特許第6045770号(P6045770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045770インクセット、インクジェットシステムおよび画像の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045770
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】インクセット、インクジェットシステムおよび画像の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/32 20140101AFI20161206BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20161206BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C09D11/32
   B41J2/01 501
   B41M5/00 E
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2007-263661(P2007-263661)
(22)【出願日】2007年10月9日
(65)【公開番号】特開2008-95104(P2008-95104A)
(43)【公開日】2008年4月24日
【審査請求日】2010年10月4日
【審判番号】不服2014-21905(P2014-21905/J1)
【審判請求日】2014年10月29日
(31)【優先権主張番号】11/548,775
(32)【優先日】2006年10月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル イフタイム
(72)【発明者】
【氏名】クリストファ エイ ワグナー
(72)【発明者】
【氏名】シー ジェフリー アレン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エム カズマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジー オデル
(72)【発明者】
【氏名】ポール エフ スミス
【合議体】
【審判長】 國島 明弘
【審判官】 川端 修
【審判官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−248219(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/056302(WO,A1)
【文献】 特開平7−304189(JP,A)
【文献】 特開2002−226740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットシステムに用いられ、少なくとも1種の蛍光性材料を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含む複数の相変化インクで構成されるインクセットであって、
活性化エネルギーに曝されると、前記蛍光性材料が蛍光を発してインクの見掛けに目に見える変化を引き起こし、
前記インクセットは活性化エネルギーに曝されないときに無色である蛍光性相変化インクと、蛍光性材料を含まない相変化インクと、さらに、非蛍光性着色剤を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含み、該少なくとも1種の蛍光性相変化インクが活性化用放射線に曝されないときは前記非蛍光性着色剤の色を示すことを特徴とするインクセット。
【請求項2】
活性化エネルギーに曝されると蛍光を発してインクの見掛けに目に見える変化を引き起こす、少なくとも1種の蛍光性材料を含有する少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含む複数の相変化インクで構成されるインクセットと、
インクセット中の前記相変化インクのそれぞれのための少なくとも1つのチャネルからなるインクジェットヘッドと、前記相変化インクのそれぞれを、前記相変化インクのそれぞれを含む貯蔵容器から前記インクジェットヘッドのそれぞれのチャネルへ供給する供給経路とを含むインクジェット装置と、を備え、
前記インクセットは活性化エネルギーに曝されないときに無色である蛍光性相変化インクと、蛍光性材料を含まない相変化インクと、さらに、非蛍光性着色剤を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含み、該少なくとも1種の蛍光性相変化インクが活性化用放射線に曝されないときは前記非蛍光性着色剤の色を示すことを特徴とするインクジェットシステム。
【請求項3】
インクセットから記録媒体上にインクを噴射して画像を形成するステップと、前記画像を放射線に曝して画像を硬化するステップとを含む蛍光性を有する画像の作製方法であって、
前記インクセットが、活性化エネルギーに曝されると蛍光を発してインクの見掛けに目に見える変化を引き起こす少なくとも1種の蛍光性材料を含有する少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含む複数の相変化インクで構成され
記インクセットは活性化エネルギーに曝されないときに無色である蛍光性相変化インクと、蛍光性材料を含まない相変化インクと、さらに、非蛍光性着色剤を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含み、該少なくとも1種の蛍光性相変化インクが活性化用放射線に曝されないときは前記非蛍光性着色剤の色を示すことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、受像基材上に一過性の情報を印刷することを含む、多くの複写および印刷装置で使用できる固体相変化またはホットメルトインクなどのインクを説明する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示する蛍光性相変化インクに伴う利点は、インクを、非蛍光性インクの代わりに使用できるかまたはそれと一緒に用いることができ、それによって、既知のインクジェット式印刷装置を用いた画像の形成が可能になることである。いくつかの実施形態では、本明細書で開示する蛍光性インクの使用に伴う他の利点は、蛍光性インクを、インクセットで用いられる他の非蛍光性インクにオーバープリントし、それによって、不要な光沢を実質的に無くすことができることである。
