(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
魚を特殊な方法で加工処理して発酵させたところ、魚肉等に多種の細菌が含有されていることが検出された。その細菌の中には乳酸菌が含有されていることが検出された。
【0013】
そこで、乳酸菌だけを分離することにした。乳酸菌の分離には、株式会社テクノスルガ・ラボ(静岡県静岡市清水区長崎330番地)に細菌分離を依頼した。
【0014】
乳酸菌の分離は、以下の条件で分離培養し、コロニー観察を行い、グラム染色及びカタラーゼ試験を行った。
・培養条件
培地:MRS寒天(Oxoid,Hampshire,UK) +3% Nacl
培養温度:30℃
培養期間:3日
希釈液:生理食塩水
希釈倍率:原液〜10
4
分離方法:希釈平板法(10μl表面塗抹)
その他条件:嫌気
・コロニー観察
実体顕微鏡SZH10(オリンパス、東京)を使用
・グラム染色
グラム染色としてファイバーG「ニッスイ」(日水製薬、東京)を、
顕微鏡として光学顕微鏡BX51(オリンパス、東京)を使用
・カタラーゼ試験
3%過酸化水素水を用い、気泡が発生するものを陽性と判定
【0015】
分離培養を行ったところ、性状の異なる複数のコロニーの生育が認められた。分離された各菌株について、グラム染色及びカタラーゼ試験を行ったところ、グラム陽性・カタラーゼ陰性の細菌を乳酸菌として判定し、その結果、2種類の乳酸菌と考えられるコロニーが分離された。ここでは、それぞれをSIID17126-L1、SIID17126-L2とする。
【0016】
次に、それぞれの菌(SIID17126-L1、SIID17126-L2)について同定試験を行った。同定試験には、株式会社テクノスルガ・ラボに同定試験(細菌Premium)を依頼した。
【0017】
同定試験は、以下の条件で培養し、16SrDNA(16SrRNA遺伝子)塩基配列解析、形態観察及び生理・生化学試験(細菌第一段階試験及び細菌第二段階試験)の結果から、帰属分類群を推定した。
【0018】
・培養条件
培地:MRS寒天(Oxoid,Hampshire,UK)
培養温度:30℃
培養期間:48時間
希釈液:生理食塩水
その他条件:嫌気
・16SrDNA(16SrRNA遺伝子)塩基配列解析
PCR増幅からサイクルシークエンスまでの操作は各プロトコールに基づいた。
DNA抽出:アクロモペプチダーゼ(和光純薬、大阪)
PCR増幅:PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ、滋賀)
サイクルシークエンス:BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit
(Applied Biosystems,CA,USA)
使用プライマー:PCR増幅;9F,1510R
シークエンス;9F,785F,802R,1510R
シークエンス:ABI PRISM 3130xlGenetic Analyzer System
(Applied Biosystems,CA,USA)
塩基配列決定:ChromasPro1.7(Technelysium Pty Ltd.,Tewantin,AUS)
BLAST相同性検索及び簡易分子系統解析:微生物同定用DNAデータベースDB0BA10.0
(テクノスルガ・ラボ、静岡)
国際塩基配列データベース
(GenBank/DDBJ/EMBL)
・細菌第一段階試験
光学顕微鏡(BX50F4(オリンパス、東京))による形態観察及びBARROWらの方法(BARROW,(G.I.) and FELTHAM,(R.K.A.):Cowan and Steel's Manual for the Identification of Medical Bacteria.3rd edition.1993,Cambridge University Press.)に基づき、カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、ブドウ糖からの酸/ガス産生、ブドウ糖の酸化/発酵について試験を行った。
・細菌第二段階試験
キット(API20Step(bioMerieux,Lyon,France)を用いた。また、英国NCIMB Ltd.(http://www.ncimb.co.uk/)との技術提携事項及び分類・同定の関連文献に従い、追加試験を実施した。
【0019】
SIID17126-L1は、16SrDNA塩基配列解析の結果、Enterococcus属のE.devriesei、E.pseudoavium、E.viikkiensisのいずれかに帰属する可能性が示唆された。
【0020】
また、SIID17126-L1は、細菌第一段階試験の結果、Enterococcus属の性状と一致し、細菌第二段階試験の結果、E.pseudoaviumとの相違が認められ、E.devriesei又はE.viikkiensisの性状と一致した。
【0021】
以上のことから、SIID17126-L1は、Enterococcu iikkiensis又はEnterococcus devrieseiのいずれかに帰属するものと推定された。
【0022】
また、SIID17126−L2は、16SrDNA塩基配列解析の結果、Lactococcus属のL.lactis subsp.lactisに属する可能性の有るL.lactisに帰属する可能性が示唆された。
【0023】
また、SIID17126-L2は、細菌第一段階試験の結果、Lactococcus属の性状と一致し、細菌第二段階試験の結果、Lactococcu lactis subsp.lactisの性状と一致した。
【0024】
以上のことから、SIID17126−L2は、Lactococcu lactis subsp.lactisに帰属するものと推定された。
【0025】
これらの乳酸菌(SIID17126-L1、SIID17126-L2)は、下記のように寄託している。
