(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するためのタイヤ設計方法であって、
複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するステップと、
生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値をそれぞれ算出するステップと、
生成した複数のサンプル点の中から、前記第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出するステップと、
抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するべく第2の特性値のみに対してクラスタ分析を行うステップと、
クラスタ分析により分類された複数のクラスタのうち、第2の特性値が最も大きいサンプル点を有するクラスタと、第2の特性値が最も小さいサンプル点を有するクラスタとを、対極となる2つのクラスタとして抽出するステップと、
前記クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、前記第2の特性値について対極となる2つのクラスタが、当該設計変数が最も大きいサンプル点を一方のクラスタが有し且つ当該設計変数が最も小さいサンプル点を他方のクラスタが有する対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定するステップと、を有することを特徴とするタイヤ設計方法。
第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するために用いられるタイヤ設計用支援装置であって、
複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するサンプリング部と、
生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値をそれぞれ算出するシミュレーション部と、
生成した複数のサンプル点の中から、前記第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出する分析対象抽出部と、
抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するべく第2の特性値のみに対してクラスタ分析を行うクラスタ分析部と、
クラスタ分析により分類された複数のクラスタのうち、第2の特性値が最も大きいサンプル点を有するクラスタと、第2の特性値が最も小さいサンプル点を有するクラスタとを、対極となる2つのクラスタとして抽出し、
前記クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、前記第2の特性値について対極となる2つのクラスタが、当該設計変数が最も大きいサンプル点を一方のクラスタが有し且つ当該設計変数が最も小さいサンプル点を他方のクラスタが有する対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定する判定部と、を備えることを特徴とするタイヤ設計用支援装置。
第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するためのタイヤ設計用支援プログラムであって、
複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するステップと、
生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値をそれぞれ算出するステップと、
生成した複数のサンプル点の中から、前記第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出するステップと、
抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するべく第2の特性値のみに対してクラスタ分析を行うステップと、
クラスタ分析により分類された複数のクラスタのうち、第2の特性値が最も大きいサンプル点を有するクラスタと、第2の特性値が最も小さいサンプル点を有するクラスタとを、対極となる2つのクラスタとして抽出するステップと、
前記クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、前記第2の特性値について対極となる2つのクラスタが、当該設計変数が最も大きいサンプル点を一方のクラスタが有し且つ当該設計変数が最も小さいサンプル点を他方のクラスタが有する対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定するステップと、をコンピュータに実行させるタイヤ設計用支援プログラム。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータ技術の発達に伴い、タイヤの設計分野においてシミュレーション、CAE(Computer Aided Engineering)が用いられるようになってきた。タイヤ設計の分野においては、例えば特許文献1には、有限要素法解析(FEM)によるシミュレーションを用いてタイヤを設計することが開示されている。ここでは、タイヤ断面形状を有限個の要素でモデル化したタイヤFEMモデル、タイヤ性能に関する特性値を表す目的関数、及び設計変数を用いて有限要素法による構造解析シミュレーションを実施し、その結果に基づき設計を行っている。目的関数は、例えばタイヤの形状、内部構造及び材料特性等の設計変数をパラメータとして、転がり抵抗、タイヤのバネ定数等といったタイヤ性能に関する特性値を表す。この目的関数を用いて算出した特性値が所望値となるように、設計変数を決定している。なお、ここでは、有限要素法解析を例に挙げたが、その他の解析手法も同様である。
【0003】
