(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記出力トルク演算部は、上記検出電流と上記電圧指令とから得られる出力電力と上記推定速度とに基づいて上記出力トルクを演算することにより、上記遅延特性を上記出力トルクに与える、
請求項1に記載の交流回転機の制御装置。
上記出力トルク演算部は、上記出力電力を上記推定速度により除算して上記出力トルクを演算するもので、上記推定速度の大きさが設定された下限値未満の時、上記出力電力および上記推定速度を用いず、上記検出電流に基づいて上記出力トルクを演算する、
請求項2または請求項4に記載の交流回転機の制御装置。
上記推定速度に基づいて演算される上記交流回転機の推定磁極位置が、上記検出電流および上記電圧指令の双方において回転二軸座標と三相静止座標との間の座標変換に用いられる、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の交流回転機の制御装置。
上記慣性モーメント演算部は、上記推定速度から過渡加速度成分を抽出し、上記遅延特性を有する上記出力トルクから過渡トルク成分を抽出して、上記過渡加速度成分および上記過渡トルク成分から上記慣性モーメントを演算し、上記過渡加速度成分、上記過渡トルク成分のそれぞれに閾値を設け、上記過渡加速度成分、上記過渡トルク成分の少なくとも一方が上記閾値以下のとき、上記慣性モーメントとして一定値を出力する、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の交流回転機の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1による交流回転機の制御装置について説明する。
図1は、この発明の実施の形態1による交流回転機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、機械装置2が交流回転機1に接続され、交流回転機1の制御装置10が交流回転機1を駆動制御することで、交流回転機1は機械装置2を駆動する。なお、交流回転機1には、例えば、永久磁石を用いた同期機を用いる。
制御装置10は、交流回転機1の電流を検出する電流検出部3と、交流回転機1を駆動するための電圧指令vd*、vq*を生成する指令生成部4と、交流回転機1に電圧を印加する電圧印加部5と、推定速度ω0および推定磁極位置θ0を演算する速度推定部6と、出力トルク演算部7と、慣性モーメント演算部8とを備える。電圧印加部5はインバータ回路等の電力変換器にて構成され、この場合、制御装置10が電圧印加部5を備えて、電圧印加部5の出力が制御装置10から交流回転機1に出力される。
【0013】
電流検出部3は、交流回転機1の三相電流iu、iv、iwを回転二軸座標に変換する座標変換器31を備える。電流検出部3は、三相電流iu、iv、iwを検出し、座標変換器31において、速度推定部6から出力される推定磁極位置θ0を用いて、交流回転機1の回転子に同期して回転する直交座標として公知であるdq軸上の電流に座標変換し、これを検出電流id、iqとして出力する。
なお、三相電流を検出するには、電流を三相とも検出するほか、2相分を検出して三相電流の和がゼロであることを利用して残りの1相分の電流を求めても良い。また、電圧印加部5において、例えば、電力変換器の母線電流やスイッチング素子に流れる電流とスイッチング素子の状態とから三相電流を演算してもよい。
【0014】
交流回転機1を駆動するための任意の速度指令ω*が、制御装置10に与えられて指令生成部4に入力される。指令生成部4は、速度指令ω*と、速度推定部6から出力される推定速度ω0と、慣性モーメント演算部8から出力される慣性モーメントJとに基づいて、交流回転機1を駆動するために必要なdq軸上の電圧指令vd*、vq*を演算して出力する。指令生成部4の制御構成の例を
図2に示す。
図2に示すように、指令生成部4は、速度制御器42と電流制御器44a、44bとを備える。そして加減算器41において、速度指令ω*から推定速度ω0を減算して速度偏差Δωを演算する。速度制御器42は、速度偏差Δωが0になるように慣性モーメントJの値を用いたPI制御によって、トルク電流であるq軸の検出電流iqの電流指令iq*を演算する。
【0015】
交流回転機1を所望の応答で回転制御するためには、速度制御器42のPI制御器は一般的に式(1)に基づいて設定される。
iq*=kwp(1+kwi/s)・Δω ・・・(1)
但し、kwp=ωsc・Pm
2・φf/J
kwi=ωsc/N
s:ラプラス演算子、ωsc:速度応答設定値、Pm:交流回転機の極対数、φf:交流回転機の磁石磁束、J:慣性モーメント、N:任意の正整数
