【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では梁を偏平にしてスラブ(フラットスラブ)に内蔵させることにより梁型の突出を回避しているが(請求項2)、桁行方向の耐震要素となる柱・梁からなるラーメンのフレームはスパン方向両側寄りの2箇所、もしくはスパン方向中間部を含む3箇所以上に配置され、桁行方向に2〜4構面が配置される形になっている(請求項1、
図1、
図4、
図5)。
【0005】
特許文献1において柱・梁のフレームが少なくともスパン方向両側に配置されている理由は、上部構造が基礎の下部構造に部分的に設置される免震装置に支持される免震構造であることで、免震装置の設置箇所に上部構造の鉛直荷重が集中するよう、柱をスパン方向両側に分散させる必要があることによると考えられる。上部構造の柱の位置が免震装置の設置箇所に拘束されることで、柱はスパン方向を向く耐震壁の両側位置に限らず、桁行方向にも分散して配置される結果になっている(
図1)。
【0006】
特許文献1では柱・梁のフレーム(構面)がスパン方向両側を含む2箇所以上に配置される結果、スパン方向両側において梁型を出すことなく、屋外に面する構面(壁面)に形成される開口部の高さを最大限、確保するために、2以上の構面の梁と柱を偏平にする工夫が必要になっている。結果的に、構面数に応じた分(箇所)だけ、柱と梁の断面形状が制約され、それぞれに自由な寸法を与えることが難しくなっている。
【0007】
特許文献2でも上部構造はその鉛直荷重を負担する免震装置に支持される前提があることから(請求項3)、特許文献1と同様に柱の位置が免震装置の設置位置に拘束されることもあり、スパン方向には両側位置に桁行方向を向く柱・梁のフレームが配置されている(請求項1、
図1、
図2)。
【0008】
特許文献2においても柱と梁は共に、柱型と梁型が出ない偏平な形状になっているが、スパン方向両側の内、一方側(廊下側)の構面には桁行方向の耐震要素となり得る壁が配置され、壁に柱と梁が内蔵される形になっているため(
図2、
図3)、壁の配置側に確保されるべき開口部の位置と幅、及び高さが制限される制約を受けている。
【0009】
特許文献1、2のいずれも、上部構造と下部構造の境界に設置される免震装置の位置に従って上部構造の柱(構面)の配置が決まる結果、桁行方向を向く構面を複数、配置せざるを得ないため、前記のように柱と梁の断面を偏平にすることを含め、これらの部材寸法、あるいは開口部の高さ等、何らかの形で屋内空間計画上の自由度が制限される結果になっている。
【0010】
本発明は上記背景より、免震装置の設置による桁行方向の構面への配置上の拘束(制約)を解除し、桁行方向の構面のスパン方向の位置を任意に設定し、構面の配置に制約を受けない屋内空間の計画を可能にする耐震要素集約型構造物を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の耐震要素集約型構造物は、スパン方向を向き、桁行方向に間隔を隔てて配列し、スパン方向の耐震要素となる耐震壁と、桁行方向を向き、上下階の床に接続しながら前記耐震壁の一部を通り、桁行方向の耐震要素となる柱と梁からなるフレームが配置された複数層の床を持つ構造物において、
前記スパン方向の耐震要素はスパン方向を向く各列の耐震壁からなり、前記桁行方向の耐震要素は壁が付帯しない前記柱と前記梁からなり、桁行方向の1構面を構成し、桁行方向の全長に亘って連続する単一の前記フレームに集約され、
前記桁行方向のフレームがスパン方向の前記耐震壁と交わる一箇所にのみ、前記フレームを構成する前記柱が接続し、その柱はスパン方向には前記耐震壁の一部としてスパン方向の耐震要素を兼ねて
おり、
前記桁行方向のフレームがスパン方向にはスパン方向の端部を除く中間部に位置し、前記フレームを桁行方向を向いた縦断面で見たときに梁型が現れ、平面で見たときに柱型が現れることを構成要件とする。
