(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045822
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ボールねじ、シール材、及び、シール構造
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20161206BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
F16H25/24 M
F16J15/18 C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-141417(P2012-141417)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-5865(P2014-5865A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(72)【発明者】
【氏名】石崎 洋治
(72)【発明者】
【氏名】清原 好晴
(72)【発明者】
【氏名】青木 堅一朗
(72)【発明者】
【氏名】中井 勉之
(72)【発明者】
【氏名】青木 康弘
【審査官】
藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−047476(JP,U)
【文献】
特開2001−304420(JP,A)
【文献】
特開平07−179846(JP,A)
【文献】
特開平06−240271(JP,A)
【文献】
特開昭58−163867(JP,A)
【文献】
実開昭50−067252(JP,U)
【文献】
特開2000−161462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/18
F16H 25/22
F16H 25/24
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、
前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、
前記雌型部材の軸方向の一端部または/および他端部に設けられたシール材と、
を備え、前記雄型部材と前記雌型部材とが軸方向に嵌合されるボールねじであって、
前記シール材が、
前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、
前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、
前記繊維層において前記嵌合面と反対側の面に積層されたゴム層又は樹脂層と、
を有し、
前記ゴム又は樹脂を含浸させた前記繊維は、繊維をシート状に形成した伸縮性のある布からなり、当該布の伸縮性を示す方向が前記雄型部材の軸方向と一致する、
ことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、
前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、
が軸方向に嵌合されるボールねじに使用されるシール材であって、
前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、
前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、
前記繊維層において前記内周面と反対側の面に積層されたゴム層又は樹脂層と、
を有し、
前記ゴム又は樹脂を含浸させた前記繊維は、繊維をシート状に形成した伸縮性のある布からなり、前記ボールねじに使用される際に当該布の伸縮性を示す方向が前記雄型部材の軸方向と一致する、
ことを特徴とするシール材。
【請求項3】
外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、
前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、
が軸方向に嵌合されるボールねじに適用されるシール構造であって、
前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、
前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、
を有し、
前記ゴム又は樹脂を含浸させた前記繊維は、繊維をシート状に形成した伸縮性のある布からなり、前記ボールねじに適用される際に当該布の伸縮性を示す方向が前記雄型部材の軸方向と一致する、
ことを特徴とするシール構造。
【請求項4】
外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、
前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、
前記雌型部材の軸方向の一端部または/および他端部に設けられたシール材と、
を備え、前記雄型部材と前記雌型部材とが軸方向に嵌合されるボールねじであって、
前記シール材が、
前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、
