特許第6045851号(P6045851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045851
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
   D06F 33/02 20060101AFI20161206BHJP
   H02P 6/08 20160101ALI20161206BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20161206BHJP
【FI】
   D06F33/02 E
   H02P6/08
   H02P6/16
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-184189(P2012-184189)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-39724(P2014-39724A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細糸 強志
(72)【発明者】
【氏名】柴野 勇介
(72)【発明者】
【氏名】前川 佐理
【審査官】 栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−024370(JP,A)
【文献】 特開平09−024829(JP,A)
【文献】 特開2007−244141(JP,A)
【文献】 特開平06−156064(JP,A)
【文献】 特開平04−105584(JP,A)
【文献】 特開2003−289687(JP,A)
【文献】 特開平11−169582(JP,A)
【文献】 特開2005−312570(JP,A)
【文献】 特開2005−312569(JP,A)
【文献】 特開2006−127455(JP,A)
【文献】 特開2003−219676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/02
H02P 6/08
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転槽の内底部に配置される撹拌翼を回転させる永久磁石型モータと、
このモータを駆動するインバータ回路と、
このインバータ回路を構成する下側スイッチング素子とグランドとの間に挿入される電流検出抵抗と、
この電流検出抵抗の端子電圧のピーク値を検出するピークホールド回路と、
前記インバータ回路を構成する各スイッチング素子に、電圧・位相制御に基づき生成したPWM信号を出力する際に、前記ピークホールド回路により得られるピーク値をA/D変換して基準値と比較し、前記ピーク値が前記基準値を上回ると、その上回る差の大きさに応じて前記PWM信号のデューティを段階的に減少させる制御回路とを備えたことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
前記制御回路は、前記ピーク値が前記基準値を下回ると、その下回る差の大きさに応じて前記PWM信号のデューティを上昇させるように制御し、その上昇させる幅値の段階数を、前記デューティを減少させる際の段階数よりも少なくしていることを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
前記電流検出抵抗の端子電圧を、閾値電圧と比較するコンパレータを備え、
前記閾値電圧は、前記制御回路が前記PWM信号のデューティを制御するための基準値よりも大きな値に設定され、
前記制御回路は、前記コンパレータの出力信号に基づき異常電流が流れたと判定すると、前記PWM信号の出力を停止することを特徴とする請求項1又は2記載の洗濯機。
【請求項4】
コンパレータが2回路内蔵されているICを用い、
前記2つのコンパレータの1つを前記異常電流の検出用に使用し、他の1つを、前記ピークホールド回路を構成するために使用することを特徴とする請求項3記載の洗濯機。
【請求項5】
前記モータのロータ回転位置を検出し、センサ信号を出力する位置センサを備え、
