特許第6045765号(P6045765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045765電力変換装置およびこれを適用した車両駆動システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6045765
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】電力変換装置およびこれを適用した車両駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20161206BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
   H02P27/08
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-553480(P2016-553480)
(86)(22)【出願日】2016年5月9日
(86)【国際出願番号】JP2016063717
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-102514(P2015-102514)
(32)【優先日】2015年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将
(72)【発明者】
【氏名】山下 良範
【審査官】 宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−036031(JP,A)
【文献】 特開2005−151790(JP,A)
【文献】 特開2006−191775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M7/42−7/98
H02P21/00−25/03、
25/04、
25/10−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の両極間にスイッチング素子を互いに直列に接続してなるブリッジを備え前記直流電源の電圧を変換して電動機に供給する電力変換部、前記電動機に流入する電流を検出する電流検出部、および前記ブリッジを構成する前記スイッチング素子による直流短絡を防止するためのデッドタイムを設定付加するとともに電圧指令値と搬送波とに基づきPWM制御により前記スイッチング素子をオンオフ駆動するためのスイッチング信号を生成する制御部を備えた電力変換装置であって、
前記制御部は、前記電圧指令値と第一搬送波とに基づく第一スイッチング信号および前記電圧指令値と前記第一搬送波の周波数と異なる周波数の第二搬送波とに基づく第二スイッチング信号を生成可能とするとともに、
前記第一スイッチング信号により前記スイッチング素子を駆動したとき求まる前記電力変換部の第一動作特性および前記第二スイッチング信号により前記スイッチング素子を駆動したとき求まる前記電力変換部の第二動作特性に基づき、前記電動機の抵抗値および前記デッドタイムの実効値と前記デッドタイムの設定値との差であるデッドタイム誤差のいずれか一方または双方を推定演算する特性演算部を備えた電力変換装置。
【請求項2】
前記特性演算部は、前記電動機の抵抗値を推定演算する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記特性演算部は、更に、前記デッドタイム誤差を推定演算する請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第一動作特性および前記第二動作特性は、前記電流検出部で検出される電流検出値を電流指令値に追従させる制御の条件下で求めるようにした請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電流検出部で検出された前記電流検出値と前記電流指令値との偏差が零となるよう前記電圧指令値を生成する電流制御器、前記第一搬送波と前記第二搬送波とを選択して出力する選択器、および前記電圧指令値と前記選択器から出力された搬送波とに基づき前記スイッチング信号を生成するPWM制御器を備え、
前記特性演算部は、前記電流指令値として直流値を設定し、前記PWM制御器からの前記第一スイッチング信号により求まる前記第一動作特性および前記PWM制御器からの前記第二スイッチング信号により求まる前記第二動作特性に基づき、前記電動機の前記抵抗値および前記デッドタイム誤差のいずれか一方または双方を推定演算する請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記PWM制御器は、前記電圧指令値を前記直流電源の電圧値で規格化して変調波を出力する変調波生成回路、前記変調波と前記搬送波とに基づき前記PWM制御により前段スイッチング信号を生成するスイッチング信号生成回路、前記デッドタイムにより発生する出力電圧誤差を補償するように前記前段スイッチング信号を補正して後段スイッチング信号を生成するデッドタイム補正回路、および前記後段スイッチング信号にデッドタイム設定値を設定付加して前記スイッチング素子をオンオフ駆動するための前記スイッチング信号を生成するデッドタイム生成回路を備えた請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電流制御器の電流応答に係る時定数を前記電動機の抵抗値とインダクタンス値とで決まる時定数より小さく設定した請求項5または請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記特性演算部は、前記電動機の前記抵抗値を演算し、
前記電流指令値を互いに同一値に設定して前記第一動作特性および前記第二動作特性を求め、前記第一動作特性における前記電圧指令値と前記電流指令値とから第一抵抗値を演算し、前記第二動作特性における前記電圧指令値と前記電流指令値とから第二抵抗値を演算し、前記第一抵抗値と前記第二抵抗値とから前記電動機の前記抵抗値を演算するようにした請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記特性演算部は、前記デッドタイム誤差を演算し、
前記電流指令値を互いに同一値に設定して前記第一動作特性および前記第二動作特性を求め、前記第一動作特性における前記電圧指令値と前記第二動作特性における前記電圧指令値との差から前記デッドタイム誤差を演算するようにした請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記第一動作特性および前記第二動作特性は、前記電圧指令値を一定とする制御の条件下で求めるようにした請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記特性演算部は、前記電動機の前記抵抗値を演算し、