【0012】
「床」はフラットプレートを含む、主にフラットスラブ、または類似のスラブであり、スパン方向の耐震要素としての「耐震壁」には耐震要素に含められない非耐力壁が接続することもある。
【0013】
「スパン方向を向く各列の耐震壁」は耐震壁がスパン方向の各列に付き、実質的に1枚ずつ配置されることを言い、例えば中廊下型の集合住宅のように耐震壁がスパン方向中央部の廊下位置で分断され、スパン方向に2枚以上に分割されるようなことがないことを言う。「実質的に1枚の耐震壁」は
図2に示すように耐震壁の長さ方向中間部に柱が接続する場合も含む趣旨である。
【0014】
スパン方向に1枚ずつ配置される耐震壁のスパン方向の長さと端部の位置
は桁行方向に統一され、桁行方向に配列する全耐震壁のスパン方向両側の位置は揃えられる。
図1に示すように桁行方向のフレームがいずれかの耐震壁のスパン方向片側を通るとすれば、全耐震壁のスパン方向片側を通ることになる。
【0016】
桁行方向の耐震要素となる柱と梁からなるフレームが「桁行方向の1構面を構成する」とは、桁行方向の構面数が1(単一)であることを言う。「フレームが柱と梁からなる」とは、少なくとも桁行方向には柱に壁が接続(付帯)しないことで、桁行方向を向いた縦断面で見れば梁型が現れ、平面で見れば柱型が現れることを言う。「フレームが柱と梁からなること」は実質的には「フレームが柱と梁のみからなること」と同等である。桁行方向の構面数が1で済むことの背景には、本発明の構造物が免震装置に支持されることを前提(条件)にしないことがあり、免震装置を前提にしないことで、桁行方向のフレームのスパン方向での配置位置が免震装置の制約(拘束)を受けることがなくなっている。
【0017】
「構造物が免震装置に支持されることを前提にしない」とは、構造物が免震装置の併用を必須にしないことの意味であり、必ずしも免震装置に支持されないことではない。仮に構造物が上部構造と下部構造とに分離し、その分離したレベルに免震装置が設置されることがあるとしても、上部構造の桁行方向の構面は免震装置の設置位置に支配(拘束)されることがない。
【0018】
特許文献1、2のように上部構造と下部構造の間に免震装置が設置される場合、免震装置は下部構造に対する上部構造の相対移動を一様に生じさせる上で、上部構造の周囲に分散し、均等に配置されることが合理的であるため、免震装置の配置に応じて上部構造の柱も平面上の周囲に分散する必要がある。これに対し、本発明では免震装置の存否に拘らず、上部構造が免震装置の設置位置に支配されないことで、上部構造の桁行方向の構面をスパン方向両側位置の2箇所に配置する必然性から解放される。
【0019】
桁行方向の構面をスパン方向両側に配置する必然性がないことで、桁行方向の耐震要素としての構面を単一の柱・梁からなるフレームに集約させる自由が生ずる。「桁行方向の耐震要素を、1構面を構成するフレームに集約させる」とは、従来、桁行方向に(桁行方向を向く)複数の構面(フレーム)の配置を必要としていた場合の複数の構面を単一の構面に纏めることである。言い換えれば、桁行方向に必要とされる耐震要素(水平力に対する抵抗要素)としての構造部材を1構面の柱と梁に集中させることであり、1構面の柱・梁のフレームが例えば単独で桁行方向に作用する水平力に抵抗し得る能力を持つ断面を有し、その断面が水平力に抵抗し得る強度と剛性を持つことを言う。
【0020】
但し、桁行方向の水平力に対しては柱・梁のフレームに加え、床(スラブ)も、少なくとも桁行方向の梁を内蔵させることで、抵抗要素になり得るため、必ずしもフレームが単独で桁行方向の水平力に抵抗し得る強度と剛性を持つ必要はなく、桁行方向にはフレームとスラブ等を含めた構造体全体が水平力に対する抵抗能力を持てばよい。「少なくとも桁行方向の梁を内蔵させる」とは、スパン方向の梁を内蔵させることもある意味である。桁行方向の水平力に対する抵抗要素にはフレームとスラブの他、構造物内に付加的に配置される構造部材が含まれることもある。「スラブが桁行方向の梁を内蔵する」状態は、スラブの断面内の梁に相当する部分に、梁の断面のように複数本の梁主筋とこれを包囲するせん断補強筋を集中的に配筋することによって得られる。