【0003】
インクジェット装置は当業界でよく知られている。米国特許第6547380号に記載されているように、インクジェット印刷システムは概ね2つの種類からなる。すなわち、連続ストリーム方式とドロップオンデマンド方式である。連続ストリームインクジェットシステムでは、インクは加圧下で少なくとも1つのオリフィスまたはノズルを通して連続ストリームとして放出される。そのストリームには摂動が与えられ、ストリームはオリフィスから一定の位置で分裂して液滴になるようになっている。その分裂点で、液滴はデジタルデータ信号にしたがって帯電し、静電場を通過する。その静電場は、液滴を再循環用の溝または記録媒体上の特定の位置に向けて方向付けるように、各液滴の軌道を調節する。ドロップオンデマンドシステムでは、液滴は、デジタルデータ信号にしたがって、オリフィスから直接記録媒体上の位置に吐き出される。記録媒体上にそれが置かれない限り、液滴は形成されないかまたは吐き出されない。ドロップオンデマンド式インクジェットシステムには概ね3つの種類がある。ドロップオンデマンドシステムの種類の1つは圧電装置である。これは、その一端にノズルを有し、他端近傍に圧力パルス発生用の圧電変換器を有するインク充填チャネルすなわち通路を、その主要構成要素として備えている。ドロップオンデマンドシステムの別の種類は、音響式インク印刷として知られているものである。周知のように、音響ビームは、衝突した物体に対してその上に放射圧を与える。したがって、音響ビームが、液体プールの自由表面(すなわち、液体/空気界面)上に下側から衝突した場合、プールの表面に対して与えられる放射圧は、表面張力の拘束力にもかかわらず、十分に高いレベルに到達して、プールから液体の個々の液滴を放出することができる。プールの表面上または表面近傍にビームを集中させると放射圧が増大し、所定の入力量が付与される。ドロップオンデマンドシステムのさらに別の種類は、熱インクジェットまたはバブルジェット(登録商標)として知られており、高い速度の液滴を生成する。この種のドロップオンデマンドシステムの主要構成要素は、一端にノズルを有し、そのノズルの近傍に発熱用抵抗器を有するインク充填チャネルである。デジタル情報を示す印刷信号は、オリフィスまたはノズルの近傍の各インク通路中の抵抗層内の電流パルスによってもたらされ、それによって、直近の位置にあるインク媒体(一般に水)をほとんど瞬時に蒸発させて気泡を発生させる。オリフィスのインクは、気泡が膨張するにつれて、噴射液滴として強制的に押し出される。
【0004】
圧電式インクジェット装置の典型的な設計においては、インクジェット用ヘッドに対して、受像部材または中間転写部材(intermediate transfer member)などの基材が4〜18回転(増分動作)する(すなわち、各回転の間に、基材に対してプリントヘッドの小さな移動がある)間に、適切に着色されたインクを噴射することによって、画像を印加する。このアプローチはプリントヘッドの設計を簡単にし、この小移動によって液滴の適切な位置合わせが確実になる。液体インクの液滴は、印刷装置から噴射動作温度で押し出され、インク液滴が記録基材の表面と接触した際、直接に、または中間加熱移動ベルトもしくはドラムを介して急速に固化して、所定の固化したインク液滴のパターンを形成する。
【0005】
インクジェット印刷法では、室温で固体であり高温で液体であるインクを用いることができる。そうしたインクはホットメルトインクまたは相変化インクと称される。例えば、米国特許第4490731号は、紙などの基材上に印刷するための固体インクの分注装置を開示している。ホットメルトインクを用いる熱インクジェット印刷法では、固体インクは、印刷装置の加熱器によって溶融され、従来の熱インクジェット印刷と類似した仕方で液体として利用される(すなわち、噴射される)。印刷基材と接触すると、溶融インクは急速に固化し、毛管作用によって基材(例えば紙)中に送られるのではなく、着色剤を基材の表面上に実質的に残留させ、それによって液体インクで通常得られる印刷密度より高い密度を実現することができる。したがって、インクジェット印刷での相変化インクの利点は、取り扱いの際のインクの漏洩の可能性の排除、広範な印刷密度および品質、最小の紙のしわまたは最小のゆがみ、ならびに、ノズルにキャップをしなくてもノズル閉塞の恐れなく、印刷しない期間を無期限にできることである。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6547380号
【特許文献2】米国特許第4490731号
【特許文献3】米国特許第6858070号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含むインクセットであって、活性化エネルギーに曝されると、蛍光性材料が蛍光を発して、インクの見掛けに目に見える変化を引き起こすインクセット、インクジェットシステムおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、インクジェットシステムに用いられ、少なくとも1種の蛍光性材料を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含む複数の相変化インクで構成されるインクセットであって、活性化エネルギーに曝されると、蛍光性材料が蛍光を発してインクの見掛けに目に見える変化を引き起こし、インクセットは活性化エネルギーに曝されないときに無色である蛍光性相変化インクと、蛍光性材料を含まない相変化インクと、さらに、非蛍光性着色剤を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含み、該少なくとも1種の蛍光性相変化インクが活性化用放射線に曝されないときは非蛍光性着色剤の色を示すインクセットを開示する。