前記制御回路は、前記センサ信号に基づいて、前記PWM信号により正弦波状の電圧を前記モータに出力することを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転槽の内底部に配置される撹拌翼を回転させる永久磁石型モータを備えてなる洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗濯機のモータ制御においては、モータの出力トルクが変動することによる不快な振動や騒音の発生を抑制すると共に、効率の向上を図る目的で正弦波通電を行っている。また、最近では、モータの各相電流を検出してベクトル制御を行い、効率の更なる向上を図る技術も普及している。例えば特許文献1には、モータの相電流を検出する電流センサを用いることなく、効率的な制御を行う技術の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−4450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ベクトル制御を行う構成では、モータの相電流を検出するための電流センサや、高速で演算処理を行うことができる例えば32ビットのマイクロコンピュータや、当該マイコンの消費電流に対応した電源回路が必要となり、複雑かつ大型で高価なものになりがちであった。特許文献1では、モータの相電流を検出せず、ベクトル制御を行うことなく効率の向上を図る制御技術が開示されている。この技術によれば、ベクトル制御に比較すると演算処理負荷は低いと思われるが、それに替えて力率や無効電流等を演算しているため、やはりマイクロコンピュータの性能がある程度必要となる。
【0005】
例えば、ベクトル制御が導入される以前に一般的に使用されていた電圧・位相制御であれば、検出した電流に基づくフィードバック制御を行わないので、8ビット程度のマイコンでも、十分に対応できる。しかし、電圧・位相制御は精度に問題がある。
また、高価な永久磁石を使用するモータについて低コスト化を図る手段として、モータの極数を増やすことが考えられる。極数が増えた分だけ、ロータに配置する永久磁石の厚さをより薄くすることができ、磁石の総量を削減できるからである。ところが、モータの極数を増やすと制御周波数が上昇するので、特に位相制御を高い精度で行わなければ脱調するおそれがある(特許文献1の制御対象は、8極のモータである)。
【0006】
加えて、極数が多いモータについては、より高い電圧(PWM制御の場合、より大きなデューティ)を印加する必要がある。そのため、洗濯機の運転中においてモータの回転が急激に低下すると、制御電流が過剰に流れる傾向にある。これらの問題から、総じて低コスト化を図ることが困難であった。
そこで、モータの相電流を検出することなく、処理負荷が小さい演算によって高精度の制御を行うことができる洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の洗濯機によれば、インバータ回路を構成する下側スイッチング素子とグランドとの間に電流検出抵抗を挿入し、制御回路は、電流検出抵抗の端子電圧のピーク値をピークホールド回路を介して読み込む。そして、インバータ回路を構成する各スイッチング素子に、電圧・位相制御に基づき生成したPWM信号を出力する際に、ピークホールド回路により得られるピーク値をA/D変換して基準値と比較し、ピーク値が基準値を上回ると、その上回る差の大きさに応じてPWM信号のデューティを段階的に減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態であり、モータの駆動制御系を示す図
図2】全自動洗濯機の全体構成を示す縦断面図
図3】電圧・位相制御における電圧を決定する処理を示すフローチャート
図4】電流のオーバー値に応じて電圧指令DUTYを決定するテーブルを示す図
図5】電圧指令の一例を説明する図
図6】ロータの電気角とセンサ信号A,Bとの関係を示す図
図7】正弦波駆動の内容を示すタイミングチャート
図8】モータの出力トルクと回転数及び最適な進み位相量の関係を示す図
図9】センサ信号A,Bのエッジ出力間隔と、推定されるモータの回転数及び回転数に応じて付与すべき進み位相量を示す図
図10】位相制御の内容を示すフローチャート(その1)
図11】位相制御の内容を示すフローチャート(その2)
図12】洗い・濯ぎ運転のタイミングチャート
図13】進み位相量を一定とした場合の図12相当図
図14】水跳ね防止制御を説明する図
図15】第2実施形態を示す図11相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、縦軸形の全自動洗濯機に適用した第1の実施形態につき、図1ないし図14を参照して説明する。まず、図2は、全自動洗濯機1の全体構成を示す縦断面図である。すなわち、全体として矩形状をなす外箱2内には、水受槽3が、4組(1組のみ図示)の防振機構4を介して弾性支持されている。この場合、防振機構4は、上端が外箱2内において上方に係止された吊り棒4aと、その吊り棒4aの他端側に取り付けられた振動減衰用のダンパー4bとを含んで構成されている。これらの防振機構4を介して水受槽3が弾性支持されることにより、洗濯運転時に発生する振動が外箱2に極力伝達されないようにしている。
