特許第6045583号(P6045583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045583
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】抗PCSK9抗体を含む安定化製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20161206BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20161206BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20161206BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20161206BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20161206BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A61K39/395 PZNA
   A61K47/22
   A61K47/34
   A61K47/26
   A61K9/08
   A61P3/06
【請求項の数】13
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2014-523072(P2014-523072)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公表番号】特表2014-525915(P2014-525915A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】US2012048574
(87)【国際公開番号】WO2013016648
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年7月14日
(31)【優先権主張番号】61/512,666
(32)【優先日】2011年7月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ウォルシュ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ディクス
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−511637(JP,A)
【文献】 特表2011−512129(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/077854(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/148337(WO,A1)
【文献】 特表2002−501886(JP,A)
【文献】 特表2000−509018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50±7.5mg/mL〜250±37.5mg/mLのヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9(ヒトPCSK9)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、ここで当該抗体は、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含む
5±0.75mM〜50±7.5mMのヒスチジン(pH6.0±0.3);
0.01±0.0015%w/vのポリソルベート20;および
10±1.5%w/vのスクロース
を含む液体医薬製剤。
【請求項2】
ヒスチジンの濃度が以下の(i)〜(vi)
(i)5±0.75mM〜15±2.25mM;
(ii)6±0.9mM〜14±2.1mM;
(iii)7±1.05mM〜13±1.95mM;
(iv)8±1.2mM〜12±1.8mM;
(v)9±1.35mM〜11±1.65mM;および
(vi)10±1.5mM
からなる群から選択される、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項3】
抗体が、配列番号1を含む重鎖可変領域(HCVDおよび配列番号5を含む軽鎖可変領域(LCVD)を含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項4】
抗体が、配列番号1を含む重鎖可変領域(HCVD)および配列番号5を含む軽鎖可変領域(LCVD)を含む、請求項2に記載の液体医薬製剤。
【請求項5】
約175mg/mLの抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項6】
約150mg/mLの抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項7】
約100mg/mLの抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項8】
約75mg/mLの抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項9】
約50mg/mLの抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項1に記載の液体医薬製剤。
【請求項10】
(a)75mg/mLのヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9(ヒトPCSK9)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、ここで当該抗体は、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含む;
(b)8±1.2mMの濃度のヒスチジン(pH6.0±0.3);
(c)0.01±0.0015%w/vのポリソルベート20;および
(d)10±1.5%w/vのスクロース
を含む液体医薬製剤。
【請求項11】
抗体が、配列番号1を含む重鎖可変領域(HCVD)および配列番号5を含む軽鎖可変領域(LCVD)を含む、請求項10に記載の液体医薬製剤。
【請求項12】
(a)150mg/mLのヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9(ヒトPCSK9)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、ここで当該抗体は、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含む;
(b)6±0.9mMの濃度のヒスチジン(pH6.0±0.3);
(c)0.01±0.0015%w/vのポリソルベート20;および
(d)10±1.5%w/vのスクロース
を含む液体医薬製剤。
【請求項13】
抗体が、配列番号1を含む重鎖可変領域(HCVD)および配列番号5を含む軽鎖可変領域(LCVD)を含む、請求項12に記載の液体医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療抗体製剤の分野に関する。より特には、本発明は、ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)に特異的に結合するヒト抗体を含む医薬製剤の分野に関する。
【0002】
配列表
配列表のST.25準拠テキストファイルが、本明細書と同時に提出される。このテキストファイルの内容は、参照によって本明細書に組み入れる。ST.25準拠テキストファイルと内容が同一である配列表の紙コピーは、本明細書の一部として含まれる。
【背景技術】
【0003】
治療用高分子(例えば、抗体)は、その分子を患者への投与にとって好適なものとするだけでなく、保存およびその後の使用の間にその安定性を維持する様式で製剤化しなければならない。例えば、液体溶液中の治療抗体は、その溶液が適切に製剤化されない限り、分解、凝集または望ましくない化学的改変を受けやすい。液体製剤中での抗体の安定性は、製剤中で用いられる賦形剤の種類だけでなく、互いに比較した賦形剤の量および割合にも依存する。さらに、液体抗体製剤を製造する場合には、安定性以外の他のことも考慮しなければならない。そのようなさらなる考慮の例としては、所与の製剤により調整することができる溶液の粘度および抗体の濃度、ならびに製剤の眼に見える品質または外見が挙げられる。かくして、治療抗体を製剤化する場合、安定性を保持し、十分な濃度の抗体を含み、および好適な粘度を有し、ならびに製剤を患者に都合良く投与することができるようにする他の性質を有する製剤に到達するために大きな注意を払わなければならない。
【0004】
ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9タンパク質(PCSK9)に対する抗体は、適切な製剤を必要とする治療上関連する大分子の一例である。抗PCSK9抗体は、高コレステロール血症および他の脂質異常症のような疾患、ならびに他の状態の処置または防止にとって臨床的に有用である。例示的な抗PCSK9抗体は、特に、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、および特許文献9に記載されている。
【0005】
抗PCSK9抗体は公知であるが、十分に安定であり、患者への投与にとって好適である抗PCSK9抗体を含む新規医薬製剤が依然として当業界で必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/057457
【特許文献2】WO2008/057458
【特許文献3】WO2008/057459
【特許文献4】WO2008/063382
【特許文献5】WO2008/125623
【特許文献6】米国特許第7,572,618号
【特許文献7】WO2010/077854
【特許文献8】US2010/0166768
【特許文献9】US2011/0065902
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9タンパク質(PCSK9)に特異的に結合するヒト抗体を含む医薬製剤を提供することにより、上記必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、(i)ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9タンパク質(PCSK9)に特異的に結合するヒト抗体;(ii)バッファー;(iii)有機共溶媒;(iv)安定剤;および場合により、(v)粘度低下剤を含む液体医薬製剤が提供される。
【0009】
一実施形態においては、抗体は、約50±7.5mg/mL〜約200±30mg/mLの濃度で提供される。別の実施形態においては、抗体は、約50mg/ml±7.5mg/mLの濃度で提供される。別の実施形態においては、抗体は、約100mg/mL±15mg/mLの濃度で提供される。別の実施形態においては、抗体は、約150mg/mL±22.5mg/mLの濃度で提供される。別の実施形態においては、抗体は、約175mg/mL±26.25mg/mLの濃度で提供される。別の実施形態においては、抗体は、約200mg/mL±30mg/mLの濃度で提供される。
【0010】
一実施形態においては、抗体は、配列番号1〜8のアミノ酸配列のいずれか1つまたはそれ以上を含む。一実施形態においては、抗体は、(a)それぞれ、配列番号2、配列番号3および配列番号4の配列を含む、重鎖相補性決定領域1、2および3(HCDR1−HCDR2−HCDR3)を含む重鎖可変領域(HCVR);ならびに(b)それぞれ、配列番号6、配列番号7および配列番号8の配列を含む軽鎖相補性決定領域1、2および3(LCDR1−LCDR2−LCDR3)を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む。特定の実施形態においては、抗体は、それぞれ、配列番号1および配列番号5のアミノ酸配列を含む、HCVRおよびLCVRを含む。
【0011】
一実施形態においては、液体製剤のpHは、およそpH6.0±0.5、pH6.0±0.4、pH6.0±0.3、pH6.0±0.2、pH6.0±0.1、pH6.0±0.05、pH6.0±0.01、またはpH6.0である。特定の実施形態においては、液体製剤のpHは、およそpH6.0±0.3である。一実施形態においては、液体医薬バッファーは、pH約5.5〜pH約7.4の有効緩衝範囲、または約6.0のpKaを有する、1種またはそれ以上のバッファーを含む。
【0012】
一実施形態においては、バッファーはヒスチジンである。一実施形態においては、ヒスチジンは5mM±0.75mM〜50mM±7.5mMの濃度である。一実施形態においては、ヒスチジンは、10mM±1.5mMまたは約10mMの濃度である。一実施形態においては、ヒスチジンは、20mM±3mMまたは約20mMの濃度である。一実施形態においては、ヒスチジンは、40nM±6mMまたは約40nMの濃度である。
【0013】
一実施形態においては、有機共溶媒は、ポリオキシエチレン部分を含む非イオン性ポリマーである。いくつかの実施形態においては、有機共溶媒は、ポリソルベート20、ポロキサマー188およびポリエチレングリコール3350のいずれか1種またはそれ以上である。特定の実施形態においては、有機共溶媒は、ポリソルベート20である。
【0014】
一実施形態においては、有機共溶媒は、約0.005%±0.00075%〜約1%±0.15%「重量/体積」または「w/v」の濃度であり、ここで、例えば、0.1g/ml=10%であり、0.01g/ml=1%である。一実施形態においては、有機共溶媒は、約0.2%±0.03%w/vの濃度であるポリソルベート20である。別の実施形態においては、有機共溶媒は、0.01%±0.0015%w/vまたは約0.01%w/vの濃度である、ポリソルベート20である。
【0015】
一実施形態においては、安定剤は糖である。一実施形態においては、糖は、スクロース、マンニトールおよびトレハロースからなる群から選択される。特定の実施形態においては、安定剤はスクロースである。
【0016】
一実施形態においては、安定剤は、1%±0.15%w/v〜20%±3%w/vの濃度である。特定の実施形態においては、安定剤は、5%±0.75%w/vまたは約5%w/vの濃度のスクロースである。別の特定の実施形態においては、安定剤は、10%±1.5%w/vまたは約10%w/vの濃度のスクロースである。別の特定の実施形態においては、安定剤は、12%±1.8%w/vまたは約12%w/vの濃度のスクロースである。
【0017】
一実施形態においては、粘度低下剤は、塩酸アルギニン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛および酢酸ナトリウムからなる群から選択される塩である。一実施形態においては、粘度低下剤は、L−塩酸アルギニンである。
【0018】
一実施形態においては、粘度低下剤は、10mM±1.5mM〜150mM±22.5mMの濃度である。一実施形態においては、粘度低下剤は、50mM±7.5mMまたは約50mMの濃度のL−塩酸アルギニンである。一実施形態においては、粘度低下剤は、40mM±6mMまたは約40mMの濃度のL−塩酸アルギニンである。
【0019】