【0009】
他の実施形態では、本明細書は、活性化エネルギーに曝されると蛍光を発してインクの見掛けに目に見える変化を引き起こす、少なくとも1種の蛍光性材料を含有する少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含む複数の相変化インクで構成されるインクセットと、インクセット中の相変化インクのそれぞれのための少なくとも1つのチャネルからなるインクジェットヘッドと、相変化インクのそれぞれを、相変化インクのそれぞれを含む貯蔵容器からインクジェットヘッドのそれぞれのチャネルへ供給する供給経路を含むインクジェット装置とを備え、インクセットは活性化エネルギーに曝されないときに無色である蛍光性相変化インクと、蛍光性材料を含まない相変化インクと、さらに、非蛍光性着色剤を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含み、該少なくとも1種の蛍光性相変化インクが活性化用放射線に曝されないときは非蛍光性着色剤の色を示すインクジェットシステムを開示する。
【0010】
さらに他の実施形態では、本明細書は、インクセットから記録媒体上にインクを噴射して画像を形成するステップと、画像を放射線に曝して画像を硬化するステップとを含む蛍光を有する画像の作製方法であって、インクセットが、活性化エネルギーに曝されると蛍光を発してインクの見掛けに目に見える変化を引き起こす少なくとも1種の蛍光性材料を含有する少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含む複数の相変化インクで構成され、インクセットは、活性化エネルギーに曝されないときに無色である蛍光性相変化インクと、蛍光性材料を含まない相変化インクと、さらに、非蛍光性着色剤を含む少なくとも1種の蛍光性相変化インクを含み、該少なくとも1種の蛍光性相変化インクが活性化用放射線に曝されないときは非蛍光性着色剤の色を示す方法を開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書では、放射線に曝すと蛍光を発することができる相変化インクのインクセットを説明する。本明細書で開示する相変化インクセットの蛍光特性はセキュリティの用途で特に有用である。いくつかの実施形態では、蛍光性材料は、観察者には周辺光のもとで見た場合は見えないが、以下で説明するように、放射線に曝すと蛍光性材料が蛍光を発して見えるようになる。印刷された画像/文書が、活性化用放射線への曝露から外されると、蛍光性材料は再び非蛍光性状態に戻る。偽造された文書またはコピー印刷物は発光する能力を有しておらず、活性化用放射線に曝すと見掛けが変化するので、そうした特性は、例えば文書の認証において有用である。発光状態と非発光状態との間の変化は、無制限の回数、例えば約10〜約100,000,000回またはそれ以上反復することができる。
【0012】
少なくとも蛍光性材料を含むインクである蛍光性インクは、いくつかの異なる方法でインクセット中に含めることができる。第1に、蛍光性材料を、インクセットの1つ以上着色された相変化インク中に含めることができる。第2に、蛍光性材料を、実質的に無色のインクであるようにするために、非蛍光性着色剤を全く含まない相変化インク中に含めることができる。第3に、蛍光性材料を相変化インクに含めて、それによって、周辺光のもとで見た場合には蛍光性材料は色がついており、活性化用放射線の曝した場合には異なる色かまたは同じ色を蛍光発光するようにすることができる。
【0013】
蛍光性材料を、インクセットの着色した相変化インクの1つ以上に含めた場合、放射線に曝すと、蛍光性材料は、印刷されたインクの見掛けを著しく変化させる。周辺光のもとでは、印刷されたインクは着色用インク中の非蛍光性着色剤の本来の色を示すことになる。しかし、放射線に曝すと、インク中の蛍光性材料の蛍光は、インクで示される色を目に見えて変化させる。例えば、黄色の蛍光性インクは周辺光のもとでは本来の黄色を示すが、活性化用放射線に曝されると、蛍光性材料の蛍光は、その示される色を異なる色、例えば赤色に変化する。
【0014】
蛍光性材料を、着色剤を含まない相変化インクに含めた場合、印刷されたインクは、周辺光のもとでは観察者に見えないか、明白ではない。放射線に曝すと、蛍光性材料の蛍光はインクを見えるようにする。
【0015】
インクセットのインク中に蛍光性材料を含める利点には、周辺光のもとでは普通に見えるが、放射線に曝すと見掛けが著しく変化する画像、テキスト等を作製することが含まれる。蛍光性材料を有するインクで印刷された画像、テキスト等を複写した場合、その画像、テキスト等は複写物中では見えない。これは、蛍光性材料は既存の複写条件下では発光せず、したがって複写物中では現れないためである。さらに、その複写機は蛍光性材料を有するインクを含まないので、複写物は全く発光しないことになる。偽造された複写物は蛍光特性を含むようにはできないので、そうした特徴は認証が可能であるという点で有利である。
【0016】
また、この特徴によって、その情報が文書を活性化エネルギーに曝すことを知っている人だけに明らかとなる、隠れた情報を文書の中に意図的に埋め込むことができるようになる。
【0017】