前記電圧指令値を互いに同一値に設定して前記第一動作特性および前記第二動作特性を求め、前記第一動作特性における前記電流検出部で検出された第一電流検出値と、前記第二動作特性における前記電流検出部で検出された第二電流検出値とから前記電動機の前記抵抗値を演算するようにした請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記特性演算部は、前記デッドタイム誤差を演算し、
前記電圧指令値を互いに同一値に設定して前記第一動作特性および前記第二動作特性を求め、前記第一動作特性における前記電流検出部で検出された第一電流検出値と前記第二動作特性における前記電流検出部で検出された第二電流検出値との差から前記デッドタイム誤差を演算するようにした請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記特性演算部は、第一期間で前記第一動作特性を求め、前記第一期間に続く第二期間で前記第二動作特性を求めるようにした請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記第一期間および前記第二期間は、前記電動機の通常制御開始直前に設定した請求項13に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記第一期間および前記第二期間は、前記電動機の通常制御終了直後に設定した請求項13に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記スイッチング素子をワイドバンドギャップ半導体で形成した請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化ケイ素、窒化ガリウム系材料、または、ダイヤモンドを用いた半導体である請求項16に記載の電力変換装置。
【請求項18】
前記第一搬送波および前記第二搬送波の周波数を、前記スイッチング素子を非ワイドバンドギャップ半導体で形成した場合より高く設定した請求項16または請求項17に記載の電力変換装置。
【請求項19】
請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の電力変換装置、饋電回路と前記電力変換装置との間に接続され前記電力変換装置への電力を生成する入力回路、および前記電力変換装置によって駆動される電動機を備えた車両駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:以下、PWMと表記)制御を行って電動機の実際の抵抗値やデッドタイム誤差を演算する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置による可変速電動機制御装置は、鉄道車両、昇降機、電気自動車、汎用インバータをはじめ各分野に適用されている。このような各分野では電動機の出力トルクや速度制御精度の向上、高効率、低騒音など更なる高性能化と信頼性の向上が期待されている。以上のような制御性能の向上には、電動機の回路定数を速やかに取得し、適切に制御パラメータを設計することが必要である。
【0003】
一方で、電動機の回路定数は電動機の温度や動作状態によって変動することが知られている。このような回路定数の変動に対して、オフライン(特別に同定用のモードを設けるなどして、電動機を加減速制御やトルク制御していない状態)にて精度の高い同定すなわち推定を行う手段が、例えば、下記特許文献1に記載されている。この特許文献1のように、電動機の回転停止状態で、交番磁束が発生するように、予め設定された異なる2つの周波数の正弦波電圧を個別に与えることで、多少の時間を要しても精度の高い巻線抵抗値を同定することは可能である。
【0004】
更に、PWM制御においては、2つのスイッチング素子の直流電源短絡を防止するため短絡防止時間、いわゆるデッドタイムを設けるが、このデッドタイムにより出力電圧誤差が発生し、その出力電圧誤差を補償する対策が必要となる。これに対し、例えば、下記非特許文献1は、デッドタイムの影響を除去する各種の方法を紹介している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO2009/078216号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ACサーボシステムの理論と設計の実際」杉本英彦編著、総合電子出版社発行1990年5月、3章p.54−59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したデッドタイムは、変換装置を構成する半導体素子の特性や回路構成上等の諸要因によって、実際の実効値は、制御構成上設定付加する設定値と異なったものとなり、両者の差であるデッドタイム誤差を正確に把握する必要がある。従って、電動機の実際の抵抗値およびデッドタイム誤差の把握は、制御性能の向上を図る上でともに重要な要素となる。
【0008】
しかるに、特許文献1は、抵抗値の演算手法については詳しく記載しているが、デッドタイム誤差については開示がなく、デッドタイム誤差を得るためには、別途の手段を必要とする。また、特許文献1の方法は、主回路の交流電源の周波数を変化させそれぞれの周波数において電圧電流等を測定する必要があるため、測定可能な条件に至る迄に長時間を要するものである。
【0009】
また、非特許文献1は、設定したデッドタイムによる出力電圧誤差を補償する手法については紹介しているが、実際のデッドタイム誤差を得る手法については何ら開示していない。
従って、いずれの文献も、制御性能の向上に十分寄与しうるものとは言えない。
【0010】
この発明は、以上の従来の課題を解決するためになされたもので、電動機の抵抗値およびデッドタイム誤差を同じ共通の手段で短時間に演算推定することが出来る電力変換装置およびこれを適用した車両駆動システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る電力変換装置は、直流電源の両極間にスイッチング素子を互いに直列に接続してなるブリッジを備え直流電源の電圧を変換して電動機に供給する電力変換部、電動機に流入する電流を検出する電流検出部、およびブリッジを構成するスイッチング素子による直流短絡を防止するためのデッドタイムを設定付加するとともに電圧指令値と搬送波とに基づきPWM制御によりスイッチング素子をオンオフ駆動するためのスイッチング信号を生成する制御部を備えた電力変換装置であって、
前記制御部は、電圧指令値と第一搬送波とに基づく第一スイッチング信号および電圧指令値と第一搬送波の周波数と異なる周波数の第二搬送波とに基づく第二スイッチング信号を生成可能とするとともに、
