が、前記他のモノマーに由来する構成単位を有する場合には、該共重合体を構成する全モノマー由来の構成単位を100モル%とすると、該他のモノマーに由来する構成単位を0.01〜50モル%有する事が好ましい。
【0048】
また、前記以外の前記式(1)と共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルに代表される(メタ)アクリル酸アルキル化合物等が挙げられる。なお、前記他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0049】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体が、前記他のモノマーに由来する構成単位を有する場合には、該共重合体を構成する全モノマー由来の構成単位を100モル%とすると、該他のモノマーに由来する構成単位を0.01〜10モル%有することが好ましい。
【0050】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンおよび前記式(1)で表わされる化合物、必要に応じて前記他のモノマーを共重合することにより得られる。
【0051】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体を共重合する方法としては、特に限定はないが通常は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法で行われる。後処理の容易さ等の点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系の懸濁重合が特に好ましい。
【0052】
水を分散媒とした懸濁重合においては、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等の懸濁剤を、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)100質量部に対して0.005〜1.0質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部の範囲で添加して使用する。
【0053】
重合開始剤としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルペルオキシジカーボネート、イソブチリルペルオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)ペルオキサイド、ジ(ペルフルオロアシル)ペルオキサイド、t−ブチルペルオキシピバレート等が使用できる。その使用量は、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)を100質量部とすると、0.05〜5質量部、好ましくは0.15〜2質量部である。
【0054】
また、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n−プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素等の連鎖移動剤を添加して、得られるフッ化ビニリデン系共重合体の重合度を調節することも可能である。連鎖移動剤を使用する場合には、その使用量は通常、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)を100質量部とすると、0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜3質量部である。
【0055】
また、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)の仕込量は、単量体の合計:水の質量比で通常は1:1〜1:10、好ましくは1:2〜1:5である。
【0056】
重合温度Tは、重合開始剤の10時間半減期温度T10に応じて適宜選択され、通常はT10−25℃≦T≦T10+25℃の範囲で選択される。例えば、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートのT10はそれぞれ、54.6℃および40.5℃(日油株式会社製品カタログ参照)である。したがって、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートを重合開始剤として用いた重合では、その重合温度Tはそれぞれ29.6℃≦T≦79.6℃および15.5℃≦T≦65.5℃の範囲で適宜選択される。重合時間は特に制限されないが、生産性等を考慮すると100時間以下であることが好ましい。重合時の圧力は通常加圧下で行われ、好ましくは2.0〜8.0MPa‐Gである。
【0057】
上記の条件で水系の懸濁重合を行うことにより、容易にフッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマーを共重合することができ、本発明フッ化ビニリデン系共重合体を得ることができる。
【0058】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、インヘレント粘度(樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度。以下、同様)が0.5〜5.0dl/gの範囲内の値であることが好ましく、1.0〜4.0dl/gの範囲内の値であることがより好ましい。上記範囲内の粘度であれば、非水電解質二次電池用樹脂膜の製造に好適に用いることができる。
【0059】
インヘレント粘度ηiの算出は、フッ化ビニリデン系共重合体80mgを20mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解して、30℃の恒温槽内でウベローテ粘度計を用いて次式により行うことができる。
【0060】
ηi=(1/C)・ln(η/η0
ここでηは重合体溶液の粘度、η0は溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド単独の粘度、Cは0.4g/dlである。
【0061】