蛍光性材料を有するか有していない着色インク、および蛍光性だけの(着色されていない)インクを含む、本明細書で用いるための相変化インクの例は、約23℃〜約27℃の温度、例えば室温で固体である、具体的には約40℃未満の温度で固体であるインク媒体を含むインクである。しかし、そのインクは、加熱されると相変化し、噴射温度では溶融状態である。したがって、インクは、インクジェット印刷に適した高温、例えば約60℃〜約150℃の温度で、約1〜約20センチポアズ(cp)、例えば約5〜約15cpまたは約8〜約12cpの粘度を有する。
【0018】
この関連で、本明細書で用いるのに適したインクはすべて、低エネルギーインクであっても高エネルギーインクであってもよい。低エネルギーインクは約40℃未満の温度で固体であり、約80℃〜約150℃、例えば約90℃〜約130℃または約110℃〜約120℃の噴射温度で、約5〜約15センチポアズの粘度を有する。高エネルギーインクは約40℃未満の温度で固体であり、約100℃〜約180℃、例えば120℃〜約160℃または約125℃〜約150℃の噴射温度で、約5〜約15センチポアズの粘度を有する。
【0019】
相変化インク用のインク媒体は、例えば高温顕微鏡で観察および測定して求められるように約60℃〜約150℃、例えば約80℃〜約120℃または約85℃〜約110℃の融点を有することができる。その結合材料はスライドガラス上で加熱し、顕微鏡で観察する。より高い融点も可能であるが、150℃より高い温度ではプリントヘッドの寿命が短くなる可能性がある。
【0020】
さらに、インクの動作(噴射)温度での媒体の表面張力は、再充填速度、紙の湿潤および色の混合を向上させるために、約20〜約65ダイン/cm、例えば約40〜約65ダイン/cmでなければならない。
【0021】
蛍光性または蛍光性インクとは、例えば、活性化用放射線、例えば約100nm〜約1100nm、例えば約150nm〜約900nmまたは約200nm〜約600nmの波長を有する放射線源に曝して、材料またはインクを蛍光発光させる能力を指す。したがって、活性化用放射線は紫外(UV)、可視領域または赤外領域であってよいが、UV領域(約100nm〜約400nm)の活性化用放射線の使用が最も一般的である。蛍光発光は、活性化用放射線に曝すと即時に起こっても、何らかの活性化相を乗り越えた後起こってもよい。蛍光性インクによって示される蛍光発光は可逆的であるが、色変化または画像の見掛けが検出されるように、ある時間、例えば約0.5秒間〜約1時間、例えば約1秒間〜約45分間または約5秒間〜約30分間の期間それを持続させなければならない。
【0022】
いくつかの実施形態では、本明細書のインクセットは、蛍光性材料を有する少なくとも1種の相変化インクを含む。少なくとも1種の相変化インクの蛍光性材料は活性化エネルギーに曝されると蛍光発光する。
【0023】
他の実施形態では、本明細書で開示するインクセットは、裸眼にはほぼ透明であるが、活性化用放射線源に曝されると蛍光発光する蛍光性材料を有する、少なくとも1種の実質的に透明(トランスペアレント)かまたは非着色剤含有インクを含む。そうしたインクセットは、蛍光性材料は含まないが望ましくは少なくとも1種の着色剤を含む少なくとも1種の非蛍光性相変化インクをさらに含むことができ、かつ/または他の着色蛍光性相変化インクを含むこともできる。
【0024】
蛍光性インクは、非蛍光性インクを用いた画像が形成された後で、かつ非蛍光性インクから画像が形成される前に基材に塗布することができ、かつ/または、どの非蛍光性インクとも同時に塗布することもできる。非蛍光性インク画像は、ほぼ透明な蛍光性相変化インクでオーバープリントすることができる。本明細書で開示するほぼ透明な蛍光性相変化インクは、非蛍光性インクを用いて印刷された画像の上に塗布することができ、周辺光のもとで、透明な蛍光性インクを通して基礎印刷(base print)を容易に見ることができるので、その基礎印刷の色が問題にならないという点で利点がある。ほぼ透明な蛍光性相変化インクは、インクセットの非蛍光性インクで形成された目に見える画像の見掛けに悪影響を及ぼさない。そこでは、非蛍光性インクで形成された画像の光沢と蛍光性インクで形成された画像の光沢が類似している。もちろん、ほぼ透明な蛍光性インクまたは着色蛍光性インクは、単一のインクを含むインクセットだけで塗布することができる。
【0025】
任意の蛍光性相変化インクを含むインクセットの相変化インクのそれぞれは、印刷したら実質的に同じ光沢を示すように作製することができる。したがって、本明細書での利点は、形成された画像を従来の透明なオーバーコートまたはインクを用いてオーバーコートした場合にもたらされる特異な光沢を回避できることである。光沢は画像の輝きの尺度であり、それは印刷シート上に画像が形成された後に測定すべきである。光沢はガードナー光沢測定単位で測定することができる。本明細書でのいくつかの実施形態では、インクセットの蛍光性相変化インクを含むインクセットで用いられるインクのそれぞれは、実質的に調和した光沢を有するように作製される。この関連で、インクのそれぞれは、互いに約5ガードナー光沢単位(ggu)以内の光沢、例えば、互いに0〜約5gguまたは約0.5〜約3gguまたは約0.5〜約2gguの光沢値を有していなければならない。そうすると、蛍光能力を有する形成された画像は特異な光沢を実質的に示さず、したがって画像の見掛けは均質となる。
【0026】
いくつかの実施形態では、インクセットのインクのうちの1つだけが蛍光性材料を含む。例えば、任意選択で黒色を用いた、シアン、マゼンタ、イエローのインクセット中の蛍光性材料を、これらの着色インクのうちの1つに含ませる。インクセットの蛍光性材料は、活性化用放射線に曝されても発光をマスキングしない色を有するインク中にあってよい。例えば、色画像の色変化または見掛けの変化として示される蛍光は、蛍光性材料を、イエローまたはマゼンタなどのより淡い色合いに着色されたインク中に含ませた場合に、より簡単に見ることができる。蛍光は、黒色などの非常に暗いインク中では目立たない可能性がある。もちろん、インクセットのうちの2つ以上のインクが蛍光性材料を含むことができ、実際、すべてのインクが蛍光性材料を含んで、各インクが異なる色で蛍光発光するようにすることができる。そうした実施形態は、印刷画像上に無色のインクが存在しないので、特異な光沢がさらに低減されるという利点を有している。インクセットは、1つ以上着色蛍光性インクと蛍光性非着色インクを含むこともできる。
