特許第6045819号(P6045819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045819光反射性複合塗膜の製造方法及び光反射式表示標識
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045819
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】光反射性複合塗膜の製造方法及び光反射式表示標識
(51)【国際特許分類】
   G09F 19/22 20060101AFI20161206BHJP
   G09F 13/16 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G09F19/22 Z
   G09F13/16 F
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-131176(P2012-131176)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-254169(P2013-254169A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】512151654
【氏名又は名称】株式会社ピオ
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】石井 國義
(72)【発明者】
【氏名】墨田 伸明
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】竹内 隆治
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−508285(JP,A)
【文献】 実開平04−006085(JP,U)
【文献】 特開2011−153256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 19/22
G09F 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電柱表面に直接又は下地塗膜を形成した後に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含有する塗料組成物(I)を含む塗料を塗工して再帰反射性膜を形成する工程と、
パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含有する塗料組成物(II)を含む塗料を、前記再帰反射性膜が被覆されるように塗工して保護膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする光反射性複合塗膜の製造方法。
【請求項2】
前記塗料組成物(II)において、成分(B)100重量部に対し、成分(A)を40〜55重量部含む請求項1記載の光反射性複合塗膜の製造方法。
【請求項3】
電柱表面に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含む再帰反射性膜と、該再帰反射性膜を被覆してなる保護膜と、を少なくとも含む光反射性複合塗膜を有する光反射式表示標識であって、
前記保護膜が、パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含むことを特徴とする光反射式表示標識。
【請求項4】
前記保護膜において、成分(B)100重量部に対し、成分(A)を40〜55重量部含む請求項3記載の光反射式表示標識。
【請求項5】
光反射性複合塗膜が形成された部分と、黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とを有し、前記光反射性複合塗膜が形成された部分と、前記黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とが、ストライプ状に形成されてなる請求項3又は4に記載の光反射式表示標識。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の電柱用標識板の代替品として使用できる光反射式表示標識、及び該光反射式表示標識における光反射性複合塗膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路に設置された電力会社や通信会社が所有する電柱には、図1に示すような光反射式標識板が装着されていることが多い。このような電柱用光反射式標識板は、合成樹脂又はゴム等のシートからなる標識板本体を電柱に巻き付けて使用され、その表面に反射塗料や反射テープからなる反射部が形成されたものである(例えば、特許文献1〜3参照)。該光反射式標識板に車のヘッドライトの光が照射されると、その反射光にて、夜間や濃霧等の状況下によっても、ドライバーに電柱の存在を認識させ、注意を喚起することができる。
【0003】
一般的な光反射式標識板は、電柱に固定するために種々の固定法が用いられている。例えば、光反射式標識板を電柱に配置した後に金属バンド、ボルト、ナットなどからなる止め金具で締め付けて固定する方法などが挙げられる(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
