(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
放電灯点灯装置は、ランプ始動時および再始動時に、放電開始すなわちランプ電極間の絶縁破壊を行うための高圧パルス電圧を発生する。また、点灯後にはランプ電極間電圧の急激な低下に伴う過剰電流の導通を抑制する役目を担っている。さらに、最近では放電灯のチラツキなどを防止するために高周波点灯や矩形波点灯が一般的になっている。このような点灯方式を実現するため、半導体スイッチング素子によって形成されたPWM降圧回路やブリッジ回路などを備えたいわゆる電子式安定器が汎用され、所望の周期で交番する矩形波交流電圧を放電灯に供給するようになっている。
【0003】
図4に従来の放電灯点灯装置の構成の一例を示す。この点灯装置は、整流回路14、昇圧変換回路16、降圧変換回路18、矩形波変換回路20およびスタータ回路22を備えている。個々の回路構成を簡単に説明すると、整流回路14は、例えばダイオードブリッジであり、商用電源からの交流電圧を全波整流する。昇圧変換回路16は、整流回路14の出力電圧をスイッチング素子の高周波スイッチングおよび、これに伴うインダクタおよびダイオードの作用によって昇圧する。つまり、昇圧変換回路16は、その入力電圧V
INを所定の昇圧電圧V
Cまで昇圧する。同時に、昇圧変換回路16は、スイッチング素子をパルス幅変調して昇圧電圧V
Cを一定にするとともに、この昇圧変換回路16への入力電流の波形歪みを修正して、入力力率が改善されるように制御する構成になっている。
【0004】
また、降圧変換回路18は、昇圧変換回路16からの昇圧電圧V
Cを適正な電流値または電力値の降圧電圧V
O2/DCに変換する。矩形波変換回路20は、降圧変換回路18からの降圧電圧V
O2/DCを交番する矩形波電圧V
O2/ACに変換して放電灯24に供給する。ランプ始動のときは、スタータ回路22での高圧パルスが重畳した矩形波電圧V
O2/ACが放電灯24に印加されるようになっている。
【0005】
HIDランプを始動させるときは、そのランプ特性上、定常点灯中の電圧よりも高い電圧(無負荷電圧)を放電灯に供給しなければ、始動不良が起きてしまう可能性がある。そのため、降圧変換回路18が無負荷電圧を出力できるように、昇圧変換回路16では、入力電圧V
INが始動用の高電圧V
C1まで昇圧されるようになっている。
一方、放電灯24の点灯後は、昇圧電圧を定常点灯用の電圧V
C2まで下げて、昇圧変換回路16、降圧変換回路18および矩形波変換回路20での電力損の低減を図っている。このような電力損の低減を目的とする昇圧電圧の切換制御については既知の技術であり、例えば、特許文献1などに開示されている。
【0006】
特許文献1の昇圧電圧の切換制御について概要を説明する。この点灯装置は、始動用の高電圧V
C1を設定する第1設定器と、定常点灯用の電圧V
C2を設定する第2設定器とを有する設定回路を備えている。そして、始動のときは昇圧電圧が第1設定器で設定された高電圧V
C1となり、この高電圧によってスタータ回路が動作して放電灯が放電する。また、放電灯に流れるランプ電流を検出する電流検出器を備えており、放電開始によってランプ電流が検出されるとタイマーがカウントを開始する。このタイマーによって昇圧電圧が第2設定器で設定された定常点灯用の電圧V
C2に切り換わるようになっている。
【0007】
一方、特許文献2には、上記の第2設定器による定常点灯用の電圧V
C2の設定値を電源電圧の高低に応じて変更する手段を備えた放電灯点灯装置が記載されている。例えば点灯装置を100V交流電源と200V交流電源に兼用させる場合に200V入力に対して、100V入力での昇圧電圧よりも高い設定値を用いることで高力率を保つことができる。しかし、昇圧電圧V
C2を高く設定し過ぎると、放電灯点灯装置の電力損が増大してしまう。そこで、電源電圧が高い場合には、電力損が一定レベルを超えないように昇圧電圧V