【0016】
次いで加減算器43aは、電流指令iq*から検出電流iqを減算してq軸電流偏差を演算する。電流制御器44aはq軸電流偏差が0になるようにPI制御によって電圧指令vq*を演算する。
【0017】
一方、d軸の電流指令id*は、単純に0と設定しても良いし、交流回転機1の出力するトルクが最大となるように、q軸の電流指令iq*に基づいて設定しても良い。加減算器43bは、電流指令id*から検出電流idを減算してd軸電流偏差を演算する。電流制御器44bはd軸電流偏差が0になるようにPI制御によって電圧指令vd*を演算する。
このように、推定速度ω0が速度指令ω*に追従するように速度制御器42にて電流指令iq*が生成され、検出電流id、iqが電流指令id*、iq*に追従するように電流制御器44b、44aにて電圧指令vd*、vq*が生成される。これにより、推定速度ω0が速度指令ω*に一致するように交流回転機1を制御することができる。
【0018】
電圧印加部5は、指令生成部4からのdq軸上の電圧指令vd*、vq*を、速度推定部6から出力される推定磁極位置θ0を用いて、静止座標の三相電圧指令vu*、vv*、vw*に変換し、三相電圧指令vu*、vv*、vw*に基づいて電圧印加部5が三相電圧を出力して交流回転機1に印加する。
【0019】
速度推定部6は、検出電流id、iqと電圧指令vd*、vq*とに基づいて交流回転機1の推定速度ω0を演算する推定速度演算部61と、推定速度ω0を積分して交流回転機1の推定磁極位置θ0を演算する積分器62とを備える。
推定速度演算部61は、検出電流id、iqと電圧指令vd*、vq*とに基づいて、交流回転機1の推定速度ω0を公知の手法で演算する。例えば、電圧指令vd*、vq*に基づいて得られる交流回転機のモデルから電流値を推定し、この推定された電流値が検出電流id、iqに一致するように推定速度ω0を演算する。
【0020】
積分器62は、推定速度演算部61が出力する推定速度ω0を用いて、以下の式(2)により推定磁極位置θ0を演算する。
θ0=ω0/s ・・・(2)
【0021】
なお、検出電流id、iqと電圧指令vd*、vq*とに基づいて交流回転機1の推定速度ω0を演算する手法は、上記特許文献1、非特許文献2に限らず公知である。この推定速度ω0は、推定速度演算部61内の制御器を用いて演算され、収束するのに位相の遅れが発生し、即ち、推定速度ω0は推定遅延を有する。
例えば上記非特許文献2に示すように、交流回転機1の実速度ωから演算される推定速度ω0への開ループ伝達特性を伝達関数で示すと、
G(s)=ωac/s
となる。ここで、ωacは速度推定ゲインである。
【0022】
これにより、実速度ωから推定速度ω0への閉ループ伝達特性を示す伝達関数は、以下の式(3)で示される。
Gx(s)=G(s)/(1+G(s))
=ωac/(s+ωac) ・・・(3)
【0023】
上記式(3)に示されるように、演算される推定速度ω0は、実速度ωに対し推定遅延を含んでいる。
【0024】
出力トルク演算部7は、検出電流id、iqから出力トルクτを演算するトルク演算部71と、出力トルクτを補正して補正出力トルクτcを演算するトルク補正部72とを備える。
【0025】
トルク演算部71は、検出電流id、iqに基づいて、以下の式(4)により、交流回転機1の出力トルクτを演算する。
τ=Pm(φf・iq+(Ld−Lq)・id・iq) ・・・(4)
但し、Ld、Lq:交流回転機のd軸、q軸方向のインダクタンス
【0026】
トルク補正部72は、トルク演算部71により演算された出力トルクτをフィルタを通すことによって補正する。トルク補正部72のフィルタは、上記式(3)で示した実速度ωから推定速度ω0への伝達特性と同様の伝達特性を有するフィルタであり、即ち、以下の式(5)により補正出力トルクτcを演算して出力する。
τc=Gx(s)・τ ・・・(5)
【0027】
トルク演算部71は、交流回転機1が実速度ωで回転したときの出力トルクτを、検出電流id、iqに基づいて演算しているため、出力トルクτは実速度ωに同期すると言える。このため、トルク補正部72において、実速度ωから推定速度ω0への伝達関数Gx(s)を用いて出力トルクτを補正すると、推定速度ω0の推定遅延分だけ出力トルクτを遅延させることになり、補正出力トルクτcと推定速度ω0とを同期させることができる。
このように、トルク補正部72は、推定速度ω0の推定遅延に対応する伝達特性(伝達関数Gx(s))を用いて、該推定遅延に対応する遅延特性を出力トルクτに与え、補正出力トルクτcを出力する。
【0028】