また、近年、電柱への宣伝ビラなどの違法貼紙が増えており、美観が損ねられていることが問題となっている。このような貼紙は、電柱などの光反射式標識板に貼り付けられると、光の反射が阻害されるという問題がある。このような電柱標識板には、貼り紙防止のため表面に複数の小突起を形成したものがあった。例えば、特許文献5には、複数の小突起を有する電柱カバーシートが開示されている。この電柱カバーシートは、複数の小突起を有するのみならず、貼着物に対し剥離性を有する物質を合成樹脂又はゴム製電柱カバーシートに練込み、この物質を持続的に電柱カバーシートの表面に滲出するようにし、さらには、電柱カバーシートに、反射用の小ガラス球を無数混合した材料を貼着又は塗装し、光反射性を附与しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−27244号公報
【特許文献2】特開平7−114343号公報
【特許文献3】特開2007−189791号公報
【特許文献4】特開平6−178426号公報
【特許文献5】特開2000−270453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の光反射式標識板は、上述のように樹脂シートからなる標識板本体を止め金具で締め付けて固定しているが、止め金具が電柱表面から突起している。また、標識板本体の破損や経時劣化により、標識板本体を構成する樹脂シートの一部が剥がれ、突起することもある。そして、このような突起部があると、通行の妨げになったり、被服やカバン等が引っかかって、通行人が怪我するなどの公衆災害が発生している。
【0007】
また、標識板本体を構成する既存の樹脂シート類は耐久性が不足しており、これを放置しておくと、標識板の剥がれが発生するため、2、3年で交換が行われているのが実状である。そのため、産業廃棄物が多量に発生するという問題もある。
【0008】
また、違法貼紙や標識板の剥がれ等は、景観や治安に悪影響を与える。貼紙防止に関して、上述のように、特許文献5で開示した電柱用シートのように標識板本体表面に小突起を設ける方法があるが、当該電柱用シートでは、貼紙防止効果を有さない反射用小ガラス球が表面にでているため、貼紙防止効果が不十分となる。また、経時劣化等によって、電柱用標識板が電柱から剥がれるという問題を解決できるものではない。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点を解決するために案出したものであり、高い光反射性と、貼紙防止性を両立すると共に、突起部を有さない光反射式表示標識を提供することである。また、本発明の他の目的は、光反射式表示標識に用いられる光反射性複合塗膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記発明が上記問題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 電柱表面に直接又は下地塗膜を形成した後に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含有する塗料組成物(I)を含む塗料を塗工して再帰反射性膜を形成する工程と、
パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含有する塗料組成物(II)を含む塗料を、前記再帰反射性膜が被覆されるように塗工して保護膜を形成する工程と、
を含む光反射性複合塗膜の製造方法。
<2> 前記塗料組成物(II)において、成分(B)100重量部に対し、成分(A)40〜55重量部含む前記<1>記載の光反射性複合塗膜の製造方法。
<3> 電柱表面に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含む再帰反射性膜と、該再帰反射性膜を被覆してなる保護膜と、を少なくとも含む光反射性複合塗膜を有する光反射式表示標識であって、
前記保護膜が、パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含む光反射式表示標識。
<4> 前記保護膜において、成分(B)100重量部に対し、成分(A)40〜55重量部含む前記<3>記載の光反射式表示標識。
<5> 光反射性複合塗膜が形成された部分と、黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とを有し、前記光反射性複合塗膜が形成された部分と、前記黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とが、ストライプ状に形成されてなる前記<3>又は<4>に記載の光反射式表示標識。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、再帰反射性膜を被覆する保護膜の光透過性が高く、付着抑制に優れるため、目視で十分に確認できる以上の優れた光反射性を有し、且つ、表面への貼紙の付着を抑制することができる光反射式表示標識が提供される。該光反射式表示標識は、光反射性複合塗膜により形成されることから、突起部を有さないため、通行人が電柱と接触して怪我をすることを抑制することできる。また、光反射式表示標識は耐久性が高く、樹脂シートからなる標識板本体を有さないため、廃棄物が発生することもない。その結果、無駄な工事等を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来の電柱標識板の模式図である。
