(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
検査対象機器を収納する容器の壁面に設置した音響センサによって取得されたインパルス電圧印加に伴う音響信号を受けて、前記音響信号に重畳する電磁ノイズを除去するローパスフィルタと、
予め取得しておいた、部分放電が発生しない低電圧の前記インパルス電圧印加時に前記音響信号に現れる前記検査対象機器の機械的振動成分に基づいて、高電圧の前記インパルス電圧印加時の音響信号から前記機械的振動成分を除去する機械的振動除去部と、
前記機械的振動成分が除去された前記高電圧印加時の音響信号に基づいて、前記検査対象機器における部分放電の発生の有無を判定する部分放電判定部と、
前記部分放電が発生している場合に、予め取得しておいた、音響信号として得られる部分放電信号の特徴量と部分放電の特徴量との相関関係に基づいて、部分放電の特徴量を求め、前記検査対象機器が絶縁破壊に至るまでの裕度を判定する
裕度判定部とを備えた、電力機器の部分放電判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る部分放電判定方法および部分放電判定装置について、図面を参照しつつ説明する。以下の実施の形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
以下の説明においては、検査対象機器である電気機器の一例として電力用外鉄型変圧器を用いる。しかしながら、本発明に係る部分放電判定方法および部分放電判定装置の検査対象機器としては、電力用の変電機器や配電機器などの任意の電気機器を対象とすることができる。例えば、内鉄型変圧器、または絶縁開閉装置などを検査対象機器とすることができる。
【0018】
[実施の形態1]
(雷インパルス耐電圧試験)
電力用の変電機器や配電機器などの電気機器に対して、製品出荷前に実施される絶縁試験の一つとして雷インパルス耐電圧試験が行われる。この試験は、電力用変圧器などの電気機器が通常運転中に、外部で生じた雷サージや開閉サージ等の異常電圧波形が荷電された場合であっても絶縁性能を保証するための試験である。具体的には、標準規格で定められた電圧波形を電気機器へ印加した場合であっても、絶縁破壊しないことを保証するための試験が行われる。但し、製品の絶縁信頼性を保証するため、印加電圧に対する絶縁破壊に至るまでの裕度を明確にしておくことが必要とされる。
【0019】
(インパルス電圧発生装置)
次に、電力用変圧器をはじめとする電力機器のインパルス耐電圧試験に用いられるインパルス電圧発生装置の動作原理を説明する。まず、並列に接続した数個のコンデンサに所定の電圧を充電させた後、複数の球ギャップを同時に放電させることでコンデンサを模擬的に直列に接続する。これによって、インパルス電圧発生装置と検査対象機器を含む回路の回路定数で決まる波頭長、波尾長の波形を出力する。
【0020】
この動作原理上、インパルス電圧波形の出力と同時に球ギャップ間放電に起因する非常に強い電磁ノイズが放射されるため、電力用変圧器内部で発生する部分放電を検出することが非常に困難である。
【0021】
例えば、部分放電が発する電磁波を電磁波センサ(アンテナ)を用いて検出する電磁波法や、部分放電の発生に伴って流れる電流パルスを検出する方法などのような、交流の商用電圧が印加される通常運転時における高電圧電気機器の部分放電検出手段として一般的に用いられる方法では、インパルス耐電圧試験時においては部分放電信号がインパルス電圧発生装置の電磁ノイズに埋没してしまい、部分放電の発生を検知することが不可能となる。
【0022】
また、電力機器の部分放電検出方法として、部分放電により発生し機器内部を伝搬する弾性波信号を音響センサによって検出する手法も一般的に行われている。出願人は、この方法を雷インパルス耐電圧試験に用いた場合、以下のような問題点があることを明らかにした。
【0023】
電力用変圧器のインパルス耐電圧試験時においては、インパルス電圧を変圧器に印加すると変圧器の静電容量を介して充電電流が瞬間的に流れる。充電電流がコイルを流れることで、各巻線間に物理的な力が発生しコイルには機械的振動が生じる。コイルの機械的振動により変圧器タンク内を充填する絶縁油に弾性波が伝播する。そのため、音響センサを用いて部分放電を検出することを試みた場合、機械的振動による成分が、タンク内部の部分放電発生の有無に拘らず検出される。
【0024】
(絶縁破壊までの裕度)