また、フッ化ビニリデン系共重合体は、赤外線吸収スペクトルを測定した際の下記式(I)で表される吸光度比(AR)が、0.01〜5.0の範囲であることが好ましく、0.05〜3.0であることがより好ましい。ARが0.01未満の場合は、樹脂膜の接着性が不充分となる場合がある。一方で、ARが5.0を超えると、フッ化ビニリデン系共重合体の耐電解液性が低下する傾向がある。なお、該重合体の赤外線吸収スペクトルの測定は、該重合体に熱プレスを施すことにより製造したフィルムについて、赤外線吸収スペクトルを測定することにより行われる。具体的には、フッ化ビニリデン系共重合体を、200℃で熱プレスして、プレスシート30mm×30mmを作製し、該プレスシートのIRスペクトルを、赤外分光光度計FT-730(株式会社堀場製作所製)を用いて、1500cm-1〜4000cm-1の範囲で測定することにより行われる。
【0062】
R=A1700-1800/A3023 ・・・(I)
上記式(I)において、A1700-1800は1700〜1800cm-1の範囲に検出されるカルボニル基の伸縮振動に由来の吸光度であり、A3023は3023cm-1付近に検出されるCHの伸縮振動に由来の吸光度である。ARはフッ化ビニリデン系共重合体中のカルボニル基の存在量を示す尺度となる。
【0063】
なお、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位の存在量は、例えば1H NMRスペクトル法や中和滴定法により求めることができる。
【0064】
例えば本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体が、実施例1で用いられるフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロエチレンとカルボキシエチルアクリレートとの共重合体である場合には、フッ化ビニリデン系共重合体中の各モノマー由来の構成単位の存在量は以下の方法で求めることができる。19F NMRスペクトルではCF2ピークは−91〜118ppmに、CF3のピークは−71ppm付近に観察される。該ピークと、スペクトル中の全てのピークの積分比より、ヘキサフルオロエチレンのモル%が決定される。アクリロイロキシエチルコハク酸の存在量は、1H NMRスペクトルや中和滴定法等により求めた重合体中の全アクリロイロキシエチルコハク酸由来の構造単位のモル%から求めることができる。
【0065】
(溶媒)
本発明に用いられる溶媒は、本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法が、後述の第一の態様である場合と、第二の態様である場合とで異なる。
【0066】
後述する第一の態様である場合には、溶媒としては通常、前記フッ化ビニリデン系共重合体の良溶媒と、貧溶媒との混合溶媒が用いられる。
【0067】
後述する第二の態様である場合には、溶媒としては、通常は良溶媒が用いられる。
【0068】
なお、本発明において、良溶媒とは、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶解することが可能な溶媒であり、貧溶媒とは、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶解することが困難な溶媒である。
【0069】
前記良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルカーボネート、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。また、良溶媒は1種単独でも、2種以上を用いてもよい。
【0070】
前記貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられ、水、メタノール、エタノールが好ましい。また、貧溶媒は1種単独でも、2種以上を用いてもよい。
【0071】
第一の態様である場合には、良溶媒としてアセトン、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、テトラヒドロフランが揮発性の観点で好ましく、溶解性の観点でN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドを添加する事が好ましい。
【0072】
第二の態様である場合には、良溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0073】
〔樹脂組成物〕
本発明に用いられる樹脂組成物は、前記フッ化ビニリデン系共重合体、および溶媒を含む。
【0074】
本発明に用いられる樹脂組成物が含有するフッ化ビニリデン系共重合体は、式(1)で表わされる化合物由来の構成単位を有するため、接着性が強い傾向がある。また、該フッ化ビニリデン系共重合体を含む樹脂組成物を用いて製造される非水電解質二次電池用樹脂膜は、リチウムイオン等のイオンの移動を妨げることがない。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物100質量部あたり通常は、フッ化ビニリデン系共重合体を0.1〜50質量部、溶媒を50〜99.9質量部含む。
【0076】
また、溶媒が良溶媒と、貧溶媒との混合溶媒である場合には、該樹脂組成物としては、該樹脂組成物100質量部あたり、フッ化ビニリデン系共重合体を0.1〜50質量部、良溶媒を49.99〜98.89質量部、貧溶媒を0.01〜15質量部含むことが好ましく、フッ化ビニリデン系共重合体を0.5〜25質量部、良溶媒を74.99〜98.49質量部、貧溶媒を0.01〜10質量部含むことがより好ましい。
【0077】
また、溶媒が良溶媒である場合には、該樹脂組成物としては、該樹脂組成物100質量部あたり、フッ化ビニリデン系共重合体を0.1〜50質量部、良溶媒を99.9〜50質量部含むことが好ましく、フッ化ビニリデン系共重合体を0.5〜25質量部、良溶媒を75〜99.5質量部含むことがより好ましい。
【0078】
本発明に用いる樹脂組成物の調製方法としては特に限定は無いが、例えば溶媒にフッ化ビニリデン系共重合体を添加、攪拌することにより、樹脂組成物を得ることができる。
【0079】
溶媒が、前記混合溶媒である場合には、該樹脂組成物の調製方法としては特に限定は無いが、通常は良溶媒と、貧溶媒とを混合し、混合溶媒を得た後に、該混合溶媒にフッ化ビニリデン系共重合体を添加し、攪拌することにより、フッ化ビニリデン系共重合体を溶解させ、樹脂組成物を得る方法、フッ化ビニリデン系共重合体、良溶媒および貧溶媒を、同時に攪拌することにより、フッ化ビニリデン系共重合体を溶解させ、樹脂組成物を得る方法、良溶媒にフッ化ビニリデン系共重合体を添加し、攪拌することにより、フッ化ビニリデン系共重合体を溶解させ、フッ化ビニリデン系共重合体が溶解した良溶媒と、貧溶媒とを混合することにより、樹脂組成物を得る方法が挙げられる。