【0021】
1構面の柱と梁が単独で、あるいはスラブ等と共に桁行方向の水平力に対する抵抗力を持つ必要から、柱と梁の材料(コンクリートと鋼(鉄筋を含む)の少なくともいずれか)に高強度材料を使用しない場合には、桁行方向の構面数が2以上ある場合との対比では各柱と梁の断面積が大きくなることもあり得る。反面、構面数が1に削減されることで、スパン方向両側の屋外に面する壁への柱型と梁型の突出を回避することが可能になる。柱と梁に高強度材料を使用すれば、それぞれの断面積を、高強度材料を使用しない場合程度の大きさにする必要には及ばない。
【0022】
高強度コンクリートは設計基準強度が36〜60N/mm
2のコンクリートを指し、60N/mm
2超の超高強度コンクリートを含む。高強度鋼材は390N/mm
2前後程度以上の引張強度を有する鋼材であり、1500N/mm
2前後程度までの引張強度を有する超
高強度鋼材を含む。
【0023】
桁行方向の耐震要素を単一の構面に纏める結果として、例えば柱の幅と成が1000mm程度の寸法になるとしても、柱はスパン方向の耐震壁の一部に組み込まれることで、耐震壁の片側面への突出量は実質的には柱の幅(成)寸法から耐震壁(壁板)の厚さを差し引いた量の半分になるため、柱の幅(成)寸法全体が屋内(居住空間)に突出することにはならない。同様に、梁の幅と成が800mm×850mm程度の寸法になるとしても、成方向の一部はスラブに組み込まれるため、実質的な突出量は梁成からスラブ厚さを引いた大きさになる。
【0024】
桁行方向に必要とされる複数の構面(フレーム)に相当する分の耐震要素を単一の構面に纏めることは、構造物が免震装置に依存しないことの他、複数層のスラブと桁行方向に配列する複数枚の耐震壁と桁行方向の構面(フレーム)とが一体構造化した構造体を形成することで、構造体自体がスパン方向と桁行方向の耐震要素としての機能を保有することによっても可能になっている。構造体は複数層のスラブと、各層において上下に隣接する層のスラブを繋ぐ、桁行方向に間隔を置いて配列する複数のスパン方向の耐震壁と、桁行方向に配列する複数の耐震壁を繋ぎながら、上下に隣接するスラブを繋ぐ桁行方向の構面(フレーム)とが一体構造化した構造体を指す。
【0025】
仕上げ材料(内装材)を除く躯体のみに着目すれば、屋内空間に梁型と柱型が現れるものの、桁行方向の耐震要素が単一の柱・梁のフレームに集約されることで、スパン方向両側以外の領域にフレーム(構面)を配置すれば、開口部を確保すべき屋外に面する壁の位置、すなわち耐震壁のスパン方向両側位置を通る壁の屋内側に梁型と柱型が出ない空間を形成することが可能になる。ここで言う「屋外に面する壁」は後述のように特許文献2のような耐力壁(構造壁)である必要はない。屋外に面する壁の屋内側に梁型と柱型が出ないことで、開口部の高さをスラブ上面(床面)からスラブ下面(天井面)まで最大限、確保することが可能になり、採光量の増大が図られる。
【0026】
本発明では耐震壁のスパン方向両側位置の双方に構面(フレーム)を配置する必要がないことで、特許文献2のように柱、あるいは梁を壁内に納める(内蔵させる)ための壁(耐力壁)を配置する必要が生じず、耐震壁のスパン方向の端部に構面(フレーム)を配置する場合でも
図1に示すようにいずれか一方側のみで済む。そこで、
図2に示すように桁行方向の構面(フレーム)をスパン方向中央部、もしくはその付近に配置すれば、スパン方向両側から構造壁を不在にすることができるため、スパン方向両側位置に、桁行方向に隣接する耐震壁間に跨り、下階のスラブ上面(床面)から上階のスラブ下面までに亘る区間に開口部を確保することも可能になる。