C2を設定して、電源電圧が低い場合の設定値をこれよりも低くする。これにより高力率を維持して、かつ、電力損の増大を回避していた。特許文献2には電源電圧が100Vである場合には定常点灯用の昇圧電圧V
C2を250Vに設定し、電源電圧が200Vである場合には定常点灯用の昇圧電圧V
C2を350Vに設定する例が記載されている。なお、始動用の昇圧電圧V
C1はいずれの場合も400Vに設定されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2のような放電灯点灯装置において、始動用の昇圧電圧V
C1を十分に高く設定しているにも関わらず、始動不良を十分に回避できない場合があった。特許文献2の点灯装置は、始動中に一定以上の高い昇圧電圧を維持して、放電灯に無負荷電圧を供給することによって始動不良の発生を抑制し、かつ、定常点灯中は通常の昇圧電圧に切り換えて電力損を抑制するという制御回路を備えるものであるが、それでもなお、始動中に始動不良が発生する場合があるのは、何らか別の原因があるからだと考えられ、これを解決する必要があった。
【0010】
本発明は前記課題に鑑みなされたものであり、始動用の昇圧電圧から定常点灯用の昇圧電圧への切換制御を実行する場合に始動不良の発生を回避することができ、従来よりも一層信頼性のある放電灯点灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、始動不良の発生原因として、昇圧電圧の切り換えのタイミングに着目した。
従来の放電灯点灯装置における切り換えのタイミングをランプ電圧の波形とともに
図5に示す。ランプ電圧V
Lの波形は、始動開始からランプ点灯までの間で無負荷電圧(300V)を示し、ランプ点灯によって急激に低下してその後徐々に定格電圧(90V)まで増加する。この過程で昇圧電圧V
Cは、始動開始からランプ点灯までの間でV
C1=400Vであり、ランプ点灯とほぼ同時にV
C2=250Vに切り換わる。ランプ点灯から昇圧電圧の切り換えまでのタイムラグ(
図5中のT
0)については、ランプが点灯したかどうかの判断手段がアナログ回路で構成されている場合には、コンデンサ等による遅延回路を追加したとしても数十msec〜数百msecのタイムラグで設定値が切り換わってしまう。
【0012】
図5のランプ電圧V
Lの波形は、点灯直後の低い電圧から定常点灯中の定格電圧までの安定した移行を示したものである。しかし、特許文献2のように切り換えによって昇圧電圧が400Vから250Vまで大幅に低下するような場合は、切り換えからランプ電圧が定格電圧付近に達するまでの期間に始動が不安定に成り易い。特に、放電灯の状態によって、例えば寿命末期の放電灯である場合には、昇圧電圧の切換タイミングが早いと始動不良となる確率が高くなる。
【0013】
一方、前述の特許文献1では、ランプ点灯から一定時間が経過するタイミングをタイマーによって得て、点灯直後に昇圧電圧が切り換わることを回避している。しかし、単にタイマーによって一定時間の経過を待つだけでは、以下のような問題が生じてしまう。
図6は、セラミックメタルハライドランプのように点灯後のランプ電圧の上昇が速い放電灯の電圧波形を示す。タイマーによる一定時間の経過を待つ間に、ランプ電圧が早く定格電圧付近に達するので、切換タイミングまでの電力損が増大してしまう。また、
図7は、ナトリウムランプのように点灯後のランプ電圧の上昇が遅い放電灯の電圧波形を示す。この場合は、タイマーによる一定時間の経過を待ってから昇圧電圧を切り換えたとしても、ランプ電圧が未だ安定前の低いレベルにあるため、立ち消えを起こす可能性がある。
【0014】