【0080】
また、溶媒が良溶媒である場合には、良溶媒にフッ化ビニリデン系共重合体を添加、攪拌することにより、樹脂組成物を得ることができる。
【0081】
本発明に用いる樹脂組成物の粘度を調製する目的で、前述のフッ化ビニリデン系共重合体に加え、その他フッ化ビニリデン共重合体が混合されていてもよい。
【0082】
本発明に用いる樹脂組成物には必要に応じて、無機フィラー、有機フィラー、可塑剤、分散剤などの各種添加剤を含有させる事ができる。
【0083】
〔セパレータ〕
前記樹脂組成物が塗布されるセパレータとしては、特に限定はない。
【0084】
本発明に用いられるセパレータは、非水電解質二次電池を構成するセパレータであり、正極と負極とを電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。本発明で用いられるセパレータとしては、特に限定されないものの、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系高分子、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系高分子、芳香族ポリアミド系高分子、ポリエーテルイミドなどのポリイミド系高分子、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、セラミックス等、及びこれらの混合物からなる単層、及び多層の多孔膜、不織布などを挙げる事ができる。特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いることができる。ポリオレフィン系高分子多孔膜としては、例えば、ポリポア株式会社製からセルガード(登録商標)として市販されている、単層ポリプロピレンセパレータ、単層ポリエチレンセパレータ、およびポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータなどを挙げることができる。なお、これらセパレータ上に有機粒子および無機粒子の少なくとも一方を含有する層をコートしていてもよい。
【0085】
なおセパレータは、正極構造体と負極構造体との絶縁を担保するため、正極構造体および負極構造体よりもさらに大きいものとするのが好ましい。
【0086】
〔非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法〕
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法は、フッ化ビニリデンと、式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体、および溶媒を含む樹脂組成物を、セパレータに塗布する工程(塗布工程)および、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程(乾燥工程)を有する。
【0087】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法は、大きく以下の二つの態様に分けられる。
【0088】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法の第一の態様としては、前記溶媒として、前記フッ化ビニリデン系共重合体の良溶媒と、貧溶媒との混合溶媒を用いる態様である。
【0089】
すなわち、非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法(第一の態様)は、前記フッ化ビニリデン系共重合体、および良溶媒と、貧溶媒との混合溶媒を含む樹脂組成物を、セパレータに塗布する工程(塗布工程)および、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程(乾燥工程)を有する。
【0090】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法の第二の態様としては、前記塗布工程と、前記乾燥工程との間に、樹脂組成物が塗布されたセパレータを、貧溶媒中に浸漬する工程を有する。
【0091】
すなわち、非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法(第二の態様)は、前記フッ化ビニリデン系共重合体、および溶媒を含む樹脂組成物を、セパレータに塗布する工程(塗布工程)、樹脂組成物が塗布されたセパレータを、貧溶媒中に浸漬する工程(浸漬工程)および、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程(乾燥工程)を、この順で有する。なお、該非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法(第二の態様)を行う場合には、前記樹脂組成物が含有する溶媒としては、前記良溶媒が好ましい。
【0092】
前記塗布工程は、前記樹脂組成物をセパレータに塗布する工程である。塗布を行う際の方法としては特に限定は無く、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式などのグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、ディップコーター等を用いて基材上に前記樹脂組成物を塗布する方法が挙げられる。なお、塗布量は、得られる非水電解質二次電池用樹脂膜の厚さが、後述の範囲となるように調整される。
【0093】
前記乾燥工程は、樹脂組成物が塗布されたセパレータを乾燥する工程であり、前記第一の態様では通常、前記塗布工程に続いて行われ、前記第二の態様では通常、後述の浸漬工程に続いて行われる。
【0094】
乾燥は、セパレータ上に塗布された樹脂組成物中の溶媒を除去する目的で行われ、通常は0〜200℃の温度で2秒〜10分行われる。また、乾燥の際の圧力は特に限定はないが、通常は、大気圧下または減圧下で行われる。
【0095】
非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法(第二の態様)で行われる浸漬工程は、前記塗布工程の後、乾燥工程の前に行われる工程であり、樹脂組成物が塗布されたセパレータを、貧溶媒中に浸漬する工程である。浸漬工程に用いられる貧溶媒としては、前記(溶媒)の項で記載した貧溶媒を用いることができる。