一実施形態においては、25℃での液体医薬製剤または再構成された凍結乾燥医薬製剤の粘度は、約15センチポアズ±10%以下である。一実施形態においては、25℃での粘度は、1.0センチポアズ±10%〜18センチポアズ±10%である。一実施形態においては、25℃での粘度は、1.6センチポアズ±10%、1.7センチポアズ±10%、3.3センチポアズ±10%、3.5センチポアズ±10%、4.8センチポアズ±10%、6.0センチポアズ±10%、7.0センチポアズ±10%、7.1センチポアズ±10%、7.2センチポアズ±10%、7.9センチポアズ±10%、8.9センチポアズ±10%、10.0センチポアズ±10%、10.6センチポアズ±10%、11.4センチポアズ±10%、11.6センチポアズ±10%、11.8センチポアズ±10%、12.4センチポアズ±10%、13.9センチポアズ±10%、14.0センチポアズ±10%、15.5センチポアズ±10%、または17.9センチポアズ±10%である。
【0020】
一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、100±15mOsm/kg〜460±69mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、103±15mOsm/kgまたは約103mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、195±29mOsm/kgまたは約195mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、220±33mOsm/kgまたは約220mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、330±50mOsm/kgまたは約330mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、435±65mOsm/kgまたは約435mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、440±66mOsm/kgまたは約440mOsm/kgである。一実施形態においては、液体医薬製剤のオスモル濃度は、458±69mOsm/kgまたは約458mOsm/kgである。
【0021】
一実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、非凝集形態および非分解形態の抗PCSK9抗体の少なくとも96%または少なくとも97%が、−80℃での液体医薬製剤の保存の3カ月後に液体医薬製剤から回収される。一実施形態においては、イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合、非塩基性形態および非酸性形態(すなわち、主要ピークまたは主電荷の形態)の抗PCSK9抗体の少なくとも56%が、−80℃での液体医薬製剤の保存の3カ月後に液体医薬製剤から回収される。
【0022】
一実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、非凝集形態および非分解形態の抗PCSK9抗体の少なくとも96%または少なくとも97%が、−30℃で3カ月間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。一実施形態においては、イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合、主電荷形態の抗PCSK9抗体の少なくとも56%が、−30℃で3カ月間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。
【0023】
一実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、非凝集形態および非分解形態の抗PCSK9抗体の少なくとも96%または少なくとも97%が、−20℃での液体医薬製剤の保存の3カ月後に液体医薬製剤から回収される。一実施形態においては、イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合、主電荷形態の抗PCSK9抗体の少なくとも56%が、−20℃で3カ月間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。
【0024】
一実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、非凝集形態および非分解形態の抗PCSK9抗体の少なくとも96%が、5℃での液体医薬製剤の保存の6カ月後に液体医薬製剤から回収される。一実施形態においては、イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合、主電荷形態の抗PCSK9抗体の少なくとも58%または少なくとも59%が、5℃で3カ月間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。
【0025】
一実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、非凝集形態および非分解形態の抗PCSK9抗体の少なくとも94%が、25℃で6カ月間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。一実施形態においては、イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合、非塩基性形態および非酸性形態の抗PCSK9抗体の少なくとも45%または少なくとも47%が、25℃で6カ月間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。
【0026】
一実施形態においては、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、非凝集形態および非分解形態の抗PCSK9抗体の少なくとも91%または少なくとも92%が、45℃で28日間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。一実施形態においては、イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合、非塩基性形態および非酸性形態の抗PCSK9抗体の少なくとも35%または少なくとも37%が、45℃で28日間の液体医薬製剤の保存後に液体医薬製剤から回収される。
【0027】
一態様において、(i)ヒトPCSK9に特異的に結合する50±7.5mg/ml〜175±26mg/mlのヒト抗体;(ii)0mM〜40±6mMのヒスチジン;(iii)0%〜0.2%±0.03%(w/v)のポリソルベート20;(iv)0%〜12%±1.8%(w/v)のスクロース;および(v)0mM〜50±7.5mMのアルギニンを含む、約5.3〜約6.7のpHの液体医薬製剤が提供される。この態様の抗PCSK9抗体は、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、HCVR/LCVR組合せは、それぞれ配列番号2−配列番号3−配列番号4/配列番号6−配列番号7−配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖および軽鎖相補性決定領域(HCDR1−HCDR2−HCDR3/LCDR1−LCDR2−LCDR3)を含む。特定の実施形態においては、抗PCSK9抗体は、それぞれ、配列番号1および配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含む(以後「mAb−316P」と呼ぶ)。
【0028】
この態様の一実施形態においては、液体製剤は、(i)50±7.5mg/mLのmAb−316P;(ii)10±1.5mMのヒスチジン;(iii)0.1%±0.015%(w/v)のポリソルベート20;および(iv)6%±0.9%(w/v)のスクロースを含み、pHが6.0±0.3である。この特定の製剤の一実施形態においては、粘度は約1.7センチポアズである。この特定の製剤の一実施形態においては、オスモル濃度は220±44mOsm/kgである。
【0029】
別の実施形態においては、液体製剤は、pH6.0±0.3で、(i)100±20mg/mLのmAb−316P;(ii)20±4mMのヒスチジン;(iii)0.2%±0.04%(w/v)のポリソルベート20;および(iv)12%±2.4%(w/v)のスクロースを含む。この特定の製剤の一実施形態においては、粘度は約3.5センチポアズである。この特定の製剤の一実施形態においては、オスモル濃度は440±88mOsm/kgである。
【0030】
別の実施形態においては、液体製剤は、pH6.0±0.3で、(i)150±22.5mg/mLのmAb−316P;(ii)10±1.5mMのヒスチジン;(iii)0.2%±0.03%または0.01%±0.0015%(w/v)のポリソルベート20;および(iv)0%±1.5%(w/v)のスクロースを含む。この特定の製剤の一実施形態においては、粘度は約6センチポアズである。この特定の製剤の一実施形態においては、オスモル濃度は435±65.25mOsm/kgである。この特定の製剤の一実施形態においては、45℃で28日間の製剤の保存後に、92%以上の抗体が天然形態であり、35%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、25℃で6カ月間の製剤の保存後に、94%以上の抗体が天然形態であり、45%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、5℃で6カ月間の製剤の保存後に、96%以上の抗体が天然形態であり、58%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、−20℃で12カ月間の製剤の保存後に、97%以上の抗体が天然形態であり、56%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、−30℃で12カ月間の製剤の保存後に、97%以上の抗体が天然形態であり、56%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、−80℃で12カ月間の製剤の保存後に、97%以上の抗体が天然形態であり、56%以上の抗体が主電荷形態のものである。
【0031】
この特定の製剤のいくつかの実施形態においては、85%以上の抗体が45℃で28日後、82%以上の抗体が37℃で28日後、および/または98%以上の抗体が25℃で28日後にその生物学的効果を保持する。この特定の製剤のいくつかの実施形態においては、85%以上の抗体が−20℃で6カ月後、70%以上の抗体が−30℃で6カ月後、および/または79%以上の抗体が−80℃で6カ月後にその生物学的効果を保持する。この特定の製剤のいくつかの実施形態においては、81%以上の抗体が8回の凍結−融解サイクル後にその生物学的効果を保持し、および/または84%以上の抗体が120分間の撹拌後にその生物学的活性を保持する。
【0032】
この態様の別の実施形態においては、液体製剤は、(i)175±26.25mg/mLのmAb−316P;(ii)10±1.5mMのヒスチジン;(iii)0.01%±0.0015%(w/v)のポリソルベート20;(iv)5%±0.75%(w/v)のスクロース;および(v)50±7.5mMのアルギニンを含み、pHが6.0±0.3である。この特定の製剤の一実施形態においては、粘度は約10.6センチポアズである。この特定の製剤の一実施形態においては、オスモル濃度は330±50mOsm/kgである。この特定の製剤の一実施形態においては、45℃で28日間の製剤の保存後に、91%以上の抗体が天然形態であり、38%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、25℃で6カ月間の製剤の保存後に、94%以上の抗体が天然形態であり、47%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、5℃で6カ月間の製剤の保存後に、96%以上の抗体が天然形態であり、59%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、−20℃で3カ月間の製剤の保存後に、96%以上の抗体が天然形態であり、56%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、−30℃で3カ月間の製剤の保存後に、96%以上の抗体が天然形態であり、56%以上の抗体が主電荷形態のものである。この特定の製剤の一実施形態においては、−80℃で3カ月間の製剤の保存後に、96%以上の抗体が天然形態であり、56%以上の抗体が主電荷形態のものである。
【0033】
一態様において、前記態様のいずれかの液体医薬製剤は、容器中に提供される。一実施形態においては、容器はポリカーボネートバイアルである。別の実施形態においては、容器はガラスバイアルである。一実施形態においては、ガラスバイアルは、フッ化炭素被覆ブチルゴム栓を有する1型ホウケイ酸ガラスバイアルである。別の実施形態においては、容器はマイクロインフューザである。別の実施形態においては、容器はシリンジである。特定の実施形態においては、シリンジはフッ化炭素被覆プランジャを含む。1つの特定の実施形態においては、シリンジは、27−G針、フッ化炭素被覆ブチルゴム栓、およびラテックスフリー非細胞毒性ゴムチップキャップを備えた、約500ppb(10億分の1)未満のタングステンを含む1mL長ガラスシリンジである。より特定の実施形態においては、シリンジは、27−G薄壁針、FLUROTEC被覆4023/50ゴム栓、およびFM27ゴムチップキャップを備えた、NUOVA OMPI 1mL長ガラスシリンジである。別の特定の実施形態においては、シリンジは、27−G針を固定した1mLまたは3mLのプラスチック製シリンジである。より特定の実施形態においては、プラスチック製シリンジは、BECTON DICKINSONにより流通されている。
【0034】
一態様において、(a)175mg/mL±26.25mg/mLの抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.01%w/v±0.0015%のポリソルベート20、(d)5%w/v±0.75%のスクロース、および(e)50mM±7.5mMのアルギニンを含む医薬製剤であって、(a)前記抗体が配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(b)製剤中の90%を超える抗体が155kDa±1kDaの分子量を有し、(c)製剤中の50%を超える抗体が約8.5の等電点を有し、および(d)製剤中の75%〜90%の抗体がフコシル化される、上記医薬製剤が提供される。
【0035】
一実施形態においては、医薬製剤は、水中の、(a)175mg/mL±26.25mg/mLの、直前の段落に記載の抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.01%w/v±0.0015%のポリソルベート20、(d)5%w/v±0.75%のスクロース、および(e)50mM±7.5mMのアルギニンからなる。
【0036】
一態様において、(a)150mg/mL±22.5mg/mLの抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.2%w/v±0.03%のポリソルベート20、および(d)10%w/v±1.5%のスクロースを含む医薬製剤であって、(i)前記抗体が配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(ii)製剤中の90%を超える抗体が155kDa±1kDaの分子量を有し、(iii)製剤中の50%を超える抗体が約8.5の等電点を有し、および(iv)製剤中の75%〜90%の抗体がフコシル化される、上記医薬製剤が提供される。