第一スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部の第一動作特性および第二スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部の第二動作特性に基づき、電動機の抵抗値およびデッドタイムの実効値と設定値との差であるデッドタイム誤差のいずれか一方または双方を推定演算する特性演算部を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る電力変換装置の制御部は、電圧指令値と第一搬送波とに基づく第一スイッチング信号および電圧指令値と第一搬送波の周波数と異なる周波数の第二搬送波とに基づく第二スイッチング信号を生成可能とするとともに、第一スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部の第一動作特性および第二スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部の第二動作特性に基づき、電動機の抵抗値およびデッドタイム誤差のいずれか一方または双方を推定演算する特性演算部を備えたので、同じこの特性演算部により、電動機の抵抗値およびデッドタイム誤差のいずれか一方は勿論、それら双方を同時に推定演算することもでき、また、特許文献1のように、主回路上の条件を変更するものではなく制御上の設定を変更すれば足り、短時間での演算推定が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1による電力変換装置の全体構成を示す図である。
図2図1の電力変換部1およびPWM制御器44の内部構成を示す図である。
図3図2のPWM制御器44の動作を説明する図である。
図4図1の抵抗値演算部5およびデッドタイム誤差演算部6により演算推定する動作を説明するタイミングチャートである。
図5】本発明の実施の形態2による電力変換装置の構成を示す図である。
図6図5の構成において、電力変換部1と電動機7の動作が定常状態に達したときの等価回路を示す図である。
図7】本発明の実施の形態4による、電力変換装置を鉄道車両に適用した車両駆動システムの一構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。図1において、電力変換部1は、直流電源3の電圧を変換して電動機7に供給し、その内部構成は公知であるのでその図示は省略するが、直流電源3の両極間にIGBT、MOSFET等のスイッチング素子を互いに直列に接続してなるブリッジを備え、直流電源3から供給される直流電力を可変電圧可変周波数の交流電力に変換して電動機7に供給する機能を有する。なお、上記の可変電圧可変周波数の交流電力の周波数は0Hzの直流電力を含む。
【0015】
電流検出部2は、電力変換部1が電動機7に供給する各相電流を個別に検出して後述する制御部4に送る。なお、電流検出部2は、図1に図示しているような電力変換部1と電動機7との結線に流れる電流を検出するCT(Current Transformer)に限らず、シャント抵抗等に流れる電流を検出するようにしてもよい。また、3相の相電流は、Iu+Iv+Iw=0という関係を満たすので、例えば、電流検出部2のうち1つを省略し、2つの電流検出部2がそれぞれ検出した相電流Iu、Ivから相電流Iwを算出してもよい。
【0016】
制御部4は、公知である直交2軸のdq軸回転座標系を用いた制御系で構成する。具体的には、座標変換器41、電流制御器42、座標変換器43、PWM制御器44および選択器45を備える。以下、これら各要素について説明する。
【0017】
座標変換器41は、電流検出部2からの各相電流を受けてdq軸電流Id、Iqを出力する。
ここで、本発明では、d軸は電動機7の回転子磁束の方向を示す軸であり、q軸はd軸に対して直交する方向で、電動機7の出力トルクを制御する軸と定義する。
電流制御器42は、電流検出部2で検出された電流検出値と電流指令値との偏差が零となるよう電圧指令値を生成し、具体的には、dq軸電流Id、Iqと所望の電流指令値Id*、Iq*の差分を受けて電圧指令値Vd*、Vq*を以下の(1)式の演算式で出力する。
【0018】
【数1】
【0019】
上記(1)式中の比例ゲインkcpおよび時定数ωcpiは、例えば、本実施の形態1における電動機7が誘導電動機であるとすると、下記(2)式で表される。
下記(2)式中のωccは、制御部4によって制御されるdq軸電流Id、Iqの応答速度を設計するための所定の電流応答目標値であり、後述するPWM制御器44の搬送波周波数と、電動機7に供給する電流を制御するための要求仕様を加味して決定する。
また、下記(2)式中のLsは、誘導電動機の一次側インダクタンスであり、誘導電動機の相互インダクタンスと一次漏れインダクタンスとの和である。
【0020】
【数2】
【0021】
座標変換器43は、電圧指令値Vd*、Vq*を受けて相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を出力する。PWM制御器44は、後段の図2で詳述するが、相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を受けて所望の搬送波に基づきPWM制御を行い、スイッチング信号を電力変換部1に出力する。選択器45は、搬送波切替え信号を受けて所望の搬送波をPWM制御器44へ出力する。
【0022】
図2は、図1の電力変換部1とPWM制御器44の内部構成例について示す。図2の構成は、3相の電力変換装置に対して1相(U相)のみを記載している。他の相も同様の構成であるためここでは説明を省略する。なお、図2に示す構成は公知技術であり、特にこの構成に限定するものではない。
図2において、電力変換部1は、スイッチング素子である上位スイッチング部11と下位スイッチング部12とが直流電源3に対して互いに直列に接続されブリッジを形成しており、その中間端子13が電動機7に接続される。
【0023】
PWM制御によるスイッチング動作に基づき電動機7に電流を供給する電力変換装置では、各相で直列接続された2つのスイッチング部がわずかでも同時にオンする(導通状態になる)と直流電源短絡を引き起こしスイッチング部の破壊を招く。そこで、PWM制御によりスイッチング信号を切替える際には直列接続された2つのスイッチング部が両方ともオフする(非導通状態になる)期間を設ける必要がある。この期間を短絡防止期間(以下、デッドタイムと呼ぶ)という。また、このようなデットタイムがあると後述するように出力電圧に誤差を生じることになる。
【0024】
前掲の非特許文献1の図3.24には、このデッドタイムにより出力電圧誤差ΔVtd=Td×Fc×EFCが発生することが示されている。ここでTdはデッドタイム、Fcは搬送波の周波数、EFCは直流電源3の電圧値である。
そこで、図2に示すPWM制御器44は上記を勘案にて構成されたもので、以下、図2を参照してその構成および動作を説明する。
【0025】
変調波生成回路441は、U相電圧指令Vu*を受けて直流電源3の電圧値EFCにより規格化しU相変調波Auを生成する。ここで、直流電源3の電圧値EFCは予め既知の値であると仮定した構成を図2に記載しているが、直流電源3の電圧値EFCが変動するような場合には、直流電源3の電圧値を検出するセンサを設けて、この検出した電圧値により規格化しU相変調波Auを生成することが望ましい。
【0026】
スイッチング信号生成回路442は、PWM制御によりU相変調波Auと搬送波との大小関係から前段スイッチング信号Su1を生成する。