【0027】
さらに他の実施形態では、蛍光性材料は周辺光のもとで見ても色を示すことができる。活性化エネルギーすなわち放射性エネルギーに曝された場合、蛍光性材料は、周辺光のもとで示される色と同じでも異なっていてもよい色での蛍光を発する。活性化エネルギーに曝された際の蛍光性材料の蛍光により、インクの見掛けの変化が見える。
【0028】
着色蛍光性材料は、着色された相変化インクに含めることができる。そうした実施形態では、周辺光のもとで得られる色は蛍光性材料と着色非蛍光性材料の色の組合せである。活性化エネルギーに曝された場合、蛍光性材料の蛍光発光のため、その色は相当変化する。
【0029】
色は、例えば電磁スペクトルの同じ範囲内の波長の全吸収特性を指す。したがって、異なって着色されたインクは、互いに異なる色すなわち吸収特性を示す。例えば、第1のインクが黄色を示すと、異なって着色された第2のインクは、異なった色合い黄色、または例えばシアンまたはマゼンタなどの全く異なった色を示すことになる。本明細書の3色のインクの実施形態では、インクセットの3つのインクは、3つの減法混色の原色の黄色、シアンおよびマゼンタを含むか、または赤色、青色および緑色を含むことができる。4色のインクセットは例としてイエロー、シアン、マゼンタおよびブラックを含むことができる。例えば強調着色用インクのために、追加的な別の着色インクを、これらのインクセットに含めることができる。
【0030】
適切な任意のインク媒体は、本明細書で開示する相変化インクのいずれにおいても用いることができる。適切な媒体には、パラフィン、微結晶性ワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックス、脂肪酸および他のワックス状材料、脂肪族アミド含有材料、スルホンアミド材料、様々な天然資源(例えば、トール油ロジンおよびロジンエステル)から製造された樹脂性材料、ならびに以下で論じるような多くの合成樹脂、オリゴマー、ポリマーおよびコポリマーが含まれる。
【0031】
適切なインク媒体の例には、例えば、Petroliteから入手できるものなどの、一般式
【化1】
(式中、yは0〜約30、例えば0〜約20または0〜約10の整数を表し、xは約21−yと等しい)
のエチレン/プロピレンコポリマーが含まれる。コポリマーは、例えば約70℃〜約150℃、例えば約80℃〜約130℃または約90℃〜約120℃の融点、および約500〜約4,000の範囲の分子量を有することができる。
【0032】
Petroliteから入手できるものなどの、一般式
【化2】
(式中、Rは式CH3(CH2nのアルキル基であり、nは約5〜約400、例えば約10〜約300または約20〜約200の整数であり、R’はトリル基である)
の酸化された合成または石油ワックスウレタン誘導体もインク媒体として用いることができる。これらの材料は、約60℃〜約120℃、例えば約70℃〜約100℃または約70℃〜約90℃の融点を有することができる。
【0033】
インク媒体の別の種類は、一般に約5〜約100個、例えば約20〜約180個または約30〜約60個の炭素原子を有するn−パラフィン系、分鎖パラフィン系および/またはナフテン系炭化水素であってよい。これらは通常、例えばPetroliteから入手できる、約100〜約5,000、例えば約250〜約1,000または約500〜約800の分子量(Mn)を有するBESQUARE185およびBESQUARE195などの天然由来の炭化水素を精製することによって作製することができる。
【0034】
VYBAR253(Mn=520)、VYBAR5013(Mn=420)等を含むPetroliteから入手できるVYBAR材料などの、オレフィン重合によって一般に作製できる高度に分鎖した炭化水素も用いることができる。さらに、インク媒体は、Petroliteから入手できるものなどの、一般式
【化3】
(式中、xは約1〜約50、例えば約5〜約40または約11〜約24の整数であり、yは約1〜約70、例えば約1〜約50または約1〜約40の整数である)
のエトキシ化アルコールであってよい。材料は、約60℃〜約150℃、例えば約70℃〜約120℃または約80℃〜約110℃の融点、および約100〜約5,000、例えば約500〜約3,000または約500〜約2,500の範囲の分子量(Mn)を有することができる。
【0035】
他の例としては、インク媒体は、モノアミド類、テトラアミド類、その混合物等、例えば米国特許第6858070号に記載のものなどの脂肪族アミド類からなっていてよい。適切なモノアミド類は、少なくとも約50℃、例えば約50℃〜約150℃の融点を有することができるが、この温度より低い融点でもよい。適切なモノアミド類の具体的な例には、例えば第一モノアミド類および第二モノアミド類が含まれる。Witco Chemical Companyから入手できるKEMAMIDE SおよびCrodaから入手できるCRODAMIDE Sなどのステアラミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE BおよびCrodaから入手できるCRODAMIDE BRなどのベヘンアミド/アラキドアミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE UおよびCrodaから入手できるCRODAMIDE ORなどのオレアミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE O、Crodaから入手できるCRODAMIDE OおよびUniqemaから入手できるUNISLIP 1753などのテクニカルグレードのオレアミド、ならびにWitcoから入手できるKEMAMIDE EおよびCrodaから入手できるCRODAMIDE ERなどのエルカミドが、適切な第一アミド類のいくつかの例である。