特許第6045671号(P6045671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6045671
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】遠赤外線輻射体及び身体着用具
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20161206BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20161206BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20161206BHJP
   H05B 3/34 20060101ALI20161206BHJP
   A61N 5/06 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H05B3/10 B
   H05B3/14 G
   H05B3/20 305
   H05B3/34
   A61N5/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-194186(P2015-194186)
(22)【出願日】2015年9月30日
【審査請求日】2016年1月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595121526
【氏名又は名称】林 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100143926
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 公敏
(74)【代理人】
【識別番号】100149504
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 周子
(73)【特許権者】
【識別番号】515294330
【氏名又は名称】宋 仁正
(73)【特許権者】
【識別番号】516196886
【氏名又は名称】橘 正光
(73)【特許権者】
【識別番号】516196897
【氏名又は名称】任 重堂
(73)【特許権者】
【識別番号】516196901
【氏名又は名称】菱田 正哉
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】林 幸子
(72)【発明者】
【氏名】野村 晴彦
【審査官】 井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】 実用新案登録第3080299(JP,Y2)
【文献】 特開平05−258842(JP,A)
【文献】 特開2008−100016(JP,A)
【文献】 特開平07−275379(JP,A)
【文献】 特開2005−230517(JP,A)
【文献】 特開2004−209203(JP,A)
【文献】 特開2002−126105(JP,A)
【文献】 特開平09−320742(JP,A)
【文献】 実用新案登録第3130791(JP,Y2)
【文献】 実用新案登録第3120486(JP,Y2)
【文献】 国際公開第2015/159665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
H05B 3/10
H05B 3/14
H05B 3/20
H05B 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線を輻射する面状の遠赤外線輻射層に、揮発性剤が保持された揮発性剤保持層を設けた遠赤外線輻射体であって、
前記遠赤外線輻射層は、5mm程度にカットされた炭素繊維が和紙用靭皮繊維に均一に分散された炭素繊維混抄紙と、その炭素繊維混抄紙に配設された電極とを備えており、この電極に電圧を印加したときには、前記炭素繊維より輻射させた遠赤外線に基づいて、前記炭素繊維混抄紙の表面と裏面の全体から遠赤外線を均一に輻射するものであり、