本実施の形態では、インパルス耐電圧試験時における絶縁破壊に至るまでの指標として裕度を用いる。
【0025】
(検査対象機器)
図1は、本発明の実施の形態1に係る部分放電の検査対象機器の例である電力用外鉄型変圧器50の構成を示す斜視図である。
図1においては、各構成の一部をカットして示している。
【0026】
図1に示すように、電力用外鉄型変圧器50は、鉄心1と、鉄心1に巻き回された巻線からなるコイル部2と、鉄心1およびコイル部2を収容するタンク3と、タンク3内に充填されて鉄心1およびコイル部2が浸漬された図示しない絶縁油とを備える。
【0027】
鉄心1は、積層された複数の磁性鋼板から構成されている。本実施形態においては、中央部に開口を有する直方体状の鉄心1が2つ隣り合うように配置されている。
【0028】
コイル部2は、各鉄心1の開口を貫通するように、2つの鉄心1の互いに隣り合った脚に巻き回されている。
【0029】
絶縁油は、絶縁媒体と冷却媒体とを兼ねている。絶縁油は、タンク3内において鉄心1およびコイル部2の周囲を流動している。本実施形態においては、絶縁油として鉱油を用いているが、絶縁油としてエステル油などを用いてもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態1に係る検査対象機器の代表例としての電力用外鉄型変圧器50のコイル構造を表わす斜視断面図である。
【0031】
電力用外鉄型変圧器では、インパルス電圧発生装置に接続され、高電圧のインパルス波形が印加される最も高電圧の高電圧側コイル4から最も低電圧の接地コイル5まで複数枚のコイルが並んで配置されることによって、コイル部2を構成している。
【0032】
最も低電圧の接地コイル5の端部P2は接地されている。インパルス電圧が高電圧側コイル4の端子P1に印加されると、電圧が印加された高電圧側コイル4付近に最も高い電界が形成され、部分放電発生箇所となる。一般に、電力用外鉄型変圧器50では、部分放電が発生し進展した場合でも、絶縁バリアを適切に配置することで放電の進展を抑制するように設計されている。
【0033】
(部分放電判定方法)
本実施形態に係る電気機器の部分放電判定方法は、音響センサを用いてインパルス電圧時の部分放電を判定する際に、前述した電磁ノイズに部分放電信号が埋没することを回避するとともに、部分放電が確実に発生しない低電圧印加時に現れる機械的振動成分波形を利用して部分放電が発生し得る高電圧印加時の機械的振動成分を除去することによって、部分放電信号のみを抽出する。さらに、本実施形態に係る電気機器の部分放電判定方法は、予め取得しておいた音響センサによる部分放電信号
の特徴量と、部分放電の特徴量から、機器が絶縁破壊に至るまでの裕度を判定する。
【0034】
(部分放電判定装置)
図3は、実施の形態1に係わる部分放電判定装置の構成を表わす図である。
【0035】
図3を参照して、部分放電判定装置8は、ローパスフィルタ13と、印加電圧取込部9と、波形記録装置10と、機械的振動除去部15と、部分放電判定部11と、特徴量特定部18と、裕度判定部12と、相関値記憶部19と、出力部20とを備える。
【0036】
インパルス電圧発生装置14は、規格を満たすインパルス電圧波形を電力用外鉄型変圧器50に対して印加する。一般的な高電圧機器のインパルス耐電圧試験においては、電圧波形の波頭長(立上がり時間)と波尾長(立下り時間)、および機器の定格電圧や容量に応じて波高値が規格で定められている。
【0037】
印加電圧取込部9は、インパルス電圧波形を取り込んで、波形記録装置10に保存するとともに、取り込んだインパルス電圧波形から電圧印加開始時刻を特定して波形記録装置10に保存する。インパルス電圧発生装置14から出力される電圧波形は高電圧のため、印加電圧取込部9は、取り込んだインパルス電圧波形を分圧器を用いて分圧した電圧波形を波形記録装置10に保存してもよい。波形記録装置10としては一般的なオシロスコープを用いることができる。
【0038】
音響センサ6は、検査対象機器である電力用外鉄型変圧器50のタンク3の外面に設置される。音響センサ6は、タンク3の内部で発生したインパルス電圧印加に伴う音響信号を取得する。音響センサ6は、物質の機械的な動きによって発生する弾性波(ストレスウェーブ)をAE(Acoustic Emission)法によって検出し、その検出結果を電気信号として出力する。
【0039】