慣性モーメント演算部8は、速度推定部6からの推定速度ω0と、出力トルク演算部7からの補正出力トルクτcとから、慣性モーメントJを演算する。
ところで、交流回転機の運動方程式に依れば、慣性モーメントJは、速度(実速度)ωと出力トルクτとから、以下の式(6)を用いて求められる。
J=τ/(s・ω) ・・・(6)
【0029】
上記(6)式を用いて慣性モーメントJを演算する場合、演算誤差を抑制するため、出力トルクτ、速度ωについてそれぞれフィルタを用いる。
出力トルクτは上記(4)式により検出電流id、iqを用いて求めるため高周波領域の検出ノイズを含む。また、加速時の過渡的な出力トルクを利用するため定常負荷等の低周波領域の直流成分は、慣性モーメントの演算誤差となる。
【0030】
このような低周波数成分と高周波数成分とを除去して過渡的なトルク変化量を抽出するため、出力トルクτに対するフィルタFτ(s)を、以下の式(7)のように設定する。
Fτ(s)=s/f(s) ・・・(7)
但し、分母多項式f(s)はsの3次多項式として、低周波数成分と高周波数成分とを除去する特性を持つ。
【0031】
出力トルクτの過渡トルク成分をdτとすると、以下の式(8)によって過渡トルク成分dτを出力トルクτから抽出できる。
dτ=Fτ(s)・τ ・・・(8)
【0032】
速度ωに対するフィルタFω(s)についても、出力トルクτに対するフィルタFτ(s)と同様の特性を持たせる必要がある。上記式(6)で示すように、慣性モーメントJの演算には、速度ωから得られる加速度(s・ω)を用いる。過渡加速度成分をdaとすると、以下の式(9)によって過渡加速度成分daを速度ωから抽出でき、フィルタFω(s)は、以下の式(10)で表せる。
da=Fω(s)・ω
=Fτ(s)・(s・ω)
=s・Fτ(s)・ω ・・・(9)
Fω(s)=s・Fτ(s) ・・・(10)
【0033】
図3は、慣性モーメント演算部8の構成を説明する図である。
図3に示すように、慣性モーメント演算部8は、過渡トルク成分抽出部81と過渡加速度成分抽出部82と、慣性モーメント算出部83とを備える。慣性モーメント演算部8には、速度推定部6からの推定速度ω0と、出力トルク演算部7からの補正出力トルクτcとが入力され、補正出力トルクτcは過渡トルク成分抽出部81に、推定速度ω0は過渡加速度成分抽出部82に、それぞれ入力される。
過渡トルク成分抽出部81は、上述したフィルタFτ(s)に対応し、即ち、低周波数成分と高周波数成分とを除去して補正出力トルクτcから過渡トルク成分81aを抽出する。また、過渡加速度成分抽出部82は、上述したフィルタFω(s)に対応し、即ち、低周波数成分と高周波数成分とを除去して推定速度ω0から過渡加速度成分82aを抽出する。そして、慣性モーメント算出部83は、過渡トルク成分81aを過渡加速度成分82aで除算することにより慣性モーメントJを算出する。
【0034】
この実施の形態では、実速度ωから推定速度ω0への伝達特性(Gx(s))を用いて、
τc=Gx(s)・τ ・・・(11)
ω0=Gx(s)・ω ・・・(12)
と表せるため、
過渡トルク成分81aは、上記式(11)から
Fτ(s)・τc=Fτ(s)・Gx(s)・τ ・・・(13)
となり、
過渡加速度成分82aは、上記式(10)、式(12)から
Fω(s)・ω0=s・Fτ(s)・Gx(s)・ω ・・・(14)
となる。
【0035】
これにより、(過渡トルク成分81a)/(過渡加速度成分82a)で求められる慣性モーメントJは、上記式(13)、式(14)から、
J=Fτ(s)・Gx(s)・τ/(s・Fτ(s)・Gx(s)・ω)
=τ/s・ω ・・・(15)
となり、上記式(6)と一致することが分かる。
このように、慣性モーメント演算部8は、補正出力トルクτcと推定速度ω0とを用いて慣性モーメントJを高精度に演算できる。
【0036】
なお、仮に出力トルクτに遅延特性を与える補正を行わずにそのまま用いたとすると、推定速度ω0の推定遅延は、出力トルクτの立ち上がりに対する加速度の遅れとして現れ、(過渡トルク成分)/(過渡加速度成分)で求められる慣性モーメントには誤差が発生する。また、交流回転機1の実速度ωの立ち上がりが早いほど推定速度ω0の推定遅延が大きくなるため、慣性モーメントの誤差は拡大する。
この場合、慣性モーメントは、
Fτ(s)・τ/(s・Fτ(s)・Gx(s)・ω)
=τ/(s・Gx(s)・ω)
となる。即ち、分母の成分に遅延特性が残り、慣性モーメントを精度良く演算できないことが分かる。
【0037】
また、仮に、指令生成部4で用いる慣性モーメントとして予め把握できている交流回転機1の慣性モーメントJmを用いた場合、上記式(1)で示した電流指令iq*の演算に用いられるゲインkwpは、