【0037】
一実施形態においては、医薬製剤は、水中の、(a)150mg/mL±22.5mg/mLの、直前の段落に記載の抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.2%w/v±0.03%のポリソルベート20、および(d)10%w/v±1.5%のスクロースからなる。
【0038】
一態様において、(a)150mg/mL±22.5mg/mLの抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.01%w/v±0.0015%のポリソルベート20、および(d)10%w/v±1.5%のスクロースを含む医薬製剤であって、(i)前記抗体が配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(ii)製剤中の90%を超える抗体が155kDa±1kDaの分子量を有し、(iii)製剤中の50%を超える抗体が約8.5の等電点を有し、および(iv)製剤中の75%〜90%の抗体がフコシル化される、上記医薬製剤が提供される。
【0039】
一実施形態においては、医薬製剤は、水中の、(a)150mg/mL±22.5mg/mLの、直前の段落に記載の抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.01%w/v±0.0015%のポリソルベート20、および(d)10%w/v±1.5%のスクロースからなる。
【0040】
一態様において、(a)100mg/mL±15mg/mLの抗PCSK9抗体、(b)20mM±3mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.2%w/v±0.03%のポリソルベート20、および(d)12%w/v±1.8%のスクロースを含む医薬製剤であって、(i)前記抗体が配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(ii)製剤中の90%を超える抗体が155kDa±1kDaの分子量を有し、(iii)製剤中の50%を超える抗体が約8.5の等電点を有し、および(iv)製剤中の75%〜90%の抗体がフコシル化される、上記医薬製剤が提供される。
【0041】
一実施形態においては、医薬製剤は、水中の、(a)100mg/mL±15mg/mLの、直前の段落に記載の抗PCSK9抗体、(b)20mM±3mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.2%w/v±0.03%のポリソルベート20、および(d)12%w/v±1.8%のスクロースからなる。
【0042】
一態様において、(a)50mg/mL±7.5mg/mLの抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.1%w/v±0.015%のポリソルベート20、および(d)6%w/v±0.9%のスクロースを含む医薬製剤であって、(i)前記抗体が配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(ii)製剤中の90%を超える抗体が155kDa±1kDaの分子量を有し、(iii)製剤中の50%を超える抗体が約8.5の等電点を有し、および(iv)製剤中の75%〜90%の抗体がフコシル化される、上記医薬製剤が提供される。
【0043】
一実施形態においては、医薬製剤は、水中の、(a)50mg/mL±7.5mg/mLの、直前の段落に記載の抗PCSK9抗体、(b)10mM±1.5mMのヒスチジン、pH6±0.3、(c)0.1%w/v±0.015%のポリソルベート20、および(d)6%w/v±0.9%のスクロースからなる。
【0044】
一態様において、抗PCSK9抗体および0.3%未満の水を含む凍結乾燥組成物を製造する方法が提供される。その方法は、(a)ガラスバイアル中で、水、抗PCSK9抗体、ヒスチジン、スクロース、およびポリソルベート20を混合する工程、(b)次いで、約5℃に約60分間、組合せ物を保持する工程、(c)次いで、約0.5℃/分の速度で温度を低下させる工程、(d)次いで、約−45℃に約120分間、組合せ物を保持する工程、(e)次いで、気圧を約100mTorrに低下させる工程、(f)次いで、約0.5℃/分の速度で温度を上昇させる工程、(g)次いで、約−25℃で約78時間、組合せ物を保持する工程、(h)次いで、0.2℃/分の速度で温度を上昇させる工程、(i)次いで、約35℃で約6時間、組合せ物を保持する工程、(j)次いで、約0.5℃の速度で温度を低下させる工程、および(k)次いで、保存前に、約25℃に約60分間、組合せ物を保持する工程を含む。
【0045】
一実施形態においては、前記方法は、(l)工程(k)の組合せ物を含むガラスバイアルに窒素ガスをバックフィルする工程、および(m)大気圧の約80%未満でバイアルに栓をする工程をさらに含む。一実施形態においては、組成物を、工程(i)、(j)または(k)の後およびバイアルに栓をする工程の前に、2〜8℃に至らせる。
【0046】
いくつかの実施形態においては、工程(a)において、抗PCSK9抗体は50mg/mL±7.5mg/mLであり、ヒスチジンは10mM±1.5mM(pH6.0)であり、ポリソルベート20は0.1%±0.015%であり、スクロースは6%±0.9%である。一実施形態においては、抗PCSK9抗体は、配列番号2のHCDR1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6のLCDR1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含むmAb−316Pを含む。一実施形態においては、抗PCSK9抗体は、配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含む。一実施形態においては、(i)抗体は配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(ii)組合せ物中の90%を超える抗体は155kDa±1kDaの分子量を有し、(iii)組合せ物中の50%を超える抗体は約8.5の等電点を有し、および(iv)組合せ物中の75%〜90%の抗体はフコシル化される。
【0047】
一態様においては、前記態様に記載の方法に従って生成される、抗PCSK9抗体および0.3%未満の水を含む凍結乾燥医薬組成物が提供される。
【0048】
一態様においては、水中に再懸濁された前記態様に記載の凍結乾燥医薬組成物を含む医薬組成物が提供される。一実施形態においては、医薬組成物は、水中の、50mg/mL±7.5mg/mLの抗PCSK9抗体、10mM±1.5mMのヒスチジン(pH6.0)、0.1%±0.015%のポリソルベート20、および6%±0.9%のスクロースからなる。一実施形態においては、医薬組成物は、水中の、100mg/mL±15mg/mLの抗PCSK9抗体、20mM±3mMのヒスチジン(pH6.0)、0.2%±0.03%のポリソルベート20、および12%±1.8%のスクロースからなる。別の実施形態においては、医薬組成物は、水中の、150mg/mL±22.5mg/mLの抗PCSK9抗体、30mM±4.5mMのヒスチジン(pH6.0)、0.3%±0.045%のポリソルベート20、および18%±2.7%のスクロースからなる。さらに別の実施形態においては、医薬組成物は、水中の、175mg/mL±26.25mg/mLの抗PCSK9抗体、35mM±5.25mMのヒスチジン(pH6.0)、0.35%±0.0525%のポリソルベート20、および21%±3.15%のスクロースからなる。
【0049】
いくつかの実施形態においては、抗PCSK9抗体は、配列番号1のHCVDおよび配列番号5のLCVDを含み、(b)組成物中の90%を超える抗体は155kDa±1kDaの分子量を有し、(c)組成物中の50%を超える抗体は約8.5の等電点を有し、および(d)組成物中の75%〜90%の抗体はフコシル化される。
【0050】
一態様においては、前記組成物が容器中に含まれる、前記態様のいずれか一つの医薬組成物が提供される。一実施形態においては、容器はバイアルであり、いくつかの実施形態においては、ガラスバイアルである。別の実施形態においては、容器はシリンジである。いくつかの実施形態においては、シリンジは低タングステンガラスシリンジである。一実施形態においては、シリンジは、27−G薄壁針、FLUROTEC被覆4023/50ゴム栓、およびFM27ゴムチップキャップを備えた、NUOVA OMPI 1mL長ガラスシリンジである。
【0051】
一態様においては、前記態様のいずれか一つに記載の医薬組成物、容器、および説明書を含むキットが提供される。一実施形態においては、容器はプレフィルドシリンジである。特定の実施形態においては、シリンジは、27−G薄壁針、FLUROTEC被覆4023/50ゴム栓、およびFM27ゴムチップキャップを備えた、NUOVA OMPI 1mL長ガラスシリンジである。
【0052】
本発明の他の実施形態は、次の詳細な説明の概説から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を説明する前に、方法および条件は変動し得るので、本発明は、記載された特定の方法および実験条件に限定されないことを理解すべきである。また、本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定することを意図するものではないことも理解すべきである。
【0054】
別途定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で用いられる用語「約」は、特定の記載される数値または数値範囲を参照して用いられる場合、その値が記載された値から1%を超えないで変化してもよいことを意味する。例えば、本明細書で用いられる場合、「約100」という表現は、99および101ならびにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0055】
本明細書に記載のものと類似するか、または等価である任意の方法および材料を本発明の実施または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料をここで説明する。本明細書に記載の全ての刊行物は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0056】
医薬製剤
本明細書で用いられる表現「医薬製剤」は、少なくとも1種の活性成分(例えば、ヒトもしくは非ヒト動物において生物学的作用を示すことができる小分子、大分子、化合物など)と、少なくとも1種の不活性成分との組合せが、活性成分または1種もしくはそれ以上のさらなる不活性成分と組み合わせた場合、ヒトもしくは非ヒト動物への治療的投与にとって好適であることを意味する。本明細書で用いられる用語「製剤」は、別途具体的に指摘しない限り、「医薬製剤」を意味する。本発明は、少なくとも1種の治療ポリペプチドを含む医薬製剤を提供する。本発明の特定の実施形態によれば、治療ポリペプチドは、ヒトプロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)タンパク質に特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片である。より具体的には、本発明は、(i)ヒトPCSK9に特異的に結合するヒト抗体;(ii)ヒスチジンバッファー;(iii)非イオン性界面活性剤である有機共溶媒;(iv)炭水化物である熱安定剤;および場合により、(v)塩である粘度低下剤を含む医薬製剤を含む。本発明内に含まれる特定の例示的な成分および製剤を、以下で詳細に説明する。
【0057】
PCSK9に特異的に結合する抗体
本発明の医薬製剤は、ヒトPCSK9に特異的に結合するヒト抗体、またはその抗原結合断片を含んでもよい。本明細書で用いられる用語「PCSK9」は、分泌スブチラーゼファミリーのプロテイナーゼKサブファミリーに属するヒトプロタンパク質転換酵素を意味する。証拠は、PCSK9が低密度リポタンパク質粒子受容体に結合し、その分解を促進することにより、血漿LDLレベルを増加させることを示唆している。ヒトPCSK9アミノ酸配列の例は、配列番号9に記載されている。ヒトPCSK9に対する抗体は、特許出願公開US2010/0166768、US2011/0065902およびWO2010/077854に記載されている。
【0058】
本明細書で用いられる用語「抗体」は、ジスルフィド結合により相互接続された2つの重鎖(H)および2つの軽鎖(L)である4つのポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)を指すことが一般的に意図される;しかしながら、重鎖だけからなる免疫グロブリン分子(すなわち、軽鎖を欠く)も、用語「抗体」の定義内に包含される。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域を、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変領域にさらに細分することができる。それぞれのVHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4に配置された3つのCDRおよび4つのFRから構成される。
【0059】
別途具体的に指摘しない限り、本明細書で用いられる用語「抗体」は、完全な抗体分子ならびにその抗原結合断片を包含することが理解されるべきである。本明細書で用いられる用語、抗体の「抗原結合部分」または「抗原結合断片」(または単に「抗体部分」または「抗体断片」)は、ヒトPCSK9またはそのエピトープに特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたはそれ以上の断片を指す。
【0060】
本明細書で用いられる「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことが意図される(例えば、ヒトPCSK9に特異的に結合する単離された抗体は、ヒトPCSK9以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。
【0061】
用語「特異的に結合する」などは、抗体またはその抗原結合断片が、生理的条件下で比較的安定である抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-6M以上の解離定数を特徴としてもよい。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定する方法は当業界で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などが挙げられる。しかしながら、ヒトPCSK9に特異的に結合する単離された抗体は、他の種に由来するPCSK9分子(オルトログ)のような他の抗原との交叉反応性を有してもよい。本発明の文脈においては、ヒトPCSK9ならびに1つまたはそれ以上のさらなる抗原に結合する多特異的(例えば、二特異的)抗体は、ヒトPCSK9に「特異的に結合する」と見なされる。さらに、単離された抗体は、他の細胞材料または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0062】
本発明の医薬製剤中に含まれてもよい抗ヒトPCSK9抗体の例は、特許出願公開US2010/0166768、US2011/0065902およびWO2010/077854に記載されており、これらの開示はその全体が参照によって組み入れられる。