前述したように、インパルス電圧発生装置14は、装置14内に設置された球ギャップ間に火花放電を発生させることで、電圧波形を出力する。球ギャップ間の火花放電が発する多大な電磁ノイズが、部分放電信号の検出を困難にしている大きな要因であったが、電磁ノイズが集中的に継続する時間は高々数10マイクロ秒程度である。一方、絶縁油中を音響信号の伝播速度は一般に毎秒1400メートルである。タンク3のサイズにも拠るが、タンク3内に収納された検査対象機器から発せられた音響信号が音響センサ6に到達するためには、およそ数100マイクロ秒から数ミリ秒の時間を要する。すなわち、インパルス電圧印加に伴う音響信号が音響センサ6によって検出される時間範囲は、インパルス電圧発生装置14から発せられた電磁ノイズの大半が減衰した後である。これが部分放電検出手段として、音響センサ6を用いることの大きな利点である。しかしながら、大半の電磁ノイズが減衰した後であっても、音響センサ6による測定信号には依然として電磁ノイズ成分が重畳した波形となっている。これに対処するためにローパスフィルタ13が用いられる。
【0040】
ローパスフィルタ13には、取得された音響センサ6の測定信号から電磁ノイズの成分(インパルス電圧発生装置14に起因するノイズ成分)を除去する。なお、ローパスフィルタ13の機能を、デジタル信号処理によって実現してもよい。ローパスフィルタ13としては、本来の音響信号と電磁ノイズとを周波数的に分離できるカットオフ周波数特性を有するものが選定される。インパルス電圧発生装置14の球ギャップ間の火花放電により放射される電磁ノイズは、数100MHzオーダの成分が強い一方で、音響信号は、数10〜数100kHzである。例えば、カットオフ周波数が1MHz程度のローパスフィルタ13を採用することで、音響センサ6の測定信号に重畳する電磁ノイズの成分を除去し、検出対象の音響信号の成分のみを通過させることができる。
【0041】
ローパスフィルタ13によって、電磁ノイズが除去されることによってインパルス電圧の印加に伴って生じる音響信号の主成分を取得することができる。しかしながら、ローパスフィルタ13を通過後の信号は、電力用外鉄型変圧器50の内部における部分放電の発生の有無にかかわらず、充電電流が瞬間的に流れることによって生じる電力用外鉄型変圧器50のコイル部2の機械的振動に起因するノイズ成分が含まれる。これに対処するのは、機械的振動除去部15である。
【0042】
機械的振動除去部15は、ローパスフィルタ13の処理信号に含まれる機械的振動に起因するノイズ成分を除去する。一般的に、電力用外鉄型変圧器50のような大容量の電力機器に対してインパルス耐電圧試験を行う場合には、規格で規定された試験電圧をいきなり印加することはなく、規定通りの波頭長、波尾長が出力されているかを電力用外鉄型変圧器50のタンク3の内部で部分放電が確実に発生しない低い電圧波形を数発出力することで確認する。ただし、低電圧波形を印加した場合でもコイル部2には充電電流が流れるため、コイル部2の機械的振動成分は音響センサ6によって検出される。機械的振動成分は、検査対象機器に印加するインパルス電圧の波高値を変化させても周期は全く同一であり振幅のみ変化するという性質がある。
【0043】
図4は、インパルス電圧の波高の二乗と機械的振動成分の振幅値との関係を表わす図である。
【0044】
本願発明者らは、
図4に示すように、機械的振動成分の振幅値が、各巻線のコイル部2に流れる充電電流の二乗に比例する、すなわちインパルス電圧の波高値の二乗に比例することを実験的に明らかにした。
【0045】
部分放電が発生しない低電圧波形印加時におけるインパルス電圧の波高値をV1、機械的振動成分の振幅値をA1とし、耐電圧試験の規格に準拠した高電圧印加時のインパルス電圧の波高値をV2とし、機械的振動成分の振幅値をA2とし、比例係数をKとすると、以下の式が成り立つ。
【0046】
K=(V2/V1)
2 ・・・(1)
A2=A1×K ・・・(2)
波形記録装置10は、部分放電が発生しない低電圧印加時において、ローパスフィルタ13から出力される音響信号波形LWと、耐電圧試験の規格に準拠した高電圧印加時において、ローパスフィルタ13から出力される音響信号波形HWとを記録する。
【0047】
低電圧印加時には、部分放電が発生しないので、音響信号波形LWは、音響センサ6の検出信号に現れる機械的振動成分波形となる。よって、音響信号波形LWの振幅は、機械的振動成分の振幅値A1となる。
【0048】
機械的振動除去部15は、波形記録装置10に保存された低電圧印加時の音響信号波形LWから機械的振動成分の振幅値A1を特定する。機械的振動除去部は、式(1)にしたがって、比例係数Kを算出する。