Witcoから入手できるKEMAMIDE EX666などのベヘニルベヘンアミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE S−180およびKEMAMIDE EX−672などのステアリルステアラミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE E−180およびCrodaから入手できるCRODAMIDE 212などのステアリルエルカミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE E−221などのエルシルエルカミド、Witcoから入手できるKEMAMIDE P−181およびCrodaから入手できるCRODAMIDE 203などのオレイルパルミトアミド、ならびになどのWitcoから入手できるKEMAMIDE S−221エルシルステアラミドが適切な第二アミドの類いくつかの例である。他の適切なアミド材料には、KEMAMIDE W40(N,N’−エチレンビスステアラミド)、KEMAMIDE P181(オレイルパルミトアミド)、KEMAMIDE W45(N,N’−エチレンビスステアラミド)およびKEMAMIDE W20(N,N’−エチレンビスオレアミド)が含まれる。
【0036】
Petroliteから入手できるものなどの、一般式
【化4】
(式中、xは約1〜約50、例えば約5〜約35または約11〜約23の整数である)
の高分子量直鎖状アルコールもインク媒体として用いることができる。これらの材料は、約50℃〜約150℃、例えば約70℃〜約120℃または約75℃〜約110℃の融点、および約100〜約5,000、例えば約200〜約2,500または約300〜約1,500の範囲の分子量(Mn)を有することができる。
【0037】
さらに他の例には、Petroliteから入手できるポリエチレンのホモポリマーなどの、一般式
【化5】
(式中、xは約1〜約200、例えば約5〜約150または約12〜約105の整数である)
の炭化水素をベースとしたワックスが含まれる。これらの材料は、約60℃〜約150℃、例えば約70℃〜約140℃または約80℃〜約130℃の融点、および約100〜約5,000、例えば約200〜約4,000または約400〜約3,000の分子量(Mn)を有することができる。ワックスの例には、POLYワックス500(Mn=500)、POLYWAX655(Mn=655)、POLYWAX850(Mn=850)、POLYWAX1000(Mn=1,000)等の一連のワックスが含まれる。
【0038】
他の例には、Petroliteから入手できるものなどの、一般式
【化6】
(式中、Rは約1〜約50、例えば約5〜約35または約6〜約28個の炭素原子を有するアルキル基であり、R’はエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基または約5〜約500個、例えば約10〜約300個または約20〜約200個の炭素原子を有するアルキル基であり、xは約9〜約13の整数であり、yは約1〜約50、例えば約5〜約25または約9〜約13の整数である)
からなり、約50℃〜約150℃、例えば約60℃〜約120℃または約70℃〜約100℃の融点を有するのもの、Petroliteから入手できるものなどの、一般式
【化7】
(式中、Rは約1〜約50、例えば約5〜約35または約6〜約28個の炭素原子を有するアルキル基であり、xは約1〜約50、例えば約5〜約25または約9〜約13の整数であり、yは1または2であり、zは約1〜約50、例えば約5〜約25または約9〜約13の整数である)
からなるのもの、ならびにPetroliteから入手できるものなどの、一般式
【化8】
(式中、R1およびR3は炭化水素基であり、R2は一般式
【化9】
のどちらかまたはその混合物であり、ただし、R’はイソプロピル基である)
からなり、その材料が約70℃〜約150℃、例えば約80℃〜約130℃または約90℃〜約125℃の融点を有するものなどのグラフト共重合により作製されたポリオレフィンの改変無水マレイン酸炭化水素付加化合物が含まれる。改変無水マレイン酸コポリマーの例にはCERAMER67(Mn=655、Mw/Mn=1.1)、CERAMER1608(Mn=700、Mw/Mn=1.7)等が含まれる。
【0039】
インク媒体は上記適切な材料の1つ以上を含むことができる。
【0040】
インク媒体は、インクの約25%〜約99.5重量%、例えばインクの約30%〜約90%または約50%〜約85重量%で含むことができる。
【0041】
適切な蛍光性材料には、蛍光性染料、蛍光性顔料および無機性の表面官能化した量子ドット材料が含まれる。本明細書で用いるのに適した蛍光性染料の例には、ローダミン類、フルオレセイン類、クマリン類、ナフタルイミド類、ベンゾキサンテン類、アクリジン類、アゾ類として知られている染料群に属するもの、およびその混合物等が含まれる。適切な蛍光性染料には、例えばベーシックイエロー40、ベーシックレッド1、ベーシックバイオレット11、ベーシックバイオレット10、ベーシックバイオレット16、アシッドイエロー73、アシッドイエロー184、アシッドレッド50、アシッドレッド52、ソルベントイエロー44、ソルベントイエロー131、ソルベントイエロー85、ソルベントイエロー135、ソルベントイエロー43、ソルベントイエロー160、フルオレッセントブライトナー61、その混合物等が含まれる。他の適切な蛍光性染料には、Risk reactor of Huntington Beach,CAから入手できるDFSBの部類、DFPDの部類、DFSB−Kの部類のような油および溶剤をベースとした染料が含まれる。適切な蛍光性顔料には、これらに限定されないが、オーロラピンクT−11およびGT−11、ネオンレッドT−12、ロケットレッドT−13またはGT−13、ファイアーオレンジT−14またはGT−14N、ブレイズオレンジT−15またはGT−15N、アークイエローT−16、サターンイエローT−17N、コロナマゼンタGT−21およびGT−17N、その混合物などのDay−Glo Color Corp.of Cleveland,Ohioから入手できるものが含まれる。Risk Reactorから入手できる他の適切な蛍光性顔料は、例えば、UV光に曝すと不可視から赤色へ切り替わる、例えばPFC−03のようなPFCの部類、UV光に曝すと不可視から紫色へ切り替わる、例えばPF−09のようなPFの部類のものである。蛍光性材料の他の供給業者には、Newton,MAのBeaver LuminescersおよびAkron,OhioのCleveland Pigment &Color Co.がある。