【0096】
また、浸漬は、通常0〜100℃の温度で2秒〜10分間行われる。
【0097】
前記工程によって、セパレータ上に非水電解質二次電池用樹脂膜を形成することが可能である。
【0098】
なお、非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法(第一の態様)においては、溶媒として、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を用いる。樹脂組成物中のフッ化ビニリデン系共重合体は、貧溶媒に対しては溶解せず、良溶媒中には溶解するため、フッ化ビニリデン系共重合体は、樹脂組成物中に分散していると考えられる。このため該樹脂組成物を塗布、乾燥することにより得られた樹脂膜は多孔構造を有していると考えられる。
【0099】
また、非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法(第二の態様)においては、溶媒として良溶媒を用いることにより、フッ化ビニリデン系共重合体は、樹脂組成物中に均一に分散していると考えられる。このため、前記塗布工程によって、セパレータ上に形成された塗布膜の時点では均一な膜が得られると考えられるが、続いて行われる浸漬工程によって、貧溶媒と接触することにより、得られた樹脂膜が多孔構造を形成すると考えられる。
【0100】
〔非水電解質二次電池用樹脂膜〕
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜は、前述の非水電解質二次電池用樹脂膜の製造方法によって得られる。
【0101】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜は、通常は非水電解質二次電池を構成するセパレータと、正極または負極との間に配置される、セパレータ補助層として用いることができる。
【0102】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、従来のセパレータを構成するポリオレフィンと比べて電解液保持性、セパレータ及び電極との密着性に優れるため、本発明の樹脂膜を有する非水電解質二次電池は安全性が向上する。
【0103】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜は、フッ化ビニリデン系共重合体のみから形成されていてもよく、前記樹脂組成物に、フッ化ビニリデン系共重合体および溶媒以外の成分(他の成分)を用いた場合には、該他の成分を含んでいてもよい。
【0104】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜の厚さとしては、塗工適性、イオン伝導性の観点から、通常は0.01〜50μmであり、好ましくは0.1〜20μmである。
【0105】
また、後述のように、本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜は、通常は電極またはセパレータ上に形成される。該樹脂膜がセパレータ上に形成された場合には、本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜が形成されたセパレータのガーレー透気度は、通常50〜2000s/100ml、好ましくは100〜1500s/100mlである。前記範囲ではイオン伝導性、電解液の浸み込み易さの点で好ましい。ガーレー通気度が前記範囲内で有れば非水電解質二次電池用樹脂膜は、多孔質構造を有すると推測される。
【0106】
〔非水系電解質二次電池〕
以下、本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜を有する非水電解質二次電池について説明する。
【0107】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜は、電極と、セパレータとの間に位置する。
【0108】
本発明の非水電解質二次電池用樹脂膜(以下、セパレータ補助層とも記す)を有する非水電解質二次電池の断面模式図を図1に示す。
【0109】
セパレータ補助層を有する非水電解質二次電池は、正極11とセパレータ13との間、負極12とセパレータ13との間、またはその両方にセパレータ補助層が配置される。なお、図1では、正極11とセパレータ13との間に配置されるセパレータ補助層を14aとして記載し、負極12とセパレータ13との間に配置されるセパレータ補助層を14bとして記載する。なお、図1では、セパレータ補助層が正極11とセパレータ13との間および、負極12とセパレータ13との間に有するが、電極との密着性、耐酸化還元性の点で両方にセパレータ補助層が配置されていることが好ましい。なお、有機粒子および無機粒子の少なくとも一方を含有する層が予めコートされたセパレータを用いた場合、セパレータ13とセパレータ補助層との間の少なくとも片方に、有機粒子および無機粒子の少なくとも一方を含有する層が配置されていてもよい。
【0110】
なお、正極11とセパレータ13との間に配置されるセパレータ補助層14aを有する非水電解質二次電池は、耐酸化性向上の観点で好ましい。
【0111】
なお、非水電解質二次電池の製造方法としては、前記セパレータ補助層が形成されたセパレータを用いる以外は、従来と同様の方法で製造することができる。
【0112】
また、非水系電解質二次電池としては、コイン型電池、ボタン型電池、円筒型電池および角型電池等の公知の電池構造をとることができる。
【0113】
なお、図1では、正極11を構成する正極合剤層を111、正極集電体を112、負極12を構成する負極合剤層を121、負極集電体を122と表記する。
【0114】
また、非水電解質二次電池を構成する部材としては、正極、負極、セパレータおよびセパレータ補助層以外には、例えば非水電解液、円筒缶、ラミネートパウチ等が挙げられる。
【0115】
前記正極は、正極反応の担い手となる正極活物質を有し、かつ集電機能を有するものであれば特に限定されないものの、多くの場合、正極活物質を含む正極合剤層と、集電体として機能するとともに正極合剤層を保持する役割を果たす正極集電体とからなる。
【0116】
また、前記負極は、負極反応の担い手となる負極活物質を有し、かつ集電機能を有するものであれば特に限定されないものの、多くの場合、負極活物質を含む負極合剤層と、集電体として機能するとともに負極合剤層を保持する役割を果たす負極集電体とからなる。