【0027】
桁行方向の梁をスパン方向両側に配置する(寄せる)必要がないことで、屋外と屋内を繋ぐ設備配管を配置する上で、桁行方向の梁がスパン方向両側に配置される場合に直面する梁貫通の必要性が生じないため、設備配管の径・数・配置に対する制約が少なくなると共に、梁貫通に伴う、梁に対する貫通孔周りの補強の必要も生じず、躯体に対して損傷を与えることもなくなる。この結果、屋内の改装の必要が生じた場合に、躯体に対しては補修を要することなく内装の変更(改装)を遂行することができるため、躯体を構築時のままに留めながら、間取り割りの変更を含め、内装を改修(改装)すること(スケルトン・インフィル)に対応可能になる。
【0028】
また桁行方向の構面数が単一で済むことで、前記のように基本的には桁行方向の構面をスパン方向両側のいずれか一方に寄せるか、スパン方向両側間の中間部のいずれかに配置するかは任意に選択し得る事項であるため、建築計画や設備計画上の要請に応じてスパン方向の位置を任意に設定することが可能であり、屋内空間の計画上の自由度が大幅に増し、桁行方向の構面の配置に制約を受けない屋内空間の計画が可能になる。
【0029】
桁行方向のフレームのスパン方向での配置位置は構造物のねじれ振動の抑制の観点からは、平面上の剛心と重心との偏心を小さくできる領域であるスパン方向の中央部、もしくはその付近が望ましいことになる。
【0030】
但し、フレーム(構面)がスパン方向中央部を外れることによる(スパン方向中央部以外の領域に配置されることによる)偏心の影響はスパン方向を向く耐震壁の壁厚、梁を内蔵し得るスラブ(フラットスラブ)の板厚の設定の他、袖壁、垂れ壁等の二次壁の配置等、桁行方向の剛性部材として加算可能な構造部材の配置位置や付加等の設定によって軽減可能であるため、フレームは必ずしもスパン方向中央部付近に配置される必然性はない。フレームを必ずしもスパン方向中央部付近に配置する必要がないことには、前記した複数のスラブと複数の耐震壁、及びフレームが一体構造化した構造体を形成することも寄与する。
【0031】
また耐震壁3のスパン方向両外側に廊下9とバルコニー8を配置する場合で、例えば
図1に示すようにスパン方向片側の廊下9側にフレーム4(構面)を配置した場合に、廊下9とバルコニー8の幅を相違させ、
図1−(b)に示すように廊下9の幅よりバルコニー8の幅を小さくし、スラブ2に対してスパン方向のバルコニー8側に耐震壁3とフレーム4(構面)を寄せることによっても剛心と重心間の偏心量を低減することが可能である。
図1の場合、スラブ2上に桁行方向に配列する複数枚の耐震壁3のみからなる躯体の剛心はバルコニー8寄りに位置するが、耐震壁3の廊下9側にフレーム4が配置されることで、スラブ2と耐震壁3にフレーム4を含めた躯体の剛心は幾らか廊下9寄りに移動し、スパン方向中間部の領域に位置することになる。
【0032】
更に桁行方向の構面が単一であることによる構造物自体の曲げ剛性不足、あるいはねじれ剛性不足が生じる可能性に対しては、単一のフレームを構成する柱と梁の断面を大きくすることで、あるいはフレーム、もしくはフレームを含む構造物全体の変形を利用した振動エネルギ吸収機能を備えるダンパー等の制震装置を併用することで、剛性不足を補うことは可能である。フレームを構成する柱と梁の各部位での強度不足の可能性に対しては、前記した高強度材料を使用することで、必要強度を確保することが可能であり、剛性と強度のいずれの面からも構造物としての成立性を満たすことが可能である。
【0033】
桁行方向の1構面を構成するフレームのスパン方向の耐震壁と交わる部分にはフレームを構成する柱が配置され、耐震壁に接続する。耐震壁は柱付きの壁になり、柱はスパン方向には耐震壁に一体化することで、スパン方向の耐震要素の一部として、耐震壁に剛性と強度を付加する機能を有する。