kwp=ωsc・Pm
2・φf/Jm
となる。この場合の速度応答設定値ωscは、交流回転機1の慣性モーメントJmと機械装置2の慣性モーメントJaとを合わせた本来の慣性モーメントJを用いた場合の、Jm/(Jm+Ja)倍となり、減少する。このため、所望の速度応答が得られない。
【0038】
以上のように、この実施の形態では、推定速度ω0の推定遅延に対応する伝達特性(伝達関数Gx(s))を用いて出力トルクτを補正し、該推定遅延に対応する遅延特性を有する補正出力トルクτcを演算する。そして、推定速度ω0と、推定速度ω0の推定遅延と同等の遅延特性を有する補正出力トルクτcとから、慣性モーメントJを演算するため、慣性モーメントJを精度よく演算できる。そして、指令生成部4は、高精度に演算された慣性モーメントJを用いて電圧指令vd*、vq*を生成するため、交流回転機1を所望の応答で信頼性良く制御できる。
また、機械装置2の構成によっては、交流回転機1の運転中に慣性モーメントJが変わることが想定されるが、運転中に過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aの抽出を継続して慣性モーメントJを継続して演算することができる。
【0039】
また、出力トルクτを補正するための伝達特性に、推定速度ω0の推定遅延に同期する閉ループ伝達関数Gx(s)を用いたため、推定速度ω0の推定遅延と同等の遅延特性を有する補正出力トルクτcを高精度に演算でき、推定速度ω0と補正出力トルクτcとを同期させることができる。
【0040】
なお、出力トルクτを補正するための伝達特性を示す伝達関数Gx(s)は、上記式(3)で示すものに限らず、推定速度ω0の演算に応じて発生する推定遅延に対応するものであれば良い。
【0041】
また、上記実施の形態では、慣性モーメント演算部8は、過渡トルク成分81aを過渡加速度成分82aで直接、除算することで慣性モーメントJを演算したが、これに限るものではない。例えば上記非特許文献1に示される様な統計的な手法を用いることで、慣性モーメントを高精度に演算できる。
【0042】
さらに、上記実施の形態では、永久磁石を用いた同期機を交流回転機1として用いたが、誘導機など他の交流回転機1にも適用できる。
【0043】
さらにまた、電圧印加部5は制御装置10の外部に設けても良く、その場合、制御装置10は電圧指令vd*、vq*を電圧印加部5に出力する。
【0044】
また、速度推定部6において、推定速度ω0を積分器62で積分して推定磁極位置θ0を演算したが、それに限るものではない。例えば、文献:「外乱オブザーバと速度適応同定による個円筒型ブラシレスDCモータの位置・速度センサレス制御」電学論D、118巻7/8号、1998年に記載されるように、DCモータの固定子座標(αβ軸)の推定誘起電圧を用いて、その逆正接から推定磁極位置を演算しても良い。
【0045】
次に、上記実施の形態1による交流回転機1の制御装置10を備える回転機システムのハードウエア構成を
図4に示す。
図4に示すように、回転機システムは、交流回転機1と、交流回転機1の制御装置10と、制御装置10に指令を与える上位コントローラ13とを備えて、交流回転機1に接続される機械装置2を駆動する。制御装置10は、ハードウエア構成として、プロセッサ11と、記憶装置12と、電圧印加部5と、電流検出部3とを備える。
図1で示した指令生成部4、速度推定部6、出力トルク演算部7、および慣性モーメント演算部8は、記憶装置12に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ11により実現される。
【0046】
記憶装置12は、図示していないが、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを備える。不揮発性の補助記憶装置の代わりにハードディスク等の補助記憶装置を備えても良い。
プロセッサ11に、記憶装置12の補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプログラムが入力され、プロセッサ11は、記憶装置12から入力されたプログラムを実行する。また、プロセッサ11は、演算結果等のデータを記憶装置12の揮発性記憶装置に出力するか、あるいは揮発性記憶装置を介して補助記憶装置に出力してデータを保存する。
【0047】
なお、指令生成部4、速度推定部6、出力トルク演算部7、および慣性モーメント演算部8は、システムLSI等の処理回路により実現しても良い。また、電流検出部3内の座標変換器31、および電圧印加部5への電圧指令vd*、vq*を三相電圧指令に変換する機能は、プロセッサ11、またはシステムLSI等の処理回路により実現しても良い。 さらに、複数のプロセッサ11および複数の記憶装置12が連携して上記機能を実行してもよいし、複数の処理回路が連携して上記機能を実行してもよい。また、それらを組み合わせて上記機能を実行してもよい。
