特許第6045890号(P6045890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045890新規な結晶構造を有するMCM−22型ゼオライト及び該ゼオライトからなる芳香族炭化水素精製触媒
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  • 特許6045890-新規な結晶構造を有するMCM−22型ゼオライト及び該ゼオライトからなる芳香族炭化水素精製触媒 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045890
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】新規な結晶構造を有するMCM−22型ゼオライト及び該ゼオライトからなる芳香族炭化水素精製触媒
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20161206BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C01B39/48
   B01J29/70 Z
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-260207(P2012-260207)
(22)【出願日】2012年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-105135(P2014-105135A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範行
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 理寛
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特表平06−500544(JP,A)
【文献】 特表2003−509479(JP,A)
【文献】 特表2011−529441(JP,A)
【文献】 特表2009−516052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00−39/54
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
XRDで測定される(101)面のピーク強度Pと(102)面のピーク強度Pとの比(P/P)が0.10〜0.60の範囲にあると共に、27Al−固体NMRで59.5±2.0ppmに観測される4配位Alのピーク強度比Iq4が0.14〜0.70の範囲にあることを特徴とするMCM−22型ゼオライト。
【請求項2】
アンモニアTPD法により測定されるアンモニア脱離量が、吸着エンタルピーが130〜150kJ/molの範囲において、1.05〜2.50mol/kgであることを特徴とする請求項1に記載のMCM−22型ゼオライト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のMCM−22型ゼオライトからなる芳香族炭化水素精製触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な結晶構造を有するMCM−22型ゼオライトに関するものであり、より詳細には、芳香族炭化水素精製触媒として好適に使用されるMCM−22型ゼオライトに関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン、トルエン、キシレン(C8 芳香族)等の芳香族炭化水素からオレフィン、ジオレフィン等の不飽和化合物を除去する目的で、従来から精製処理が行われている。この精製処理は、BTX等の芳香族炭化水素中に含まれる不飽和化合物を、芳香族炭化水素へのアルキル化によって多環芳香族化合物に変えたり、また重合により二量体乃至三量体としたりすることによって高分子量化し、高沸点留分として除去するというものである。この重合に際しては、トルエンやキシレン等のアルキル芳香族化合物の不均化反応や異性化反応を引き起こすことも知られている。
【0003】