【0010】
上記水受槽3内には、洗濯槽兼脱水槽用の回転槽5が配設されており、この回転槽5の内底部には、撹拌体(パルセータ)6が配設されている。上記回転槽5は、槽本体5aと、この槽本体5aの内側に設けられた内筒5bと、これらの上端部に設けられたバランスリング5cとから構成されている。そして、この回転槽5が回転されると、内部の水を回転遠心力により揚水して槽本体5aの上部の脱水孔5dから水受槽3内に放出するようになっている。
【0011】
また、回転槽5の底部には、通水口7が形成されており、この通水口7は、排水通路7aを通して排水口8に連通されている。そして、排水口8には、排水弁9を備えた排水路10が接続されている。従って、排水弁9を閉塞した状態で回転槽5内に給水すると、回転槽5内に水が貯溜され、排水弁9を開放すると、回転槽5内の水は排水通路7a、排水口8および排水路10を通じて排出されるようになっている。
水受槽3の底部には、補助排水口8aが形成されており、この補助排水口8aは、図示しない連結ホースを介し前記排水弁9をバイパスして前記排水路10に接続され、前記回転槽5が回転したときに、その上部から水受槽3内に放出された水を排出するようになっている。
【0012】
また、前記水受槽3の外底部には、機構部ハウジング11が取付けられており、この機構部ハウジング11には、中空の槽軸12が回転自在に設けられ、この槽軸12には、回転槽5が連結されている。また、槽軸12の内部には、撹拌軸13が回転自在に設けられており、この撹拌軸13の上端部には、撹拌体6が連結されている。そして、撹拌軸13の下端部は、アウタロータ形のDCブラシレスモータ14(永久磁石型モータ,以下、単にモータと称す)のロータ14aに連結されている。このモータ14は、洗い時には、撹拌体6を直接正逆回転駆動するようになっている。
【0013】
また、モータ14は、脱水時には、図示しないクラッチにより槽軸2と撹拌軸13とが連結された状態で、回転槽5および撹拌体6を一方向に直接回転駆動するようになっている。従って、本実施形態では、モータ14の回転速度は、洗い時には撹拌体6のそれと同一になり、脱水時には回転槽5および撹拌体6のそれと同一になる、いわゆる、ダイレクトドライブ方式が採用されている。
【0014】
図1は、モータ14の駆動制御系を示す機能ブロック図である。インバータ回路21は、6個のIGBT(半導体スイッチング素子)22a〜22fを三相ブリッジ接続して構成されており、各IGBT22a〜22fのコレクタ−エミッタ間には、フライホイールダイオード23a〜23fが接続されている。下アーム側のIGBT22d、22e、22fのエミッタは、シャント抵抗(電流検出抵抗)24を介してグランドに接続されている。また、IGBT22d、22e、22fのエミッタとシャント抵抗24との共通接続点は、抵抗素子25及びコンデンサ26を介してグランドに接続されている。そして、抵抗素子25及びコンデンサ26の共通接続点は、ピークホールド回路27の入力端子及びコンパレータ28の反転入力端子に接続されている。
【0015】
ピークホールド回路27は、コンパレータ29を用いて構成されているが、このコンパレータ29は、コンパレータ28と共にIC30(コンパレータ2回路入り)に内蔵されているものである。尚、これらのコンパレータ28,29の出力は、オープンコレクタタイプである。
【0016】
コンパレータ2の非反転入力端子は、抵抗素子25に接続されていると共に、コンデンサ32を介してグランドに接続されている。これらはRCフィルタを構成している。また、コンパレータ2の反転入力端子は、抵抗素子33及び34を介してグランドに接続されている。コンパレータ2の出力端子は、抵抗素子35を介して5V電源にプルアップされていると共に、ダイオード36及びコンデンサ37を介してグランドに接続されている。そして、ダイオード36のカソードは、抵抗素子38を介して抵抗素子33及び34の共通接続点に接続されていると共に、制御回路39の入力端子に接続されている。
【0017】
5V電源とグランドとの間には、抵抗素子40及び41の直列回路が接続されており、両者の共通接続点は、コンパレータ28の非反転入力端子に接続されている。コンパレータ28の出力端子は、抵抗素子42を介して5V電源にプルアップされていると共に、コンデンサ43を介してグランドに接続され、更に制御回路39の入力端子に接続されている。コンパレータ28の出力信号は過電流検出に基づく緊急停止信号となり、制御回路39は、緊急停止信号の入力があるとインバータ回路21に対するPWM信号の出力を停止する。
【0018】