【0063】
本発明の特定の実施形態によれば、抗ヒトPCSK9 mAb−316P抗体は、IGHV3−23サブタイプのものである重鎖可変領域およびIGKV4−1サブタイプのものである軽鎖可変領域を含むヒトIgG1である(BarbieおよびLefranc、The Human Immunoglobulin Kappa Variable(IGKV)Genes and Joining(IGKJ)Segments、Exp.Clin.Immunogenet.1998;15:171〜183頁;ならびにScaviner,D.ら、Protein Displays of the Human Immunoglobulin Heavy,Kappa and Lambda Variable and Joining Regions、Exp.Clin.Immunogenet.、1999;16:234〜240頁を参照されたい)。
【0064】
いくつかの実施形態においては、抗ヒトPCSK9 mAb−316Pは、生殖細胞系列IGKV4−1配列と比較して抗体の露出した表面での電荷変化をもたらす少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。生殖細胞系列IGKV4−1配列、および本明細書で提供されるアミノ酸位置割り当て番号は、Lefranc,M.−P.ら、IMGT(登録商標)、the international ImMunoGeneTics information system(登録商標)、Nucl.Acids Res、37、D1006−D1012頁(2009)に記載された国際免疫遺伝学(IMGT)情報システムと適合する。いくつかの実施形態においては、露出した表面は、相補性決定領域(CDR)を含む。いくつかの実施形態においては、アミノ酸置換(複数可)は、IGKV4−1のCDR1(例えば、32位)内の非荷電極性アミノ酸へ置換された塩基性アミノ酸からなる群から選択される。特に環境界面での(例えば、CDRにおけるような)抗体の電荷分布におけるユニークな順列は、溶液中での抗体の安定性を維持するか、または前進させるための予測できない条件を作出すると予想される。
【0065】
いくつかの実施形態においては、抗ヒトPCSK9 mAb−316P抗体は、生殖細胞系列IGHV3−23配列または生殖細胞系列IGKV4−1配列と比較して、抗体の可変領域のフレームワーク領域内の電荷変化を作る少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態においては、アミノ酸置換(複数可)は、(a)IGHV3−23のフレームワーク領域3(FR3)(例えば、77位)中の極性アミノ酸へ置換された疎水性アミノ酸、および(b)IGKV4−1のフレームワーク領域2(FR2)(例えば、51位)中の塩基性アミノ酸へ置換された極性アミノ酸からなる群から選択される。溶媒とのCDR境界面に影響する、特にフレームワーク領域内でペプチド鎖が折畳まれる能力の変化は、溶液中での抗体の安定性を維持するか、または前進させるための予測できない条件を作出すると予想される。
【0066】
本発明の特定の実施形態によれば、抗ヒトPCSK9抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号2の重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号3のHCDR2、および配列番号4のHCDR3を含む。特定の実施形態においては、抗ヒトPCSK9抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号1のHCVDを含む。
【0067】
本発明の特定の実施形態によれば、抗ヒトPCSK9、またはその抗原結合断片は、配列番号6の軽鎖(カッパ)相補性決定領域(LCDR)1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含む。特定の実施形態においては、抗ヒトPCSK9抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号5のLCVDを含む。
【0068】
本明細書の実施例で用いられる非限定的な例示的抗体は、「mAb−316P」と呼ばれる。また、この抗体は、米国特許第7,608,693号においてはH4H098Pと呼ばれている。mAb−316P(H4H098P)は、配列番号1/5を有するHCVR/LCVRアミノ酸配列対、および配列番号2−配列番号3−配列番号4/配列番号6−配列番号7−配列番号8により表されるHCDR1−HCDR2−HCDR3/LCDR1−LCDR2−LCDR3ドメインを含む。
【0069】
本発明の医薬製剤中に含まれる抗体、またはその抗原結合断片の量は、製剤にとって望ましい特異的性質、ならびに製剤が使用を意図される特定の環境および目的に応じて変化してもよい。特定の実施形態においては、医薬製剤は、50±7.5mg/mL〜250±37.5mg/mLの抗体;60±9mg/mL〜240±36mg/mLの抗体;70±10.5mg/mL〜230±34.5mg/mLの抗体;80±12mg/mL〜220±33mg/mLの抗体;90±13.5mg/mL〜210±31.5mg/mLの抗体;100±15mg/mL〜200±30mg/mLの抗体;110±16.5mg/mL〜190±28.5mg/mLの抗体;120±18mg/mL〜180±27mg/mLの抗体;130±19.5mg/mL〜170±25.5mg/mLの抗体;140±21mg/mL〜160±24mg/mLの抗体;150±22.5mg/mLの抗体;または175±26.25mg/mlの抗体を含んでもよい液体製剤である。例えば、本発明の製剤は、ヒトPCSK9に特異的に結合する、約50mg/mL;約60mg/mL;約65mg/mL;約70mg/mL;約75mg/mL;約80mg/mL;約85mg/mL;約90mg/mL;約95mg/mL;約100mg/mL;約105mg/mL;約110mg/mL;約115mg/mL;約120mg/mL;約125mg/mL;約130mg/mL;約135mg/mL;約140mg/mL;約145mg/mL;約150mg/mL;約155mg/mL;約160mg/mL;約165mg/mL;約170mg/mL;約175mg/mL;約180mg/mL;約185mg/mL;約190mg/mL;約195mg/mL;約200mg/mL;約205mg/mL;約210mg/mL;約215mg/mL;約220mg/mL;約225mg/mL;約230mg/mL;約235mg/mL;約240mg/mL;約245mg/mL;または約250mg/mLの抗体またはその抗原結合断片を含んでもよい。
【0070】
賦形剤およびpH
本発明の医薬製剤は、1種またはそれ以上の賦形剤を含む。本明細書で用いられる用語「賦形剤」は、望ましい稠度、粘度または安定化効果を提供するために製剤に添加される任意の非治療剤を意味する。
【0071】
特定の実施形態においては、本発明の医薬製剤は、例えば、ボルテックスのような手荒な取り扱いまたは撹拌の条件下でもヒトPCSK9抗体を安定化する型および量の少なくとも1種の有機共溶媒を含む。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、手荒な取り扱いの過程にわたる抗体の総量の3%(モルベースで)を超える凝集した抗体の形成の防止を意味する。いくつかの実施形態においては、手荒な取り扱いは、抗体および有機共溶媒を含む溶液を約60分間または約120分間ボルテックスすることである。
【0072】
特定の実施形態においては、有機共溶媒は、アルキルポリ(エチレンオキシド)のような非イオン性界面活性剤である。本発明の製剤中に含有させることができる特定の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、およびポリソルベート85のようなポリソルベート;ポロキサマー181、ポロキサマー188、ポロキサマー407のようなポロキサマー;またはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。ポリソルベート20はまた、TWEEN20、モノラウリン酸ソルビタンおよびモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとしても知られる。ポロキサマー188は、PLURONIC F68としても知られる。
【0073】
本発明の医薬製剤中に含まれる非イオン性界面活性剤の量は、製剤にとって望ましい特異的性質、ならびに製剤が使用を意図される特定の環境および目的に応じて変化してもよい。特定の実施形態においては、製剤は、0.01%±0.0015%〜0.2%±0.03%の界面活性剤を含んでもよい。例えば、本発明の製剤は、約0.0085%;約0.01%;約0.02%;約0.03%;約0.04%;約0.05%;約0.06%;約0.07%;約0.08%;約0.09%;約0.1%;約0.11%;約0.12%;約0.13%;約0.14%;約0.15%;約0.16%;約0.17%;約0.18%;約0.19%;約0.20%;約0.21%;約0.22%;または約0.23%のポリソルベート20またはポロキサマー188を含んでもよい。
【0074】
本発明の医薬製剤はまた、熱ストレスの条件下でヒトPCSK9抗体を安定化する型および量の1種またはそれ以上の安定剤を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体および熱安定剤を含有する溶液が約45℃に最大約28日間保持された場合、約91%を超える抗体が未変性コンホメーションを維持することを意味する。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体および熱安定剤を含有する溶液が約45℃に最大約28日間保持された時、約6%未満の抗体が凝集することを意味する。本明細書で用いられる場合、「天然」とは、一般的にはその抗体の無傷の単量体である、サイズ排除による抗体の主な形態を意味する。
【0075】
特定の実施形態においては、熱安定剤は、スクロース、トレハロースおよびマンニトールから選択される糖もしくは糖アルコール、またはその任意の組合せであり、製剤中に含まれる量は、製剤が用いられる特定の環境および意図される目的に応じて変化してもよい。特定の実施形態においては、製剤は、約3%〜約14%の糖もしくは糖アルコール;約4%〜約13%の糖もしくは糖アルコール;約5%〜約12%の糖もしくは糖アルコール;約6%〜約11%の糖もしくは糖アルコール;約7%〜約10%の糖もしくは糖アルコール;約8%〜約9%の糖もしくは糖アルコール;約4%〜約6%の糖もしくは糖アルコール;約5%〜約7%の糖もしくは糖アルコール;約9%〜約11%の糖もしくは糖アルコール;または約11%〜約13%の糖もしくは糖アルコールを含んでもよい。例えば、本発明の医薬製剤は、4%±0.6%;5%±0.75%;6%±0.9%;7%±1.05%;8%±1.2%;9%±1.35%;10%±1.5%;11%±1.65%;12%±1.8%;13%±1.95%;または約14%±2.1%の糖もしくは糖アルコール(例えば、スクロース、トレハロースまたはマンニトール)を含んでもよい。
【0076】
本発明の医薬製剤はまた、安定なpHを維持し、ヒトPCSK9抗体を安定化するのを助けるのに役立つバッファーまたはバッファー系を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体およびバッファーを含有する溶液が約45℃で最大約28日間保持された場合、4.5%±0.5%未満または6.0±0.5%未満の抗体が凝集することを意味する。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体およびバッファーを含有する溶液が約37℃に最大約28日間保持された場合、3%±0.5%未満または2.6%±0.5%未満の抗体が凝集することを意味する。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体およびバッファーを含有する溶液が約45℃に最大約28日間保持された場合、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合に少なくとも91%±0.5%または少なくとも92%±0.5%の抗体がその未変性コンホメーションにあることを意味する。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体およびバッファーを含有する溶液が約37℃に最大約28日間保持された場合、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合に少なくとも94%±0.5%または少なくとも95%±0.5%の抗体がその未変性コンホメーションにあることを意味する。「天然」または「未変性コンホメーション」とは、凝集も分解もしていない抗体画分を意味する。これは一般に、サイズ排除クロマトグラフィーアッセイのような、抗体の実体の相対サイズを測定するアッセイにより決定される。非凝集および非分解抗体は、天然抗体に一致する画分で溶出し、一般的には、主な溶出画分である。凝集抗体は、天然抗体よりも大きいサイズを示す画分で溶出する。分解抗体は、天然抗体よりも小さいサイズを示す画分で溶出する。
【0077】
いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体およびバッファーを含有する溶液が約45℃に最大約28日間保持された場合、陽イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合に少なくとも38%±0.5%または少なくとも29%±0.5%の抗体がその主電荷形態にあることを意味する。いくつかの実施形態においては、「安定化する」とは、抗体およびバッファーを含有する溶液が約37℃で最大約28日間保持された場合、陽イオン交換クロマトグラフィーにより決定された場合に少なくとも46%±0.5%または少なくとも39%±0.5%の抗体がその主電荷形態にあることを意味する。「主電荷」または「主電荷形態」とは、主要ピーク中のイオン交換樹脂から溶出する抗体の画分が、一般的に一方の側のより「塩基性」のピークおよび他方の側のより「酸性」のピークに隣接することを意味する。
【0078】
本発明の医薬製剤は、約5.2〜約6.4のpHを有してもよい。例えば、本発明の製剤は、約5.5;約5.6;約5.7;約5.8;約5.9;約6.0;約6.1;約6.2;約6.3;約6.4;または約6.5のpHを有してもよい。いくつかの実施形態においては、pHは6.0±0.4;6.0±0.3;6.0±0.2;6.0±0.1;約6.0;または6.0である。
【0079】
いくつかの実施形態においては、バッファーまたはバッファー系は、pH5.5〜7.4の範囲に完全または部分的に重複する緩衝範囲を有する少なくとも1種のバッファーを含む。一実施形態においては、バッファーは、約6.0±0.5のpKaを有する。特定の実施形態においては、バッファーは、ヒスチジンバッファーを含む。特定の実施形態においては、ヒスチジンは、5mM±0.75mM〜15mM±2.25mM;6mM±0.9mM〜14mM±2.1mM;7mM±1.05mM〜13mM±1.95mM;8mM±1.2mM〜12mM±1.8mM;9mM±1.35mM〜11mM±1.65mM;10mM±1.5mM;または約10mMの濃度で存在する。特定の実施形態においては、バッファー系は、6.0±0.3のpHの、10mM±1.5mMのヒスチジンを含む。
【0080】