【0049】
機械的振動除去部15は、低電圧印加時の音響信号波形LWをK倍することによって、高電圧印加時の機械的振動成分波形NWを求める。
【0050】
機械的振動除去部15は、波形記録装置10に保存された高電圧印加時の音響信号波形HWから高電圧印加時の機械的振動成分波形NWを減算する。これによって、高電圧印加時における機械的振動成分が除去された音響信号波形が得られる。
【0051】
ローパスフィルタ13および機械的振動除去部15によって、音響センサ6によって検出した音響信号波形から、インパルス電圧発生装置14に起因する電磁ノイズとコイル部2の機械的振動成分を除去することができる。一方、音響センサ6を用いて測定した音響信号成分には、ここで挙げた部分放電信号以外の外来ノイズが重畳する可能性がある。例えば、インパルス電圧試験中にタンク3に異物が衝突することによる衝撃音や、タンク3の外で発生する音による弾性波等がタンク3の壁面に設置した音響センサ6で外来ノイズとして検出される。この外来ノイズを除去して部分放電を検出する手段が、部分放電判定部11である。
【0052】
絶縁油中の音響信号の伝播速度は一般的に毎秒1400メートルである。この音響信号伝播速度Vと予め把握してある電力用外鉄型変圧器50の構造物内の高電圧充電部(すなわち、高電圧側コイル4)と音響センサ6との距離に基づいて、インパルス電圧印加開始時刻と、部分放電信号が音響センサ6に到達する時刻との時間差をある範囲の中で予測しておくことができる。
【0053】
より具体的には、部分放電判定部11は、電力用外鉄型変圧器50の構造物の高電圧充電部と音響センサ6の設置位置間の最短距離を油中の音響信号伝播速度Vで除算した時間t1を算出する。
【0054】
部分放電判定部11は、電力用外鉄型変圧器50の構造物の高電圧充電部と音響センサ6の設置位置間の最長距離を油中の音響信号伝播速度Vで除算した時間t2を算出する。
【0055】
部分放電判定部11は、インパルス電圧印加開始時刻を基準として、時間範囲内t1〜t2の間に音響信号成分が現れる場合には、電力用外鉄型変圧器50の内部に部分放電が発生していると判定する、すなわち部分放電信号が存在すると判定する。部分放電判定部11は、インパルス電圧印加開始時刻を基準として、時間範囲内t1〜t2の間に音響信号成分が現れない場合には、電力用外鉄型変圧器50の内部に部分放電が発生していないと判定する、すなわち部分放電信号が存在しないと判定する。
【0056】
ここで、インパルス電圧印加開始時刻を取得する手段として、電磁波センサ信号、あるいは電流センサ信号を用いることができる。
【0057】
裕度判定部12は、インパルス耐電圧試験の前に予め取得しておいた、音響センサにより得た部分放電信号波形と、部分放電の特徴量の相関を利用して、電力用外鉄型変圧器50の絶縁破壊までの裕度を判定する。
【0058】
出力部20は、判定された絶縁破壊までの裕度を表示する。
(部分放電判定システム)
図5は、本発明の実施の形態1に係る部分放電判定システム40の構成を表わす図である。
【0059】
部分放電判定システム40は、前述のインパルス電圧発生装置14と、音響センサ6と、部分放電判定装置8とを備える。
図8では、部分放電判定装置8は、ハードウエア構成によって表されている。
図3の印加電圧取込部9、部分放電判定部11、裕度判定部12、機械的振動除去部15、および特徴量特定部18は、メモリ32に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ31によって実現される。
図3の出力部20は、ディスプレイ33で構成される。
図3の相関値記憶部19および波形記録装置10は、メモリ32で構成される。
【0060】
(部分放電判定方法)
図6は、本発明の実施の形態1に係る部分放電判定方法の手順を示すフローチャートである。また、
図7および
図8は、
図6のフローチャートに従って取得できる波形例である。本実施形態に係る部分放電判定方法を順を追って以下に説明する。
【0061】
まず、ステップS101において、インパルス電圧発生装置14は、規格を満たす低電圧のインパルス電圧波形を電力用外鉄型変圧器50に対して印加する。
図7(a)は、低電圧のインパルス電圧波形の例を表わす。低電圧のインパルス電圧波形の波高値をV1とする。
【0062】
ステップS102において、タンク3の壁面に設置した音響センサ6がインパルス電圧印加に伴う音響信号を取得する。
図7(b)は、音響センサ6が取得した音響信号の波形(音響センサ測定波形)の例を表わす。