図2】実施例における剥離性テストの説明図である。
図3】実施例における付着性テストの説明図である。
図4】実施例の光反射性複合塗膜を所定領域に形成した光反射式表示標識を有する電柱の模式図であり、(a)電柱全体の模式図、(b)光反射式表示標識(塗膜形成部)の拡大図、(c)光反射性複合塗膜の断面模式図である。
図5】実施例の光反射式表示標識を有する電柱を、夜間にフラッシュ撮影したときの様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0015】
本発明の光反射性複合塗膜の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す場合がある。)は、電柱表面に直接又は下地塗膜を形成した後に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含有する塗料組成物(I)を含む塗料を塗工して再帰反射性膜を形成する工程と、パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含有する液状の塗料組成物(II)を含む塗料を、前記再帰反射性膜が被覆するように塗工して保護膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
以下、本発明の製造方法における各工程について説明する。なお、以下、電柱表面に、直接又は下地塗膜を形成した後に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含有する塗料組成物(I)を塗工して再帰反射性膜を形成する工程を「工程(1)」、成分(A):パラフィンワックス、成分(B):変性シリコンを含む塗料組成物(II)を再帰反射性膜の上に塗工する工程を「工程(2)」と称す。
【0017】
<工程(1)>
工程(1)において、電柱表面に直接又は下地塗膜を形成した後に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含有する塗料組成物(I)を塗工した後に、乾燥させて再帰反射性膜を形成する。
【0018】
[電柱]
本発明の光反射性複合塗膜を形成する対象である電柱は、電力会社や通信会社が道路に設置する一般的なコンクリート製の電柱が対象となる。
後述するように、塗料組成物(I)から形成される再帰反射性膜を被覆する保護膜は、コンクリートに対する親和性、接着性に優れることから、コンクリート製の基材が好適な対象である。
また、本発明の光反射性複合塗膜は、塗料組成物を含む塗料を塗布乾燥して形成されるため、電柱の表面形状は特に制限されない。
【0019】
<塗料組成物(I)>
塗料組成物(I)は、再帰反射性粒子と接着用樹脂を溶媒に分散してなる液状組成物であり、工程(1)において、電柱表面に直接又は下地塗膜を形成した後に、塗工、乾燥することで、再帰反射性膜が形成される。
【0020】
再帰反射性粒子は、入射光を粒子内で屈折させて粒子の球面に焦点を結ばせ、反射光となって再帰させるという働きを有する透明粒子である。
再帰反射性粒子は、種類は限定しないが、例えば、再帰反射性粒子の材料としては、好適にはガラスビーズが挙げられ、屈折率が、1.5〜2.5程度の屈折率を有するものが使用される。
【0021】
塗料組成物(I)における再帰反射性粒子の配合割合は、十分な反射光量が得られ、視認性が著しく不足しない限り、特に限定されないが、塗料組成物(I)の固形分全量を100重量部としてときに、通常、30〜85重量部である。なお、再帰反射性粒子が多すぎると、接着用樹脂の相対割合が低くなって機械的強度が不十分になるおそれがある。
【0022】
また、ガラスビーズのほかに反射鏡となる粒子をも含んで構成されてもよい。反射鏡となる粒子としては、例えば、マイカが挙げられる。
マイカの配合割合は、塗料組成物(I)全体の固形分100重量部に対し、通常、5〜25重量部程度である。
【0023】
また、再帰反射性膜は、反射光を着色させるために色素を含んでいてもよい。再帰反射性膜に色素を含ませるために、色素を付着させた着色アルミニウムなどの着色粒子を使用してもよい。着色粒子の配合割合は、塗料組成物(I)全体の固形分100重量部に対し、通常、5〜25重量部程度である。
【0024】
再帰反射性粒子の粒径は、十分な再帰反射性を有せば、特に制限はないが、ガラスビーズの場合、20〜300μm程度である。
反射鏡粒子や着色粒子の粒径は、塗料組成物(I)塗布後、再帰反射性膜の表面に再帰反射性粒子が出やすいように、再帰反射性粒子より小さいことが好ましい。そのため、反射鏡粒子として、例えば、粒子径1〜150μm程度のマイカを用いられ、着色粒子としては、例えば、粒子径80μm以下のアルミニウム粒子を用いることが多い。
【0025】