本発明の医薬製剤はまた、高濃度の抗PCSK9抗体薬剤物質(例えば、一般的には、150mg/mlを超える抗体)を含有する製剤の低下した粘度を維持するか、またはその粘度を低下させるのに役立つ1種またはそれ以上の賦形剤を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、製剤は、液体製剤の粘度を20±3センチポアズ未満、15±2.25センチポアズ未満、または11±1.65センチポアズ未満に維持するのに十分な量のアルギニンを含む。いくつかの実施形態においては、製剤は、10.6±1.59センチポアズ以下の粘度を維持するのに十分な量のアルギニンを含む。特定の実施形態においては、本発明の医薬製剤は、10mM±1.5mM〜90mM±13.5mM、20mM±3mM〜80mM±12mM、30mM±4.5mM〜70mM±10.5、40mM±6mM〜60±9mMまたは50mM±7.5mMの濃度のアルギニン、好ましくは、L−塩酸アルギニンを含有する。
【0081】
例示的製剤
本発明の一態様によれば、医薬製剤は、(i)50mg/mL±7.5mg/mL、100mg/ml±15mg/mL、150mg/mL±22.5mg/mL、または175mg/mL±26.25mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合するヒト抗体(例えば、mAb−316P);(ii)pH約6.0±0.3で十分な緩衝化を提供するバッファー系;(iii)特に、熱安定剤として役立つ糖;(iv)抗体の場合、構造的完全性を保護する有機共溶媒;および(v)皮下投与にとって都合の良い容量での注射のために管理可能な粘度を保持するのに役立つアミノ酸の塩を含む、低粘度の、一般的には生理的等張性液体製剤である。
【0082】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)50±7.5mg/mL〜約175±26.25mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、置換されたIGHV3−23型重鎖可変領域および置換されたIGLV4−1型軽鎖可変領域を含むヒトIgG1抗体(例えば、mAb−316P);(ii)pH約6.0±0.3で効果的にバッファーの役割を果たす、ヒスチジンを含むバッファー系;(iii)スクロース;(iv)ポリソルベートのような非イオン性界面活性剤;ならびに場合により(v)アルギニン塩を含む。
【0083】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)175mg/ml±26.25mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号2のHCDR1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6のLCDR1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、10mM±1.5mMのヒスチジン;(iii)5%w/v±0.75%w/vのスクロース;(iv)0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20;ならびに(v)50mM±7.5mMのL−塩酸アルギニンを含む。
【0084】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)約150mg/ml±22.5mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号2のHCDR1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6のLCDR1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、10mM±1.5mMのヒスチジン;(iii)10%w/v±1.5%w/vのスクロース;ならびに(iv)0.2%w/v±0.03%w/vまたは0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20を含む。
【0085】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)約100mg/mL±15mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号2のHCDR1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6のLCDR1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、約20mM±3mMのヒスチジン;(iii)12%w/v±1.8%w/vのスクロース;ならびに(iv)0.2%w/v±0.03%w/vまたは0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20を含む。
【0086】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)約50mg/mL±7.5mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号2のHCDR1、配列番号3のHCDR2、配列番号4のHCDR3、配列番号6のLCDR1、配列番号7のLCDR2、および配列番号8のLCDR3を含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、10mM±1.5mMのヒスチジン;(iii)6%w/v±0.9%w/vのスクロース;ならびに(iv)0.1%w/v±0.015%w/vまたは0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20を含む。
【0087】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)175mg/ml±26.25mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号1の重鎖可変ドメイン、および配列番号5の軽鎖可変ドメインを含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、10mM±1.5mMのヒスチジン;(iii)5%w/v±0.75%w/vのスクロース;(iv)0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20;ならびに(v)50mM±7.5mMのL−塩酸アルギニンを含む。
【0088】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)約150mg/ml±22.5mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号1の重鎖可変ドメイン、および配列番号5の軽鎖可変ドメインを含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、10mM±1.5mMのヒスチジン;(iii)10%w/v±1.5%w/vのスクロース;ならびに(iv)0.2%w/v±0.03%w/vまたは0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20を含む。
【0089】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)約100mg/mL±15mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号1の重鎖可変ドメイン、および配列番号5の軽鎖可変ドメインを含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、約20mM±3mMのヒスチジン;(iii)12%w/v±1.8%w/vのスクロース;ならびに(iv)0.2%w/v±0.03%w/vまたは0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20を含む。
【0090】
一実施形態によれば、医薬製剤は、(i)約50mg/mL±7.5mg/mLの濃度の、ヒトPCSK9に特異的に結合し、配列番号1の重鎖可変ドメイン、および配列番号5の軽鎖可変ドメインを含むヒトIgG1抗体;(ii)pH6.0±0.3でバッファーの役割を果たす、10mM±1.5mMのヒスチジン;(iii)6%w/v±0.9%w/vのスクロース;ならびに(iv)0.1%w/v±0.015%w/vまたは0.01%w/v±0.0015%w/vのポリソルベート20を含む。
【0091】
本発明により包含される医薬製剤のさらなる非限定例は、以下に提示される実施例を含む本明細書の他の場所に記載される。
【0092】
医薬製剤の安定性および粘度
本発明の医薬製剤は、典型的には、高レベルの安定性を示す。医薬製剤を参照して本明細書で用いられる用語「安定な」とは、医薬製剤中の抗体が規定の条件下での保存後に許容される程度の化学的構造または生物学的機能を保持することを意味する。製剤は、その中に含まれる抗体が規定の時間量にわたる保存後にその化学的構造または生物学的機能の100%を維持しない場合であっても安定であってよい。特定の環境下で、規定の時間量にわたる保存後の抗体の構造または機能の約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、または約99%の維持を「安定」と見なすことができる。
【0093】
安定性を、特に、規定の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中に残留する天然抗体のパーセンテージを決定することにより測定することができる。天然抗体のパーセンテージを、天然が非凝集および非分解を意味するように、特に、サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー[SE−HPLC])により決定することができる。「許容される程度の安定性」は、その語句が本明細書で用いられる場合、少なくとも90%の天然形態の抗体を、所与の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中で検出することができることを意味する。特定の実施形態においては、天然形態の抗体の少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%を、規定の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中で検出することができる。安定性を測定する前の規定の時間量は、少なくとも14日、少なくとも28日、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月またはそれ以上であってよい。安定性を評価する場合に医薬製剤を保存することができる規定の温度は、約−80℃〜約45℃の任意の温度であってよく、例えば、約−80℃、約−30℃、約−20℃、約0℃、約4〜8℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃、または約45℃での保存であってよい。例えば、医薬製剤は、5℃で6カ月間の保存後に約95%、96%、97%または98%を超える天然抗体がSE−HPLCにより検出される場合に安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、25℃での保存の6カ月後に、約94%、95%、96%、97%または98%を超える天然抗体がSE−HPLCにより検出される場合に安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、45℃での保存の28日後に、約91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%または98%を超える天然抗体がSE−HPLCにより検出される場合に安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、−20℃で3カ月間の保存後に、約96%、97%または98%を超える天然抗体がSE−HPLCにより検出される場合に安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、−30℃で3カ月間の保存後に、約96%、97%または98%を超える天然抗体がSE−HPLCにより検出される場合に安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、−80℃で3カ月間の保存後に、約96%、97%または98%を超える天然抗体がSE−HPLCにより検出される場合に安定であると見なすことができる。
【0094】
安定性は、特に、規定の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中の凝集物中で形成する抗体のパーセンテージを決定することにより測定することができ、ここで安定性は形成される凝集物の%に反比例する。凝集抗体のパーセンテージを、特に、サイズ排除クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー[SE−HPLC])により決定することができる。「許容される程度の安定性」は、その語句が本明細書で用いられる場合、多くても6%の抗体が、所与の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中で検出される凝集形態にあることを意味する。特定の実施形態においては、許容される程度の安定性は、多くても約6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%の抗体を、所与の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中の凝集物中で検出することができることを意味する。安定性を測定する前の規定の時間量は、少なくとも2週、少なくとも28日、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月またはそれ以上であってもよい。安定性を評価する場合に医薬製剤を保存することができる温度は、約−80℃〜約45℃の任意の温度であってよく、例えば、約−80℃、約−30℃、約−20℃、約0℃、約4〜8℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃または約45℃での保存であってよい。例えば、医薬製剤は、5℃での保存の6カ月後に、約3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体が凝集形態で検出される場合、安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、25℃での保存の6カ月後に、約4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体が凝集形態で検出される場合、安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、45℃での保存の28日後に、約6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体が凝集形態で検出される場合、安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、−20℃、−30℃、または−80℃での保存の3カ月後に、約3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体が凝集形態で検出される場合、安定であると見なすことができる。