モータ14には、ロータの回転位置を検出する位置センサ44(A,B)が配置されている。位置センサ44は例えばホールICで構成され、位相が90度異なる2相信号を出力する(図6参照)。位置センサ44Aが出力するセンサ信号(位置信号)の立ち上がりエッジがロータ14aの電気角0度に対応している。センサ信号の出力端子は、夫々NOTゲート45A,45Bを介して制御回路39の入力端子に接続され、NOTゲート45A,45Bの出力端子は、コンデンサ46A,46Bを介してグランドに接続されている。
【0019】
インバータ回路21の入力側には駆動用電源回路47(直流電源回路)が接続されている。駆動用電源回路47は、100Vの交流電源48を、ダイオードブリッジで構成される全波整流回路49及び直列接続された2個のコンデンサ50a,50bにより倍電圧全波整流し、約280Vの直流電圧をインバータ回路21に供給する。インバータ回路21の各相出力端子は、モータ14の各相巻線14u,14v,14wに接続されている。
【0020】
第1電源回路51は、インバータ回路21に供給される約280Vの駆動用電源を降圧して15V電源を生成すると、制御回路39及び駆動回路52に供給する。また、第2電源回路53(制御電源回路)は、上記駆動用電源を降圧して5Vの制御用電源を生成し、制御回路39に供給する三端子レギュレータである。高圧ドライバ回路54は、インバータ回路21における上アーム側のIGBT22a〜22cを駆動するために配置されている。
【0021】
また、駆動用電源回路47の出力端子(インバータ回路21の正側直流母線)とグランドとの間には、抵抗素子55a,55bの直列回路が接続されており、両者の共通接続点は、制御回路39の入力端子に接続されている。制御回路39は、例えば8ビットのマイクロコンピュータで構成され、電圧・位相制御を行うことで電圧率が正弦波状に変化する三相上下分のPWM信号を生成する。そして、それらのPWW信号を、駆動回路52及び上側については高圧ドライバ回路54を介して、インバータ回路21を構成する各IGBT22a〜22fのゲートに出力する。
【0022】
次に、本実施形態の作用について説明する。
<位相制御>
先ず位相制御について図6ないし図14を参照して説明する。制御回路39に対しては、センサ信号A,Bのエッジで割り込みが発生する。そのエッジの出力間隔をカウントすれば、電気角90度に相当する時間が得られる(図7(a),(b)参照)。そこで、制御回路39は、電気角90度に相当する時間を得ると共に、上記割り込みとは別に、PWM制御に用いる搬送波の周期毎に発生する割り込みのタイミングで、正弦波状に変化する電圧の通電するためのタイミングとなる詳細な位相を求めて通電を行う(詳細については、例えば特開平9−74790号公報参照,図7は前記公報の図8相当図)。また、上記エッジの出力間隔より、モータ14の回転数を求めることができる。
【0023】
図8は、モータ14の出力トルクと回転数(回転速度)及び通電制御を行う際に付与すべき最適な進み位相量の関係を示すものである。モータ14の巻線14u〜14wはインダクタンス成分を有しているので、モータの回転数が高くなるほど電圧位相に対して電流位相が遅れる傾向を示す。したがって、電圧位相をより進めるように調整することで、より大きな出力トルクを得ることができる。尚、モータ14の構成は、48極/36スロットである。
【0024】
例えば洗濯機の洗い運転では、撹拌体6の最高回転数が150rpm程度になる。この場合、必要となる出力トルクが13N・m程度までは、一定の進み位相量を与えることで回転数150rpmを維持できる。しかし、出力トルクが13N・mを超えると、進み位相量を徐々に増加させて回転数150rpmを維持する必要がある。尚、図7(f)に示すPrが進み位相量である。
【0025】
図9は、センサ信号A,Bのエッジ出力間隔[m秒]と、その間隔より推定されるモータ14の回転数[rpm]及び回転数に応じて(誘起電圧の位相0度を基準として)付与すべき進み位相量[deg]を示す。回転数が60rpmまでは一定の位相量:28度とし、60rpmを超えると次第に位相量を増加させる。そして、90rpmを超えると位相量を48度で頭打ちとする。
【0026】
図10は、制御回路39が図9に示すように位相制御を行うための処理内容を示すフローチャートである。この処理は、例えば20m秒周期で割り込みが発生する毎に実行される。先ず、位相補正値をゼロに設定すると(S1)、後述する図11に示す処理で設定される「センサ異常」の有無を判定する(S2)。ここでセンサ異常がなければ(YES)、変数「位相」を28[deg]に設定してから(S3)以降のステップS4〜S7の判断を行う。
【0027】