前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、
前記繊維層において前記嵌合面と反対側の面に積層されたゴム層又は樹脂層と、
を有し、
前記シール材は、カバー部材を更に有し、
前記カバー部材は、
前記ゴム層又は前記樹脂層において前記繊維層が形成されている側の面と反対側の面に設けられた筒状部と、
前記筒状部の一端部に設けられ、前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層において前記雌型部材が形成されている側の面と反対側の面を覆うようにして構成されているリング部と、
前記筒状部の他端部に設けられ、前記筒状部及び前記リング部の各部材でカバーされた前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層を前記雌型部材の軸方向に関する端部に取り付ける取り付け部と、
が一体で成形されてなるものである、
ことを特徴とするボールねじ。
【請求項5】
請求項1に記載のボールねじにおいて、
前記シール材は、カバー部材を更に有し、
前記カバー部材は、
前記ゴム層又は前記樹脂層において前記繊維層が形成されている側の面と反対側の面に設けられた筒状部と、
前記筒状部の一端部に設けられ、前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層において前記雌型部材が形成されている側の面と反対側の面を覆うようにして構成されているリング部と、
前記筒状部の他端部に設けられ、前記筒状部及び前記リング部の各部材でカバーされた前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層を前記雌型部材の軸方向に関する端部に取り付ける取り付け部と、
が一体で成形されてなるものである、
ことを特徴とするボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業機械で用いられるボールねじ、該ボールねじに適用可能なシール材、及び、シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじ軸の外周にボールナットが嵌合されたボールねじ装置において、ボールナットの端部に、ボールねじ軸の周面に弾性的に接触するリップ部を有するリップ式シール部材を設けると共に、このリップ式シール部材の軸方向の外方側に、ボールねじ軸の外周に嵌合する筒状で、内周面にボールねじ軸のねじ溝に嵌合する突部を有するワイパー式シール部材を設けるようにしたものが公知となっている(特許文献1参照)。このボールねじ装置では、リップ式シール部材とワイパー式シール部材との併用によって、ボールねじ軸とボールナットとの間に微細な異物が侵入することが防止されている。
【0003】
一方、ボールねじ軸の外周面と同じ形状に成形したシール材が公知となっている(特許文献2参照)。このシール材は、ボールねじ軸を嵌合する際の摺動抵抗の低下を目的として、ボールねじ軸の外周面に、合成樹脂で成形した薄肉の摺動リングを設けるとともに、該摺動リングの外周面を、合成ゴムで成形したバックアップリングで締め付けることによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−304372号公報
【特許文献2】特開平1−275953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたボールねじ装置では、リップ式シール部材とワイパー式シール部材との併用によって、ボールねじ軸とボールナットとの間への異物の侵入を抑制できても、ボールねじ軸をシール部材に嵌合する際の摺動抵抗が増加し、摺動性が悪化するという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2で開示されたシール材では、合成樹脂に収縮性がないため、摺動リングをボールねじ軸の外周面に対して均一に沿わせることが難しく、さらに、合成ゴムで成形したバックアップリングで大きな締め付けを行うものであるため、たとえ摺動性の良い合成樹脂を使用したとしても、ボールねじ軸をシール材に嵌合する際の摺動抵抗が増加し、摺動性が悪化するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、雄型部材と雌型部材との間への微細な異物の侵入を効果的に抑制しつつ、雄型部材をシール材に嵌合する際の摺動抵抗を低減可能なボールねじ、シール材、及び、シール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明のボールねじは、外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、前記雌型部材の軸方向の一端部または/および他端部に設けられたシール材と、を備え、前記雄型部材と前記雌型部材とが軸方向に嵌合されるボールねじであって、前記シール材が、前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、前記繊維層において前記嵌合面と反対側の面に積層されたゴム層又は樹脂層と、を有