【0117】
なお、本明細書において、正極および負極を包括して「電極」と記す場合があり、正極合剤層および負極合剤層を包括して「電極合剤層」と記す場合があり、正極集電体および負極集電体を包括して「集電体」と記す場合がある。
【0118】
本発明において、電極合剤層は、電極活物質および結着剤を含んでおり、必要により、導電助剤を更に含むことができる。
【0119】
ここで、電極合剤層における、電極活物質、結着剤、導電助剤の配合比は、従来公知のリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池で用いられる一般的な配合比とすることができるが、二次電池の種類に応じて適宜調整しうる。
【0120】
この電極合剤層の厚さは、通常は20〜250μmである。
【0121】
本発明の非水電解質二次電池において用いられる電極活物質は、特に限定はなく、従来公知の負極用の電極活物質、および、正極用の電極活物質を用いることができる。
【0122】
ここで、非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池の場合、正極合剤層を構成する正極活物質として、少なくともリチウムを含むリチウム系正極活物質が好ましい。
【0123】
リチウム系正極活物質としては例えば、LiCoO2、LiNixCo1-x2(0≦x≦1)等の一般式LiMY2(Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、V等の遷移金属の少なくとも一種:YはO、S等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物、LiMn24などのスピネル構造をとる複合金属酸化物、LiFePO4などのオリビン型リチウム化合物等が挙げられる。なお、前記正極活物質としては市販品を用いてもよい。
【0124】
前記正極活物質の比表面積は、0.05〜50m2/gであることが好ましい。
【0125】
一方、負極合剤層を構成する負極活物質として、例えば、炭素材料、金属・合金材料、金属酸化物などが挙げられるが、中でも炭素材料が好ましい。
【0126】
前記炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素などが用いられる。また、前記炭素材料は、1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0127】
このような炭素材料を使用すると、電池のエネルギー密度を高くすることができる。
【0128】
前記人造黒鉛としては、例えば、有機材料を炭素化しさらに高温で熱処理を行い、粉砕・分級することにより得られる。前記難黒鉛化炭素としては、例えば、石油ピッチ由来の材料を1000〜1500℃で焼成することにより得られる。
【0129】
これらの負極活物質としては市販品を用いてもよい。
【0130】
前記負極活物質の比表面積は、0.3〜10m2/gであることが好ましい。比表面積が10m2/gを超えると、電解液の分解量が増加し、初期の不可逆容量が増えることがある。
【0131】
なお、電極活物質の比表面積は、窒素吸着法により求めることができる。
【0132】
ただ、本発明の非水電解質二次電池を構成する正極活物質および負極活物質は、これらのものに限られるものではなく、二次電池の種類に応じて適宜選択しうる。
【0133】
本発明において、電極合剤層は、必要により導電助剤を更に含んでいてもよい。この導電助剤は、LiCoO2 等の電子伝導性の小さい活物質を使用する場合に、電極合剤層の導電性を向上する目的で添加するもので、カーボンブラック、黒鉛微粉末あるいは繊維等の炭素質物質やニッケル、アルミニウム等の金属微粉末あるいは、繊維が使用される。
【0134】
本発明の非水電解質二次電池において用いられる結着剤は、上記電極活物質および導電助材を繋ぎ止める役割を果たす。
【0135】
ここで、結着剤としては、特に限定されないものの、従来公知のリチウムイオン二次電池において広く用いられているものを好適に用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの混合物、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、前記含フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン系共重合体を用いることもできる。フッ化ビニリデン系共重合体としては、フッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチルエステル共重合体や、前述のフッ化ビニリデンと、式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体等を用いることができる。
【0136】
前記正極集電体および負極集電体としては、二次電池の外部に電気を供給できるよう良好な導電性を有し、二次電池における電極反応を妨げないものであれば、特に限定されない。
【0137】
本発明で用いられるこれらの集電体として、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の集電体として一般的に用いられているものが挙げられる。このような集電体の材質として、例えば、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等が挙げられ、これらの金属を箔あるいは網等の形状とした集電体が好適に用いられる。
【0138】
非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池である場合には、正極集電体として、アルミニウムまたはその合金からなるものが好ましく、その中でもアルミニウム箔が好ましい。一方、負極集電体としては、銅からなるものが好ましく、その中でも銅箔が好ましい。電極を構成する集電体は、これらに限定されるものではなく、二次電池の種類に応じて、適宜選択すればよい。集電体の厚さは、通常は5〜100μmである。
【0139】
本発明に用いることが可能な、集電体および電極合剤層からなる電極の製造方法としては特に限定は無いが、電極合剤層を構成する各成分を含有する電極合剤を集電体の上に塗布・乾燥することにより得ることができる。
【0140】
前記電極合剤を調製する際には、上記電極活物質、結着剤、および必要によって用いられる導電助剤、並びに非水系溶媒を均一なスラリーとなるように混合すればよく、混合する際の順序は特に限定されない。