【0048】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2による交流回転機の制御装置について説明する。
慣性モーメント演算部8は、上記実施の形態1と同様に、(過渡トルク成分81a)/(過渡加速度成分82a)の演算を用いて慣性モーメントJを導出する。このとき、過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aのそれぞれの値が小さいと、S/N比(ノイズ量に対する信号量の比)が低下して慣性モーメントJは精度良く演算できない。このため、S/N比が確保できるように、過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aのそれぞれに閾値を設け、過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aの少なくとも一方が設定された閾値以下のとき、慣性モーメントJとして一定値を出力する。
その他の構成は、上記実施の形態1と同様である。
【0049】
図5は、この発明の実施の形態2による交流回転機1の制御装置10における動作を説明する各部の波形図である。
図5に示すように、制御装置10に与えられる速度指令ω*が立ち上がり、時間経過と共に、推定速度ω0が速度指令ω*に近づくと共に、演算される電圧指令vd*、vq*、電流指令iq*が安定し、検出電流iqが電流指令iq*に近づく。
慣性モーメントJを示す波形図において、図中、A点より右領域では、図示しない過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aの双方が閾値以上である。そして慣性モーメントJは、A点に至るまで一定値であり、それ以後は、(過渡トルク成分81a)/(過渡加速度成分82a)の演算により得られた値となる。
【0050】
この実施の形態2では、上記実施の形態1と同様の効果が得られると共に、慣性モーメント演算部8が、過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aのそれぞれに閾値を設け、信頼性の低い演算を停止するため、慣性モーメントの演算精度の低下を防ぐことができる。また、その間は慣性モーメントに一定値を用いるため、制御装置10は継続して交流回転機1を運転できる。
運転中に慣性モーメントが変わる場合においても、過渡トルク成分81a、過渡加速度成分82aの抽出を継続し、慣性モーメントの演算可否の判断を伴って演算するため、高い演算精度を保つことができる。
【0051】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3による交流回転機の制御装置について説明する。
図6は、この発明の実施の形態3による交流回転機1の制御装置10aの構成を示すブロック図である。
図6に示すように、制御装置10aは、電流検出部3と指令生成部4と電圧印加部5と速度推定部6と出力トルク演算部7aと慣性モーメント演算部8とを備える。出力トルク演算部7aは、出力トルクτaを演算するトルク演算部71aを備える。トルク演算部71aは、電流検出部3からの検出電流id、iqと、指令生成部4からの電圧指令vd*、vq*と、速度推定部6からの推定速度ω0とに基づいて、出力トルクτaを演算する。なお、出力トルク演算部7a以外の構成は、上記実施の形態1と同様である。
【0052】
図7は、トルク演算部71aの構成を説明する図である。
図7に示すように、トルク演算部71aは、検出電流id、iqと電圧指令vd*、vq*とから、交流回転機1の出力する電力Pを演算する電力演算部73と、電力演算部73からの電力Pを推定速度ω0で除算して出力トルクτaを演算する除算器74とを備える。
【0053】
電力演算部73は、電圧(電圧指令vd*、vq*)と電流(検出電流id、iq)との内積を用いて、以下の式(16)により電力Pを演算する。
P=vd*・id+vq*・iq ・・・(16)
【0054】
そして、除算器74は、以下の式(17)により出力トルクτaを演算する。
τa=P/ω0 ・・・(17)
【0055】
なお、電力Pを推定速度ω0で除算する除算器74では、ゼロ割を防止するための下限値を設け、推定速度ω0の大きさが設定された下限値未満のときには、上記式(17)で示す除算を停止する。その場合、上記実施の形態1において出力トルクを演算するのに用いた上記式(4)により、検出電流id、iqに基づいて出力トルクτaを演算する。
