特許第6045881号(P6045881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045881
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】電気化学セル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20161206BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20161206BHJP
【FI】
   H01M8/02 K
   H01M8/02 E
   !H01M8/12
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-237719(P2012-237719)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-89816(P2014-89816A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正人
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−196981(JP,A)
【文献】 特開2012−155869(JP,A)
【文献】 特許第5023250(JP,B2)
【文献】 特開2008−226654(JP,A)
【文献】 特開2012−181928(JP,A)
【文献】 特開2010−251312(JP,A)
【文献】 特開2001−307750(JP,A)
【文献】 特開2011−150959(JP,A)
【文献】 特開2008−098145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に絶縁性であって、酸素イオン導電性を呈する電解質膜と、
前記電解質膜の一方の主面側に形成されたセリアを含む反応抑制層と、
前記反応抑制層の、前記電解質膜と相対する側の主面に形成された空気極又は酸素極と、
前記電解質膜の他方の主面側に形成された、燃料極又は水素極と、
を具え
前記電解質膜は、10μm未満の厚さを有し、かつCeOを含有する安定化ジルコニアからなり、
前記反応抑制層は、少なくともCeO固溶体を含む
ことを特徴とする、電気化学セル。
【請求項2】
前記空気極又は酸素極及び前記燃料極又は水素極の少なくとも一方を保持するための多孔質支持体を具えることを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記電解質膜及び前記反応抑制層間に、前記電解質膜の構成材料と前記反応抑制層の構成材料とを含む混合層を具えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記電解質の前記一方の主面が凹凸状に形成されたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気化学セルの製造方法であって、
電気的に絶縁性であって、酸素イオン導電性を呈する電解質膜と、燃料極又は水素極との積層体を焼成によって形成する工程と、
前記積層体の、前記燃料極又は水素極と相対する側において、反応抑制層のセリアを含む原料の溶液あるいはスラリーを塗布した後に焼成して、前記反応抑制層を形成する工程と、
前記反応抑制層の、前記積層体と相対する側において、空気極又は酸素極を焼成によって形成する工程と、
を具えることを特徴とする、電気化学セルの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気化学セルの製造方法であって、
電気的に絶縁性であって、酸素イオン導電性を呈する電解質膜と、燃料極又は水素極との積層体を焼成によって形成する工程と、
前記積層体の、前記燃料極又は水素極と相対する側において、反応抑制層のセリアを含む原料からなる膜を蒸着法又は表面処理法によって形成して、前記反応抑制層を形成する工程と、
前記反応抑制層の、前記積層体と相対する側において、空気極又は酸素極を焼成によって形成する工程と、
を具えることを特徴とする、電気化学セルの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気化学セルの製造方法であって、
電気的に絶縁性であって、酸素イオン導電性を呈する電解質膜と、燃料極又は水素極との積層体を焼成によって形成する工程と、
前記積層体の、前記燃料極又は水素極と相対する側において、反応抑制層のセリアを含む原料のグリーンシートを積層し、当該グリーンシートを焼成して、前記反応抑制層を形成する工程と、
前記反応抑制層の、前記積層体と相対する側において、空気極又は酸素極を焼成によって形成する工程と、