上記の精製処理には、不飽和化合物の芳香族アルキル化触媒や重合触媒として作用し且つ不均化等の副反応が少ないという観点から、各種のゼオライトが使用されており、特にMCM−22と称される合成ゼオライトが芳香族炭化水素の精製処理用の触媒として最も高性能品であると認識されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、高結晶性のMCM−22型ゼオライトの製造方法としては、SiO源とAl源とを、アルカリ及びテンプレートであるヘキサメチレンイミンの存在下で水熱反応せしめ、反応物を焼成してヘキサメチレンイミンを除去する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−513026号公報
【特許文献2】特表2009−526739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、炭化水素系精製触媒として使用されるMCM−22型ゼオライトにおいても、未だ改良の余地があり、特に触媒寿命が短いという問題がある。特に、MCM−22型ゼオライトは、他の鉱物系の触媒に比してコスト高であり、従って、触媒寿命が短いということが工業的には致命的であり、その触媒寿命の延長が望まれている。
【0007】
従って本発明の目的は、炭化水素系精製触媒としての触媒寿命が大幅に延長された新規なMCM−22型ゼオライトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、結晶性の高いMCM−22型の製造方法について多くの実験を行った結果、ゼオライト骨格合成時の反応条件やその後の熱履歴を調整することにより、c軸方向の結晶成長が抑制され且つ特定の環境に在る4配位Alが一定のレベルで存在している新規な結晶構造のMCM−22型ゼオライトが得られ、しかも、かかるMCM−22型ゼオライトは、炭化水素系精製触媒としての触媒寿命が、従来公知のMCM−22型ゼオライトに比して著しく延長していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、XRDで測定される(101)面のピーク強度Pと(102)面のピーク強度Pとの比(P/P)が0.10〜0.60の範囲にあると共に、27Al−固体NMRで59.5±2.0に観測される4配位Alのピーク強度比Iq4が0.14〜0.70の範囲にあることを特徴とするMCM−22型ゼオライトが提供される。このMCM−22型ゼオライトは好適には、アンモニアTPD法により測定されるアンモニア脱離量が、吸着エンタルピーが130〜150kJ/molの範囲において、1.05〜2.50mol/kgである。
本発明によれば、また、上記のMCM−22型ゼオライトからなる芳香族炭化水素精製触媒が提供される。
【発明の効果】
【0010】
ゼオライトは、規則的な管状細孔(チャンネル)と空洞(キャビティ)とを有する陰イオン性の骨格と、この陰イオンを相殺する陽イオンとの組み合わせからなるアルカリ(またはアルカリ土類金属)含有含水アルミノケイ酸塩であり、SiO或いはAlOの四面体が3次元網目状に連なった基本骨格の結晶構造を有している。このようなゼオライトは、この基本骨格により形成される細孔のパターンに応じて種々の構造コードが与えられている。MCM−22型ゼオライトは、MWW型に属するものであり、下記式;
・[AlSi72−X144
はNa等のカチオンであり、
xは、0<x<6.5を満足する数である、
で表される組成の結晶骨格を有しており、Al或いはSiの一部はTiで同型置換されていてもよい。
【0011】
本発明のMCM−22型ゼオライトは、MWW型に属する基本骨格を有していながら、X線回折(XRD)により測定される(101)面のピーク強度Pと(102)面のピーク強度Pとの比(P/P)が0.10〜0.60の範囲にある。即ち、このゼオライトは、(102)面に比して(101)面の成長が抑制されていることを示している。
さらに、本発明のMCM−22型ゼオライトは、NMRで59.5±2.0ppmにピークを示す4配位Alのピーク強度比Iq4がかなり高いレベルにあり、特定の環境に在るAlO四面体の連鎖を多く含んでいる。
【0012】
上記のような構造を有する本発明のMCM−22型ゼオライトは、後述する実施例に示されているように、芳香族炭化水素精製触媒として著しく延長された触媒寿命を有している。即ち、このような触媒寿命の延長は、実験的に確認されたものであり、理論的解明には至っていないが、その延長は驚くべきほどに顕著である。例えば、上記のXRDによるピーク強度比(P/P)やNMRによる4配位Alのピーク強度比Iq4が上述した範囲外である比較例1〜3のMCM−22型ゼオライトは、その触媒寿命(詳細な実験方法は実施例参照)は220〜240時間程度であるが、実施例1〜4の本発明のMCM−22型ゼオライトでの触媒寿命は400時間以上であり、触媒寿命が著しく向上していることが判る。