接着用樹脂は、再帰反射性粒子を再帰反射性膜に定着するための樹脂であり、再帰反射性粒子に対する十分な接着性を有し、光に対して透明な樹脂であればよい。
透明性に優れるアクリル系、ウレタン系、ビニル系、エポキシ系、シリコーン系、ポリエステル系、オレフィン系、ゴム系等の接着用樹脂が使用できる。
【0026】
接着用樹脂の配合割合(固形分基準)は、塗料組成物(I)100重量部に対し、5〜30重量部程度である。
【0027】
塗料組成物(I)は、溶媒に分散させて、塗料として使用される。溶媒としては、水系、有機溶剤系、水・有機溶剤の混合溶媒系のいずれでもよいが、環境面を考慮すると、水系であることが好ましい。
【0028】
塗料組成物(I)としては、上述の要件を満たす、再帰反射性粒子やその他の粒子及び接着用樹脂を含む市販の塗料を使用することができ、好適な具体例として、小松プロセス社製の「ブライトコート」を挙げることができる。
【0029】
塗料組成物(I)を含む塗料の対象物への塗工方法は特に限定されず、対象となる電柱の特性(材質や表面凹凸性等)を考慮し、従来公知の塗布方法で行うことができる。例えば、スプレー塗装法、ロール塗装法、刷毛塗り塗装法、バーコーター塗装法などを適宜採用することができる。
【0030】
(下地塗膜)
上述の再帰反射性膜と電柱との間には、中間層として、下地塗膜を形成してもよい。下地塗膜は、その使用目的、電柱の種類や表面凹凸性、塗料組成物(I)との濡れ性や反応性などを考慮して適宜決定される。
【0031】
下地塗膜の使用目的としては、例えば、(i)再帰反射性膜と電柱との接着性を高める目的や、(ii)再帰反射性膜の視認性を高める目的等が挙げられる。
前者の場合には、塗料組成物(I)に含まれる接着用樹脂と同じあるいは同種であることが好ましい。後者の場合には、従来の光反射式標識板と同様の外観となるように、再帰反射性膜が形成された部分と、黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とをストライプ状に形成することが好ましい。このように光反射式標識板と同様の外観とすることで、再帰反射性膜の視認性をより高めることが可能となる。
【0032】
また、これらの下地塗膜は複層であってもよい。例えば、電柱表面には、電柱と接着性の高い第1の下地塗膜を形成し、その上に中間層として、第1の下地塗膜と再帰反射性膜の双方との接着性の高い第2の下地塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0033】
<工程(2)>
工程(2)では、工程(1)で形成した再帰反射性膜が被覆するように、パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含有する塗料組成物(II)を含む塗料を塗工して保護膜を形成する工程である。
塗料組成物(II)は、塗工対象である再帰反射性膜に対する接着性が高いだけでなく、電柱の素材であるコンクリートに対する高い親和性や浸透性を有するため、再帰反射性膜全体が被覆するように塗料組成物(II)を含む塗料を塗工することにより、複合膜全体の電柱への接着力が向上する。
以下、塗料組成物(II)の成分、塗工方法について説明する。
【0034】
<塗料組成物(II)>
[(A)パラフィンワックス]
パラフィンワックスは、炭素数18〜30程度の直鎖状パラフィン系炭化水素を主成分とする常温において固体あるいは半固体の固形油脂(ワックス)であり、一般に、石油の減圧蒸留留出油から分離精製して製造される。
パラフィンワックスは、通常、その融点で区別され、JIS K 2235では120パラフィン(融点:48.9℃〜51.7℃)から155パラフィン(融点:68.3℃〜71.0℃)まで8種類が規定されている。これらは融点が高温であるほど柔軟性が低下する傾向がある。塗料組成物(II)において、電柱や再帰反射性膜との親和性、適当な融点を有するパラフィンワックスが使用される。
【0035】
[(B)変性シリコン]
変性シリコンは、オルガノポリシロキサンの末端にアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、オキシメチレン基などの官能基の1種または2種以上が導入されたものや、側鎖に前記官能基が導入されたもの、または末端と側鎖の両方に前記官能基が導入されたものなどが使用できる。
変性シリコンとしては、市販品の「ワンツーセラ」(大日本塗料株式会社)、「ペンギンシール2550LM」(サンスター技研株式会社)を例に挙げることができる。
【0036】
より効果的に、再帰反射塗膜の光反射性を阻害することなく、貼り紙等の付着を抑制できる保護膜を形成できる点で、塗料組成物(II)において、成分(B)100重量部に対し、成分(A)を40〜55重量部含むことが好ましい。
また、このような組成であると、電柱素材であるコンクリートに対する親和性や浸透性により優れる。
【0037】
塗料組成物(II)には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分(A)及び成分(B)以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、相溶化剤、顔料、湿潤剤、可塑剤、反応促進剤、タレ止め剤、沈澱防止剤、塗面調整剤などの塗料用添加剤が挙げられる。