を具えることを特徴とする、電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell : SOFC)は、通常600〜1000℃前後の運転条件においてイオン導電性(酸素イオンもしくは水素イオン)を有する電解質膜を介して、還元剤(水素もしくは炭化水素など)と酸化剤(酸素など)とを反応(燃料電池反応)させ、そのエネルギーを電気として取り出す装置である。
【0003】
一方、固体電解質電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell : SOEC)は、SOFCの逆反応を動作原理とし、イオン導電性を有する電解質膜を介して、高温の水蒸気を電気分解することにより水素と酸素とを得る装置である。
【0004】
しかしながら、上述のような電気化学セルをSOFC及びSOECとして機能させる場合、上記電気化学セルは、空気極(酸素極)/電解質膜/燃料極(水素極)の積層体を最小構成単位とするものであって、例えば、電解質膜に用いる固体酸化物の粉末体を溶媒などと混合・分散してスラリー化し、平滑なプラスチックなどの表面上に均一に刃(ドクターブレード)を用いて伸ばし、乾燥後、加熱・焼結して電解質膜を得た後、この電解質膜上に電極スラリーをスクリーンプリント法やスラリーコート、スプレーコートなどの方法を用いて塗布し、焼成して上記空気極(酸素極)及び燃料極(水素極)を形成し、上記電気化学セルを作製する。
【0005】
上述した方法においては、電解質膜上に空気極(酸素極)及び燃料極(水素極)を形成する際の焼結において、その高い温度及び材料成分に起因して特に空気極(酸素極)と電解質膜とが反応してしまい、空気極(酸素極)中の元素が電解質膜中に拡散してしまって、電解質膜中に絶縁部を形成してしまう場合がある。この絶縁部は、酸化物イオンの導電には寄与しないことから、上記電解質膜の酸化物イオン導電性を劣化させてしまうことになる。また、別途、電極支持体を配設して電解質膜を薄化する場合、上記傾向はより顕著になる。
【0006】
このような問題を解決すべく、電解質膜と電極、特に空気極(酸素極)との間に反応抑制層を形成し、焼結時及び動作時の高温状態においても電解質膜と電極との反応を抑制して、電解質膜の酸化物イオンの導電性劣化を抑制する試みがなされている。反応抑制層は、その両側に位置する電解質膜及び電極、特に空気極(酸素極)間の反応による元素拡散を抑制するために形成されるものであるので、原材料に対して焼結助剤を添加して焼結し、緻密質な層とすることが求められる。
【0007】
しかしながら、反応抑制層を緻密質な層として形成し、電解質膜及び電極間の反応を抑制しても、電解質膜の材料成分及び反応抑制層の材料成分に依存して、電解質膜及び隣接する反応抑制層間に反応が生じてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−258064号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、電解質膜及び電極間に反応抑制層が形成された電気化学セルにおいて、電解質膜及び反応抑制層間の共通元素の相互拡散を抑制し、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用する場合の特性劣化を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の電気化学セル及びその製造方法は、電気的に絶縁性であって、酸素イオン導電性を呈する電解質膜と、前記電解質膜の一方の主面側に形成されたセリアを含む反応抑制層と、前記反応抑制層の、前記電解質膜と相対する側の主面に形成された空気極又は酸素極と、前記電解質膜の他方の主面側に形成された、燃料極又は空気極と、を具える。前記電解質膜は、10μm未満の厚さを有し、かつCeOを含有する安定化ジルコニアからなる。前記反応抑制層は、少なくともCeO固溶体を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電解質膜及び電極間に反応抑制層が形成された電気化学セルにおいて、電解質膜及び反応抑制層間の共通元素の相互拡散を抑制し、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用する場合の特性劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。
図2】第2の実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。
図3】第3の実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。
図4】第4の実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。
図5】実施例の電気化学セルにおける、電解質膜の厚さと閉回路電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、電気化学セルを固体電解質燃料電池として使用する場合について説明するが、本実施形態の電気化学セルは固体電解質セルとしても使用することができる。
