(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045856
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】過電圧抑制方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
H01H 33/59 20060101AFI20161206BHJP
H01H 9/54 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H01H33/59 H
H01H9/54 J
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-190024(P2012-190024)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-49241(P2014-49241A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】腰塚 正
(72)【発明者】
【氏名】丸山 志郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 実
(72)【発明者】
【氏名】松岡 博之
【審査官】
出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−059662(JP,A)
【文献】
特開平06−052759(JP,A)
【文献】
特開2006−040566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/59
H01H 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と誘導性負荷の間に設置された3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに前記3相遮断器に流れる電流を計測する電流計測ステップと、
前記電流計測ステップの計測結果に基づいて3相の中から選択した第1遮断相およびこの第1遮断相の電流遮断点を検出する位相検出ステップと、
前記電流遮断点を基点として、再発弧の発生なく電流を遮断可能な最短アーク時間を遡った時点から、前記第1遮断相から120°位相の進んだ相における電流零点までの間を開極範囲と設定し、この開極範囲内で前記3相遮断器に開極指令を出力する開極指令出力ステップ、を含み、
前記開極指令出力ステップにて前記3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに、前記第1遮断相以外の相が前記開極範囲を出た後に電流零点を通過した場合に、開極時点から経過したアーク時間を短くすることを特徴とする過電圧抑制方法。
【請求項2】
電源と誘導性負荷の間に設置された3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断する前後で前記3相遮断器に流れる電流を計測する電流計測ステップと、
前記電流計測ステップの計測結果に基づいて3相の中から選択した第1遮断相および第1遮断相の電流遮断点を検出する位相検出ステップと、
前記第1遮断相における電流遮断点の1つ前の電流零点と、前記第1遮断相から120°位相の遅れた相における電流零点との間で、且つ前記電流遮断点を基点として、前記第1遮断相が再発弧の発生なく電流を遮断可能な最短アーク時間を除く範囲を開極範囲と設定し、この開極範囲内で前記3相遮断器に開極指令を出力する開極指令出力ステップ、を含み、
前記開極指令出力ステップにて前記3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに、前記第1遮断相以外の相が前記開極範囲を出た後に電流零点を通過した場合に、開極時点から経過したアーク時間を短くすることを特徴とする過電圧抑制方法。
【請求項3】
電源と誘導性負荷の間に設置された3相遮断器を流れる電流を計測する電流計測手段と、
前記電流計測手段の計測結果から第1遮断相および第1遮断相の電流遮断点を検出する位相検出手段と、
前記電流遮断点を基点として、再発弧の発生なく電流を遮断可能な最短アーク時間を遡った時点から、前記第1遮断相から120°位相の進んだ相における電流零点までの間を開極範囲と設定し、この開極範囲内で前記3相遮断器に開極指令を出力する開極指令出力部、を備え、
前記開極指令出力部にて前記3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに、前記第1遮断相以外の相が前記開極範囲を出た後に電流零点を通過した場合に、開極時点から経過したアーク時間を短くすることを特徴とする過電圧抑制装置。
【請求項4】