【0063】
ステップS103において、取得された音響センサ6の測定信号がローパスフィルタ13を通過させることによって、電磁ノイズの成分(インパルス電圧発生装置14に起因するノイズ成分)を音響センサ6の測定信号から除去する。ローパスフィルタ13から出力される低圧電圧印加時の音響信号波形LWが、波形記録装置10に記憶される。
図7(c)は、ローパスフィルタ13から出力される低電圧印加時の音響信号波形LWの例を表わす。音響信号波形LWの振幅をA1とする。
【0064】
ステップS104において、インパルス電圧発生装置14は、規格を満たす高電圧のインパルス電圧波形を電力用外鉄型変圧器50に対して印加する。
図8(a)は、高電圧のインパルス電圧波形の例を表わす。低電圧のインパルス電圧波形の波高値をV2とする。
【0065】
ステップS105において、印加電圧取込部9は、高電圧のインパルス電圧波形を取り込んで、波形記録装置10に保存するとともに、取り込んだインパルス電圧波形から電圧印加開始時刻を特定して波形記録装置10に保存する。
【0066】
ステップS105と並行して、ステップS106において、タンク3の壁面に設置した音響センサ6がインパルス電圧印加に伴う音響信号を取得する。
図8(b)は、音響センサ6が取得した音響信号の波形(音響センサ測定波形)の例を表わす。
【0067】
ステップS107において、取得された音響センサ6の測定信号がローパスフィルタ13を通過させることによって、電磁ノイズの成分(インパルス電圧発生装置14に起因するノイズ成分)を音響センサ6の測定信号から除去する。ローパスフィルタ13から出力される高圧電圧印加時の音響信号波形HWが、波形記録装置10に記憶される。
図8(c)は、ローパスフィルタ13から出力される高電圧印加時の音響信号波形HWの例を表わす。音響信号波形HWの振幅をA2とする。
【0068】
ステップS108において、機械的振動除去部15は、ローパスフィルタ13の処理信号に含まれる機械的振動に起因するノイズ成分を除去する。具体的には、機械的振動除去部15は、波形記録装置10に保存された低電圧印加時の音響信号波形LWから機械的振動成分の振幅値A1を特定する。機械的振動除去部は、式(1)にしたがって、比例係数Kを算出する。機械的振動除去部15は、低電圧印加時の音響信号波形LWをK倍することによって、高電圧印加時の機械的振動成分波形NWを求める。機械的振動除去部15は、波形記録装置10に保存された高電圧印加時の音響信号波形HWから高電圧印加時の機械的振動成分波形NWを減算することによって、高電圧印加時における機械的振動成分が除去された音響信号波形を得る。
図8(d)は、高電圧印加時における機械的振動成分が除去された音響信号波形の例を表わす図である。
【0069】
ステップS109において、部分放電判定部11は、電力用外鉄型変圧器50の構造物の高電圧充電部と音響センサ6の設置位置間の最短距離を油中の音響信号伝播速度Vで除算した時間t1を算出する。
【0070】
ステップS110において、部分放電判定部11は、電力用外鉄型変圧器50の構造物の高電圧充電部と音響センサ6の設置位置間の最長距離を油中の音響信号伝播速度Vで除算した時間t2を算出する。
【0071】
ステップS111において、部分放電判定部11は、インパルス電圧印加開始時刻を基準として、ステップS108で得られた音響信号波形の時間範囲内t1〜t2(t1以上、かつt2以下)に音響信号成分が現れるか否かを調べる。時間範囲内t1〜t2に音響信号成分が現れる場合には、処理がステップS113に進む。時間範囲内t1〜t2に音響信号成分が現れない場合には、処理がステップS112に進む。
【0072】
ステップS112において、部分放電判定部11は、部分放電が発生していないと判定する。
【0073】
ステップS113において、部分放電判定部11は、部分放電が発生していると判定する。
【0074】
ステップS114において、特徴量特定部18は、実際の検査対象機器である電力用外鉄型変圧器50を接続したときに部分放電判定部11によって抽出された部分放電信号の特徴量を特定する。裕度判定部12は、特徴量特定部18によって特定された部分信号の特徴量からインパルス耐電圧試験前に得られた相関値記憶部19に記憶されている相関値を用いることによって、電力用外鉄型変圧器50の絶縁破壊までの裕度を判定する。
【0075】