設計変数が多様になり、目的関数が複雑になるほど、設計変数と目的関数の因果関係、トレードオフの関係を設計者が理解することが困難になるが、当該因果関係及びトレードオフの関係を明確にするための手法が望まれる。
【0004】
上記の問題を解決する方向性を示すものとして、特許文献2には、タイヤ分野でないものの、いわゆるクラスタ分析を用いることが開示されている。クラスタ分析は、設計対象となるタイヤの設計変数に様々な値を設定することによって複数のサンプル点を生成し、特性値が近似するサンプル点同士をクラスタリングで分類するものである。クラスタ分析は、或るクラスタから他のクラスタに特性値を変化させるためには、どのように設計値を変化させればよいかというのを知るうえで有用とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タイヤ設計の現場では、従来のタイヤの性能を維持したまま更に改良を加える、すなわち或る特性値を維持したまま他の特性値を改良するという要求がある。しかしながら、ただ単に全てのサンプル点に対してクラスタ分析を行うのでは、全ての設計領域について、複数の特性値を同時に変化させるために設計値をどうすればよいかというのを把握できるかもしれないが、或る特性値を維持(固定)した状態で他の特性値のみを変化させるために設計値をどうすればよいかということを容易に導き出すことができない。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、或る特性値を維持したまま、他の特性値を変化させるために有効な設計変数を容易に特定可能なタイヤ設計方法、タイヤ設計用支援装置及びタイヤ設計用支援プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本発明のタイヤ設計方法は、第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するためのタイヤ設計方法であって、複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するステップと、生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値をそれぞれ算出するステップと、生成した複数のサンプル点の中から、前記第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出するステップと、抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するクラスタ分析を行うステップと、クラスタ分析により分類された複数のクラスタのうち、第2の特性値について対極となる2つのクラスタを抽出するステップと、前記クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、前記第2の特性値について対極となる2つのクラスタが、当該設計変数についても対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定するステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
このように、複数のサンプル点のうち、第1の特性値が所望値又は所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出し、これに対してクラスタ分析するので、第1の特性値の影響を極力低減又は無くして、第2の特性値に対する設計変数の挙動成分を効果的に抽出することが可能となる。そのうえ、第2の特性値に関して対極となる2つのクラスタに注目して、設計変数に関するクラスタの分布を見るので、第2の特性値に相関の高い設計変数を容易に特定することが可能となる。
【0011】
理解しやすく、設計者が容易に判断可能にするためには、設計変数の大きさを表す軸に沿って各クラスタの分布を表す多次元解析チャートを表示するステップを有することが好ましい。
【0012】
本発明は、上記タイヤ設計方法を実行する装置として特定可能である。すなわち、本発明のタイヤ設計用支援装置は、第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するために用いられるタイヤ設計用支援装置であって、複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するサンプリング部と、生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値をそれぞれ算出するシミュレーション部と、生成した複数のサンプル点の中から、前記第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出する分析対象抽出部と、抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するクラスタ分析を行うクラスタ分析部と、クラスタ分析により分類された複数のクラスタのうち、第2の特性値について対極となる2つのクラスタを抽出し、前記クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、前記第2の特性値について対極となる2つのクラスタが、当該設計変数についても対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定する判定部と、を備えることを特徴とする。この装置によっても、上記タイヤ設計方法が奏する作用効果を得ることができる。
【0013】
本発明は、上記タイヤ設計方法を構成するステップを、プログラムの観点から特定することも可能である。すなわち、本発明のタイヤ設計用支援プログラムは、 第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するためのタイヤ設計用支援プログラムであって、