前記揮発性剤保持層は、拡散シート層によって、その上側が覆われており、該拡散シート層には、揮発剤を前記揮発性剤保持層に滴下するための滴下孔と、揮発性剤を拡散放出するための拡散孔を形成していることを特徴とする遠赤外線輻射体。
【請求項2】
請求項1において、
前記揮発性剤がアロマオイル、消臭剤、害虫忌避剤、除菌剤、除湿剤のいずれかであることを特徴とする遠赤外線輻射体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
遠赤外線の波長を選択して吸収する赤外線吸収スペクトルを有した所定の有機化合物を含んだフィルタ層を前記遠赤外線輻射層の上面に介在させて設けていることを特徴とする遠赤外線輻射体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項において、
二次電池モジュールを更に備え、該二次電池モジュールから前記遠赤外輻射層は通電加熱される構成にしていることを特徴とする遠赤外線輻射体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに1項に記載の遠赤外線輻射体を設けたことを特徴する身体着用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線を輻射する遠赤外線輻射体及び身体着用具に改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体に有益な遠赤外線を当てることで、人体の血行を良くして、健康を増進させることは公知であり、そのための遠赤外線輻射体として、下記特許文献1がある。
また近年では、植物由来のアロマオイル(精油)を使って香りを楽しむことで心身の健康と美容効果が期待できるアロマテラピーが知られており、これを睡眠時に活用できる構造としたベッド装置として、下記特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3181506号公報
【特許文献2】特許第4917009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、特定の波長領域の遠赤外線をより高い効率で輻射できる遠赤外線輻射体が開示されているが、アロマテラピーの効果が期待できるものではない。また上記特許文献2には、ベッド本体の上部に設けられた寝床部の内部に、遠赤外線を放射する遠赤外線放射板が配置され、安眠芳香材収納部に収納した檜材から発する香りで就寝時に芳香材の香りで気が静まり、容易に安眠できるとされている。しかしながら上記特許文献2に開示されている構造は、ベッド装置に特化した構造である。
【0005】
このように従来では、遠赤外線の効果を得るためには遠赤外線発熱体を使用しており、アロマや芳香、消臭機能と遠赤外線とは関係なく、芳香剤や消臭剤を利用しているのが、通例である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、遠赤外線を放射する効果とともに芳香剤や消臭剤等の揮発性剤が発揮する効果を同時に満たす遠赤外線輻射体及び身体着用具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係る遠赤外線輻射体は、遠赤外線を輻射する面状の遠赤外線輻射層に、揮発性剤が保持された揮発性剤保持層を設けた遠赤外線輻射体であって、前記遠赤外線輻射層は、5mm程度にカットされた炭素繊維が和紙用靭皮繊維に均一に分散された炭素繊維混抄紙と、その炭素繊維混抄紙に配設された電極とを備えており、この電極に電圧を印加したときには、前記炭素繊維より輻射させた遠赤外線に基づいて、前記炭素繊維混抄紙の表面と裏面の全体から遠赤外線を均一に輻射するものであり、前記揮発性剤保持層は、拡散シート層によって、その上側が覆われており、該拡散シート層には、揮発剤を前記揮発性剤保持層に滴下するための滴下孔と、揮発性剤を拡散放出するための拡散孔を形成している。
【0008】
本発明において、揮発性剤をアロマオイル、消臭剤、害虫忌避剤、除菌剤、除湿剤のいずれかとしてもよい。
さらに本発明において、遠赤外線の波長を選択して吸収する赤外線吸収スペクトルを有した所定の有機化合物を含んだフィルタ層を前記遠赤外線輻射層の上面に介在させて設けたものとしてもよい。