電源と誘導性負荷の間に設置された3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断する前後で前記3相遮断器に流れる電流を計測する電流計測手段と、
前記電流計測手段の計測結果に基づいて3相の中から選択した第1遮断相および第1遮断相の電流遮断点を検出する位相検出手段と、
前記第1遮断相における電流遮断点の1つ前の電流零点と、前記第1遮断相から120°位相の遅れた相における電流零点との間で、且つ前記電流遮断点を基点として、前記第1遮断相が再発弧の発生なく電流を遮断可能な最短アーク時間を除く範囲を開極範囲と設定し、この開極範囲内で前記3相遮断器に開極指令を出力する開極指令出力手段、を備え、
前記開極指令出力手段にて前記3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに、前記第1遮断相以外の相が前記開極範囲を出た後に電流零点を通過した場合に、開極時点から経過したアーク時間を短くすることを特徴とする過電圧抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、3相遮断器により誘導性負荷を遮断するときの過電圧を抑制する過電圧抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に遮断器がリアクトル等の誘導性負荷を遮断する際、開極する接点間にアークが発生する。このとき、アークが発生してから消弧されるまでのアーク時間の長さによっては、遮断目標となる電流零点の前に電流零点が来てしまい、遮断器が再発弧することがある。遮断器が再発弧すると高周波の過電圧を生じるため、機器の絶縁を脅かす可能性がある。
【0003】
そこで従来から、遮断器の開極時点を制御することによって過電圧を抑制する方法が提案されている。例えば、非特許文献1には、次のような過電圧抑制方法が開示されている。すなわち、遮断すべき電流零点を設定し、設定した電流零点から、再発弧の発生がなく電流を遮断可能な最短アーク時間を遡る。このような最短アーク時間は予め計測しておく。
【0004】
そして、最短アーク時間の開始時点と、設定した電流零点のひとつ前の電流零点との間で、遮断器を開極するように遮断器に開極指令を与えるようにしている。以上のようにして遮断器の開極時点を制御することで、遮断すべき電流零点よりも前に電流零点が来ることをなくすことができる。これにより遮断器の再発弧を防止して過電圧の発生を防ぐことが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE Transaction on Power Delivery, Vol.18, No.2, April 2003“Application of Controlled Switching to 500-kV Shunt Reactor Current Interruption”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の過電圧抑制方法は、各相を個別に操作する各相操作型の遮断器に対して適用されている。しかし、遮断器のタイプとしては、各相操作型だけではなく、3相を一括して操作する3相遮断器が知られている。3相遮断器の場合、U相、V相、W相という3つの遮断部を単一の操作機構で操作するため、1回の開極指令によって3相の遮断部が同時に動作する。
【0007】
したがって、3相遮断器に対して従来の過電圧抑制方法を適用した場合、3相のうちのある相の遮断部においては、遮断すべき電流零点よりも前に電流零点が来ることがなかったとしても、別の相の遮断部では、遮断すべき電流零点よりも前に電流零点が来てしまうことがある。その結果、遮断器が再発弧して大きな過電圧を生じるおそれがあった。上述したように、3相遮断器では再発弧による過電圧の発生を防ぐことは困難と考えられていた。
【0008】
本実施形態は上記の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、3相遮断器が誘導性負荷を遮断する際、開極時点の制御を行うことによって過電圧の発生を抑えることが可能な過電圧抑制方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本実施形態に係る過電圧抑制方法は、3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに、前記3相遮断器の再発弧による過電圧の発生を抑制するようにした過電圧抑制方法において、
(a)
電源と誘導性負荷の間に設置された3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに前記3相遮断器に流れる電流を計測する電流計測ステップと、