デッドタイム補正回路443は、デッドタイムにより発生する出力電圧誤差を補償するように前段スイッチング信号Su1を補正して後段スイッチング信号Su2を生成する。
【0027】
具体的には、U相電流Iuの符号が正(電力変換部1から電動機7に向かって電流が流れる場合)であればオン時間を後述するデッドタイム生成回路445にて付加される時間であるデッドタイム分長くしオフ時間をデッドタイム分だけ短くする。また、電流符号が負(電動機7から電力変換部1に向かって電流が流れる場合)であればオン時間をデッドタイム分短くしオフ時間をデッドタイム分だけ長くなるように調整を実施する。
【0028】
なお、ここでは、デッドタイム補正回路443で調整するデッドタイム分は、デッドタイム生成回路445で設定付加する値としたが、後段のデッドタイム誤差の推定演算の説明で触れるとおり、この値に限られるものではない。
【0029】
上位スイッチング部11を動作させるスイッチング信号Suに対して反転したスイッチング信号Sxを生成するため、信号反転回路444により信号Su2を反転した信号Sx2を生成し、デッドタイム生成回路445は、それぞれの後段スイッチング信号Su2、Sx2にデッドタイムを設定付加し、上位スイッチング部11をオンオフ駆動するためのスイッチング信号Suと下位スイッチング部12をオンオフ駆動するためのスイッチング信号Sxを生成する。
【0030】
このように構成することで、理論的にはデッドタイムによる出力電圧誤差の影響を受けないようにすることができる。
しかしながら、実際にはデッドタイム生成回路445にて設定付加されるデッドタイムの設定値と電力変換部1で実際に発生するデッドタイムの実効値とは以下に述べるような理由により同じにはならない。本明細書ではこの誤差をデッドタイム誤差ΔTdと呼ぶことにする。
【0031】
このデッドタイム誤差の要因は非常に複雑であり、半導体デバイスの非線形な温度特性や電流特性、図1には図示していないが、配線長による寄生容量、半導体デバイスを駆動するためのドライバ回路の応答遅れなどが起因し、スイッチング信号Su、Sxのオンオフ信号に対して実際に上位スイッチング部11と下位スイッチング部12が動作するまでには遅れが生じる。また、理論的には電圧波形は矩形波で近似されているが実際には矩形波ではなく、スイッチング動作時の電圧波形はある傾きをもって連続的に変化する。この傾きも実際には半導体デバイスの非線形な温度特性や電流特性、ドライバ回路の回路定数により複雑に変化する。
【0032】
図3は、以上のデッドタイム補正およびスイッチング動作時に時間遅れが発生すると仮定したときのデッドタイム誤差の状況を模擬的に示したものである。図の左半分は電流方向が正の場合、右半分が負の場合を示す。
図3において、上段は、デッドタイム補正回路443の動作、即ち、スイッチング信号生成回路442からの前段スイッチング信号Su1に、Td(補正量)の補正を施して後段スイッチング信号Su2を出力する動作を示している。
中段は、デッドタイム生成回路445の動作、即ち、デッドタイム補正回路443からの後段スイッチング信号Su2、Sx2にTd(設定量)を設定付加してそれぞれ上位スイッチング部11および下位スイッチング部12に送出するスイッチング信号SuおよびSxを出力する動作を示している。
【0033】
下段は、中段のスイッチング信号Su、Sxで駆動したときのU相電圧Vuを示す。図において、電流方向が正の場合(図左)のTonおよびToffは、上位スイッチング部11のそれぞれ立ち上がり時に発生する時間遅れおよび立ち下がり時に発生する時間遅れを示す。また、電流方向が負の場合(図右)のToffおよびTonは、下位スイッチング部12のそれぞれ立ち下がり時の時間遅れおよび立ち上がり時の時間遅れを示す。
【0034】
図3の結果では、デッドタイム生成回路445によりTd(設定量)のデッドタイムを設定付加した場合(図2参照)に実際に発生するデッドタイムTd(実際量)は、電流方向正の場合で示すと、(3)式となる。
【0035】
Td(実際量)=Td(設定量)+Ton−Toff ・・・(3)
【0036】
ここでは、Td(設定量)による電圧誤差を補償すべく、デッドタイム補正回路443によりTd(補正量)の補正を実施しているので(図2参照)、この状態で発生するTd(誤差量)は、(4)式で求められ、このTd(誤差量)がデッドタイム誤差となる。
【0037】
Td(誤差量)=Td(実際量)−Td(補正量) ・・・(4)
【0038】
従って、この実施の形態1の図2に示すPWM制御器44によりスイッチング素子が駆動された場合は、(4)式で示されるTd(誤差量)=デッドタイム誤差が、実際に電力変換部1の出力電圧に誤差を発生させる要因となるデッドタイム、いわばデッドタイム実効値となる。
このデッドタイム実効値=デッドタイム誤差をΔTdとすると、このΔTdにより発生する出力電圧誤差ΔVtdは、(5)式により求まる。
【0039】
ΔVtd=ΔTd×Fc×EFC ・・・(5)
【0040】
なお、PWM制御器44でデッドタイム補正回路443を採用しない場合は(本願発明は、このような場合も想定範囲内とするものである)、(3)式で示されるTd(実際量)がデッドタイム実効値となり、デッドタイム誤差ΔTdは、(6)式により求まる。
【0041】
ΔTd=Td(実際量)−Td(設定量) ・・・(6)
【0042】
図1に戻り、以下、本願発明の要部である、特性演算部10を構成する抵抗値演算部5およびデッドタイム誤差演算部6の構成およびその演算手法について説明する。
抵抗値演算部5は、電圧指令値Vd*とd軸電流Idと搬送波切替え信号とから電動機7の抵抗値を算出する。デッドタイム誤差演算部6は、電圧指令値Vd*と搬送波切替え信号とからデッドタイム誤差を算出する。
【0043】
なお、図1の構成において抵抗値演算部5とデッドタイム誤差演算部6に搬送波切替え信号を入力する構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、PWM制御器44によりPWM制御される際の搬送波の周波数が分かるような構成であればよい。
【0044】
処理部8は、後述する記憶部9に記憶されたプログラムを実行することにより、上述の制御部4、抵抗値演算部5およびデッドタイム誤差演算部6の処理を行う。
ここで、記憶部9は、電動機7の電気回路定数や制御に必要なパラメータ、上記の処理を記述したプログラムなどが記憶されたメモリーにより構成される。処理部8は、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)、FPGAなどのハードウェア回路に論理構成されたプロセッサにより構成される。また、複数の処理部8および複数の記憶部9が連携して上記機能を実行してもよい。
【0045】
なお、図1には記載していないが、後述する通常制御(ここでは鉄道車両や昇降機などの用途に用いられる電動機7を制御して所望の動作を実現する制御)の処理を記述したプログラムも記憶部9に記憶されており、処理部8により、後段で詳述する特性演算部10の処理を実行後に通常制御の処理を実行するように構成しても良い。