そして本発明において、二次電池モジュールを更に備え、該二次電池モジュールから前記遠赤外輻射層は通電加熱される構成にしてもよい。
本発明に係る身体着用具は、上記に記載された遠赤外線輻射体を設けたことを特徴する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る遠赤外線輻射体及び身体着用具では、特定の波長領域の遠赤外線を輻射し、程よく揮発性剤を拡散させることができるので、遠赤外線の効果に加えて芳香剤や消臭剤等の揮発性剤は発揮する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る遠赤外線輻射体の一例を模式的に示す分解斜視図である。
図2】(a)同遠赤外線輻射体の部分断面図であり、(b)は同遠赤外線輻射体をクッションカバーの中に内装させた例を示している。
図3】黒体の分光輻射エネルギー曲線を示す図である。
図4】各種樹脂の赤外吸収スペクトルを示す図である。
図5】(a)及び(b)は同遠赤外線輻射体の揮発性剤保持層の変形例を示す図であり、概略斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る身体着用具の一例を模式的に示す図であり、腹巻に適用した例を示している。
図7】(a)及び(b)は同身体着用具の一例を模式的に示す図であり、おむつカバーに適用した例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係る遠赤外線輻射体1は、遠赤外線を輻射する面状の遠赤外線輻射層2に、揮発性剤が保持された揮発性剤保持層5を設けている。
以下、詳しく説明する。
【0012】
遠赤外線輻射体1は、それぞれに機能を有した方形の薄い板状体を複数積み重ねて一枚のパネルとした多層構造からなる。遠赤外線輻射体1は、図2(a)に示すように上述の遠赤外線輻射層2及び揮発性剤保持層5の他、フィルタ層3,3と、反射フィルム層4と、拡散シート層6とを備えている。
【0013】
遠赤外線輻射層2は、遠赤外線を発する面状の発熱体であれば、特に限定されないが、この実施形態では、炭素繊維混抄紙20と、その両端に設けられた一対の電極21,21と、充電可能な二次電池モジュール7とを有した例について説明する。炭素繊維混抄紙20は、コウゾ、ミツマタ、マニラ麻等からなる和紙用靭皮繊維やパルプ繊維と、炭素繊維とを混合し抄紙して形成される。炭素繊維は5mm程度にカッティングされ、数千度の高温で焼成されたものを用い、厚さ0.1mm前後の炭素繊維混抄紙20とすることが、耐久性・安全性に優れ、昇温速度が速く、且つ、人体や物質に吸収されやすい特定波長を輻射させる上で特に望ましい。また炭素繊維混抄紙20は、黒色塗料等の黒色物質、例えばカーボンブラック、CuO(酸化銅)、Fe3 4 (四三酸化鉄または酸化二鉄鉄)、Fe3 P(リン化三鉄)、Fe2 MgO4 (酸化マグネシウム鉄)、Fe(C9 7 2 (ビスインデニル鉄)等を塗布または含浸させて黒色に着色されていることが望ましい。この場合は、遠赤外線輻射体1の輻射効率を向上させることができる。炭素繊維混抄紙20の対向する二辺に沿って電極21,21が設けられている。電極21,21の構成は特に限定されないが、特許第3181506号公報に開示されているものと同様に例えば帯状の銀ペーストを印刷し、銀ペースト上に導電性の接着剤が塗布された銅箔テープからなる電極21,21を貼着してもよい。電極21,21の一端部にはんだづけ等により導線(不図示)が接続されており、二次電池モジュール7と電気的に接続されている。そして導線を介して遠赤外線輻射層2の電極21,21に電圧を印加すると、炭素繊維混抄紙20内に分散された炭素繊維に電流が流れ、それらの炭素繊維が発熱して遠赤外線を輻射する。そして遠赤外線は黒色の炭素繊維混抄紙20により吸収され、炭素繊維混抄紙20の表面および裏面から面状に輻射される。二次電池モジュール7の構成は特に限定されないが、商用電源をAC−DC変換する電源アダプタ8を介して充電可能な構成であればよい。
なお、炭素繊維混抄紙20に一対の電極21,21を取り付ける前に、無着色の炭素繊維混抄紙20を黒色に着色してもよい。
【0014】