し、前記ゴム又は樹脂を含浸させた前記繊維は、繊維をシート状に形成した伸縮性のある布からなり、当該布の伸縮性を示す方向が前記雄型部材の軸方向と一致する、ことを特徴とする。
【0009】
上記(1)の構成によれば、雄型部材の雄溝と嵌合する繊維層を、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維を用いて構成することで、繊維同士をゴム又は樹脂によって接着し強固にまとめ上げることができ、ひいては繊維層の雄溝と嵌合可能な凸部の形状を維持することができるだけでなく、繊維雄型部材と雌型部材との間への微細な異物の侵入の抑制、及び、雄型部材と雌型部材とが相対的に軸方向に移動する際の摺動抵抗の低減といった、互いにトレードオフの関係にある両課題を同時に解決することができる。さらに、繊維層において孔が形成されている側と反対側の面に、繊維層の補強用のゴム層又は樹脂層を積層することで、さらに前記繊維層の凸部の形状が安定し、ボールねじ駆動の際の繊維層全体の変形を抑制できる。また、このゴム層又は樹脂層が積層されたことで、繊維層、及びゴム層又は樹脂層を雌型部材の一端部又は他端部に安定して固定することができる。
【0010】
(2) 本発明のシール材は、外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、が軸方向に嵌合されるボールねじに使用されるシール材であって、前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、前記繊維層において前記内周面と反対側の面に積層されたゴム層又は樹脂層と、を有
し、前記ゴム又は樹脂を含浸させた前記繊維は、繊維をシート状に形成した伸縮性のある布からなり、前記ボールねじに使用される際に当該布の伸縮性を示す方向が前記雄型部材の軸方向と一致する、ことを特徴とする。
【0011】
上記(2)の構成によれば、本発明のシール材を、外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、ボールを転動可能な複数の雌溝が雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、に適用しようとした場合、凸部が形成された嵌合面における繊維層を、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維を用いて構成することで、繊維同士をゴム又は樹脂によって接着し強固にまとめ上げることができ、ひいては繊維層の凸部の形状を維持することができ、雄型部材と雌型部材との間への微細な異物の侵入の抑制、及び、雄型部材と雌型部材とが相対的に軸方向に移動する際の摺動抵抗の低減といった、互いにトレードオフの関係にある両課題を同時に解決することができる。また、繊維層において孔が形成されている側と反対側の面に、繊維層の補強用のゴム層又は樹脂層を積層することで、さらに前記繊維層の凸部の形状が安定し、ボールねじ駆動の際の繊維層全体の変形を抑制することができる。また、このゴム層又は樹脂層が積層されたことで、繊維層、及びゴム層又は樹脂層を雌型部材の一端部又は他端部に安定して固定することができる。
【0012】
(3) 本発明のシール構造は、外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、が軸方向に嵌合されるボールねじに適用されるシール構造であって、前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、を有
し、前記ゴム又は樹脂を含浸させた前記繊維は、繊維をシート状に形成した伸縮性のある布からなり、前記ボールねじに適用される際に当該布の伸縮性を示す方向が前記雄型部材の軸方向と一致する、ことを特徴とする。
【0013】
上記(3)の構成によれば、凸部が形成された嵌合面における表面の繊維層を、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維を用いて構成することで、繊維同士をゴム又は樹脂によって接着し強固にまとめ上げることで繊維層の凸部の形状を維持することができる。また、雄型部材と雌型部材との間への微細な異物の侵入の抑制、及び、雄型部材と雌型部材とが相対的に軸方向に移動する際の摺動抵抗の低減といった、互いにトレードオフの関係にある両課題を同時に解決することができる。
(4) 本発明のボールねじは、
外周面にボールを転動可能な複数の雄溝が形成された雄型部材と、前記ボールを転動可能な複数の雌溝が前記雄溝と対向して形成された内周面を有するとともに、前記ボールを循環可能な循環経路が形成された雌型部材と、前記雌型部材の軸方向の一端部または/および他端部に設けられたシール材と、を備え、前記雄型部材と前記雌型部材とが軸方向に嵌合されるボールねじであって、前記シール材が、前記雌型部材の前記内周面と連通可能な孔と、前記孔に前記雄型部材が内挿されたときに前記雄型部材の前記雄溝と嵌合可能な凸部が形成された嵌合面を有し、少なくとも前記嵌合面の表面がゴム又は樹脂を含浸させた繊維からなる繊維層と、前記繊維層において前記嵌合面と反対側の面に積層されたゴム層又は樹脂層と、を有し、前記シール材は、カバー部材を更に有し、前記カバー部材は、前記ゴム層又は前記樹脂層において前記繊維層が形成されている側の面と反対側の面に設けられた筒状部と、前記筒状部の一端部に設けられ、前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層において前記雌型部材が形成されている側の面と反対側の面を覆うようにして構成されているリング部と、前記筒状部の他端部に設けられ、前記筒状部及び前記リング部の各部材でカバーされた前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層を前記雌型部材の軸方向に関する端部に取り付ける取り付け部と、が一体で成形されてなるものである、ことを特徴とする。