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基板機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 郵便番号292-0818)
受託日:2016年8月2日
受託番号:SIID17126-L1について、NITE P−02313
SIID17126-L2について、NITE P−02314
【0026】
乳酸菌(SIID17126-L1、SIID17126-L2)には、以下に記載する性質を有することが確認された。なお、以下において乳酸菌の検出は、一般財団法人日本食品分析センター(東京都渋谷区元代々木町52番1号)又は一般財団法人佐賀県環境科学検査協会(佐賀県佐賀市光1丁目4番2号)において行った。
【0027】
(1)飼料
乳酸菌が含有されていない飼料をニワトリに与え、そのニワトリが産んだ卵を調べたところ、卵(卵黄及び卵白)から乳酸菌が検出されなかった。
【0028】
また、乳酸菌が含有されていない上記飼料に市販されている代表的な乳酸菌(ヨーグルト)を含有させたものを飼料としてニワトリに与え、そのニワトリが産んだ卵を調べたところ、卵(卵黄及び卵白)から乳酸菌が検出されなかった。
【0029】
しかしながら、乳酸菌が含有されていない上記飼料に上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)を含有させたものを飼料としてニワトリに与え、そのニワトリが産んだ卵を調べたところ、卵(卵黄及び卵白)から乳酸菌が検出された。
【0030】
このことから、上記乳酸菌(SIID17126-L1、SIID17126-L2)は、一般的な乳酸菌とは異なり、飼料に含有させることで、母体内で消化や死滅などすることなく増殖して卵の卵黄及び卵白にまで含有される性質であることが明らかとなった。
【0031】
このように、上記乳酸菌(SIID17126-L1、SIID17126-L2)は、飼料に含有させることで、家畜等の動物の体内で増殖し、飼料を食した動物に乳酸菌を投与することができるとともに、その動物の子や卵(飼料を直接食していない子や卵)にまで含有させることができる。なお、これは、乳酸菌を含有する卵の製造方法としても利用できる。
【0032】
(2)肥料
乳酸菌が含有されていない肥料をトマトの苗に与え、成熟したトマトを調べたところ、トマトから乳酸菌が検出されなかった。
【0033】
しかしながら、乳酸菌が含有されていな上記肥料に上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)を含有させたものを肥料としてトマトの苗に与え、成熟したトマトを調べたところ、トマトから乳酸菌が検出された。また、乳酸菌が含有されていない肥料を与えた場合よりも良好に(早く、多く)成熟することが確認された。
【0034】
このように、上記乳酸菌(SIID17126-L1、SIID17126-L2)は、肥料に含有させることで、野菜等の植物の内部で増殖し、肥料を用いて育成した植物に乳酸菌を投与することができるとともに、その実にまで含有させることができる。なお、これは、乳酸菌を含有する野菜の製造方法としても利用できる。
【0035】
(3)生菌剤
海水、河川水(淡水)、汽水(海水と河川水とが混合したもの)、軽質石油を添加した海水、海底土について、乳酸菌の含有状態を調べたところ、いずれからも乳酸菌が検出されなかった。
【0036】
この乳酸菌が検出されない海水、河川水、汽水、軽質石油を添加した海水、海底土に市販されている代表的な乳酸菌(ヨーグルト)を添加し放置したところ、添加した乳酸菌が死滅することを確認した。
【0037】
しかしながら、乳酸菌が検出されない海水、河川水、汽水、軽質石油を添加した海水、海底土に上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)を添加し放置したところ、添加した乳酸菌が死滅せずに増殖することが確認された。
【0038】
さらに、上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)を添加した海水で養殖された生海苔を保存したところ、海苔から乳酸菌が検出された。
【0039】
また、上記(2)の肥料でも確認されているように、上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)を添加した土でも乳酸菌が死滅することはなかった。
【0040】
そのため、上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)は、水や土などとともに乳酸菌を投与することができ、しかも、植物・動物・菌類等と人間とのつながりを一体に捉えたBIOTOP(ビオトープ)の保護・保全・復元・創出である環境対策に生きた乳酸菌を投与することができる生菌剤として利用することができる。
【0041】
(4)飲食物
上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)を疑似胃酸に添加して放置したところ、添加した乳酸菌が死滅せずに生存することが確認された。
【0042】
そのため、上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)は、飲食物に添加することができる。なお、同様に、上記乳酸菌(SIID17126-L1又は/及びSIID17126-L2)は、医薬品や健康補助食品などにも添加することができる。
【解決手段】本発明では、受託番号:NITE P−02313で寄託されている乳酸菌、受託番号:NITE P−02314で寄託されている乳酸菌を提供するものである。また、本発明では、これらの乳酸菌を含有する飼料や肥料や生菌剤を提供するものである。これらの乳酸菌は、人間を含む動物や植物などの内部で死滅することなく増殖することが確認された。また、これらの乳酸菌は、水や土などの内部で死滅することなく増殖することが確認された。そのため、これらの乳酸菌は、飼料や肥料や生菌剤などとして幅広く利用することができるものである。