ここで本発明者が、遠赤外線輻射体1の輻射効率を向上させるために炭素繊維混抄紙20を使用している点について、図3を参照しながら、説明する。またここで、遠赤外線とは、約4μmから約100μm(=1mm)の範囲の波長を有する赤外線をいう。図3は、黒体の分光輻射エネルギー曲線を示している。黒体とは、周囲から輻射される電磁波をあらゆる波長にわたってすべて吸収する仮想的な物体であり、輻射に関して外部と熱平衡状態にある黒体は、その温度で受けた輻射エネルギーをすべて外部に放出する。言い換えれば、黒体はどの波長においても吸収率が1であり、反射率が0の物質である。一方、実際の物体は黒体のように照射されたエネルギーを100%吸収することはなく、そこから放出されるエネルギーは受けた輻射エネルギーよりも小さい。図3からわかるように、黒体の各温度での分光輻射エネルギーのピークは、温度が高くなるにつれて短波長側にシフトする。遠赤外線の波長領域(4μmから100μm)でピークを有する黒体の温度は室温からせいぜい200°C程度までの範囲である。したがって、遠赤外線を効率よく輻射するためには高温加熱は必要ではない。次に図示は省略するが、特許第3181506号公報の中で述べているように300K(=27°C)から500K(=227°C)の範囲では炭素が最も大きな輻射率を有している。この場合の炭素の輻射率は0.9であり、黒体の輻射率1.0にかなり近い。この温度範囲は、図3の黒体の分光輻射エネルギー曲線において黒体が遠赤外線を最も効率よく輻射する範囲であり、炭素が遠赤外線を最も効率よく輻射する物質といえるため、本実施形態における遠赤外線輻射層2は、黒色に着色された炭素繊維混抄紙20を採用している。
【0015】
炭素繊維混抄紙20の両面には、フィルタ層3,3がラミネートされている。フィルタ層3,3は有機化合物からなり、例えば熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂(ガラス繊維強化エポキシ樹脂(ガラスエポキシ樹脂)等)、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂等がある。また、熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ニトロセルロース等がある。フィルタ層3,3として、鉄、銅、銀、白金等の重金属元素を含む有機化合物を用いてもよい。またこのように、フィルタ層3,3としては、特定の遠赤外線の波長領域に吸収ピークを有する物質であれば、そのピークを評価して、あらゆる物質を用いることができる。
【0016】
フィルタ層3,3に用いられる有機化合物の材料は、輻射すべき遠赤外線の波長領域に応じて選択され、上下のフィルタ層3,3に用いられる有機化合物の材料が同じである必要はなく、異なる材料を用いてもよい。この場合、遠赤外線輻射体1の表面および裏面からは異なる波長領域の遠赤外線が輻射される。
【0017】
ここで本発明者が、特定の波長領域の遠赤外線をより高い効率で輻射させるために有機化合物の赤外吸収スペクトルに着目した点について、図4を参照しながら、説明する。有機化合物は、それが有する基の固有振動数に応じてその有機化合物に特有の赤外吸収スペクトルを示す。図4に示すように例えば、メタクリル酸メチル樹脂は、5.9μm、6.7μmおよび7.9μmの波長において遠赤外線の吸収ピークを有する。また、エポキシ樹脂は、6.2μm、6.4μm、7.3μm、7.5μm、8.9μmおよび12.0μmの波長において赤外線の吸収ピークを有する。このように、樹脂の種類によりそれぞれ固有の遠赤外線吸収ピークが現れる。物質がある波長の遠赤外線を吸収すると、物質内部で分子状態に応じた共鳴が起こり、特定の波長領域の遠赤外線が選択的に外部に輻射される。すなわち、各物質は、赤外吸収スペクトルにおいて吸収ピークを有する波長に依存した波長領域の遠赤外線を輻射する能力を有する。したがって、各種有機化合物をフィルタとして用いることにより、所望の波長の遠赤外線を選択することができる。
【0018】
以上の考察から、遠赤外線を最も効率よく輻射する物体として炭素繊維を選択し、かつ特定の波長領域の遠赤外線の選択のために有機化合物からなるフィルタ層3,3を積層している。