【0014】
図1に示す電気化学セル10は、電気的に絶縁性であって、電子絶縁性と酸素イオン導電性を呈する電解質膜11と、この電解質膜11の一方の主面11A側に形成された反応抑制層14と、電解質膜11の一方の主面11A側において、反応抑制層14を介して形成された空気極12と、電解質膜11の他方の主面11B側において形成された燃料極13とを含む。
【0015】
電解質膜11は、例えば安定化ジルコニアから構成することができる。この場合、安定化剤としては、Y、Sc、Yb、Gd、Nd、CaO、MgOなどを挙げることができる。また、安定化ジルコニア以外にも、LaSrGaMg酸化物、LaSrGaMgCo酸化物、LaSrGaMgCoFe酸化物、LaSrGaMgCoFe酸化物などのペロブスカイト型酸化物から構成することもできる。
【0016】
さらに、セリア(CeO)を含む材料、具体的にはCeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセリア系電解質固溶体を用いることもできる。
【0017】
電解質膜11の厚さは、目的に応じて任意に設定することができるが、例えば0.001mm〜0.5mmの範囲とすることができる。また、電解質膜11は、酸素イオンのみを伝導させ、ガスを透過させないことから、一般に稠密な構造を呈する。
【0018】
空気極12は、LaSrMn酸化物(以下、LSM)、LaSrCo酸化物(以下、LSC)、LaSrCoFe酸化物(以下、LSCF)、LaSrFe酸化物(以下、LSF)、LaSrMnCo酸化物(以下、LSMC)、LaSrMnCr酸化物(以下、LSMC)、LaCoMn酸化物(以下、LCM)、LaSrCu酸化物(以下、LSC)、LaSrFeNi酸化物(以下、LSFN)、LaNiFe酸化物(以下、LNF)、LaBaCo酸化物(以下、LBC)、LaNiCo酸化物(以下、LNC)、LaSrAlFe酸化物(以下、LSAF)、LaSrCoNiCu酸化物(以下、LSCNC)、LaSr-FeNiCu酸化物(以下、LSFNC)、LaNi酸化物(以下、LN)、GdSrCo酸化物(以下、GSC)、GdSrMn酸化物(以下、GSM)、PrCaMn酸化物(以下、PCaM)、PrSrMn酸化物(以下、PSM)、PrBaCo酸化物(以下、PBC)、SmSrCo酸化物(以下、SSC)、NdSmCo酸化物(以下、NSC)、BiSrCaCu酸化物(以下、BSCC)、BaLaFeCo酸化物(以下、BLFC)、BaSrFeCo酸化物(以下、BSFC)、YSrFeCo酸化物(以下、YLFC)、YCuCoFe酸化物(以下、YCCF)、YBaCu酸化物(以下、YBC)などの電子−イオン混合伝導性を有する材料から構成することもできる。
【0019】
なお、上述した電子−イオン混合伝導性を有する材料を用いる場合は、組成比などは問わない。また、安定化ジルコニアやセリア系電解質固溶体の混合体でもかまわない。さらに、上述した電子―イオン混合導電性材料には、例えば、Pt、Ru、Au、Ag、Pdなどの金属成分を添加し、上述した電子伝導性及び酸化物イオン導電性を向上させることにより、酸素及び水素の生成量を効率的により増大させることができる。
【0020】
空気極12は、電気化学セル10をSOFCとして使用する場合は、原料ガスである酸素を効率よく供給するために、一般には多孔質体として形成する。空気極12の厚さは、目的に応じて任意に設定することができるが、例えば0.001mm〜1mmの範囲とすることができる。
【0021】
燃料極13は、ニッケル、又は酸化ニッケルとセリア系及びジルコニア系の少なくとも一方のセラミックとのサーメットから構成することができる。燃料極13をサーメットから構成する場合、還元処理前において、酸化ニッケルとセラミックとの質量混合比を、例えば70:30〜30:70とする。なお、還元処理後において、上記酸化ニッケルはニッケルに変換される。
【0022】
セリア系セラミックスとしては、CeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセラミックスを挙げることができる。また、ジルコニア系セラミックス粒子としては、Y、Sc、Yb、Gd、Nd、CaO、MgOなどの安定化させたセラミックスを挙げることができる。
【0023】
燃料極13は、電気化学セル10をSOFCとして使用する場合は、還元性のガス(水素若しくは炭化水素などを主成分とするガス)を燃料極13の全体に亘って供給し、還元性ガスの使用効率を向上させるため、一般には多孔質体として形成する。
【0024】
なお、燃料極13の厚さは5μm〜100μmとすることができる。
【0025】
反応抑制層14には、CeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセリア系電解質固溶体を用いることができる。このような反応抑制層14は、隣接する電解質膜11の材料組成によらず、電解質膜11上に空気極12を形成する際の高い焼結温度においても、空気極12の構成材料と電解質膜11の構成材料との反応を抑制することができる。