以上のように、本実施の形態によれば、電力用変圧器のインパルス耐電圧試験時においても、インパルス電圧発生装置に由来する電源ノイズ、コイルの機械的振動成分、および他の外来ノイズの影響を回避し、音響センサを用いて部分放電信号を検出することが可能となる。さらに、本実施の形態によれば、絶縁破壊に至るまでの裕度を判定することができる。
【0076】
機器が絶縁破壊に至るまでの裕度を判定するための、音響センサで得た部分放電信号
の特徴量と部分放電の特徴量の相関としては、例えば以下の手法を用いることができる。
【0077】
音響センサで測定した部分放電信号
の特徴量としては、信号の最大振幅、信号の継続時間、または部分放電信号の発生頻度が挙げられる。
【0078】
また、機器内部で発生する部分放電の特徴量としては、放電進展長、放電の進展時間すなわち継続時間、または部分放電の放電電荷量が挙げられる。
【0079】
これらの測定信号と、部分放電の特徴量の相関関係を予め取得しておくことで、機器の雷インパルス耐電圧試験時に測定した部分放電信号
の特徴量から、部分放電の特徴量を推定し、絶縁破壊に至るまでの裕度を判定することができる。
【0080】
なお、本実施の形態では、印加電圧取込部9、部分放電判定部11、裕度判定部12、機械的振動除去部15、および特徴量特定部18は、メモリ32に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ31によって実現されるものとしたが、これに限定するものではない。たとえば、監視員が手作業で分析ツールなどを用いてこれらの機能を実行するものとしてもよい。
【0081】
[実施の形態2]
電力機器のインパルス耐電圧試験において、インパルス電圧が印加される高電圧側コイル4を起点に進展を開始した放電が、接地コイル5すなわち接地部まで進展した場合に、高電圧側コイル4が橋絡(短絡)して機器の絶縁破壊(全路破壊)となる。実施の形態2では、インパルス耐電圧試験時において、放電が後どれだけ進展すれば接地コイル5に達する、すなわち絶縁破壊(全路破壊)に至るかを表わす指標である裕度を導入する。
【0082】
裕度Mは、高電圧側コイル4から接地コイル5までの距離をd1、高電圧側コイル4から接地コイル5に向けた進展を開始した放電の進展長をd2としたときに、以下の式で表わすことができる。
【0083】
M=1−d2/d1 ・・・(3)
以上のように、機器の絶縁破壊に至る裕度を判定する際には、実施の形態1で述べた部分放電信号の特徴量のうち、放電進展長を指標とする手法が、最も効果的である。
【0084】
インパルス耐電圧試験の前に、音響センサで取得した部分放電信号の特徴量と放電進展長との相関を取得するには以下のような手法がある。
【0085】
図9は、部分放電信号の特徴量と放電進展長との相関を取得するための手法を説明するための図である。
【0086】
一般に電力用外鉄型変圧器50のタンクは金属製で光透過性は無く、また内部を確認するための窓・フランジが設けられないため、インパルス耐電圧試験時におけるタンク内部の放電発光や放電進展状況を観察することは不可能である。また、音響センサ6で取得した部分放電信号の特徴量と放電進展長との相関は必ずしも一意ではなく、電力用外鉄型変圧器50の構造やサイズに依存する。
【0087】
そこで、本実施の形態では、代表的な変圧器構造を有する実規模変圧器モデルを用意し、
図9に示すように、タンク3に観測窓7を設置する。インパルス耐電圧試験を実施すると同時に、タンク3の外面に音響センサ6を設置する。実規模変圧器モデルに
図3に示すインパルス電圧発生装置14および部分放電判定装置8を接続することによって、部分放電信号を抽出し、部分放電信号の特徴量を求める。また、タンク3の観測窓7から、
図10に示すような放電進展長を得る。
【0088】
放電進展長を光学的に観測する方法としては、たとえばカメラによる撮影が可能である。静止カメラ、ストリークカメラ、またはフレーミングカメラを用いることで、発光様相から放電様相や進展長を明確に取得することができる。
【0089】
音響センサ6による部分放電信号の検出と、放電進展の光学的観測を同時に実施することで、部分放電信号の特徴長と放電進展長の相関値を得る。この相関値が、相関値記憶部19に記憶される。
【0090】
本願発明者らは、音響センサ6で取得した部分放電信号到達第一波の振幅と放電進展長には相関関係があることを実験的に見出した。
【0091】
図11は、音響センサ6で取得した部分放電信号の到達第一波の振幅と放電進展長の関係を示す図である。
図11に示すように、到達第一波の振幅と放電進展長には明確な相関が認められる。