そこで発明者は、始動の際の昇圧電圧の切り換えを、ランプ点灯の検出直後に実行するのではなく、また、一定時間の経過時に実行するのでもなく、ランプ点灯が安定状態に至ったことを確認したら実行することにして、ランプ点灯が安定状態に達するまでは昇圧電圧を切り換えないことにした。このように昇圧電圧の切り換えのタイミングを設定することで、ランプ点灯が安定状態に達するまでは放電灯に無負荷電圧が供給されるようになり、始動不良が改善され、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、前記目的を達成するために本発明の放電灯点灯装置は、
交流電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路の出力電圧を昇圧する昇圧変換回路と、
前記昇圧変換回路の出力電圧を降圧してさらに交番する矩形波に変換して放電灯に供給するインバータ回路と、
前記放電灯に供給するランプ電圧を検出するランプ電圧検出手段と、
前記昇圧変換回路の昇圧電圧を設定する昇圧電圧設定手段と、
前記昇圧電圧設定手段による昇圧電圧の設定値に基づいて前記昇圧変換回路を駆動制御する駆動制御手段と、を備えている。
そして、前記昇圧電圧設定手段は、
ランプ始動用の昇圧電圧を設定する第1設定部と、
定常点灯用の昇圧電圧を設定する第2設定部と、
前記ランプ電圧検出手段の検出値に基づいて昇圧電圧の設定値を切り換える設定値切換部と、を有し、
前記設定値切換部は、
前記ランプ電圧検出手段がランプ始動中に無負荷電圧を検出した場合は、前記第1設定部の設定値を昇圧電圧とし、
前記ランプ電圧検出手段がランプ始動中に点灯電圧を検出し、かつその検出値が安定点灯の基準値未満であるときは、前記第1設定部の設定値をそのまま昇圧電圧とし、
前記ランプ電圧検出手段が前記点灯電圧を検出し、かつその検出値が安定点灯の基準値に達したときは、昇圧電圧を前記第2設定部の設定値に切り換える
ように構成され、
前記安定点灯の基準値は、ランプ定格電圧の30〜70%の範囲内の値である、
ことを特徴とする。
【0016】
また本発明において、
さらに前記昇圧変換回路への入力電圧を検出する入力電圧検出手段を備え、
前記第2設定部は、前記昇圧変換回路の入力電圧値に対応する2以上の設定値を有し、
前記設定値切換部は、前記入力電圧検出手段の検出値に基づいて前記第2設定部から対応する設定値を読み出してこれを昇圧電圧とすることが好適である。
【0017】
また本発明
の放電灯点灯装置は、
交流電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路の出力電圧を昇圧する昇圧変換回路と、
前記昇圧変換回路の出力電圧を降圧してさらに交番する矩形波に変換して放電灯に供給するインバータ回路と、
前記放電灯に供給するランプ電圧を検出するランプ電圧検出手段と、
前記昇圧変換回路の昇圧電圧を設定する昇圧電圧設定手段と、
前記昇圧電圧設定手段による昇圧電圧の設定値に基づいて前記昇圧変換回路を駆動制御する駆動制御手段と、
を備える放電灯点灯装置であって、
前記昇圧電圧設定手段は、
ランプ始動用の昇圧電圧を設定する第1設定部と、
定常点灯用の昇圧電圧を設定する第2設定部と、
前記ランプ電圧検出手段の検出値に基づいて昇圧電圧の設定値を切り換える設定値切換部と、を有し、
前記設定値切換部は、
前記ランプ電圧検出手段がランプ始動中に無負荷電圧を検出した場合は、前記第1設定部の設定値を昇圧電圧とし、
前記ランプ電圧検出手段がランプ始動中に点灯電圧を検出し、かつその検出値が安定点灯の基準値未満であるときは、前記第1設定部の設定値をそのまま昇圧電圧とし、
前記ランプ電圧検出手段が前記点灯電圧を検出し、かつその検出値が安定点灯の基準値に達したときは、さらに所定時間の経過を待ってから、又は、前記安定点灯の基準値以上の状態が所定時間だけ維持されるのを待ってから、昇圧電圧を前記第2設定部の設定値に切り換えるように構成され、
前記安定点灯の基準値は、ランプ定格電圧の30〜70%の範囲内の値である、
ことを特徴とする。
ここで、前記所定時間は、0.5〜5秒の範囲内で設定されることが好適である。
【発明の効果】