複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するステップと、生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値をそれぞれ算出するステップと、生成した複数のサンプル点の中から、前記第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内にある複数のサンプル点を抽出するステップと、抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するクラスタ分析を行うステップと、クラスタ分析により分類された複数のクラスタのうち、第2の特性値について対極となる2つのクラスタを抽出するステップと、前記クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、前記第2の特性値について対極となる2つのクラスタが、当該設計変数についても対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定するステップと、コンピュータに実行させることを特徴とする。このプログラムを実行することによっても、上記タイヤ設計方法が奏する作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
[タイヤ設計用支援装置]
本実施形態のタイヤ設計用支援装置は、第1のタイヤ性能を表す第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を示す第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するために用いられる。例えば、タイヤの固有値解析を行った場合に、一次固有値(或る特性値)を固定し、転がり抵抗(他の特性値)を変化させるために有効な設計変数を特定するために用いることが一例として挙げられる。
【0017】
図2に示すように、タイヤ設計用支援装置1は、初期設定部10と、サンプリング部11と、シミュレーション部12と、分析対象抽出部15と、クラスタ分析部13と、判定部14とを有する。これら各部10〜15は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0018】
初期設定部10は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、タイヤ断面形状を有限個の要素でモデル化したタイヤ基本モデル、設計変数、設計変数の範囲等の制約条件、タイヤ性能に関する特性値を表す目的関数等、シミュレーションやクラスタ分析に必要な各種設定を行う。
【0019】
図2に示すサンプリング部11は、
図6(a)に示すように複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するもので、制約条件の下、各々の設計変数に対して複数の値を決定することにより、サンプル点を複数生成する。
図6(a)において一つの点は、一つのサンプル点を示す。一つのサンプル点は、タイヤの一態様に相当し、複数の設計変数が設定されている。ここでは、均等で且つ偏りのない設計変数を決定するために、均等ラテン超方格法を用いて所定数のサンプル点を決定している。所定数は、初期設定部により決定されてもよく、ユーザが決定してもよい。本実施形態では、サンプリング法として、均等ラテン超方格法を用いているが、これに限定されない。例えば、乱数を用いて設計変数を擬似的に均等に生成してもよい。
【0020】
図2に示すシミュレーション部12は、サンプリング部11により生成されたサンプル点の各々の設計変数とタイヤ基本モデルとを用いて有限要素法等の種々の解析法により構造解析を行い、解析結果を基に、それぞれ第1の目的関数及び第2の目的関数を演算し、第1の特性値及び第2の特性値を算出する。
【0021】
図2に示す分析対象抽出部15は、サンプリング部11により生成された複数のサンプル点の中から、所定条件に合致する複数のサンプル点をクラスタ分析の対象として抽出する。
【0022】
図2に示すクラスタ分析部13は、階層化クラスタリングの手法を用いて、
図6(c)に示すように、特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類する。複数のサンプル点の中に、特性値変化が互いに近似する複数のサンプル点が存在する場合、これらが一つのクラスタに分類されることになる。サンプル点同士が近似するか否かは、特性値の距離を指標とする。クラスタ分析では、あるサンプル点の特性値と他のサンプル点の特性値との距離の平方和が最も小さくなるサンプル点同士が近似するとして同一のクラスタに分類される。クラスタ分割する個数は任意に設定可能である。なお、本実施形態では、階層化クラスタリングにおいてウォード法を用いているが、最短距離法、最長距離法、群平均法、重心法のいずれも用いてもよい。さらに、本実施形態では、階層化クラスタリングを行っているが、例えばK−平均法による分割最適化クラスタリングを実施してもよく、その他のクラスタリング手法も適用可能である。
【0023】
図2に示す判定部14は、クラスタ分析部13による分析結果に基づいて、第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定する。詳細は、後述する。
【0024】
[タイヤ設計方法]
上記タイヤ設計用支援装置1を用いて、第1の特性値を所望値に維持しつつ、第2の特性値を変更するために有効な設計変数を特定するためのタイヤ設計方法を説明する。本実施形態では一例として、所定の制動条件における接地面の圧力値の標準偏差を第1の特性値とし、損失エネルギーを第2の特性値として説明する。
【0025】
ます、ステップST1(
図1参照)において、
図2に示す初期設定部10は、対象とするタイヤに対して、基準となる有限要素(FEM)モデルを作成又は用意する。具体的には、自然平衡状態のタイヤ断面積を基準形状とし、この基準形状を有限要素法によりモデル化して、内部構造を含むタイヤ断面形状を表すと共にメッシュ分割によって複数の要素に分割されたタイヤFEMモデルを作成又は用意する。