【0019】
遠赤外線輻射層2の電極21,21に電圧を印加すると、炭素繊維混抄紙20内に分散された炭素繊維に電流が流れ、それらの炭素繊維が発熱して遠赤外線を輻射する。炭素繊維から輻射された遠赤外線は黒色の炭素繊維混抄紙20により吸収され、炭素繊維混抄紙20の表面および裏面から面状に均一に輻射される。フィルタ層3,3が赤外吸収ピークの波長の遠赤外線を吸収すると、フィルタ層3,3内部で共鳴が起こり、そのフィルタ層3,3に応じた特定の波長領域の遠赤外線が選択的に外部に輻射される。すなわち、フィルタ層3,3は、受けた発熱エネルギーを特定の波長領域の遠赤外線に変換して輻射する能力を有する。
【0020】
フィルタ層3,3を種々の有機化合物により形成することにより、その有機化合物の赤外吸収ピークの波長に依存した種々の波長領域の遠赤外線が効率よく輻射される。すなわち、遠赤外線輻射体1は、フィルタ層3,3の種類に依存した波長選択性を有し、フィルタ層3を他の材料からなるものに取り替えることにより、輻射すべき遠赤外線の波長領域を容易に制御することができる。
【0021】
フィルタ層3,3の各々は、必要に応じて複数種類の有機化合物を重ね合わせて形成してもよい。例えば3種類の有機化合物からなるフィルタ層(不図示)を積層してもよく、この場合は、3種類の有機化合物からなるフィルタ層の赤外吸収ピークが複合され、複合された赤外吸収ピークに対応する波長領域の遠赤外線が選択的に輻射される。
【0022】
遠赤外線輻射層2の下方側に配置されたフィルタ層3のさらに下方側には、反射フィルム層4が接着されて配設されている。反射フィルム層4は、例えば、アルミニウム、銅、銀、金等の金属板または金属メッキされた板からなる。これらの金属は、遠赤外線の波長領域においてほぼ100%に近い反射率を有しているため、炭素繊維混抄紙20の裏面から輻射された遠赤外線のほとんどが反射フィルム層4によりフィルタ層3の方向へ反射される。それにより、遠赤外線の輻射効率を向上させることができる。
【0023】
遠赤外線輻射層2の上方側に配置されたフィルタ層3のさらに上方側には、揮発性剤が保持された揮発性剤保持層5が接着されて設けられている。
揮発性剤保持層5は、例えば芳香剤としてアロマオイル等や消臭剤としてアルコール類等を封入、染み込ませたシート体で構成してもよい。また揮発性剤保持層5は、取り換え可能で使い捨てとすることができ、揮発性剤保持層5の下面側は、ずれが生じないように接着層としてもよい。ここで用いられるシート体としては、難水溶性のパルプからなる紙であってもよいし、脱脂綿、樹脂、不織布等であってもよいし、層構造として下層側はアロマオイルがフィルタ層3に染みないようにビニール製としてもよい。またシート体に染み込ませる芳香剤としてのアロマオイルの種類は特に限定されず、例えばラベンダー、カモミール、ローズ、サンダルウッド、ネロリ、ベルガモット、ゼラニウム、イランイラン、レモン、グレープフルーツ、オレンジ、ローズマリー、ペパーミント、マンダリン、ユーカリ、ティートリー、サイプレス、ジュニパー、タイム、マージョラム、フランキンセンス、シナモン(ニッキ)、レモングラス等が挙げられる。これらを用途等に応じてブレンドし使用できる構成が望ましい。このようなアロマオイルは揮発性を有しているので、常温であっても香りを放つが、熱を加えると早く香り拡散する。また消臭剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、パラフィン系炭化水素、グリコールエーテル類、グリコール類、ラクトン類、アルデヒド類等が使用可能である。さらにこれら揮発性剤は液体に限らず、固体状、ゲル状、ゾル状、またはこれらの混合物であってもよい。
【0024】