【0013】
また、本発明のMCM−22型ゼオライトは、好ましくはアンモニアTPD法により測定されるアンモニア脱離量が、吸着エンタルピーが130〜150kJ/molの範囲で1.05〜2.50mol/kgである。アンモニア脱離量がこのような高い値を示すことにより、触媒活性に関し、従来公知のMCM−22型ゼオライトと同等以上のレベルにあることを示している。
【0014】
上述の通り、本発明によれば良好な触媒活性を示すとともに触媒寿命が著しく延長された、炭化水素系精製触媒として極めて有用なMCM−22型ゼオライトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のMCM−22型ゼオライト(J−2)のX線回折像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<MCM−22型ゼオライトの製造>
本発明のMCM−22型ゼオライトは、SiO源・Al源・アルカリ及びテンプレートであるヘキサメチレンイミンを脱イオン水と混合し、この混合物をオートクレーブ中で水熱反応せしめ、得られた反応物を焼成してヘキサメチレンイミンを除去するというプロセスを経て合成される。
【0017】
上記のプロセスを経て合成されるという点では、従来公知のMCM−22型ゼオライトと同様であるが、本発明では、XRDで測定される(101)面のピーク強度Pと(102)面のピーク強度Pとの比(P/P)を0.10〜0.60の範囲とし、且つ27Al−固体NMRで59.5±2.0ppm(以下、60ppm付近と略す)に観測される4配位Alのピーク強度比Iq4が0.14〜0.70の範囲とするために、水熱反応時の反応条件や、水熱反応後の熱履歴に関して、従来公知の製造方法にはみられない設定をすることが重要である。以下、これらを考慮して、本発明のMCM−22型ゼオライトを製造する方法について説明する。
【0018】
まず、原料として用いるSiO源としては、ケイ酸ソーダに代表されるケイ酸アルカリや二酸化ケイ素(シリカ)を使用することができるが、特に反応を均一且つ迅速に進行させるため、微細なシリカ、例えばコロイダルシリカが好適に使用される。
また、Al源としては、反応を迅速に進行させるため、アルミン酸ナトリウム(NaAlO)等のアルミン酸アルカリが好適に使用される。
SiO源とAl源との量比は、MWW型構造の骨格を形成し得るように設定され、例えば、SiOとAlとのモル比(SiO/Al)で15〜50、好ましくは28〜45の範囲に設定される。
【0019】
テンプレートとして使用されるヘキサメチレンイミン(以下、HMIと略すことがある)は、通常、SiO1モル当り0.2〜1.0モルの範囲とするのがよい。このようなテンプレートを使用することで、後述する水熱反応により、MCM−22型ゼオライトの結晶の基本骨格が形成される。
【0020】
また、アルカリとしては、Na、K、Liに代表されるアルカリ金属の水酸化物が使用され、通常、SiO1モル当り0.1〜0.2モルの範囲に設定される。
【0021】
上述したSiO源、Al源、HMI及びアルカリは脱イオン水に混合されて水熱反応に供されるが、この水分量は、通常、SiO100質量部当り600〜2000質量部である。
【0022】
尚、水熱反応を速やかに進行せしめ、比較的低い温度で結晶化させるために、NaCl等の鉱化剤を使用することもできる。このような鉱化剤は、通常、SiO1モル当り0.001〜0.1モルの量で使用される。
【0023】
水熱反応は、オートクレーブ中で行われるが、この水熱反応はある程度以上の強撹拌下で行うことが必要である。この撹拌が弱すぎると、XRDによるピーク強度比(P/P)が前述した範囲を超えてしまう。即ち、(101)面の成長が(102)面の成長度合いに近くなってしまい、また、特定の環境に在るAlOの四面体の成長も不十分となり、NMRによる4配位Alのピーク強度比Iq4が低い値となってしまい、この結果、芳香族炭化水素精製触媒としての触媒寿命を延長することができなくなってしまう。MCM−22型ゼオライトの結晶構造を形成するための反応時間はかなり長く、このため、撹拌条件が結晶の成長に大きな影響を及ぼすものと思われる。
尚、具体的な撹拌条件は、水熱反応に供する液量等によって異なるため、予めラボ実験を行って、目的とする液量に応じて回転数などの撹拌条件を設定することが必要である。
【0024】
さらに、本発明のMCM−22型ゼオライトを製造するためには、反応温度及び反応時間も適宜の範囲に設定することが必要である。