【0092】
実施の形態2では、部分放電信号の特徴量と放電進展距離の相関を表わす指標として、音響センサ6で取得した部分放電信号の到達第一波の振幅と放電進展長の相関値を利用する。本実施の形態では、特徴量特定部18は、部分放電信号の特徴量として、部分放電判定部11によって得られた部分放電信号の到達第一波の振幅を求める。
【0093】
絶縁破壊までの裕度判定部12は、特徴量特定部18によって特定された部分信号の特徴量からインパルス耐電圧試験前に得られた相関値記憶部19に記憶されている相関値を用いることによって、電力用外鉄型変圧器50の内部の放電進展長を求める。絶縁破壊までの裕度判定部12は、さらに、放電進展長に基づいて、前述の式(3)に基づいて、電力用外鉄型変圧器50の内部における絶縁破壊までの裕度Mを判定する。
【0094】
[実施の形態3]
実施の形態3では、部分放電信号の特徴量と放電進展距離の相関を表わす指標として、音響センサで取得した部分放電信号の継続時間と放電進展長の相関を利用する。
【0095】
図12は、音響センサ6で取得した部分放電信号の継続時間と放電進展長の関係を示す図である。
【0096】
油中放電の進展速度は、およそ秒速1000メートル程度とされている。すなわち、放電進展長が伸びるにつれて、放電進展に要する時間も増加することになる。部分放電による音響信号も、放電が進展している間は常に発せられていることとなり、
図12に示すように、放電進展長と部分放電信号の継続時間には相関が認められる。
【0097】
実施の形態3の部分放電判定装置の構成および部分放電判定方法は、実施の形態1の部分放電判定装置の構成とおよび部分放電判定方法と略同一である。
【0098】
ただし、実施の形態3の特徴量特定部18は、部分放電信号の特徴量として、部分放電判定部11によって得られた部分放電信号の継続時間を求める。
【0099】
部分放電信号の開始時刻を、インパルス電圧印加開始時刻を基準とした音響信号波形の時間範囲内t1〜t2において、波形のレベルが閾値以上となった時点と定義する。ただし、t1、t2は実施の形態1で説明した方法で得られる値と同じである。
【0100】
部分放電信号の終了時刻を、インパルス電圧印加開始時刻を基準とした音響信号波形の時間範囲内t1〜t2において、波形のレベルが閾値未満となる状態が一定時間続いた時点であると定義する。
【0101】
部分放電信号の終了時刻から部分放電信号の開始時刻を減算することによって、部分放電信号の継続時間を求める。
【0102】
変圧器構造物における放電発生箇所は必ずしも一意に決まらず、放電発生箇所から音響センサまでの距離も試験ごとに変化する可能性がある。音響信号は、油中や構造物中を伝搬する際に減衰するので、試験ごとに減衰量も変化する可能性がある。
【0103】
本実施の形態では、部分放電信号の継続時間を指標として用いることで、部分放電信号が伝搬中に減衰し、信号振幅が減少した場合でも放電進展長を推定することができる。
【0104】
[実施の形態4]
本実施形態における部分放電判定方法を順を追って説明する。本実施形態においては、電力用外鉄型変圧器50のタンク3にN個の音響センサ(第1音響センサ〜第N音響センサ)を設置する。ただしNは4以上である。実施の形態1と対応または相当する部分は詳しい説明を省略する。
【0105】
電力用外鉄型変圧器50のタンク3の外面に複数の音響センサを設置した場合には、電力用外鉄型変圧器50に雷インパルス電圧を印加した際に、各センサに電力用外鉄型変圧器50のコイルの機械的振動成分が検出される。一般的に、電力用外鉄型変圧器50の構造物と各音響センサまでの距離や、電力用外鉄型変圧器50の構造部への角度が異なるため、各センサにはそれぞれ異なった固有の機械的振動成分波形が計測される。この場合でも、各センサに現れる機械的振動成分は、印加電圧値を変化させても周期は全く同一であり振幅のみ変化する。また、機械的振動成分の振幅は電力用外鉄型変圧器50のコイルに流れる充電電流の自乗に比例する、すなわち印加電圧の自乗に比例する、という特徴は変わらない。ただし、比例定数は音響センサごとに異なる。この特徴に着目すると、部分放電が確実に発生しない低電圧印加時における各音響センサの機械的振動成分をそれぞれ測定しておき、実際に規格で規定された波高値の高電圧インパルス波形を印加した際に各センサに現れる機械的振動成分波形から、実施の形態1記載の手法で機械的振動成分波形を除去すれば、各センサにおいて部分放電信号のみを抽出することができる。ただし、変圧器構造物の高電圧充電部とそれぞれの音響センサの設置位置で決まる所定の時間範囲内に現れた音響信号成分を部分放電と判定することは、実施形態1と同じである。