揮発性剤保持層5のさらに上方側には、揮発性剤保持層5を覆うように配設される拡散シート層6を備えている。拡散シート層6は複数の孔が形成されており、図中6aは、液状の揮発性剤を上方から揮発性剤保持層5を構成するシート体へ滴下できる滴下孔、6bは、揮発性剤を拡散させる拡散孔である。拡散シート層6の構成は図例に限定されず、揮発性剤保持層5に保持されている揮発性剤が拡散シート層6を通じて拡散可能であればよい。よって、多数の微孔が形成されている多孔質のメッシュ状のシートを用いてもよく、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、等の各種ポリエチレンや、エチレン‐酢酸ビニル共重合体およびそのケン化物、エチレン‐アクリル系共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体、種々のオレフィン系樹脂およびその共重合体、各種アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂などからなるものとしてもよい。
【0025】
なお、揮発性剤としては、芳香剤、消臭剤の例を主に説明したが、これに限定されず、揮発性剤であれば、各種忌避剤、除菌剤、除湿剤を用いても良い。忌避剤とすれば、虫よけ効果を奏し、除菌剤とすれば除菌効果が、除湿剤とすれば除湿効果を奏する遠赤外線輻射体1とすることができる。
【0026】
揮発性剤保持層5は、図1に示すように遠赤外線輻射体1の全面に設けられたものに限定されない。図5には、揮発性剤保持層5の変形例を示している。なお、この図5では説明のため、揮発性剤保持層5の上方に設けられる拡散シート層6、遠赤外線輻射層2の上方に設けられるフィルム層3の図示を省略している。
図5(a)に示す遠赤外線輻射体1Aは、揮発性剤保持層5を中央部分を除く周囲を囲むように設けた例である。この例では上記中央部分と、揮発性剤保持層5のさらに外周とに遠赤外線が発する領域が設けられている。図5(b)に示す遠赤外線輻射体1Bは、揮発性剤保持層5を片側一方にのみ設け、他方側からは遠赤外線が発するように設けた例である。このように揮発性剤保持層5は、遠赤外線輻射体1の使用用途に応じて適宜設けることができる。
【0027】
以上の本実施形態の遠赤外線輻射体1によれば、供給電力を増加させることなく、輻射エネルギー量を増加させることができ、上方のフィルタ層3の表面温度は僅かしか上昇しないので、輻射される遠赤外線の波長が短波長側にシフトしない。したがって、消費電力を増加させることなく、遠赤外線波長領域の輻射エネルギー量を増加させることができる。また、遠赤外線輻射体1は、輻射加熱および輻射加温に効果的に用いることができる。従来の面状発熱体の研究においては、その面状発熱体自体の温度上昇のみに着目されていた。すなわち、従来の暖房では、室内の空気の温度を上昇させるために発熱体の表面温度を上昇させていた。しかしながら、本実施形態の遠赤外線輻射体1によれば、上記のように、表面温度をほとんど上昇させることなく遠赤外線の輻射エネルギー量を増加させることができ、輻射される遠赤外線の波長が短波長側にシフトしない。短波長の赤外線は空気を暖めるが、長波長の遠赤外線は空気にほとんど作用することなく水(H2 O)分子や二酸化炭素(CO2 )分子に作用する。したがって、遠赤外線輻射体1から輻射された輻射エネルギーは空気中を直進して物体に到達し、ほとんどがそこで吸収される。それにより、物体内部の分子運動が活発化され、温度上昇が生じる。このように、遠赤外線輻射体1を用いた加熱および加温では、輻射された遠赤外線により物体が直接的に暖められる。そのため、遠赤外線輻射体1は、生体以外でも、遠赤外線照射が必要な物質すべてに作用することができる。
【0028】
また本実施形態の遠赤外線輻射体1によれば、揮発性剤保持層5を備えているので、遠赤外線が発する熱を利用して芳香剤や消臭剤等の揮発性剤をほどよく拡散させることができる。よって、揮発性剤保持層5に例えばアロマオイルが保持されていれば、遠赤外線の効果に加えてアロマテラピーの効果が期待できる。また揮発性剤保持層5に例えば消臭剤が保持されていれば、遠赤外線の効果に加えて消臭の効果が期待できる。また上記の理由から、遠赤外線輻射による加熱および加温では、空気を暖める暖房とは異なり、発熱体自体の温度上昇は問題ではなく、輻射温度の上昇が重要である。したがって、上記実施形態の遠赤外線輻射体1を用いると、効率よい加熱または加温が可能となり、省エネルギー化が図ることができるので、商用電源に直接接続しなくても、二次電池モジュール7に充電された電力で十分な加熱、加温を実現することができる。また遠赤外線輻射体1は、充電された二次電池モジュール7から電力供給を受けることで、特定の波長領域の遠赤外線を輻射し、程よく揮発性剤を拡散させることができる。よって、商用電源のプラグ位置を気にすることなく、所望する場所に設置することができる。