例えば水熱反応の温度は、比較的低温領域とすることが必要であり、具体的には100〜200℃、特に120〜158℃の範囲とするのがよい。この反応温度が高いと、(101)面の成長が促進されてしまい、やはり、XRDによるピーク強度比(P/P)が前述した範囲を超えてしまう。
また、反応時間は、反応温度や液量などによって多少異なり、厳密に規定することはできないが、通常は48〜168時間、好ましくは72〜168時間程度とする。即ち、反応時間が長くなるほど、(101)面が成長し、XRDによるピーク強度比(P/P)が前述した範囲を超えてしまうこととなる。また、反応時間が短すぎると、当然のことながらゼオライトの基本骨格が十分に形成されない。
【0025】
水熱反応後は、室温まで冷却した後、オートクレーブ中から反応生成物を取り出し、常法により、ろ過、脱イオン水による洗浄を行い、適宜、乾燥を行った後、焼成を行うことにより、テンプレートとして使用されたHMIを分解除去し、これにより、反応に使用されたアルカリ金属の種類に応じて、例えばNa型、K型などのMCM−22型ゼオライトを得ることができる。
【0026】
上記のようにしてMCM−22型ゼオライトを得ることができるが、特に本発明のMCM−22型ゼオライトを製造する場合には、高温での熱履歴を避けることが必要であり、具体的には、700℃よりも低い温度で、テンプレート除去のための焼成を行うことが必要である。即ち、水熱反応による生成物が700℃以上の温度に加熱されると、結晶中のAlOの四面体の構造破壊が生じ、4配位Alのピーク強度比Iq4が低い値となり、また、結晶中の(101)面の成長が促進されてしまい、XRDによるピーク強度比(P/P)が前述した範囲を超えてしまうこともあり、目的とする触媒寿命の向上が実現できなくなってしまう。
【0027】
<MCM−22型ゼオライトの特性及び用途>
上記のようにして得られる本発明のMCM−22型ゼオライトは、結晶中の(101)面の成長が抑制されており、XRDで測定される(101)面のピーク強度Pと(102)面のピーク強度Pとの比(P/P)が0.10〜0.60の範囲にある。また、特定の環境に在るAlOの四面体も一定レベル以上の割合で存在しており、27Al−固体NMRで60ppm付近に観測される4配位Alのピーク強度比Iq4が0.14〜0.70の範囲にある。
このようなXRDによるピーク強度比(P/P)とNMRによるピーク強度比Iq4を有しているため、後述する実施例にも示されているように、芳香族炭化水素中に含まれるオレフィンやジオレフィンなどの不飽和炭化水素を、蒸留により分離可能な重合体の形態に転換せしめる芳香族炭化水素精製触媒としての触媒寿命が大幅に延長されたものとなっている。
【0028】
また、このような本発明のMCM−22型ゼオライトは、好ましくはアンモニアTPD法により測定されるアンモニア脱離量が、吸着エンタルピーが130〜150kJ/molの範囲で1.05〜2.50mol/kg、と高い値を示す。
【0029】
アンモニアTPD法において、吸着熱は固体酸強度に、アンモニア脱離量は固体酸量に関係付けられる。即ち、アンモニアTPD法は、後述する実施例に記載されているように、塩基プローブ分子であるアンモニアを試料の固体に吸着させ、温度を連続的に上昇させることによって脱離するアンモニアの量及び温度を同時測定するというものである。弱い酸点に吸着しているアンモニアが低温で脱離し(吸着熱が低い範囲での脱離に相当)、強い酸点に吸着しているアンモニアが高温で脱離する(吸着熱が高い範囲での脱離に相当)こととなる。従来、BTX等の芳香族炭化水素の精製処理において、オレフィンやジオレフィンなどの不飽和炭化水素化合物のアルキル化や重合といった反応は、触媒中に単純に酸強度の高い固体酸の量が多いほど促進されるものと考えられてきた。しかしながら、このような反応に寄与する固体酸は、吸着エンタルピーとして130〜150kJ/molの範囲に対応する酸強度のものに限られ、これ以外の酸強度の範囲にある固体酸は、副反応を促進し、触媒寿命を低下させてしまう。従って、触媒性能の評価では、このような吸着エンタルピーの範囲でのアンモニア脱離量が重要なパラメータとなる。
【0030】
本発明のMCM−22型ゼオライトは、上記の通りアンモニア脱離量が高い値であることで、触媒寿命が延長されたばかりか、触媒活性の点でも、従来公知のものと同等以上のレベルにあることを示している。
【0031】