【0106】
さらに、各センサに現れる部分放電信号の到達時間差を波形記録装置から取得することで、絶縁油中の音響信号伝播速度をもとに部分放電発生位置を標定することが可能となる。3次元構造をもつタンク内部の部分放電位置を一意に標定するには、原理的に4つの音響センサが必要である。このステップにより、放電発生箇所から音響センサまでの距離を算出することができる。音響信号は油中を伝搬する際に減衰する。放電発生箇所から音響センサまでの距離が算出できれば、油中伝搬に伴う減衰量を補正することができ、部分放電信号の特徴量から放電進展長の算出を正確に行うことが可能となる。
【0107】
複数の音響センサのうち1つを代表音響センサとし、代表音響センサについて、部分放電信号の特徴量が予め取得されて相関値記憶部19に記憶される。この場合、裕度の判定は代表音響センサにて行う。本実施の形態では、第1音響センサを代表音響センサとする。
【0108】
(部分放電判定方法)
図13は、本発明の実施の形態4に係る部分放電判定方法の手順を示すフローチャートである。本実施形態に係る部分放電判定方法を順を追って以下に説明する。
【0109】
まず、ステップS201において、変数iが1に設定される。
ステップS202において、第i音響センサについて、
図9のステップS101〜S113の処理が実行される。
【0110】
ステップS203において、変数iが4の場合には、処理がステップS205に進み、変数iがNでない場合には、処理がステップS204に進む。
【0111】
ステップS204において、変数iの値がインクリメントされて、処理がステップS202に戻る。
【0112】
ステップS205において、すべての音響センサについての判定結果が部分放電が発生されているという判定結果の場合には、処理がステップS207に進む。少なくとも1つの音響センサについての判定結果が部分放電が発生してないという判定結果の場合には、処理がステップS206に進む。
【0113】
ステップS206において、部分放電判定部11は、部分放電が発生していないと総合判定する。
【0114】
ステップS207において、部分放電判定部11は、部分放電が発生していると総合判定する。
【0115】
ステップS208において、部分放電判定部11は、第1音響センサ〜第4音響センサで得られた部分放電信号の時間差から部分放電位置を推定する。具体的には、インパルス電圧開始時刻を基準とし、第1音響センサ〜第4音響センサで得られた音響信号波形の時間範囲内t1〜t2において、波形のレベルが閾値以上となった時点である部分放電開始時刻s1、s2、s3、s4を特定する。ただし、t1、t2は実施の形態1で説明した方法で得られる値である。部分放電判定部11は、時刻s1、s2、s3、s4に基づいて部分放電の発生位置を特定する。
【0116】
ステップS209において、部分放電判定部11は、第1番目の音響センサで得られた部分放電信号の減衰量を補正する。具体的には、部分放電判定部11は、部分放電の発生位置と第1番目の音響センサとの間の距離が大きいほど、第1番目の音響センサで得られた部分放電信号に大きな補正量を加算する。
【0117】
ステップS210において、特徴量特定部18は、第1番の音響センサで得られた部分放電信号の特徴量を特定する。裕度判定部12は、特徴量特定部18によって特定された部分信号の特徴量からインパルス耐電圧試験前に得られた相関値記憶部19に記憶されている相関値を用いることによって、電力用外鉄型変圧器50の絶縁破壊までの裕度を判定する。
【0118】
以上のように、本実施の形態によれば、部分放電発生箇所が音響センサ位置から離れた箇所であっても、絶縁破壊までの裕度を正確に推定することができる。
【0119】
なお、複数の音響センサ各々で予め部分放電信号の特徴量を取得しておき、裕度の判定を各々の音響センサによる測定信号に対して行うことで、絶縁破壊に至る裕度の判定の精度向上を図ってもよい。
【0120】
また、5つ以上の音響センサで同時計測を行うことで、部分放電位置の標定精度を高めることとしてもよい。
【0121】
また電力機器の製造方法は、電力機器を製造する工程と、上記の実施形態で説明した各ステップを実行することによって製造した電力機器が絶縁破壊に至るまでの裕度を判定する工程と、裕度が所定値以上かどうかによって、製造した電力機器をテストする工程とを含むものとしてもよい。