【0141】
これら電極活物質、導電助剤、結着剤を分散させるために用いられる非水系溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。
【0142】
本発明に用いられる電極は集電体に、前記電極合剤を塗布・乾燥することにより製造されるが、該塗布は電極合剤を集電体の少なくとも一面、好ましくは両面に行われる。塗布する際の方法としては特に限定は無く、バーコーター、ダイコーター、コンマコーターで塗布する等の方法が挙げられる。
【0143】
また、塗布した後に行われる乾燥としては、通常50〜150℃の温度で1〜300分行われる。また、乾燥の際の圧力は特に限定はないが、通常は、大気圧下または減圧下で行われる。なお、乾燥を行った後には熱処理をさらに行ってもよい。また、前記熱処理に代えて、あるいは、前記熱処理の後に、プレス処理をさらに行ってもよい。プレス処理を行う場合には、通常1〜200MPa‐Gで行われる。プレス処理を行うと電極密度を向上できるため好ましい。
【0144】
前記非水電解液は、非水系溶媒に電解質を溶解させてなるものである。
【0145】
前記非水系溶媒として、電解質を構成するカチオンおよびアニオンを輸送可能な非プロトン性の有機溶媒であって、且つ、実質的に二次電池の機能を損なわないものが挙げられる。そのような非水系溶媒として、リチウムイオン二次電池の非水電解液として通常用いられる有機溶媒が挙げられ、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、エステル類、オキソラン化合物等を用いることができる。中でも、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等などが好ましい。これらの非水系溶媒は、1種単独でも2種以上を用いてもよい。
【0146】
また、電解質としては、上記非水系溶媒によって、構成カチオンおよびアニオンが輸送可能なものであって、且つ、実質的に二次電池の機能をそのなわないものである限り、その種類が特に限定されるものではない。ここで、非水電解質二次電池が、リチウムイオン二次電池である場合に、用いることが可能な電解質を例にとると、LiPF6、LiAsF6、LiBF4等のフルオロ錯アニオンのリチウム塩、LiClO4、LiCl、LiBr等の無機リチウム塩、並びに、LiCH3SO3、LiCF3SO3等のスルホン酸リチウム塩、Li(CF3OSO22N、Li(CF3OSO23C、Li(CF3SO22N、Li(CF3SO23C 等の有機リチウム塩が挙げられる。これらの電解質は、1種単独でも2種以上を用いてもよい。
【実施例】
【0147】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0148】
〔実施例1〕
(フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の製造)
内容量2リットルのオートクレープに、イオン交換水を1040g、セルロース系懸濁剤としてメトローズSM−100(信越化学工業(株)製)を0.6g、アクリロイロキシエチルコハク酸を0.4g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート一フロン225cb溶液を3.6g、酢酸エチル0.4g、フッ化ビニリデン360g、ヘキサフルオロプロピレン40gを仕込み、29℃まで1時間で昇温した。
【0149】
その後、29℃を維持し、482g/lのアクリロイロキシエチルコハク酸メタノール溶液を重合圧力が一定となる速度で徐々に添加した。アクリロイロキシエチルコハク酸メタノール溶液の添加は昇温開始から10.5時間かけて行った。アクリロイロキシエチルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量で4.0gを添加した。重合は昇温開始から合計23.3時間行った。なお、重合初期の圧力は、4.12MPa−Gであり、重合停止時の圧力は1.9MPa−Gであった。また、重合は攪拌回転数600rpmで攪拌しながら行った。
【0150】
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の重合体粉末を得た。重合体の収率は84%、得られた重合体のインヘレント粘度は2.10dl/g、吸光度比(AR)は0.9であった。
【0151】
前記重合体粉末の1H NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0152】
装置:Bruker社製、 AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO−d6
測定温度:25℃
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位とアクリロイロキシエチルコハク酸に由来する構成単位の比を、1H NMRスペクトルで、主としてアクリロイロキシエチルコハク酸に由来する4.18ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.23ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルとの積分強度に基づき算出した。
【0153】
前記重合体粉末の19F NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0154】
装置:Bruker社製、 AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:376MHz
測定溶媒:DMSO−d6
測定温度:25℃
19F NMRスペクトルで重合体中の、−91〜118ppmに観察されるCF2構造と、−71ppm付近に観察されるCF3構造との、Fのピーク強度(積分値)の比率から、重合体中に存在するフッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレンとの存在比を算出した。
【0155】
得られたフッ化ビニリデン系共重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は94.97%、ヘキサフルオロプロピレン量が4.54%、AES量が0.49モル%であった。
【0156】
(樹脂膜の製造)