【0038】
塗料組成物(II)は、溶媒に分散させて、塗料として使用される。溶媒としては、塗料組成物(II)の構成成分を分散できる溶媒であればよく、特に限定されないが、塗装作業性や塗膜乾燥性が好適になるという観点からは、溶媒として、ヘキサンが好適である。また、溶解性向上の観点からは、さらにエステルを含むことが好ましい。エステル類としては、酢酸ブチルが好適である。
【0039】
塗料組成物(II)における固形成分と溶媒との比率は、固形成分が均一に溶解する範囲であればよい。塗布作業性がよく、均一な塗膜を得ることができるという観点からは、固形成分全量と溶媒との比率が、1〜70/30〜99(重量比)であることが好ましい。
【0040】
塗料組成物(II)を含む塗料の市販品として、ピオバリアー(ピオテック株式会社製)を好適な一例に挙げることができる。
【0041】
塗料組成物(II)を含む塗料の対象物への塗工方法は特に限定されず、対象となる塗布対象物の特性を考慮し、従来公知の塗布方法で行うことができる。例えば、スプレー塗装法、ロール塗装法、刷毛塗り塗装法、バーコーター塗装法などを適宜採用することができる。
また、本発明の効果において、再帰反射性以外の効果は、塗料組成物(II)からなる保護膜が、光反射性複合塗膜の表面層に形成されていれば発現する。
【0042】
塗料組成物(II)を含む塗料を塗布対象物に塗布した後の塗膜(保護膜)の乾燥時間は、組成および塗布量で変化するが、少なくとも塗布後10分以上60分以下にすることが可能である。このような範囲にすることで、塗膜の流動性が十分な時間保たれ、特別なレベリング処理をしなくとも平坦で均一な膜厚の連続膜を形成できる。
【0043】
塗膜の硬化時間は、塗料組成物(II)における組成および塗布量で変化するが、通常、常温下においては3時間程度で硬化して、膜物性が安定化する。
【0044】
保護膜の膜厚は任意に調節することができ、本発明の効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、通常、100μm以下程度である。より光透過性を高めて、反射光の光量を増加させるためには、保護膜の膜厚は、10μm以下が好ましい。
【0045】
<光反射式表示標識>
本発明の光反射式表示標識は、電柱表面に、再帰反射性粒子と接着用樹脂とを含む再帰反射性膜と、該再帰反射性膜を被覆してなる保護膜と、を少なくとも含む光反射性複合塗膜を有する光反射式表示標識であって、前記保護膜が、パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を含むことを特徴とする。
本発明の光反射式表示標識は、上述した本発明の製法方法にて、製造することができる。
【0046】
本発明の光反射式表示標識は、パラフィンワックス(A)及び変性シリコン(B)を少なくとも含む光反射性複合塗膜を有している。光反射性複合塗膜において、透明性の高い保護膜によって、再帰反射性膜が被覆されているため、従来の再帰反射標識板と同等以上の高い再帰反射性を有し、さらには保護膜に起因する貼紙防止性を有する。光反射式表示標識における好適な設置対象は、コンクリート製の電柱であり、いかなる種類の電柱に対しても本発明の光反射式表示標識を設置することができる。
【0047】
より効果的に、再帰反射塗膜の光反射性を阻害することなく、貼り紙等の付着を抑制できる本発明の光反射式表示標識の保護膜において、成分(B)100重量部に対し、成分(A)を40〜55重量部含むことが好ましい。
【0048】
また、本発明の光反射式表示標識において、光反射性複合塗膜は、光反射式表示標識の一部に含まれていればよく、その形態は任意であるが、従来の電柱標識板を代替するという観点からは、従来の電柱標識板の同様な形態が好ましい。
すなわち、本発明の光反射式表示標識は、光反射性複合塗膜が形成された部分と、黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とを有し、前記光反射性複合塗膜が形成された部分と、前記黒色顔料を含む下地塗料が露出した部分とが、ストライプ状に形成されてなることが好ましい。
このような形態であると、光反射性複合塗膜(例えば、黄色)と、再帰反射性膜が形成されていない部分(例えば、黒色)がストライプ状に形成されているため、自動車や通行人の視認性が向上して、安全性がより向上する。
【0049】
また、光反射性複合塗膜が一部にしか形成されていない場合においても、光反射式表示標識の全面に前記保護膜を形成することが好ましい。こうすることで、光反射性複合塗膜のみならず、再帰反射性膜が形成されていない部分においても、保護膜により、貼り紙付着防止性を付与される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例に使用した塗料は、以下のとおりである。
下地塗料(黒):無反射ブラック(黒色顔料含有アクリル系塗料)
下地塗料(白):ブライトコート用下塗り剤(株式会社小松プロセス製)
塗料組成物(I)を含む塗料:ブライトコートN(株式会社小松プロセス製)
溶媒:水
ブライトコートN:水=95:5(重量比)