また、抵抗値演算部5やデッドタイム誤差演算部6で算出された抵抗値やデッドタイム誤差を一旦記憶部9に記憶させ、通常制御の処理に抵抗値やデッドタイム誤差を制御パラメータとして用いても良い。
【0046】
本願発明は、実際のデッドタイムが、PWM制御の搬送波の周波数の如何に関係しないこと、かつ、デッドタイムの存在により発生する出力電圧誤差はデッドタイムに比例するという現象に着目して創案されたものである。
その基本的な原理は以下の通りである。即ち、制御部4に、PWM制御のための搬送波として、第一搬送波とこの第一搬送波の周波数と異なる周波数の第二搬送波とを選択して出力する選択器45を備え、PWM制御器44は、入力される電圧指令値と第一搬送波とに基づく第一スイッチング信号および電圧指令値と第二搬送波とに基づく第二スイッチング信号を生成出来るようにする。
【0047】
そして、特性演算部10は、電動機7が回転停止した状態で、第一スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したときの電力変換部1の第一動作特性および第二スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したときの電力変換部1の第二動作特性を求め、これら両動作特性から目標とする電動機7の抵抗値やデッドタイム誤差を演算する。
これら動作特性としては種々のものが対象となり得るが、先ず、この実施の形態1では、図1に示す、電流制御器42を備えた電力変換装置を使用した場合を例にとり説明する。
即ち、ここでは、両動作特性は、電流検出部2で検出される電流検出値を電流指令値に追従させる制御の条件下で求められるものを使用する。
【0048】
具体的には、d軸電流指令値Id*には所望の正の値(Id*>0)、q軸電流指令値Iq*には零(Iq*=0)を設定する。
なお、この場合、座標変換器41、43に入力する位相θとしては、各相電流が零にならないような位相θ0の一定値に設定する。このように設定する理由は、一般的に、電流値の零付近のデッドタイム期間中の誤差電圧は非線形かつ誤差の符号判定が困難なため、デッドタイム補正が正しく補正できない場合があり、デッドタイム誤差ΔTdの影響が非常に大きく表れるためである。
【0049】
従って、座標変換器41および座標変換器43は、θ=θ0として、それぞれ以下の(7)式および(8)式に示す演算式に基づき座標変換を行う。
【0050】
【数3】
【0051】
そして、上述の電流指令値を与え、先ず、第一搬送波(周波数Fc1)により生成した第一スイッチング信号でスイッチング素子を駆動し、電圧電流が定常状態となったところで第一動作特性を採取する。
この場合、図1の構成では、前述のように公知である直交2軸のdq軸回転座標系を用いた制御系で構成しており、制御部4によって制御される直交2軸の電流値である上記IdおよびIqの応答を所定の電流応答目標値で制御することが可能になる。これにより、所望の期間内に電流値を一定値に制定できるため、通常の運転に支障の生じないよう瞬時に電動機の抵抗値およびデッドタイム誤差を推定することが可能になる。
【0052】
この点、後段の実施の形態2で紹介する、両動作特性を、電圧指令値を一定とする制御の条件下で求める場合は、電動機7の抵抗値RとインダクタンスLとで決まる時定数L/Rの制限を受けて定常値になるまでに数秒程度掛かる場合がある、しかも、この時間は駆動する電動機7の種別によってばらつきが生じることになる。
【0053】
これに対し、この図1の場合は、電流制御器42の電流応答に係る時定数を上記時定数L/Rより十分小さく設定することで、高速度短時間での演算推定が実現し、しかも演算推定の時間が電動機7の種別に左右されることがない。
例えば、(2)式の電流応答目標値ωccを500rad/s程度に設計すれば、第一動作特性および第二動作特性を、それぞれ10〜100msec程度で獲得することが出来る。従って、L/Rの時定数に関係なく電流を応答させることができ、抵抗値およびデッドタイム誤差の推定演算に必要な時間の短縮が可能になる。
【0054】
次に、上述した要領で採取した第一動作特性から、d軸電流Id1およびd軸電圧指令値Vd1*を入手し、(9)式により第一抵抗値R1を演算する。
【0055】
R1=Vd1*/Id1 ・・・(9)
【0056】
同様の要領で、第二搬送波(周波数Fc2)により生成した第二スイッチング信号でスイッチング素子を駆動し、電圧電流が定常状態となったところで第二動作特性を採取する。
そして、この第二動作特性から、d軸電流Id2およびd軸電圧指令値Vd2*を入手し、(10)式により第二抵抗値R2を演算する。
【0057】
R2=Vd2*/Id2 ・・・(10)
【0058】
ここで、Id1およびId2は、電流制御器42により、Id1=Id2=Id*に制御されているので、抵抗値の真値をRsとすると次の連立方程式が成立する。
【0059】
Rs=(Vd1*−ΔVtd1)/Id*
=R1−(√2/3×ΔTd×Fc1×EFC)/Id*
・・・(11)
Rs=(Vd2*−ΔVtd2)/Id*
=R2−(√2/3×ΔTd×Fc2×EFC)/Id*
・・・(12)
【0060】
RsとΔTdを未知数として連立方程式(11)式(12)式を解くと、抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdは、それぞれ(13)式および(14)式で求められる。
【0061】
Rs=(Fc1×R2−Fc2×R1)/(Fc1−Fc2)[Ω]
・・・(13)
ΔTd=(Vd1*−Vd2*)/{√2/3×(Fc1−Fc2)
×EFC} [sec]・・・(14)
【0062】
上述の式から分かるように、電流指令値Id*を互いに同一値に設定して第一動作特性および第二動作特性を求め、第一動作特性における電圧指令値Vd1*と電流指令値Id*とから第一抵抗値R1を演算し、第二動作特性における電圧指令値Vd2*と電流指令値Id*とから第二抵抗値R2を演算し、第一抵抗値R1と第二抵抗値R2とから電動機7の抵抗値Rsを演算することができる訳である。
また、電流指令値Id*を互いに同一値に設定して第一動作特性および第二動作特性を求め、第一動作特性における電圧指令値Vd1*と第二動作特性における電圧指令値Vd2*との差からデッドタイム誤差ΔTdを演算することができる訳である。
【0063】
なお、図2のデッドタイム補正回路443に関し、以上の説明では、Td(補正量)=Td(設定量)としたが、上記(14)式で得られたデッドタイム誤差ΔTdをフィードバックする形で、それまでのTd(補正量)に上乗せすることで、最終的なデッドタイム誤差を一層低減すること、即ち、出力電圧誤差のより確実な補償が出来る。
【0064】
また、デッドタイム補正回路を設けない場合は、上記(11)式、(12)式のΔTdには、デッドタイム実効値に相当する(3)式のTd(実際量)をあてはめることになるので、この場合のデッドタイム誤差は、上記(14)式から得られるΔTdからTd(設定量)を差し引いた値となる。