制御回路39は、ステップS4〜S7において、センサ信号A,Bのエッジ出力間隔が10.4m秒以上か否か(S4),8.9m秒以上か否か(S5),7.8m秒以上か否か(S6),6.9m秒以上か否か(S7),…というように各区間に分類するための判断を行う。これらは図6に示すように、推定されるモータ14の回転数が60rpm以下,61rpm以上〜70rpm以下,71rpm以上〜80rpm以下,81rpm以上〜90rpm以下の区間に対応している。
【0028】
ステップS4〜S7の何れかで「YES」と判断すれば位相補正値をそれぞれ「0,2,12,17」に設定する(S10〜S13)。また、ステップS7で「NO」と判断すると、位相補正値を「20」に設定する(S8)。
そして、ステップS9では「位相」に位相補正値を加えたものを「位相」とする。これにより、図6に示すテーブルと同様に進み位相量が設定される。また、ステップS2で「NO」と判断した場合は、「位相」を「28」に、位相補正値を「0」に設定する(S14,S15)。
【0029】
図11は、位置センサの異常判定処理内容を示すフローチャートであり。この処理は、例えば1m秒周期で割り込みが発生する毎に実行される。先ず、現在の位置センサ値と、前回の位置センサ値とが異なるか否かを判断する(S41)。図6に示すようにセンサ信号A,Bの値は、電気角90度毎に「10」,「11」,「01」,「00」に変化する。現在と今回とで位置センサ値が異なれば(YES)位置センサ44に「異常なし」と判断し(S42)、異常判定用の位置センサカウンタをリセットし(S43)、図示しない洗濯機の運転行程を制御するメインルーチンにリターンする。
【0030】
一方、ステップS41において、現在と今回とで位置センサ値が等しい場合は(NO)上記位置センサカウンタをカウントアップして(S44)、そのカウンタ値が「12」(所定時間に相当)以上となったか否かを判断する(S45)。カウンタ値が「12」未満であれば(NO)そのままリターンし、カウンタ値が「12」以上であれば(YES)位置センサに「異常あり」とするフラグをセットして(S46)リターンする。「異常あり」の場合、モータ14の回転数は52rpm以下となっている。そして、カウンタ値が「12」に達する前に位置センサ値が変化すれば、ステップS43でカウンタ値がリセットされる。
【0031】
図12は、上述した位相(PHASE)制御と共にPWM信号のデューティ(DUTY)を制御して行う洗い・濯ぎ運転のタイミングチャートである。デューティについては、各運転の水流パターンに応じて決定されている(c)。回転方向については、正転,反転を交互に繰り返す(a)。また、正転,反転を切り換える際に、撹拌翼6;モータ14の回転を一端停止させる「位置決め」を行う(b)。
【0032】
そして、進み位相量については、回転数60rpmまでは28度を付与し、60rpmを超えて150rpmに至るまでは28度から48度まで順次増加させるように制御する(d,e)。尚、実際のモータ14の回転数は負荷の変動に応じて変動するが(e)では単純化して示している。図13は比較のため、モータの回転数にかかわらず一定の進み位相量を付与した場合の制御例であり、回転数を十分に上昇させることができない。
【0033】
図14は、フローチャートに現わしていないが、洗い運転等において所謂「水跳ね」の発生を防止する制御を示す。(a)に示すように通常の運転状態であれば、最高回転数は150rpm程度に維持されるが、例えば一時的に負荷が軽減されることで突発的に回転数が上昇することがある。その様な運転状態になると、回転槽内5の水が跳ねるおそれがある。そこで、検出される回転数が170rpmを超えると異常と判定し、モータ14の駆動をオフさせる(b)。更に、前記異常が各水流時限期間(正転又は反転動作の何れ一方向の回転)中に例えば合計4回発生すると、PWM信号のデューティを低下させるようにして「水跳ね」の発生を防止する。
【0034】
<電圧制御>
次に、電圧制御について図3ないし図5を参照して説明する。図3は、電圧・位相制御における電圧:DUTYを決定する処理を示すフローチャートであり、この処理は、例えば1m秒周期で実行される。制御回路39は、ピークホールド回路27の出力信号をA/D変換して読み込むと(S51)、そのピークホールド値(以下、検出電流値と称す)を電流制御用の閾値(例えば、電流7.5Aに相当する値)と比較する(S52)。そして、検出電流値が閾値以上であれば「過電流フラグ」を「H」にセットする(S53)。すなわちここでは、検出電流値が閾値以上となった状態を「過電流」と称している。
【0035】