(5) 本発明のボールねじは、上記(1
)の構成を備えるボールねじにおいて、前記シール材は、カバー部材を更に有するものであり、前記カバー部材は、前記ゴム層又は前記樹脂層において前記繊維層が形成されている側の面と反対側の面に設けられた筒状部と、前記筒状部の一端部に設けられ、前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層において前記雌型部材が形成されている側の面と反対側の面を覆うようにして構成されているリング部と、前記筒状部の他端部に設けられ、前記筒状部及び前記リング部の各部材でカバーされた前記繊維層及び前記ゴム層、又は前記繊維層及び前記樹脂層を前記雌型部材の軸方向に関する端部に取り付ける取り付け部と、が一体で成形されてなるものである、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)本発明の一実施形態に係るボールねじの概略構成を示す斜視図の一例である。(b)本実施形態に係る雌型部材及びシール材の内部構造を示す説明図の一例である。
【
図2】本実施形態に係るボールねじの要部の分解斜視図の一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、
図1及び
図2を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るボールねじについて説明する。なお、
図1(b)において、一対で構成されていて特別に区別して説明する必要がないシール材4は、図面の簡略化を図るために、一方のシール材4(紙面左側のシール材)についてのみ各部位の符号を付し、もう一方のシール材4(紙面右側のシール材)については、各部位の符号を適宜省略することがあることを予め断わっておく。
【0016】
図1(a),(b)に示すように、ボールねじ1は、雄型部材2と、雌型部材3と、一対のシール材4と、を備えて構成されている。
【0017】
雄型部材2は、金属からなり、
図2(a)に示すように、棒状の本体部5と、本体部5の外周面6に形成された螺旋状の複数の雄溝7と、を有している。
【0018】
雌型部材3は、金属からなり、
図2(b)に示すように、筒状の筒状部8と、筒状部8の一端部に形成された板状の板状部9と、を有している。ここで、筒状部8及び板状部9は、一体で成形されている。
図1(b)に示すように、筒状部8及び板状部9の各内周面10,11には、複数の雌溝12が形成されている。各雌溝12は、上記雄溝7と同様に螺旋状に形成されており、
図1(b)に示すように、雄型部材2の雄溝7と互いに対向する位置に形成されている。また、
図1(b)に示すように、筒状部8の内部には、複数のボールBが循環可能な循環経路13が形成されている。そして、
図1(b)に示すように、雄溝7及び雌溝12の間には、上記循環経路13と連通可能な軌道Pが形成されている。この軌道P内には、複数のボールBが充填配置されている。
【0019】
本実施形態のボールねじ1では、雄型部材2と雌型部材3とが相対回転すると、ボールBが軌道P内を転動しつつ進み、循環経路13を経由して、元の位置に再び戻るという無限循環路が構成されており、ボールBの循環が繰り返される。そして、このようなボールBの循環によって、雄型部材2及び雌型部材3が、相対的に軸方向に移動するとともに、互いに嵌合可能となっている。なお、本実施形態の雄溝7は、その条数を4条とした所謂4条ねじ構造を有しており、この条数に合わせて、4つの循環経路13が形成されている。
【0020】
図1(b)に示すように、シール材4は、繊維層14と、樹脂層15と、カバー部材16とを備えて構成されている。
【0021】
繊維層14は、アラミド繊維、ナイロン、ウレタン、木綿、絹、麻、アセテート、レーヨン、フッ素を含む繊維、及び、ポリエステル等によって形成可能であって、ゴム又は樹脂で含浸処理されている。繊維の形状は、例えば短繊維形状や長繊維形状であってもよい。
【0022】
ゴム又は樹脂により繊維を含浸処理することで、繊維の間にゴム材又は樹脂材が入り込み、繊維同士を接着させてまとめあげ、繊維層14として機能させることが可能となる。また、繊維にゴム等が含浸されることにより、繊維同士の擦れによる摩耗が低減されると共に、さらには繊維層14と雄型部材2との間で発生する繊維層14表面の摩耗性のアップを図ることが可能となる。
【0023】