【0018】
このような放電灯点灯装置の構成によれば、始動の際のランプ点灯が安定したかどうかを判断してから昇圧電圧の設定値の切り換えを実行する設定値切換部を設けたので、ランプ点灯が安定する前に昇圧電圧が低い設定値に切り換わってしまうことがなくなり、放電開始後の不安定な状態における昇圧電圧の切り換えに起因する始動不良を回避することができる。
【0019】
特に、昇圧変換回路への入力電圧値に応じて、定常点灯用の昇圧電圧の設定値を変更する場合、つまり、前述の特許文献2のように、入力電圧値が高いときには電力損が一定レベルを超えないように昇圧電圧を設定して、入力電圧値が低いときには設定値を低くするような場合には、後者の入力電圧値が低い(放電灯の定格電圧が小さい)ときに、無負荷電圧と定格電圧との落差が大きい。このような条件のときに、ランプ点灯が安定する前に昇圧電圧の切り換えが実行されてしまうと、始動不良を起こし易い。本発明ではランプ点灯が安定したことを判断した後に昇圧電圧の切り換えが実行されるので、昇圧変換回路への入力電圧値に応じて定常点灯用の昇圧電圧の設定値を変更する場合であっても、始動不良を回避することができる。
【0020】
さらに、ランプ電圧の不安定状態の継続時間には放電灯ごとに長短があることを考慮すると、設定値切換部によってランプ電圧が安定したことが判断された後に、さらに0.5〜5秒程度のタイムラグを設けた方が好ましい。このため、本発明に係る昇圧電圧設定手段には0.5〜5秒程度の時間を計時する計時部が設けられている。なお、計時開始の時点で既にランプ点灯が安定していたとしても、0.5〜5秒程度のタイムラグであれば、電力損の増加は微量であって、その影響を無視することができる。
【0021】
以上のように、始動用の昇圧電圧から定常点灯用の昇圧電圧への切り換えのタイミングを、ランプ点灯が安定状態に達したことが確認された後にすることによって、始動不良の発生を回避することができて従来よりも一層信頼性が高い放電灯点灯装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づき本発明に係る放電灯点灯装置の実施形態について説明する。
図1に、放電灯点灯装置10の一実施形態を示す回路概略図を記載する。放電灯点灯装置(単に安定器とも呼ばれる。)の主な構成回路は、整流回路14、昇圧変換回路16、降圧変換回路(PWM降圧回路)18、矩形波変換回路(ブリッジ回路)20、および、スタータ回路22である。基本的な回路構成は、
図4に示した構成に共通する。なお、降圧変換回路18および矩形波変換回路20を合わせたものが本発明のインバータ回路に相当する。
【0024】
整流回路14は、商用交流電源12の交流電圧を整流する。昇圧変換回路16は、アクティブフィルタとも呼ばれ、整流回路14の出力する直流電流を十分に昇圧して出力直流電圧を一定に制御するとともに、この昇圧変換回路16への入力電流の高調波成分を低減する。降圧変換回路18は、スイッチング素子のパルス幅変調により放電灯24への供給電力を調整する。矩形波変換回路20は、降圧変換回路18の出力する直流の点灯電力を、フルブリッジ構成されたスイッチング素子により矩形波交流の点灯電力に変換する。スタータ回路22は、放電灯24に始動用の高圧パルス電圧を印加する。
【0025】
昇圧変換回路16や降圧変換回路18の具体的な回路構成は、特に限定されない。例えば、昇圧変換回路16は、昇圧トランス、スイッチング素子、ダイオード、平滑コンデンサ(電解コンデンサ)、および、スイッチング素子用の制御IC32を備えるスイッチング回路がある。制御IC32によるスイッチング素子の駆動制御により平滑コンデンサの端子間に、昇圧された一定の直流電圧を生じさせる。
【0026】
また、降圧変換回路18は、例えば、平均電流をパルス幅変調により制御するスイッチング素子と、その変調電流を平滑化するチョークコイル、ダイオード、出力側コンデンサ、および、スイッチング素子用の制御IC34を備えるスイッチング回路がある。