この場合、PWM制御におけるDUTYの設定が過大であると判断されるので、続くステップS54においてDUTYを減少させるように制御する。つまり、検出電流値と閾値との差(以下、オーバー値と称す)を求め(S52で求めておいても良い)、オーバー値の大きさに応じて減少させる度合いを変化させる。すなわち、図4(a)に示すように、オーバー値が0.4A以下であればDUTYは減少させず、現状の値を維持する。また、1.6A以下であれば4%,2.4A以下であれば6%,3.2A以下であれば8%,3.6A以下であれば12%,4.0A以下であれば20%,4.0Aを超えると24%といったように、減少幅を複数段階にする。
【0036】
続くステップS55において、上記のようにDUTYを減少させた結果、DUTYが予め定めた最小値を下回る場合は(YES)、DUTYを最小値に固定する(S56)。最小値を下回らなければ(NO)処理を終了する(メインルーチンにリターンする)。
【0037】
一方、ステップS52において、検出電流値が閾値未満であれば「過電流フラグ」が「H,L」の何れかを判断する(S57)。「過電流フラグ」が「L(リセット)」であれば、特に処理を行う必要はないのでそのまま終了する。「過電流フラグ」が「H」であればDUTYを増加させるが(S58)、増加については、減少の場合のように増加値が複数段階に設定されておらず、図4(b)に示すように常に8%とする。
【0038】
それから、この段階で、ステップS58で増加させた実際のDUTYが、図3に示す処理で決定された指令DUTY以上となったか否かを判断し(S59)、指令DUTY未満であれば(NO)そのまま処理を終了する。また、指令DUTY以上であれば(YES)、実際に出力するDUTYを指令DUTYに固定する(一致させる)。そして、「過電流フラグ」を「L」にすると(S60)処理を終了する。
【0039】
図5は、図3に示す処理に対応する検出電流値及びDUTYの変化の一例を示すものである。図中に示す丸数字は、図3に示す同じ丸数字の処理部分に対応している。検出電流値が閾値を超えることなく、指令DUTYと実DUTYとが一致している期間は(3)「過電流検出なし」であり、検出電流値が閾値を超えたことで実DUTYを減少させている期間は(1)「DUTY減少処理部」である。また、実DUTYを増加させている期間は(2)「DUTY復帰処理部」である。
図5(a)に示すように、検出電流値が閾値を超えることで指令DUTYに対して実際のDUTYが低下し、両者が乖離すると、検出電流値が閾値を超え内容に抑制を図りつつ両者を一致させるように制御が行われる。
【0040】
以上のように本実施形態によれば、インバータ回路21を構成するIGBT22d〜22fのエミッタとグランドとの間にシャント抵抗24を挿入し、制御回路39は、シャント抵抗24の端子電圧のピーク値をピークホールド回路27を介して読み込む。そして、インバータ回路21を構成する各IGBT22に、電圧・位相制御に基づき生成したPWM信号を出力する際に、ピークホールド回路27により得られるピーク値をA/D変換して基準値と比較し、ピーク値が基準値を上回ると、その上回る差の大きさに応じてPWM信号のデューティを段階的に減少させるようにした。
【0041】
すなわち、ピークホールド回路27により、シャント抵抗24の端子電圧値がホールドされるので、動作速度が遅いマイコンで構成される制御回路39でも、確実にA/D変換を行って電圧値を読み込むことができる。そして、極数が多いモータ14を高い周波数で駆動制御する洗濯機の運転中に、モータ14の回転が急激に低下することで制御電流が過剰に流れる傾向を示す場合でも、制御回路39がPWM信号のデューティを適切に制御して電流が過剰に流れることを防止できる。これにより、モータ14を構成する永久磁石の減磁を防止し、インバータ回路21を構成するIGBT22の温度が上昇することを抑制して不具合や故障の発生を防止できる。
【0042】
この場合、制御回路39は、前記ピーク値が前記基準値を下回ると、その下回る差の大きさに応じてPWM信号のデューティを上昇させるように制御し、その上昇させる幅値の段階数を、デューティを減少させる際の段階数よりも少なくするので、電流の抑制制御を高い精度で行うことができ、例えばモータ14の出力トルクが不足しないように制御できる。
【0043】
そして、シャント抵抗24の端子電圧を、コンパレータ28により閾値電圧と比較する際に、その閾値を、制御回路39がPWM信号のデューティを制御するための基準値よりも大きな値に設定し、制御回路39は、コンパレータ28の出力信号に基づき異常電流が流れたと判定するとPWM信号の出力を停止する。したがって、過電流保護についても適切に行うことができる。
また、IC30に内蔵されるコンパレータ28を異常電流の検出用に使用し、コンパレータ29を利用してピークホールド回路27を構成するので、1つのIC30を用いて過電流保護と電流抑制制御とを行うことができ、回路の小型化,低コスト化に資することができる。