【0056】
この場合、上記実施の形態1と同様に、速度推定部6が出力する推定磁極位置θ0を、電圧指令vd*、vq*を静止座標(三相静止座標)の三相電圧指令に変換する際と、座標変換器31で座標変換して検出電流id、iqを得る際との双方で用いる。このため、推定磁極位置θ0が実際の磁極位置から推定遅延による誤差を持つ場合でも、電圧と電流との位相差は変化せず内積の値は変化しない、即ち、電力演算部73が演算する電力Pは推定磁極位置θ0の誤差の影響を受けず高精度に演算できる。
【0057】
また、回転機の出力トルクは、一般に出力電力を速度で除算することで演算でき、除算器74は、電力Pを推定速度ω0で除算して出力トルクτaを演算する。このとき、高精度に演算された電力Pを推定速度ω0で除算することにより、演算される出力トルクτaに、推定速度ω0の推定遅延による遅延特性を与えることができる。
そして、慣性モーメント演算部8には、速度推定部6からの推定速度ω0と、出力トルク演算部7aからの出力トルクτaとが入力され、上記実施の形態1と同様に慣性モーメントJを演算する。
【0058】
この実施の形態では、出力トルク演算部7aが、出力トルクτaを演算する際に、推定速度ω0の推定遅延による遅延特性を出力トルクτaに与えるため、出力トルクτaと、推定速度ω0の推定遅延とは、同等の遅延特性を有するものとなる。これにより、上記実施の形態1と同様に、慣性モーメントJを精度よく演算でき、上記実施の形態1と同様の効果が得られる。
また、座標変換に同じ推定磁極位置θ0を用いる検出電流id、iqと電圧指令vd*、vq*とから高精度に演算した電力Pを、推定速度ω0で除算することにより、遅延特性を有する出力トルクτaを高精度に演算できる。
さらに、除算器74に下限値を設けて、出力トルクτaの演算を切り替えるため、交流回転機1の運転状態によって推定速度ω0がゼロとなっても、出力トルクτaが継続して演算でき、制御装置10aは継続して交流回転機1を運転できる。
【0059】
なお、出力電力を速度で除算することで出力トルクは演算できるが、速度に推定速度ω0に替わるものを用いても良い。例えば、交流回転機1に印加される電圧の角周波数が出力電力Pに対する速度であると考え、上記非特許文献2内にて示されるような角周波数を除算器74で用いて出力トルクτaを演算することもできる。
【0060】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4による交流回転機の制御装置について
図8に基づいて説明する。
この実施の形態4では、
図8に示すように、出力トルク演算部7bがトルク演算部71aとトルク補正部72とを備えて、トルク補正部72が、トルク演算部71aが演算する出力トルクτaを補正して補正出力トルクτbを出力する。その他の構成は、上記実施の形態3と同様である。
【0061】
トルク演算部71aは、上記実施の形態3と同様の構成で、検出電流id、iqと電圧指令vd*、vq*とから電力Pを演算し、電力Pを推定速度ω0で除算することにより、遅延特性を有する出力トルクτaを演算する。
トルク補正部72は、上記実施の形態1と同様の構成で、トルク演算部71aにより演算された出力トルクτaをフィルタを通すことによって補正出力トルクτbを出力する。トルク補正部72のフィルタは、実速度ωから推定速度ω0への伝達特性と同様の伝達特性を有するフィルタである。
【0062】
以上のように、この実施の形態では、出力トルク演算部7bが、推定速度ω0の推定遅延による遅延特性を出力トルクτaに与え、その出力トルクτaを、さらに補正することにより、補正出力トルクτbの遅延特性を、推定速度ω0の推定遅延による遅延特性に、さらに精度良く近づけることができる。これにより上記実施の形態3と同様の効果が得られると共に、慣性モーメントJをさらに精度よく演算できる。
【0063】
なお、この発明は、発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
交流回転機(1)の制御装置(10)は、電流検出部(3)と、慣性モーメントJを用いて電圧指令を生成する指令生成部(4)と、電圧指令と検出電流とに基づいて推定速度ω0を演算する速度推定部(6)と、検出電流に基づいて出力トルクを演算する出力トルク演算部(7)と、慣性モーメントJを演算する慣性モーメント演算部(8)とを備える。出力トルク演算部(7)は、推定速度ω0の推定遅延に対応する遅延特性を出力トルクに与え、慣性モーメント演算部(8)は、推定速度ω0と、遅延特性を有する出力トルクとに基づいて慣性モーメントJを演算する。