この場合の出力電圧誤差の補償は、デッドタイム実効値、従って、Td(実際量)に基づく出力電圧誤差=Td(実際量)×Fc×EFCの値を使って、例えば、電圧指令値を補正する等の対策が考えられる。
【0065】
次に、以上の抵抗値演算部5およびデッドタイム誤差演算部6により、抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdを推定する演算工程の一例について、図4を参照して説明する。
時刻T0迄は、電力変換部1はスイッチング動作が停止しており、例えば、鉄道車両の例では、車両が停車している状態である。そして、後述する時刻T2から通常制御、例えば、運転を開始する。従って、この図4の例では、通常制御開始直前の電動機7の回転停止状態で推定演算を実施するものである。図4の例とは異なるが、通常制御終了直後の電動機7の回転停止状態で推定演算することもできるのは当然である。
【0066】
先ず、時刻T0から電力変換部1をスイッチング動作させ抵抗値推定を開始する。時刻T0からT1までの期間(以下、第一期間と称す)では、第一搬送波(周波数Fc1)でPWM制御を行い、d軸電流Id1が所望の一定値Id*になるように電流制御を実施する。
ここで、時刻T0からT0aまでの期間は、d軸電流Id1が所望の一定値になるまでの過渡応答期間である。この過渡応答期間では抵抗値も一定値ではなく正しく抵抗値を推定することが困難であることが分かる。
なお、この過渡応答期間は前述のように電流応答目標値ωccの設定によって短縮可能であり、電動機7のL/Rの時定数よりも十分短くなるように設定されている。
【0067】
そして、d軸電流Id1が一定値Id*となっている時刻T0aからT1までの期間で採取される第一動作特性から第一抵抗値R1を演算し、このときの電圧指令値Vd1*とともに記憶部9に記憶する。なお、図4に図示するように、デッドタイム誤差がある場合には、R1は真値Rsではなく誤差を持った値となる。
また、時刻T0からT1までの期間では、デッドタイム誤差ΔTdの演算はできないので零としている。
【0068】
次に、時刻T1からT2の期間(以下、第二期間と称す)において、搬送波を第一搬送波から第二搬送波(周波数Fc2)に切替える。ここでは、制御を止めることなく連続的にd軸電流を一定値Id*に制御し続けるようにする。このようにすることで、搬送波周波数Fc2で動作させる際の過渡応答期間を省略することができ、抵抗値推定の演算に必要な時間の短縮に寄与できる。
【0069】
そして、d軸電流Id2が一定値Id*となっている時刻T1からT2までの第二期間で採取される第二動作特性から第二抵抗値R2を演算し、このときの電圧指令値Vd2*とともに記憶部9に記憶する。
この場合、第一動作特性と第二動作特性とは、互いに同一の電流値の条件で得られるので、後述する実施の形態2の両者で電流値が異なる場合に比較して抵抗値とデッドタイム誤差の推定精度を向上させることができる。
【0070】
以上より第一および第二抵抗値R1、R2が求まったので、両周波数Fc1、Fc2とから上述の(13)式により抵抗値の真値Rsを推定できることになる。
また、両動作特性における電圧指令値Vd1*、Vd2*、更には、両周波数Fc1、Fc2、直流電源3の電圧EFCとから上述の式(14)によりデッドタイム誤差ΔTdを算出できる。
【0071】
以上の時刻T0からT2までの抵抗値デッドタイム誤差推定期間(第一期間およびこれに続く第二期間)の過程を経て時刻T2以降の通常制御の期間において、推定した抵抗値Rsとデッドタイム誤差ΔTdを通常のモータ制御の制御パラメータに反映し、通常のモータ制御に移行させるようにしている。
この時、搬送波周波数に関しても、図4に図示していないが、通常制御の搬送波周波数Fc3に切替えるようにしている。このように構成する理由としては、通常制御の搬送波周波数Fc3を設けることで通常制御に要求されている電流応答目標値に応じた搬送波周波数の設定が可能になり、制御系設計における設計自由度が向上するのに加えて、抵抗値デッドタイム誤差推定期間の電流応答目標値と分けて設計できる。
また、図4に図示しているように、抵抗値デッドタイム誤差推定期間から通常制御へ連続的に移行するように構成することで、電力変換部1がスイッチング停止状態から電力変換部1をスイッチング動作させて電動機7を制御する通常制御へ短時間で移行させることができる。
【0072】
なお、上述では、通常制御の搬送波周波数Fc3は、搬送波周波数Fc1および搬送波周波数Fc2の両方と異なる値に設定したが、これに限らず、搬送波周波数Fc1および搬送波周波数Fc2のいずれか一方の値を用いても良い。
また、これら各搬送波周波数として実際の装置で採用される値は、500Hz〜数10kHz程度である。
【0073】
更に、図4の説明では、第一期間から第二期間へは、電流値が連続的に一定値に制御されている状態で切替えられているが、これに限定するものではなく、第一期間と第二期間との間に、ゲートオフ期間(電力変換部1のスイッチング動作を停止し電流を流さないようにする)を設けても良い。
また、上記の推定演算にあたっては、直交2軸のdq軸回転座標上のVdおよびIdから算出しているが、これに限定するものではなく、各相の相電圧、相電流から算出してもよい。
【0074】
また、電動機7が誘導電動機の場合は、その電気的回路構成が一次側抵抗と一次側インダクタンスに加え、相互インダクタンスと二次側インダクタンスと二次側抵抗とからなるいわゆるT型等価回路の構成となるので、仮に、一次側電流を直流の一定値に制御しようとしても、電動機に印加する電圧(例えば、Vd1*、Vd2*が相当)は短時間には直流の一定値にならず、相互インダクタンスと二次側抵抗によって決まる電気回路の時定数によって変化するため、この回路応答を考慮して、例えば、下記の(15)式のように補正する必要がある。
【0075】
Vd**=Vd*×二次側回路応答 ・・・(15)
【0076】
従って、周波数Fc1の第一搬送波でPWM制御した場合の電圧指令補正値をVd1**、周波数Fc2の第二搬送波でPWM制御した場合の電圧指令補正値をVd2**とすると、電動機7が誘導電動機の場合のデッドタイム誤差ΔTdは、(16)式で演算出来ることになる。
【0077】
ΔTd=(Vd1**−Vd2**)/{√2/3×(Fc1−Fc2)
×EFC}[sec] ・・・(16)
【0078】
以上の説明のように、本実施の形態1による電力変換装置の制御部4は、電圧指令値と周波数Fc1の第一搬送波とに基づく第一スイッチング信号および電圧指令値と第一搬送波の周波数と異なる周波数Fc2の第二搬送波とに基づく第二スイッチング信号を生成可能とするとともに、電動機7が回転停止した状態で、第一スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部1の第一動作特性および第二スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部1の第二動作特性に基づき、電動機7の抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdのいずれか一方または双方を推定演算する特性演算部10を備えたので、同じこの特性演算部10により、電動機7の抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdのいずれか一方は勿論、それら双方を同時に推定演算することもでき、また、特許文献1のように、主回路上の条件を変更するものではなく制御上の設定を変更すれば足り、短時間での演算推定が実現する。