塗料組成物(II)を含む塗料:ピオバリアー(株式会社ピオテック製)
成分(A):パラフィン(4〜5量%)
成分(B):変性シリコン(9〜10重量%)
他の成分
脂肪酸系油脂(2.5〜3重量%)
植物性油脂(2.5〜3重量%)
溶媒:ヘキサン(75〜85重量%)
【0052】
「テスト用基材の作製」
以下の手順で試料を作製した。
まず、テスト用基材として、電柱の素材であるコンクリート平版(300×300mm)の表面を水洗いし、24時間乾燥させた。
次いで、下地塗料(黒)をテスト用基材一面にローラー塗布し(使用量:10g)、3時間乾燥させた。次いで、テスト用基材の左半面を覆うようにマスキングを行い、右半面のみに下地塗料(白)を塗布し(使用量6g)、30分乾燥させた。
次いで、下地塗料(白)の上に、上記塗料組成物(I)を含む塗料を塗布し、30分乾燥させたのちに、さらに、その上に2回目の塗料組成物(I)を含む塗料を再度塗布した。マスキングを除去し、24時間室内養生して塗料組成物(I)からなる再帰反射塗膜を形成した。塗料組成物(I)を含む塗料の合計使用量は10gであった。
次いで、上半面を覆うようにマスキングを行い、下半面のみに塗料組成物(II)を含む塗料を塗布し(使用量:20ml)、マスキングを除去。24時間室内養生して塗料組成物(II)からなる保護膜を形成させ、テスト用基材を得た。
【0053】
「剥離性テスト」
剥離性テストは、JIS Z0237「粘着テープ・粘着シート試験方法、10.4 180度引きはがし粘着力の測定」に準じる方法で行った。使用器具として、「株式会社エー・アンド・ディー社製デジタルフォースゲージ」を用い、評価用粘着テープとして、「日東電工株式会社製クラフト粘着テープ、幅25mm、長さ120mm」を使用した。
図2に示すようにテスト用基材表面に評価用粘着テープを貼り付け、剥離性テストを行った。結果を、表1に示す。
表面に、塗料組成物(II)からなる保護膜が形成された試験箇所5〜8、試験箇所13〜16(それぞれ無保護膜面1〜4、無保護膜面9〜12に対応)では、粘着テープを貼付することができなかった。このことから、塗料組成物(II)からなる保護膜が、高い張り付け防止性を有することが分かった。
【0054】
【表1】
【0055】
「付着性テスト」
付着性テストは、JIS k5600−5−6 付着性試験(クロスカット法)に準じる方法で行った。使用器具として、「コーテック株式会社製クロスカットガイド」を用い、評価用テープとして、「透明感圧付着テープ、幅25mm、長さ75mm」を使用した。図3に示すようにテスト用基材表面に評価用テープを貼り付け、付着性テストを行った。結果を表2に示す。すべての試験箇所において、塗膜の剥離は認められず、塗膜の付着性が高いことが認められた。
【0056】
【表2】
【0057】
「再帰反射性テスト」
本発明の光反射性複合塗膜の再帰反射性を評価するために、該塗膜を有する光反射式表示標識を有する評価用電柱を以下の方法で製造した。
まず、コンクリート製の電柱の表面に下地塗料(黒)を、幅460mm、で地面からの高さが約350mmになる部分にローラー塗りで塗布して(塗布量0.17kg、塗布面積0.56m2)、十分に乾燥させた。
次いで、乾燥後の下地塗料(黒)の上に、ストライプ状のマスキングを張り付け、白色顔料を含む下地塗料(白)を刷毛塗りして(1回塗り、塗布量0.09kg、塗布面積0.3m2)、十分に乾燥させることで、下地塗膜(白)を形成した。
次いで、下地塗膜(白)の上に、上記塗料組成物(I)を含む塗料を刷毛塗りして(2回塗り、塗布量0.15kg、塗布面積0.3m2)、乾燥させて再帰反射性膜を形成した。
次いで、マスキングを外して、再帰反射性膜及び下地塗膜(黒)(再帰反射性膜非形成部)を全面的に覆うように、塗料組成物(II)を含む塗料をローラー塗り(1回塗り、塗布量0.31L、塗布面積2.04m2)して、乾燥させることにより、実施例の光反射性複合塗膜を得た。
図4に実施例の光反射性複合塗膜を所定領域に形成した光反射式表示標識を有する電柱の模式図を示す。図4(a)は電柱全体の模式図、図4(b)光反射式表示標識(塗膜形成部)の拡大図、図4(c)光反射性複合塗膜の断面模式図である。
【0058】
「評価」
上記塗工方法にて、図5に示す光反射性複合塗膜を形成した電柱を作製した。テストとして、フラッシュ撮影に対する塗装部の輝度確認したところ、図5に示すようにフラッシュの照射に対し、目視で十分に観測できる反射光が確認された。
また、実用的テストとして、夜間に自動車のヘッドライトを照射して、塗装部の輝度を目視にて観察したところ、従来の電柱標識板と同等以上の光が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の光反射式表示標識は、優れた再帰反射性を有し、夜間においても、十分な視認性を有し、かつ、実用的な耐久性を有する。さらに、貼紙がし難く、仮に貼紙をしてもそれらを容易に除去でき、かつ、従来の電柱標識板と異なり、突起部が存在しないので歩行者の安全性をより向上させることができる。そのため、公衆災害の防止し、交通安全を確保することができる光反射式表示標識として、従来の電柱標識板の代替として使用することができる。
図1
図4
図2
図3
図5