【0095】
安定性を、特に、抗体の主画分(「主電荷形態」)中よりもイオン交換中のより酸性の画分(「酸性形態」)中に移動する抗体のパーセンテージを決定することにより測定することができ、ここで、安定性は酸性形態の抗体画分に反比例する。理論によって束縛されることを望むものではないが、抗体の脱アミド化により、抗体が非脱アミド化抗体と比較して、より負に荷電するようになり、かくして、より酸性になり得る(例えば、Robinson,N.、Protein Deamidation、PNAS、200年4月16日、99(8):5283〜5288頁を参照されたい)。「酸性化」抗体のパーセンテージを、特に、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィー[CEX−HPLC])により決定することができる。「許容される程度の安定性」は、その語句が本明細書で用いられる場合、多くても49%の抗体が、規定の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中で検出されるより酸性の形態にあることを意味する。特定の実施形態においては、許容される程度の安定性は、多くても約49%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%の抗体を、所与の温度での規定の時間量にわたる保存後に製剤中で酸性形態で検出することができることを意味する。安定性を測定する前の規定の時間量は、少なくとも2週間、少なくとも28日、少なくとも1カ月、少なくとも2カ月、少なくとも3カ月、少なくとも4カ月、少なくとも5カ月、少なくとも6カ月、少なくとも7カ月、少なくとも8カ月、少なくとも9カ月、少なくとも10カ月、少なくとも11カ月、少なくとも12カ月、少なくとも18カ月、少なくとも24カ月、またはそれ以上であってもよい。安定性を評価する場合に医薬製剤を保存することができる温度は、約−80℃〜約45℃の任意の温度であってよく、例えば、約−80℃、約−30℃、約−20℃、約0℃、約4〜8℃、約5℃、約25℃、または約45℃での保存であってもよい。例えば、医薬製剤は、−80℃、−30℃、または−20℃での3カ月の保存後に、約30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体がより酸性の形態にある場合、安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、5℃での6カ月間の保存後に、約32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体がより酸性の形態にある場合、安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、25℃での6カ月間の保存後に、約43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体がより酸性の形態にある場合、安定であると見なすことができる。医薬製剤はまた、45℃で28日間の保存後に、約49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%または0.1%未満の抗体をより酸性の形態で検出することができる場合、安定であると見なすことができる。
【0096】
例えば、熱安定性を決定するための示差走査熱量測定法(DSC)、機械的安定性を決定するための撹拌制御、および溶液の濁度を決定するための約350nmまたは約405nmでの吸光度のような、他の方法を用いて、本発明の製剤の安定性を評価することができる。例えば、本発明の製剤は、約5℃〜約25℃で6カ月間またはそれ以上の保存後に、製剤のOD405の変化が、時間0での製剤のOD405から約0.05未満(例えば、0.04、0.03、0.02、0.01、またはそれ以下)である場合、安定であると考えることができる。
【0097】
抗体のその標的に対する生物学的活性または結合親和性の測定を用いて、安定性を評価することもできる。例えば、本発明の製剤は、例えば、5℃、25℃、45℃などでの規定の時間量(例えば、1〜12カ月)にわたる保存後に、製剤中に含まれる抗PCSK9抗体が、前記保存の前の抗体の結合親和性の少なくとも90%、95%またはそれ以上である親和性でPCSK9に結合する場合、安定であると見なすことができる。結合親和性を、例えば、ELISAまたはプラズモン共鳴により決定することができる。生物学的活性を、例えば、PCSK9を発現する細胞を抗PCSK9抗体を含む製剤と接触させることなどのPCSK9活性アッセイにより決定することができる。そのような細胞への抗体の結合を、例えば、FACS分析などにより直接測定することができる。あるいは、PCSK9系の下流の活性を、抗体の存在下で測定し、抗体の非存在下でのPCSK9系の活性と比較することができる。いくつかの実施形態においては、PCSK9は、細胞にとって内因性でありうる。他の実施形態においては、PCSK9を細胞中で異所的に発現させることができる。
【0098】
製剤中の抗体の安定性を評価するためのさらなる方法は、以下に提供される実施例に示される。
【0099】
本発明の液体医薬製剤は、特定の実施形態においては、低レベルから中レベルの粘度を示してもよい。本明細書で用いられる「粘度」は、「運動粘度」または「絶対粘度」であってもよい。「運動粘度」は、重力の影響下での流体の抵抗流の尺度である。等量の2つの流体を同一の毛細管粘度計に入れ、重力により流動させた場合、粘性流体は、粘度の低い流体が毛細管を流動するよりも長くかかる。例えば、ある流体がその流動を完了するのに200秒かかり、別の流体が400秒かかる場合、第二の流体は運動粘度スケールにおいて第一の流体の2倍の粘度を有する。「絶対粘度」は、動的粘度または単純粘度と呼ばれることもあり、運動粘度と流体密度との積である(絶対粘度=運動粘度×密度)。運動粘度の次元は、L2/T(ここで、Lは長さであり、Tは時間である)である。一般に、運動粘度は、センチストーク(cSt)で表される。運動粘度のSI単位はmm2/sであり、これは1cStである。絶対粘度は、センチポアズ(cP)の単位で表される。絶対粘度のSI単位は、ミリパスカル−秒(mPa−s)であり、ここで1cP=1mPa−sである。
【0100】
本発明の液体製剤を参照して、本明細書で用いられる場合、低レベルの粘度は、約15センチポアズ(cP)未満の絶対粘度を示す。例えば、本発明の液体製剤は、標準的な粘度測定技術を用いて測定した時に、製剤が約15cP、約14cP、約13cP、約12cP、約11cP、約10cP、約9cP、約8cP、またはそれ以下の絶対粘度を示す場合、「低粘度」を有すると見なされる。本発明の液体製剤を参照して、本明細書で用いられる場合、中レベルの粘度は、約35cP〜約15cPの絶対粘度を示す。例えば、本発明の液体製剤は、標準的な粘度測定技術を用いて測定した時に、製剤が約34cP、約33cP、約32cP、約31cP、約30cP、約29cP、約28cP、約27cP、約26cP、約25cP、約24cP、約23cP、約22cP、約21cP、約20cP、約19cP、18cP、約17cP、約16cP、または約15.1cPの絶対粘度を示す場合、「中粘度」を有すると見なされる。
【0101】
以下の実施例に示されるように、本発明者らは、高濃度の抗ヒトPCSK9抗体(例えば、約100mg/ml〜少なくとも200mg/mL)を含む低〜中粘度の液体製剤を、該抗体を約25mM〜約100mMのアルギニンと共に製剤化することにより取得することができるという驚くべき発見をした。さらに、スクロース含量を約10%未満に調整することにより、製剤の粘度をさらにより高い程度で低下させることができることがさらに発見された。
【0102】
容器および投与方法
本発明の医薬製剤を、医薬および他の治療組成物の保存に適する任意の容器内に含有させることができる。例えば、医薬製剤を、バイアル、アンプル、シリンジ、カートリッジ、またはビンのような規定の容量を有する密閉され、滅菌されたプラスチックまたはガラス容器内に含有させることができる。例えば、透明および不透明(例えば、琥珀色)のガラスまたはプラスチックバイアルを含む、様々な型のバイアルを用いて、本発明の製剤を含有させることができる。同様に、任意の型のシリンジを用いて、本発明の医薬製剤を含有させるか、または投与することができる。
【0103】
本発明の医薬製剤を、「標準タングステン」シリンジまたは「低タングステン」シリンジ内に含有させることができる。当業者には理解されるように、ガラスシリンジを作製する方法は一般に、ガラスを貫通するように機能する加熱タングステン棒の使用を含み、それによって、液体を引き出し、シリンジから排出することができる穴を作出する。この方法は、シリンジの内部表面上に微量のタングステンの沈着をもたらす。その後の洗浄および他の加工工程を用いて、シリンジ中のタングステンの量を減少させることができる。本明細書で用いられる用語「標準タングステン」とは、シリンジが500ppb(10億分の1)以上のタングステンを含有することを意味する。用語「低タングステン」とは、シリンジが500ppb未満のタングステンを含有することを意味する。例えば、本発明による低タングステンシリンジは、約490、480、470、460、450、440、430、420、410、390、350、300、250、200、150、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10ppb未満またはそれより少ないタングステンを含有してもよい。
【0104】
シリンジにおいて用いられるゴムプランジャ、およびバイアルの開口部を閉じるのに用いられるゴム栓を、シリンジもしくはバイアルの薬剤内容物の汚染を防止するか、またはその安定性を保つために被覆することができる。かくして、特定の実施形態によれば、本発明の医薬製剤を、被覆プランジャを含むシリンジ内、または被覆ゴム栓で密閉されたバイアル内に含有させることができる。例えば、プランジャまたは栓を、フッ化炭素フィルムで被覆することができる。本発明の医薬製剤を含有するバイアルおよびシリンジと共に用いるのに適する被覆栓またはプランジャの例は、例えば、米国特許第4,997,423号;第5,908,686号;第6,286,699号;第6,645,635号;および第7,226,554号に記載されており、その内容はその全体が参照によって本明細書に組み入れられる。本発明の文脈において用いることができる被覆ゴム栓およびプランジャの特定例は、West Pharmaceutical Services,Inc.(Lionville、PA)から入手可能な商標名「FluroTec(登録商標)」の下で商業的に入手可能である。FluroTec(登録商標)は、医薬品(drug product)のゴム表面への付着を最小化するか、または防止するために用いられるフッ化炭素コーティングの一例である。
【0105】
本発明の特定の実施形態によれば、医薬製剤を、フッ化炭素被覆プランジャを含む低タングステンシリンジ内に含有させることができる。
【0106】
医薬製剤を、注射(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内など)のような非経口経路または経皮、粘膜、経鼻、経肺もしくは経口投与により患者に投与することができる。いくつかの再利用できるペンまたは自己注射送達デバイスを用いて、本発明の医薬製剤を皮下送達することができる。例としては、限定されるものではないが、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(sanofi−aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられる。本発明の医薬組成物の皮下送達における適用を有する使い捨てペンまたは自己注射送達デバイスの例としては、限定されるものではないが、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi−aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)Pen(Abbott Labs、Abbott Park、IL)が挙げられる。
【0107】
本発明の医薬製剤を送達するためのマイクロインフューザの使用も、本明細書で想定される。本明細書で用いられる用語「マイクロインフューザ」とは、長時間(例えば、約10、15、20、25、30分以上)にわたって大量(例えば、最大で約2.5mL以上)の治療製剤をゆっくり投与するように設計された皮下送達デバイスを意味する。例えば、米国特許第6,629,949号;米国特許第6,659,982号;およびMeehanら、J.Controlled Release 46:107〜116頁(1996)を参照されたい。マイクロインフューザは、高濃度(例えば、約100、125、150、175、200mg/mL以上)または粘性の溶液中に含まれる高用量の治療タンパク質の送達にとって特に有用である。
【0108】
一実施形態においては、約175mg/mL±26.25mg/mLの抗PCSK9抗体を含有する液体医薬製剤は、プレフィルドシリンジ中の約1.14mL±0.17mlの容量で皮下投与される。一実施形態においては、シリンジは、27ゲージの薄壁針、フッ化炭素被覆ゴムプランジャおよびゴム針シールドを用いて充填された1mL長ガラスシリンジである。一実施形態においては、シリンジは、27ゲージ針、FM27ゴム針シールド、およびFLUROTEC(登録商標)被覆4023/50ゴムプランジャを用いて固定されたOMPI 1mL長ガラスシリンジである。
【0109】
一実施形態においては、約150mg/mL±22.5mg/mLの抗PCSK9抗体を含有する液体医薬製剤は、プレフィルドシリンジ中の約1mL±0.15mlの容量で皮下投与される。一実施形態においては、シリンジは、27ゲージの薄壁針、フッ化炭素被覆ゴムプランジャおよびゴム針シールドを用いて充填された1mL長ガラスシリンジである。一実施形態においては、シリンジは、27ゲージ針、FM27ゴム針シールド、およびFLUROTEC(登録商標)被覆4023/50ゴムプランジャを用いて固定されたOMPI 1mL長ガラスシリンジである。
【0110】
医薬製剤の治療的使用
本発明の医薬製剤は、特に、PCSK9により媒介される疾患または障害を含めた、PCSK9活性と関連する任意の疾患または障害の処置、防止または改善にとって有用である。本発明の医薬製剤の投与により処置または防止することができる疾患および障害の非限定例としては、例えば、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、高脂血症、家族性高脂血症、異常βリポタンパク質血症、家族性異常βリポタンパク質血症、高トリグリセリド血症、および家族性高トリグリセリド血症などの様々な脂質異常症が挙げられる。
【実施例】
【0111】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を作製し、使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明者らがその発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではない。用いられる数(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力が為されたが、いくらかの実験誤差および偏差が生じるはずである。別途指摘しない限り、部はモル部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、および圧力は大気圧でのもの、または大気圧に近いものである。