【0026】
反応抑制層14は、上述のような材料組成から構成されることの他に、その両側に位置する電解質膜11及び空気極12間の反応による元素拡散を抑制するために形成されるものであるので、当該元素拡散を抑制すべく緻密な層であることが必要である。また、反応抑制層14の厚さは、例えば0.01μm〜5μmとすることができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、電解質膜及び電極間に反応抑制層が形成された電気化学セルにおいて、電解質膜及び反応抑制層間の反応を抑制し、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用場合の特性劣化を抑制することができる。
【0028】
なお、以下の実施例で示すように、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用場合の特性劣化を抑制は、以下に説明するような支持体を用い、電解質膜の厚さを例えば10μm未満に薄化した場合において最も効果を発揮する。
【0029】
図2に示す電気化学セル20は、例えば以下のようにして製造する。例えば、電解質膜11及び燃料極13のグリーンシートを作製し、これらのシートを貼り合せ、例えば、1400℃にて共焼結を行い、緻密な積層体を形成する。その後、この積層体の電解質膜11上に、セリア(CeO)系固溶体を含む溶液やスラリーを、スプレーコートやスラリーコート、スクリーンプリントなどを用いて塗布した後焼成し、得られた反応抑制層14上に空気極12のグリーンシートを配設し、その後焼成して空気極12を形成する。
【0030】
また、反応抑制層14は、酸化セリウム(CeO)系固溶体をPVD、CVD、EB−PVD、AD法(エアロゾルデポジション)、PLD法(パルスレーザデポジション)等の蒸着法や、コールドスプレー法等の表面処理法を用いて、上記積層体の電解質膜11上に堆積させて直接形成することもできる。なお、この場合は、反応抑制層14の緻密性を制御すべく、基板となる電解質膜11を適当な温度に加熱して行うことができる。
【0031】
さらに、酸化セリウム(CeO)系固溶体を含むグリーンシートを作製し、電解質膜11上に貼り合せて焼成することによっても、反応抑制層14を形成することができる。
【0032】
但し、製造プロセスの簡素化などの観点から、燃料極13、電解質11及び反応抑制層14までを一体で共焼結すると、電解質膜11及び反応抑制層14間において、元素拡散する可能性が高く、特に、電解質膜11の薄膜化を志向する場合、元素拡散の影響は大きくなる。
【0033】
具体的には、反応抑制層14を構成するセリア(CeO)系固溶体は、還元雰囲気において、電子伝導性が発現することが知られており、この成分が、電解質膜11側に拡散すると、電解質膜11においても電子導電性が発現するため、酸化物イオン導電性が低下することが懸念される。また、電解質膜11もセリア(CeO)系固溶体から構成された場合、同一成分が電解質膜11及び反応抑制層14の両方に存在することにより、電解質膜11から反応抑制層14を縦貫するCeOのつながりが生じる可能性が高くなり、同じく電解質膜11の酸化物イオン導電性が低下することが懸念される。
【0034】
したがって、反応抑制層14を形成するに際しては、上述のような共焼結ではなく、電解質膜11及び燃料極13の焼結積層体を形成した後、反応抑制層14及び空気極12を独立して形成することが好ましい。
【0035】
(第2の実施形態)
図2は、本実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。なお、図1に示す電気化学セル10と類似あるいは同一の構成要素については同一の符号を用いている。
【0036】
本実施形態の電気化学セル20においては、燃料極13上に支持材21を配設している点で、図1に示す第1の実施形態の電気化学セル10と相違し、その他の点においては同様の構成を採っている。
【0037】
支持体21は多孔質であって、燃料極13に供給した還元性の燃料ガス(例えば水素若しくは炭化水素などを主成分とするガス)が燃料極13を構成するニッケル粒子等に到達し、上記燃料ガスがニッケル粒子等の触媒作用によって水(水蒸気)及び酸素に分解されるように構成されている。
【0038】
また、支持体21を配設することにより、電解質膜11の厚さを低減することができる。電解質膜11の厚さが大きいと、電解質膜11中を酸素イオンが伝導するのに長時間を要するためイオン導電抵抗が増大するが、電解質膜11の厚さが小さいと、電解質膜11中を酸素イオンが伝導するのに要する時間を短くすることができ、イオン導電抵抗を低減することができる。
【0039】