【0026】
次のステップST2(
図1参照)において、
図2に示す初期設定部10は、タイヤ性能を示す目的関数、タイヤ構成に変更を与える複数の設計変数、及び、各設計変数の制約範囲を定める。
【0027】
具体的に、本実施形態では、第1の特性値として所定の制動条件における接地面の圧力値の標準偏差を算出する第1の目的関数を定めると共に、第2の特性値として損失エネルギーを算出する第2の目的関数を定める。これらの例示の他、タイヤばね定数や一次固有振動数等の種々の物理量が適用可能である。
【0028】
また、本実施形態では、設計変数として、
図5に示すように、例えば溝諸元、ブロック断面形状、部品断面形状、金型形状などを設定している。溝諸元は、
図3及び
図5に示すように、タイヤ赤道CLから第一溝の内側壁の位置までの距離を示すP1、タイヤ赤道CLから第一溝の外側壁の位置までの距離を示すP2、タイヤ赤道CLから第二溝の内側壁までの距離を示すP3、タイヤ赤道CLから第二溝の外側壁までの距離を示すP4などの設計変数を有する。また、金型形状は、
図4及び
図5に示すように、バットレス部2における金型の断面形状を或る点C1を中心とした半径r1の部分円弧で示し、サイド部3における金型の断面形状を或る点C2を中心とした半径r2の部分円弧で示し、ビード部4における金型の断面形状を或る点C3を中心とした半径r3の部分円弧で示している。上記の各々の設計変数の制約範囲は、
図5に示すように或る基準値からの範囲で予め設定されている。なお、
図3〜5は、考え方を例示する図であるので、厳密に図示していない点に注意すべきである。
【0029】
次のステップST3(
図1参照)において、
図2に示すサンプリング部11は、
図6(a)に示すように、均等ラテン超方格法を用いて複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成する。本実施形態では、約2000個のサンプル点を生成した。
【0030】
次のステップST4(
図1参照)において、
図2に示すシミュレーション部12は、サンプリング部11により生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値及び第2の特性値を算出する。
図6(a)は、縦軸を第1の特性値s1、横軸を第2の特性値s2とする二次元空間におけるサンプル点の散布図である。
【0031】
次のステップST5(
図1参照)において、
図2に示す分析対象抽出部15は、
図6(a)及び(b)に示すように、生成した複数のサンプル点の中から第1の特性値が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内Ar1にある複数のサンプル点を抽出する。所望値は、設定要望により定まり、ユーザにより予め設定される。所望値を中心とする所定範囲Ar1とは、所望値のみに限定すると十分な数のサンプル点を得られないおそれがあるので、ある程度の数のサンプル点を確保するために適宜決定される。本実施形態では、所定値を中心とする所定範囲を所望値a±a×7.5%にしているが、適宜変更可能である。一方、所定値を中心とする所定範囲Ar1を大きく設定してしまうと、第1の特性値の影響が発現するため、サンプル点を必要数確保する範囲に限定することが望ましい。本実施形態では、約2000個のサンプル点から約500個のサンプル点を抽出した。
図6(b)は、縦軸を第1の特性値s1、横軸を第2の特性値s2とする二次元空間における抽出サンプル点の散布図である。
【0032】
次のステップST6(
図1参照)において、
図2に示すクラスタ分析部13は、上記ステップST5において抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するクラスタ分析を行う。本実施形態では、ウォード法による階層化クラスタリングを用い、
図6(c)に示すように、7つのクラスタ(cs1〜cs7)に分割した。なお、クラスタの分割数や使用するクラスタのアルゴリズムは、クラスタ分析可能であれば、本実施形態に限定されない。
【0033】
次のステップST7(
図1参照)において、
図2に示す判定部14は、クラスタ分析部13により分類された複数(7つ)のクラスタ(cs1〜cs7)のうち、第2の特性値について対極となる2つのクラスタ(cs1,cs7)を抽出する。
図6(c)に示す二次元空間での散布図では、第2の特性値が最も大きいサンプル点を有するクラスタcs7と、第2の特性値が最も小さいサンプル点を有するクラスタcs1とが、対極となる2つのクラスタに該当する。
【0034】
次に、下記ステップST8〜ST10(
図1参照)を、全ての設定変数に対して実行する。ステップST9において、
図2に示す判定部14は、
図7及び
図8に示すように、クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、当該設定変数の大きさ順に各々クラスタcs1〜cs7がどのように分布するかを確認する。ここで、上記ステップST7で抽出した第2の特性値について対極となる2つのクラスタcs1,cs7が、当該設計変数についても対極となる位置関係に分布するか否かを判定する。前記2つのクラスタcs1,cs7が当該設計変数についても対極となる位置関係に分布すると判定した場合(
図1のステップST10:YES参照)には、当該設計変数が、第1の特性値を所望値に維持したまま、第2の特性値を変更することができる有効な設定変数であると特定できる(
図1のステップST11参照)。
【0035】
上記ステップST8〜ST11は、支援装置1がデータに基づき有効な設計変数であるかを全ての設計変数に対して自動的に判定し、判定結果をディスプレイに表示してもよい。
図7及び
図8に示すように、設計変数の大きさを表す軸に沿ってクラスタcs1〜cs7の分布を表す多次元解析チャートを表示し、これに基づきユーザが判断してもよい。