尚、上記のような触媒活性や触媒寿命は、ゼオライト充填層を通過させた後蒸留により高沸点留分を除去した芳香族炭化水素について、オレフィン分の含有量の指標となる臭素指数を求めることにより評価することができる。
【0032】
このように、本発明のMCM−22型ゼオライトは、BTXなどの芳香族炭化水素の精製触媒として優れた特性を有しており、その使用形態に応じて、粒度調整して使用に供される。
例えば、芳香族炭化水素の精製処理をバッチで行う場合には、その粒径は一般に20〜40μm、特に25〜35μmのメジアン径の粉末に調整され、固定床で用いる場合は、一般に粒径が、0.25〜1.0mmの範囲の粒状物の形態に調整される。粒子形状は、球状、顆粒状、立方体状、タブレット状、円柱状、不定形状等の何れの形状であってもよい。
【0033】
また、上述した本発明のMCM−22型ゼオライトは、Na型等のアルカリイオン型に限定されるものではなく、例えばアルカリイオンをアンモニウムイオンやカルシウム等のアルカリ土類金属のイオンにイオン交換した形態で使用に供することもできるし、また、プロトン型(H)にイオン交換して使用することもできる。このイオン交換は、イオン交換するイオンを含む塩(例えば硝酸アンモニウム)や硫酸等を用いての中和処理によっても行うことができる。
尚、例えば、本発明のMCM−22型ゼオライトを硝酸アンモニウム水溶液等で処理してアンモニウム型に変化させた後、これを焼成することによってもプロトン型にイオン交換することができるが、このような焼成を行う場合にも、前述した理由により、700℃以上の高温での焼成は避けなければならない。
【0034】
本発明のMCM−22型ゼオライトは、芳香族炭化水素の精製触媒として好適に使用することができるが、勿論、オレフィンの重合触媒としても使用することができるし、公知のMCM−22型ゼオライトと同様の用途に使用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、以下の実験例での各種物性の測定は、以下の方法により行った。
【0036】
(1)化学組成
Si、AlとNaの各元素は、加圧成型機で作成したペレットについて、(株)リガク製RIX2100を用いてXRF測定を行った。
H2Oについては、セイコーインスツル(株)製EXSTAR6000を用い、110〜1000℃の質量減少量として測定した。測定条件は、昇温速度10℃/分、空気流速200cm/分とした。
これらの測定結果からSiO2/Al2O3(SAR)、Na2O/SiO2、H2O/SiO2のモル比を算出した。
【0037】
(2)比表面積
Micromeritics社製TriStar3000を用いて測定を行った。比表面積は比圧が0.05から0.25の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で解析した。
【0038】
(3)XRDによるピーク強度比(P/P
試料1gを、食塩水で飽和させたデシケータ中で調湿させた。NBS法(“Standard X-ray diffraction powder patterns”, NBS Monograph,25(1971).)で試料をホルダーに充填し、測定角度2θが3〜15[deg]の範囲でXRD測定を行った。その際の測定条件は、電圧40[V]電流40[mA]、D Slit & S Slit:2/3、V Slit:10[mm]、R Slit 0.3[mm]、Step:0.02[deg]であった。各試料について、2θ=8°付近の(101)と2θ=10°付近の(102)の回折ピーク面積強度PとPをそれぞれ求め、その試料の強度比(P/P)を決定した。
【0039】
(4)NMRによる4配位Alのピーク強度比(Iq4)
各試料の27Al−MASNMRの測定は、日本電子(株)製JEOL CMX400型のNMR装置を用い、食塩水で飽和させたデシケータ中で調湿させた試料をセルに充填し秤量してから、下記の条件で測定を行った。
観測周波数104.170MHz、パルス遅延1sec、パルス幅4μsec(27Al 10゜パルス)
試料回転数 10 kHz、化学シフト基準硫酸アルミニウム飽和水溶液(外部基準:0.0ppm)。
得られた四配位アルミニウムのスペクトルを解析ソフトのDeltaで波形分離し、66、60、および53ppm付近のピークに分割した。触媒学会の参照触媒JRC-Z-HY5.6における60ppm付近ピークの質量あたり面積に対する各試料の60ppm付近ピークの質量あたり面積の比を、その試料のIq4とした。
【0040】
(5)アンモニア脱離量(アンモニアTPD法)