【0112】
初期の製剤開発活動は、静脈内および皮下注射のためのほぼ生理的なオスモル濃度および低い粘度を維持しながら、タンパク質と適合し、その安定性を増強する賦形剤を同定するための、mAb−316P(本発明の抗PCSK9抗体)の液体および凍結乾燥製剤における有機共溶媒、熱安定剤、およびバッファーのスクリーニングを含んでいた。最大のタンパク質安定性のための最適なpHを決定するためにバッファー条件も試験した。
【0113】
〔実施例1〕
抗PCSK1 MAB−316P製剤の開発
様々なバッファー、有機共溶媒、および熱安定剤をスクリーニングして、PCSK9抗体の安定性を増強する賦形剤を同定した。最大の抗体安定性のための最適なpHを決定するために、バッファー条件も試験した。これらの研究から得られた結果を用いて、静脈内(IV)または皮下投与(SC)のための臨床使用に適する安定な液体製剤、ならびに安定な凍結乾燥製剤を開発した。凍結乾燥医薬品のために、IVについては50mg/mLまたはSC投与については100mg/mLの濃度に、注射用滅菌水(WFI)を用いて再構成させることができる単一の二重使用製剤を開発した。一度、50mg/mLに再構成されたら、IV送達のために0.9%塩化ナトリウムを含有するIVバッグ中で医薬品をさらに希釈することができる。液体製剤のために、mAb−316Pを175±27mg/mlおよび150±23mg/mlで製剤化した。一実施形態においては、175±27mg/mLのmAb−316Pを、10±1.5mMのヒスチジン(pH6.0±0.3)、0.01%±0.0015%のポリソルベート20、5%±0.75%のスクロース中で製剤化した。一実施形態においては、150±23mg/mLのmAb−316Pを、10±1.5mMのヒスチジン(pH6.0±0.3)、0.2%±0.03%または0.01%±0.0015%のポリソルベート20、10%±1.5%のスクロース中で製剤化した。
【0114】
〔実施例2〕
抗PCSK1 MAB−316PのバッファーおよびpH
PCSK9抗体の安定性に対するpHおよびバッファーの種類の効果を、液体製剤中で試験した。2mg/mLの抗PCSK9 mAb−316Pを、それぞれ10mMの酢酸(pH5.0〜5.5)、クエン酸(pH5.5〜6.0)、コハク酸(pH6.0)、ヒスチジン(pH6.0)、リン酸(pH6.0〜7.5)、またはTris(pH8.0)バッファー中、45℃でインキュベートして、タンパク質の熱安定性に対するバッファーおよびpHの効果を評価した(表1)。この実験のために、液体製剤を、FLUROTEC(登録商標)被覆4432/50ブチルゴム栓を備えた2mL容量の1型ホウケイ酸ガラスバイアル中、0.35mLとしてそれぞれ保持した。回収されたmAb−316Pの総量を、逆相クロマトグラフィーを用いて決定した。天然形態と凝集形態のmAb−316Pのパーセンテージを、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて決定した。酸性種と塩基性種のmAb−316Pのパーセンテージを、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて決定した。抗PCSK9 mAb−316PをpH6.0の10mMヒスチジンバッファー中で製剤化した場合、サイズ排除クロマトグラフィー(SE)および陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)の両方により決定されたように、最大のタンパク質安定性が観察された。
【0115】
次いで、pH5.5〜pH6.5のヒスチジンバッファー中、45℃で10mg/mLのmAb−316Pをインキュベートすることにより、mAb−316Pの最適pHを決定した。mAb−316PをpH6.0に緩衝化されたヒスチジン中で製剤化した場合、SEおよびCEXにより決定されたように、最大のタンパク質安定性が観察された(表2)。これらの分析はまた、主なタンパク質分解経路が、凝集物、切断産物、および電荷変異体の形成であることも示した。これらの結果に基づいて、pH6.0の10mMヒスチジンバッファーを、液体および凍結乾燥mAb−316P製剤の開発のために選択した。
【0116】
製剤開発研究からの結果は、塩基性条件下(pH≧6.5)で、溶液中の抗PCSK9 mAb−316Pは脱アミド化反応を受け得ることを示している。逆に、pH≦5.5では、mAb−316Pの分子量変異体の形成速度の増加が観察された。これらのデータに基づいて、mAb−316Pの製剤に用いられるバッファーのpHを、pH5.7〜pH6.3に維持する。mAb−316Pの安定性の加速は、このpH範囲にわたって類似する。
【0117】
〔実施例3〕
撹拌ストレスに対する保護剤の選択
撹拌ストレスに起因するmAb−316Pを含有する混合物中での粒子状物質の形成を最小化する能力について、様々な共溶媒を個別に試験した。撹拌された薬剤物質の濁度分析により、mAb−316Pを含有する溶液(FLUROTEC(登録商標)被覆4432/50ブチルゴム栓を備えた2mL容量の1型ホウケイ酸ガラスバイアル中、0.35mLの25mg/mLのmAb−316P、10mMのヒスチジン、pH6.0±0.2)を120分間ボルテックスした場合、405nmでの光密度(OD)の増加が示された(表3)。評価された共溶媒のいずれかを含む製剤は、撹拌により誘導される濁度の増加を防止したと考えられる。しかしながら、20%のPEG300、10%のPEG300、および20%のプロピレングリコールは、SEにより決定されたように、mAb−316Pの熱安定性を有意に低下させた(表4;上記のボルテックス試験におけるものと同じmAb−316P濃度、バッファー、および容器条件)。ポリソルベート20、ポリソルベート80、プルロニックF68、およびPEG3350を含む製剤は、SEおよびCEXにより決定されたように、mAb−316Pの熱安定性に対する有意な効果を有さず、これらの共溶媒を、抗PCSK9 mAb−316Pを製剤化するのに好適にする。ポリソルベート20はmAb−316Pの撹拌試験および熱試験の両方において良好な安定性属性を示したため、mAb−316Pの凍結乾燥および液体製剤の両方の開発のための有機共溶媒としてポリソルベート20を選択した。
【0118】
〔実施例4〕
熱ストレスに対する保護剤の選択
糖、アミノ酸、および無機塩を含む多様な一覧から選択された様々な賦形剤を個別に試験して、mAb−316Pの熱安定性を最適に増加させた。試験したいくつかの熱安定剤の概要を、表5に提示する。これらの実験のために、「熱安定剤」賦形剤を、10mMヒスチジン中の20mg/mLのmAb−316Pの溶液(FLUROTEC(登録商標)被覆4432/50ブチルゴム栓を備えた2mL容量の1型ホウケイ酸ガラスバイアル中、0.35mL)中に含有させた。スクロース、ソルビトール、マンニトール、およびトレハロースを含有する製剤は、SE分析により決定された場合、最少量のmAb−316P分解物を有していた。しかしながら、ソルビトールを含有するこれらの製剤は、スクロース、トレハロース、およびマンニトールを含有するこれらの製剤と比較して、驚くべき濁度の増加を示した(表5)。スクロース、トレハロース、およびマンニトールは抗PCSK9 mAb−316Pの電荷変異体の形成に対する効果を有さないことが観察されたが、マンニトールは複数回の凍結−融解サイクルの間にタンパク質を脱安定化することが観察された。かくして、mAb−316Pは、スクロースまたはトレハロースを用いて製剤化された場合に類似する安定性を有する。
【0119】
〔実施例5〕
凍結乾燥製剤
特に電荷変異体に関して、抗PCSK9 mAb−316Pの安定性を増加させるため、およびmAb−316Pの最大送達可能濃度を増加させるために、凍結乾燥製剤を開発した。FLUROTEC(登録商標)被覆4432/50ブチルゴム栓を備えた2mL容量の1型ホウケイ酸ガラスバイアル中、様々なリオプレテクタント(lyoprotectant)を、0.7mLの50mg/mLのmAb−316P、10mMのヒスチジンと混合し、凍結乾燥し、50℃でインキュベートした時に凍結乾燥されたmAb−316Pを安定化するその能力について試験した。分析の前に、凍結乾燥ケーキを、100mg/mLのmAb−316Pに再構成させた。SEおよびCEXにより決定された場合、最大の安定性を有する2つの凍結乾燥製剤は、1)6%のスクロースまたは2)2%のスクロース+2%アルギニンを含んでいた。mAb−316P医薬品製剤のために6%のスクロースを選択した。かくして、抗PCSK9 mAb−316P凍結乾燥医薬品を、最適化された、10mMヒスチジン、pH6.0±0.1、0.1%(w/v)ポリソルベート20、6%(w/v)スクロース、および50mg/mL抗PCSK9 mAb−316Pを含有する水性緩衝化製剤中での凍結乾燥により生成させた。この凍結乾燥製剤の保存およびストレス安定性を、表7に提示する。
【0120】
周囲以下の(subambient)変調示差走査熱量測定法(mDSC)を用いて測定された、製剤の測定されたTg’(凍結ガラス転移温度)に基づいて、抗pPCSK9 mAb−316P凍結乾燥サイクルを開発した。生成物の温度は一次乾燥中にTg’を超えてはならず、これは−27.9℃であると決定された。
【0121】
5.3mLの50mg/mLのmAb−316P、10mMのヒスチジン(pH6.0)、0.1%のポリソルベート20、6%のスクロース製剤を20mLの1型ガラスバイアル中に充填し、以下の工程に従って凍結乾燥することにより、凍結乾燥されたmAb−316Pを生成させた:
1.ロード中に必要とされる棚温度: 5〜25℃
2.初期保持: 5℃で60分間
3.凍結のためのランプ速度(時間): 0.5℃/min(100分間)
4.保持: −45℃で120分間
5.減圧設定点: 100mTorr
6.一次乾燥までの加熱のためのランプ速度(時間):
0.5℃/min(40分間)
7.一次乾燥の棚温度: −25℃
8.一次乾燥の長さ: 78時間
9.二次乾燥までの加熱のためのランプ速度(時間):
0.2℃/min(300分間)
10.二次乾燥の棚温度: 35℃
11.二次乾燥の長さ: 6時間
12.冷却のためのランプ速度(時間): 0.5℃/min(20分間)
13.保持: 25℃で60分間
14.窒素ガスをバックフィル
15.減圧下での栓をする:大気圧の80%(608,000mTorr)。
【0122】
二次乾燥の後であって栓をする工程の前に幅広い保存が必要とされる場合、凍結乾燥機の棚温度を2〜8℃にした。上記の最終サイクルを用いて生成された凍結乾燥医薬品は、良好なケーキ状外見、低い湿度含量(0.3%)を有し、再構成時間が4分未満であり、および濁りのない再構成された溶液に濁りはなかった。
【0123】
mAb−316P医薬品(mAb−316P DP)を50℃で2カ月間インキュベートするか、または5℃で3カ月間保存した場合、凍結乾燥ケーキの外見は影響されなかった。再構成されたmAb−316P医薬品のpH、外見、または濁度に対する影響はなく、回収されたmAb−316Pの量に有意差はなかった。50℃でのインキュベーションの2カ月後、凍結乾燥mAb−316P医薬品は、SE−HPLCにより決定された場合、1.1%多く分解され、CEX−HPLCにより決定された場合、8.3%多く分解された。凍結乾燥mAb−316P医薬品を5℃で3カ月間保存した場合、有意な分解は観察されなかった。抗PCSK9バイオアッセイを用いて決定された場合、ストレスを加えた試料のいずれについても、効果の有意な喪失は観察されなかった。
【0124】
〔実施例6〕
液体および再構成されたMAB−316P
投与経路に応じて、凍結乾燥mAb−316P医薬品を再構成させるための2つの方法がある。IV投与については、mAb−316P医薬品を、5.0mLの滅菌WFIを用いて再構成させて、50mg/mLのmAb−316P、10mMのヒスチジン、pH6.0、0.1%(w/v)のポリソルベート20、および6%(w/v)のスクロースを含有する5.3mLの溶液を得る。SC投与については、mAb−316P医薬品を2.3mLの滅菌WFIを用いて再構成させて、100mg/mLのREGN727、20mMのヒスチジン、pH6.0、0.2%(w/v)のポリソルベート20、および12%(w/v)のスクロースを含有する2.7mLの溶液を得る。離脱のために利用可能な容量は、IVについては4.8mLであり、SC注射については2.0mLである;過剰量の0.7mLの再構成溶液がSCバイアル中に含有される。
【0125】
別の方法では、凍結乾燥の介入工程を用いることなく、液体mAb−316Pを液体製剤として製剤化する。液体mAb−316P製剤は、10±1.5mMのヒスチジン(pH6.0±0.3)、0.01%±0.0015%または0.2%±0.03%のポリソルベート20、5%±0.75%または10%±1.5%のスクロース、および175mg/mLの製剤の場合、50±7.5mMのアルギニン中の、150mg/mL(±15%)または175mg/mL(±15%)の抗PCSK9 mAb−316Pである。
【0126】
抗PCSK9 mAb−316Pは、滅菌濾過された場合に安定であることがわかった。臨床供給物の製造においてはMillipore MILLIPAK濾過ユニットを用いたが、研究試験においては同一組成のフィルターを用いた(Millipore MILLEX DURAPORE)。ガラスバイアル中での保存と比較して、mAb−316P製剤化薬剤物質(mAb−316P FDS)の安定性は、ポリプロピレン管、ポリスチレン管、ポリカーボネート管、またはステンレススチール製ボールベアリングを含むガラスバイアル中で保存された場合に有意に影響されなかった(表8)。
【0127】
〔実施例7〕
プレフィルドシリンジ中の液体製剤
SC送達のためにプレフィルドシリンジ(PFS)中で用いることができるmAb−316Pの高濃度液体製剤を開発する目的で、製剤開発研究を行った。開発段階の凍結乾燥REGN727製剤からの結果により、最適なバッファー、pH、有機共溶媒、および熱安定剤が、それぞれ、ヒスチジン、pH6.0、ポリソルベート20、およびスクロースであることが示された(上掲)。これらの同じ賦形剤を用いて、150mg/mLおよび175mg/mLの両方のmAb−316P医薬品製剤を開発した。175mg/mL型のmAb−316P医薬品にアルギニンを添加して、製剤の粘度を低下させた。150および175mg/mLのmAb−316P医薬品のストレス安定性を、1mLの長さのガラスNuova OMPI Pre−filled Syringe(PFS)中で試験し、対照のガラスバイアル中の150および175mg/mL医薬品の安定性と比較した。OMPI PFSとガラス対照バイアルとの間で、45℃での150または175mg/mLのmAb−316P医薬品のインキュベーション後に、物理的または化学的分解量の有意差は観察されなかった。これらのデータは、150および175mg/mLの抗PCSK9 mAb−316P医薬品製剤がPFSにおける使用にとって十分に安定であることを示している。
【0128】
〔実施例8〕
MAB−316P製剤化薬剤物質の安定性
安定性試験を実施して、150および175mg/mLのmAb−316P製剤の保存およびストレス安定性の両方を決定した。濁度およびRP−HPLCアッセイを用いて、mAb−316Pの物理的安定性を評価した。物理的安定性は、溶液中での抗PCSK9 mAb−316Pの溶解形態の回収として定義される。タンパク質の喪失は、タンパク質沈降または表面吸着のいずれかに起因し得る。溶液中の粒子状物質の存在を、視覚的検査または405nmでの光密度(OD)測定(濁度測定)により検出することができる。この後者のアッセイにおいて、ODの増加は、粒子状物質の形成に起因する濁度の増加を示す。OD測定により決定される粒子状物質の存在は、試料が安定性を維持することができなかったことを示す。mAb−316Pの回収を、RP−HPLCにより測定する。RP−HPLCアッセイにおいては、抗PCSK9 mAb−316P抗体は、単一のピークとして逆相カラムから溶出される。それぞれの試験試料の濃度は、規定のタンパク質ロードのmAb−316P標準を用いて生成された検量線と比較した溶出したmAb−316P抗体ピークの面積から決定される。