【0029】
そして実施形態の遠赤外線輻射体1は、暖房電気カーペットのように床に敷設して使用する他、生体の各部の治療に用いることができる。生体の部分または治療内容によって照射すべき遠赤外線の波長領域が異なる場合、有機化合物層の種類をその部分または治療内容に最適な波長領域の遠赤外線を輻射するように選択することができる。それにより、生体の各部分を最適な波長領域の遠赤外線で治療することができる。このように遠赤外線輻射体1を治療に用いられる場合でも、揮発性剤保持層5としてその患者が求める効果を発揮するアロマオイルを選択すれば、治療効果の向上が期待できる。また揮発性剤保持層5に消臭剤が保持されていれば、複数の人の治療に用いる場合でも臭いが気にならず、気持ちよく治療を受けることができる。
【0030】
以上では、床の上に敷設して使用される遠赤外線輻射体1を説明したが、これに限定されず、壁面に設置されるパネルであってよい。また二次電池モジュール7の駆動で加熱されるので、クッション、座布団、いす・ソファの背もたれカバー等のインテリア用品、枕、抱き枕、掛布団、敷布団等の寝具に遠赤外線輻射体1を内装させて使用するようにしてもよい。図2(b)には、クッションカバー9の中に遠赤外線輻射体1を内装させた例を示している。
【0031】
なお、ここでは遠赤外線輻射体1の操作部について図示していないが、リモコン等の操作部で遠赤外線輻射体1の駆動のオンオフ操作ができるようにしてもよい。また温度調整機能やバッテリー表示機能については述べていないが、温度測定機能やバッテリー表示機能を有したものとしてもよい。この場合は、操作部で温度設定ができるようにしてもよいし、温度表示部を設けてもよい。また二次電池モジュール7のバッテリー残量を示すバッテリー残量表示部を設けてもよい。
【0032】
図6図7には、上述の遠赤外線輻射体1を身体着用具10,10Aに適用した例を示している。図6は、腹巻に適用した例であり、図7はおむつカバーに適用した例である。身体着用具10に用いられる遠赤外線輻射体1は、小型で薄型のパッド状となっているが、層構造自体、また構成される層は図1等に示す遠赤外線輻射体1と同様である。
二次電池モジュール7として小型で薄型ものやワイヤレスで電源供給を受けるものを用いれば、遠赤外線輻射体1自体を小型化、薄型化することができるので、あらゆる身体着用具10に適用することができる。また揮発性剤保持層5で保持する揮発性剤をアロマオイルとすれば、身体着用具10,10Aからはアロマオイルが拡散され、着用しながら、アロマテラピーの効果を得ることができる。また揮発性剤として消臭剤を用いた場合は、身体着用具10,10Aを着用しながら消臭効果を得ることができるので、臭いを気にせず着用することができる。特におむつカバーのような臭いが気になる身体着用具10Aに効果的である。
【0033】
身体着用具10としての適用例は図例に限定されず、ゴムのベルト体に遠赤外線輻射体1を設け、腰等に巻き付けて着用するものにも適用してもよいし、サスペンダーの背中側に遠赤外線輻射体1を設けてもよい。また上衣の背中やズボンの腰あたり等、衣服に遠赤外線輻射体1を一体的に設けるようにしてもよい。
このように遠赤外線輻射体1を身体着用具10,10Aに適用すれば、上述の遠赤外線輻射体1が奏する効果に加え、着用しているだけで、身体を温めることができ、遠赤外線の効果に加えて芳香剤や消臭剤等の揮発性剤は発揮する効果を有する。
【符号の説明】
【0034】
1,1A,1B 遠赤外線輻射体
2 遠赤外線輻射層
21 電極
3 フィルタ層
5 揮発性剤保持層
7 二次電池モジュール
10,10A 身体着用具
【要約】
【課題】遠赤外線の効果に加えて芳香剤や消臭剤等の揮発性剤が発揮する効果を有する遠赤外線輻射体及び身体着用具を提供する。
【解決手段】遠赤外線輻射体1は、遠赤外線を輻射する面状の遠赤外線輻射層2に、アロマオイル等の揮発性剤が保持された揮発性剤保持層5を設けたことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7