【0036】
図7は、縦軸を設計変数の大きさとし、横軸に各々の設計変数v1〜v11を配列し、設計変数の大きさに応じて分布するクラスタを色別に表示する多次元解析チャートである。
図8は、
図7がカラー表示でないため、各々の設計変数v1〜vs11についてクラスタcs1〜cs7の分布を楕円で囲んで表示する説明図である。
【0037】
図7及び
図8の例では、設計変数v1、v6、v8、v9、v11が、第2の特性値について対極となる2つのクラスタcs1、cs7が、当該設計変数においても対極となる位置関係に分布している。したがって、第1の特性値s1を維持(固定)しつつ、第2の特性値s2を変化させるために有効と考えられる設計変数は、v1、v6、v8、v9、v11であることが分かる。本発明は、特に第1の特性値s1と第2の特性値s2との相関関係がない場合に効果的に設計変数を特定することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態のタイヤ設計方法は、第1のタイヤ性能を表す第1の特性値s1を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値s2を変更するために有効な設計変数を特定するためのタイヤ設計方法であって、複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するステップST3と、生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値s1及び第2の特性値s2をそれぞれ算出するステップST4と、生成した複数のサンプル点の中から、第1の特性値s1が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内Ar1にある複数のサンプル点を抽出するステップST5と、抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値s2が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するクラスタ分析を行うステップST6と、クラスタ分析により分類された複数のクラスタcs1〜cs7のうち、第2の特性値s2について対極となる2つのクラスタcs1,cs7を抽出するステップST7と、クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、第2の特性値s2について対極となる2つのクラスタcs1,cs7が、当該設計変数についても対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定するステップST8〜ST11と、を有する。
【0039】
このように、複数のサンプル点のうち、第1の特性値s1が所望値又は所望値を中心とする所定範囲内Ar1にある複数のサンプル点を抽出し、これに対してクラスタ分析するので、第1の特性値s1の影響を極力低減又は無くして、第2の特性値s2に対する設計変数の挙動成分を効果的に抽出することが可能となる。そのうえ、第2の特性値s2に関して対極となる2つのクラスタcs1,cs7に注目して、設計変数に関するクラスタの分布を見るので、第2の特性値に相関の高い設計変数を容易に特定することが可能となる。
【0040】
本実施形態では、
図7及び
図8に示すように、設計変数の大きさを表す軸に沿って各クラスタの分布を表す多次元解析チャートを表示するステップを有するので、理解しやすく、設計者が容易に判断可能となる。
【0041】
本実施形態に係るタイヤ設計用支援装置は、第1のタイヤ性能を表す第1の特性値s1を所望値に維持しつつ、第2のタイヤ性能を表す第2の特性値s2を変更するために有効な設計変数を特定するために用いられるタイヤ設計用支援装置1であって、複数の設計変数を有するサンプル点を複数生成するサンプリング部11と、生成した複数のサンプル点について各々の設計変数に基づき第1の特性値s1及び第2の特性値s2をそれぞれ算出するシミュレーション部12と、生成した複数のサンプル点の中から、第1の特性値s1が所望値又は当該所望値を中心とする所定範囲内Ar1にある複数のサンプル点を抽出する分析対象抽出部15と、抽出した複数のサンプル点に対し、第2の特性値s2が近似するサンプル点同士を同一のクラスタに分類するクラスタ分析を行うクラスタ分析部13と、クラスタ分析により分類された複数のクラスタcs1〜cs7のうち、第2の特性値s2について対極となる2つのクラスタcs1,cs7を抽出し、クラスタ分析の対象とした複数のサンプル点を或る設計変数の大きさ順に並べた場合に、第2の特性値s2について対極となる2つのクラスタcs1,cs7が、当該設計変数についても対極となる位置関係に分布するか否かを、全ての設計変数に対して判定する判定部14と、を有する。このタイヤ設計用支援装置によっても、上記タイヤ設計方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記ステップを含むタイヤ設計方法を使用しているとも言える。
【0042】
本実施形態に係るタイヤ設計用支援プログラムは、上記タイヤ設計方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。このプログラムを実行することによっても、上記タイヤ設計方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記ステップを含むタイヤ設計方法を使用しているとも言える。
【0043】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0044】
例えば、
図2に示す各部10〜15は、所定プログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。
【0045】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。