(b)前記電流計測ステップの計測結果に基づいて3相の中から選択した第1遮断相およびこの第1遮断相の電流遮断点を検出する位相検出ステップと、
(c)前記電流遮断点を基点として、再発弧の発生なく電流を遮断可能な最短アーク時間を遡った時点から、前記第1遮断相から120°位相の進んだ相における電流零点までの間を開極範囲と設定し、この開極範囲内で前記3相遮断器に開極指令を出力する開極指令出力ステップ、を含
み、
(d)前記開極指令出力ステップにて前記3相遮断器が前記誘導性負荷を遮断するときに、前記第1遮断相以外の相が前記開極範囲を出た後に電流零点を通過した場合に、開極時点から経過したアーク時間を短くすることを特徴とするものである。
【0010】
さらに本実施形態に係る過電圧抑制装置は、上記の過電圧抑制方法を実現するための装置として捉えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】第1の実施形態において遮断器電流と開極時点の関係を示す波形図。
【
図3】第2の実施形態において遮断器電流と開極時点の関係を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)第1の実施形態
以下、本発明に係る第1の実施形態について
図1および
図2を参照して説明する。なお、各図を通して同一部分には同一符号を付けることにより重複した説明は適宜省略する。
図1は3相遮断器および誘導性負荷、過電圧抑制方法を実現するための過電圧抑制装置の接続関係を示すブロック図、
図2は誘導性負荷に流れる電流を3相遮断器で遮断した時の電流波形および開極時点を示す波形図である。
【0013】
(構成)
図1において、100は電力系統の電源母線である。電源母線100には、一括操作型の3相遮断器200を介して、リアクトル等の誘導性負荷300が接続されている。誘導性負荷300は3相遮断器200によって電源母線100に投入または遮断される。誘導性負荷300の右端は
図1では示していないが、分路リアクトルのように、3相端子が接続される場合や、限流リアクトルのように他の電源母線に接続するための送電線に接続される場合もある。分路リアクトルでは前記の接続点は接地される場合もしくは接地されない場合もある。例えば、
図2は誘導性負荷300が分路リアクトルで且つ右端が非接地を想定したときの3相電流波形例を示している。
【0014】
電源母線100と3相遮断器200との間には電流計測用機器400が設置されている。電流計測用機器400は、3相遮断器200を流れる電流を計測する機器であって、具体的には計器用変流器などである。
【0015】
電流計測用機器400および3相遮断器200には、第1の実施形態に係る過電圧抑制装置500が接続されている。過電圧抑制装置500は、電流計測手段501と、位相検出手段502と、開極指令出力手段503とから構成されている。
【0016】
電流計測手段501は電流計測用機器400から出力された1相の電流を取り込み、3相遮断器200が誘導性負荷300を遮断するときに3相遮断器200に流れる電流を計測する(電流計測ステップ)。位相検出手段502は電流計測手段501の計測結果に基づいて、3相遮断器200の3相の中から選択した第1遮断相およびこの第1遮断相の電流遮断点を検出する(位相検出ステップ)。
図2に示した例では、U相を第1遮断相として想定し、U相の電流が遮断される電流零点を電流遮断点4とする。またU相以外のV、W相の電流は、電流遮断点5で遮断される。
【0017】
開極指令出力手段503は3相遮断器200に開極指令を出力する開極範囲を設定して、この開極範囲内で3相遮断器200に開極指令を出力する(開極指令出力ステップ)。
図2に示した開極範囲7は、開極指令出力手段503において次のように設定される。第1遮断相の電流遮断点4を基点として、最短アーク時間6を遡り、遡った時点から、第1遮断相から120°位相の進んだ相における電流零点10までの間とする。第1遮断相がU相であれば、120°位相の進んだ相とはW相となる。このように開極範囲7を設定し、開極範囲7内で3相遮断器に開極指令を出力することが、第1の実施形態の特徴である。
【0018】
前述したように、最短アーク時間6とは再発弧が発生せずに電流を遮断可能なアーク時間であり、予め計測して得られる。この最短アーク時間6よりも時間的に前に3相遮断器200が開極すれば、少なくとも第1遮断相であるU相は電流遮断点4の時点で再発弧が発生することなく、電流を遮断可能である。
【0019】
ところで、電流計測手段501は電流計測用機器400から出力された1相の電流を取り込むので、仮にU相を取り込んだのであれば、電流計測手段501ではV相、W相の電流波形は計測されないことになる。しかし、W相の電流はU相の電流波形を120°位相を進めたものなので、実際にW相の電流を計測しなくとも、U相の電流波形が分かれば、W相の電流波形も分かり、その電流零点10を求めることは容易である。第1の実施形態では、このようにして電流零点10を決めることで、開極範囲7を設定可能である。