【0079】
また、電流制御器42を備え、第一動作特性および第二動作特性は、電流検出部2で検出される電流検出値を電流指令値に追従させる制御の条件下で求めるようにし、しかも、当該電流制御器42の電流応答に係る時定数を電動機7の抵抗値とインダクタンス値とで決まる時定数より小さく設定したので、抵抗値とデッドタイム誤差を、電力変換装置の通常制御への支障を生じることのない短時間で精度よく同定することができる。
【0080】
これにより、これら推定値を通常制御のパラメータに反映させることで、電動機7の抵抗値が温度によって大きく変動する条件においても制御装置の性能劣化を防止することができる。また、デッドタイム誤差に関しても短時間で精度よく同定することができるため、デッドタイム誤差による制御装置の性能劣化も防止することができる。
更には、電動機の出力トルクや速度制御精度の向上による安全性向上、高効率による省エネ化、低騒音による環境負荷低減等が得られる。
【0081】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2による電力変換装置の構成を示す図である。先の実施の形態1では、第一動作特性および第二動作特性を、電流検出部2で検出される電流検出値を電流指令値に追従させる制御の条件下で求めるようにしたのに対し、この実施の形態2では、第一動作特性および第二動作特性を、電圧指令値を一定とする制御の条件下で求めるようにした点が異なる。以下、具体的な構成および推定演算の動作について説明する。
【0082】
図5の制御部4Aでは、そのPWM制御器44Aに入力する電圧指令値として、Vu*=V、Vv*=0、Vw*=−Vの固定値を与えることで電動機7のU相W相間に2Vの直流電圧を印加し、電動機7に直流電流を流す構成になっている。
図6は、図5の構成において、電力変換部1と電動機7の動作が定常状態に達したときの等価回路を示す図である。ここで、図6のRは電動機7の巻線の抵抗値である。
【0083】
デッドタイムによる出力電圧誤差のない図6(a)の場合、抵抗値RsはRs=V/Iuで演算できる。しかしながら、未知の値である出力電圧誤差ΔVtdのある図6(b)の場合は、抵抗値RsをRs=(V−ΔVtd)/Iuで演算しないと真値が求まらない。仮に、V=5[V]、R=0.05[Ω]であったとすると、図6(a)の場合はIu=100[A]、Rs=V/Iu=0.05[Ω]となり真値を推定できる。
【0084】
一方、図6(b)の場合は、先の実施の形態1の図2で説明したように、デッドタイム補正を実施しており、デッドタイムの実効値がデッドタイム誤差ΔTdに該当するとして、仮に、このΔTdが1[μs]、更に、Fc=1000[Hz]、EFC=1500[V]であったとすると、出力電圧誤差ΔVtdはΔVtd=1.5[V]に相当する。この場合、Iu=70[A]の電流しか流れず、抵抗値RsはRs=V/Iu≒0.071[Ω]となって、真値を推定することができない。上記の例の場合、約30%の推定誤差を含む結果となる。
【0085】
そこで、先の実施の形態1で説明したと同様に、周波数Fc1の第一搬送波を使用してPWM制御でスイッチング素子を駆動したときの第一動作特性、および周波数Fc1とは異なる周波数Fc2の第二搬送波を使用してPWM制御でスイッチング素子を駆動したときの第二動作特性を求める。
【0086】
具体的に、第一動作特性から得られる電流をIu1、第二動作特性から得られる電流をIu2とすると、抵抗値の真値をRs、直流の電圧指令値をV*、直流電源3の電圧値をEFCとして次の連立方程式が成立する。
【0087】
Rs=(V*−ΔVtd1)/Iu1
=(V*−ΔTd×Fc1×EFC)/Iu1 ・・・(17)
Rs=(V*−ΔVtd2)/Iu2
=(V*−ΔTd×Fc2×EFC)/Iu2 ・・・(18)
【0088】
RsとΔTdを未知数として連立方程式(17)式および(18)式を解くと、抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdは、それぞれ(19)式および(20)式で求められる。
【0089】
Rs=V*×(Fc1−Fc2)
/(Fc1×Iu2−Fc2×Iu1)[Ω] ・・・(19)
ΔTd=V*×(Iu1−Iu2)
/{EFC×(Fc2×Iu1−Fc1×Iu2)}[sec]
・・・(20)
【0090】
上述の式から分かるように、電圧指令値V*を互いに同一値に設定して第一動作特性および第二動作特性を求め、第一動作特性における電流検出部2で検出された第一電流検出値Iu1と、第二動作特性における電流検出部2で検出された第二電流検出値Iu2とから電動機7の抵抗値Rsを演算することができる訳である。
また、電圧指令値V*を互いに同一値に設定して第一動作特性および第二動作特性を求め、第一動作特性における電流検出部2で検出された第一電流検出値Iu1と第二動作特性における電流検出部2で検出された第二電流検出値Iu2との差からデッドタイム誤差ΔTdを演算することができる訳である。
【0091】
以上の説明のように、本実施の形態2による電力変換装置の制御部4Aは、先の実施の形態1の場合と同様、電圧指令値と周波数Fc1の第一搬送波とに基づく第一スイッチング信号および電圧指令値と第一搬送波の周波数と異なる周波数Fc2の第二搬送波とに基づく第二スイッチング信号を生成可能とするとともに、電動機7が回転停止した状態で、第一スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部1の第一動作特性および第二スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部1の第二動作特性に基づき、電動機7の抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdのいずれか一方または双方を推定演算する特性演算部10Aを備えたので、同じこの特性演算部10Aにより、電動機7の抵抗値Rsおよびデッドタイム誤差ΔTdのいずれか一方は勿論、それら双方を同時に推定演算することもでき、また、特許文献1のように、主回路上の条件を変更するものではなく制御上の設定を変更すれば足り、短時間での演算推定が実現する。
【0092】
そして、第一動作特性および第二動作特性は、電圧指令値を一定とする制御の条件下で求めるようにしたので、電流検出値を電流指令値に追従させる電流制御機構を必要としない。従って、図5から分かるように、簡便な制御構成で電動機を駆動制御する電力変換装置においても適用することができるという利点がある。
【0093】
実施の形態3.