なお、ゴムは、繊維を含浸処理できるものであればよい。このゴムとしては、例えば、ウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロヒドリンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム等を単独で、又はこれらのゴムを各種変性処理したものを使用することができる。これらのゴムは、単独で使用することができるほか、複数種のゴムをブレンドして用いることもできる。また、ゴムには、加硫剤のほか、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、充填剤、及び、着色剤等の従来からゴムの配合剤として使用していたものを適量配合することができる。これら以外に、繊維層14の潤滑性を向上させるために、グラファイト、シリコンオイル、フッ素パウダー、又は二硫化モリブデン等の固体潤滑剤がゴムに含まれていてもよい。さらに、上記ゴムの代わりに、又は上記ゴムとともに、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PET樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂、又は熱硬化樹脂を用いることもできる。
【0024】
上記のゴム又は樹脂による繊維への含浸処理は、ゴム又は樹脂を溶剤等で溶解し液状とした後、所定の繊維(短繊維、長繊維や布)をディッピング処理する方法が好適に使用される。繊維層14の前駆体として、繊維をシート状に形成した布を使用することができる。この布のゴム又は樹脂の含浸処理の方法も上記と同様な方法で行われる。
【0025】
布を構成するものとしては、繊維を不規則にからめた不織布や、規則的に成形した織布や編布(ニット)等が挙げられる。これらの布は、繊維(短繊維や長繊維)のみから構成されたものと比べ、シート状であることから、ゴム等による含浸処理を行い易く(ハンドリングが容易)、さらにカバー部材16の表面にも接着し易いといった特徴を有する。なお、上記織布の織り方については、平織、朱子織、及び綾織等が用いられる。
【0026】
また、上記の布には、ある程度の伸縮性があるものがよい。布を雄溝7の形状に沿った形へ成型する場合、布に伸縮性があることで、布表面が雄溝7の形状に追従して馴染みやすく、出来上がった繊維層14の表面にシワ等が発生しにくく、表面が均一に仕上がるといった利点がある。その結果、雄型部材2とシール材4との嵌合を滑らかなものとすることができる。さらに、雄型部材2とシール材4との間で発生する摺動抵抗を低減することができる。特に、布の伸縮性を示す方向は、少なくとも円筒状の繊維層14の高さ方向(ボールねじの軸方向)と一致するように繊維層14を製造することで、上記のシワ等の発生をより一層抑えることが可能となる。
【0027】
繊維層14は、
図2(c)に示すように、孔14aを有した筒状の層である。そしてこの孔14bは、
図1(b)に示すように、雌型部材3の各内周面10,11と連通している。また、繊維層14は、
図1(b)に示すように、孔14aを取り囲む位置に設けられた内周面(嵌合面)14bと、該内周面14bに形成された凸部14cとを有している。この凸部14cは、孔14aに雄型部材が内挿されたときに、雄型部材2の雄溝7と嵌合可能な部位である。
【0028】
樹脂層15は、例えば、ウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロヒドリンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム等を単独で、又はこれらのゴムを各種変性処理したものやアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PET樹脂、及び、フッ素樹脂等を使用することができる。
【0029】
樹脂層15は、繊維層14の外周部を挿入可能な孔を有した筒状の層であって、
図1(b)に示すように、繊維層14において内周面14bが形成されている側と反対側の面14dに積層されて構成されている。
【0030】
また、樹脂層15の外周部にバックアップリングを取り付けることも可能である。この場合、繊維層内周面14bに内圧を掛けることでシール性を高めることができる。バックアップリングは、Oリング、ガータスプリング等、繊維層内周面14bに内圧を加えられる構造であり、摺動性とのバランスから適量な内圧を発生させる種類を選定することが望ましい。
【0031】
カバー部材16は、例えば、プラスチック又は金属からなり、
図2(c)に示すように、筒状部16aと、リング部16bと、リング状の取り付け部16cと、を有している。ここで、筒状部16a、リング部16b、及び、取り付け部16cは、一体で成形されている。
【0032】
また、繊維層14または樹脂層15とカバー部材16とを接着させる接着剤は、例えばアクリル樹脂系接着剤、オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコン系接着剤、スチレン−ブタジエンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ホットメルト接着剤、フェノール樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤等があり、接着剤を加熱融解した状態にして流動性を付与した上で塗布し冷却することにより硬化・接着する方法や、接着剤を加熱することで硬化・接着させる方法等がある。接着させる面は、例えばカバー部材の筒状部16aと樹脂層15との接触面や、リング部16bと樹脂層15との接触面などが考えられる。