【0044】
更に、制御回路39は、複数の位置センサ44A,44Bが永久磁石モータ14のロータ回転位置を検出して出力するセンサ信号A,Bに応じて通電パターンを決定し、インバータ回路21にPWM信号を出力し、モータ14を交互に正反転させる洗い又は濯ぎ運転時において、センサ信号A,Bに基づき検出されるモータ14の回転数に応じて、通電パターンの位相を所定量だけ進めるように制御する電圧・位相制御を行う。その際に、制御回路39は、モータ14の回転数を、位置センサ44A,44Bよりそれぞれ出力されるセンサ信号A,Bの出力間隔より検出するようにした。これにより、極数が多いモータ14を、8ビット程度のマイクロコンピュータで構成される制御回路39により電圧・位相制御する際に、位相制御の精度を高めてモータ14の運転効率を向上させることが可能となる。
【0045】
また、制御回路39は、センサ信号A,Bの出力間隔を補間して得られるタイミングに基づいて、通電パターンにより正弦波状の電圧をモータ14に出力する。したがって、低コストで簡単な構成においても、制御精度を高めることでモータ14を正弦波駆動できる。更に、制御回路39は、センサ信号A,Bが所定時間以上検出されないときは、通電パターンの進み位相量を、モータ14の回転数が最低速領域に属する場合に対応する値に設定する。これにより、モータ14の負荷が急激に増加することで回転数が大幅に低下した場合でも、出力トルクを維持できる。
【0046】
(第2実施形態)
図15は第2実施形態を示す図11相当図であり、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。第2実施形態では、ステップS47,S48が追加されている。ステップS44の実行後に、センサ信号A,Bの出力間隔が10.4m秒(所定の閾値)以上(回転数60rpm以下)か否かを判断し(S47)、10.4m秒以上であれば(YES)ステップS45に移行する。一方、10.4m秒未満であれば(NO)、ステップS45における「12」に替えて位置センサカウンタの値が「4」以上か否かを判断し(S48)、「3」以下であれば(NO)リターンし、「4」以上であれば(YES)ステップS46に移行する。
【0047】
すなわち、ステップS47で「NO」と判断した場合は、直前に検出されていたモータ14の回転数が60rpm以上であり、回転数が比較的高い状態から急激に低下した状態にあると推察され、異常が発生している可能性が高い。したがって、この場合は、位置センサ異常をより短い時間で判定する。
【0048】
以上のように第2実施形態によれば、制御回路39は、直前に検出されたセンサ信号A,Bの出力間隔が10.4m秒よりも短いときはセンサ異常を判定するカウンタのカウント値を短く設定し、前記出力間隔が10.4m秒以上であれば前記カウント値を長く設定するようした。したがって、直前に検出されていたモータ14の回転数がある程度高い状態にあった場合は、位置センサ異常判定をより短時間で行うことができる。
【0049】
本発明のいくつか実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0050】
電圧制御において、検出電流に対する閾値の電流値や、DUTYの減少値,増加値については適宜変更して良い。また、増加値を複数設定しても良い。
必ずしもIC30を用いる必要はない。
ピークホールド回路は、オペアンプを用いて構成しても良い。
位置センサの数は、3つ以上でも良い。
【0051】
モータ14の構成は、48極/36スロットに限ることはない。
制御回路39は、必ずしも8ビットのマイクロコンピュータで構成する必要はない。
ステップS45,S48における所定時間相当のカウンタ値については、適宜変更して良い。
図4に示すオーバー値とデューティの増減値との関係は一例であり、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
また、図9に示すモータの回転数と、回転数に応じて付与すべき進み位相量との関係についても同様であり、適宜変更して実施すれば良い。
第2実施形態における所定の閾値も、適宜変更して良い。
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は全自動洗濯機、5は回転槽、6は撹拌翼、14はDCブラシレスモータ(永久磁石型モータ)、14aはロータ、21はインバータ回路、24はシャント抵抗(電流検出抵抗)、27はピークホールド回路、30はIC、39は制御回路、44は位置センサを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図15