試料約0.1gを日本ベル製TPD−AT−1型昇温脱離装置の石英セル(内径10mm)にセットし、O(60cmmin−1、1atm)流通下、773Kまで10Kmin−1で昇温し、到達温度で1hr保った。その後Oを流通させたまま373Kまで放冷した後に真空脱気し、100TorrのNHを導入して30min間吸着させ、その後30min間脱気した後に水蒸気処理を行った。水蒸気処理としては、100℃で約25Torrの蒸気圧の水蒸気を導入、そのまま30min保ち、30min脱気、再び30min水蒸気導入、再び30min脱気の順に繰り返した。その後He 0.041mmols−1を減圧(100Torr、13.3kPa)に保ちながら流通させ、100℃で30min保った後に試料床を10Kmin−1で1073Kまで昇温し、出口気体を質量分析計(ANELVA M−QA 100F)で分析した。W/Fは13kgs/mである。
測定に際しては質量数(m/e)16のマススペクトルを記録した。終了後に1mol%−NH/He標準ガスをさらにヘリウムで希釈してNH濃度0、0.1、0.2、0.3、0.4mol%,合計流量が0.041mmols−1となるようにして検出器に流通させ、スペクトルを記録し、アンモニアの検量線を作成して検出器強度を補正した。
得られたTPDスペクトルから酸強度分布(Cw/ΔH)への変換は、鳥取大学大学院工学研究科/工学部研究報告,40,23(2009)に従って行った。得られた酸強度分布から、吸着エンタルピー(ΔH)が130〜150kJ/molの範囲におけるアンモニア脱離量(Cw)を算出した。
【0041】
(6)触媒寿命(通油試験)
芳香族炭化水素成分の測定は、JIS K2536-3に準拠し、島津製作所(株)製ガスクロマトグラフGC-2010を用いて測定した。また、臭素指数(Br-Index、以下、BIと略記)は、平沼産業(株)製電量滴定式BR-7で測定した。
供試油の成分を表1に示す。なお、供試油のBI(BI0)は646であった。
【0042】
【表1】
通油試験は、試料を、24〜60meshの篩で整粒し、150℃3時間乾燥した後、試験に使用した。I.D.φ=5mmの試料管に試料を0.3g充填し、温度180℃、圧力1.5MPa、WHSV=15hr-1の条件で通油した。12時間毎に採取した試料管出口油のBIを測定し、得られた破過曲線をA.Wheeler & A.J.Robell,J.Catal.,13,299(1969).に記載の下記式で解析して触媒寿命tsを求めた。
【0043】
【数1】
ただし、BI0:入り口BI[mg/100g]、BI:t時間後における出口BI[mg/100g]、k0:初期触媒一次反応速度定数[1/hr]でkA以下の値であり、kA:オレフィン吸着速度定数[1/hr]、W:触媒質量[g]、F:通油量[g/hr]、WS:ts 時間後における触媒重量あたり吸着した高沸点オレフィン重量[mg/100g]、WHSV:空間速度[1/hr]。
【0044】
以下の各実験例につき、採用したSiO/Al仕込みモル比、NaCl/SiOモル比、水熱反応条件(撹拌速度、反応時間及び反応温度)、HMI除去のための焼成温度、NH型からH型に変換するための焼成温度を表2に示した。また、得られた各サンプルにつき、各種物性、及び芳香族炭化水素精製触媒としての評価(触媒寿命Ts)を表3に示した。
【0045】
<比較例1>
(1)ゼオライト合成工程
23.08g(SiO2換算で9.23g)のコロイダルシリカ(LudoxHS−40)、及び7.61gのヘキサメチレンイミン(HMI)を、プラスチックビーカー中で混合撹拌してA液を調製した。一方、0.27gのNaAlO(Al換算で0.17g)、0.60gのNaOH、及び0.48gのNaClを別のプラスチックビーカーで124.2gの脱イオン水に溶解させてB液を調製した。B液を撹拌しつつ、A液をプラスチックの滴下漏斗で30分かけてB液に滴下した。その後、30分撹拌を継続した。
【0046】
得られた混合液を2個のポリテトラフルオロエチレン容器に等量ずつ入れて専用ステンレス製オートクレーブにセットした。次いで、タンブリング回転用シャフトを備えた水熱合成用オーブンのシャフトに、このオートクレーブを取り付け、150℃、15rpmで84時間、水熱合成を行った。この後、室温まで冷却後、オートクレーブの内容物を取り出し、吸引ろ過、および脱イオン水での洗浄を3回繰り返した。得られたケーキを100℃で3時間乾燥させた。
【0047】
次いで、マッフル炉(昇温速度2℃/min)を用い、上記の乾燥物を580℃で3時間焼成してHMIを除去してNa型のMCM−22ゼオライトを得た。