【0042】
量子ドット材料は蛍光性の無機半導体ナノ粒子材料である。量子ドットの光の放出は、電子および正孔の量子閉じ込めによるものである。量子ドット法の利点は、1つだけの材料と同じ合成方法を用いることによって、それらが、そのサイズの関数として所望の任意の波長(色)を放出するように調整できることである。例えば、約2〜約10nmを含む範囲で、スペクトルの可視範囲からのすべての範囲の色を得ることができる。さらに、量子ドット法は、有機染料と比較した場合、疲労抵抗が改善されている。量子ドット法の他の利点はその狭い発光バンドである。それによって、カスタマイズされた色を設計するための可能な波長選択の数が増加する。一般に約30nm未満、例えば約20nm未満とサイズが小さいため、容易にインクを噴射させることができる。量子ドットはEvident Technologies(Troy,NY)などの様々な企業から入手できる。
【0043】
いくつかの実施形態では、本明細書で用いる量子ドット材料は官能化された量子ドットである。表面官能化量子ドットは、より良好な相変化インク材料セットとの相溶性を有することができる。相変化インクとの相溶性のための、ナノ粒子量子ドットの表面上に存在する適切な官能基には、例えば、約1個の炭素原子〜約150個の炭素原子の長さ、例えば約2個の炭素原子〜約125個の炭素原子または約3個の炭素原子〜約100個の炭素原子の長鎖の直鎖または分鎖アルキル基が含まれる。他の適切な相溶性基にはポリエステル類、ポリエーテル類、ポリアミド類、ポリカーボネート類等が含まれる。
【0044】
周辺光のもとで着色しており、活性化エネルギーに曝されると蛍光発光する適切な着色蛍光性材料には、例えば、周辺光のもとで赤色でありUV光下で赤紫色を蛍光発光するDFWB−K41−80、および周辺光のもとで赤紫色であり、UV光下で赤紫色を蛍光発光するDFSB−K401などの染料が含まれる。そのそれぞれはRisk Reactorから入手できる。他の例には、周辺光のもとで茶色の見掛けを有しており、UV光下での励起で橙色を蛍光発光するDFSB−K400、周辺光のもとでもUV光に曝しても橙色であるDFSB−K427、および周辺光のもとでも活性化UV光に曝しても黄色であるDFSB−K43が含まれる。
【0045】
インクセットの相変化インクは、少なくとも1種の非蛍光性着色剤を含むこともできる。本明細書で用いる「着色剤」には、顔料、染料、染料の混合物、顔料の混合物、染料と顔料の混合物等が含まれる。非蛍光性着色剤は、所望の任意の量、典型的にはインク媒体またはインク媒体/噴射剤混合物の約0.5〜約75重量%、例えばインク媒体の約1〜約50重量%で着色インク中に存在することができる。
【0046】
適切な非蛍光性着色剤の例には、顔料、染料、顔料と染料の混合物、顔料の混合物、染料の混合物等が含まれる。インク媒体中に分散するかまたは溶解することができ、かつ、他のインク成分と相溶性であれば、どの染料または顔料も選択することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、油溶性染料を用いる。本明細書での使用に適した油溶性染料の例には、スピリット可溶性染料が含まれる。その理由は本明細書で開示するインク媒体との相溶性があるためである。
【0048】
相変化インク組成物は、すべての成分を混合し、その混合物を少なくともその融点、例えば約70℃〜約120℃に加熱し、混合物を、例えば約5秒間〜約10分間またはそれ以上攪拌してほぼ均一で一様な溶融物を得ることによって作製することができる。選択した着色剤が顔料である場合、その溶融混合物を、磨砕機(attritor)またはボールミル装置で粉砕して顔料をインク媒体中に分散させることができる。
【0049】
印刷された画像は、本明細書で述べるインクセットを用いて、少なくとも1種の蛍光性インクを含むインクセットを、インクジェット装置、例えば熱インクジェット装置、音響式インクジェット装置、圧電式インクジェット装置等に組み込み、同時に、インクセットの溶融インクのそれぞれの液滴が紙または透明材料などの受像基材上の画像様パターンで押し出されるようにすることによって作製することができる。インクセットの各インクは通常、何らかの適切な供給装置で、インクジェットヘッドの対応する押出しチャネルと連結された貯蔵容器の中に備えられる。噴射する手順では、適切な任意の方法でインクジェットヘッドを、インクの噴射温度まで加熱することができる。したがって、相変化インクは噴射温度で固体状態から溶融状態へと転換される。
【0050】
インクは、間接的な印刷用インクジェットの用途で用いることもできる。そこでは、溶融インクの液滴が画像様パターンで受像基材上に押し出される場合、その基材は中間転写部材であり、画像様パターン中のインクは、続いて中間転写部材から最終的な記録基材へ転写される。中間転写部材は例えばドラムであってもよい。
【0051】