前記フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体4.0重量部をメチルエチルケトン75重量部、水10重量部、N−メチル−2−ピロリドン15重量部に40℃で溶解させセパレータ用コーティング液を得た。
【0157】
前記コーティング液をwet100[g/m2]のマイヤーバーを用いて、セパレータ(ポリポア株式会社製、Celgard2500、単層ポリプロピレン多孔膜、膜厚25μm、ガーレー透気度200[s/100ml])上に塗布し、70℃で10分間乾燥後、80℃で1時間真空乾燥し、樹脂膜が形成されたセパレータを得た。得られた樹脂膜部分の厚さは3μmであった。
【0158】
樹脂膜が形成されたセパレータのガーレー通気度をガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)によって、JIS P 8117、ISO 5636に準拠して測定したところ、1150s/100mlであった。
【0159】
また、得られた樹脂膜の表面を金蒸着し、JEOL製 NeoScope JCM−5000により加速電圧10kVで、SEM観察した。得られたSEM写真を図2に示す。
【0160】
〔実施例2〕
(フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体の製造)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を900g、セルロース系懸濁剤としてメトローズ90SH−100(信越化学工業(株)製)を0.4g、カルボキシエチルアクリレートを0.2g、50wt%t‐ブチルペルオキシピバレート−フロン225cb溶液を2.0g、フッ化ビニリデン396gを仕込み、50℃まで2時間で昇温した。
【0161】
その後、50℃を維持し、15g/lのカルボキシエチルアクリレート水溶液を重合圧力が一定となる速度で徐々に添加した。カルボキシエチルアクリレートは、初期に添加した量を含め、全量4.0gを添加した。
【0162】
重合は、カルボキシエチルアクリレート水溶液添加終了と同時に停止し、昇温開始から合計8.6時間行った。なお、重合初期の圧力は、6.23MPa−Gであり、重合停止時の圧力は6.03MPa−Gであった。また、重合は攪拌回転数600rpmで攪拌しながら行った。
【0163】
重合終了後、集合体スラリーを95℃で60分間熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体の重合体粉末を得た。
【0164】
前記重合体粉末の1H NMRスペクトルを前記と同様の条件で求めた。
【0165】
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位とカルボキシメチルアクリレートに由来する構成単位の比を、1H NMRスペクトルで、主としてカルボキシメチルアクリレートに由来する4.18ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.23ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルとの積分強度に基づき算出した。
【0166】
得られたフッ化ビニリデン系共重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は98.95%、CEA量が1.05モル%であった。
【0167】
重合体の収率は39%、得られた重合体のインヘレント粘度は3.12dl/g、吸光度比(AR)は1.10であった。
【0168】
(樹脂膜の製造)
フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体4重量部N−メチル−2−ピロリドン100重量部に溶解させセパレータ用コーティング液を得た。
【0169】
前記コーティング液をwet60[g/m2]のマイヤーバーを用いて、セパレータ(ポリポア株式会社製、Celgard2500)上に塗布し、速やかにメタノール液中10分間に浸漬し、80℃で10分間乾燥後、80℃で1時間真空乾燥し、樹脂膜が形成されたセパレータを得た。得られた樹脂膜部分の厚さは3μmであった。
【0170】
樹脂膜が形成されたセパレータのガーレー通気度を、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)によって、JIS P 8117、ISO 5636に準拠して測定したところ、680s/100mlであった。
【0171】
また、得られた樹脂膜の表面を金蒸着し、JEOL製 NeoScope JCM−5000により加速電圧5kVで、SEM観察した。得られたSEM写真を図3に示す。
【0172】
前記実施例の結果より、いずれのセパレータにおいても、充分なガーレー通気度を有しており、樹脂膜が形成されたセパレータは、イオンの移動の妨げになることはない。
【0173】
〔実施例3〕
(樹脂膜の製造)
前記実施例1で得られたフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の重合体4重量部をN−メチル−2−ピロリドン96重量部に溶解させ、セパレータ用コーティング液を得た。
【0174】
前記コーティング液に浸漬したセパレータ(旭化成製 ハイポアND420 膜厚20μm、ガーレー透気度320[s/100ml])を、wet36[g/m2]のマイヤーバーで挟んで引き上げて両面塗布されたセパレータを速やかに常温の水に浸漬させ、その後80℃で10分間乾燥後、80℃で30分間真空乾燥し、樹脂膜が形成されたセパレータを得た。得られた樹脂膜部分の厚さは、片面当たり3μmであった。
【0175】
樹脂膜が形成されたセパレータのガーレー透気度を、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)によって、JIS P 8117、ISO 5636に準拠して測定したところ、409[s/100ml]であった。
【0176】
得られた樹脂膜の表面を金蒸着し、JEOL製 NeoScope JCM−5000により加速電圧10kVでSEM観察した。得られたSEM写真を図4に示す。
【0177】
(剥離強度測定用の正極の作製)