【0129】
化学的安定性とは、試料中の抗PCSK9抗体(mAb−316P)の化学的構造の完全性を指す。多くの化学的不安定性は、共有改変形態のタンパク質(例えば、共有凝集物、切断産物、または電荷変異体)および非共有改変形態のタンパク質(例えば、非共有凝集物)の形成に起因し得る。今までのところ、検出されたmAb−316Pの唯一の分解産物は、分子量または電荷のいずれかにおいて異なる種である。SE−HPLCにより、天然のmAb−316Pから、より高いおよびより低い分子量の分解産物を分離することができる。サイズ排除クロマトグラフ法における天然のmAb−316Pのパーセンテージを、天然のピーク面積と、全てのmAb−316P抗体ピークの総面積との比により決定する。
【0130】
電荷変異形態のmAb−316Pを、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて天然のmAb−316Pから分解する。主要ピークのものよりも早い保持時間でCEX−HPLCカラムから溶出するピークは「酸性ピーク」と標識されるが、主要ピークのものよりも遅い保持時間でCEX−HPLCカラムから溶出するものは「塩基性ピーク」と標識される。陽イオン交換クロマトグラフ法における分解されたmAb−316Pのパーセンテージを、全てのmAb−316Pピークの総面積と比較した、主要ピーク、酸性ピーク、および塩基性ピークの面積の相対パーセンテージの変化により決定する。
【0131】
加速条件下でのmAb−316Pの評価を、抗体を様々なストレス試験に供することにより実施した。これらの試験は、製剤化薬剤物質を医薬品の製造中に供される可能性がある極端な取り扱い条件を代表するものである。mAb−316P製剤化薬剤物質を、撹拌、凍結/融解のサイクル、および凍結保存条件のために5mLのポリカーボネートバイアル中に充填した。mAb−316P製剤化薬剤物質を、ガラスバイアル中に充填して、高温でのストレス安定性を試験した。
【0132】
〔実施例9〕
製剤化薬剤物質(FDS)の保存安定性試験
150mg/mLのmAb−316P製剤化薬剤物質(FDS;5mLのポリカーボネートバイアル中の0.5mL;150mg/mLのmAb−316P抗体、10mMのヒスチジン(pH6.0)、0.2%のポリソルベート20、および10%のスクロース)は、−20℃以下で12カ月間保存した場合、物理的および化学的に安定であることがわかった。mAb−316Pの有意な喪失は観察されず、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーにより有意な化学的分解は検出されなかった。97%を超える回収されたmAb−316Pが、サイズ排除により決定された場合に「天然」構造のものであり、56%を超える回収されたmAb−316Pが陽イオン交換により決定された場合に「主電荷変異体」のものであった。結果を表9にまとめる。
【0133】
175mg/mLのmAb−316P製剤化薬剤物質(FDS;5mLのポリカーボネートバイアル中の0.75mL;175mg/mLのmAb−316P抗体、10mMのヒスチジン(pH6.0)、0.01%のポリソルベート20、5%のスクロース、および50mMのアルギニン)は、−20℃以下で3カ月間保存した場合、物理的および化学的に安定であることがわかった。mAb−316Pの有意な喪失は観察されず、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーにより有意な化学的分解は検出されなかった。96%を超える回収されたmAb−316Pが、サイズ排除により決定された場合に「天然」構造のものであり、56%を超える回収されたmAb−316Pが陽イオン交換により決定された場合に「主電荷変異体」のものであった。結果を表10にまとめる。
【0134】
〔実施例10〕
製剤化薬剤物質のストレス安定性試験
ストレス安定性試験を、150mg/mLのmAb−316P製剤化薬剤物質(FDS)(0.35mL〜0.5mLの150mg/mLのmAb−316P、10mMのヒスチジン(pH6.0)、0.2%のポリソルベート20、10%のスクロース)および175mg/mLのmAb−316P製剤化薬剤物質(0.5mL〜1.7mLの175mg/mLのmAb−316P、10mMのヒスチジン(pH6.0)、0.01%のポリソルベート20、5%のスクロース、50mMのアルギニン)に対して実施した。高温試験を、FLUROTEC(登録商標)被覆4432/50ブチルゴム栓を備えた2mL容量の1型ホウケイ酸ガラス中で行った;残りの試験を、5mLのポリカーボネートバイアル中で実施した。150mg/mLおよび175mg/mLの抗PCSK9 mAb−316P製剤化薬剤物質は、2時間撹拌(ボルテックス)した場合に物理的および化学的に安定であることがわかった。溶液は依然として視覚的に透明であり、タンパク質の喪失は起きず、分子量種または電荷変異体は形成されなかった(表11および12)。mAb−316Pはまた、8サイクルの−80℃への凍結および室温への融解に供した場合に物理的にも化学的にも安定であることが観察された。8サイクルの凍結/融解後に、タンパク質溶液は依然として視覚的に透明であり、タンパク質の喪失は観察されなかった。分子量(可溶性凝集物もしくは切断産物)または電荷変異形態は、それぞれ、SEまたはCEXアッセイによって検出されなかった。
【0135】
150および175mg/mLの抗PCSK9 mAb−316P製剤化薬剤物質は、37℃または45℃で28日間インキュベートした場合に物理的に安定であったが、それにも拘らず、いくらかの化学的分解が観察された(表11および12)。これらのストレス試験は、主な分解経路が凝集物、切断産物、および電荷変異体の形成であることを示していた。予想通り、抗PCSK9 mAb−316P抗体の分解速度は、45℃よりも37℃で遅かった。25℃で28日間インキュベートした場合は、150または175mg/mLのmAb−316P製剤化薬剤物質の物理的または化学的安定性における有意な変化はなかった。
【0136】
〔実施例11〕
医薬品(DP)の保存安定性
150mg/mLのmAb−316P医薬品は、10mMのヒスチジン、pH6.0、0.01%のポリソルベート20、10%のスクロース、および150mg/mLの抗PCSK9 mAb−316P抗体からなる。175mg/mLのmAb−316P医薬品は、10mMのヒスチジン、pH6.0、0.01%のポリソルベート20、5%のスクロース、50mMのアルギニン、および175mg/mLの抗PCSK9 mAb−316P抗体からなる。プレフィルドシリンジ(PFS;FLUROTEC(登録商標)被覆4023/50ゴムプランジャで閉じた27ゲージの薄壁針およびFM27ゴム針シールドを備えたOMPI 1mL長ガラスシリンジ)中、5℃で6カ月間保存された場合、150mg/mLまたは175mg/mLのmAb−316P医薬品(DP)の物理的および化学的安定性には変化がなかった(表13および表14)。これらのストレス後に、溶液は依然として視覚的に透明であり、タンパク質の喪失は観察されず、pHの変化が起こらなかった。さらに、それぞれSEおよびCEXにより検出された分子量種または電荷変異体の有意な変化はなかった。
【0137】
〔実施例12〕
医薬品(DP)のストレス安定性
25℃および45℃でプレフィルドシリンジをインキュベートすることにより、150mg/mLのmAb−316P医薬品および175mg/mlのmAb−316P医薬品のストレス安定性を試験した。それぞれ対応する医薬品は、45℃で28日間インキュベートするか、または25℃で6カ月間インキュベートした場合、物理的に安定であった(表13および14)。これらのストレス後に、溶液は依然として視覚的に透明であり、タンパク質の喪失は観察されず、pHの変化は起こらなかった。しかしながら、タンパク質を45℃および25℃でインキュベートした場合、凝集物および電荷変異体が検出された。このストレス試験は、これらのものが医薬品の主な分解経路であることを示している。150mg/mLの医薬品のうち、45℃で28日間のインキュベーション後に、mAb−316P凝集物は1.9%増加し、酸性種は19.1%増加した。タンパク質を25℃でインキュベートした場合、化学的分解レベルの低下が検出された。25℃でのインキュベーションの6カ月後に、凝集物の相対量の0.8%の増加および酸性種の10.3%の増加が存在した。175mg/mLの医薬品のうち、45℃で28日間のインキュベーション後に、mAb−316P凝集物は1.8%増加し、酸性種は17.0%増加した。タンパク質を25℃でインキュベートした場合、化学的分解レベルの低下が検出された。25℃でのインキュベーションの6カ月後に、凝集物の0.7%の増加および酸性種の9.4%の増加が存在した。150および175mg/mLの医薬品の両方について、25℃でのインキュベーションの1カ月後に、mAb−316Pの安定性の有意な変化はなかった。
【0138】
〔実施例13〕
充填容量
150mg/mLのREGN727医薬品を含有するプレフィルドシリンジ(PFS)からの注射可能容量は、1.0mLである。175mg/mLのREGN727医薬品を含有するPFSからの注射可能容量は、1.14mLである。シリンジ内の死容量は無視できる程度であるため(0.005〜0.01mL)、いずれのPFS中にも過剰量は含まれない。
【0139】
〔実施例14〕
保存材料中でのMAB−316Pの安定性
抗PCSK9 mAb−316Pは、滅菌濾過した場合に安定であることがわかった。研究試験のため、および臨床供給物の製造において、MILLIPORE MILLIPAK濾過ユニットを用いた。ガラスバイアル中での保存と比較して、150および175mg/mLのmAb−316P製剤化薬剤物質の安定性は、ポリプロピレン管、ポリスチレン管、ポリカーボネート管、またはステンレススチールガスケットを含むガラスバイアル中で保存した場合、有意に影響されなかった(表15および表16)。製剤化薬剤物質を40℃で14日間インキュベートした場合に分解が観察されたが、対照のガラスバイアルと、プラスチック容器およびステンレススチールへの曝露との間で、mAb−316P分解量に有意差は観察されなかった。
【0140】
〔実施例15〕
抗PCSK9抗体MAB−316Pの特性評価
少なくとも2ロットのmAb−316P(ロット1およびロット2)を、サイズ排除クロマトグラフィーおよびタンパク質または糖タンパク質のモル質量の見積もりを与える分析方法である多角度レーザー光散乱(SEC−MALLS)により分析した。ロット1および2はそれぞれ、154.5および154.6kDaのモル質量を有していた。他のロットは、SEマトリックスから溶出した主要種のピークについて154.4〜154.8kDa(平均約155kDa)の範囲のモル質量を有していた。この主要ピークは、総タンパク質ピーク面積の約96.7〜99.2%に相当し、これは無傷のmAb−316P単量体(すなわち、本明細書で用いられる「天然」)に対応する。
【0141】
mAb−316Pを、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)により分析して、主な構成要素アイソフォームの等電点を決定した。cIEFにより決定されたmAb−316P試料のpIおよび平均ピーク面積(%総ピーク面積)を、表17にまとめる。それぞれのロットは、ロット1および2について、それぞれ66.4%および68.0%で提示された、約8.5の算出されたpIを有する主要種(ピーク5)を示した。優占種(ピーク5)は、十中八九、C末端リシンを欠く無傷の完全にグリコシル化された抗体(すなわち、本明細書で用いられる「主電荷形態」)に相当する。
【0142】
ロット1およびロット2に由来する還元mAb−316Pトリプシンマップの質量分析(MS)により、両ロット中のFcドメイン内の単一のグリコシル化部位、Asn298が確認された。このグリコシル化部位の主な共有結合グリカン形態を、表18にまとめる。全体として、両ロットは、複雑な二分岐グリカンを有し、それらの多くはAsn298でフコシル化されていると決定された。しかしながら、ロット2における糖鎖種を含有するフコシル化アガラクトシル(G0)の相対量は、ロット1におけるこの糖型の量と比較してわずかにより高かった。逆に、ロット2における糖鎖型を含有するフコシル化ジガラクトシル(G2)およびフコシル化モノガラクトシル(G1)の相対量は、ロット1におけるこれらの糖鎖構造の相対量と比較して減少していた。2つの薬剤物質試料(ピーク16)のLC/MS結果の分析により、ロット1およびロット2上でAsn298にグリカン占有のない重鎖ペプチドはそれぞれ2.9%および8.4%であると同定された。
【0143】
2つのmAb−316Pロットのそれぞれからのオリゴ糖の放出後にHPLCにより生成されたグリカンプロファイルを分析した。それぞれのクロマトグラムにおいて、誘導体化されたオリゴ糖は2つの主な群に分離された:非フコシル化二分岐種およびフコシル化二分岐種。それぞれの群(フコシル化と非フコシル化)内で、オリゴ糖はジガラクトシル(G2)、モノガラクトシル(G1)、およびアガラクトシル(G0)型にさらに分離された。オリゴ糖構造割り当ては、MALDI−TOF質量分析により得られた。2つのクロマトグラムにおけるそれぞれのピークの積分により、2つのmAb−316Pロットのフコシル化レベルが一般的に高いことが示され、ロット1および2において、それぞれ80.0%および86.9%のフコシル化が観察された。
【0144】
2つのロットのフコシル化の総パーセントは類似していたが、2つのロット中に存在するグリカン型の各々の相対存在量には量的な差異があった(表19)。ロット1については、G0、G1、およびG2フコシル化グリカン構造について、それぞれ、34.4%、39.6%、および11.7%のピーク面積パーセンテージが決定された。対照的に、ロット2に関するピーク面積パーセンテージは、G0、G1、およびG2フコシル化糖型構造について、それぞれ45.8%、33.3%、および7.1%であったが、これは、2つのロット間のガラクトシル化の程度における差異を示している。両ロットにおいて観察された糖鎖の総量と比較して、1.8%〜2.9%の相対存在量で、高マンノースグリカン(man5グリカン)ピーク(ピーク2)が検出された(表19)。0.5%〜1.5%の範囲のピーク面積パーセンテージを有する合計9つの未同定のピークも、この方法により試験された両ロットにおいて検出されたが、これは各ロットにおいて検出された総グリカンピーク面積の3%以下に相当する。2つのロットの等モル共混合物の分析により、新しいピークは得られず、共混合物中の全てのピークのピーク面積パーセンテージは、各ロットの個々の分析に基づく期待値と良好に相関した(表19)。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
【表5】
【0150】
【表6】
【0151】
【表7】
【0152】
【表8】
【0153】
【表9】
【0154】
【表10】
【0155】
【表11】
【0156】
【表12】
【0157】
【表13】
【0158】
【表14】
【0159】
【表15】
【0160】
【表16】
【0161】
【表17】
【0162】
【表18】
【0163】
【表19】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]