中間転写部材を用いる実施形態では、その部材を、その表面上の温度が約45℃〜約80℃になるように加熱することができる。例えば、低エネルギーインクのためには表面温度は約45℃〜約60℃であってよく、高エネルギーインクのためには表面温度は約55℃〜約80℃であってよい。表面温度が高いことによって、インクが溶融状態で留まり、転写部材の表面上で、裏移りするか(offset)またはインクが割れるのが回避できるようになり、それによって、紙または透明シート材料などの最終受像基材への画像の良好な転写が可能になる。
【0052】
いくつかの実施形態では、したがって、インクジェットシステムは、活性化用放射線に曝されるとその少なくとも1種の蛍光性インクが蛍光発光する蛍光性材料を含む少なくとも1種の相変化インクを含む上記インクセットを備える。他の実施形態では、インクジェットシステムは、異なって着色された相変化インクと、別個の蛍光性材料を含む相変化インクを含む上記インクセットも含むことができる。
【0053】
そのシステムは、インクセット中の、異なって着色された相変化インクのそれぞれのための少なくとも1つのチャネルからなるインクジェットヘッドと、異なって着色された相変化インクのそれぞれを、例えば異なって着色された相変化インクのそれぞれを含む貯蔵容器から、インクジェットヘッドのそれぞれのチャネルへ供給する供給経路とを含むインクジェット装置も含む。したがって、既知の任意のインクジェットヘッドを用いることができ、インクジェットヘッドの蛍光性インクに使用するためだけの追加のチャネルを加える必要がなくなる。しかし、蛍光性材料が透明な相変化インクベース中にある場合、蛍光性インクのためだけのそうしたチャネルを用いることもできる。
【0054】
蛍光性材料を有する少なくとも1種の着色された相変化インクを含む、本明細書で開示するインクセットで印刷された画像は、普通の周辺光、例えば白色光のもとでは、第1の吸収スペクトルに対応する第1の色状態を有し、他方、インクを活性化用放射線、例えばUV光に曝すと、蛍光発光して、第2の吸収スペクトルに対応する第2の色状態を示す画像の少なくとも1つの色を有する。他の実施形態では、少なくとも1種の実質的に無色の蛍光性インクを含む本明細書で開示するインクセットで印刷された画像は、普通の周辺光、例えば白色光のもとでは、第1のほぼ透明な色状態を有し、他方、インクを活性化用放射線、例えばUV光に曝すと、発光して、吸収スペクトルに対応する第2の色状態を示すものである。
【0055】
蛍光を誘発させるための方法の例には、適切な波長、一般に約200〜約400ナノメートルの放射線での照射が含まれる。蛍光を停止させるためには、放射線への曝露を中止させればよい。放射線への曝露が中止されると、蛍光は停止し、画像はもとの状態に戻る。
【0056】
次に、上述した実施形態を以下の実施例でさらに説明する。
【実施例】
【0057】
実施例1:青色発光蛍光性染料
【0058】
99gのポリエチレンワックスベースをビーカーに加え、オーブンに移して約140℃で約3時間保持した。溶融したら、インクベースを含むビーカーをGriffin加熱マントルに移し、オーバーヘッドスターラーを用いて約175RPMで約30分間混合した。Risk Reactorからの蛍光性化合物DFSB−CO(登録商標)(青色発光蛍光性染料)1.0gを、攪拌しているインクベースに10分間かけて徐々に添加した。溶液をさらに2時間攪拌し、次いで70mm Mottろ過装置の0.22μmナイロン(nylon)フィルタを用いて約135℃でろ過した。インクろ液をアルミニウム皿に注加し、冷却して固化させた。
【0059】
実施例2:赤色発光蛍光性染料
【0060】
99gのポリエチレンワックスベースを1.0gのやはりRisk Reactorからの蛍光性染料DFKY−C7(登録商標)(赤色発光蛍光性染料)と混合した。組成物は本明細書の実施例1に記載のようにして調製した。
【0061】
実施例3:赤色発光蛍光性染料を用いた黄色インク
【0062】
相変化インクプリンタで用いた196gの非蛍光性黄色相変化インクを4gのDFSB C7(登録商標)と混合した。組成物は本明細書の実施例1に記載のようにして調製した。
【0063】
印刷結果:
白紙の白色用紙に、改造型インクジェットプリンタを用いて、実施例1で作製したインクで印刷して、インクでテキストメッセージを作成した。実施例2からのインクを用いて同じ印刷を行った。
【0064】
印刷後、その印刷された情報は、非蛍光性インクの塗布に起因する若干の光沢の差異以外は、ほとんど目に見えなかった。
【0065】
UV光(約365nm)に曝すと、印刷された頁上のテキストは容易に見えるようになった。実施例1ではテキストは青色に見え、実施例2ではテキストは赤色に見えた。UV光を取り外すと、画像は再びほとんど目に見えなくなった。このサイクルは何回も繰り返すことができる。
【0066】
相変化インクプリンタにより、先にフルカラーの絵柄で印刷した用紙に、実施例1および実施例2からの透明インクを用いてオーバープリントした。通常の観察条件下では、実施例1および実施例2からのインクで印刷したメッセージは、印刷画像と印刷テキストの間の光沢差が小さくなったため、ほとんど検出できなかった。
【0067】
黄色に着色した領域を含む絵柄を、白紙の白色用紙上に実施例3のインクを用いて印刷した。通常の観察条件下では、その絵柄は通常のフルカラー印刷のように見えた。UV光に曝すと、黄色成分を有する絵柄のすべての領域が赤色になった。UV光を取り外すとその色は再び黄色になった。このサイクルは何回も繰り返すことができる。
【0068】
元の本物の文書だけが、実質的に不可視/可視の挙動を示す能力を有することになる。複写物は可視状態においてだけ画像を示し、蛍光または不可視/可視の挙動を全く示さない。これによって、コンピュータ可読情報を含むメッセージ、画像などの文書中に認証能力を埋め込むことができるようになる。さらに、蛍光性材料によってもたらされる変化の利点を意図的に取り込むことによって、創造的な画像の構築が可能になる。
【0069】
<付記>
請求項3に記載の方法において、活性化エネルギーの波長は約200nmから約1,100nmである。