この実施の形態3では、先の実施の形態での電力変換部1に具備されるスイッチング素子の素材に炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を適用した場合について説明する。
なお、図面上の構成は先の実施の形態の場合と変わりがないので、ここでは説明を割愛する。
【0094】
電力変換部1で用いられるスイッチング素子としては、珪素(Si)を素材とする半導体トランジスタ素子(IGBT、MOSFETなど)と、同じく珪素を素材とする半導体ダイオード素子とを逆並列に接続した構成のものが一般的である。先の実施の形態で説明した技術は、この一般的なスイッチング素子を具備する電力変換器に用いることができる。
【0095】
一方、先の実施の形態で説明した技術は、珪素を素材として形成されたスイッチング素子に限定されるものではない。この珪素に代え、低損失かつ高耐圧な半導体素子として近年注目されている炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を電力変換器に用いることも無論可能である。
ここで、ワイドバンドギャップ半導体の一つである炭化珪素は、珪素と比較して半導体素子で発生する損失を大幅に低減できるとともに高温での使用が可能であるという特徴を有しているので、電力変換部に具備されるスイッチング素子として炭化珪素を素材とするものを用いれば、スイッチング素子モジュールの許容動作温度を高温側に引き上げることができるので、搬送波周波数を高めて、電動機の運転効率を向上させることが可能である。
【0096】
先の実施の形態で説明した特性演算部10を、このようなワイドバンドギャップ半導体の特徴を生かすことで更に短時間に電動機の抵抗値とデッドタイム誤差を同定することが可能となる。
先の実施の形態1でも説明したように、同定演算を短時間で実行するためには電動機7に供給する電流をできるだけ早く制定させることが重要であり、そのためには、制御部4によって制御される上記IdおよびIqの応答を設計するための所定の電流応答目標値ωccをできるだけ大きくすることで達成される。しかしながら、電流応答目標値ωccの設定は搬送波周波数により制約される。
【0097】
一般的に電流応答目標値ωccは、搬送波周波数Fcの1/10程度に設定され、それ以上の大きな値が設定されると制御が不安定化する場合がある。従って、電力変換部1に具備されるスイッチング素子の素材に炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を適用することで、珪素等を素材とする非ワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を用いる場合よりも搬送波周波数を高く設定できるため短時間に抵抗値とデッドタイム誤差を同定することが可能である。
【0098】
なお、この発明と異なり、1種類の搬送波を使用して演算推定を行うものでは、単に搬送波周波数を高くしても、上述したようなデッドタイム誤差と抵抗値の精度の関係により演算推定値のばらつきが非常に大きなものとなってしまう可能性がある。
これに対し、先の実施の形態1で説明した本発明に係る技術によれば、PWM制御を行う電力変換装置において、炭化珪素を素材とするスイッチング素子を用いて搬送波周波数を増大させ、上述のような同定時間の短縮を図ったとしても、第一搬送波でPWM制御を実施して第一動作特性を求める第一期間と第二搬送波でPWM制御を実施して第二動作特性を求める第二期間とを有することで、電動機の抵抗値とデッドタイム誤差を精度よく同定することが可能となる。
【0099】
なお、炭化珪素(SiC)は、珪素(Si)よりもバンドギャップが大きいという特性を捉えて、ワイドバンドギャップ半導体と称される半導体の一例である。この炭化珪素以外にも、例えば、窒化ガリウム系材料、または、ダイヤモンドを用いて形成される半導体もワイドバンドギャップ半導体に属しており、それらの特性も炭化珪素に類似した点が多い。したがって、炭化珪素以外の他のワイドバンドギャップ半導体を用いる構成も、本発明の要旨を成すものである。
【0100】
以上の説明のように、本実施の形態3による電力変換装置では、先の実施の形態の電力変換部1に具備されるスイッチング素子の素材に炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を適用したので、電動機の抵抗値とデッドタイム誤差の同定精度を向上させ、更に短時間で同定を完了させるといったこれまでにない効果を奏するものである。
【0101】
ところで、電力変換部1に具備されるスイッチング素子の素材に炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を適用した場合、通常制御時においても搬送波周波数を増大させ、制御応答の向上を図ることができるが、この場合には、デッドタイム誤差による出力電圧誤差ΔVtdが無視できないほど制御に影響し、所望の制御応答に向上させることが困難となる可能性がある。
【0102】
しかし、このような場合においても、本発明によって同定した抵抗値とデッドタイム誤差を記憶部9に記憶させ、通常制御の制御パラメータに反映させることで、通常制御の制御応答の向上に寄与できることは言うまでもない。
なお、以上の実施の形態1〜3に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0103】
なお、以上の実施の形態1〜3に示した構成では、電動機7が回転停止した状態で、電動機7の抵抗値とデッドタイム誤差を精度よく同定することを示したが、これに限らず、電動機7が少々回転した状態でも同様の効果を得ることができる。具体的には、電動機7の回転周期が本発明の同定期間よりも大きければよく、本発明の同定期間が短時間であるほど本発明の適用範囲が広がることは言うまでもない。
【0104】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態1から3に係る電力変換装置を鉄道車両に適用した車両駆動システムの一構成例を示す図である。この実施の形態4に係る車両駆動システムは、交流電動機101、電力変換部102、制御部108および入力回路103を備えている。
【0105】
交流電動機101は、図1に示した電動機7に対応するものであり、鉄道車両に搭載されている。電力変換部102は、図1に示した電力変換部1と同じものであり、スイッチング素子104a、105a、106a、104b、105b、106bを具備している。
制御部108は、図1に示した制御部4、処理部8および記憶部9をすべて含むもので、電力変換部102のスイッチング素子104a〜106bをオンオフ制御するためのスイッチング信号SWU、SWV、SWWを生成する。
【0106】
入力回路103は、図示は省略しているが、スイッチ、フィルタコンデンサ、フィルタリアクトル等を備えて構成されており、その入力側は、集電装置111と車輪113とを介して饋電回路100を構成する架線110とレール114に接続され、出力側は、電力変換部102に接続されている。この入力回路103は、例えば、架線110から直流電力または交流電力の供給を受けて、電力変換部102へ供給する直流電力を生成する。
電力変換部102は、入力回路103から供給された直流電圧を任意周波数および任意電圧の交流電圧に変換して交流電動機101を駆動する。
【0107】
このように、実施の形態1から3に記載の電力変換装置を車両駆動システムへ適用することにより、これら形態例で説明した通り、交流電動機101の抵抗値が温度によって大きく変動する条件においても制御性能の劣化を防止することができる。また、デッドタイム誤差による制御性能の劣化も防止することができる。
更には、以上のような制御性能の劣化も防止することにより、電動機の出力トルクや速度制御精度の向上による安全性向上、乗り心地の向上、高効率による省エネ化、低騒音による環境負荷低減等が得られる車両制御を実現することができる。
【0108】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせ、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【要約】
制御部(4)は、電圧指令値と第一搬送波(周波数Fc1)とに基づく第一スイッチング信号および電圧指令値と第二搬送波(周波数Fc2≠Fc1)とに基づく第二スイッチング信号を生成可能とするとともに、第一スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部(1)の第一動作特性および第二スイッチング信号によりスイッチング素子を駆動したとき求まる電力変換部(1)の第二動作特性に基づき、電動機(7)の抵抗値(Rs)およびデッドタイムの実効値とデッドタイムの設定値との差であるデッドタイム誤差(ΔTd)のいずれか一方または双方を推定演算する特性演算部(10)を備えることで、電動機の抵抗値およびデッドタイム誤差を同じ共通の手段で短時間に演算推定することが出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7