【0048】
(2)イオン交換工程
上記のようにして得られたNa型のMCM−22ゼオライト7.2gを、10.8gの0.5N硝酸アンモニウムと共に、270mlの脱イオン水が入れられた1000mlの三角フラスコに加え、撹拌子で撹拌しながら75℃で24時間イオン交換した。撹拌終了後、吸引ろ過、脱イオン水による洗浄を2回行い、100℃の乾燥機中で2時間乾燥させてNH型のMCM−22ゼオライトを得た。
上記のNH型のMCM−22ゼオライトを、マッフル炉(昇温速度2℃/分)にて540℃で4時間焼成することで、H型のMCM−22ゼオライト(H−1)を得た。
【0049】
<比較例2>
(1)ゼオライト合成工程
175g(SiO2換算で70g)のコロイダルシリカと59.0gのHMIを混合してA液を調製し、5.07gのNaOHと、6.28gのNaAlO(Al換算で3.89g)、1.37gのNaCl、を945gの脱イオン水に混合してB液を調製した。上記のB液を攪拌しつつ、A液をプラスチックの滴下漏斗で30分かけてB液に滴下し、その後30分攪拌を継続した。得られた混合液を、内容量1.5Lの耐圧硝子工業(株)社製オートクレープに入れ、150℃、60rpmで85時間水熱合成を行った。室温まで冷却後、オートクレープの内容物を取り出し、吸引ろ過、および脱イオン水での洗浄をpHが11以下になるまでに繰り返した。得られたケーキを110℃で3時間かけて乾燥させた後、マッフル炉(昇温速度2℃/分)を用い700℃で4時間焼成し、HMIを除去してNa型のMCM−22ゼオライトを得た。
【0050】
(2)イオン交換工程
次いで、得られた乾燥ケークを粗砕してから水に分散し、固形分1%の懸濁液を得た。この懸濁液にゼオライトと同質量の硝酸アンモニウムを加え、攪拌しながら80℃で4時間イオン交換した。pHが6から7程度になるまで水洗し、110℃で乾燥した。得られた乾燥ケーキを粗砕してから、580℃で4時間焼成して、H型のMCM−22ゼオライト(H−2)を得た。
【0051】
<比較例3>
水熱合成を158時間行った以外は、比較例2のゼオライト合成工程およびイオン交換工程と同様にして、H型のMCM−22ゼオライト(H−3)を得た。
【0052】
<実施例1>
水熱合成を138時間行い、HMIの除去のための焼成温度を580℃とした以外は、比較例2のゼオライト合成工程と同様にして、Na型のMCM−22ゼオライト(J−1)を得た。
【0053】
<実施例2>
実施例1で得られたNa型のMCM−22ゼオライト(J−1)を水に分散し、固形分1%の懸濁液を得た。この懸濁液にゼオライトと同量の硝酸アンモニウムを加え、攪拌しながら80℃で4時間イオン交換した。pHが6から7程度になるまで水洗し、110℃で乾燥し、得られた乾燥ケーキを粗砕してから、540℃で4時間焼成してH型のMCM−22ゼオライト(J−2)を得た。
尚、得られたH型のMCM−22ゼオライト(J−2)のXRDチャートを図1に示した。
【0054】
<実施例3>
HMIを41.3g、NaOHを4.92g、NaAlOを4.64g(Al換算で2.88g)、鉱化剤としてのNaClを不使用、水熱合成時間を137時間、HMI除去のための焼成温度を580℃、とした以外は、比較例2のゼオライト合成工程と同様にして、Na型のMCM−22ゼオライト(J−3)を得た。
【0055】
<実施例4>
実施例3で得られたNa型のMCM−22ゼオライト(J−3)を粗砕してから水に分散し、固形分1%の懸濁液を得た。この懸濁液にゼオライトと同量の硝酸アンモニウムを加え、攪拌しながら80℃で4時間イオン交換した。pHが6から7程度になるまで水洗し、110℃で乾燥した。得られた乾燥ケーキを粗砕してから、540℃で4時間焼成して、H型のMCM−22ゼオライト(J−4)を得た。
【0056】
<比較例4>
HMI除去の焼成温度を700℃とした以外は実施例3と同様にしてNa型のMCM−22ゼオライトを合成した。次いで(J−3)に代えてこのNa型MCM−22ゼオライトを用いた以外は実施例4と同様にして、H型のMCM−22ゼオライト(H−4)を得た。
【0057】
<実施例5>
実施例3で得られたNa型のMCM−22ゼオライト(J−3)を粗砕してから5質量%の硫酸水に分散し、攪拌しながら室温で3時間中和処理した。pHが4から5程度になるまで水洗し、110℃で乾燥した。得られた乾燥ケーキを粗砕して、H型のMCM−22ゼオライト(J−5)を得た。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
図1