【0020】
なお、3相遮断器200の投入において、操作機構の動作ばらつきなどに起因して、開極時間にばらつきが生じることは否めない。しかし、3相遮断器200の開極時のばらつきは、その特性を予め取得しておくことで、位相制御を行う制御装置で補正することが可能である。したがって、開極時間にばらつきがあったとしても、3相遮断器200の開極範囲7を正確に設定することは可能である。
【0021】
(作用効果)
図2において、開極範囲7で3相遮断器200が開極すれば、U相は電流遮断点4の時点で再発弧の発生なく電流を遮断可能である。また、U相以外のV、W相の電流は、電流遮断点5で遮断される。このうち、W相は開極範囲7を通過してから1度も電流零点を通過することがない。したがって、電流遮断点5の時点で再発弧なしに電流を遮断することができる。
【0022】
一方、V相は、
図2に示すように、開極範囲7を出た直後に、電流零点8を通過する。したがってV相は電流零点8で再発弧を生じることになる。ただし、電流零点8の通過は開極範囲7を出たばかりであり、開極時点から経過したアーク時間は非常に短い。一般に、アーク時間が短ければ、再発弧時の極間電圧は小さく、過電圧も小さいことが知られている。
【0023】
したがって、V相では電流零点8で再発弧を発生したとしても、機器の絶縁を脅かすほどの大きな過電圧が発生することはない。つまり、V相が電流零点8を通過することで発生する過電圧は許容範囲内であって、最終的な電流遮断点5では過電圧の発生なく、V相を遮断することができる。
【0024】
上述した第1の実施形態によれば、最短アーク時間6を遡った時点から開極範囲7と設定し、この開極範囲7内で3相遮断器200に開極指令を出力する。このとき、U相およびW相は共に電流零点を通過することがなく、電流遮断点4および5の時点で再発弧なしに電流を遮断することができる。
【0025】
また、V相は開極範囲7を出た直後に、電流零点8を通過するものの、アーク時間が非常に短いので、機器の絶縁を脅かすような大きな過電圧が発生することはない。したがって、電流零点8における小さな過電圧を許容することで、3相遮断器200のいずれの相においても、再発弧による過電圧の発生を抑えることができ、優れた信頼性を確保することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態を説明するための図であり、誘導性負荷300に流れる電流を3相遮断器200で遮断した時の電流波形および開極時点を示す波形図である。第2の実施形態において、3相遮断器200と誘導性負荷300、過電圧抑制装置500との接続構成、ならびに過電圧抑制装置500の構成については、
図1に示した第1の実施形態と同じであるため、図示は省略する。
【0027】
(構成)
第2の実施形態の開極指令出力手段503では、第1遮断相であるU相における電流遮断点4から1つ前の電流零点11と、第1遮断相であるU相から120°位相の遅れたV相における電流零点8との間を開極設定範囲12とし、この開極設定範囲12で、且つ第1遮断相の最短アーク時間6’の範囲外を開極範囲7’として設定する。
【0028】
(作用効果)
第2の実施形態においては3相遮断器200の開極後、V相は電流零点8を通過して再発弧を生じることになる。電流零点8では、前記第1の実施形態と同様に、機器の絶縁を脅かすような大きな過電圧が発生することはない。
【0029】
一方、最短アーク時間6’によっては、開極時点がW相の電流零点9の
図3中の左側となる場合も想定される。しかし、前記の通り、アーク時間が短ければ再発弧時の極間電圧は小さく過電圧も小さいため、電流零点9においても機器の絶縁を脅かすような大きな過電圧は発生しない。そのため、W相およびV相が電流零点8、9を通過することで発生する過電圧は許容範囲内であって、最終的な電流遮断点5では過電圧の発生なく、W相およびV相を遮断することができる。
【0030】
以上の第2の実施形態によれば、長い最短アーク時間6’を想定した場合でも、開極範囲7’内で3相遮断器200に開極指令を出力することにより、3相いずれにおいても再発弧による過電圧の発生を抑えることが可能となる。
【0031】
(他の実施形態)
なお、上記の実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0032】
4…第1遮断相の電流遮断点
5…第2、第3遮断相の電流遮断点
6、6’…最短アーク時間
7、7’…開極範囲
8、9、10、11…電流零点
12…開極設定範囲
100…電源母線
200…遮断器
300…誘導性負荷
400…電流計測機器
500…過電圧抑制装置
501…電流計測手段
502…位相検出手段
503…開極指令出力手段