支持体21は、空気極12及び燃料極13間で生成した電力を外部に取り出すことができるように、少なくとも電子伝導性を有する材料から構成することが必要であり、例えば金属焼結体、金属発泡体、金属繊維体、導電性を有するセラミック焼結体から構成することができ、その多孔率は、例えば成形体を形成する際の成形圧力、焼結時の焼結温度、及び気孔形成材の種類等に起因する。特に、電子−イオン混合導電性のセラミック材料から構成することにより、燃料極13側の三相界面の量が増大することとなる。したがって、燃料極13における電気化学反応が促進され、電気化学セル20の出力特性を向上させることができる。具体的には、SmドープCeO,GdドープCeO,及びYドープCeOからなる群より選ばれる少なくとも一種から構成することができる。また、上述した多孔質の支持体21に対してめっき等を施すことにより、導電性を付与することもできる。
【0040】
支持体21の厚さは、例えば100μm以上1000μm以下とすることができる。支持体21の厚さが100μmよりも小さいと、支持体21の強度が十分でなく、電気化学セル10の強度が劣化する。一方、支持体21の厚さが1000μmよりも大きくなると、導電抵抗が増大してしまう。
【0041】
なお、支持体21の気孔率は、燃料ガスの供給抵抗が支持体21で大きくなりすぎ、燃料極13に供給されなくなるのを防止すべく、燃料極13の気孔率よりも大きくする。
【0042】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、電解質膜11及び空気極12間に、セリア(CeO)を含む材料、具体的にはCeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセリア系電解質固溶体を用いているので、隣接する電解質膜11の材料組成によらず、電解質膜11上に空気極12を形成する際の高い焼結温度においても、温度反応抑制層14と電解質膜11との反応を抑制して、例えば電解質膜11の構成元素が反応抑制層14中に拡散した場合でも、上記セリアはこれらの元素と反応することがない。
【0043】
したがって、本実施形態によれば、電解質膜及び電極間に反応抑制層が形成された電気化学セルにおいて、電解質膜及び反応抑制層間の反応を抑制し、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用場合の特性劣化を抑制することができる。
【0044】
なお、その他の構成、特徴及び作用効果については第1の実施形態の電気化学セル10と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
また、本実施形態では、電解質膜11の上方に空気極12を配設し、下方に燃料極13を配設しているが、電解質膜11の上方に燃料極13を配設し、下方に空気極12を配設した場合においても同様である。
【0046】
(第3の実施形態)
図3は、本実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。なお、図1に示す電気化学セル10及び図2に示す電気化学セル20と類似あるいは同一の構成要素については同一の符号を用いている。
【0047】
本実施形態の電気化学セル30においては、固体電解質膜11及び反応抑制層14間に、電解質膜11の構成材料と反応抑制層14の構成材料とを含む混合層35が形成されている点で、図2に示す第1の実施形態の電気化学セル20と相違し、その他の点においては同様の構成を採っている。
【0048】
本実施形態においては、上述のような混合層35を配設しているので、電解質11と反応抑制層14との間に密着性を向上させることができ、信頼性の高い電気化学セル30を提供することができる。
【0049】
また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、電解質膜11及び空気極12間に、セリア(CeO)を含む材料、具体的にはCeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセリア系電解質固溶体を用いているので、隣接する電解質膜11の材料組成によらず、電解質膜11上に空気極12を形成する際の高い焼結温度においても、温度反応抑制層14と電解質膜11との反応を抑制して、例えば電解質膜11の構成元素が反応抑制層14中に拡散した場合でも、上記セリアはこれらの元素と反応することがない。
【0050】
したがって、本実施形態によれば、電解質膜及び電極間に反応抑制層が形成された電気化学セルにおいて、電解質膜及び反応抑制層間の反応を抑制し、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用場合の特性劣化を抑制することができる。
【0051】
なお、その他の構成、特徴及び作用効果については第1の実施形態の電気化学セル10及び第2の実施形態の電気化学セル20と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