【0033】
筒状部16aは、
図1(b)に示すように、樹脂層15において繊維層14が形成されている側の面15aと反対側の面15bに設けられている。リング部16bは、
図1(b)に示すように、筒状部16aの一端部に設けられている。リング部16bは、
図1(b)に示すように、繊維層14及び樹脂層15において雌型部材3が形成されている側の面14e,15cと反対側の面14f,15dを覆うようにして構成されている。
【0034】
取り付け部16cは、
図1(b)に示すように、筒状部16aの他端部に設けられている。取り付け部16cは、筒状部16a及びリング部16bの各部材でカバーされた繊維層14及び樹脂層15を、雌型部材3の軸方向に関する両端部に、締結部材(図示せず)を用いて取り付け可能に構成されている。
【0035】
カバー部材16の形状は、雌型部材3の軸方向の端部に取り付けできる形状であれば、この形状に限定されない。たとえば、雌型部材3の軸方向の端部に彫り込みを設け、この部分に繊維層14、樹脂層15を入れ込み、雄型部材2が入る孔の空いた板状のカバー部材と樹脂層15の側面を接着し、雌型部材3の軸方向の端部の両方または片方に、締結部材(図示せず)を用いて取り付けても良い。
【0036】
また、上記のように雌型部材3の軸方向の端部に彫り込みを設け、この部分に繊維層14、樹脂層15を入れ込んで、雌型部材3の筒状部8、または板状部9の外周部からこの樹脂層15に向けて固定ネジ(図示せず)を打ち込み固定した場合、カバー部材16が不要となる場合もありうる。
【0037】
ここで、シール材4の製法の一例としては、ゴム等を含浸させたシート状の織布を雄型部材2の外周面6に巻き付けて、繊維層14の前駆体層を形成する工程、シート状の樹脂を繊維層14の前駆体層の外周面に巻き付けて、樹脂層15の前駆体層を形成する工程、樹脂層15の前駆体層の外周面に適度な圧力を加えて、繊維層14の前駆体層の内周面に凸部14cを形成する工程、繊維層14及び樹脂層15の各前駆体層を、雄型部材2の周方向に回動させて雄型部材2から抜き出す工程、繊維層14及び樹脂層15の各前駆体層をドーナツ状に切断して、繊維層14及び樹脂層15を製造する工程、繊維層14及び樹脂層15に接着剤を用いてカバー部材16を貼り付ける工程、を順次行うことによる製法を挙げることができる。当然、カバー部材が不要な場合は、カバー部材を貼付ける工程は不要となる。
【0038】
(本実施形態に係るボールねじの特徴)
上記構成によれば、雄型部材2の雄溝7と嵌合する繊維層14を、ゴム等を含浸させた織布を用いて構成することで、雄型部材2と雌型部材3との間への微細な異物の侵入の抑制、及び、雄型部材2と雌型部材3とが相対的に軸方向に移動する際の摺動抵抗の低減といった、互いにトレードオフの関係にある両課題を同時に解決することができる。また、繊維層14をゴム等で含浸処理したことで、繊維層14と雄型部材2との間で発生する繊維層14表面の摩耗性を向上することができる。さらに、繊維層14において孔14aが形成されている側の面14bと反対側の面14dに、繊維層14の補強用の樹脂層15を積層することで、カバー部材16を用いて、繊維層14及び樹脂層15を雌型部材3の両端部に安定して取り付けることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないことは言うまでもない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0040】
例えば、上記実施形態では、一対のシール材4を雌型部材3の軸方向の両端部に取り付ける例について述べたが、本発明はこれに限定されず、使用環境に応じて、シール材4が雌型部材3の軸方向に関する両端部のいずれか一方に取り付けられるものであってもよい。
【0041】
上記実施形態では、雄型部材2の雄溝7が所謂4条ねじ構造を有する例について述べたが、本発明はこれに限定されず、雄溝7の条数は、ボールねじ1の使用状況に応じて変更することができる。
【0042】
また、上記実施形態では、繊維層14の繊維をゴム等で含浸処理する例について述べたが、本発明はこれに限定されず、ゴム等で含浸処理することができるとともに金属面との間での摺動抵抗が低い繊維であれば良く、また繊維をシート状に形成した布を用いて繊維層14を形成しても良い。例えば、ゴム等で含浸処理された帆布、ベルベット、デニム、織布、編布を採用することができる。また、縦横一方に伸縮する、または縦横両方に伸縮する繊維を採用しても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 ボールねじ
2 雄型部材
3 雌型部材
4 シール材
5 本体部
6 外周面
7 雄溝
8 筒状部
9 板状部
10、11 内周面
12 雌溝
13 循環経路
14 繊維層
14a 孔
14b 内周面(嵌合面)
14c 凸部
14d〜14f、15a〜15d 面
15 樹脂層(ゴム層)
16 カバー部材
16a 筒状部
16b リング部
16c 取り付け部
B ボール
P 軌道