【0027】
矩形波変換回路20は、ブリッジ接続されたスイッチング素子と、該スイッチング素子のオン/オフを制御する制御IC36とを備え、一般的に数10〜数100Hzで交番する矩形波交流の点灯電力を出力する。
【0028】
スタータ回路22としては、放電灯24に直列接続されたコイル、ランプに並列接続されたコンデンサなどを有するLC振動型回路を採用してもよい。始動または再始動の際、矩形波変換回路20の出力電圧が所定値(無負荷電圧)に達すると、コンデンサに蓄積された電荷が一気に放出されてLC振動を生じ、コイルから高圧パルスが発せられるようになっている。その後、スタータ回路22のコンデンサが再充電されることによって次の高圧パルスが発せられるが、充電に必要な時間については、使用するコイルやコンデンサを変えて様々に設定できる。このようにして、矩形波交流電圧の各矩形波に重畳された高圧パルス電圧が次々に放電灯24に印加される。
【0029】
なお、降圧変換回路18と矩形波変換回路20の両機能を合わせ持つ、フルブリッジ型の電力変換回路や、ハーフブリッジ型の電力変換回路を用いた放電灯点灯装置とすることもできる。これらの回路も本発明のインバータ回路に相当する。また、各回路のスイッチング素子の駆動手段にドライバーを使用してもよい。
【0030】
放電灯点灯装置10は、さらに、マイクロコンピュータ(マイコン)を用いた制御回路50、点灯電圧を検出するランプ電圧検出手段42および昇圧変換回路16への入力電圧を検出する入力電圧検出手段44を備える。制御回路50は、昇圧変換回路用の制御IC32に昇圧電圧切換の指令信号(パルス信号)やオン/オフ切換信号を与える。また、制御回路50は、降圧変換回路用の制御IC34に電流指令値信号やオン/オフ切換信号を与える。また、制御回路50は、矩形波変換回路用の制御IC36に出力周波数の指令信号やオン/オフ切換信号を与える。
【0031】
入力電圧検出手段44は、例えば、昇圧変換回路16の前段、すなわち整流回路14の出力する直流出力電圧を入力電圧V
INとしてディジタル検出するADコンバータを有する。この入力電圧の検出値は、制御回路50に入力される。
【0032】
ランプ電圧検出手段42は、例えば、矩形波変換回路20の前段、すなわち降圧変換回路18の出力する直流出力電圧をランプ電圧V
Lとしてディジタル検出するADコンバータを有する。制御回路50はランプ電圧の検出値に応じて各制御ICへの指令信号を演算して出力している。このようにして、接続される放電灯24に最適な電流値、電圧値および矩形波周波数がマイコンにより設定される。スイッチング素子用の制御IC32,34,36は、制御回路50からの指令信号に基づいて、スイッチング素子のオン/オフ信号を生成し、オンオフする駆動電圧をスイッチング素子のゲートに印加する。
【0033】
ランプ電圧検出手段42のサンプリング時間は、少なくとも矩形波変換回路20が矩形波電圧を交番させる間隔以下であることが好ましい。これにより矩形波交流電圧の少なくとも半周期ごとの供給電圧が検出されることになり、供給電圧の変動を瞬時に検出することができ、後述する昇圧電圧設定手段52での判断精度が向上する。
【0034】
<昇圧電圧の切換制御>
本発明で特徴的なことは、上記の制御回路50が、ランプ電圧検出手段42の検出値に応じて、昇圧変換回路16の昇圧電圧V
Cの切換タイミングを決定し、そのタイミングで昇圧電圧V
Cの設定値の切換制御を実行することである。すなわち、制御回路50に含まれる昇圧電圧設定手段52は、設定値切換部54、第1設定部56および第2設定部58を有する。また任意にカウンタ(計時部)60を有している。
【0035】
昇圧電圧設定手段52は、昇圧変換回路16の昇圧電圧V
Cを設定する。具体的には、昇圧電圧設定手段52は、ランプ始動用の昇圧電圧V
C1を設定する第1設定部56と、定常点灯用の昇圧電圧V