コバルト酸リチウム(セルシード C5 日本化学工業製)、導電助剤(SuperP TIMCAL製)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)(KF#1100 クレハ製)をそれぞれ重量比93:3:4となるよう固形分濃度69wt%のN−メチル−2−ピロリドン溶媒スラリーを作製した。115μmのスペーサーを用いてAl箔(厚さ15μm)に該スラリーをコート後、120℃で3時間乾燥し、その後プレスしてスラリーをコート、乾燥することにより得られた層の嵩密度が3.6[g/cm3]であり、目付け量が150[g/m2]である正極を得た。
【0178】
(剥離強度測定用の負極の作製)
BTR918(改質天然黒鉛 BTR製)、導電助剤(SuperP TIMCAL製)、SBR(スチレンブタジエンゴムラテックス BM−400 日本ゼオン製)、CMC(カルボキシメチルセルロース セロゲン4H 第一工業製薬)をそれぞれ重量比90:2:3:1となるよう固形分濃度53wt%の水溶媒スラリーを作製した。90μmのスペーサーを用いてCu箔(厚さ10μm)に該スラリーをコート後、120℃で3時間乾燥し、その後プレスしてスラリーをコート、乾燥することにより得られた層の嵩密度が1.5[g/cm3]であり、目付け量が56[g/m2]である負極を得た。
【0179】
(剥離強度測定用サンプルの作製および剥離強度の測定)
前記得られた正極、負極を2.5×5.0cm、樹脂膜が形成されたセパレータを3.0×6.0cmに切ってそれぞれ接合させ、電解液(エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7、LiPF6 1.2M)を浸み込ませてAlラミネートセル中に真空脱気封入した。
【0180】
得られたAlラミネートセルを熱プレス(電極1cm2当たり20kgの加重 温度90℃、余熱3分後1分間)した。
得られた樹脂膜が形成されたセパレータ/正極、樹脂膜が形成されたセパレータ/負極界面の剥離強度をそれぞれ正極、負極を固定しセパレータを180°で引張りテンシロン万能試験機(株式会社エーアンドディー製)を用いて測定した。得られた剥離強度測定結果を表1に示す。
【0181】
(非水電解質二次電池の作製とサイクル試験)
BTR918(改質天然黒鉛 BTR製)、導電助剤(SuperP TIMCAL製)、PVDF(KF#9100 クレハ製)をそれぞれ重量比90:2:8となるよう固形分濃度58wt%の水溶媒スラリーを作製した。80μmのスペーサーを用いてCu箔に該スラリーをコート後、120℃で3時間乾燥し、その後プレスしてスラリーをコート、乾燥することにより得られた層の嵩密度が1.5[g/cm3]であり、目付け量57[g/m2]である負極を得た。
【0182】
前記負極と、(剥離強度測定用の正極の作製)の項に記載の方法で得られた正極とを、セパレータを介して接合させ、電解液(EC/EMC=3/7、LiPF6 1.2M)を浸み込ませてアルミパウチ中に真空シーラーを用いて封入した。これに熱プレス機を用いて熱プレス(電極1cm2当たり20kgの加重温度90℃、余熱3分後1分間)を行って、ラミネートセルを得た。
【0183】
充電条件を0.1C、4.2Vの定電流定電圧充電、放電条件を0.1C、3Vカットオフ定電流放電とする充放電サイクルを3サイクル後、1C、4.2Vの定電流定電圧充電、放電条件を1C、3Vカットオフ定電流放電とする充放電サイクルを100サイクル行った。
【0184】
結果を図5に示す。
【0185】
〔比較例1〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.42g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート2.9g、フッ化ビニリデン378g、ヘキサフルオロプロピレン42gを仕込み、29℃で10時間重合した。
【0186】
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分間熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の重合粉末を得た。得られた重合体のインヘレント粘度は1.7dl/gであった。
【0187】
得られたフッ化ビニリデン系共重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)は96.9%、ヘキサフルオロプロピレンに由来する構成単位の量が3.1%であった。
【0188】
(樹脂膜の製造)
フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体に変えて前記フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いたことを除いて実施例3と同様に樹脂膜を得た。得られた樹脂膜部分の厚さは、片面当たり3μmであった。
【0189】
樹脂膜が形成されたセパレータのガーレー透気度を測定したところ、426[s/100ml]であった。
【0190】
(剥離強度測定用サンプルおよび剥離強度の測定)
前記フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる樹脂膜が形成されたセパレータを用いた事を除いて、実施例3と同様に評価した。
【0191】
結果を表1に示す。
【0192】
〔比較例2〕
(樹脂膜の製造)
フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体に変えてフッ化ビニリデン(KF#7200 クレハ製)を用いた事を除いて実施例3と同様に樹脂膜を得た。
【0193】
樹脂膜が形成されたセパレータのガーレー透気度を測定したところ、417[s/100ml]であった。
【0194】
(剥離強度測定用サンプルおよび剥離強度の測定)
前記フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる樹脂膜が形成されたセパレータを用いた事を除いて、実施例3と同様に評価した。
【0195】
結果を表1に示す。
【0196】
【表1】
【0197】
前記実施例、比較例の結果より、本願発明の樹脂膜は、セパレータ、正極、負極との接着力に優れ、かつリチウムイオン等のイオンの移動を妨げることがないため非水電解質二次電池を構成するセパレータ補助層として使用可能である。
【符号の説明】
【0198】
10 ・・・電池積層構造
11 ・・・正極
111・・・正極合剤層
112・・・正極集電体
12 ・・・負極
121・・・負極合剤層
122・・・負極集電体
13 ・・・セパレータ
14a,14b・・・セパレータ補助層
図1
図5
図2
図3
図4