また、本実施形態では、電解質膜11の上方に空気極12を配設し、下方に燃料極13を配設しているが、電解質膜11の上方に燃料極13を配設し、下方に空気極12を配設した場合においても同様である。
【0053】
(第4の実施形態)
図4は、本実施形態における電気化学セルの概略構成を示す断面図である。なお、図1に示す電気化学セル10及び図2に示す電気化学セル20と類似あるいは同一の構成要素については同一の符号を用いている。
【0054】
本実施形態の電気化学セル40においては、電解質膜11の反応抑制層14側の主面に凹凸部11Aが形成され、反応抑制層14は、電解質膜11の凹凸部11Aを埋設するようにして形成されている点で、図2に示す第1の実施形態の電気化学セル20と相違し、その他の点においては同様の構成を採っている。
【0055】
本実施形態においては、電解質膜11の主面に凹凸部11Aが形成されているので、電解質膜11及び反応抑制層14間の界面長さが増大するとともに、当該個所においてアンカー効果が生じるようになる。したがって、電解質膜11と反応抑制層14との間に密着性を向上させることができ、信頼性の高い電気化学セル40を提供することができる。
【0056】
なお、電解質膜11の凹凸部11Aは、電解質膜11を焼成によって形成した後、ブラスト加工を施して形成することもできるし、電解質膜11を蒸着法でマスクを介して形成することもできる。
【0057】
また、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、電解質膜11及び空気極12間に、セリア(CeO)を含む材料、具体的にはCeOにSm、Gd、Y、Laなどを固溶させたセリア系電解質固溶体を用いているので、隣接する電解質膜11の材料組成によらず、電解質膜11上に空気極12を形成する際の高い焼結温度においても、温度反応抑制層14と電解質膜11との反応を抑制して、例えば電解質膜11の構成元素が反応抑制層14中に拡散した場合でも、上記セリアはこれらの元素と反応することがない。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、電解質膜及び電極間に反応抑制層が形成された電気化学セルにおいて、電解質膜及び反応抑制層間の反応を抑制し、固体電解質燃料電池(SOFC)及び固体電解質電解セル(SOEC)として使用場合の特性劣化を抑制することができる。
【0059】
なお、その他の構成、特徴及び作用効果については第1の実施形態の電気化学セル10及び第2の実施形態の電気化学セル20と同様であるので、説明を省略する。
【0060】
また、本実施形態では、電解質膜11の上方に空気極12を配設し、下方に燃料極13を配設しているが、電解質膜11の上方に燃料極13を配設し、下方に空気極12を配設した場合においても同様である。
【実施例】
【0061】
本実施例では、図2に示すような構成の電気化学セル20を作製した。
電解質膜11は、厚さ6μm、7μm及び12μmの1mol%CeO含有のスカンジア安定化ジルコニア(10Sc1CeSz)を用い、空気極12には、厚さ30μm〜50μmのLaSrCoFe酸化物を用い、燃料極13には、厚さ30μmのNiO−YSZを用いた。反応抑制層14には、厚さ1μm〜5μmのCeO−Gd固溶体(GDC)を用いた。また、支持体21も、同じく厚さ0.5mm〜0.7mmのNiO−YSZを用い、電極セル20とした。
【0062】
このようにして得た電極セル20の運転温度を800℃に設定し、燃料極13に燃料ガス(水素と水蒸気(水素:水蒸気=50:50体積%))の混合気体を供給し、空気極12に空気(酸素と窒素(酸素:窒素=20:80体積%)を供給して、100時間運転を行った。
【0063】
なお、比較のために、反応抑制層14を形成した電気化学セルを作製し、上記同様の評価を行った。結果を図5に示す。
【0064】
図5から明らかなように、上述した第2の実施形態に従って得た電気化学セル20においては、電解質膜11の厚さを10μm以下としても一定の回路電圧(OCV)を示すのに対し、反応抑制層が存在しない電気化学セルにおいては、電解質膜11の厚さが10μm未満となると、回路電圧(OCV)が急激に低下することが分かる。
【0065】
したがって、セリア含有固溶体からなる反応抑制層14が存在することにより、電解質膜11と反応抑制層14との反応が抑制されるとともに、電解質膜11と空気極12との反応も抑制されることにより、電気化学セル20の特性である回路電圧(OCV)が一定に保持されることが判明した。一方、反応抑制層14が存在しない場合は、電解質膜11と空気極12とが反応し、電解質膜11内に絶縁部が形成されることから回路電圧(OCV)が減少していることが分かる。
【0066】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10,20,30,40 電気化学セル
11 電解質膜
11A 凹凸部
12 空気極
13 燃料極
14 反応抑制層
21 支持体
35 混合層
図1
図2
図3
図4
図5