C2を設定する第2設定部58と、ランプ電圧検出手段42の検出値V
Lに基づいて昇圧電圧V
Cの設定値を切り換える設定値切換部54とを有する。なお、制御IC32は、昇圧電圧設定手段52による昇圧電圧の設定値V
Cに基づいて昇圧変換回路16を駆動制御する。
【0036】
設定値切換部54は、ランプ電圧検出手段42がランプ始動中に無負荷電圧を検出した場合は、第1設定部の設定値V
C1を昇圧電圧として用いる。ランプ電圧の検出値V
Lが無負荷電圧の基準値V
NL以上である場合は、無負荷電圧を検出したと判断する。
【0037】
また、設定値切換部54は、ランプ電圧検出手段42がランプ始動中に点灯電圧を検出し(つまり検出値V
Lが無負荷電圧の基準値V
NL未満である場合)、かつその検出値が安定点灯の基準値V
ST未満であるときは、第1設定部の設定値V
C1をそのまま昇圧電圧として用いる。
【0038】
一方、設定値切換部54は、ランプ電圧検出手段42が点灯電圧を検出し、かつその検出値が安定点灯の基準値V
STに達したときは、昇圧電圧を第1設定部の設定値V
C1から第2設定部の設定値V
C2に切り換えて、この設定値V
C2を昇圧電圧として用いる。
【0039】
以上の判別表を次の表1に示す。
(表1)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ケース1 ケース2 ケース3
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
条件1 V
L ≧ V
NL V
L < V
NL V
L < V
NL
条件2 (なし) V
L < V
ST V
L ≧ V
ST
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
設定値V
C V
C1 V
C1 V
C2
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
V
L:ランプ電圧、 V
NL:無負荷電圧の基準値、 V
ST:安定点灯の基準値、
V
C1:第1設定部の設定値、 V
C1:第2設定部の設定値
【0040】
なお、設定値切換部54が、ランプ電圧検出手段42が点灯電圧を検出し、かつその検出値が安定点灯の基準値V
STに達したときは、すぐに、昇圧電圧を第2設定部の設定値V
C2に切り換えてもよいが、次のように、ランプ電圧が安定したと判断された後にカウンタ60を使って切り換えのタイミングまでのタイムラグを設けてもよい。つまり、カウンタ60は、ランプ電圧検出手段の検出値V
Lが安定点灯の基準値V
STに達したときは、所定時間のカウントを実行し、このカウントが完了してから、昇圧電圧の設定値の切り換えが実行される。このタイムラグは、ランプ電圧の不安定状態の継続時間がランプによって長短があることを考慮して、例えば0.5〜5秒程度に設定される。なお、タイムラグを設ける手段には、ランプ電圧の検出値が基準値V
STに達した直後を避けて、設定値の切り換えを遅らせることができるものであればよいので、上記のカウンタ60に限らず、コンデンサ等による遅延回路でもよい。
【0041】
さらに、単にカウンタ60によるタイムラグを設定するのではなく、カウンタ60による経過時間、安定点灯が維持され続けた場合のみ、昇圧電圧の切り換えを実行するようにしてもよい。具体的には、ランプ電圧V
Lの検出値がV
L<V
NLかつV
L≧V
STの条件を継続して満たす場合に、設定値の切り換えを実行する。これによってランプ電圧V
Lが一時的に安定点灯の基準値に達したが、すぐに不安定状態に戻ってしまうというような場合には、昇圧電圧の切り換えを行なわないようにすることができる。安定点灯を確実に判断した場合にだけ、昇圧電圧の切り換えを実行するように制御できる。
【0042】
また、本実施形態の点灯装置は、昇圧変換回路16への入力電圧V
INを検出する入力電圧検出手段44を備えている。そして、第2設定部58には、昇圧変換回路16への入力電圧値に対応する2以上の設定値V
C2が設定されている。例えば、交流電源が100V(入力電圧141V)である場合の設定値をV
C2=250Vとし、交流電圧が200V(入力電圧282V)である場合の設定値をV
C2=350Vとして、複数の設定値V
C2を第2設定部58に含めることができる。第2設定部58は、対応テーブルを記憶させたメモリー等で構成してもよい。設定値切換部54は、入力電圧検出手段44の検出値に基づいて第2設定部58から対応する設定値V
C2を読み出してこれを昇圧電圧として扱う。このようにすれば、ランプ点灯が安定して昇圧電圧の設定値がV
C1からV
C2に切り換わる際、入力電圧V
INに応じた設定値が用いられることになり、電力損の低減を図ることができる。
【0043】
本実施形態では、ランプ電圧が安定したかどうかの判断の目安は、例えば定格電圧90VのHIDランプ(150W)においては点灯後のランプ電圧が約50Vに達することとした。このような安定点灯の判断基準値V
STとして、定格電圧の30〜70%の範囲内の値を用いることが好ましい。なお、本実施形態では、マイコン等で昇圧電圧設定手段52の制御機能を実現させる場合を説明したが、マイコンに限らず、基準電源やオペアンプ等を組み合せた電気回路によって昇圧電圧設定手段の制御機能を実現させてもよい。
【0044】
<制御フロー>
本実施形態の放電灯点灯装置10を用いて昇圧電圧の切り換えを実行するときの制御フローを
図2に基づいて説明する。
この制御は、ランプ始動の開始からスタートする(S0)。まず、ランプ電圧V
Lを検出してランプ点灯の有無を判断する(S1)。始動開始の直後は未だ点灯に至っていないので、放電灯24は無負荷状態のままでありランプ点灯「無し(No)」と判断される。この場合は始動用の昇圧電圧V
S1を第1設定部56から読み込んで(S3)、この設定値を昇圧変換回路用の制御ICに与えることになる(S5、S6)。この動作(V
L検出→S1→S3)は、放電灯24が点灯するまで繰り返し実行される。
【0045】
始動によって放電灯24が点灯した場合は、ランプ電圧V
Lの検出値によってランプ点灯「有り(Yes)」と判断される(S1)。そして、さらに、ランプ電圧が安定したかどうかを判断する(S2)。ランプ電圧V
LがV
ST未満で、点灯はしているが安定点灯には至っていないと判断した場合は、無負荷状態の場合と同様に始動用の昇圧電圧V
S1を読み込んで(S3)、この設定値を昇圧変換回路用の制御ICに与える(S5、S6)。この動作(V
L検出→S1→S2→S3)は、ランプ点灯が安定するまで繰り返し実行される。
【0046】
ランプ電圧V
LがV
STに達して、工程S2でランプ電圧が安定したと判断された場合は、入力電圧V
INを検出してその検出値に応じた昇圧電圧V
S2を第2設定部58から読み込む(S4)。そして、この設定値を昇圧変換回路用の制御ICに与えて(S5)、昇圧変換回路の駆動制御が実行される(S6)。
【0047】
本実施形態によれば、昇圧電圧の切換タイミングとランプ電圧波形との関係は、例えば
図3に示すようになる。始動開始後の昇圧電圧はV
C1=400Vになり放電灯24には300Vの無負荷電圧が印加される。ランプ点灯後はランプ電圧V
Lが急激に低下するが昇圧電圧はV
C1=400Vのまま維持される。つまり、
図2の制御フローの動作によりランプ点灯が安定状態に達することが確認されるまでに必要な時間T1は、放電灯ごとに、またその状態ごとに異なる。この時間T1は従来のようにタイマーによる一定の時間ではなく、ランプ電圧V
Lの検出値に基づいて点灯が安定したことを確認できるまでの時間である。本実施形態では、ランプ点灯が安定した状態になったことを確認した後に、昇圧電圧の切り換えを実行するようにしたので、従来のような始動不良を確実に回避することができ、より信頼性のある放電灯点灯装置を実現することができる。